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【参加報告】国連気候変動枠組条約(UNFCCC)公式会合「海洋と気候変動に関する対話」

2020.12.09
英国のグラスゴーで今年開催が予定されていた第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)の延期に伴い、11月23日から12月4日にかけて国連気候変動枠組条約(UNFCCC)主催の「気候対話(UN Climate Change Dialogue)」がオンラインで開催された。この気候対話は、来年11月に延期されたCOP26に至るモメンタムを維持し、締約国やその他ステークホルダーが2020年の進捗を振り返り、COP議題のテーマについて、交渉以外の意見交換を行うことを目的としている。パリ協定第6条や土地利用と気候変動適応に関する対話など、12日間の開催で約80のオンラインセッションが行われた。
気候対話のバーチャル会場の様子写真

気候対話のバーチャル会場の様子

2020年12月2日、3日(日本時間12月3日、4日のAM5:30~AM8:00)には、UNFCCCの公式会合としては初となる「海洋と気候変動に関する対話」1 (以下、海洋対話)が開催された。この対話はCOP25の合意文書に従って当初2020年6月に、「第52回科学及び技術上の助言に関する補助機関」(SBSTA52)会合において開催されることが予定されていたが、同会合の延期(2021年時期未定)を受け、上記の気候対話の一部として、オンラインでの実施となった。海洋対話は、気候と海洋の連関やそれらに係る諸課題についての理解を促進するとともに、海洋を基盤とした気候変動の緩和と適応行動をどのように強化するかについて締約国、非締約国、非国家アクター(国際機関、市民社会組織、研究機関など)が議論するために設定された2 。海洋政策研究所は、海洋対話の2日目に開催された分野横断的な支援のあり方に関わる分科会セッションに参加し、前川美湖主任研究員が研究事業での試算をもとに資金支援に関する提案を行った (後述参照)。

「海洋と気候変動に関する対話」の概要
初日は閣僚級による開会挨拶から始まり、チリ外務大臣、モナコ公国外務大臣、イギリス太平洋環境大臣らが登壇した。続いて、ピーター・トムソン国連事務総長海洋特使、パトリシア・エスピノーサUNFCCC事務局長が登壇し、スピーチを行った。基調講演として、初日はハンス=オットー・ポートナーIPCC第二作業部会共同議長より昨年9月に公表されたIPCC海洋雪氷圏特別報告書について、2日目には「持続可能な海洋経済のためのハイレベルパネル」の共同議長であるジェーン・ルブチェンコ氏よりハイレベルパネルが公表した一連の海洋経済に関する報告書について発表があった。
 基調講演後は分科会セッションに分かれて、個別テーマについてパネルディスカッションが行われ、パネリスト以外の参加者からの発言の機会が設けられた。分科会セッションのテーマは、(1)UNFCCCの下の行動強化、(2)国連システム全体の行動強化、(3)国家レベルでの行動強化、そして(4)行動のための分野横断的な支援のあり方である。
 各登壇者や議論の詳細についてはEarth Negotiations Bulletinの要約(https://enb.iisd.org/download/pdf/enb12777e.pdf)を参照されたい。

海洋政策研究所の発言要旨
海洋政策研究所は、4つ目の分野横断的な支援のあり方に関わる分科会セッションに参加し、EU、英国に続いて発言し、特に資金支援について以下の指摘を行った。
・海洋政策研究所はマラケシュパートナーシップ海洋・沿岸域グループの一員として、COPの場で海洋と気候変動の関連の重要性について提起・提言してきた。
・「海洋と気候変動に関する対話」を歓迎し、今後もこのような対話が継続されることを期待する。
・海洋政策研究所の試算では、海洋を基盤とする気候変動対策および海洋保全に関連するプロジェクトは、主な国際開発金融機関やUNFCCCの下で設置されている国際基金が支援する事業のうち3%程度である。
・調達可能な資金とプロジェクト案とのマッチ・メイキングを促すために、実用的な「海洋と気候変動資金のためのガイド」を作成し、UNFCCCに関わるアクターへ情報提供することを提案する。

「海洋と気候変動に関する対話」の成果と今後に向けて
今回の海洋対話は、政府の交渉官、市民社会組織、研究機関ら多様なアクターが海洋を基盤とする気候変動緩和策・適応策の現状と課題について、最新の情報を持ち寄り包括的に検討する貴重な場となった。冒頭でエスピノーサUNFCCC事務局長がその重要性を強調した「包摂的な多国間主義」の精神にのっとり多様な参加者が議論に貢献し、先住民や若者世代の代表者による発言も注目を集めたほか、UNFCCCの下に設置されている気候変動の影響、脆弱性及び適応に関するナイロビ作業計画や、損失と損害に関するワルシャワ国際メカニズム執行委員会、LDCs専門家グループといった実施主体や、他の国連機関(国連海事・海洋法課、生物多様性条約、国際海事機関、国連食糧農業機関など)も参画し連携のための具体的な接点や課題について議論した。とりわけ海洋を基盤とした対策を、各国がパリ協定の下で策定・提出を義務付けられている「自国が決定する貢献(NDCs)」に組み込むことが重要である。そのための具体策として生態系を活用した解決策(Nature-based solution)や海洋保護区の事例など海洋を基盤とする気候変動対策の実施と支援について議論がなされたこと、さらにそれが公開されたことは、多くの関係者にとり有益であったはずである。
 今回の海洋対話における議論は、SBSTA議長の非公式サマリーレポートとしてまとめられることになっている(1/CP.25パラグラフ34)。このサマリーレポートの取扱いについてはまだ不明確であるが、内容報告の場がCOP26(2021年11月に開催予定)の場で設けられ、COP26後における継続的な海洋対話開催(今回のようなオンライン対話や、COP/SBの下でのハイレベル会合・専門家会合などの設定)に関する議論につながることを期待したい。
 UNFCCCの下で、今回のような公式の対話の場を継続して設けることに対して、多くの参加者が事前の文書での意見提出も通じて前向きな姿勢を表明している。ユネスコ政府間海洋学委員会のウラジーミル・リャビニン事務局長が指摘したように、「海洋対話」をいわばチェックポイントとして進捗確認の場として活用し、実施そのものの枠組みは例えば「国連海洋科学の10年」に位置づけるなどの提案もあった。フィジーなどのようにUNFCCC下で海洋の新たな議題(Agenda)や作業計画(Work Programme)の設定に積極的な立場をとる締約国もあれば、EUが表明したようにUNFCCCの既存の枠組みを活用した方がむしろ海洋関連の取組みを実施促進する上でより効果的であるという考え方もある。各国の温室効果ガス排出削減への野心引き上げのための取組みである世界全体の進捗評価(グローバルストックテイク)へ海洋の視点を盛り込むなど、今回の海洋対話では実現に向けて今後検討すべき提案も多く寄せられた。いずれにせよ、対話に加えて予算的措置を伴う具体的な取組みが重要であることは間違いないであろう。今までは非政府組織(NGO)を中心とする海洋分野のイベントがCOP会場において100件程度開催され、その全体像を把握するだけでも容易ではなかった。今回は、UNFCCCの公式プログラムとして海洋と気候に関する主要テーマを網羅し、世界の主要なアクターや有識者が一堂に会して集中的な検討を行った意義は大きい。今後もより一層、UNFCCCにおける海洋分野の議論の主流化の動きが加速し、有効な気候変動対策および海洋保全策が実施拡大されることが望まれる。

(文責:海洋政策研究所 吉岡渚研究員)

1: 正式名称:Ocean and Climate Change Dialogue to consider how to strengthen adaptation and mitigation action
2: 2019年に開催された第25回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP25)の合意文書によって、科学および技術の助言に関する補助機関補助機関(SBSTA)が海洋と気候変動対話を開催することが決定した。

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