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BBNJ政府間会議第2会期(IGC-2)への参加について

2019.04.18

国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全と持続可能な利用に関して国連海洋法条約(UNCLOS)の下での国際的な法的拘束力のある文書作成に関する政府間会議の第2会期(IGC-2)(*)が2019年3月25日から4月5日にかけてニューヨークの国連本部にて開催され、BBNJの新しい法的枠組み(新枠組)に関連する4つの要素(海洋遺伝資源(利益配分の問題を含む)、区域型管理ツール(海洋保護区を含む)、環境影響評価、能力構築・海洋技術移転)について議論が行われました。

昨年(2018年)9月に開催されたIGC-1に続き、今回の会議にも当研究所はオブザーバーとして参加し、会期中にサイドイベントを開催しました(詳細についてはこちら)。IGC-2で議論された内容につきましては、以下をご参照ください。

*Second session of the Intergovernmental Conference (IGC) on an international legally binding instrument under the UN Convention on the Law of the Sea (UNCLOS) on the conservation and sustainable use of marine biological diversity of areas beyond national jurisdiction (BBNJ)

 

BBNJ IGC-2における議論の概要

 

1. BBNJ IGC-2の流れ

BBNJ IGC-2では、議長のレナ・リー氏によりまとめられたノンペーパー(president’s aid to negotiations)をもとに議論が進められた。この議長ペーパーでは要素ごとに様々な選択肢が提示され、会議参加国は各選択肢に対する見解を展開し、初めて条約の具体的な文言に基づく交渉がなされた。前回と同様、全体会合にて参加各国による一般的な見解(general exchange of views)が述べられた後、非公式作業部会(informal working group)において、各要素の議論が行われた。また、非公式作業部会では、4つの要素に共通する分野横断的事項(制度設計、クリアリングハウス、レビュー、用語の定義等)に関しても議論が行われた。その後は全体会合にて、作業部会の総括が各要素のファシリテーターにより口頭で報告され、次回の政府間会議に向けての展望が議長により示された。全体会合における議論および非公式作業部会における各要素の要点は、以下のとおりである。

BBNJ IGC-2における全体総会の様子写真

BBNJ IGC-2における全体総会の様子

2. 全体会合における参加各国による一般的な見解

各国からは様々な見解が述べられたが、ほぼ全ての参加国から求められた事項は、次回の政府間会議までのゼロ・ドラフト(BBNJの新枠組の草案のたたき台)の作成である。また、多くの国から適切な時間配分の必要性が指摘され、4つの要素についてバランスの取れた議論の進行が求められた。さらに、複数の途上国からは、代表団が会議に参加するための費用を拠出する信託基金への謝辞が述べられ、支援の強化が求められた。

 

3. 非公式作業部会

3-1. 海洋遺伝資源(利益配分の問題を含む)

海洋遺伝資源をめぐっては、多くの参加国により新枠組と国連海洋法条約との整合性が求められた。同時に、新枠組が本条約に優先されるべきではないとの指摘がなされた。また、水産資源としての魚類は、本枠組は適用外とする見解が広く支持された。本要素の主な対立軸として、新枠組の地理的・物質的適用範囲が挙げられる。前者では、公海域およびその海底に「人類共同の財産」の概念が適用されるか、あるいは公海域に関しては「公海自由の原則」が適用されるかで、二分化が生じている。また、後者では、現場で採取された遺伝資源のみに新枠組が適用されるか、あるいはそれから生じる標本や遺伝データ等にも適用されるかをめぐり、対立が続いている。利益配分の様態についても、主に先進国と開発途上国の間で大きな意見の相違がある。遺伝資源から得られた利益について、金銭的・非金銭的利益の配分および利益配分の義務化が多くの開発途上国から求められた一方、主に先進国は利益配分の対象を非金銭的利益に限定し、かつ義務的な利益配分に難色を示す国が多かった。また、遺伝資源に「アクセス」した時点で利益配分の義務が発生すると主張した国々に対して、先進国は、アクセスに対する制限を設けるべきではないとの考え方が主流であった。

 

3-2. 区域型管理ツール(海洋保護区を含む)

区域型管理ツールを適用する際には、最良の科学的データや伝統的知識を活用するべきとの主張が多くの参加国により支持された。区域型管理ツールの種類と機能について共通の理解が必要であることが指摘され、異なる区域型管理ツールごとに異なる手続きが必要かについてもさらなる検討が必要とされた。また、「区域」を特定する際に一定の基準を設けるべきとの意見が多くの加盟国から示され、その基準をリスト化する場合、後々、列挙された事項以外も検討できる余地を残しておくべきとされた。区域型管理ツールの「指定」については、その手続きを確立するべきかについて意見が分かれた。区域型管理ツールに関する提案に関しては、締約国が新枠組のもとで設立される事務局に提案書を提出すること、また、その策定には関連機関やステークホルダーと広く議論することが広く支持された。管理ツールの科学的評価に関しては、その必要性が多く支持されたものの、専門家がどのような形で行うか等、さらなる議論が必要とされた。新枠組による管理ツールは、既存の枠組との整合性を図るべきであること、また、新枠組が沿岸国の権利を害してはならないことが広く支持された。沿岸国との諮問に関しては、包括的に行われるべきとされたものの、具体的方法に関しては各国により様々な見解が示された。

 

3-3. 環境影響評価

環境影響評価(EIA)を実施する場合、最良の科学的データや伝統的知識の活用の重要性が多くの参加国により支持された。また、気候変動や海洋酸性化等の累積的な影響の考慮や越境的影響の考慮を求める主張が広く支持された。沿岸国への配慮に対する議論では、これらへの積極的な諮問および通告の必要性が、多くの国により主張された。一方、沿岸国の社会的・経済的・文化的背景に対する考慮に関して意見の相違が見受けられた。新枠組が既存の枠組内で行われている環境影響評価の取組を弱体化させたり混乱をもたらすべきではないとの主張が多く示された。また、影響評価の必要条件は最低限のものとし、地域漁業管理機関等の既存の枠組との整合性がとられるべきとの主張がなされた。影響評価が行われる基準や、影響評価を必要とする活動をめぐっては各国から様々な見解が示され、さらなる議論が必要とされた。EIAの手順について、スクリーニング、スコーピング、意思決定等の主要なものについては新協定に記載することに賛意が集まった。また、影響評価のモニタリングやレビューをめぐっては、それらの必要性や結果の開示が広く支持された一方、詳細な取決めに関してはさらなる議論が必要とされた。

 

3-4. 能力構築・海洋技術移転

能力構築・海洋技術移転を実施するにあたり、途上国、特に小島嶼開発途上国や後発開発途上国の特別な事情に鑑みて行われるべきとの認識が共有された。能力構築・海洋技術移転の目的についてもさらなる検討が必要であることが指摘された。そのうえで、受入国側のニーズに即した援助が行われるべきとの主張が広く支持された。また、ニーズアセスメントの必要性も指摘されたものの、その具体的な内容に関してはさらなる議論が必要とされた。支援の具体的な実施内容に関しては、あくまでも例示的に列挙し、将来の新しいニーズや技術進歩も取り入れながら柔軟に取決めるべきとの主張がなされた。一方、これらの様態に関しては、具体的な内容を取決めるべきとしたうえで、ユネスコ政府間海洋学委員会等のガイドラインを参照するべきとの指摘がなされた。クリアリングハウスについてはその必要性について多くの国が支持したもののその機能についてより詳細な検討が必要であるとされた。資金に関する議論では、能力構築・海洋技術移転は義務的か任意なのか、あるいはその両方によって運用されるべきとの多様な主張がなされた一方、義務的資金に対する難色を示す先進国もあった。

 

3-5. 分野横断的事項

3-5-1. 組織的事項

制度設計に関する議論では締約国会議等、新枠組における意思決定機関の設立が、参加国により支持される傾向にあった。その機能に関しては現在取決めるべきとする国が多数であったものの、詳細な取決めは避けるべきとの主張もあった。また、意思決定機関へ科学的助言を行う科学補助機関の設立が広く支持された。しかし、科学補助機関が新たに設立されるべきか、あるいは既存の機関が活用されるべきかで、各国の意見に違いが見られた。事務局の設立に関しては、その設立自体には多くの支持が示された。しかし、事務局が新たに設立されるべきか、既存の機関が活用されるべきか、あるいは国連海事海洋法課がその役割を果たすべきかで、意見に相違が見られた。また、その機能に関しても現在取決めるべきとする国と、後日取決めるとするべきとする国とで、主張が異なった。

分野横断的事項に関する非公式作業部会における日本政府の発言写真

分野横断的事項に関する非公式作業部会における日本政府の発言

3-5-2. クリアリングハウスメカニズム、レビュー、用語の定義、その他

クリアリングハウスメカニズムに関する議論では、その設立の重要性が多数の参加国により支持された。また、その中心的機能は情報の共有であることが広く支持された。しかし、その具体的な中身を取決めるか否かに関して、各国により異なる見解が示された。また、分野横断的事項を総合的に扱うクリアリングハウスメカニズムを設立するか、あるいは新枠組の要素ごとに設立するべきかをめぐっても異なる主張があった。新枠組の定期的なレビューの必要性も確認された。

用語の定義に関して、国連海洋法条約等ですでに定義されているものや、すでに使用され、広く意味が認識されているものについて、記述の必要性はないとする主張が示された。多くの参加国から、用語の定義付けは新枠組の内容が決定した後に行うべきとする主張がなされた。各要素において特に主張された論点として、区域型管理ツールと海洋保護区の明確な区別の必要性が指摘された。また、海洋遺伝資源や環境影響評価に関連する用語の定義付けに対して、その必要性を疑問視する声もあった。その他、一般原理に関しては重複を避け簡素化すべきであることや、国際協調に関して国際機関との関係性や国連海洋法条約締約国・非締約国の関係性に関してさらなる議論が必要であることが指摘された。

 

4. 今後の交渉に向けて

議長より次回の政府間会議(2019年8月19日~30日開催)に向けて展望が述べられた。議長はゼロ・ドラフトのたたき台を準備して欲しいという多数の国連加盟国の要請に対し、6月25日までに文書を準備し公表すると述べた。また議長は、「ゼロ・ドラフト」という表現を避けたものの、各国の主張を踏まえ、より選択肢の絞られた条約文書に近い文書を作成するとした。次回会議の組織的事項に関して議長は、オブザーバー等を交えたセッションに加え、非公開会合の開催の可能性に言及した。また、必要であれば最大2つまでの会議を同時並行で進行させる可能性を示した。会期中には議長とオブザーバーである非政府組織(NGO)との非公式な対話の場も設けられた。その場で議長から、NGOによるIGCでの発言や交渉者向けの簡潔なペーパーの提供、ワークショップ実施等を通じた情報提供や能力構築への貢献に対して期待が寄せられた。

(海洋政策研究部研究員 藤井巌)

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