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【開催報告】シンポジウム「海洋観測におけるリモートセンシングの活用の今後」

2021.12.16
2021年12月2日に笹川平和財団海洋政策研究所(OPRI)はシンポジウム「海洋観測におけるリモートセンシングの活用の今後」をオンラインで開催し、230名を超えるみなさまにご参加いただきました。
海洋政策研究所では、海洋の様々な知識や情報を共有し、海洋利用の最適化と社会課題の解決に資する政策を提言するため、「海洋デジタル社会の構築」という事業を展開しています。本事業はリモートセンシング学会と協働し、人工衛星による海洋観測能力を後半にレビューし、海洋温暖化や海洋プラスチックなどの海洋課題と観測能力を結びつける報告書を昨年度公開しました。本シンポジウムはこの報告書をベースに海洋観測の現状と今後の展望に関する最新情報を共有し、海洋観測におけるリモートセンシング技術の発展性について議論しました。
当日シンポジウム登壇者写真

当日シンポジウム登壇者

冒頭の開会挨拶では、赤松友成・笹川平和財団海洋政策研究所海洋政策研究部長より、温暖化の進行、海面上昇、海洋汚染の拡大、水産資源の枯渇などの海洋問題を解決するためには、それに関連する対象の直接的な観測が重要であること。広域で即時性のあるリモートセンシングがその強力なツールであること。事業成果の発信の一環として実施する本シンポジウムにおける議論を通じて、今後の海洋状況把握(MDA)をすすめるために必要となる海洋リモートセンシングの課題と展望が共有されるとの期待が表明されました。

続いて、6名の専門家より講演が行われました。以下、概要と併せまして、講演者のご承諾により一部発表資料を公開いたします。

 

虎谷充浩 東海大学 工学部 教授「海洋温暖化に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」
国連気候変動政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書によれば、海洋における温暖化の影響は,海水温の上昇,海面高度の上昇,海氷の減少などとして現れています。これらの地球規模の現象をモニタリングするため、リモートセンシングは必須のツールです。リモートセンシングは広域性、瞬時性、連続性、均質性という特徴があるため、広域な海洋観測に適しています。海面水温の観測には、衛星に搭載された熱赤外放射計やマイクロ波放射計が活用されています。海面高度の観測には、マイクロ波高度計が活用されています。海氷の観測には、可視域やマイクロ波の放射計が使われています。また可視光や赤外放射計を使用して、生態系(植物プランクトン)の変化が観測できます。地球温暖化は、海に様々な影響を与え、これらの影響を評価する際、リモートセンシングが不可欠な観測ツールと考えられます。

石坂丞二 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授「富栄養化・貧栄養化に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」発表資料
人間活動が盛んになり陸上からの有機物や栄養塩の流入が増加し、富栄養化していると考えられています。富栄養化によって植物プランクトンが増加するため、リモートセンシングで観測が可能な植物プランクトンの色素であるクロロフィル a が増加します。そこで、長年で蓄積されている海色リモートセンシングデータを用いて、富栄養化を把握する試みが行われていました。詳細は発表資料をご参照ください。

比嘉紘士 横浜国立大学 大学院都市イノベーション研究院 助教「青潮に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」発表資料
青潮が発生すると、海色は青白く変色したように見えます。硫黄を含む青潮水は、溶存酸素が著しく低く、浅場や漁場に侵入し生物が晒されるとダメージを受けます。青潮のリモートセンシングでは、青潮特有の水面の濁りを可視光や近赤外波長における輝度値の相違で捉える手法が用いられています。従来の観測手法と比べて、衛星データは青潮の時空間的な変化を捉えることが可能です。詳細は発表資料をご参照ください。

作野裕司 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授「海洋プラスチック・流れ藻に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」
プラスチックゴミによる海洋の汚染が世界的に大きな環境問題となっています。従来のプラスチックごみ調査手法では、人手や手間がかかり、調査者の主観が入りやすいという欠点があり、より客観的にゴミの量を評価する方法として、リモートセンシングによる方法が考えられます。現在、近赤外線のあるいくつかの波長には、プラスチック特有の吸収帯が見られます。この目に見えない光の特性を使えば、原理的にはプラスチックごみを見つけることができると考えられます。しかし、水面では近赤外の吸収が極めて激しいため、実用化には課題も多いのが現状です。一方、魚介類の産卵や生育場所である流れ藻は、時空間的な分布が大きく変化するため、広域的・面的に繰り返し観測できる衛星リモートセンシングが期待されています。今後は衛星から流れ藻の種類を同定する手法やタンデム観測している高解像度衛星による流れ藻追跡手法が課題となります。

斎藤克弥 漁業情報サービスセンター システム企画部長「水産に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」
衛星リモートセンシングの水産海洋への応用の歴史は長く、漁業情報サービスセンターでは衛星データを利用した漁場探索に関する技術開発を進めてきました。漁場探索の基本は、衛星から表面水温や海流やクロロフィル濃度などの海洋環境を把握し、そこから魚群や漁場を間接的に推定することです。現在の技術では、衛星から直接魚群を捉えるには至っていません。漁業者への漁海況情報配信の社会実装の例として「エビスくん」((一社)漁業情報サービスセンター)などがあります。また、衛星データによって、赤潮や軽石などの海洋環境モニタリング、不審船モニタリングなども可能です。衛星データは水産海洋の基盤データの一つとなっており、今後のスマート水産業においても重要な情報の一つと考えられます。さらに衛星データは、沿岸漁業や養殖業などへの応用、赤潮や軽石など漁業被害への応用、安全操業や航路選定などへの応用などにも期待されます。衛星リモートセンシングには、水産の多様な分野で高いニーズがあります。

向井田 明 一般財団法人リモートセンシング技術センター・ソリューション事業第二部長「国土管理に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」
国土管理は非常に広い分野で、防災という観点から、風水害や、海岸侵食、津波・高潮、海底火山活動などの状況把握する場合に、リモートセンシングが利用されています。風水害に関連したリモートセンシング研究の現状として養殖筏の検出や土砂流出の把握などがあります。海岸侵食の状態を把握するため、陸域と水域との境目である汀線域の抽出が必要です。光学衛星や合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar:SAR)を利用して海岸線抽出が行われます。津波と高潮に共通する点としては沿岸の海底地形と沿岸部の陸上地形により陸上での被害範囲、規模が決まる点です。光学衛星観測データを用いて、浅海域の海底地形の計測や海岸付近の地形のDSM(Digital Surface Model)の解析ができます。海底火山の主な監視項目としては、海底地形,地震,火山灰,火山ガス,変色水,火山温度などがあります。しかしこれらの調査はいずれも危険を伴うため、直接的な現地調査は難しく、リモートセンシングによる調査が期待されています。例えば、衛星SARデータを使った火山島の地形解析、気象衛星の可視・赤外センサなどによる噴煙解析、航空機や衛星の可視センサを使った火山性の変色水の解析など,多岐にわたります。

 

講演の後、「海洋リモートセンシングの将来像」というテーマでパネルディスカッションが行われました。パネリストとして小森達雄 内閣府総合海洋政策推進事務局 参事官と藤原 謙 ウミトロン株式会社 代表取締役が登壇し、石坂教授と赤松部長がモデレーターを務めました。

小森先生は、既存の衛星データのさらなる活用の観点から、今後リモートセンシングデータは様々な現場データ、例えば調査船データや、商船データなど、と有機的に融合して海洋問題や社会問題を解決すべきだと考えました。また、近年では北極問題や洋上風力発電などのホットトピックにおいてもリモートセンシングの活用が期待されると述べました。藤原先生は、沿岸域の海洋データを養殖業の分野で活用している経験から、今後海洋データから得られる新たな知見や情報が、最終的に一般消費者にさらなるサービスや新しい価値を提供するために役立つと述べました。リモートセンシングは広域かつ同一の手法で海洋情報を瞬時に取得する不可欠な方法として、データ量の増加、解像度や精度の向上などが期待されます。

パネリストと6名の講演者を含め、今後のMDAをすすめるために、既存の衛星データの活用や、将来的観測不足している対象にどんな衛星観測システムが望まれるかについて活発な議論が行われ、今後の方向性が示されました。

最後に、阪口秀・笹川平和財団海洋政策研究所長より閉会挨拶をおこない、登壇者および参加者への謝意が示されました。海洋は一見すると変化が見えにくい対象ですが、実はゆっくりかつ大規模にいろいろなことが行っています。海洋観測は科学観測だけでなく私たちの生活や社会に影響を及ぼす現象をとらえるために大変重要です。観測より得られたデータに基づき解析を行い、これを海洋課題の理解と結びつけなければなりません。海洋リモートセンシングは、今後より広く、より早く、そしてより多くの人々に利用できることが期待されます。

(文責:海洋政策研究所 研究員 朱夢瑶)

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