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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第401号(2017.04.20 発行)

海洋資源開発に係る環境評価のあり方

[KEYWORDS]環境影響評価/海洋石油・天然ガス開発/海洋環境保全
(一財)エンジニアリング協会石油開発環境安全センター副所長・総務企画部長◆那須 卓

(一財)エンジニアリング協会石油開発環境安全センターは、1991(平成3)年の設立以来、海洋石油・天然ガスの開発に係る保安と環境保全に関する調査研究を行ってきた。
本稿では、海洋資源開発に係る環境評価のあり方を考える上で参考となる、海洋石油・天然ガス開発先行国である米国等における環境影響評価制度の概要と、実際の開発プロジェクトで作成された環境影響評価書等を収集し比較・分析した概要について紹介する。

はじめに

世界の海では、すでに多くの地域で石油や天然ガスが生産されており、近年では、海岸に近い海から遠い海へ、また浅い海から深い海へと開発場所が広がっている。海岸から近くて浅い海での開発方法と、遠くて深い海での開発方法では、海の環境を守るために注意すべきことがらには違いがあるものと考えられる。環境保全の観点からよりよい開発の方法を決めるために、計画されている開発が環境に与える影響を、あらかじめ調査・予測・評価し、計画に反映することを「環境影響評価」と呼ぶ。海で石油が漏れ出すなどの事故が起きてしまうと、魚などの生き物に大きな影響が生じてしまうので、事前に影響を検討することが重要である。ここでは、多くの海洋石油・天然ガス開発を行っている諸外国における環境影響評価について紹介する。

諸外国における環境影響評価

■エンジニアリング協会機関誌『Engineering』
SEC設立25周年を記念し、関係官庁・会員企業による記事を特集している。

(一財)エンジニアリング協会石油開発環境安全センター(SEC)は、1991(平成3)年の設立以来、海での石油・天然ガスの開発にあたっての保安(人が安全に作業するための方法や機械装置のあり方)と、環境保全(海の水、空気やそこに棲む生き物を守ること)に関する調査研究を行ってきた。
平成26年度および平成27年度には、経済産業省から受託した「大水深海底鉱山保安対策調査」のなかで、多くの海洋石油・天然ガス開発を行っている8カ国(米国、英国、ノルウェー、オーストラリア、ブラジル、マレーシア、インドネシア、南アフリカ)の環境影響評価の規制制度(規制機関、法令等)について調査した。その結果、海洋における石油・天然ガス事業に関しては、英国、ノルウェー、オーストラリア、ブラジル、南アフリカの5カ国では、石油・天然ガス開発に特化した環境影響評価の制度により、米国、マレーシア、インドネシアの3カ国では、他の事業も含めた一般的な環境影響評価の制度により、環境影響評価の実施が法的に求められていた。また、審査は、ブラジル以外の国では海洋における石油・天然ガス事業を所管する省庁(わが国では経済産業省)により行われ、ブラジルでは環境規制機関(わが国では環境省)により行われていた。
次に、石油・天然ガスの開発には、大きく分けて4つの段階、探査(海上から石油・天然ガスが存在するかを調査する)、掘削(海底を掘る)、開発・生産(海底の井戸その他の生産設備を作り、石油・天然ガスを生産する)、廃止(生産を終了し設備を撤去する)があるので、これらの段階ごとに、前記8カ国それぞれの国で守るべき法律、規則の内容を調査した。
その結果、探査、掘削、開発・生産、廃止の各事業段階のうち、開発・生産段階ではいずれの国でも環境影響評価が必要だが、その他の探査、掘削、廃止の事業段階で環境影響評価が必要であるかについては、国により異なっていることが分かった。また、環境影響評価を実施する項目、予測・評価の手法等については、大枠の規定はあるものの、具体的な評価項目や項目ごとの予測、評価の手法については規定されていなかった。

■環境影響評価書の分析例(掘削段階)
(濃い色のマスほど多くの事例で取り上げている影響要因と環境要素の組み合せ)

諸外国の環境影響評価事例

今回の調査では初の試みとして、5カ国(米国、英国、ノルウェー、オーストラリア、ブラジル)における実際の開発事業で作成された、縦覧期間が限られている環境影響評価書等43事例を収集・分析した。まず、評価する項目について、個々の環境影響評価書等で記述されている「影響要因(影響の原因となる事業による行為および施設)」を縦軸に、「環境要素(影響を受ける大気、水、生物、社会的事項など)」を横軸とした表により整理した。その表から、探査、掘削、開発・生産、廃止の各事業段階で「どのような項目」を「どのように評価」しているか、環境保全対策として「何を重要視しているか」等の特徴を抽出した。
その結果、環境影響を評価する項目は、事業の内容を正確に把握し発生する「影響要因」を可能な限り特定するとともに、事業実施個所の現況調査により希少な生物などの「環境要素」の存在を正確に把握した上で、それらを組み合わせて選定することが一般的であることが分かった。また、例えば、英国では鳥類が多くの事例で取り上げられ、ブラジルでは絶滅危惧種に指定されているウミガメが取り上げられているなど、それぞれの国の特徴的な環境要素もみることができた。一方、大気や水質等については自国国内基準の遵守と合わせてMARPOL条約(1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書)のような国際的条約遵守のために必要な対策がとられること、漁業への配慮など社会環境影響も考慮されていることが分かった。なお、今回収集し分析した事例からは、選定理由が水深や岸からの距離そのものである評価項目は確認できず、水深や岸からの距離等は、結果的に「影響要因」や「環境要素」に影響を与えるものの、直接的に項目選定に影響するものではないと考えられていることが分かった。

おわりに

日本は海に囲まれており、豊富な漁業資源にも恵まれていることから漁業が盛んに行われており、また海上交通や海洋レジャー等の沿岸利用も盛んであるといった状況から、海洋における石油・天然ガス開発に際し環境面で影響を受ける要素が多様である。
石油開発環境安全センターでは、平成28年度以降も引続き海洋石油・天然ガス開発に係る環境影響評価書の収集調査を継続して実施中であり、今後とも海洋石油・天然ガス開発における環境保全に係る調査をとおして、わが国の海洋環境保全に貢献していきたいと考えている。(了)

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