電磁気学の基本法則の1っに「フレミングの左手の法則」と呼ばれるものがあります。左手の親指、人差指、中指を互いに直角になるように開き、人差指方向に磁場を加え、中指方向に電流を流すと、親指方向に電磁力(ローレンツ力)が発生します。
超電導電磁推進船の推進原理は、このフレミングの左手の法則を応用したもので、船体に固定した超電導磁石によって海水中に磁場をつくり、この磁場と直角に交わるように海水中に電流を流すと、海水に電磁力が発生し、その反力によって船は進みます。
超電導電磁推進船には、船体まわりの海水中に電磁力を発生させる外部磁場方式と、船体内部を前後方向に貫通するダクト内の海水中に電磁力を発生させる内部磁場方式とがあります。
外部磁場方式は、船体まわりの海水中に磁場をつくるため、近くに鉄製の物があると、これと引きつけ合うといった問題があります。
これに対して内部磁場方式は、磁場の作用する場所を船体内部を通るダクト内に限定でき、磁気シールド等の対策も行うことができます。
超電導電磁推進船「ヤマト-1」では、外部環境への影響等も考慮して、内部磁場方式を採用しています。
スクリュープロペラにかわる推進装置は、海水中に強い磁場をつくるための超電導磁石と、海水中に電流を流すための電極とから構成されています。
超電導磁石は、超電導線材を巻いてつくった超電導コイルと、これを収納して極低温状態に保つための容器(クライオスタット)からできています。
内部磁場方式の超電導電磁推進船では、超電導線材を鞍形に巻き、これを2つ組み合わせたダイポール型の超電導コイルを、液体ヘリウム(-269℃)中に浸漬して超電導状態(電気抵抗がゼロの状態)にし、大電流を流して、ダクト内の海水中に均一で強力な磁場をつくります。
図は実験用大型超電導磁石に用いた超電導コイルと線材の断面を示したものです。
一方、超電導コイルを収納するクライオスタットは、液体ヘリウムが蒸発しやすく、かつ高価であるため、外部からの熱が侵入しないように3重の槽からからできています。槽と槽との間は、熱が伝わらないように高い真空度に保たれ、また中間の槽は液体窒素(-196℃)によって冷却されています。
電磁力で船が進むことを実証するために、超電導電磁推進方式の模型船(長さ2.60m、幅0.94m、排水量420kg)を製作し、1988年7月に筑波研究所の水槽において、世界で初めて自力航行実験に成功しました。
「ヤマト-1」の推進システムは、ダクト内の海水に強力な磁場をつくるための超電導磁石、これを極低温状態(-269℃)に保持するための小型ヘリウム冷凍装置、磁場に直交して電流を流すための発電装置および電極等から構成されています。特に、超電導磁石は、ダクト内の磁場を強くし、かつ外部への漏洩磁場を少なくするために、6組のダイポールコイルを同心円上に配置し、1つのクライオスタットに収める構造となっています。
なお、実験基地には、磁石を極低温に冷却するための大型ヘリウム液化冷凍装置や磁石を励消磁するための励磁電源装置などの支援設備が設けられています。