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【開催報告】「函館市産業連関表とブルーカーボン」ワークショップ

2022.07.20

 笹川平和財団海洋政策研究所(以下OPRI)は6月10日(金)に一般財団法人函館市国際水産・海洋都市推進機構(北海道函館市)において、「函館市産業連関表とブルーカーボン」と題したワークショップを開催しました。OPRIは今までに函館市において海洋産業を細分化した産業連関表の作成、およびそれを用いた政策分析を進めて来ました。またジャパンブルーエコノミー技術研究組合の中で、ブルーカーボンクレジットの実証を進めて来ています。今回はその二つのテーマを融合させてワークショップを10日の13:30~17:00に開催し、函館市の経済分析やブルーカーボンの研究・実践に取り組んでいる研究者や行政関係者が集まり、それぞれの取り組みについて報告しました。

 まず本ワークショップのモデレーターである、はこだて未来大学名誉教授の長野章氏から本ワークショップ開催の目的や経緯が述べられました。その後OPRIの渡邉敦上席研究員から、ワークショップ参加への謝意および成果への期待が説明され、その後パネリストによる発表がおこなわれました。各発表者からの報告およびパネル討論、質疑応答の要点は以下の通りです。

 OPRI海洋政策研究部の田中元研究員からは、「産業連関表の更新と産業構造分析(函館市を事例に)」と題した発表がされました。函館市の海洋産業を分類した産業連関表を用いて1998年と2015年の函館市の産業構造を比較したところ、イカ関連産業よりも昆布関連産業の方が函館市経済全体への波及効果が高くなったこと、政策提言として天然昆布をブルーカーボンとしてクレジット化し保護することによる養殖昆布、昆布加工業の振興政策などが述べられました。
 中央大学研究開発機構客員教授の片石温美氏からは、「函館の産業構造はどう変わったか(平成10年版函館市産業連関表との比較)」と題した発表がされました。田中氏の発表と同様の函館市産業連関表を用いて1998年と2015年の函館市の産業構造を比較したところ、人口、15歳以上就業者数、耕地面積、農業産出額、漁業生産量、漁業生産額、製造業出荷額、卸売・小売業販売額、観光入込数などが減少したことが述べられました。

 
(左) 田中 元研究員、(右) 片石 温美氏

 はこだて未来大学名誉教授の長野章氏からは、「函館市産業連関表とブルーカーボン」と題した発表がされました。ブルーカーボンの一種である海藻(天然昆布、養殖昆布、昆布加工)産業を振興することが産業面からのカーボンオフセットに通じること、その経済効果、二酸化炭素吸収効果を産業連関表を用いて分析出来ることなどが紹介されました。
 北海道水産林務部の石本竜大氏からは、「ゼロカーボン北海道などの取り組み」と題した発表がされました。2050年までに道内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする“ゼロカーボン北海道”、北海道地球温暖化対策推進計画、北海道庁のブルーカーボンに関するこれまでの取り組みとしての水産多面的機能発揮対策事業、藻場機能回復促進事業、藻場・干潟ビジョンなどが紹介されました。

 
(左) 長野 章氏、(右) 石本 竜大氏

 宮城県林業水産政策室の渡邊一仁氏からは、「宮城県におけるブルーカーボンへの取り組み」と題して発表がされました。宮城県ブルーカーボンプロジェクトの概要説明に続き、ライフサイクルアセスメント分析の結果、昆布養殖業からは生産量1トン当たりおよそ5トンの二酸化炭素が排出されていること、そしてその97%が出荷準備で乾燥機を使用する際に排出されていることなどが紹介されました。
 OPRI海洋政策研究部の渡邉敦上席研究員からは、「ブルーカーボンと海外動向」と題して発表がされました。世界でのブルーカーボンに関する議論の進展、ブルーカーボンクレジットの事例、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合の成立などについて紹介されました。

 
(左) 渡邊 一仁氏、(右) 渡邉 敦上席研究員

 ジャパンブルーエコノミー技術研究組合理事長の桑江朝比呂氏からは「JBEとクレジット制度」という題で発表がされました。ブルーカーボンクレジット認証申請の手引きにもとづいて対象となるプロジェクト、期間、活動内容、追加性、調査や算定の手順などが紹介されました。
 国立研究開発法人水産研究・教育機構の堀 正和氏からは「大型海藻類のブルーカーボン」と題して発表がされました。ブルーカーボンをめぐる国内の動向、農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究のブルーカーボンの評価手法及び効率的藻場形成・拡大技術の開発」の研究内容の紹介、中国でのブルーカーボン活用に関する研究事例の紹介などがされました。

 
(左) 桑江 朝比呂氏、(右) 堀 正和氏


 その後は「海藻産業地域におけるブルーカーボンへの取り組み」と題した自由討論になり、OPRI渡邉上席研究員がモデレーターを務め、討論が行われました。さらに発表者は会場からの質問に回答しました。
 会場からは、これまでブルーカーボンクレジットを購入した企業の購入動機について質問されました。桑江氏は、企業にとって株価を上げるために投資家から評価されるには、自社のみでのゼロカーボンや気候変動の取り組みだけでは評価されづらい一方で、外部の専門機関が間に入ることで海を通じた保全活動と二酸化炭素吸収を同時に達成できるブルーカーボンクレジットの購入は評価されやすいため、企業にとってメリットがあると回答されました。
 また実際に藻場は漁業者が中心的に活動している中で、ブルーカーボンクレジットの導入における漁協の役割について質問されました。桑江氏は、自治体は自治体の政策推進に寄与するという立場で参加し、実際にクレジットが入り持続可能な保全活動に利用するのは漁業者にすることが、今までの事例から見て大事だと述べました。また渡邊一仁氏も、県や自治体はあくまで「つなぐ」役割に徹することが大事だと述べました。堀氏は藻場の二酸化炭素吸収量の計算のデータ整理において、森林と違って海は藻場台帳や現場の基礎データがあまり整備されていないことが多いため、漁協と各市町村と共同でやってもらう必要があることを述べました。
 また養殖・天然昆布のブルーカーボンのクレジット認証の要件について質問されると、堀氏からは深海輸送される流れ藻の量が分からないことから養殖昆布はまだクレジット化の対象となっていないことが述べられ、桑江氏からはブルーカーボンとして認証されるために、藻場の植物によって隔離された大気中二酸化炭素のうち、分解されずに貯留される割合である残存率を調べる必要があるが、そのために漁業者の本業を妨げるようなことは持続可能でないので、しなくて良いだろうと述べました。


壇上で議論する登壇者たち
(渡邊一仁氏、石本竜大氏、堀正和氏、桑江 朝比呂氏、渡邉敦上席研究員)(左から)

 
質問をする参加者の方々

 最後に、自由討論のモデレーターを務めた渡邉敦上席研究員から、養殖昆布・天然昆布が新たなブルーカーボンとして認証されクレジット化されることで、函館市の昆布産業の新たな振興政策や課題解決につながることへの期待や、OPRIとしてもそのために必要な実践的な研究を引き続き行いたいという展望が述べられ、セッションが締めくくられました。


(文責:海洋政策研究所海洋政策研究部 田中元・渡邉敦)

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