Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第448号(2019.04.05発行)

洋上風力発電の普及に向けて~再エネ海域利用法の成立~

[KEYWORDS]再エネ海域利用法/港湾法改正/海域利用調整
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員◆角田智彦

2018年11月、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」が成立した。
この新法により、海域利用調整に関する法的な課題は概ね解消されることとなり、今後、わが国沿岸においても本格的に洋上風力発電の導入が進む道筋ができた。
普及のためには、まだ低コスト化や地域振興の課題があり、さまざまな検討が求められている。

新法の成立

デンマークのコペンハーゲン空港から国境を越えてスウェーデンの世界海事大学に向かう際、電車の窓から緩やかな弧を描いて風車が並ぶミドルグルンデン洋上風力発電所の景色を楽しむことができる。20基の2,000kWの風車からなり、2001年の稼働時には世界最大規模であったこのデンマークの発電所は、10基分を市民(協同組合)が出資したことでも知られる。大規模なウィンドファームの設置が進む欧州のランドマークのような存在でもある。
ミドルグルンデン洋上風力発電所から20年近く遅れて、わが国もようやく洋上風力発電の本格的な設置が始まろうとしている。
2018年11月、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律案」が衆議院・参議院の本会議で共に全会一致で可決された。この新法は、洋上風力発電事業の普及に向けて、政府が指定する「促進区域」において発電事業者を公募し選定する制度を創設するもので、発電事業者には設計寿命である20年を十分にカバーする最長30年間の海域占用許可が与えられる。促進区域としては2030年までに5区域の指定が目指されており、その際の関係者等による法定協議会の設置についても規定されている。海域区分を設定し計画的に海域利用を図るこの画期的な新法の成立により、公募を予定する発電事業者がより安心感をもって積極的に事業検討ができるようになると考えられている。

ミドルグルンデン洋上風力発電所(写真出所:デンマーク外務省)

わが国における洋上風力発電に関する経緯

環境アセスメント手続中の洋上風力発電の計画(2018 年末現在、経産省資料をもとに作成。背景は環境省による洋上風況図)

海運や水産などさまざまな利用が行われているわが国海域の利用調整は、2012年5月に総合海洋政策本部決定された「海洋再生可能エネルギー利用促進に関する今後の取組方針」に記されているように、「大変な労力とコスト」を要するものである。そのため、同方針では「個別法により既に管理者が明確になっている海域」において検討を先導的に進めることが記されており、実際に、わが国の洋上風力発電事業の検討は港湾域から進められた。例えば、港湾法の改正(2016年7月施行)により港湾区域内水域等を占用(最長20年)する事業者を公募により選定する制度が整備されたことを受けて、北九州市は2016年8月に公募を開始し、2017年2月に占用予定者を選定している。選定された九電未来エナジー(株)を代表企業とする「ひびきウィンドエナジー」は、2,687haの公募海域に最大44基(22万kW)の風車を設置する計画である。
一方で、2014年4月から再生可能エネルギーの固定価格買取制度のもとで、1kWhあたり36円という比較的高い買取価格が洋上風力発電に対して設定されたことも追い風となり、日本各地で洋上風力発電の事業計画が検討されるようになった。計画は風況の良い北海道・東北地方沿岸で最も多く、九州北部などでも計画が見られている。図に見られるように、原子力発電1基分に相当する100万kWの規模を一般海域に設置する計画もある。このように、洋上風力発電の設置計画が管理者の明確ではない一般海域にも拡大するなか、港湾域での仕組みを一般海域に適用する新法の検討が進んだ。

今後の普及促進の鍵

この新法により、洋上風力発電の普及のボトルネックとなっていた海域利用調整に関する法的な課題は概ね解消されることとなり、今後、わが国沿岸においても本格的に洋上風力発電の導入が進む道筋が整った。しかしながら、実施においては低コスト化や地域振興などの課題がある。
太陽光発電と異なり風力発電事業は環境アセスメント(3~4年間)を要する。そのため、2014年に設定された買取価格を活用して運転を開始した新規案件はまだない。この間、事業用太陽光発電(2,000kW未満)の1kWあたりの買取価格は40円(2012年度)から18円(2018年度)まで低下した。また、技術開発等により世界の洋上風力の発電コストも13.6円/kWh(2017年上半期)と2013年以降コストが半減した。そして、この新法のもとでの洋上風力発電の設置は、固定価格買取制度から低コスト化を促し競争力を高める入札制に移行する。すなわち、わが国の洋上風力発電は、十分な国内での導入実績がないままコスト競争を迫られることになる。
有望なコスト削減策の一つが大規模化であり、欧州では一般的である広大な海域を占用するウィンドファームの実現が想定される。しかし、大規模化は系統接続面の制約があるだけでなく海域利用の調整を難しくするという課題があり、今後、この新法に基づいて、丁寧に地域での調整を積み重ねていく必要がある。
海域利用調整の際に重要となる地域振興の面でも難しい課題がある。一般に洋上風力発電は組立型の産業であり、地元で製造を要するような機器類は少ない。直径100mを超える風車などの大規模な部品は、それらを管理できる拠点港から直接搬出され、大型の専用船を用いて洋上で組立・施工が行われるため、地域の第二次産業などへの経済効果は限定的となる。また、初期の建設コストの低減が大きな課題になっているなか、漁礁設置などの副次的な機能の追加なども厳しいと見られている。
そのため、建設後の運用段階にも目を向けた地域振興策の検討も求められる。例えば地元漁協が有識者等とともに設置したNPO法人が運営する佐賀県実証フィールドのガイドラインでは、地元の船を交通船等に利用することを促すとともに、定期的な海岸清掃活動への参加や、地元小中学校等での環境教育、カメラやレーダー等の自動監視データの共有などの協力について言及しており興味深い。メンテナンスなどを地元事業者と協力して行う地域協調のほか、市民出資や地元海産物での現物配当なども一つのアイディアである。30年の占用期間を見通した地域に溶け込んださまざまな運用策の検討も求められている。(了)

佐賀県 実証フィールドガイドラインの表紙 http://matsra.jp/
  1. Ocean Newsletter第414号「風力発電関連産業の総合拠点化に向けて」 参照 https://www.spf.org/opri/newsletter/2017/414_2.html

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