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【Ocean Newsletter】最新号

第437号(2018.10.20 発行)

大衆魚の資源動向

[KEYWORDS]まぐさ魚/動物プランクトン食性/自然変動
東京大学名誉教授◆渡邊良朗

大量に漁獲されて日常的に食卓に上る大衆魚は、動物プランクトン食性の小型浮魚類である。
大衆魚は、海洋生態系の中でまぐさ(秣)魚と呼ばれるが、まぐさのような植物ではなく肉食性の動物であり、生態系の中で植物プランクトンが固定した太陽エネルギーを100倍に濃縮して生産される。
大衆魚は大きな資源量変動を見せ、変動の大きさはそれぞれの魚種の生態的特性によって異なる。
大きく自然変動する大衆魚の資源管理は重要な課題である。

身近な魚、大衆魚

大量に漁獲されて単価が安く、日常的に食卓に上る魚は大衆魚と呼ばれる。サンマやイワシ、アジ、サバの仲間が代表的な大衆魚だ。サンマは北太平洋に1種のみが生息する。お盆を過ぎる頃から食卓を賑わす典型的な大衆魚である。イワシ類は分類学的にはニシン亜目魚類のことで、ニシン、マイワシ(写真)、カタクチイワシのほか、コノシロ(コハダ)やキビナゴなどを含む。いずれも大衆魚という名にふさわしい。アジの仲間も大量に漁獲される種が多く、マアジやマルアジなどは大衆魚である。しかし、アジ科魚類に含まれるブリやヒラマサなどは大衆魚というより高級魚と言うべきだろう。サバの仲間でも、マサバやゴマサバは大衆魚と言えるが、大型のサバ科魚類であるクロマグロやサワラなどは高級魚である。

代表的な大衆魚マイワシの群泳

大衆魚の生態

大衆魚は海洋の表層を回遊する動物プランクトン食性の魚である。一般的には体長30cm程度より小型であり、海洋生態系の中では小型浮魚類(small pelagic fish)と呼ばれる。豊富な甲殻類プランクトンを餌とすることで、大きな資源量を形成する。それゆえに大量に漁獲される大衆魚なのだ。海洋生態学では、小型浮魚類をまぐさ(秣)魚(forage fish)と呼ぶことがある。牛や馬にとってのまぐさのように、大型の魚類や海鳥、海棲哺乳類が餌として大量に利用する魚という意味である。人間社会の中で大衆魚として重要な小型浮魚類は、海洋生態系の中ではまぐさ魚として、微小な動物プランクトンから大型動物へとエネルギーをつなぐ重要な位置を占めている。
まぐさ魚と呼ばれる小型浮魚類であるが、植物ではなく肉食性の動物だ。小型浮魚類は、陸上生態系で草食動物を餌とするキツネやオオカミと同じ栄養段階にある。栄養段階が1つあがると、生態系の中で存在できる生物量が1/10になるという生態学の一般則に従うと、太陽エネルギーを利用してまぐさが100生産されるところ、海洋生態系では植物プランクトンが100生産され、それを餌とする動物プランクトンはその1/10、まぐさ魚はさらにその1/10しか生産されない。太陽エネルギーを直接利用できるまぐさと比べると、まぐさ魚が生態系内に存在できる量はその1/100しかないのだ。海洋生態系では、太陽エネルギーを利用できるのが微小な植物プランクトンであるために、大型動物である最高位捕食者(top predator)へ太陽エネルギーが到達するまでに多くの栄養段階を必要とする。まぐさ魚は、植物プランクトンが固定した太陽エネルギーを100倍に濃縮して生産される。100gのマイワシ1尾は太陽エネルギー換算で牛肉1kgに相当するのだ。すなわち、大衆魚は安価に手に入る濃縮エネルギーの食材なのである。

変動する資源量

大衆魚の大きな特徴は、資源量が大きく変動することである(図1)。代表的な大衆魚の資源動向を見てみよう。日本の太平洋海域のマイワシは、1985〜88年に資源量が1,700万トンを超えたが、1990年代に激減して2005年には1/200の8.7万トンになった。2010年以降に増加して、2016年には200万トンを超える水準まで回復している。太平洋海域のマサバは1970年代末の450万トンを超える水準から減少して、2001年には15万トンとなった。その後に増加して、近年は200万トンを超えている。この30年間に30倍の幅で資源量が変動した。一方、マアジ太平洋系群は1980年代前半の4万トンの水準から増加して1990年代半ばには15万トンを超えたが、近年は再び4万トン前後に戻っている。サンマは、北太平洋全域に連続的に分布するため、資源量変動の単位としての系群が判然としない。東アジア諸国による公海での漁獲量が増加して、近年は国際資源としての性格を強めている。日本における漁獲量の動向を見ると、1980年代半ばまでは20万トン前後で推移したが、1988年以降30万トンを超えるようになった。しかし、最近は10万トン前後の低水準となって、資源の動向が懸念されている。
大衆魚の中でも資源量変動の幅は魚種によって異なる。マイワシ資源が200倍、マサバ資源が30倍の幅で変動したのに対して、マアジ資源やサンマ資源の変動幅は3〜4倍である。甲殻類プランクトンを主な餌とする点で共通するこれら小型浮魚類の間で、変動様式が異なるのはなぜか。親潮水域の生産力に対する依存度の違いがその要因として大きい。
マイワシやマサバは春に東北沖を北上し、夏には親潮水域で活発に摂餌して資源量を増大させる。親潮水域で春季に起こる爆発的な生物生産を利用して大きな資源量を形成するために、この水域の大きな環境変動の影響を受けるのだ。これに対してマアジ資源は、東シナ海から房総半島沖の黒潮水域を主な生息場としている。環境変動が小さい黒潮水域に生息することが、資源量安定の生態学的基礎だ。サンマは夏に千島列島沿いの親潮水域で甲殻類プランクトンを餌として資源量を増大させる。マイワシやマサバと同様の回遊生態を持つにもかかわらず、漁獲量の変動幅は4倍程度と小さい。その理由はサンマの繁殖生態にある。北太平洋全域に生息するサンマは、きわめて広い海域でほぼ周年にわたって産卵する。時空間的に広い範囲で繁殖することで、仔稚魚期の死亡リスクを分散させているのだ。マイワシやマサバが早春から初夏に黒潮域で集中的に産卵することとは対照的である。

■図1
太平洋海域におけるマイワシ、マサバ、マアジ資源量とサンマ漁獲量の変動(単位:千トン)(平成29年度我が国周辺水域の漁業資源評価『漁業養殖業生産統計年報2016』)

保全と利用のために

生態的特性の違いを基礎とする資源量変動様式のこのような違いは、大衆魚の保全と合理的利用の基礎として重要である。海洋生態系のレジームシフトに伴って大きく自然変動することが大衆魚資源の特性である。好適な環境に恵まれると、親の量が少なくても爆発的に子を増やすことができること、反対に親がたくさんの卵を産み出しても環境が不適な年には子が育たないことが、大きな変動の原因である。最近、「国際水準」の資源管理として、最大持続生産量(MSY)の考え方による安定的な資源利用を目指す方針が取りざたされている。ある量の親からはそれに比例した新たな資源が産み出されるので、親の量を最適な水準に保てば生産量を最大化して安定的に持続できるとするMSYの考え方で、大きな変動を繰り返す大衆魚を保全して利用できるかどうか、十分な吟味が必要である。(了)

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