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【開催報告】気候変動に関する政府間パネル(IPCC)海洋・雪氷圏特別報告書(SROCC)公表記念シンポジウム

2019.10.21

2019年10月15日、笹川平和財団海洋政策研究所は環境省との共催で「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)海洋・雪氷圏特別報告書(SROCC)公表記念シンポジウム」を約180名の参加の下で開催した。

本シンポジウムでは、先月25日にIPCCが公表した「海洋・雪氷圏特別報告書(通称:SROCC)」に含まれる最新の科学的知見と重要なメッセージを国内外に広く発信するため、IPCC第二作業部会共同議長であるハンス=オットー・ポートナー氏を基調講演者として迎え、また、国内外からSROCC主要執筆者(Lead Author) を招き、SROCCの解説を行うとともに、パネルディスカッションにおいてSROCCの特徴や重要なメッセージを踏まえて今後どのようなことを日本に期待するか等について活発な意見交換を行った。

※シンポジウムのプログラム及び各登壇者のプレゼン資料については本ページ下部にてダウンロード可能。



写真1: 基調講演をおこなうポートナーIPCC第2作業部会共同議長

冒頭の開会挨拶は角南篤海洋政策研究所所長が登壇し、当研究所が2015年の第21回締約国会議(COP21)以来気候変動枠組条約の会議に参加し、「気候変動と海洋」に係る諸課題に継続的に取り組んできたことの紹介とともに、今年チリで開催されるCOP25が気候変動問題における海洋・雪氷圏の重要性にとりわけ焦点を当てた「ブルーCOP」となることへの期待を寄せた。

続いて塚田玉樹外務省地球規模課題審議官からは、海洋国家である日本にとってSROCCから得られる知見は多く、それらを政策に生かしていく意思が表明された。また、科学技術分野など日本の強みを生かすことのできる分野で国際社会を牽引し、来年開催される国連海洋会議に向けても、日本に対する期待に応えていくことが重要であると述べた。


写真2: (左) 角南篤海洋政策研究所長、(右) 塚田玉樹外務省地球規模課題審議官

第一部では、基調講演としてポートナー氏がSROCC全体の概要を説明し、つづいて各章の執筆者が詳細な解説を行った。ポートナー氏による講演では、SROCCの最も重要なメッセージについて章を跨いで包括的に紹介された。SROCCによる最新の知見では、南極氷床の寄与分を踏まえて海面上昇が過去の報告書よりも上方修正され、2100年には最悪のシナリオで1.1m上昇することや、温暖化を1.5℃未満に抑えても7割から9割のサンゴが死滅してしまうなど海洋生物が気候変動によって大きな影響を受けることなどが紹介された。温室効果ガスの排出が増大する限り、日本もこうした影響を大きく受けることなどにも言及した一方、早期に野心的で協調的な行動をとることによってそうした影響を最小限に抑えることができるなどを強調した。

第一章(SROCCの構成と背景)の主要執筆者である榎本浩之国立極地研究所副所長からは、海洋・沿岸域や雪氷圏は世界中の人々の暮らしに密接なかかわりを持つことや、地球システム上、海洋・雪氷圏は不可分で重要な役割を果たしていることなど、今回の特別報告書が作成された背景やSROCC全体に渡る重要概念やストーリーライン等について解説があり、SROCCは伝統知(Indigenous knowledge)の重要性と活用について強調されている点などが特徴的であると言及した。

第二章(高山域)の主要執筆者である平林由希子芝浦工業大学土木工学科工教授からは、高山域において氷床・氷河が温暖化によって減少しており、これらの変化が今後も続き河川流出による農業への影響、生態系やツーリズムへの悪影響が現れることなどの解説があった。雪被覆の減少や氷河の後退で、植物など生息域を拡大することもあること、冬に色が変わる動物の捕食確率が増加する事例が紹介され、海洋・雪氷圏においての変化には、ネガティブ、ポジティブな影響の両方が観測されているとの説明があった。

海面上昇についての知見を集めた第四章の主要執筆者、蔡榕碩中国自然資源部第三海洋研究所副主任は、海面水位は上昇しており、その速度は次第に速くなっていると述べ、熱帯サイクロンなどの沿岸域のリスクが海面上昇によって助長されることなどを紹介した。一方で、早めに対処することで、避けられない変化にも対応できるようになるとして、適応策の重要性を強調した。

第五章(海洋、海洋生態系及び依存するコミュニティの変化)の主要執筆者である須賀利雄東北大学理学研究科教授は、冒頭で10月初旬に日本を襲った台風19号に関連して、10月に強い勢力の台風が上陸した一因として日本近海の海水温上昇があることを説明するとともに、温暖化など海洋の変化によってプランクトンや魚などの海洋生物の分布が変化し、それが日本及び世界の漁獲量にも影響を与えていることを紹介した。

極端現象やリスクへの対処についてまとめられた第六章の主要執筆者であるラデン・デウィドゥウィ・スサント メリーランド大学大気海洋科学部主任研究員は、気候変動によって海洋熱波やエルニーニョ・ラニーニャ現象の頻発化が起こることなどを解説し、長期的なモニタリングや早期警報システムの重要性を強調した。


写真3: 第2部パネルディスカッションのパネリストたち

第二部では登壇者によるパネルディスカッションが行われ、白山義久海洋研究開発機構 特任参事/笹川平和財団海洋政策研究所特別研究員がモデレータを務めた。ディスカッションには吉川圭子環境省地球環境局総務課脱炭素イノベーション研究調査室長および前川美湖笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員も加わり、科学と政策の両面からSROCCの知見とそこから浮かび上がる今後の重要な取り組みについての議論が行われた。科学の知見を政策決定者(中央官庁のみならず地方自治体)、さらには市民ひとりひとりに伝え、対策の実施につなげていくための対話や提言の必要性などが執筆者から寄せられる一方、環境省からも社会の関心を高め、地域と協働して取り組みを行っていくことの重要性が述べられた。

また、今回のSROCCが海洋と雪氷圏を統合的に捉えた報告書であり、さらにはIPCCの中の2つの作業部会(物理的変化を担当する第1作業部会と、影響や適応を担当する第2作業部会)が共に執筆を行ったことが大きな特徴であることも強調された。これまでの報告書に比べより読みやすく、メッセージが伝わる工夫がなされている。さらに登壇者からは、日本には技術先進国として今後の世界を牽引していくことへの期待が述べられ、妥協のない排出削減が求められるとの声が寄せられた。前川主任研究員は、笹川平和財団海洋政策研究所が同日に発表した「10の提言」の概要を紹介し、当研究所が政策研究を通じて科学と政策の繋がりを深め知見を社会へと発信していく役割を果たしていくことを改めて強調した。

この1年間で、IPCCは3つの特別報告書(SROCCおよび1.5℃特別報告書、土地関係特別報告書)を発表している。また、2021年以降には第6次評価報告書の発表も予定されている。これらの新たな科学的知見の発表を機に、科学に基づいた政策の立案・実施をさらに着実に進めていくことが極めて重要である。


写真4: パネルディスカッションの様子


笹川平和財団海洋政策研究所は、SROCCを受けての10の提言を発表しました (全文はこちら)。また、提言の発表に際して記者会見を行いました。

当日シンポジウム会場での配布資料および講演資料は下記よりダウンロードできます。

  当日配布資料(プログラム・講演要旨等) (4.0MB)
基調講演資料 ハンス=オットー・ポートナー氏 (7.8MB)
第1部講演資料 榎本浩之氏 (2.5MB)
平林由希子氏 (9.2MB)
蔡榕碩氏 (3.1MB)
須賀利雄氏 (2.5MB)
ラデン・ドゥウィ・スサント氏 (1.2MB)
パネル講演資料 吉川圭子氏 (2.8MB)
前川美湖氏 (0.64MB)
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