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【開催報告】アジア太平洋地域における最初の「ブルーインパクトファイナンス」に関するワークショップおよび政策対話プラットフォーム

2024.03.01
(写真提供: The Asian Development Bank Institute)

2024年2月19日~21日、笹川平和財団海洋政策研究所(OPRI)はアジア開発銀行研究所(ADBI)、一般財団法人 社会変革推進財団(SIIF)と共催で「ブルーインパクトファイナンスによる海洋投資の促進に関するワークショップ」を開催しました。本ワークショップには、アジア、ヨーロッパ、米国、太平洋島嶼地域の15か国から政府関係者、投資家、スタートアップ企業が参加しました。
 
笹川平和財団海洋政策研究所阪口秀所長は、開会挨拶において、当財団とADBIとの過去5年間に渡るパートナーシップへの感謝を述べ、アジア太平洋地域の海洋に関する豊富な資源と機会(例:漁業、水産養殖、観光、人材、技術等)を活性化するため、今後も協力強化が不可欠であることを強調しました。さらに、2025年6月にフランスで開催される国連海洋会議に向けて、3つの国際的な優先課題:国家管轄権外区域における生物多様性(BBNJ)、海洋科学の進歩の促進、海洋ファイナンスと投資の強化を示し、現状を変革ための海洋ファイナンスの重要性を強調しました。
 
ADBIのSeungju Baek副所長は、海洋ガバナンス・システムは共有経済、経済間の相互依存、気候変動の影響についての共通理解の上に構築されなければならないと述べました。SIIF大野修一理事長は、アジア太平洋地域における持続可能性の実現は喫緊の課題であるが、複雑かつ不均衡な影響を受けており、短期的かつ単発の対策によって解決できるものではなく、海洋への配慮を含めた包括的な視点が必要であることを強調しました。

 
写真:OPRI阪口秀所長の開会挨拶とワークショップで活発な議論
(写真提供: 左: The Asian Development Bank Institute / 右四枚: SIIF)
多様な視点からの海洋資金調達の創出

本ワークショップでは、開発銀行、投資家、ベンチャー企業による取り組みの報告と対話が行われました。アジア開発銀行気候変動・環境部渡辺陽子部長は、海洋とブルーエコノミーに関するアジア開発銀行の取り組みとして、ADBブルー・ボンド、「海洋強靭化と沿岸適応(Ocean Resilience and Coastal Adaptation: ORCA)信託基金」、ブルーボンド・インキュベーター等を紹介しました。
 
ヨーロッパのSWEN Capital Partners Christian Lim常務取締役は、企業によるイノベーションが海洋に関わる産業全体を変革し、ブルーエコノミーの実現に貢献する可能性があることを強調しました。また、SWEN Capital Partnersでは健全な海洋を実現するためのイノベーションと変革を引き起こすスタートアップ企業1000社の立ち上げを呼びかけ、SWENのBlue Ocean Fund(影響評価の枠組み)等の取り組みを通じて、「再生可能なブルーエコノミー」への移行に向けた前向きな変化の促進を目指していることを紹介しました。

アジア開発銀行アジア開発銀行気候変動・環境部渡辺陽子部長とパネルディスカッションの討論される様子
(写真提供: SIIF)

海洋投資の推進に関する議論では、ASEANにおける環境ファンドInstaller社のRomy Cahyadi CEOがインドネシアにおけるBlue Finance Accelerator Programの事例について、事業の加速と革新、影響の測定と管理、海洋にまつわるモジュールに関する能力開発など、新興企業や中小企業への支援を目的としたプログラムの概要を紹介しました。Sanjeev Krishnan・S2G Ventures社CIOは、海洋資産のインベントリーに基づき、共有国境の40%、航路の90%が海洋に関連しており、30億人に水と資源を提供していることを示しました。宇宙開発のイノベーション、リスクキャピタル、起業的活動が同様の資産基盤を変革することによって自然システムの破壊が進行しており、この変革は、海洋資源の可能性を活用するダイナミクスが進化していることの証しでもあると述べました。
 
ブルーインパクトの評価に関する議論では、1000 Ocean Startups Coalition RonのTardiff代表兼運営委員が、新興する海洋関連産業やベンチャーが引き起こす影響の評価と報告を簡素化、調和化、強化することを目的に設計された、オープンソースの重要業績評価指標(KPI)であるオーシャンインパクトナビゲーター(OIN)について紹介しました。海洋政策研究所田中元研究員は、海洋の、利用に関する価値(例:CO2濃度、漁獲量、貯留量等の量的価値)と非利用に関する価値(例:資源そのもの存在価値や、将来世代にとっての重要性等、市場価値で評価しづらい価値)の測定を通じたブルーエコノミーのインパクト評価によって、政府、投資家、企業の意思決定を支援できる可能性を示しました。
 

OPRI-SIIF共催する「ブルーエコノミー推進のためのインパクトファイナンスの役割」特別セッション
写真:笹川平和財団角南篤理事長の冒頭挨拶、および海洋政策研究所黄俊揚主任研究員より
ブルーインパクトファイナンス事業紹介

海洋政策研究所(OPRI)と社会変革推進財団(SIIF)の共催による「ブルーエコノミー推進のためのインパクトファイナンスの役割」特別セッションでは、開会挨拶にて、当財団角南篤理事長が、日本の海洋産業におけるイノベーションの必要性について述べ、持続可能な海洋利用の実現に向けた今後の協力への期待を示しました。笹川平和財団海洋政策研究所黄俊揚主任研究員は、海洋投資を取り巻く現状について、ブルーインパクトファイナンスの現状に焦点を当てて紹介しました。海洋政策研究所は、2025年2月に公開予定のウェブサイト「Blue Impact Finance Initiative(BIFI)」にて日本とアジア太平洋地域の海洋ベンチャー企業のインパクト分析を公開することを目指し、オーシャンインパクトナビゲーター(OIN)と協力した取り組みを継続することを予定しています。
 
社会変革推進財団田丸悟郎インパクト・オフィサーはブルーインパクトファイナンスを取り巻く課題構造の体系的な分析結果を報告し、続いて、国内外の海洋ベンチャー企業の活動事例として、一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン、自然電力グループ、Oceanium、合同会社シーベジタブル、株式会社イノカ、株式会社UMITO Partnersが活動の概要に関する報告を行いました。社会変革推進財団工藤七子常務理事が進行を務め、ベンチャー企業代表者、Christian Lim氏(SWEN Capital Partners)、Sanjeev Krishnan氏(S2G Ventures)が登壇したパネルディスカッションでは、政府による産学官連携支援の必要性と有益性や、リスク共有の重要性について議論が行われました。

写真:ワークショップで海洋ベンチャーと投資家とのディスカッション (写真提供: SIIF)
静岡県の視察及び政策対話

最終日は静岡県を訪問し、日建リース工業株式会社が運営する三保地下海水養殖センターの視察を行いました。三保地下海水養殖センターでは、駿河湾の地下海水を用いて三保サーモンや三保松さば等のブランド魚を生産しており、陸上養殖によって水温等の環境への干渉を最小限に抑えることで、少人数での運営を実現しています。また、参加者は一般財団法人マリンオープンイノベーション機構(MaOI)による地元企業のイノベーションと技術を支援するための産学官連携支援の取り組みについての講義を受けました。

静岡県三保地下海水養殖センターでの
アジア太平洋地域の政府代表者およびベンチャー投資家による現地視察
(写真提供: The Asian Development Bank Institute)

政策対話では、バングラデシュ、カンボジア、サモア、ソロモン諸島、パラオ、ベトナムの国の代表者が、投資の誘致やビジネス機会への参加に関する能力構築の重要性等の開発途上国特有の課題について報告し、投資家や他の参加者との議論を通じて帰国後の取り組みに関する検討を行いました。
 
ブルーインパクトファイナンスの促進は、ベンチャー企業と研究機関の連携を活性化し、社会や海洋への影響にも配慮することで、海洋の持続可能な利用を実現する鍵になると考えられます。本ワークショップは、海洋投資のための異業種連携を促進するプラットフォームを創出し、ブルーインパクトファイナンスを通じた海洋投資をより身近なものとすることを目的として開催されました。開催期間中は、アジア太平洋地域の各国代表者と、欧米や日本の投資家、スタートアップ企業がそれぞれの視点を共有し、国際協力による戦略的な取り組みについて見識を深める機会を提供するものとなりました。海洋政策研究所は、社会変革推進財団およびアジア開発銀行研究所とともに、ブルーインパクトファイナンス促進に向けた包括的な対話の場の創出に引き続き取り組んでまいります。

政策対話でマリンオープンイノベーション機構(MaOI)とワークショップ参加者
(写真提供: The Asian Development Bank Institute)

(文責:海洋政策研究所 主任研究員 黄 俊揚)

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