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オーシャンニュースレター

第413号(2017.10.20発行)

新たなる海洋スペシャリストの育成を目指して ~東京海洋大学海洋資源環境学部の紹介~

[KEYWORDS]海洋産業人材育成/グローバル人材/教育の質保証
東京海洋大学海洋資源環境学部長◆岡安章夫

東京海洋大学は2017年4月に新学部「海洋資源環境学部」を開設した。
新学部は「海洋環境科学科」と「海洋資源エネルギー学科」の2つの学科から成り、質保証を伴った統合的・実践的なカリキュラムにより、大気から海底までの総合的な海洋科学の理解をベースに、海洋環境・海洋生物の調査や研究、海洋資源・エネルギーの探査や利用などにおいて、国際的に活躍できる海洋スペシャリストの育成を目指している。

海洋資源環境学部の設置と大学改革

東京海洋大学は、今般、21世紀の重要課題であるEEZを含めた海域の総合的利活用のため、それを支える海洋産業への人材供給を目的として、2017年4月に新学部、海洋資源環境学部を開設した。本学はこれまで、海洋科学部と海洋工学部の2学部7学科で、水産・海事・海洋の各分野について教育・研究を行い、関係業界や研究機関等に人材を輩出してきた。しかしながら、海洋に関して全ての学術分野をカバーできていたわけではなく、欠落していた代表的な分野は、海底に関する基礎科学分野や海洋エネルギーを含めた資源開発分野である。また、その他にもオフショアでの技術系分野など不十分な分野がいくつかあった。海洋資源環境学部は、旧海洋科学部海洋環境学科の教員に、海洋工学部を含むその他学科の教員、また上記分野の新規教員を加え、海洋環境科学科、海洋資源エネルギー学科の2学科体制でスタートした。
新学部の開設は、東京海洋大学としては統合以来のもっとも大きな改革であり、来年度に予定されている海洋基本計画の改定も見据え、今後の東京海洋大学の柱となるべく、新規分野も含めた海洋産業に関する研究、人材の育成に努めていきたいと考えている。また、これを期に、これまでの海洋科学部は海洋生命科学部と名称を変更し、海洋生物資源学科、食品生産科学科、海洋政策文化学科の3学科で海洋生命資源の育成、利用、管理の教育・研究を進めていく。一方、海洋工学部は、これまでと同様、海事システム工学科、海洋電子機械工学科、流通情報工学科の3学科で海事関連エンジニアの養成を行う。

■東京海洋大学海洋資源環境学部の2学科体制
●海洋資源環境学部 https://www.r.kaiyodai.ac.jp/

海洋の持続的利用のためのスペシャリスト育成

海域の持続的利用には、さまざまな資源の開発・利用と共に、環境とのバランスを図る必要がある。これまでは、ともすると開発と環境保全はそれぞれ別の分野として扱われており、技術者のバックグラウンドもそのいずれかであることが多かった。今後、海洋利用の総合的コストを抑制し、開発と環境保全を効率的に行っていくためには、海洋資源利用の構想・企画段階から双方を意識した検討と調整が不可欠である。また、海洋の成り立ちや環境の保全はいずれにせよ理解しておかなければいけない重要な内容である。
これらを実現させるため、海洋資源環境学部の2つの学科のいずれについても、1学年次においては共通して、大気から海底までの海洋全体に関する総合的な海洋科学の理解に重点を置いている。その上で、2年次以降、段階的に専門性を伸ばすとともに、大学の練習船や実習場を活用した豊富な実習・実験科目を用意し、海洋環境・海洋生物の調査や研究、海洋資源の探査や利用などにおいて活躍できる海洋スペシャリストの育成を目指す。より専門的な知識や技術の修得については、後述のように博士前期(修士)課程が用意されており、個別分野での知識・技術も修得した高度専門家の育成が可能となっている。
新学部で取得可能な資格は、中学校・高等学校教諭一種免許状(理科)、高等学校教諭一種免許状(水産)、学芸員などである。また、専攻科の課程と併せて三級海技士(航海)の資格取得も可能となっており、海洋産業関連人材として、より幅の広い選択肢が提供されている。

教育のグローバル化と質保証

海洋というボーダーレスな環境で活躍していくためのベースとして、旧海洋科学部のグローバル人材育成プログラムを発展させ、4年生進級時のTOEICスコア600点の要件に加えて、外国人教員による英語講義や、海外への研修・派遣(インターンシップ)も積極的に行い、世界で通用する人材の育成を目指している。また、新学部に接続する大学院としてデザインされた海洋科学技術研究科海洋資源環境学専攻においては、ほぼ100%が英語による講義となっており、シームレスなカリキュラム設計と合わせて、世界標準の6年一貫教育も視野に入れた枠組みとなっている。
グローバル対応という意味でもう一つ重要な要素は、教育の質の高度化である。大学在学中に様々な能力を伸ばし、主体的に活動する能力を身につけた社会人として活躍するためには、「アクティブ・ラーニング※1」などが効果的と考えられるが、その効果の担保として、自主学修時間の確保が重要である。このため、海洋資源環境学部と大学院海洋資源環境学専攻では、教育の質を保証するべく、まずは学生の学修時間の向上に力を入れていく。このためには、適切な講義内容の設定・開示とともに、課題や自主学修のための教材の整備、自主学修のフォローのためのティーチング・アシスタント制度の増強などが必要である。これらにより学修の実効性を高め、ボローニャ・プロセス※2に準拠した教育の質保証を確立し、英語によるコミュニケーションやカリキュラムも含めて海外の大学教育と互換性を確保すること(=「真のグローバル化」)が重要と考えている。

海洋の新産業創出を目指して

東京海洋大学の最大の強みは、練習船や実習場を利用した充実した実地教育を提供できる施設基盤を有することである。充実した乗船実習を伴う海洋に関する教育プログラムは、諸外国と比較しても優位性がある。また諸外国の先進的な海洋産業に飛び込み、グローバルに活躍できる人材を育てることも不可欠で、そのための教育内容の拡充も組み込んでいる。さらに、実効性を担保した教育の質の向上と確保を行う教育プログラムの創成により、海洋の現場で活躍できる高い専門性を有する人材を供給し、新たな海洋産業の創出に貢献したいと考えている。(了)

  1. ※1アクティブ・ラーニング=教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学修法の総称。
  2. ※2ボローニャ・プロセス=高等教育における学位認定の質と水準を国が違っても同レベルとして扱うことを目的とし、欧州諸国間で実施された行政会合および合意。現在、47カ国が参加し、49カ国が調印している。

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