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開催報告:公開シンポジウム「新技術を活用した『海を活かしたまちづくり』」(2015年12月15日)

2016.02.24

2015年12月15日に笹川平和財団国際会議場において、公開シンポジウム「新技術を活用した『海を活かしたまちづくり』」が以下の通り開催されました。

※ JST-CRESTとの共催シンポジウムの第2弾が3月12日に予定されています。


【開催日】

2015年12月15日(火)13:00〜17:00
【会 場】
笹川平和財団ビル11階・国際会議場(東京都港区虎ノ門1-15-16)
【主 催】
公益財団法人笹川平和財団 海洋政策研究所
【参加者】
200名
公開シンポジウム「新技術を活用した『海を活かしたまちづくり』」
13:00 開会挨拶
13:10-14:40 海を見る新しい技術開発 「海の酸性化とサンゴ礁の未来」茅根 創 (東京大学大学院理学系研究科・教授) 「沿岸の生態を見る新しい遺伝子技術」木暮 一啓(東京大学大気海洋研究所・教授) 「空と海からの藻場の3次元マッピング」小松 輝久(東京大学大気海洋研究所・准教授)
 
14:50-15:50 海を活かしたまちづくり 「若者と共に進める海のまちづくり」小浜市海のまちづくり協議会・西野ひかる副会長   「アマモ再生活動30年の歩み」日生町漁業協同組合・天倉辰己専務理事   「森川海連携の里海づくり」NPO法人黒潮実感センター・神田優センター長
 
15:55-16:55 パネルディスカッション   「新技術を生かした海と共生するまちづくり」
 
16:55

閉会挨拶

 近年、海洋環境の保全、持続的な利用に向けた新たな技術開発が進んでいます。これにより、海中の生物の多様性やその生態を新しい視点から見ることができるようになってきました。社会や経済のニーズに対応した新しい技術創出を目指して実施されている科学技術振興機構(JST)-戦略的創造研究推進事業(CREST)「生物多様性」領域の研究成果と、日本の沿岸地域の現場で総合的な海洋管理に取り組んでいる実務者からの課題や取り組みについての報告が行われ、今後、新技術を活用しどのように海を活かしたまちづくりを進めていくべきか活発な議論が行われました。

P1290202.JPG まず、冒頭にJST-CREST側の研究代表者・小池勲夫・東京大学名誉教授が研究プロジェクトの概要と狙いについて説明し、CREST支援による研究で「海洋」に関する独立した領域研究は本研究が初めてであること、研究成果を社会に還元し貢献することが求められる出口を意識したプロジェクトであることが強調されました。シンポジウム前半は「海を見る新しい技術開発」と題して、CREST側から3件の研究報告が行われました。まず、「海の酸性化とサンゴ礁の未来」について、茅根 創・東京大学大学院理学系研究科教授が発表し、冒頭、檀上にてpH指示薬を用いた実験を行い、酸性の炭酸水に炭酸カルシウムを入れると溶けてしまう様子が示されました。海洋酸性化は2000年代半ばからようやく認識され始めた課題であり、一般的な認知度が低いことも指摘されました。海水はもともとアルカリ性ですが、海水にCO2が溶けることにより海洋は酸性化しつつあり、産業各革命以前の海水の平均的なpHは約8.2(中性はpH=7)であったのに対して、現在では約8.1まで下がってきています。今後、海洋中のCO2濃度がさらに高まりpHが下がるとサンゴ礁や貝類等の石灰殻や骨格の形成が難しくなり、食物連鎖の下位に位置するプランクトンの生存が危機にさらされることが指摘されました。研究チームにより海水のpHとアルカリ度を同時に簡便に連続で測定する装置が開発されていると紹介されました。

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 次に、「沿岸の生態を見る新しい遺伝子技術」と題して、木暮一啓・東京大学大気海洋研究所教授が発表しました。遺伝子(DNA)は生物の設計図で、4種の塩基(ATGC)の配列に生物体の情報が書き込まれています。海水中の微生物の種類および遺伝子構造を調べることにより海域の特徴を明らかにすることを目的に研究を進めています。環境パラメータ測定と微生物試料自動採取のための装置も実用化が目前の段階です。膨大な遺伝子情報を処理するためのバイオインフォーマティクスという学問分野も生まれています。海水中には魚の体表の粘液や糞等がただよっており、これらの「環境DNA」を調べることによりそこに生息する生き物の種類等が分かるという成果も出ています。このような技術を活かし、「遺伝子なまち」づくりを目指してはという提案がありました。陸上の道の駅に遺伝子解析装置を設置し、陸海両方のまちの生き物マップをつくりそれらの健康状態をDNA情報からモニタリングしさらにまちの人々のDNA情報をまとめ健康管理を行うというものです。

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 小松輝久・東京大学大気海洋研究所准教授は、「空と海からの藻場の3次元マッピング」と題して、海洋生物多様性保全の上で大きな役割を果たす藻場管理のための計測装置の開発について紹介しました。さらに事例もまじえ沿岸域における漁業者、行政、研究者間の連携協力の重要性を指摘しました。海水藻場はニシンの産卵場、メバル稚魚の生育場、絶滅危惧種の摂餌場、栄養塩のリサイクル等、重要な生態系サービスを提供しています。世界の藻場の生態系サービスの全球価値は熱帯林に匹敵します。しかし埋め立て等の環境改変により藻場は減少し温暖化による磯焼けも深刻です。1990年に計画された岡山県倉敷市味野湾での人工島建設計画に関連して、藻場分布のデータを関係者に可視化し示すことができました。様々な環境下で、藻場を正確に迅速に観測するために、海ではハイパースペクトルセンサー(高分解能分光計)を、空からは超音波ナローマルチビームセンサーを用いて、さらにこれらの装置を搭載する水陸離発着可能な小型無人機と無人小型艇の3点セットを効果的に利用するための技術開発を産、官、学で行っています。

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 シンポジウム後半には、「海を活かしたまちづくり」という共通テーマのもと、笹川平和財団海洋政策研究所が沿岸域総合管理(ICM)の取り組みを側面から支援している3つのモデルサイトからの報告がありました。まず、小浜市海のまちづくり協議会・西野ひかる副会長から「若者と共に進める海のまちづくり」について発表があり、過去10年間の取り組みが紹介されました。地元水産高校のダイビング部が学校前の海を潜れるようなきれい海にしようと立ち上がり、「海の浄水場」と言われるアマモ場再生活動を呼びかけたことが始まりでした。高校生を支援するために、西野氏が代表を務める市民有志による「アマモサポーターズ」が結成され、森林保全活動との連携や福井県立大学や行政等との協力体制も構築してきました。2014年には、沿岸域の総合的管理を通じて持続可能なまちづくりを推進するための「小浜市海のまちづくり協議会」が発足し、さらに2015年には若者が参画する「海のまちづくり未来会議(準備会)」も立ち上がりました。今までの歩みを振り返り、未だに海の環境が改善されていない、漁獲高や漁業者は増えていない等の課題がある一方、海に係る人財の育成や小浜の海に関する研究成果の構築、関係者が連携する基盤ができつつあることが報告され、「このような成果をいかにまちづくりに生かしていくかが今後のテーマです」、と締めくくられました。

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 次に、「アマモ再生活動30年の歩み」では、日生町漁業協同組合・天倉辰己専務理事が岡山県備前市日生地区での30年に及ぶアマモ再生の取組みについて紹介しました。1985年当時、漁業不振に悩む漁業関係者の中で、壷網(小型定置網)代表者の故・本田和士氏(前組合長)が沿岸部のアマモ場の減少に気づき、壷網漁業者らをまとめアマモ場再生活動を始めました。当初は「金にもならないのに」と他の漁業関係者からの非難もありましたが、粘り強く活動を続け、かき殻を利用し底質改良するなどして、2008年頃から徐々に成果が出てきました。日生藻場造成推進協議会(83名)を組織し活動を継続しています。2010年には猛暑による高水温の影響で、当該海域近傍のかき養殖が大きなダメージを受けたにも関わらず、アマモ場拡大によって海中の溶存酸素を確保できたためか、日生海域のかき養殖がむしろ豊作となったことで活動が活発化しました。様々な組織との連携によりアマモ場は最盛期(590ha)の3分の1まで回復しています。

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 最後に、「森川海連携の里海づくり」と題し、NPO法人黒潮実感センター・神田優センター長により、多様な主体の連携による諸活動について報告がありました。高知県宿毛湾口に位置する柏島は、魚類数では日本一ともいわれる1000種を超える豊かな生物多様性を有しており、同センターでは、これらの豊かな自然環境と人々のくらしをも含めて「島全体を丸ごと博物館(ミュージアム)に」というコンセプトのもと、持続可能な里海づくりを目指しています。例えば、磯焼けによる藻場の衰退から産卵場所を失っているアオリイカの減少を食い止めるため、2001年から地元漁業者やダイバー、森林組合、子どもたち、行政等が、共に間伐材を利用した人工産卵床設置や藻場再生事業に取り組んでいます。15年間の活動の中で、子どもへの環境教育を通じ、子どもを核に、それまでコンフリクトがあった漁業者とダイバーとの協力が生まれ、さらに林業関係者の参加も得られたことが大きかったとのことです。

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 話題提供に引き続いて、「海と共生するまちづくりに活かせる技術とは」というテーマのもと、当財団海洋研究調査部古川恵太部長がモデレーターとなり、発表者6名と小池氏が登壇しパネルディスカッションが行われました。パネリスト間の意見交換では、藻場観測のためのハイテクモニタリング装置を現場にリースして欲しい、気楽に使え操作できる装置の開発も必要、泥のコアを採取し昔のアマモの遺伝子解析も可能性ではないか、アマモ場の成長と堆積によるCO2の吸収効果がブルーカーボンとして認識されつつある等の意見が出されました。更に、技術を活かすために配慮すべきこととして、リモートセンシングの結果を地元へ還元する重要性と状況の共有を可能にする技術開発も必要、東北マリンサイエンス事業では漁業者へのデータ提供を行い社会貢献を強く意識している、モニタリングとセンシングを継続的に海で実施していく必要がある、カキ・フグの養殖で病気発生等の予報的な取組みに期待する、センシング技術普及には結果の判りやすさやインタプリタ―の活用も有効、沿岸域はローカル・グローバルな環境変化の影響を受けており、その解明には長期的なデータの蓄積とその体制作りが不可欠である等の見解が示されました。

P1290419.JPG最後に、小池氏が以下のシンポジウムのまとめとして、「海だけでなく山や森に広がりを持って研究や実務に取り組み、輪を広げていくことが大切です。CRESTではそうした広がりを目指して研究を開始しました。海に関する研究者が孤立するのではなく、今後も皆の共感を得てさらに研究が広がっていくよう努めてまいります。」と発表し、閉会しました。

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