Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第434号(2018.09.05発行)

編集後記

東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター特任教授◆窪川かおる

◆昨年暮れにプリマス大学のA. McQuatters-Gollop氏のプランクトンと政策と題する講演を拝聴した。海洋環境問題を、プランクトンの生態を科学的に解析し考察する研究から政策提言に繋げるという勢いある話の流れに引き込まれた。海洋科学者が研究論文を発表するだけでなく、政策提言をする機会が世界的に増えている。海洋の温暖化・酸性化、海洋プラスチックごみ、海洋生物の多様性、鉱物資源などの重要問題が海洋から発せられている今、海洋科学者は、社会や政策への発信を自覚すべき時である。今号には、生物多様性分野における科学と政策の連携を強く求める問題提起が、海外で活躍する女性3名から寄せられた。
◆生物多様性条約に基づく海洋生物多様性の保全が、国際社会でどのように進捗しているかをカナダにある生物多様性条約事務局の柳谷牧子氏より解説いただいた。愛知目標の中間評価が2014年に公表され、海洋に関する目標のうち2つの進捗が評価された一方で、サンゴ礁などの生態系の悪化に対する保全の遅れが指摘された。COPによる他の取り組みでは、生態学的・生物学的に重要な海域(EBSA)の記載が大方の海域で終了し、海洋保護区の議論がなされ、漁業関連では情報共有が進む。2020年の愛知目標の達成への取り組みは加速しており注目したい。
◆海洋生態系の持続可能な管理が抱える課題を解決するには、科学と政策の協働が理想である。科学研究の成果を政策決定者が理解し双方の意思疎通が成立するには、交流の機会と上手な伝え方が重要であり、科学者は一層の努力が必要であると手厳しいのは、前述のMcQuatters-Gollop氏である。科学者の努力の例として、特定の政策課題について研究と政策の関連性を説明したブリーフィングペーパーやファクトシートの発表やSNS発信などを推奨している。科学と政策の緊密な協働関係の重要さを是非ご一読いただきたい。
◆前記事に続いて、いま海洋科学者は社会への貢献を一層意識して研究することが求められていると論じるのは、(国研)海洋研究開発機構の千葉早苗氏である。海洋科学コミュニティの国際観測網の観測データが愛知目標のグローバル指標に有効に活用されていないという。その一因は、海洋観測コミュニティと国際海洋政策との連携の不十分さだと指摘する一方で、SDG14 への海洋科学者の貢献に期待を寄せている。筆者は英国の国連環境計画に出向中で、科学者と政策者との協働の最前線にいる。そこから日本の海洋科学者へ、視野をひろく持ち「One Ocean=かけがえのない海」の理念を日本社会に向けて発信するときであると伝えている。 (窪川かおる)

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