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国連生物多様性サミット ハイレベル・サイドイベント チャールズ皇太子、ダニー・フォーレ セイシェル大統領、角南篤理事長らが海洋生物多様性について議論(詳細)

2020.10.12

オンラインで開催された今年の国連総会において、生物多様性サミットが開催されるのに合わせて、「ハイレベル・サイドイベント 生物多様性:海洋の役割」が日本時間の9月30日午後9時-10時半に開催されました。

ピーター・トムソン国連事務総長海洋特使が司会を務め、国連生物多様性サミットに際し、世界の有識者を交えた海洋生物多様性に関し有意義な議論が行えることに期待を表明しました。ウェールズ公チャールズ皇太子は、ビデオメッセージにおいて、地球の自然を救済するマーシャルプランが必要で、綿密に関連し合う海洋生態系の保全に向けた国際的な取り組みの強化を呼びかけました。具体的には① 気候変動の緩和と適応、② 乱獲・違法漁業に対する漁業補助金の撤廃、③ 海洋保護区10%目標の実現と2030年を目標年とする30%目標の設定、④ 乱獲・海洋環境破壊型の漁業、藻場の掘削、マングローブ伐採に対する規制やサンゴの保全に関する法の履行確保、⑤ 海洋汚染防止のための汚水処理インフラ整備、⑥ 持続可能な水産資源管理、⑦ 海洋生物資源の調査、⑧ 持続可能で対応力ある(レジリエント)な制度や都市機能の整備、⑧ 持続可能な海洋経済・ブルーエコノミーの実現に向けた資金供与などを含めたパラダイム・シフト(枠組転換)の必要性を強調しました。課題解決型で科学に基づき、予防的で包含的かつ効果のある手法で海洋の保全と持続可能な利用を進めていくことが必要であると述べました。地球は傷んでおり、コブラン織のように美しく紡がれた海洋が緊急で重大な手当を必要としており、海洋の保全と持続可能な利用に向けた取り組みを国際的に強化していくことへの協力を呼びかけました。

ウェールズ公チャールズ皇太子写真

ウェールズ公チャールズ皇太子

ダニー・フォーレ セイシェル大統領は、この世界的なコロナ禍で世界が繋がっていることを改めて認識する一方で、長年国際社会が取り組んできた生物多様性については、人間社会が前例のないほど急速に自然に影響を及ぼしているとの報告がなされているとのべました。数年の間に多くの動植物の種が消滅していくとも指摘され、人間社会は自然なしに繁栄しえないことを理解すべきだと呼びかけました。自然との共生を生物多様性戦略の実施を通じて実現していくことが重要で、セイシェルでは、海洋保全の促進に向けブルーエコノミーを掲げ、自然保護のための債務転換(Debt Swap for Nature)やブルーボンド(海洋のための債権)の発行など先進的な取り組みを進めていると紹介しました。

リュウ・ゼンミン(Liu Zhenmin)国連経済社会問題担当事務次長は、生物多様性の危機を乗り越えるために、2020年以降の生物多様性保全のための目標設定を国連2030年開発課題や気候変動に関するパリ協定などと整合性を維持し策定していくことが重要で、そのためにも今回の生物多様性サミットやこのサイドイベントでの議論に期待を表明しました。

エリザベス・ムレマ生物多様性事務局長は、生物多様性を個別の課題として捉えるのではなく総合的な観点で理解する重要性を強調すると共に、人間社会のニーズを充足させるために海洋生物多様性を犠牲にする必要はないとの点を強調しました。持続可能な漁業の推進や食品廃棄(ロス)の問題にも取り組む必要性があると述べ、2020年以降の生物多様性保全の目標設定を健全な海洋実現のための移行の機会と捉え、健全で対応力あり、生産的で持続可能な地球の実現に向けた取り組みに向けた協力を呼びかけました。
(左から) ダニー・フォーレ セイシェル大統領、リュウ・ゼンミン国連経済社会問題担当事務次長、エリザベス・ムレマ生物多様性事務局長。写真

(左から) ダニー・フォーレ セイシェル大統領、リュウ・ゼンミン国連経済社会問題担当事務次長、エリザベス・ムレマ生物多様性事務局長。

ミンデルー財団のアンドリュー・フォレスト会長は、水産資源は壊滅的に減少しており、持続可能な漁業の実現は急務で、そのためには信頼できるデータが必要であると述べました。そのために世界漁業指標(Global Fishing Index)をブリティッシュ・コロンビア大学やワシントン大学などと共に開発しており、2021年3月には公表する予定であると述べ、持続可能な海洋資源の利用に向けた取り組みを進めていくと述べました。

ドナ・ベルタリ国連貿易開発会議(UNCTAD)特別顧問は、生物多様性の保全のために2020年末までに海洋保護区を10%まで拡大するとの目標を実現しつつ、2030年まで30%を海洋保護区とする目標について合意を形成することが重要だと述べ、そのために世界のリーダーが指導的役割を果たす必要があると指摘しました。

角南篤 笹川平和財団理事長・海洋政策研究所所長は、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)が昨年発表した報告書で生物多様性が急速に喪失している現状を指摘する一方で、生物多様性条約事務局がこの9月に刊行した報告書では生物多様性に関する愛知目標が実現されていないと問題提起している点などに言及し、生物多様性の保全に向けた取り組みを加速させるとともに、科学に基づく政策対話や政策形成の重要性を強調しました。また、この夏に海洋政策研究所が実施したウェビナーについても言及し、海洋保全には温室効果ガスの排出抑制や、海水温上昇や海洋・沿岸環境の変化の関連性などに関し地域的特性を踏まえ吟味し、解決策を模索していく重要性を指摘しました。持続可能な海洋経済ハイレベルパネルの諮問委員会のメンバーとして海洋政策研究所は地球規模での共有の資源である海洋の保全と持続可能な利用に向け、パラオでの私たちの海洋会議、第2回国連海洋会議等での合意形成に貢献していく方針を強調しました。
(左から) アンドリュー・フォレスト ミンデルー財団会長、ドナ・ベルタリ国連貿易開発会議(UNCTAD)特別顧問、角南篤 笹川平和財団理事長・海洋政策研究所所長。写真

(左から) アンドリュー・フォレスト ミンデルー財団会長、ドナ・ベルタリ国連貿易開発会議(UNCTAD)特別顧問、角南篤 笹川平和財団理事長・海洋政策研究所所長。

エンリック・サラ ナショナル・ジオグラフィー研究員は、海洋が酸性化し温暖化している傾向を指摘し、海洋の保全には、化石燃料の利用の削減、漁業資源の管理、海洋保護区の拡充が重要であると指摘した。海洋保護区の設定により海洋生物は6倍に増え、そこから泳ぎだす魚が周辺海域での漁獲拡大に繋がる(しみ出し効果)と述べ、底引き網は海洋生物が貯留する炭素を排出することに繋がることから、そうした漁法を制限するとともに、海洋の30%を海洋保護区とする目標設定を実現すべきと発言しました。

イザベラ・ロビン スウェーデン副首相・環境気候大臣は、健全な海洋なしに私たちの暮らしはないと指摘し、サンゴの白化や水産資源の減少、海洋マイクロプラスチックなどの海洋の危機は海水面上には見えにくいが、モーリシャスの油流出事故やプラスチックゴミを誤飲して死んでいるアホウドリ、タスマニアで大量に陸に打ち上げられたクジラなどから海が危機に直面していることを思い知らされると述べました。2017年スウェーデンとフィジーが共催した国連海洋会議は取り組みに向けた誓約と連携を生み出し、状況を変える役割を果たしました。海洋に悪影響を及ぼす活動を規制し、持続可能な取り組みに誘因を与え、流通における透明性を高め、有害な補助金を廃止し、投資を持続可能な取り組みに向かわせ、科学を推進にそれに基づいて行動することの重要性を強調しました。コロナ禍から経済再生と海洋の持続可能性の実現を同時に実現することが可能で、それに向けた意思決定と決意、大胆さが必要だと指摘しました。ポルトガルとケニアが共催する来年の第2回国連海洋会議でより多くの進捗を報告し合えることに期待を表明しました。

(左から) エンリク・サラ ナショナル・ジオグラフィー 研究員、イザベラ・ロビン スウェーデン副首相、ピーター・トムソン国連事務総長海洋特使。写真

(左から) エンリク・サラ ナショナル・ジオグラフィー 研究員、イザベラ・ロビン スウェーデン副首相、ピーター・トムソン国連事務総長海洋特使。

コロナ禍からの経済再生を海洋や地球環境に配慮した形で進めていくことが重要である点が確認され、同日開かれる生物多様性サミットが有意義に展開され今後の取り組みが更に進展していくよう協力が呼びかけられました。

 

国連ホームページはこちら https://sdgs.un.org/events/biodiversity-oceans-role-24649

(文責:海洋政策研究所 小林正典主任研究員)

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