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Ocean Newsletter
第463号(2019.11.20発行)
荒川クリーンエイドで河川/海洋ごみソリューション
[KEYWORDS]社会課題/モデル事業/海ごみゼロアワードNPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム理事/事務局長◆今村和志
荒川クリーンエイドは1994年、高度経済成長期に汚染された荒川の自然環境を再生すべく始められた河川清掃活動であり、現在も国と沿川自治体のバックアップを受けつつ市民団体が中心となり運営され、累計参加者数は20万人を突破し、25年にわたって継続されてきた。
2019年6月、G20大阪サミットで採択された『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』の実現のためにも、今後もさらなる河川/海洋ごみ対策を推し進める必要がある。
海ごみゼロアワードなのに川の活動が最優秀賞
「NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム」(以下、荒川クリーンエイド)※1は、栄えある海ごみゼロアワード2019の最優秀賞(日本財団・環境省共同事業)※2を受賞した。2019年6月17日の受賞の瞬間まで結果を知らされていなかったので驚いたというのが正直な感想だった。
クリーンエイドは「clean:きれいにする」+「aid:助ける」から成る造語で、「きれいにして自然が回復するのを助ける」といった意味がある。荒川クリーンエイドは1994年、高度経済成長期に汚染された荒川の自然環境を再生すべく、当時の建設省荒川下流工事事務所(現・国土交通省荒川下流河川事務所)の呼びかけで始められた河川清掃活動である。その後、本活動は国と沿川自治体のバックアップを受けつつ市民団体が中心となり運営され、累計参加者数は20万人を突破し、25年にわたって継続されてきた。1994年という早い段階からNPOと行政・自治体が協働(荒川下流部ゴミ対策アクションプラン)して、河川環境を再生してきた先駆的な事例である。2018年には170地点以上、約1.3万人が参加し、荒川から散乱ごみ7,500袋(45ℓ換算)、粗大ごみ2,500個が回収された。
海ごみゼロアワードの審査の際、特に評価されたのは、以下の点だろう。
「荒川沿川の国・自治体と市民、企業、教育機関等が、荒川の自然環境の再生を目指し、強固に連携することで流域一体となって1年中河川ごみの除去活動ができる仕組みができていること。」
海洋ごみの約5-9割は街から出て、河川を伝って流出していると言われている※3,※4 。河川も被害者なのだ。2019年6月、G20大阪サミットにて共有された『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』の実現に向けて、河川管理行政は今後、より河川ごみ対策を推し進める必要が出てくると推測される。荒川クリーンエイドの仕組みは良好なモデル事例として展開できる。
さらに、荒川クリーンエイドでは河川ごみの回収のみならず「調べるごみ拾い」も実施している。これはごみの個数を種類別に集計するもので、意識的にごみを拾うことで啓発も兼ねた活動となっている。落ちているごみの種類と数を意識することで河川/海洋ごみを少しでも減らすには、過度な使い捨て文化を変革する必要があると気づく。「調べるごみ拾い」の結果は、まさにライフスタイルを映す鏡だ。例えば、ペットボトルの生産量とともに荒川でのペットボトルごみの回収量も年々増加しているといった結果が出ている。これらの結果は、私たちが河川/海洋ごみ問題とどのように歩んでいくべきかを考えるツールとなっている。
現地調査でデータの裏付けを
当団体では、三井物産環境基金の支援を得て、効果的/ 効率的な河川ごみの回収を考える調査研究もしている。題して「ストップ!プラごみ 海へ出る前に~荒川発!プラスチックごみ対策~」である。荒川の中でも特にプラスチックごみがたまりやすいエリアを選定し、その漂着メカニズム等を調べるものである。調査で得られた結果を基に河川ごみの効率的な回収について考案しようとするものである(詳しい調査結果等は脚注1および5を参照)。三井物産環境基金による支援も2019 年9月末で終了になった。 調査を継続するための資金調達が課題だが、今後もデータに基づいた根拠ある活動を展開したい。
海洋ごみ問題は認知されつつあるも資金調達が課題
荒川クリーンエイドのみならずだが、環境NPOの経営は苦しい。根の深い河川/海洋ごみ問題の解決には安定した事務局体制が必要だ。事務所の家賃やスタッフの人件費を含めた資金調達にいつも右往左往している。荒川クリーンエイドの年間個人寄付総額はここ数年、平均3万円にも満たない。つまり、1日平均100円にもなっていない。河川/ 海洋ごみ問題は徐々に認知されつつあるようだが「その先」につなげるにはどうすべきか。現状ではこれまでどおり「河川/海洋ごみ」という社会課題をキーワードとして企業の社員研修の場として原体験プログラムを提供すること以外の施策がなかなか思いつかない。毎年約50社が継続参加(リピート率約70%)しているこの施策には社会貢献活動と環境人財育成を同時達成している点にモデル性がある。しかし、国内企業が社会貢献活動に配分する予算は景気に大きく左右されるという点と経済的なリソースの乏しい地方都市ではこの施策は適さない。安定財源の確保が課題だ。
今後に向けて
ごみ拾いという行為自体は対症療法の域を出ない。その一方、統計的に考えれば、自然界に出てしまうごみを完全にゼロにすることは容易ではない。また、これまでに自然界に出てしまったごみは現に存在する。結局のところ一定量のごみは自然界に出続け、それらを早期に回収する必要があるだろう。荒川の場合、沿川から発生するほんのゼロコンマ数%のごみで前頁の写真の状態である。また、河川/海洋ごみ問題は越境問題であることからグローバルな視点が欠かせない。
熱回収を含むプラスチックごみのリサイクル率(86%)※6を考えれば、わが国の人口当たりの河川/海洋ごみの排出量は諸外国に比べると少ない方だろう。国内で使い捨てプラスチックの削減を推し進めるのと同時に、荒川クリーンエイドのような事例をベタープラクティスとして海外へ技術移転することが世界の海洋ごみを減らすことにつながるのではないだろうか。荒川クリーンエイドは端的に言えば「拾う人を増やして、捨てる人を減らす」活動である。この仕組みをどう世界に伝達すべきか、最優秀賞の受賞によって当団体の活動はようやくスタートラインに立ったと感じている。(了)
- ※1NPO法人荒川クリーンエイド・フォーラム https://cleanaid.jp/knowledge
- ※2海ごみゼロアワード https://uminohi.jp/umigomizero_award2019/
- ※3JEANクリーンアップ全国事務局(2007): クリーンアップキャンペーン2007REPORT.
- ※4Helmholtz Centre for Environmental Research(2017): Rivers carry plastic debris into the sea, press release, 17. October 2017.
- ※5片岡ら(2017):消波ブロックで囲まれた河口干潟における川ゴミの現地観測と収支解析、土木学会論文集B2(海岸工学)、Vol.73、No.2、pp.I_1435-I_1440.
- ※6(一社)プラスチック循環利用協会(2019):プラスチックリサイクルの基礎知識2019,33p.
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