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【開催報告】ヴァーチャル・オーシャンズ・アクション・デー2020 (Virtual Oceans Action Day2020)について

2020.11.25

2020年11月20日(金)、公益財団法人笹川平和財団海洋政策研究所(所長:角南篤)は米国のグローバル・オーシャン・フォーラム (GOF) 、ポルトガルのオセアノ・アズール財団、ユネスコ政府間海洋学委員会 (UNESCO-IOC) 等と共催でヴァーチャル・オーシャンズ・アクション・デーを開催した。海洋政策研究所は、2015年の第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)以降、毎年のCOPにおいて各国NGOや国際機関とともに「オーシャンズ・アクション・デー」を開催し、海洋と気候変動に関する諸課題について集中的に議論する場を設けている。新型コロナウイルス感染症の影響により本年中に開催が予定されていたCOP26(英国・グラスゴー)および第52回補助機関会合(SB52)(ドイツ・ボン)の開催が延期となったなか、海洋分野における気候変動対策の推進に向けた議論を持続させるため、当初COP26の開催が予定されていた時期に合わせて11月20日に「オーシャンズ・アクション・デー」をオンラインで開催することとした。本イベントでは、COP26に向けて、気候危機への対処、とりわけ海洋分野での対策に向けた政策・行動とベストプラクティスの共有に議論の焦点を当て、12月2日、3日(日本時間12月3日、4日のAM5:30~AM8:00)にオンライン形式で開催される国連気候変動枠組条約「海洋と気候変動対話」に向けたビジョンを共有することを目指し各国から政府関係者や専門家が参加した。また、本イベントは2020年9月に逝去したビリアナ・シシンセイン氏(GOF代表)への追悼の意を込めている。イベント開催中は常時200名以上が参加した。

※イベントはこちらのYoutubeチャンネルよりご覧いただけます。

ヴァーチャル・オーシャンズ・アクション・デー2020の登壇者他写真

ヴァーチャル・オーシャンズ・アクション・デー2020の登壇者他

総合司会・進行役を前川美湖海洋政策研究所主任研究員が務め、合計16名の登壇者が4つのセグメント、(1)COP26 に向けたビジョン、(2)政府間機関からの視点、(3)政府からの視点、(4)市民社会からの視点でシシンセイン氏への追悼の言葉、海洋と気候変動の議論進展に向けてそれぞれメッセージを表明した。各セグメントでは、角南篤笹川平和財団理事長(兼海洋政策研究所所長)、Tiago Pitta e Cunhaオセアノ・アズール財団CEOが共同でモデレーターを務めた。モデレーターによる開会挨拶では、角南理事長が気候変動によって海洋が危機的状況にあることを改めて強調したうえで、世界で「2050年までに排出実質ゼロ」に向けた動きが進む中で海洋が大きな役割を果たし得ること、そして本イベントがそれを実現するために何が必要なのかを検討するよい契機となることへの期待を示した。Cunha氏は、海洋を基盤とした気候変動対策は生物多様性の回復や沿岸の防災などの目標の達成にも貢献しうるとし、国の削減目標(NDCs)へ他国に先駆けて海洋分野の対策を盛り込むリーダーシップのある国が必要であると述べた。続いて沿岸研究センター代表兼CEOでGOF理事でもあるRichard Delaney氏によって、シシンセイン氏の生涯をまとめた追悼ビデオが紹介され、参加者はシシンセイン氏がこの分野で遺した多くの功績に思いを馳せた。

「COP26に向けたビジョン」に関するセグメントでは、初めにチリ政府のGonzalo Muñoz COP25気候チャンピオンが登壇し、海洋における気候変動緩和策として、沿岸生態系の炭素貯留機能の強化や海運セクターにおける完全な脱炭素化を挙げ、緩和とともに、適応、レジリエンス、資金といった課題にも並行して取り組む必要性があると述べた。次に、COP26 議長国である英国政府からGemma Harper 環境・食糧・農村地域省海洋局副室長 が登壇し、COP26における野心的な排出削減目標の設定は健全な海洋のために不可欠であるとしつつ、英国がCOP26の主要テーマとして生態系を活用した解決策を掲げており、海洋分野においても生態系の活用に一歩踏み込んだアプローチが必要になってくると示唆した。質疑では、COP26においてCOP25からどのような進展が有り得るかについて質問が寄せられ、Harper氏はCOP26の優先事項の多くに海洋が関連するとしたうえで、海洋・気候対話に参加し、その成果を見極めたいと述べた。

政府間機関からの視点に関するセグメントでは、初めにJoanna Post UNFCCC事務局海洋担当が登壇し、来月オンラインで開催される「気候変動と海洋対話」について説明した。47件ものサブミッションが締約国、非締約国・団体から寄せられたことなどにも言及し、来月の対話は、海洋のモーメンタムを維持し、次のステップへの道筋を検討するうえで重要な機会となりうると述べた。IOC-UNESCOのVladimir Ryabinin事務局長は続いて、来年から始まる国連海洋科学の10年に触れ、持続可能な開発にとって不可欠な要素である海洋分野の科学、つまり海洋科学、自然科学、そして海洋ガバナンスを含む社会科学それぞれの可能性を高めていくことへの重要性について表明した。Manuel Barange国連食糧機関(FAO)水産・養殖政策資源部長は、漁業管理において気候変動を主流化し、分野横断的なアプローチの下で、資源の持続可能な利用や乱獲などの課題に同時に取り組む必要があると述べた。

政府からの視点を提供するセグメントでは、Ricardo Serrão Santosポルトガル海洋大臣が登壇し、海洋が気候非常事態に取り組むための鍵となると述べ、政治的決定を支援するための科学的情報、知識が必要だとのメッセージを送った。次にHelen Ågrenスウェーデン外務省海洋大使は野心の高いNDCsの設定と、それをパリ協定の下での長期戦略と結びつけることが最も重要であるとし、海洋産業を含む様々なセクターのコミットメントが必要であると述べた。COP23議長国であるフィジーからは、Taholo Kami Ocean Pathway特別代表が登壇し、フィジー政府として改めて海洋分野での気候変動対策のコミットメントを強化すると述べ、レジリエンスを含める持続可能なブルーエコノミーの実現に向けた取り組みへの意欲を表明した。

最後のセグメントは市民社会からの視点として、5名が登壇した。プリマス海洋研究所Carol Turley氏はCOVID19危機の下でも海洋科学は進展していることを示し、アルベルト2世モナコ大公財団のSylvie Goyet氏は、海洋・気候変動・生物多様性の三つの問題を科学・政策・行動の3つの面で対処していくべきとして、財団の方針として、今後、生態系を基礎とした解決策を重視すると述べ、陸と海をつなぐ場所たる沿岸域への着目を表明した。続いて、海洋と気候プラットフォームのLoreley Picourt氏およびコンサベーション・インターナショナルのTamara Thomas 氏は、この2つの組織が昨年6月、新たにマラケシュパートナーシップ*の下の海洋・沿岸域グループの共同フォーカルポイントに選出されたことを紹介し、UNFCCCの下での海洋と気候の連関強化のための制度構築などを目指すとの意気込みを語った。IUCNから登壇したDorothée Herr氏は、マラケシュパートナーシップの下、現在、海洋・沿岸域グループではCOP26に向けて「海洋・沿岸域の(排出ゼロに向けた)経路」を作成中であり、生態系の保全と回復、資源管理、海運、エネルギーの4つの主要分野に焦点を当て、2040年までに必要な変革について示すものであると紹介した。最後にフランス最大の水族館であるフランス国立海洋センターの理事であるPhilippe Vallette氏が登壇し、海洋分野の若者の教育の重要性について強調し、水族館など既存のネットワークを活用や、海洋のための青年議会の設立などの可能性について述べた。

開会挨拶では、角南理事長とCunha氏が再び閉会の言葉を述べた。本イベントのメッセージとして、海洋の認知度が高まっていること、英国が気候変動対策の中心に生態系を活用した解決策を据えようとしていること、そのための財政支援が増えていること、民間セクターが気候変動対策でより大きな役割を果たしていること、国際機関が海洋アジェンダを推進していることなどが挙げられ、1時間半のイベントは閉会した。

(文責:海洋政策研究所 海洋政策研究部 研究員 吉岡 渚)
*: マラケシュパートナーシップ(正式名称:グローバルな気候行動に関するマラケシュパートナーシップ )は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下、非締約国(NGO、企業、自治体など)による気候変動対策を推進するためのネットワークである。

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