Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第416号(2017.12.05発行)

初の国連海洋会議とSDG14

[KEYWORDS]海洋会議/持続可能な開発目標(SDGs)/コモンズ
笹川平和財団海洋政策研究所海洋政策チーム長、主任研究員◆前川美湖

初の国連海洋会議が2017年6月、ニューヨークの国連本部において「私たちの海、私たちの未来:持続可能な開発目標14(SDG14)の達成に向けた連携」というテーマで開催された。
当事国・地域から4,000人の代表団が参加した今回の会議において、14項目からなる「行動の要請」が承認され、参加者が海洋と人類の現在・未来に直面する課題について共有と行動の確認を行ったことは大きな成果である。
SDG14達成に向けて各国・地域そして日本の行動が期待される。

海洋に関わる2人の女性について

海洋の世界で中心的な役割を果たした2人の女性について書きたい。まず、スウェーデン副首相のイサベラ・ロヴィーン議員、そして、故エリザベス・マン・ボルゲーゼ教授である。ロヴィーン副首相は、スウェーデンで2014年から国際協力・気候変動担当大臣を務めており、2017年6月5日~9日に、国連本部(ニューヨーク)において開催された国連海洋会議の共同議長をフィジーのフランク・バイニマラマ首相と立派に務めた方である。この会議開会にあたり、ロヴィーン氏は、自身が政治家になった動機の一つは海洋保全のために働くことであったと熱く語った。さらに「海で起きていることは人々にはなかなか分からない。そして、人々は実感が湧かないことに対しては行動することができない」と指摘し、メルボルンから大阪へ航海したヨットマン、イヴァン・マクファデン氏(豪)への「海は壊された」というインタビュー記事を引用し、魚や海鳥が減った海が砂漠のようになっていると警鐘を鳴らした。
彼女の言葉はいろんな意味で示唆深い。人々が海を身近に感じることが難しいということの一つの要因として、海洋の約7割は国の主権が及ばない国家管轄権外区域、すなわち公海であることとも関係しているであろう。このことは、巨大なコモンズである海洋を世界の皆でいかに協力し持続的に管理していくか、というガバナンス上の難しさも提起している。

海洋会議開会式での冒頭演説。左からアントニオ・グテーレス国連事務総長、共同議長のフランク・バイニマラマ・フィジー首相、イサベラ・ロヴィーン・スウェーデン副首相
(写真:IISD/Mike Muzurakis)

国連海洋会議の概要

2015年9月の第70会期国連総会において、2030アジェンダが決議され、持続可能な開発目標(SDGs)が採択された。そして、2017年6月5日~9日に、国連本部において、持続可能な開発目標14:海洋および海の資源の保全と持続可能な利用(SDG14)の実施のためのハイレベル国連会議が「私たちの海、私たちの未来:持続可能な開発目標14の達成に向けた連携」というテーマで開催され、国連加盟国193カ国および、クック諸島、ニウエ、パレスチナが招待され、155の国と地域の代表を含む4,000人の代表団が参加し開催された。
この国連海洋会議は、SDG14達成に向けた2030アジェンダのフォローアップ、モニタリング・評価プロセスとして、その成果を持続可能な開発のためのハイレベル政治フォーラム(HLPF)へ報告することを目的として開催された。各国政府代表などが主張を演説する全体会議、SDG14から抽出された7つのテーマに対して議論をするパートナーシップ・ダイアログ、そして150を超えるサイドイベントが並行して行われた。

国連海洋会議で共同議長国フィジーのブラスバンド演奏および伝統的な踊りが披露された
(写真:IISD/Mike Muzurakis)

国連海洋会議の成果

2017年6月4日にニューヨーク・ガバナーズ島で開催されたワールド・オーシャン・フェスティバルでのパレードの様子

最終日の全体会議において、14項目からなる「行動の要請(Call for Action)」が承認され、7つの「パートナーシップ・ダイアログ」の概要が報告され、登録された「自主的コミットメント(Voluntary Commitments)」が1,328に上ることが報告された。今回の国連海洋会議では、海ごみとプラスチック、海洋保護区の設定、ブルーエコノミーの推進、海洋酸性化、違法・無報告・無規制漁業(IUU)の撲滅、小規模漁業、国連海洋法条約の実施、国家管轄権外区域の生物多様性(BBNJ)の保全のための協定締結など広範なテーマについて議論がなされた。その実施に当たっては、科学的調査、研究の推進、多様な連携、小島しょ開発途上国などに対しての人材育成や教育、技術移転などが必要なこと、SDG14の実施状況や海の環境のモニタリングなどが大切であるとの見解が多数発表された。ちなみに笹川平和財団海洋政策研究所は、成果文書に対する事前の意見提出、パートナーシップ・ダイアログでの演説、サイドイベントの共催、自主的コミットメントの登録を行った。印象的だったのは、世界の元首や政府の長、大臣が多数参加し積極的に発言し、パートナーシップ・ダイアログの議長なども務め、大局的かつ専門的な議論をリードしていたことである。また、興味深い報告もあった。ユネスコ政府間海洋学委員会が主催した海洋科学に関するサイドイベントで発表された報告書では、さまざまな科学分野の中でも、特に海洋科学分野では男女比のバランスがよいとのことであった。
国連総会議長のピーター・トムソン氏(フィジー)は、人類と海洋との関わりを考える上で、国連海洋会議を契機に歴史の潮目が変わったと高らかに宣言した。果たしてそうであろうか。「行動の要請」の内容は規定路線の確認であり特段目新しいものはない。「行動の要請」には新しい資金的なコメットメントに関する記載はない。自主的コミットメントには、モニタリングや報告義務もない。SDGsはそもそも法的な拘束力を持たない。しかし、今回の会議の大きな成果と考えられるのは、海洋に関わるさまざまな分野のアクターが一堂に会し、海洋と人類が直面する総合的な課題について対話と意識の共有と行動の確認を行ったことである。国連海洋法条約という国際的な枠組みに加えて、持続可能な開発という政策ツールと目標が加わったことにより、海洋の持続的な管理に向けて弾みがついたことは歓迎すべきことである。
最後に、「海洋の母」といわれるエリザベス・マン・ボルゲーゼ教授の偉業に触れたい。彼女は文豪トーマス・マンの三女で、シカゴ大学で研究助手となり、世界連邦主義の研究を行った。後にこの研究が「人類の共同財産」概念に結びついた。コモンズとしての海洋にいかに向き合っていくかは、まさに人類に課せられた課題である。思想家・法律家のボルゲーゼ、そして、政治家・ロヴィーンの活躍に見られるように、社会を大きく動かすためには、強力なリーダーとビジョンが求められると思う。科学、制度設計、政治の連携も不可欠である。海洋分野で先駆的な役割を果たした2人の女性の仕事ぶりからそんなことを感じている。

今後の展望

次回の国連海洋会議は、2020年にケニアとポルトガルがホストし開催予定である。SDGsの最初の期限である2020年まではあと3年しかない。SDGsが各国の国家戦略や計画に反映され着実に実行されること、資金的手当てや国際的な連携も不可欠であろう。国連海洋会議の場を国際的なプレゼンス強化のために積極的に活用している加盟国も多かった。自主的コミットメントを提出した当財団としても、SDG14実施の一翼を担いつつ、日本のリーダーシップにも期待したい。(了)

  1. "The Ocean is Broken",Oct,18,2013, Newcastle Herald, by G.Ray
    http://www.theherald.com.au/story/1848433/the-ocean-is-broken/

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