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講演会 「国連海洋法条約にもとづく大陸棚限界延長‐ニュージーランドの申請の経験から‐」 開催報告(2008年7月25日)

2008.04.08

はじめに

1994年に発効した国連海洋法条約の第76条によりますと、大陸縁辺部の外縁が200海里を超えて延びている場合には、大陸棚を延長することができると定められていますが、そのためには国連に設置されている大陸棚限界委員会に科学的データを添えて申請する必要があります。
これまでに、ロシア、ブラジル、オーストラリア、アイルランド、ニュージーランド、ノルウェー、フランス、メキシコ、バルバドス、英国及びインドネシアの 11カ国が申請し、またフランス、アイルランド、スペイン及び英国の四カ国が共同で申請をしています。我が国をはじめとする多くの沿岸国にとって、その審査の動向が注目されています。
ニュージーランド地質・核科学研究所海洋探査部長であるレイ・ウッド氏(Mr. Ray Wood)は、ニュージーランドの大陸棚延長申請プロジェクトに長年参加され、申請準備に携わってこられました。また、ニュージーランド代表団の一員として、大陸棚限界委員会の審査にも出席されております。ウッド氏が日本に立ち寄られる機会を利用して、同氏の大陸棚限界延長に関する豊富な経験についてお話をいただくこととして、標記講演会を開催いたしました。

開催概要

日 時: 平成20年7月25日(金) 14: 30~16:30
場 所: 東京都港区虎ノ門1-15-16 海洋船舶ビル 10階ホール
テーマ: 「国連海洋法条約にもとづく大陸棚限界延長‐ニュージーランドの申請の経験から‐」
講 師: レイ・ウッド氏(ニュージーランド地質・核科学研究所海洋探査部長)
主 催: 海洋政策研究財団
助 成: 日本財団
言 語: 英語(逐次通訳)
参加者: 75名

講演概要

1. ニュージーランドの申請提出までの過程
ニュージーランドは1996年に国連海洋法条約を批准した後すぐに、大陸棚限界委員会(以下、CLCS)に対して200海里を超える大陸棚の延長に必要な科学的データを提出するためのプロジェクトを開始した。まず、既存のデータをレビューするためのデスクトップ・スタディ(机上検討)を行い、申請提出のために、どの海域を重点的に調査する必要があるかを検討した。その結果に基づいて、海域調査を実施し、すべての調査を2002年までに完了した。その後、4年間かけて、調査データの解析を行い、提出するための申請文書を作成した。並行して、オーストラリアとの海洋境界画定の交渉を行った。
このような過程を経て申請文書を完成し、2006年4月にCLCSに申請文書を提出し、同年8月よりCLCSでの審査が開始された。
2008年8月にCLCS全体会合で勧告が採択されれば、プロジェクトの開始から勧告を得られるまでに、12年と半年の期間がかかったことになる。
2. 申請文書の内容
申請文書は、エグゼクティブ・サマリー、主文書、補足データという3つの部分から構成される。このうち、エグゼクティブ・サマリーだけが公開される文書であり、CLCSのウェブサイトに掲載されている。エグゼクティブ・サマリーには、ニュージーランドが延長申請を行った4つの海域についての概要の説明が記載されている。
http://www.un.org/Depts/los/clcs_new/submissions_files/submission_nzl.htm
3. 申請提出に向けてのニュージーランドの準備体制
申請を成功させるために、ニュージーランドは、科学者、外交官、法律家、行政官の間で緊密な協力を行った。
また、大陸棚延長申請に関するニュージーランドの基本的な考え方をより良く理解してもらうために、関連する国際会議に出席して発表したり、小冊子(ブックレット)の出版を行ったりした。
下記のウェブサイトにおいて、ニュージーランドの大陸棚限界延長の考え方を包括的に紹介しており、小冊子もオンラインで見ることができる。
http://www.unclosnz.org.nz/
4. 大陸棚限界延長の規定
大陸棚限界延長について規定している国連海洋法条約第76条は、海底を陸塊(landmass)につながるものと、深海底に属するものに分類している。陸塊の外縁の設定の仕方については、第76条4項が規定している。また、第76条5項は、350海里まで、または、2,500メートル等深線から100海里までのいずれか遠い方を大陸棚の限度であると定めている。実際の海底地形の状況に応じて、どちらのフォーミュラを用いるかは異なってくる。このようにして得られる点を、第76条7項に従って、60海里を超えない長さの直線で結ぶと、最終的な外縁線が得られる。
このように、第76条の考え方はシンプルであるが、実際の海底地形は複雑であり、当てはめるには多くの困難が伴う。ニュージーランドがどのように第76条の規定を実際の海底地形に当てはめていったか、その例を以下に紹介する。
5. ニュージーランドの大陸棚限界延長のための調査
まずデスクトップ・スタディを行い、200海里を超えて延長できる可能性のある海域を4つ(北部、東部、西部、南部)に分け、それぞれの海域で、延長申請のために更なる詳細な調査が必要な箇所を抽出し、350日間の調査計画をたて、実施した。マルチ・チャンネルによる音波探査、マルチビームによる精密海底地形調査、地磁気異常に関するデータ収集、岩石サンプリング等を行った。
特に複雑な海底地形を有している、チャタム・ライズ、ボロン海山及びレゾリューション海嶺の3つの海域については、マルチビームによる精密海底地形調査を行った。その結果、レゾリューション海嶺については、ニュージーランドの大陸縁辺部とつながっていないことが明らかとなった。したがって、必ずしもすべての調査が、大陸棚限界延長という目的にとって、成功した結果をもたらしたわけではない。
6. 第76条の文言の曖昧性
調査が終了した後、データの解析を行い、申請文書を作成して、CLCSに提出したわけだが、その過程で、ニュージーランドは、第76条の規定のあいまいさに直面した。具体的には、1)陸塊がどこまで延びているのかという点、2)反証を用いることの難しさ、3)海洋海嶺、海底海嶺、海底の高まりという概念を用いることの難しさ、4)複雑な海底地形においては、2,500メートル等深線が複数存在するので、どの2,500メートル等深線を用いるのかという点、5)堆積岩の厚さの測り方、といった点である。
日本やニュージーランドのような複雑な海底地形を有する国の場合、これらの点をどのように扱うかが申請に際して難しい問題である。
7. ニュージーランドの海底地形の複雑さ
なぜ、ニュージーランドの周りの海底地形は非常に複雑なのか。それは、ニュージーランドの国土が、プレート境界、すなわち、太平洋プレートとオーストラリアプレートの間にまたがって存在しているからである。以下、具体例を挙げて説明する。
第一の例として、北部海域のスリーキングス海嶺から、南フィジー海盆にかけての海底地形を挙げる。ここには、いくつかの海山があり、大陸斜面脚部(foot of the slope)の候補となる箇所がいくつもある。このような場合にどうやって大陸斜面脚部を決定するかというと、地球物理学的データや音波探査記録など様々なデータを検討し、ニュージーランドの陸塊につながっている地殻と、海洋性地殻との境目を見つけ出し、そこを大陸斜面脚部とした。
第二の例として、東部海域のチャタム・ライズから、ヒクランギ海台を経て、南西太平洋海盆につながっている海底地形を挙げる。ここも、大陸斜面脚部の候補となる箇所が複数あるが、我々はまず地質学的データを用いて、ヒクランギ海台全体が一つの大きな火山帯(igneous zone)であることを示し、次にニュージーランド周辺の海底の成り立ち(テクトニクス・セッティング)を説明して、ヒクランギ海台が約1億年前にニュージーランドに付加したものであるということを示し、ニュージーランドの陸塊につながっていることを証明した。さらに、音波探査データと地磁気異常データも用いて、大陸斜面脚部の決定を行った。
このような説明を、CLCSでの審査において行った。まもなく、CLCSから最終的な勧告が得られる見通しである。
8. まとめ
大陸棚限界延長申請は、200海里を超える自国周辺の海底に対する主権的権利を得るためのものであり、未来に対する投資という意味がある。この投資は、経済的及び社会的な繁栄にとって重要なものである。


配付資料
プレゼンテーション資料 (2.4MB)

*当財団では、競艇交付金による日本財団の助成金を受けて「大陸棚の限界拡張に係る支援事業」を実施しておりますが、本講演会はその一環として開催したものです。

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