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【開催報告】シンポジウム「海洋観測におけるリモートセンシングの活用の今後」
海洋政策研究所では、海洋の様々な知識や情報を共有し、海洋利用の最適化と社会課題の解決に資する政策を提言するため、「海洋デジタル社会の構築」という事業を展開しています。本事業はリモートセンシング学会と協働し、人工衛星による海洋観測能力を後半にレビューし、海洋温暖化や海洋プラスチックなどの海洋課題と観測能力を結びつける報告書を昨年度公開しました。本シンポジウムはこの報告書をベースに海洋観測の現状と今後の展望に関する最新情報を共有し、海洋観測におけるリモートセンシング技術の発展性について議論しました。

当日シンポジウム登壇者
冒頭の開会挨拶では、赤松友成・笹川平和財団海洋政策研究所海洋政策研究部長より、温暖化の進行、海面上昇、海洋汚染の拡大、水産資源の枯渇などの海洋問題を解決するためには、それに関連する対象の直接的な観測が重要であること。広域で即時性のあるリモートセンシングがその強力なツールであること。事業成果の発信の一環として実施する本シンポジウムにおける議論を通じて、今後の海洋状況把握(MDA)をすすめるために必要となる海洋リモートセンシングの課題と展望が共有されるとの期待が表明されました。
続いて、6名の専門家より講演が行われました。以下、概要と併せまして、講演者のご承諾により一部発表資料を公開いたします。
虎谷充浩 東海大学 工学部 教授「海洋温暖化に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」
石坂丞二 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 教授「富栄養化・貧栄養化に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」
人間活動が盛んになり陸上からの有機物や栄養塩の流入が増加し、富栄養化していると考えられています。富栄養化によって植物プランクトンが増加するため、リモートセンシングで観測が可能な植物プランクトンの色素であるクロロフィル a が増加します。そこで、長年で蓄積されている海色リモートセンシングデータを用いて、富栄養化を把握する試みが行われていました。詳細は発表資料をご参照ください。
比嘉紘士 横浜国立大学 大学院都市イノベーション研究院 助教「青潮に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」
青潮が発生すると、海色は青白く変色したように見えます。硫黄を含む青潮水は、溶存酸素が著しく低く、浅場や漁場に侵入し生物が晒されるとダメージを受けます。青潮のリモートセンシングでは、青潮特有の水面の濁りを可視光や近赤外波長における輝度値の相違で捉える手法が用いられています。従来の観測手法と比べて、衛星データは青潮の時空間的な変化を捉えることが可能です。詳細は発表資料をご参照ください。
作野裕司 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 准教授「海洋プラスチック・流れ藻に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」
斎藤克弥 漁業情報サービスセンター システム企画部長「水産に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」
向井田 明 一般財団法人リモートセンシング技術センター・ソリューション事業第二部長「国土管理に関するリモートセンシングの現状と今後の展望」
講演の後、「海洋リモートセンシングの将来像」というテーマでパネルディスカッションが行われました。パネリストとして小森達雄 内閣府総合海洋政策推進事務局 参事官と藤原 謙 ウミトロン株式会社 代表取締役が登壇し、石坂教授と赤松部長がモデレーターを務めました。
小森先生は、既存の衛星データのさらなる活用の観点から、今後リモートセンシングデータは様々な現場データ、例えば調査船データや、商船データなど、と有機的に融合して海洋問題や社会問題を解決すべきだと考えました。また、近年では北極問題や洋上風力発電などのホットトピックにおいてもリモートセンシングの活用が期待されると述べました。藤原先生は、沿岸域の海洋データを養殖業の分野で活用している経験から、今後海洋データから得られる新たな知見や情報が、最終的に一般消費者にさらなるサービスや新しい価値を提供するために役立つと述べました。リモートセンシングは広域かつ同一の手法で海洋情報を瞬時に取得する不可欠な方法として、データ量の増加、解像度や精度の向上などが期待されます。
パネリストと6名の講演者を含め、今後のMDAをすすめるために、既存の衛星データの活用や、将来的観測不足している対象にどんな衛星観測システムが望まれるかについて活発な議論が行われ、今後の方向性が示されました。
最後に、阪口秀・笹川平和財団海洋政策研究所長より閉会挨拶をおこない、登壇者および参加者への謝意が示されました。海洋は一見すると変化が見えにくい対象ですが、実はゆっくりかつ大規模にいろいろなことが行っています。海洋観測は科学観測だけでなく私たちの生活や社会に影響を及ぼす現象をとらえるために大変重要です。観測より得られたデータに基づき解析を行い、これを海洋課題の理解と結びつけなければなりません。海洋リモートセンシングは、今後より広く、より早く、そしてより多くの人々に利用できることが期待されます。