海洋に関する情報発信

【Ocean Newsletter】最新号

第436号(2018.10.05 発行)

スマートフィンプロジェクト ~サーファーによる海洋環境のモニタリング~

[KEYWORDS]IoT/探検型の海洋学/コミュニティ
スマートフィン研究開発主幹、カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリップス海洋研究所研究技術員◆Phil BRESNAHAN

「スマートフィン」は、海洋観測用センサーを搭載したIoT機能を持たせたサーフボードフィンである。
このフィンに差し替えてサーフィンをすれば、各々のサーファーが「ブイ」に変身し、海の環境データを集められる。
科学者が海洋で起きている異変をより精緻に理解するためにはより多くのデータが必要であるが、海の仲間たちが集めた膨大なデータの活用を科学研究の世界に広めていきたい。

The Tech テクノロジー

最新テクノロジーの世界で、自動運転や人工知能(AI)などと並んでもっとも関心が集まっている話題は、IoT(モノのインターネット)であると言って間違いなかろう。IoTは今や、スマートシティー、農業ハイテク、産業用監視装置をはじめとして、多くの分野で利用されている。しかし海洋学の分野となると、現在の無線データ送信能力では、広大な海の隅々まではデータが届かないため、その技術は十分には活用されていない。
スマートフィンプロジェクトはこの問題を解決することによって、海洋学と環境保全にとって互恵的になることをめざしている。「スマートフィン」は、海洋モニタリング用センサーを搭載したIoT機能を持たせたサーフボードフィンである。標準的なサーフボードには、フィンを差し込む溝がついていて、フィンを交換できるようになっている。スマートフィンの考え方は単純で、今のフィンを外してスマートフィンに差し替えてスイッチをオンにし波に乗り出せば、各々のサーファーが環境データを収集する「ブイ」に変身するのである。スマートフィンは現時点では、振動、温度、GPSの各センサーからのデータが内蔵のSDカードに記録され、一回の波乗り毎にこれらのデータがクラウドに送られ、サーファーや海洋研究者、その他関心をもつ者はだれでもこれにアクセスできる仕組みである。現在、これに加えて海水中の㏗や溶存酸素、クロロフィル、塩分その他が測定できる各種センサーの開発が進められており、今後順次導入される計画である。
今のスマートフィンでも、クラウドソーシングの手法で集めたデータを様々な研究に生かすことができる。とくに、比較的狭い空間で観察可能な現象、たとえば、サンゴの白化、人工衛星観測の精度検証、離岸流と海岸線形状の変動、波の砕け方や海面上昇のサーフポイントへの影響、等の研究に有用と思われる。このほかにもまだ、われわれが何を知るべきかを知らず、あるいは、それを見出す技術をもたないために気付かずにいる情報がそこに隠されていると思うと、胸が躍る思いがする。
海洋学は、少なくとも他の科学研究分野と同様に、探検から始まった。最初の海洋学データは、交易ルートを拡大したい、望遠鏡の視界を超えたところに何があるのか知りたい、と考えた国が資金を出して行われた航海で集められたものであった。スマートフィンプロジェクトは、「ミニアドベンチャー」を求めて日常的に海に出ていく個人との協働を通じて、探検型の海洋学を復活させる試みとも言える。われわれはすでに英国プリマス海洋研究所や豪州サンシャインコースト大学の科学者など、数多くのサーフィンをする科学者たちと協働し、成果を上げてきた。これらを手はじめに、スマートフィンの活用の場を科学研究の世界にもっと広めていきたい。

■図1
水温・振動・GPSセンサー、ワイヤレス方式による充電、データ送信機能を備えたスマートフィンのプロトタイプ
■図2
2018年7月31日のサンディエゴ沿岸でのスマートフィンの分布

The Community コミュニティ

海洋学や惑星科学の分野では、科学者の間ではすでに確実に知られていても広く一般に伝達することができていない事柄が実に数多くある。海洋酸性化、海水温上昇、サンゴの白化現象、海面上昇、魚の乱獲などは人為的な原因による(あるいは、控え目に言って「人間活動によって悪化した」)こと、さらに、これらが多くの人々に悪影響をもたらすことが知られている。しかし、一般市民がそれに気付いて、これらの影響を大幅に減速させる(あるいは、理想的には停止させる)べく、積極的な行動を取るようには至っていない。科学者が海洋で起きている異変をより精緻に理解するためには、より多くのデータが必要なのは当然であり、たとえば、サンゴ礁の中でも遺伝的要因で白化しやすいのはどこで、物理的要因で白化しやすいのはどこなのか、恒常的な海岸線移動に海面上昇が重なって重大な影響が出るのはどこなのか、こうした問題一つ一つに答えを出すには、より多くのデータが必要である。
科学はそもそも、深く入念な調査を必要とするがゆえに、専門家でない人を寄せ付けないことがある。科学的なテーマを深いところまで伝えるのは、本当に難しい。そこで、いわゆる市民科学(シチズンサイエンス)の究極の目的と同様に、スマートフィンプロジェクトでも、専門家でない人々に科学的なプロセス全体に参加してもらうことで、本質的に重要な科学的テーマに対する理解の底上げをはかるべく努力している。

The Response コミュニティと共に

コミュニティが強く情熱的であるほど、環境に有意義な行動がより促されるし、サーファーのようにエネルギッシュな人々と共に、強く情熱的なコミュニティを作れるはずだと考えている。サーファーは一般に、地球の本来の姿を肌で実感しているからこそ、自然保護への関心が強い。サーファーは、うねりの状態を左右する一日単位の気象パターンに詳しいだけではなく、たとえばアメリカ大陸太平洋沿岸であれば、大型の波のうねりを安定した頻度でもたらす条件となる冬季のエルニーニョ現象が過去数年間のいつ発生したか、また過去数十年間の沿岸開発事業によって海岸線や波の砕け方がどう変わったかも知っている。また、長時間直接に環境とふれあうので、海底地形や季節ごとの気候の微妙な変化を知っている。このように、すでに関わっている人々のグループ(あるいは、より正しく言うと、世界各地で取り組む人々)と協働することで、気候変動に強力に立ち向かう機運を盛り上げることができるとわれわれは確信している。
われわれは、こうしたコミュニティづくりや環境行動が何もしなくても自然に起こるとは考えていないし、サーフィンだけで世界を救うことができるなどとナイーブに考えているわけでない。われわれは、ビーチやバーに出向いてプレゼンテーションを行い、一緒にサーフィンをするなど、意識的な取り組みを行い、また、スマートフィンからのデータの使い勝手を良くするためのデータの統合・ディスプレイをすすめている。われわれは今、さらに多くのデータを集め、われわれの海について知識を深め、この膨大な科学的証拠が物語る地球の変容の過程を社会に伝える仲間を世界中で求めている。この活動の仲間になることを希望し、あるいは、この活動に関してさらに情報を得たいという方はぜひ、われわれのウエブサイト(https://smartfin.org)をご覧いただきたい。 われわれはもっと大きな運動になる必要がある。まだ小さな存在ではあるが、一助となりたい。(了)

  1. 本稿は英語でご寄稿いただいた原文を事務局が翻訳まとめたものです。原文は本財団HP (https://www.spf.org/opri/projects/information/newsletter/backnumber/2018/436_1.html)でご覧いただけます。
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