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開催報告:国際シンポジウム「海洋における温暖化と酸性化~現状と今後の対応策~」(2016.2.17)

2016.04.07

人間社会が排出する二酸化炭素は、地球温暖化をもたらすとともに、海水中に溶け込むことにより海洋酸性化を進行させます。海洋における温暖化と酸性化は、2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)の成果文書や2015年9月に発表された国連持続可能な開発目標(SDGs)などに取り上げられている喫緊の課題、我が国での対応は必ずしも十分ではありません。世界でこの分野の議論をリードする著名な研究者を招いて開催した本シンポジウムでは、約130名の学識、行政、企業、一般からの参加者を得て、これらの重要課題について、国内外の状況を共有し、我が国で取り組むべき検討課題や対応策について、活発な議論が行われました。

 

日 時:2016年2月17日(水)13:00~17:00

場 所:東京都港区虎ノ門1-15-16 笹川平和財団ビル 11階国際会議場

主 催:笹川平和財団海洋政策研究所

プログラム
開会挨拶 寺島紘士(笹川平和財団海洋政策研究所長)
基調講演1

「国際的な海洋政策の潮流と温暖化・酸性化」 

Biliana Cicin-Sain(米国デラウェア大学海洋政策研究センター 所長)

基調講演2

「海洋酸性化の研究動向と課題」  

Jean-Pierre Gattuso(仏国国立科学センター 研究ディレクター)

講演1

「海洋酸性化問題をいかに主流化するか?」 

白山義久(海洋研究開発機構理事)

講演2

「水産資源への影響と課題」 

宮原正典(水産総合研究センター理事長)

講演3

「危機に立つ海」 

井田徹治(共同通信社編集委員・論説委員)

講演4

「海洋における温暖化と酸性化――予測と情報基盤の必要性――」 

山形俊男(海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長)

パネルディスカッション

「温暖化と酸性化の検討課題と対応策」

白山 義久(モデレータ)、宮原 正典、井田 徹治、山形 俊男、

Biliana Cicin-Sain、Jean-Pierre Gattuso(敬称略)   

講演資料:講演資料.pdf(6.5Mbyte)

 

開催概要:

 

■開会

開会挨拶として、主催者である笹川平和財団海洋政策研究所の寺島紘士所長より、2015年度に海洋の温暖化と酸性化の研究と対応策を重点研究事業として立ち上げたこと、本国際シンポジウムはこの事業の一環であることが紹介された。

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■基調講演1「国際的な海洋政策の潮流と温暖化・酸性化」

Biliana Cicin-Sain氏(米国デラウェア大学海洋政策研究センター所長)

持続可能な海洋の開発等のため世界の国・地域において海洋政策をつくる努力が行われている。また、国連では、SDGsにおいて、その目標 14で 持続可能な開発のための海洋及び海洋資源の保全と持続的利用が取り上げており、「海洋酸性化」をはじめとした海洋の問題への対応が始まっていることが示された。

更に、フランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定について、その達成のために先進国と発展途上国の努力が必要であり、能力開発が重要であること。オーシャンズ・ディにおいて、政治的な海洋のリーダーシップを示すことができたことが紹介された。

■基調講演2「二つの異なる二酸化炭素排出シナリオを通して見た海洋と人間社会の将来――COP21後の状況」

Jean-Pierre Gattuso氏(仏国国立科学センター上級研究ディレクター)

気候変動の課題において、海洋はその影響の吸収源として重要であるとともに、その影響を強く受けるためケアも必要である。海洋からの警告として、サンゴの白化や海洋生物の分布変化(生物相の北上等)が生じており、海洋酸性化はその重要な課題の一つとして近年研究が活発化していることが紹介された。

最新の研究成果として、温暖化の影響について、2℃未満に抑える低排出シナリオと、何もしないシナリオの2つの比較結果と、保護・適応・修復といった対応策について概説された。最後に、パリ協定が示す気温上昇抑制が実現すれば、海洋にとっても良いものになるが、その実現には困難を伴うことが指摘された。

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■講演1「海洋酸性化問題をいかに主流化するか?」

白山 義久 氏(海洋研究開発機構理事)

海洋酸性化の問題がきちんと社会に浸透して、主流化すればCOP21の目標を達成するための非常に有力な武器になること。主流化するためには、その問題をわかりやすく説明する必要があり、既に「起こっていること」も伝える必要があることが示された。

また、気候変化とあいまって、将来、日本沿岸から造礁サンゴの生育に好適な環境が失われてしまう懸念等を踏まえ、COP21の目標を達成したときにはサンゴは守れるといった具合に、うまく対応できるシナリオを出していく必要性が示された。更に、二酸化炭素回収貯蔵(CCS)等を含めた対応策を検討できる仕組みの必要性が強調された。

■講演2「水産資源への影響と課題」

宮原 正典 氏(水産総合研究センター理事長)

水産資源への影響については、多くの研究が行われているが、まだ不確実性が大きいことを前提に、深層への栄養供給が小さくなる課題、冷たい海域の生物多様性が大きくなる課題のほか、黒潮のスピードが速くなることにより、遊泳能力が低い稚魚が沖へと流されてしまう懸念や、マイワシの分布水域が北上するという将来予測の結果が紹介された。最後に、これら課題に対して研究調査の重要性が強調された。

■講演3「危機に立つ海」

井田 徹治 氏(共同通信社編集委員・論説委員)

海の危機として、海洋酸性化、海水温上昇、海洋汚染、漁業資源の減少等があるが、森林破壊などと比べて海の変化を実感する機会は少なく、これらは人間の目に見えにくい。更に、気候変動という長期的な課題に対して、社会に重要性を伝えることは容易ではないことが指摘され、国として長期目標を掲げることが重要であり、そこへ科学者がインプットしていくというような議論の必要性が強調された。

 それを国際社会がやろうとしたのがパリ協定であり、国際社会が掲げた長期目標の大切さをメディアとして伝えていくべきという認識が示された。

■講演4「海洋における温暖化と酸性化――予測と情報基盤の必要性――」

山形 俊男 氏(海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長)

今世紀末に、海洋酸性化がこのまま進むと、世界の経済損失は、100兆円に及ぶという試算等、海洋の温暖化と酸性化に係る課題が紹介された。その実態把握のため、宇宙からの衛星観測と現場の海洋観測の連携や、それを時間的・空間的に統合するコンピューターシミュレーションによる予測の重要性が示された。更に、アジア太平洋地域の海洋の危機監視にも貢献する、海洋環境情報を発信する情報基盤の必要性が強調された。

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■パネルディスカッション「温暖化と酸性化の検討課題と対応策」

各パネリストの講演を踏まえて、白山氏をモデレーターとするパネルディスカッションが行われた。

Jean-Pierre Gattuso氏からの、日本はこれら海洋の課題に対して最前線に立っており、世界とのパートナーシップへの期待が示されたことを皮切りに、対応策や情報発信、海洋政策研究所への期待について議論が展開された。

対応策については、CCSのほか海洋再生可能エネルギーの活用について、情報発信として、海外の情報に触れる際の言語の壁や簡単に入手できる基礎データの公開が少ないという問題提起のほか、食に繋がるメッセージ発信や科学者からの情報発信の重要性が示された。海洋政策研究所への期待として、教育・人材育成などが挙げられた。最後に、「ちりも積もれば山となる」という言葉を引用しつつ、海洋政策研究所が中心となってネットワークを作り、山を作っていく必要性がモデレーターより示されて、パネルディスカッションが終了した。

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■閉会

最後に、笹川平和財団海洋政策研究所の寺島紘士所長より、「海洋酸性化の主流化」をキャッチフレーズにして取り組んでいきたいという表明があり、国際シンポジウムが閉会した。 

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