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【開催報告】シンポジウム「海洋政策策定に向けた海洋ビッグデータの構築」

2022.03.04
2022年2月24日に早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構と笹川平和財団海洋政策研究所(OPRI)の共催により、シンポジウム「海洋政策策定に向けた海洋ビッグデータの構築」をオンラインで開催し、当日は300名を超えるみなさまにご参加いただきました。

海に由来する問題や価値を評価する際に、海洋観測はその基礎となります。そのため、世界中で海洋観測プラットフォームや海洋センシング技術が実用化されています。しかし、海洋データは主に特定の観測目的で集められ断片的になるため、海洋状況把握や海洋問題解決に高度に活用されていないのが現状です。海洋ビッグデータの構築と多次元データの解析は、海洋政策策定におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の鍵と言えます。本シンポジウムでは、様々な分野を背景にもつ専門家よりデータそのもの(気象データやメタゲノムデータ)からデータプラットフォームまで、様々な側面からビックデータ構築の重要性と実際の活用事例に関する最新の情報を共有し、海洋政策策定に向けて海洋ビッグデータをどのように取得・分類・活用できるかに焦点を当て議論しました。
当日シンポジウム登壇者写真

当日シンポジウム登壇者

冒頭の開会挨拶で、田中愛治・早稲田大学総長より、海洋課題解決の道筋を示すため、サイエンスデータを具体的な政策策定に結び付けることの重要性について述べられました。データサイエンスから政策策定という取り組みは、これからの世界を背負う人材が俯瞰するべきところとして、今後の研究や人材育成等における早稲田大学と海洋政策研究所との連携への期待が示されました。

招待講演では、阪口秀・笹川平和財団海洋政策研究所長がモデレーターを務め、Mr. Craig N. McLean・Acting Chief Scientist; Assistant Administrator for Oceanic and Atmospheric Research, NOAAより「How Does Big Data Drive Our Ocean Future?」と題した講演が行われました。世界中の海洋観測システムから、最新の観測技術、ビッグデータの管理方法、データの価値評価、そしてNOAAにおける海洋ビッグデータの管理の現状まで、海洋ビッグデータに関する幅広い議論と共に、政策決定におけるデータの重要性が強調されました。また、膨大なデータの公開や管理に、公的機関と民間機関との連携の必要性について触れ、今後の海洋研究や海洋観測における日本とアメリカとの共同活動への期待を示しました。
招待講演の様子(Mr. Craig N. McLeanと阪口所長)写真

招待講演の様子(Mr. Craig N. McLeanと阪口所長)

続いて、各専門家より個別の講演が行われました。
東京大学先端科学技術研究センターの中村尚教授より「4次元地域気象データの構築に向けて-日本域気象再解析プロジェクトClimCORE-」と題した講演が行われました。地球温暖化に伴う近年の気象関連災害(豪雨や台風など)による人的・物的損失の甚大化に対応した、気象データの活用の重要性について述べられ、現在進められているプロジェクト「地域気象データと先端学術による戦略的社会共創拠点 ClimCORE」の紹介と共に、気象・気候ビッグデータの有効利活用に向けた体制構築の展望が示されました。
 

KAUST特別栄誉教授ならびにMaOI機構研究所長の五條堀孝先生より「海洋メタゲノムモニタリングにおけるビッグデータ解析とデジタルトランスフォーメーションおよび可視化」と題した講演が行われました。海洋問題解決の有力なツールとして、仙台湾や紅海等で海洋メタゲノムモニタリングを活用した最新事例が紹介されました。また今後のメタゲノムデータの解析手法として、ディープラーニングやAIなどの技術を活用した海洋環境データデジタルマップの構築等のビジョンが示されました。
 

海洋研究開発機構(JAMSTEC)付加価値情報創生部門の石川洋一上席技術研究員より「海洋研究開発機構におけるオープンデータ・データ連携プラットフォームの取り組み」と題した講演が行われました。JAMSTECでは船舶や大型計算機などから得られたデータを公開するとともに、データを活用するための研究開発を進めており、その例として画像のビッグデータを用いた海洋ごみのモニタリングのシステム開発が示されました。垂直統合型のデータ連携による付加価値情報の創出と社会実装に向けた研究開発が主要なテーマとなっており、今後はその成果を上げやすくするためのデータ連携基盤として、水平統合・ネットワーク型のデータプラットフォームの役割がより重要になるとの予想を示しました。
 

今年度より海洋政策研究所と早稲田大学は、海洋のデータサイエンスについて連携を進めていますが、この一年間の成果として、笹川平和財団・海洋政策研究所の赤松友成部長と早稲田大学・総合研究機構・グローバル科学知融合研究所の高橋桂子教授より「今後の海洋状況把握のための水中、水面、衛星プラットフォームの組み合わせ」と題した講演が行われました。日本は海洋観測プラットフォーム大国でありながら、十分に協調的に利用されていない現状を指摘し、大量の観測データを横断的に活用するための海洋ビッグデータの構築、そしてこれらのデータの意外な組み合わせによる海の現象の新たな可視化について述べました。
 

講演の後、早稲田大学・理工学術院・先進理工学部の竹山春子教授がモデレーターを務め、講演者全員に海洋ビッグデータの可視化やデータ公開ポリシー、そしてSDGsやカーボンニュートラルにどう貢献すべきかについて活発なパネルディスカッションが行われました。
 

最後に、角南篤・笹川平和財団理事長から閉会の挨拶として、登壇者および参加者への謝意が示されました。国連海洋科学の10年に向けて、日本の海洋研究や海洋科学のあり方が重要となっており、早稲田大学と笹川平和財団海洋政策研究所による海洋における共同研究プラットフォームの構築の第一歩として、この連携のさらなる展開への思いが述べられました。
 

(文責:海洋政策研究所 研究員 朱夢瑶)

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