【概要報告】北極サークル日本フォーラム本会議(第2日)
笹川平和財団海洋政策研究所は、3月4日(土)から3月6日(月)にかけて、ARCTIC CIRCLE事務局および日本財団と「北極サークル日本フォーラム」を共催しました。以下、本会議の第2日目の概要を速報でお伝えします。
3月5日(日)午後、北極サークル日本フォーラム2日目、午後から開催のオープニングセッションでは、北極のフロンティアについて考える議員連盟会長を務める鈴木俊一財務大臣から、スピーチがなされた。
鈴木財務大臣からは、これまでの議員連盟による日本政府に対する北極政策に関する提言についての紹介があった。とりわけ、今回、2026年に完成予定の北極域研究船の建造が決定されたことは大きな成果であるとして、今後の気候変動の影響の観測の高度化や各国の若手研究者の育成という国際プラットフォームとしての利用に期待が寄せられた。最後に、本フォーラムにおいて、北極の未来におけるアジアの姿が描かれることに対しての期待が述べられた。
続いて、「北極経済の発展」「北極評議会におけるオブザーバー国の貢献」「北極科学連携の未来」「第三の極としてのヒマラヤ氷河:日本の気象・季節への影響」の4つのセッションが開催された。
「北極経済の発展」のセッションでは、マッズ・フレデリクセン・北極経済評議会(AEC)議長をチェアに、ミード・トレッドウェル・米国北極研究委員会委員長(元アラスカ州副知事)、大塚夏彦北海道大学北極域研究センター特任教授、楡木祥子在日アイスランド商工会議所(ISCCJ)会長が、北極圏における経済発展・投資のポテンシャルや魅力について意見を交わした。冒頭では、アラスカ州選出のダン・サリバン米国上院議員による本フォーラムに対するビデオメッセージが上映され、資源・エネルギー面での日本とアラスカ州の緊密なパートナーシップを念頭に、北極圏であるアラスカの天然資源やエネルギー資源の可能性についての紹介があった。続いて、大塚教授から、ウクライナ危機後の北極海航路を利用した貨物輸送の状況や、貿易の99%を海運に依存する日本にとって新しい海上輸送路である北極海航路の持続可能性や安全性の確保が重要であることについて、トレッドウェル委員長からは、北極圏であるアラスカの経済活動が世界に与える影響について、楡木会長からは、アイスランドと日本との経済的な繋がりの強さや企業は自国以外にも目を向ける必要性など、ビジネスの観点から北極経済の発展に関する報告がされた。続くフロアとのQ&Aでは、北極圏における様々なビジネスの可能性についての議論が交わされた。
「北極評議会におけるオブザーバー国の貢献」のセッションでは、エヴァン・ブルーム・米国ウィルソン・センター北極研究所シニア・フェロー(元米国務省北極問題担当者)のチェアの下、日本、中国、韓国、インド、シンガポール5か国の北極担当実務者が、アジアのオブザーバー国による北極評議会(AC)への貢献のあり方について議論を交わした。冒頭、ブルーム氏からは、ACにおけるオブザーバー国に対する期待やウクライナ危機後の議論の現状について説明があった。続いて、日本外務省の竹若北極担当大使からは、オブザーバー資格が承認されて10年が経過した今がオブザーバーとしての立場を再検討する良いタイミングであるとして、この10年間における日本の北極政策への取り組みやウクライナ危機後に停止しているACの現状を踏まえたコメントがなされた。次に、中国の高・北極問題特別代表からは、自身が中国のオブザーバー資格が承認された2013年から北極問題を担当してきていることから、この10年間における中国の北極政策の発展や、2018年に採択された「中央北極海無規制公海漁業防止協定」を例に取り、ACの外における関心国での協力の重要性についてコメントがなされた。韓国のホン北極担当大使は、北極における最も重要な課題は気候変動問題であるとして、韓国による科学調査活動に対する貢献の継続や、再生可能エネルギーなどの新しい技術の側面からも北極域の関係国と協力関係を構築している最中である旨説明があった。インドのカーナ退役少将からは、2022年3月に策定された、「科学と研究」「気候及び環境の保護」「経済の人の開発」「輸送と接続性」「ガバナンスと国際協力」「国家の能力構築」の6つを施策の柱とする「インドの北極政策」について解説があった。続いて、シンガポールのタン北極問題特使は、北極から遠く離れたシンガポールが関心を有する理由として気候変動と北極海航路を挙げ、現実かつ深刻な問題である地球温暖化の海洋への影響や、海運およびアイスクラス船舶の造船といった産業への影響について説明し、北極が直面する諸問題に対して、共同して解決策を見つけなければならないことを強調した。Q&Aでは、フロアからアジアのオブザーバー国5か国による「集団的」取り組みの展望について、ブルーム氏からはオブザーバー国の立場からACメンバー国に対する関係改善に向けた助言の有無についての質問がなされ、いずれの国も包括性やコミュニケーションの重要性を強調した。
「北極科学連携の未来」のセッションでは、ヘンリー・バージェス・英国南極研究所北極室長・国際北極科学委員会(IASC)議長をチェアに、榎本極地研副所長、カタリナ・ガルドフェルド・スウェーデン極域研究事務局長、アウグスト・ヒェルトゥル・イングトールソン・アイスランド研究センター(RANNÍS)所長、ヒュン・チュル・シン韓国極地研究所(KOPRI)副所長、ラリー・ヒンズマン・米国省庁間北極圏研究政策委員会(IARPC)委員長(IASC前議長)、楊剣上海国際問題研究院副院長が、北極の諸問題に対処するための科学協力・連携のあり方やその展望について議論を行った。各パネリストからは、2025年の第4回北極圏研究計画国際会議(ICARP IV)開催に向けて実施されている多様な国際協力や、そのプロセスを通じて科学的知見や結果を集約・統合する必要性、様々なアクターの連携、相互関係、パートナーシップの必要性、各国の独自性のある専門性を集約して北極の諸問題に対応する必要があること、その過程において先住民や地域住民の関与が欠かせないこと、今後の科学は単に科学の進歩を目的とするのではなく現実の課題に即した進展が必要であることなど、多様な点についてコメントがなされた。Q&Aではフロアから、北極の諸問題に対する各国の政策をどのように連携・調整すれば良いのかといった北極政策の観点からの質問や、ウクライナ危機後においてロシアをどのように科学の議論に含めていくのかといった、政治的な側面を含めた議論が交わされた。
「第3の極としてのヒマラヤ氷河」のセッションでは、国際総合山岳開発センター(ICIMOD)のペマ・ギャムショー・センター長、ラジャシュ・バハドゥール・タパ・シニアスペシャリスト、阪口笹川平和財団海洋政策研究所長の3名が、「第3の極」であるヒマラヤ山脈(ヒンドゥークシュ山脈)における氷河融解の影響について議論をした。ギャムショーセンター長は、ヒマラヤが「第3の極」と呼ばれる理由として、6万平方キロメートルに及ぶ氷河を擁しており、河川を通じてアジアの各地域の水資源を提供するという重要な役割を担っていることや、この問題は地域的な問題ではなく地球規模の問題であるとして国際的な協力の必要性について指摘がなされた。また、タパ氏からは、地球温暖化によりその氷河が融解しつつあり、2100年までに3分の1から半分が消失(融解)の危機にあること、また氷河融解がもたらす影響は単なる氷河の消失だけではなく、洪水やそれによって干ばつ、山火事などの様々な自然災害が引き起こされているとして、連鎖的な災害に繋がる危険性について説明がなされた。阪口所長は、これらの報告を総括し、地球温暖化によるヒマラヤ氷河の融解は、流域で暮らす19億人の生活が脅かされている問題であるということを理解する必要性を強調した。
(文責:笹川平和財団海洋政策研究所 客員研究員 本田悠介)