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【概要報告】北極サークル日本フォーラム本会議(第1日)

2023.03.05
笹川平和財団海洋政策研究所は、3月4日(土)から3月6日(月)にかけて、ARCTIC CIRCLE事務局および日本財団と「北極サークル日本フォーラム」を共催しました。以下、本会議の第1日目の概要を速報でお伝えします。

3月4日(土)午後、グリムソン北極サークル議長(前アイスランド大統領)、笹川日本財団会長、角南笹川平和財団理事長の3名による開会の挨拶によって、北極サークル日本フォーラムが開演した。
グリムソン北極サークル議長(前アイスランド大統領)写真
笹川日本財団会長写真
角南笹川平和財団理事長写真
 初日午後のオープニングセッションでは、続いて、国会議員らを中心として13名によるスピーチが行われた。
 永岡文部科学大臣からは、航路、生物、資源の持続可能な利用に関する研究を含む、気候変動の影響が顕著な北極において観測と研究を続けることの必要性のほか、国際協力による若手人材育成の重要性に言及があった。また、観測データの空白を埋めるため、2026年度進水予定の北極域研究船への期待が語られた。
 トールダルソン・アイスランド環境大臣は、北極の問題は東京から3000キロ離れた場所の問題ではなく、地球全体の問題であるとして、ハイレベルの参加者だけでなく、科学者や産業界、市民社会による議論が重要であるとの指摘があった。また、前北極評議会議長の立場として、北極評議会では、アジアからは5か国に限られているが、北極の未来を考える上でアジアからの参加は欠かせないとして、北極サークル日本フォーラムのような対話フォーラムが重要である旨の発言があった。
 西村環境大臣からは、気候変動は北極圏の存続に関わる問題であり、急速に進む温暖化は北極圏に生活する人々や生物へ大きな影響を与えているとして、世界中が緩和行動を強化する必要があるとの指摘がなされた。
 新藤議員からは、地球と人類のためにも北極はきわめて重要であるとの指摘があり、日本としては、北極政策における質と量の双方を確保する必要性と、北極域における活動の足掛かりを作ることが重要であるとして、その拠点となる2026年進水予定の北極域研究船の重要性について述べられた。
永岡文部科学大臣写真
トールダルソン・アイスランド環境大臣写真
西村環境大臣写真
新藤議員写真
上川議員からは、長年にわたる北極問題への関わりから、地球上で運命を共有する様々なステークホルダーと積極的に連携し、北極の持続可能性という観点から、諸課題の解決に取り組むことが重要であるとの言及があり、とりわけ将来のリーダーである若者が意欲的に北極の環境等について議論することの重要性について言及があった。また、北極における連携・協力を実現するための取り組みの一つとして、地元静岡での実施が計画されている、北極域研究船の母港化や、サンプル保管、分析・研究を世界中の研究者が行える国際研究拠点となることを目的とする「駿河湾スマートオーシャン構想」についての紹介があり、この構想に基づく「スマート・アークティック」を実現の重要性について言及があった。
 イスフェルド・フェロー諸島政府北京代表からは、日本の格言である「理念なき行動は凶器であり、行動なき理念は無価値である。」という言葉の引用があり、フェロー諸島の立場として、北極を平和で安定した地域であることを維持する必要性について強調があった。
 ケムニッツ・デンマーク国会議員は、北極圏であるグリーンランドにおける観光や資源に対する関心が高まっていることを歓迎しつつ、関連する意思決定に対するイヌイットを含む北極圏に住む先住民の「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」を確保することの重要性について言及があった。
 土屋議員からは、日本アイスランド友好議員連盟の会長として、これまでにないほど日本とアイスランドの友好関係が高まっているとして、引き続き、ジェンダー問題を含め、日本はアイスランドから多くのことを学び、北極を含む地球環境の保全への取り組みを進めるべきである旨の発言があった。
上川議員写真
イスフェルド・フェロー諸島政府北京代表写真
ケムニッツ・デンマーク国会議員写真
土屋議員写真
 「北極における科学技術協力と研究船の効果的利用」に関するセッションでは、冒頭、黄川田議員によるスピーチが行われ、今年改訂予定の第4期海洋基本計画における主要政策の一つである北極政策への期待や、北極域における問題は北極沿岸国の問題だけでなく地球規模の環境問題であることについて言及があった。続いて、阪口笹川平和財団海洋政策研究所長をチェアとして、カーナ・インド退役海軍少将、タン・シンガポール北極担当特使、マルティ=ドシュ・在日フランス大使館科学技術参事官による座談会が行われた。座談会では、北極における科学技術連携と研究船の有効利用について議論され、北極域における気候変動の地球規模・地域的な影響、その対策を考える上で更なる科学的・国際的な協力が必要であるとして、パネリストから日本の北極域研究船に対する大きな期待が言及された。
黄川田議員写真
パネリスト写真

 後半のプレナリーセッションでは、「北極対話:日本、中国、韓国」、「北極の氷床・海氷融解の結果」、「溶けゆく北極における先住民の知識」、「「ロングウェイ・ノース」と北極の海洋環境保全」の4つのセッションが開催された。

 「北極対話:日本、中国、韓国」セッションでは、グリムソン議長と阪口所長の司会の下、日中韓の北極担当大使が、アジアの視点から各国の北極政策への取り組みや国際協力について議論を交わした。日本の竹若北極担当大使からは、気候変動などの影響を顕著に受け急速に変わる北極における気候変動の影響の観測や研究の継続が重要であるとの指摘があった。また、気候変動問題は日本の安全保障に様々な形で重大な影響を及ぼすとして、その観点からも北極問題に取り組む重要性が指摘された。高中国北極担当特別代表からは、2018年に採択された北極白書で言及されている「尊重、協力、ウィンウィン、持続可能性」の基本原則に基づき、関連するすべての活動が継続して行われているとして、北極の将来のために引き続き取り組んでいくことが述べられた。ホン韓国北極担当大使からは、北極の環境ほどが重要であるとして、気候変動からの影響からの保護はすべての国の責任であることに言及があった。また、そのための取り組みとして、韓国における温室効果ガス削減に関する取り組みの紹介などがあった。3か国とも、北極の将来の理解なくして地球規模の気候の理解はできないとして、北極における観測・研究の重要性について共通認識があった。続くフロアとのQ&Aでは、北極における気候変動問題への対応における日中韓の二国間・三か国間の協力の具体例や、他のアジア諸国を巻き込んでの取り組みについて質問があった。

「北極対話:日本、中国、韓国」セッション写真
 「北極の氷床・海氷融解がもたらす影響」セッションでは、ドイツのラホルト・アルフレッド・ウェゲナー極地海洋研究所ドイツ北極事務所長の司会の下、トールダルソン・アイスランド環境大臣と榎本極地研究所副所長による議論が行われた。冒頭、ラホルト所長から北極を含む氷床・海氷・永久凍土の水循環における重要性の指摘があり、仮に地球の全ての氷が溶ければ、海面は6から7メートル上昇するとして、その影響の重大さに言及があった。続いてトールダルソン環境大臣からは、「氷」を関する国として、北極だけでなく世界にとっての氷の重要性について言及があり、気候変動に起因する災害に対応するため、地域における協力などの活動を通じて認識を高める必要があるということが重要なメッセージであるとの発言があった。榎本副所長からは、海氷融解が他の事情に連鎖的に与える影響(カスケード効果)についてはまだ十分分かっていないとして、観測活動の継続の重要性について発言があった。Q&Aセッションではフロアから、北極における融解の対策として、太陽放射管理(solar radiation management)といったジオエンジニアリングについての質疑があり、賛否両論の議論が交わされた。
「北極の氷床・海氷融解がもたらす影響」セッション写真
 「溶けゆく北極における先住民の知識」では、ケムニッツ・デンマーク国会議員の司会の下、キビオク・ロブストロム・グリーンランド大学文化・社会史准教授、ミア・オストック・カナダ・ヌナブト影響評価委員会技術顧問によって、海氷や永久凍土の融解が進む北極圏における先住民の知識と教育について議論が交わされた。オストック技術顧問からは、北極圏における気候変動が年々大きく、早くなっており、天候の予想も難しくなっているとして、イヌイットの伝統的知識が受けている影響に関して「目撃者」としての意見が述べられた。そのうえで、その影響を最も受けるのは、これからの世代であるとして、北極の将来のために気候変動対策に取り組む必要性の重要性について訴えがあった。ロブストロム准教授からは、グリーンランド人権理事会議長としても、先住民の伝統的知識は重要な問題であるとして、Googleで調べて知る先住民の知識は実際に先住民の知識を指しているとは限らないとして、先住民の知識とは日々更新されていることを知ることの重要性が指摘された。一方で、先住民の知識を共有し保存するために、データベース化するなどの科学による適切な支援がひつようであることについて言及があった。Q&Aセッションにおける、他の北極圏の先住民・地域住民の視点からのコメントの後、ロブストロム准教授からは、科学者による関与において、「押しつけ」は歓迎されないということに注意する必要性について注意喚起があった。
「溶けゆく北極における先住民の知識」写真
 「「ロングウェイ・ノース」と北極の海洋環境保全」では、スタジオジブリによるレター朗読と北極を題材とした「ロングウェイ・ノース」のダイジェスト版の上映の後、阪口所長の司会の下、伊藤議員およびケムニッツ・デンマーク国会議員による議論が行われた。伊藤議員からは、日本のアニメーション等を活用した全世代に向けた北極の普及啓発の重要性について言及があり、ケムニッツ議員からも気候変動の影響を受ける北極の海洋環境保全における日本の貢献についての期待について発言があった。
「ロングウェイ・ノース」と北極の海洋環境保全写真

会場内の様子については北極サークル事務局の写真集(Flickrサイト)もご参照ください。

(文責:笹川平和財団海洋政策研究所 客員研究員 本田悠介)

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