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【開催報告】オンライン非公開セミナー「インド太平洋における『気候安全保障』」

2021.03.19

2021年3月12日、笹川平和財団海洋政策研究所は非公開オンラインセミナー「インド太平洋における『気候安全保障』」を開催しました。昨今、気候変動問題が安全保障に及ぼす影響に着眼する「気候安全保障(Climate Security)」の概念が少しずつ認知され始めています。本セミナーは、特に海洋安全保障の視点から気候変動と地域安全保障の関係について知見を深めることを目的に、豪・仏・日3名の専門家が登壇し、政府関係者や防衛関係者の参加の下開催されました。

冒頭の挨拶で角南篤笹川平和財団理事長(兼海洋政策研究所所長)は、本年に開催予定の太平洋・島サミット(PALM9)の主要テーマの一つが気候変動であることに触れ、この課題に対する政策的対応のための議論の重要性について強調しました。そのうえで、日本においては「気候安全保障」が未だ新しい概念であることを指摘し、本セミナーを通じて気候変動問題が安全保障の文脈でどのような示唆を持つのかについての理解を深めることへの期待を述べました。

オーストラリア国立大学アジア太平洋カレッジのシニア・リサーチフェローであるディビッド・ブリュースター(David Brewster)氏は、気候変動がサイクロンの甚大化や海面上昇、漁業資源の減少などの環境的脅威をもたらすと述べ、これらが相互に連関し合い、さらなる安全保障上の脅威をもたらし得ることを指摘しました。また、インド洋・南極海における環境的脅威に対する地域安全保障上の対応に関する提案として、既存の安全保障体制を活用しながら、特に自然災害などの環境的脅威に対処できる能力を持った国の主導の下、地域における協調を深めていくことの重要性を強調しました。

フランス国防省の気候安全保障担当官であるトム・アリスティアス(Tom HARISTIAS)氏は、既に気候変動問題は安全保障上の脅威であると指摘し、気候変動にとって最も脆弱な地域の一つであるインド太平洋に海外領土を持つフランスが、とりわけ気候変動リスクの理解と予測に積極的であることを紹介しました。また、フランス国防省が「緑の防衛(Green Defence)」と「気候安全保障(Climate Security)」の2つの理念の下、軍事施設における温室効果ガス削減や人道支援・災害管理体制の改善に取り組んでいるとし、これら両面において官民のパートナーシップの構築が重要であると述べました。

笹川平和財団米国(SPF-USA)の德地秀士特別研究員は、バイデン政権の下で気候変動が米国にとって最も優先度の高い課題のひとつであることに触れ、気候変動がグローバルな課題としてだけではなく国家の安全保障にとって重要となっていることを強調しました。さらに、気候安全保障に取り組むために日米間でどのような協力が可能かについて、人道支援・災害管理協力の推進、気候安全保障の視点でのインテリジェンス協力、極端気象現象に備えた医療・保険分野における教育・訓練、環境配慮型技術の共同開発、そして気候変動がもたらす地政学的な影響に関する政策対話の5つを提言しました。

3名からの発表ののち、秋元一峰海洋政策研究所特別研究員をモデレーターとした質疑応答の時間が設けられ、登壇者と参加者の間で活発な議論が交わされました。とりわけインド太平洋地域における地域安全保障体制が、気候変動という新たな脅威を前にどのように対応していくべきなのかについての意見交換が行われ、本テーマに関する継続的な議論が必要であるとの認識が共有されました。

最後に、前川美湖海洋政策研究所主任研究員からは海洋政策研究所が取り組む気候安全保障に関する研究活動や、今年後半には気候安全保障を題材とした初の和文書籍を出版する予定であることが紹介されたほか、安全保障の観点から気候変動問題への知見を深めていくことへの期待が述べられ、閉会となりました。

セミナーメンバー写真

(中央)角南篤理事長、(中央上)トム・アリスティアス氏、(中央下)德地秀士氏、 (左上)前川美湖主任研究員、(左下)ディビッド・ブリュースター氏、(右上)秋元一峰特別研究員、 (右下)在日フランス大使館付国防武官フランソワ・デュ オメ海軍大佐

(文責:海洋政策研究所 研究員 吉岡 渚)

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