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【開催報告】第2回世界防災フォーラムにおけるセッション開催報告

2019.11.22
発表者の記念写真

発表者の記念写真

笹川平和財団海洋政策研究所は、2019年11月9日から12日に仙台市(仙台国際センター)で開催された第2回世界防災フォーラムにおいて、「海洋リスク低減による沿岸コミュニティのレジリエンス強化」と題したセッションを開催しました。世界防災フォーラムは、スイスの防災ダボス会議と連携し隔年で開催される日本発の国際フォーラムで、今回が2回目の開催でした。セッションは11日の17:30~19:00に開催され、沿岸環境保全学、海岸工学、経済学、社会科学といった様々な専門的観点から日本、フィリピン、インドネシア等を対象に研究をおこなう4名の研究者が集まり、災害に強い沿岸地域の在り方や最近の台風や津波の特徴、防災マップや早期警報システムといったツールの有効性や利用法について報告してもらいました。まず海洋政策研究所の渡邉敦主任研究員より、本セッション開催の趣旨が説明され、その後パネリストによる発表がおこなわれました。各研究者からの報告およびパネル討論、質疑応答の要点は以下の通りです。

広島大学名誉教授・国際エメックスセンター副理事長の松田治氏からは、「沿岸コミュニティの自然再生を促進する生態系を利用した防災・減災(Eco-DRR)の可能性」と題した発表がおこなわれました。高潮や津波といった災害自体のコントロールは難しいが、沿岸部の人間の活動や意識を変えることで人災の部分はコントロールが可能であること、人災を減らす上で沿岸生態系の保全や再生を通した「里海」による地域づくりは重要になること、関西国際空港のように環境に配慮した自然調和型の構造物も検討できることなどが瀬戸内海の事例を中心に紹介されました。

東京工業大学准教授の高木泰士氏からは、近年の海洋ハザードの特徴およびその不確定性について「アジア沿岸域における近年の台風や津波から考えられる新たな課題」と題した話題提供がありました。これまで想定されてこなかった規模、原因で生じる新たな特徴をもった海洋リスクに対して、特徴を理解した上で沿岸地域がどの様に適切な対策を取っていくかが重要になると締めくくられました。

フィリピンのデ・ラ・サール大学准教授のMarlon de Luna Era氏からは、「フィリピンの沿岸域のレジリエンス:課題と好機」と題した発表がありました。フィリピンは台風や火山の頻発地域であり、また非常に長い海岸線を持つため、海洋リスクに晒されることが多いこと、アジアや西欧の高等研究機関が中心に実施中の、アジアの災害に対する復元力を強化するための能力構築(CABARET)プロジェクトについての紹介、アジア地域での多重リスクに対する早期警報のために地域の高等教育機関の役割が大きいことが述べられ、こうした警報に対して地域住民がメッセージをくみ取り、対応するよう決断できるようにする必要がある点が課題として提言されました。

海洋政策研究所の田中元研究員は、「台風19号(Hagibis)を例とした、ハザードマップの有効性と課題」と題した発表をおこないました。Geographic Information System (GIS)を使い、先日の台風19号の際は河川氾濫による浸水予想図の正確性が非常に高かったことや、ハザードマップには情報が制約されている点で問題がある一方で、海洋政策研究所の黄研究員と共同で行っているハザードマップにその他の社会経済情報を組み合わせて津波の際の海洋産業の被害額予測や、復興過程で優先的に回復させるべきセクターを提案するという研究結果などが報告されました。

知見を発表し、積極に意見交換を行った研究者写真

知見を発表し、積極に意見交換を行った研究者(上段左から 海洋政策研究所 渡邉敦主任研究員、広島大学名誉教授・国際エメックスセンター副理事長 松田治氏、東京工業大学准教授 高木泰士氏、下段左から フィリピン デ・ラ・サール大学 講師Marlon de Luna Era氏、海洋政策研究所 田中元研究員)

パネルからの発表後、海洋政策研究所の吉岡渚研究員がモデレーターとなり、4名のパネリストとともに討論がおこなわれました。まずモデレーターよりコンクリート構造物によるグレーインフラと生態系をベースとしたグリーンインフラとの調和的な姿はどんなものかについて質問が投げかけられました。松田氏からは、グレーインフラは過去に環境や生態系の悪化をもたらした例が多く、これからは防災・減災のためにグレーインフラを作る場合にも、例えば関西空港の様に緩傾斜の構造にして生態系も創出できる工夫が必要との回答がなされました。高木氏からは、マングローブ林やサンゴ礁のようなグリーンインフラの防災機能に注目が集まっているが、より定量的な検討を進めることで有効性を明らかにするような実証試験が必要と回答がありました。
パネル討論に参加する研究者たち写真
パネル討論に参加する研究者たち写真
パネル討論に参加する研究者たち写真

続いてモデレーターから、ハザードマップや早期警報システムを有効に活かすためにどうした対策が必要か質問されました。Era氏からは、早期警報システムに関して国が発する情報が、本当に災害に晒される地域住民に正しく伝わり理解されているか、きちんと評価することが必要であると回答がありました。田中研究員からは、ハザードマップはシンプルで分かりやすい必要があるが、一方でより動的で時間的な情報を含む必要性があると回答がされました。さらにモデレーターから、災害から迅速に復興するために、どんな事前の備えが必要か質問されました。田中研究員は、災害による被害額を事前に想定し、優先的に復興するセクターを特定しておくなどの準備が有効であると意見が述べられました。

また災害への脆弱性を改善するために、コミュニティの参画を上げるためにどうした点が必要か、モデレーターから質問が投げかけられました。松田氏からは、海への関心を高めるリテラシーの改善がコミュニティの参画を挙げることに繋がるのではないかと意見が述べられました。また田中研究員からは、年齢やジェンダーに配慮したハザードマップや、住民参加型のハザードマップ作製が重要であると指摘されました。

最後に、パネルから、地方固有の知に基づき長期間続く新たなEco-DRRが生まれることへの期待や、近年の災害の事例を詳しく調べ不確実性を減らしていくことの重要性、都市域と非都市域の沿岸地域におけるレジリエンスの共通点・相違点を研究する必要性、ハザードマップの知名度を上げ、地域のマルチアクター間の対話のツールとすることへの期待が述べられ、セッションが締めくくられました。

(海洋政策研究部 渡邉敦・田中元)

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