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【開催報告】小泉環境大臣等が「科学、イノベーションと海洋基盤を通じた経済再生」について熱論(詳細)

2020.09.15
2020年8月26日(水)、笹川平和財団海洋政策研究所、日本財団、エコノミストグループの3者共催による世界海洋サミット・インサイトアワーの一環として、第2回ウェビナー「科学、イノベーションと海洋基盤を通じた経済再生」が、開催されました。

科学、技術、イノベーションは、持続可能な海洋経済を促進にとり重要で新型コロナウィルス感染症(Covid-19)禍の影響を受ける中で、海洋基盤を通じた社会経済的な回復の促進を図る「ブルーリカバリー」を進める上で、重要な役割を果たすと考えられています。海洋の健全性を確保し、持続可能な海洋経済を推進し、海洋の危機という地球規模の課題を克服していくためには、科学、技術、イノベーション、ファイナンスの強化を図ることが重要です。 2021年に開始される「国連持続可能な開発のための海洋科学の10年」も、こうした施策を後押しすることが期待されています。

今回のウェビナーでは、小泉進次郎環境大臣氏が、基調対談に登壇し、日本政府が持続可能な海洋の実現に向け指導的役割を果たすことを強調しました。また、ハイレベルパネル討論では、政府、科学研究、民間セクター、国際機関の幹部が持続可能な海洋の実現とブルーリカバリーの促進に向けた視座について議論しました。
(左)角南篤 笹川平和財団 理事長/海洋政策研究所 所長、(中)小泉進次郎 環境大臣 (右)チャールズ・ゴッダード エコノミスト・アジア太平洋編集主幹写真

(左)角南篤 笹川平和財団 理事長/海洋政策研究所 所長、(中)小泉進次郎 環境大臣 (右)チャールズ・ゴッダード エコノミスト・アジア太平洋編集主幹

具体的には、冒頭に、エコノミストアジア太平洋編集長のチャールズ・ゴダード氏が、世界中の国、企業、人々が新型コロナウィルス感染症の大流行と前例のない経済的な不況による悪影響を受けており、イノベーション、科学技術、ファイナンスといった要素が、ブルーリカバリーを促進し、海洋の健全性を保持しながら持続可能な海洋経済を達成するための重要であると強調しました。

笹川平和財団理事長/海洋政策研究所所長の角南篤氏は、先月、日本の海の日を記念し開催された第1回ウェビナーでは、パラオ共和国のトミー E. レメンゲサウ ジュニア大統領および日本財団の笹川陽平会長の双方が、母なる海が直面している脅威に取り組むためには、そのための社会協働の拡充が重要であると強調したことに触れ、未曽有の社会経済的損失に苛まされる国際社会がコロナ禍を克服し、ブルーリカバリーを実現するために協力していくことが重要であると述べました。同時に、角南氏はモーリシャスの油漏出事故についても言及し、フランス、インド、日本などの支援を受け、モーリシャスの人々が、海洋および沿岸地域の油流出事故からの救済を進め、そうした復旧の取組や再発防止を支援するための国際協力の強化を図っていく必要性を訴えました。最後に角南氏は、今回のウェビナーが持続可能な海を達成し、ブルーリカバリーを促進するための議論の活性化をもたらし、国際的な連携強化に役立つことを希望していると述べました。

基調対談では、小泉進次郎環境大臣氏は、モーリシャスでの原油流出による海洋汚染への大きな懸念を表明し、原油流出の回復に必要な専門家や設備の派遣などの日本政府の支援について言及しました。また、小泉大臣は国外での石炭火力発電所建設への支援の停止を含む、気候変動の緩和に向けた積極的な日本の取組を紹介しました。小泉氏は、2020年9月3日に開催される予定の国連気候変動条約締約国会議のオンライン閣僚級会合にも言及し、パリ合意の効果的な実施のための合意形成と国際協力を推進するために、主導的役割を果たしていく意気込みを述べました。海洋プラスチック問題に関して、小泉大臣は2050年までに海洋プラスチックの追加的な海洋汚染を撲滅することを目的とする大阪ブルーオーシャンビジョンに言及し、そのビジョンは86か国により賛同され、日本政府はこのビジョンをさらに普遍的なグローバルな解決策の提示を図っていく方針であるとも述べました。また、日本政府は、固形廃棄物の管理を改善に向け、行動計画を策定し、モニタリングを促進するための技術や手法を提供することで、ASEAN諸国を支援していく方針であると述べました。

小泉大臣は、ゴダード氏の今年7月のレジ袋有料化を義務付ける日本の法律の影響について質問に対し、7月に買い物客の70%がビニール袋の利用を控えているとの報告に言及しつつ、高校生が企業にプラスチック製のパッケージを減らすように依頼するために9万人の署名を集めたことを紹介するなど、日本におけるプラスチックの利用削減、再利用やリサイクルの推進を図る3R政策の進展に向けた機運の高まりを強調し、経済産業省などの各省庁と連携して、プラスチック削減の具体的施策を展開していくと述べました。

海洋・沿岸地域の10%を保全することを求める愛知生物多様性目標11を達成するための日本の政策についての質問に対しては、小泉大臣は保全のための海洋地域の指定を促進を図る目的で昨年制定された自然保護法の改正について言及し、環境省は小笠原島の海域を海洋保全地域指定を目指す優先対象として対応を検討していると述べました。ポスト愛知目標として、海洋保護区の数値目標を10%から30%に引き上げるべきという提案については、科学に基づいてさらに議論を進め、中国で来年開催される予定の生物多様性条約締約国会議の第15回会議に向け準備を進めていくことの重要性を強調しました。

次にゴダード氏は、聴衆に対し、海洋科学の優先分野についてのアンケートを行いました。その結果、「情報システムやデータの改善」(33.8%)、「海洋リテラシーの促進」(29.4%)、「海洋関連の危険に関する早期警戒システムの統合」(15.7%)、「包括的な海洋マッピング」(13.7%)、「海洋観測」(7%)を重視するとの回答を得ました。
(左) ジェーミー・マクミシェル・フィリップ 海底2030プロジェクト部長 (右) REV Ocean ニーナ・ジェンセン 最高経営責任者写真

(左) ジェーミー・マクミシェル・フィリップ 海底2030プロジェクト部長 (右) REV Ocean ニーナ・ジェンセン 最高経営責任者

続いて、ハイレベルパネル討論では、政府、企業、NGO、国際機関からの6人のパネリストがブルーリカバリーについて意見交換を行いました。日本財団とGEBCO(大洋水深総図)の共同プロジェクトであるSeabed 2030プロジェクトのディレクターを務めるジェイミー・マクマイケル・フィリップス氏は、Seabed 2030プロジェクトの目的は2030年までに全世界の海底をマッピングし、研究、ビジネス、環境保全、経済などのニーズに対応して気候変動や海面上昇、津波の影響等といった研究に役立つ情報を提供することであると説明しました。また同プロジェクトによって世界の海底の5分の1はすでにマッピングされ、2030年までに100%の海域をカバーすることを目指しており、国際協力を促進する必要があると述べました。フィリップス氏は「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」との関連でも、海洋科学の発展を促進するために、海底の情報はベースラインデータとして役立つことを強調しました。

Rev Oceanの最高経営責任者であるニーナ・ジェンセン氏は、海洋問題解決に向け、世界の科学者や海洋愛好家が無償で利用できる最先端の海洋調査船を建造するRev Oceanの計画を紹介しました。コロナ禍の影響により、プロジェクトは遅れているものの、2022年までに船の建造を完了させ、海洋に関する知識の向上に向け、政策決定者や実務家が利用できるようにしたいとの希望を表明しました。現時点で既にRev Oceanには100件以上の研究提案が寄せられており、プラスチック汚染対策、気候変動への取り組み、過剰漁獲の停止という3つの主要な優先事項を考慮して評価していると述べました。海水を濾過しマイクロプラスチックのモニタリングおよび除去を目指すプロジェクトや、藻場の再生により大気中のCO2を吸収するプロジェクト、顔認識スキームのような新技術を使用した漁具で混獲を減らすプロジェクトなどが例として紹介されました。これらは数多くの研究提案の一部で、Rev Oceanは革新的な研究や実験に着手する予定だということです。研究と実験の効果を高めるために、Rev Oceanはパートナーとの協力関係を強化し、ネットワークを拡大して海洋についての知識を深め、持続可能な海洋の実現につながる意思決定と実践をサポートするよう努めると述べました。
(左) イングリッド・ヴァン・ウィース アジア開発銀行ファイナンス・リスク管理担当副総裁 (右) アリオ・ハンゴノ インドネシア海事漁業省海洋空間管理局長写真

(左) イングリッド・ヴァン・ウィース アジア開発銀行ファイナンス・リスク管理担当副総裁 (右) アリオ・ハンゴノ インドネシア海事漁業省海洋空間管理局長

アジア開発銀行(ADB)ファイナンス・リスク管理担当副総裁であるイングリッド・ヴァン・ウィーズ氏は、ブルーリカバリーに関するADBの取り組みの一環として、昨年発表された「健全な海洋と持続可能なブルーエコノミーのための行動計画」を紹介し、持続可能性を実現するために科学技術が促進されることを歓迎すると述べました。ウィーズ氏は、昨年フィジーで開催されたADB年次総会で、ADBの健全な海洋と持続可能なブルーエコノミーのための行動計画と海洋金融イニシアチブを発表したことを強調しました。そして、(1)生態系・資源・沿岸管理(2)汚染防止・都市部と農村部の廃棄物管理(3)インフラ開発、レジリエンス、マングローブの保全の3つのテーマを挙げました。ウィーズ氏はまた、ADBがブルーボンドの市場を開発する予定であると述べました。また、ADBはイノベーションを促進するために政府やNGOと集中的に協力すると述べ、50億米ドルのADBの海洋金融イニシアチブはまだ大海の一滴であると強調しました。彼女は、汚染対策や健全な廃棄物管理を促進するために、民間部門と協力し、さらに3200億米ドルの資金が必要であると述べました。ADBは海洋のステークホルダーとの連携を重視し、長期的なコミットメントのためのパートナーシップを構築すると述べ、リスク軽減、ブルークレジット、資本投資、炭素取引などの革新的なアプローチを促進する必要があると述べました。ウィーズ氏は、最新の情報、科学の進歩、及び科学に基づくモデリングの必要性があることを強調しました。彼女はキリバスを例に、キリバスが約15,000人の人口に対し340万km2の排他的経済水域を持ち、そのEEZを管理してIUUを排除するためにADBは人工衛星の技術を用いた監視を支援することを紹介しました。

アリオ・ハンゴノ インドネシア海事漁業省海洋空間管理局長は、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の取締の戦略についての問いかけに対し、IUU漁業撲滅はインドネシアにとり重要な政策課題であると述べ、コロナ禍においても71隻のIUU漁業漁船を特定し取り締まった実績があることを指摘しました。漁業分野やコロナ禍で脆弱性を示し、IUU漁業は5倍に増加しており、インドネシアはコロナ禍においてIUU漁業を撲滅するために衛星技術などを含めた革新的な捜査体制を調えていく必要があると述べました。IUU漁業捜査のためにあらゆる措置を講じており、拿捕した漁民の体温検査、通信機器によるコミュニケーション、分離移送、14日の隔離、起訴書類の作成などを進める一方、海上保安部隊は、IUU漁船のデータの更新を図り、効果的な監視を行っている点を強調しました。バンゴノ氏は、データの更新や捜査官の訓練や能力構築が重要であることも指摘しました。同時に、バンゴノ氏は気候変動適用も重要な政策課題であると述べ、データ収集活動の強化やマングローブやサンゴ礁区域の回復や保全を進めていく方針であることを指摘しました。
(左) 出雲充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 (右) ラム・ナタラジャン 執行取締役 メインストリーム再生可能な電力 アジア太平洋地域事務所写真

(左) 出雲充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 (右) ラム・ナタラジャン 執行取締役 メインストリーム再生可能な電力 アジア太平洋地域事務所

株式会社ユーグレナ・代表取締役社長である出雲 充氏は、ユーグレナ(ミドリムシ)は藻類の一種で、植物と動物の両方の特徴を持つ単細胞鞭毛微生物で、有機物を豊富に含む淡水や汽水、湿った土壌に生息していることを紹介しました。ユーグレナは動物のように動くことができるが、光合成によって栄養を得ることができ、出雲氏は食品、医薬品、家畜の飼料に最適であると述べました。2000年以降ユーグレナ社は、除菌された培養プールでの大規模培養に成功しており、また同社は持続可能な方法で飲料、粉末、原料、サプリメント用の藻類製品を生産している唯一の企業であると説明しました。2018年、ユーグレナ株式会社は、水産養殖管理協議会(ASC)の認定を申請し、2019年に認証を取得しました。ASCの認証は主に魚種を対象としたもので、藻類の認証基準はまだ明確にする必要があると指摘しました。出雲氏は、保全、海洋、持続可能性について国民の意識を高めていくことが重要であると述べる一方、顧客、政府、ビジネスパートナーに対して、エビデンスに基づいたデータの作成や科学的なコミュニケーションを促進することが重要であると強調しました。出雲氏は、科学が人々のモチベーションを高め、持続可能な海洋のために貢献するという点を指摘しました。

再生可能なエネルギー振興を進める民間企業であるメインストリーム・リニューアブル・パワーのアジア太平洋地域チーフ・エグゼクティブであるラム・ナタラジャン氏は、エネルギー需要が増大しており、風力発電は再生可能エネルギーの有用な供給源であることを強調しました。ナタラジャン氏は、ベトナムは脱炭素化に向けたコミットメントを強力に実行しており、再生可能エネルギーのポテンシャルは20GWに達すると述べました。また、風力発電に関わる15の省庁を調整する、という複雑な課題に取り組んでいる点も説明しました。ナタラジャン氏は風力発電を進めるには地域社会の利害関係者を巻き込むことが不可欠であるという考えを示し、脱炭素化に向けたエネルギー政策の転換を目指す政府のコミットメントをうまく活用し、成功事例を生み出すことが鍵であると述べました。メインストリーム・リニューアブル・パワーは、欧州での15年の経験をアジア太平洋地域に適用したいと考えており、ナタラジャン氏は、現地の地形や社会経済的条件を考慮して、プロジェクトを現地に適応させることが不可欠であると述べました。また、沿岸部の陸地・海域の空間利用計画を推進し、漁業者などの利害関係者と利害を調整していくことが重要であるという考えを示しました。科学は信頼性の高い公開されたものでなければならないと強調し、また、マッピングやモデリングが鍵を握っていると主張し、また、浮体式洋上風力発電への期待を示し、長期的に民間セクターを巻き込む必要性を指摘しました。

ウェビナー全体の議論を通し、ブルーリカバリーを促進し、持続可能な海洋を実現するためには、ステークホルダーと民間セクターの関与、科学、技術、イノベーション、資金の統合、意識改革、コミュニケーション、能力開発が重要であることが強調されました。

(文責:海洋政策研究所 田中元研究員、豊島淳子研究員、渡邉敦主任研究員、黄俊楊研究員、小林正典主任研究員)

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