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【開催報告】ウェビナー「アジア太平洋における海洋を基盤とする力強い経済再生を目指して」を開催しました(詳細)
2020年7月23日(木)、海の日を記念して笹川平和財団、日本財団、エコノミストグループの3者共催によるウェビナー「アジア太平洋における海洋を基盤とする力強い経済再生を目指して」をオンラインで開催しました。このウェビナーは世界海洋サミット・インサイトアワーの一環として、国際的な対話を促進することによってコロナ禍からのアジア太平洋地域の海洋経済の回復に資することを目的として開催されました。
冒頭にエコノミストアジア太平洋編集長のチャールズ・ゴダード氏がウェビナーの趣旨を説明し、ハイレベルの対話を促進することによってブルーエコノミーに立脚した経済回復「ブルーリカバリー」を実現に向けた方途を議論することがセミナーの目的であると述べました。続いて笹川平和財団の角南篤理事長が挨拶し、海洋が直面する様々なリスクに国際社会が取り組みつつ、コロナ禍から経済社会的な回復を図る上でブルーエコノミーを推進していくことの重要性を強調しました。また、ニューノーマルを実現するためには社会変革、イノベーション、協力、パートナーシップが重要であり、国際協力を促進し、人類の英知を結集して海洋の持続可能性を達成すべきであると述べました。
(左)チャールズ・ゴダード エコノミストアジア太平洋編集長、(右)角南篤 笹川平和財団理事長
続いて日本財団の笹川陽平会長が登壇し、世界は、現在のコロナ禍だけでなく、全ての生命を支える母なる海洋の環境が悪化することにより、人類が存続していくに重大な脅威に直面していると述べました。地球温暖化、海洋酸性化、漁業資源の枯渇、そして何百万トンもの海洋プラスチック汚染が私たちの海を脅かしていると指摘し、長期的な視点で海の窮状に取り組む必要性を強調しました。日本財団は、政治、哲学、宗教、民族、国境を越えた活動を行うことにより、創設理念である「みんなが、みんなを支える社会(One World One Family)」に基づき、海洋危機の克服に向け、長い間取り組んできたと述べ、世界中の海の保全を図る取り組みを強化する必要があると述べました。
モデレーターのゴダード氏の問いかけに対し、笹川氏は、多様で複雑な課題に取り組み、具体的な解決策を提供するために全てのセクターにわたって革新的な協働を促進する必要性を強調しました。例えば、海洋部門のデジタル化は、伝統的な物流、漁業、航行の安全、海洋観測、情報通信、海洋安全保障に対し劇的な変化をもたらす可能性があると述べました。笹川氏は、世界各国首脳、産業界のリーダー、そして市民社会は、海洋が直面する様々な脅威に真正面から取り組むための行動をとるべきだと重ねて強調しました。
パラオ共和国のトミー E. レメンゲサウ ジュニア 大統領は、パラオはCOVID-19の感染者の報告はないが、観光が中断したことによりパラオは大きな経済的損失を受けていると述べました。海洋プラスチック汚染や海洋環境の悪化など、海洋が直面している危機に対する取り組みを強化する重要性も強調しました。また、レメンゲサウ大統領は、2015年に制定され、2019年に改正された広域な海洋保護区を設定したパラオの国家海洋聖域法についても言及しました。同法の実施に向けては、笹川会長および日本財団の支援を受けた、沿岸警備隊の海洋監視の能力強化に取り組み、同法実施を促進することができたと述べました。また、レメンゲサウ大統領は、日本の安倍首相がパラオの持続可能なブルーエコノミーを推進するために行っている取り組み(例えば水産業や沿岸生態系の保護のための能力開発といった持続可能でレジリエントな地域社会の構築を目指した取り組み)に対する支援を行ってくれていることに謝意を表明しました。
レメンゲサウ大統領はゴダード氏の問いかけに対し、海洋環境の保全と回復を支援し、海洋環境の改善に向けた可能性が大いにあると述べました。また、そうした分野への投資効果は5倍にもなりうると述べました。同時に、小島嶼国は、そうした可能性を具体的な海洋環境保全を促進する取り組みに具現化していくためには、コロナ禍の下で取り組みを拡充していくための新しい国際連携を必要としていると強調しました。ㇾレメンゲサウ大統領は、パラオは2020年12月にパラオで開催される私たちの海洋会議(Our Ocean Conference)開催のために、関係国や団体と連携し、持続可能な開発目標を達成するための国際パートナーシップの強化を図っていくとの方針を表明しました。また、レメンゲサウ大統領は、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(UNFCCC/COP26)を、気候変動対策を促進する再生可能エネルギーとブルーカーボンの拡充の可能性を具体化させる重要な会議になるとの期待を明らかにしました。
(左) 笹川陽平 日本財団会長、(右) トミー E. レメンゲサウ ジュニア パラオ共和国大統領
アリスジャバナ事務局長は、レメンゲサウ大統領の発言に関連し、アジア太平洋地域は世界の温室効果ガス排出量の50%を排出することから、地域内の海域も影響を受けやすく、対策を実施していく責務があると述べ、アジア太平洋地域、また、小地域での協力を更に強化してく必要があると強調しました。また、ESCAPは東南アジア諸国連合(ASEAN)と協力して、海洋プラスチック、空間利用のマッピング計画について協力していることを紹介しました。科学はイノベーションとデータの収集、共有、応用を促進するために非常に重要であることを強調し、地域における協力を促進するための重要な分野であると指摘しました。アリスジャバナ事務局長は、相互に共通の利益を見出し、連携を発展させていくことが重要であると述べました。
リファインバース株式会社 常務取締役の加志村竜彦氏は、使用済み漁網のリサイクルを進める取組を紹介しました。漁網を含む漁具は海洋プラごみに占める割合が高いことが指摘されています。加志村氏によると、日本で年間900万トンのプラスチック廃棄物が発生しており、台風等の自然災害時等に2~3万トンの廃プラが海に流れ出るということです。加志村氏は、漁網のリサイクルが進むことは海ごみを減らすだけでなく、漁業分野がより持続可能になり説明責任を果たすことに繋がると述べました。イタリアの繊維会社はリサイクルした漁網から衣服や靴を製造していることにも言及しました。リサイクル関連ビジネスは様々な分野で発展してきており、漁網のリサイクルも同様に進展することが予測されている点を強調し、加志村氏は、今までのところ漁網のリサイクルを小規模で実施しているが、今後は漁業従事者やステークホルダーと協働することで現場での連携を進め、新たな雇用機会を創出し、取り組みを広域的に展開したいと意気込みを語りました。
(左) アルミダ・アリスジャバナ 国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)事務局長 (右) 加志村竜彦 リファインバース株式会社常務取締役
ウェビナー中に実施されたアンケート調査では、聴衆の50%がコロナ禍の社会経済的影響を深刻と考えており、46%が中程度と考えていることが明らかになりました。漁業、海事、観光、サービスを含む海洋セクターのブルーリカバリーを促進するためには、多くの人が資金が最も重要な要素であると考え、次いで技術へのアクセス、パートナーシップが重要であると回答しました。
議論の中でモデレーターのゴダード氏は、持続可能な漁業の達成に向けた転換、海洋部門の脱炭素化、持続可能な観光など、ブルーリカバリーの重要な視点を指摘しました。また、海洋環境に関するデータ共有、海洋プラスチックの回収・除去などの分野での地域的・国際的な協力の重要性を強調しました。海洋と海洋資源の保全と持続可能な利用を促進し、ブルーリカバリーを推進ためのパートナーシップの強化を図ることが重要であるとの考えを示し、議論を締めくくりました。