日本財団助成海の健康診断マスタープランガイドライン財団法人シップ・アンド・オーシャン財団本報告書は、競艇公益資金による日本財団の平成12、13年度助成事業として実施した「閉鎖性海湾の環境モニタリングに関する調査研究」の『海の健康診断』部分を別冊として取りまとめたものです。取りまとめにあたりましては、長崎大学中田英昭教授を委員長とする「閉鎖性海湾の環境モニタリング検討委員会」の方々にご指導を賜りました。目 次マスタープラン 1ガイドライン 11I. 「海の健康診断」の概要 ....................................................................... 131. 構 成.......................................................................................................................................................132. 視 点.......................................................................................................................................................153. 検査体制....................................................................................................................................................17II. 基本情報............................................................................................ 181. 調査趣旨....................................................................................................................................................182. 調査手法....................................................................................................................................................182.1 地理的条件........................................................................................................................................182.2 気象的条件........................................................................................................................................232.3 社会的条件........................................................................................................................................252.4 歴史的条件........................................................................................................................................272.5 管理的条件........................................................................................................................................27III. 一次検査............................................................................................ 281. 【生態系の安定性】を示す項目 ..................................................................................................................301.1 分類群毎の漁獲割合の推移(項目番号:生態-1) .............................................................................311.2 生物の出現状況(項目番号:生態-2)..............................................................................................361.3 藻場・干潟面積の推移(項目番号:生態-3)....................................................................................451.4 海岸線延長の推移(項目番号:生態-4) ..........................................................................................471.5 有害物質(項目番号:生態-5)........................................................................................................501.6 底層水の溶存酸素濃度(項目番号:生態-6)....................................................................................532. 【物質循環の円滑さ】を示す項目 ...............................................................................................................592.1 滞留時間と負荷に関する指標(項目番号:物循-1)..........................................................................602.2 潮位振幅の推移(項目番号:物循-2)..............................................................................................632.3 透明度(項目番号:物循-3) ...........................................................................................................672.4 プランクトンの異常発生の推移(項目番号:物循-4) ......................................................................692.5 底質環境(項目番号:物循-5)........................................................................................................722.6 底層水の溶存酸素濃度(項目番号:物循-6)....................................................................................742.7 底生系魚介類の漁獲推移(項目番号:物循-7) ................................................................................77IV. 二次検査............................................................................................ 791. 再検査 .......................................................................................................................................................791.1 生態系の安定性を示す項目 ................................................................................................................791.2 物質循環の円滑さを示す項目 .............................................................................................................852. 精密検査....................................................................................................................................................882.1 生態系の安定性 .................................................................................................................................882.2 物質循環の円滑さ..............................................................................................................................942.3 その他 ..............................................................................................................................................97V. 総合評価............................................................................................ 98VI. 環境情報の公開と管理........................................................................ 991マスタープラン3『海の健康診断』とは、海洋の様々な営みを簡便な手法で継続的に監視することが可能なモニタリング手法のことである。海は様々な生物を産み育てる大きなゆりかごの役割を果たしている。これらの生物と生物の棲む海域環境とによって生態系は形成されている。一方、陸から流入した栄養分は、流れ等によって運ばれる。流れ等によって運ばれた栄養分は生物に行き渡り、生産や浄化が起こる。このように物質の循環は物理的な作用の他に生物によるところも大きい。海の健康診断は、海の様々な営みを海の健康状態と捉え、生態系と物質循環に着目し、海の健康状態を理解しようとするものである。『海の健康診断』とは海洋の様々な営みとは4海に棲む様々な生物とそれらをとりまく海の環境とによって形成されるまとまりが生態系である。生態系の範囲は様々に捉えることができるが、本マスタープランでは、海湾全体を一つの生態系としてとらえている。本来、生態系を構成する生物の種構成及び生物量は、季節の変化や、大雨等による突発的な気象条件等、自然条件下での生息環境の変動に左右され、ある一定の幅で変動するものである。一定の幅で変動している状態が生態系が安定している状態である。人の活動等によって海域環境が悪化してくると、この変動幅は崩れてくる。この状態が不安定な状態である。生態系が安定していることが海洋の営みにとって重要なことである。陸域から流入する栄養塩を藻場や干潟に代表される浅海域で受け止め、生物による浄化-生産が起こり、海水中では、光合成による基礎生産に始まる、食う、食われるの食物連鎖によって生物資源が生産され、鳥や漁業によって形外への除去が行われている。底層に入った栄養物質は、固着性の強い底生魚介類の餌となるとともにバクテリアなどの微生物によって分解され、底泥からの溶出により再び海水中に循環している。この時、酸素が消費される。このような内部循環の一方で、潮汐などの物理的な作用で外海へ移流・拡散している。この構造の中で、負荷、生産、沈降、分解、拡散等の物質の動きが「物質循環」である。物質循環が滞ることなく円滑であることが海の営みにとって重要なことである。物質循環とは生態系とは5DO消費干 潟植物プランクトン 動物プランクトンDO供給溶出分解機能分解デトリタス捕食底生生物流入負荷緩衝機能除去機能光合成(基礎生産) 藻 場凡 例:物質の流れ:死亡・排泄の流れ○○機能 :海湾の機能:海湾の主な構成要素生物生産機能鉛直循河川植物プランクトン 動物プランクトン溶出DO供給日射日射魚食魚類捕食干 潟プランクトン食魚類光合成(基礎生産)(酸素)凡 例分解:物理環境:物質の流れ○○機能 :海湾の機能:死亡・排泄の流れ底生生物DO 消費藻 場流入負荷緩衝機能生物生産機能除去機能海水交換機能分解機能潮 位漁 獲捕食 捕食(酸素)捕食光合成(基礎生産)(酸素)○○○○ :海湾の主な構成要素生物組成 生息空間 生息環境「生態系の安定性」の視点負荷 海水交換 基礎生産「物質循環の円滑さ」の視点堆積・分解除去潮 流○○○○バクテリアバクテリア デトリタス図Ⅰ-3 沿岸域の基本構造3沿岸域の基本構造7検 査地理気象社会歴史管理環境改善環境修復基本情報健康状態の評価健康の維持健康の管理不安要因排除不安要因改善検 査原因の究明二次検査専門的な調査診断検 査健康状態のチェック一次検査簡便な調査総 合 評 価健康海の健康診断検査結果の公開環境情報の管理公開・管理診断「海の健康診断」は、比較的簡便な一次検査、専門知識と技術を必要とする二次検査で構成し、検査結果と海湾の基本情報とから対象海湾の健康状態を総合評価するものである。簡便な手法とは一次検査のことである。「海の健康診断」の具体的な内容はガイドラインを参照のこと。「海の健康診断」の構成健康診断の手法とは8基本情報とは、海湾の概要を把握する為に必要は情報のことであり、「海の健康診断」を行うに当たっては、まず、海湾の概要を把握することが重要である。また、基本情報は、一次検査及び二次検査の調査計画の立案、総合評価を行う際の判断材料としても活用する。収集する情報は、地理的条件、気象的条件、社会的条件、歴史的条件及び管理的条件である。・地理的条件:海湾の位置、形状、水深、面積、容積・気象的条件:気温、降水量、風、日射量・社会的条件:流入負荷に係る情報・歴史的条件:陸域・海域の利用の変遷、有害物質等による汚染履歴・管理的条件:海湾に隣接する自治体一次検査は簡便な方法により海湾が健康か不健康かを評価する検査である。誰にでも簡単に入手できるデータを使って簡単にできる検査となっている。検査手法は、入手した資料を使って経年変化を整理したり、現場に出て生物の観察や底質の採取を行うものである。検査結果は評価基準に照らし合わせて、調査主体が、健康状態を評価し、不健康であると評価された項目については二次検査で詳細な検討を行うこととなる。海湾の基本情報とは一次検査とは9二次検査は、再検査と精密検査で構成する。再検査とは、一次検査で“不健康”と評価された項目について、詳細な調査を行い、“健康”か“不健康”かの評価を再度行う検査である。精密検査とは、再検査で“不健康”と評価された場合、その原因究明を目的とした検査である。いずれの検査も詳細に行う検査であり、二次検査は専門的な知識と技術を必要とする検査となっている。検査は既存資料及び現場調査から、海湾の詳細な情報を入手することが主体となる。二次検査の診断は、ガイドラインに沿って調査主体が行うこととなる。総合評価は、二次検査の精密検査まで行われた後に、基本情報を踏まえて、海湾の健康状態を最終的に評価するものである。一次検査で不健康と診断され二次検査の精密検査まで行った場合でも、基本情報を考慮することにより健康と評価される可能性もある。総合評価は、非常に高度な判断を必要とすることから、学識者等で構成された検討委員会等によって評価を行うことが望ましい。海湾の健康状態を把握した後は、健康の維持・管理、不安定要素の排除・改善、環境改善及び環境修復といった方策を検討する必要がある。しかし、「海の健康診断」は、対象海湾の健康状態を評価することを目的としており、いわゆる治療方法まで示すものではない。二次検査とは総合評価とは10「海の健康診断」は、人と同様に、定期的に継続的して行うことが大切である。この考え方に基づき、二次検査以外の基本情報の収集及び一次検査は簡便な手法で構成している。しかし、基本情報には土地や海域利用の変遷、汚水処理場の整備状況及び人口分布等、一次検査には、公共用水域の調査結果及び過去数十年分の統計資料等の様々な既存資料の収集及び整理が必要である。また、対象とする海湾によっては複数の自治体の協力が必要となる場合もある。したがって、『海の健康診断』は自治体を中心とした体制を組んで行い、健康状態の評価は専門的な知識を有する学識者に依頼することが望ましい。検査結果は、すべて公開することを原則とし、誰もが海の健康状態が見られる体制を整備する必要がある。また、検査で取得した情報は消失しないようデータベース等により管理する体制を整備する必要がある。継続的に行うには11ガ イ ド ラ イ ンI. 「海の健康診断」の概要1. 構 成「海の健康診断」は基本情報、検査、評価及び情報の公開・管理で構成する。検査は比較的簡易な一次検査、専門的な知識と技術を必要とする二次検査で構成し、総合評価では検査結果に基本情報を踏まえて対象海湾の健康状態を評価するものである。情報の公開・管理は、誰もが海湾の健康状態を判断できるような形で検査結果を公開し、取得した環境情報を統合して管理する仕組みを整備することである。「海の健康診断」は、対象海湾の健康状態(健康か不健康か)のチェック、不健康の場合はその原因を究明、情報の公開・管理を目的としたものであり、健康の維持・管理、不安定要素の排除・改善、環境改善及び環境修復といった方策、いわゆる治療方法までは含んでいない。健康診断は、基本情報、検査、評価及び情報の公開・管理で構成する(図I-1)。基本情報は対象海湾の地理的条件、気象的条件、社会的条件、歴史的条件及び管理的条件といった海湾の基本的な情報について整理し、対象海湾の概要を把握するもので、「海の健康診断」を行う上で最初に行う重要な検査の一つである。整理した情報は、一次検査及び二次検査の調査計画立案、総合評価の判断材料としても利用する。一次検査は、健康か不健康かのチェックを目的とした検査で、比較的簡単に検査及び評価ができるよう構成し、評価基準は厳しいものとした。一次検査の診断で「健康」と評価された場合は、持続的な健康維持及び管理を続けていくことが必要である。一次検査の診断で“不健康”と評価された場合は、二次検査へ進む。二次検査は、再検査と精密検査とで構成する。再検査とは、一次検査で“不健康”と評価された項目について、詳細な検査を行い本当に不健康かどうか確認を行う検査のことである。再検査の結果、“健康”と評価される場合もある。再検査でも“不健康”と評価された場合には、原因究明を目的とした精密検査を行う。いずれの検査も詳細に行う検査であり、二次検査は専門的な知識と技術を必要とする内容となっている。二次検査の診断の結果から、不安要素の排除及び改善の努力をしていく場合と、環境修復及び改善といった外科的な治療を行う場合とに分かれる。総合評価は、二次検査の診断結果に基本情報を踏まえて対象海湾の健康状態を最終的に評価するものである。評価によっては一次検査及び二次検査で不健康と診断された場合でも、検査14結果及び基本情報から健康と評価される可能性もある。総合評価は非常に高度な判断を必要とすることから専門的な知識が必要である。検査結果及び得られた環境情報は、すべて公開することが原則である。公開する情報は、誰もが簡単に入手することができ、入手した情報から海湾の健康状態を判断できるような、わかりやすい形にして提供することが大切である。情報公開に当たっては、インターネットを利用する等、利用しやすさを考慮した体制を構築することが大切である。データの質及び精度を統合して管理する仕組み(データベース等)を構築する際は、取得した時の様々な情報が消失しないように留意することが重要である。そのためにも、関係省庁及び自治体等により第三者機関を設置し、データの統一を促進する必要がある。図 I-1 「海の健康診断」の構成検 査地理気象社会歴史管理環境改善環境修復基本情報健康状態の評価健康の維持健康の管理不安要因排除不安要因改善検 査原因の究明二次検査専門的な調査診断検 査健康状態のチェック一次検査簡便な調査総 合 評 価健康海の健康診断検査結果の公開環境情報の管理公開・管理診断2. 視 点「海の健康診断」は、「生態系の安定性」と「物質循環の円滑さ」の2つの視点で海の健康状態を診断する。“生態系の安定性が大きく、物質循環が円滑であること”が「健康な海」の定義であるという考えに基づき、「海の健康診断」で検査する項目は「生態系の安定性」の指標となる項目と「物質循環の円滑さ」の指標となる項目で構成する。「生態系の安定性」については“生物組成”、“生息空間”及び“生息環境”の3つの視点で評価を行う。「物質循環の円滑さ」については、“負荷”、“海水交換”、“基礎生産”、“堆積・分解”及び“除去”の5つの視点で評価を行う。図 I-2 「海の健康診断」の視点図 I-3には一次検査と二次検査の流れを示した。一次検査では、海の健康状態を把握するための8つの視点を踏まえた13 項目についての検査及び評価を行う。二次検査は、再検査と精密検査で構成する。一次検査で“不健康”と評価された場合に、本当にその項目について対象海湾が不健康であるのか再検査を行い、不健康であると判断された場合は原因究明を目的とした精密検査を行う。「生態系の安定性」の視点生物組成生息空間生息環境「物質循環の円滑さ」の視点負 荷海水交換基礎生産堆積・分解除 去図I-3 海の健康状態を把握する検査項目と評価の流れの模式図一次検査項目 二次検査項目海 の 健 康 診 断生態系の安定性物質循環の円滑さ生物組成生息空間生息環境負荷海水交換基礎生産堆積・分解除去       の推移生態―1 分類群毎の漁獲割合生態―2 生物の出現状況       推移生態―3 藻場・干潟面積の生態―4 海岸線延長の推移生態―5 有害物質      溶存酸素濃度生態―6 底層水の       負荷に関する指標物循―1 滞留時間と物循―2 潮位振幅の推移物循―3 透明度        異常発生物循―4 プランクトンの物循―5 底質環境      溶存酸素濃度物循―6 底層水の         漁獲推移物循―7 底生魚介類の     変動要因の確認変動魚種の特定および生物の定量・定性調査      対する影響割合消失干潟・藻場の海湾全体に        による評価有害物質の基準値・判断値貧酸素水塊の継続期間の調査貧酸素化の面積比率および負荷滞留濃度による再評価湾外地点の潮位振幅の調査海湾の栄養条件の確認        影響度合い発生赤潮の海湾に対する       粒度組成調査底質の化学分析・生物・無酸素水塊の継続期間再検査精密検査生物組成に影響を及ぼす生息空間及び生息環境の調査・生息環境・生息空間及び利用空間・餌環境・漁業被害・生物的要因による異常・人為的改変の履歴・潮位振幅及び平均水面・土砂供給及び浸食・藻類の生息空間・藻類の生息環境・磯焼けや食害・水質、底質、生物体内の有害物質物質循環の円滑さの調査・海水交換能力・透明度の支配要因の特定と 変動要因・赤潮発生と各種要因との関係・基礎生産力・躍層の出現状況・生産層の状況・水中からの沈降量・底層における堆積物分解状況・底生系生物の出現状況・除去量としての漁獲量の評価・その他 ・その他・気象要因・海湾の埋立履歴・底層水の溶存酸素濃度の詳細調査173. 検査体制調査は自治体等を中心とする。評価は学識者等の意見を踏まえる。公開する情報は誰でもが海湾の健康状態を判断できるものでなければならない。「海の健康診断」は人と同様に定期的に継続して行うことが大切である。この考え方に基づき、二次検査以外の基本情報の収集及び一次検査は比較的簡単な内容で構成した。しかし、基本情報には土地や海域利用の変遷、汚水処理場の整備状況及び人口分布等、一次検査には、公共用水域の調査結果及び過去数十年分の統計資料等の様々な既存資料の収集及び整理が必要である。また、対象とする海湾によっては複数の自治体の協力が必要となる場合もある。以上のことから、調査は自治体を中心とした体制を組んで行い、健康状態の評価は専門的な知識を有する学識者等の意見を踏まえて行うことが望ましい。II. 基本情報1. 調査趣旨「海の健康診断」を行うに当たっては、まず、対象とする海湾の基本情報を整理し、概要を把握しておくことが重要であり、健康診断の第一歩である。整理した内容は、海湾の概要把握だけでなく、一次検査及び二次検査の調査計画立案及び総合評価を行う際の判断材料として活用する。収集する基本情報は、地理的条件、気象的条件、社会的条件、歴史的条件及び管理的条件で構成する。・地理的条件:海湾の位置、形状、水深、面積、容積・気象的条件:気温、降水量、日照時間、風向・社会的条件:流入負荷に係る情報(流入負荷、土地利用、汚水処理場整備状況、人口分布)・歴史的条件:陸域の土地利用の変遷、海域の海域利用の変遷及びイベント(油の流出、有害物質の流入)・管理的条件:海湾に隣接する自治体(都道府県、市町村)2. 調査手法2.1 地理的条件人間に例えると、身長と体重にあたる情報で、海湾の基本的な情報について把握し、一次検査及び二次検査の調査計画立案における調査地点の配置、総合評価における海湾環境への影響等の判断材料として活用する。2.1.1 使用データ・海湾の位置、形状、水深、面積、容積及び底質・基質分布が整理されている既存資料・上記資料がない場合は海上保安庁水路部が発行している海図海図の購入先:財団法人日本水路協会〒104-0045 東京都中央区築地5-3-1 水路部庁舎内TEL03-3543-0689 FAX03-3543-01422.1.2 調査手法既存資料もしくは海図を用いて、以下の7項目について整理を行う。・海湾の位置 ・海底地形 ・水深 ・面積 ・容積 ・湾口幅 ・底質分布192.1.3 調査結果の事例東京湾(狭義)、伊勢湾(狭義)、三河湾、大阪湾、周防灘及び有明海(広義)の地理的条件について表II-1に示す。環境省(当時、環境庁)が指定した 88 の閉鎖性海湾の地理的条件及び水質環境の概要について表II-2に示す。表 II-1(1) 海湾の地理的条件(東京湾、伊勢・三河湾)表 II-1(2) 海湾の地理的条件(大阪湾、周防灘)海湾基本情報海湾形状、水深水面積1,000 ㎞2 1,738 ㎞2 604 ㎞2平均水深18.0 m 19.5 m 9.2 m容積17.9 km3 33.9 km3 5.5 km3湾口幅7 km 12 km 7 km東 京 湾(狭義) 伊 勢・三河湾伊勢湾(狭義) 三 河 湾渥美半島伊良湖岬と紀伊半島鳥羽市を結ぶ線以北の海域渥美半島伊良湖岬と知多半島南端を結ぶ線以北の海域三浦半島観音崎と千葉県富津岬を結ぶ線以北の海域海湾基本情報海湾形状、水深水面積1,529 ㎞2 3,805 ㎞2平均水深27.5 m 24.1 m容積41.8 km3 92 km3湾口幅友ヶ島水道 7明石海峡  4kmkm関門海峡 1豊予海峡 12kmkm瀬 戸 内 海大阪湾周防灘友ヶ島水道及び明石海峡に囲まれる海域山口県火ノ山下燈台から福岡県門司崎燈台に至る直線と大分県国東町から山口県上関町に至る直線により囲まれる海域20表 II-1(3) 海湾の地理的条件(有明海)海湾基本情報海湾形状、水深水面積1,700 ㎞2平均水深20.0 m容積34 km3湾口幅5 km有 明 海(広義)早崎瀬戸で区切られる海域。海図上は、湾全体を島原湾、湾奥部を有明海としているが、一般には湾全域を有明海としている21表 II-2 日本の閉鎖性海域(88 海域)の諸元(出典:「日本の閉鎖性海域(88 海域)環境ガイドブック」財団法人エメックスセンター2.2 気象的条件気象は、海水温、降雨による淡水流入量、波浪(風浪)及び水中の光条件等、海域環境と密接な関係にある。ここでは、気象条件のうち気温、降水量、日照時間及び風向について整理し、気象的条件海湾とどのように関係しているのかについて、季節的な傾向を把握する。2.2.1 使用データ・アメダス観測データ作成機関:気象庁入手方法:財団法人 気象業務支援センターへ問い合わせる。財団法人 気象業務支援センター〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-17 東ネンビルTEL. 03-5281-0440 FAX. 03-5281-0445http://www.jmbsc.or.jp使用データ:過去 10 年間の気温、降水量、日照時間及び風向のアメダス観測データ2.2.2 調査手法(1) 気温、降水量、日照時間・年ごとに月別平均気温、月別降水量、月別日照時間を計算する。計算方法は以下のとおりである。月別平均気温 月別降水量 月別日照時間作業1 1日の24 回の観測値を平均し、日平均気温を計算する。1日の24 回の観測地を合計し日降水量を計算する1日の24 回の観測値を合計し、日日射量を計算する。作業2 1ヶ月分の日平均気温を平均し、月平均気温を求める。1ヶ月分の日降水量を合計し、月降水量を求める。1ヶ月分の日日射量を合計し、月日射量を求める。※欠測があった場合の取扱い日別の値に欠測があり、欠測日数が月の日数の20%以下の場合、欠測の日を除いて平均・合計を求める。20%を越える場合はデータとして取り扱わない。・年ごとに求めた月別平均気温、月別降水量、月別日照時間からグラフを作成し、年による変動幅及び季節的な変動傾向等について把握する。(2) 風向・10 年間の月別最多風向及び頻度(%)を求め、風の状況を把握する。求め方は以下のとおりである。・風は、風によって生じる波(風浪)と密接に関係している。24作業1:日別時間別風向から1ヶ月分の風向別に頻度を年ごとに求める。アメダスのデータでは風向は16 方位を数字で表している(01:NNE、2:NE ~15:NNW、16:N)。作業2:10 年分の月別風向別頻度を合計して10 年合計の月別風向別頻度を求める。作業3:10 年合計の月別風向別頻度から最も頻度の多い風向を月別に求め最多風向及び頻度を表にまとめる。頻度は割合(%)としておくと風向の状況が把握しやすい。2.2.3 調査結果の事例事例として、1961~1990 年の東京湾に面した都市の月別気温、月別降水量、最多風向(16 方向)及び頻度を示す。・気温東京湾周辺の都市の気温は、8月に最も高く25~30℃、1、2月に最も低く約5℃である。地域差はみられず、湾奥から湾口までほぼおなじである。・降水量東京湾周辺の都市の降水量は冬季に少なく、梅雨及び台風シーズンに多い。湾口部で多く、湾奥部で少ない傾向がみられる。・日照時間東京湾周辺の都市の日照時間は、月 100~250 時間であり、梅雨及び台風シーズンに短い傾向がみられる。地域差はほとんどみられないものの、夏季に湾口部の方が湾奥部よりも長い傾向がみられる。・風向東京湾周辺の都市の風向春から夏には南から南西方向の海からの風が多く、秋から冬には北から北北西の陸からの風が多く吹く。 出典:気象海象要覧⑬東京湾(改訂版),1994 年,(財)日本気象協会研究所252.3 社会的条件負荷は、光合成による基礎生産に始まる食物連鎖の源であり、物質循環の駆動源である。海の健康状態を把握する上で重要な項目である。ここでは、人間活動によって海域に供給される負荷について、流入負荷量の算定を行うとともに、土地利用、汚水処理場整備状況及び人口分布といった流入負荷に関する情報について経年的に整理する。整理した負荷についての情報は、一次検査の物質循環の円滑さを評価する滞留時間と負荷に関する指標の検討に利用される。また、総合評価における海湾環境への影響等の判断材料として活用する。2.3.1 使用データ・流量年表・公共用水域調査結果(河川)の COD、T-N、T-P・土地利用に関する資料・汚水処理場の整備状況に関する資料・人口分布に関する資料2.3.2 調査手法(1) 流入負荷河川からの流入負荷について、年間総量の経年変化を整理する。流入負荷は、海湾に流入する河川から、比較的規模の大きな河川を抽出し算定する。海湾に流入する厳密な負荷量を算定するには、河川に加えて、下水処理場や工場・事業所の排水をも積算する必要がある。これらのうち一般に公表されているデータは河川流量のみであり、しかも比較的容易に入手できるデータは一級河川に限られてしまう。一級河川の場合は、次式に示すように、一級河川の流量に河川水質濃度を掛け合わせた総和を流入負荷量として算定する。流量は流量年表から月ごとの流量を整理する。水質濃度は公共用水域調査結果から月ごとのCOD、T-N、T-Pの濃度を整理する。流量と水質濃度を掛け合わせて月ごとの流入負荷量を算定し、合計したものを年間流入負荷量とする。(流入負荷量)=å(一級河川流量)´(一級河川水質濃度)一級河川以外の河川の場合は、河川流量及び COD、T-N、T-Pの現地調査を行い、年間流入負荷量を算定する。調査頻度は月ごとが望ましいが、四季調査で算定しても良い。26(2) 土地利用の変遷土地利用に関する資料を収集し、陸域の森林、畜産、宅地及び工業用地等の土地利用の変遷を10 年間隔で整理する。(3) 汚水処理場整備状況汚水処理場の整備状況に関する資料を収集し、整備率及び処理能力について経年的に整理する。(4) 人口分布の変遷河川から流入する負荷は、人間活動によるものが多いことから、人口分布に関する資料に基づき、海湾周辺の人口分布の変遷を整理する。2.3.3 調査結果の事例流入負荷について、例として有明海のデータを整理した。図II-1には、COD、T-N およびT-P の流入負荷量と湾内平均濃度の推移をあわせて表示した。近年、流入負荷量は減少傾向にあるものの、水質濃度は横ばいもしくは微増している傾向がみられる。図 II-1 有明海における流入負荷量と水質濃度の経年変化05010015020025030019701971197219731974197519761977197819791980198119821983198419851986198719881989199019911992199319941995199619971998年負荷量(ton/day)0.00.51.01.52.02.5平均濃度(mg/L)COD負荷量(ton/day)COD平均濃度(mg/L)010203040506070809019701971197219731974197519761977197819791980198119821983198419851986198719881989199019911992199319941995199619971998年負荷量(ton/day)0.00.10.20.30.40.50.60.70.8平均濃度(mg/L)T-N負荷量(ton/day)T-N平均濃度(mg/L)012345678919701971197219731974197519761977197819791980198119821983198419851986198719881989199019911992199319941995199619971998年負荷量(ton/day)0.000.020.040.060.080.10平均濃度(mg/L)T-P負荷量(ton/day)T-P平均濃度(mg/L)2.3.4 注意点流量年表を用いて流入負荷量を算定する場合は、経年的な推移の傾向は把握できるが、流入負荷量が過小評価される場合があるので注意する必要がある。2.4 歴史的条件陸域における土地利用、海域利用及び有害物質等による海域汚染に関する資料を収集し、利用の変遷及び海域汚染の履歴について整理し、総合評価における海湾環境への影響等の判断材料として活用する。2.4.1 使用データ・土地利用に関する資料・農林水産統計年報作成機関:農林水産省統計情報部入手方法:社団法人全国農林統計協会連合会へ注文する。社団法人全国農林統計協会連合会〒153-0064 東京都目黒区下目黒3-9-13TEL03-3495-6761 FAX03-3495-6762使用データ:漁業地区別養殖業別漁獲実績(漁業地区別のデータがない場合がある)・油の流出及び有害物質の流入に関する資料2.4.2 調査手法(1) 土地利用の変遷土地利用の変遷については、社会的条件で整理した内容を利用する。(2) 海域利用の変遷海域利用については、農林水産統計年報に基づき養殖施設の設置数及び収穫量について経年的に整理し、海域環境の変化についての判断材料とする。(3) 有害物質等による汚染履歴船舶事故等による油の流出及び工場排水等からの有害物質の流入について、資料を整理し、海湾における有害物質等の汚染状況を把握する。2.5 管理的条件調査対象とする海湾に隣接する自治体(都道府県及び市町村)、海湾に位置する港湾等の管理者を整理し、対象海湾の利用者を把握するとともに、「海の健康診断」の検査体制を検討するための検討材料とする。III. 一次検査一次検査は、簡便な手法により海湾が健康か不健康かを評価する。検査項目は「生態系の安定性」の指標となる項目と「物質循環の円滑さ」の指標となる項目で構成する。一次検査の検査項目を図III-1に、一次検査項目の概要を表III-1に示す。「生態系の安定性」については“生物組成”、“生息空間”及び“生息環境”の3つの視点から以下の6 つの検査項目で検査を行う。「物質循環の円滑さ」については、“負荷”、“海水交換”、“基礎生産”、“堆積・分解”及び“除去”の5つの視点から7つの検査項目で検査を行う。図 III-1 健康診断項目「生態系の安定性」を示す項目生物組成 分類群毎の漁獲割合の推移生物の出現状況生息空間 藻場・干潟面積の推移海岸線延長の推移有害物質底層水の溶存酸素濃度生息環境「物質循環の円滑さ」を示す項目負 荷海水交換 潮位振幅の推移滞留時間と負荷に関する指標基礎生産堆積・分解底層水の溶存酸素濃度底生系魚介類の漁獲推移透明度プランクトンの異常発生底質環境除 去表III-1 一次検査項目の概要視 点番 号評価項目 調査方法 調査結果の見方 評価方法生物組成 生態-1分類群毎の漁獲割合の推移 農林水産統計年報に基づき最近10 年間の魚種別漁獲量を整理する。最近10 年の平均値と最近3 年間の平均値を整理し、分類群毎の漁獲割合を比較する。分類群は浮魚、底魚、底生生物、貝類、海藻類、海藻養殖とする。漁獲割合の一番大きい分類群の割合の変化に着目する。・最近10 年間の平均値と最近3 年間の平均値とを比較し、漁獲割合の一番大きい分類群の割合が20%以上変化していれば×生態-2生物の出現状況 干潟や岩礁域等の沿岸域を目視及び聞き取り調査を行い、生物の生息をチェックする。良好な環境を好む生物がどの程度生息しているのかに着目する。・生物チェックシートに記載された生物が生息していなかったら×生息空 生態-3藻場・干潟面積の推移 環境省の自然環境保全基礎調査に基づき、藻場及び干潟の面積の推移を整理する。面積についてのデータがない場合は、聞き取り調査を行う。藻場・干潟の面積の変化に着目する。 ・藻場・干潟のそれぞれの面積が20%以上減少していれば×生態-4海岸線延長の推移 環境省の自然環境保全基礎調査に基づき、海岸線の形状(自然・人工)の推移を整理する。海岸線の形状の変化に着目する。 ・人工海岸が20%以上存在していれば×生息環境 生態-5有害物質 公共用水域水質測定結果に基づき健康項目を整理する。生物については、奇形等の異常個体、有害物質が原因で個体数が減少した種の報告例等を整理する。水質基準等と照らし合わせる。異常個体等の報告例の有無に着目する。・最近5年間で(環境)基準値もしくは評価値を上回っていれば×・最近5年間で奇形等異常個体の報告例があれば×・最近5年間で有害物質が原因で個体数が減少もしくは姿を消した種の報告例があれば×生態系の安定性】を示す項目生態-6底層水の溶存酸素濃度 公共用水域水質測定結果及び浅海定線調査に基づき底層の溶存酸素濃度の経年変化を整理する。溶存酸素濃度が3mL/L 以下を貧酸素状態とし、貧酸素状態の頻度に着目する。・貧酸素比率が最大で50%を超えていれば×負荷 物循-1海水交換滞留時間と負荷に関する指標 湾内に流入する単位体積あたりの負荷量と海湾の平均滞留時間との関係を2 次元のグラフ上で整理する。C0 というパラメータで適正な負荷量を判断するとともに、高負荷滞留型・低負荷交換型という海湾の特徴を捉える。・各水質項目のC0 が以下の基準値を越えていれば×・COD 0.2mg/L、T-N 0.2mg/L、T-P 0.02mg/L物循-2潮位振幅の推移 気象庁の潮位表などから検潮所における潮位データを整理する。整理する項目は朔望平均の満潮位と干潮位でその差を持って潮位振幅とする。またそれらの経年変化を整理する。潮位振幅の変化に着目する。 ・潮位振幅の減少が10 年間で5cm 以上であれば×基礎生産 物循-3透明度 公共用水域水質測定結果に基づき透明度の経年変化を整理する。 透明度の変化に着目する。 ・最近10 年間の平均値と最近3 年間の平均値との差が±20cm 以上であれば×物循-4プランクトンの異常発生 既存資料に基づき、赤潮の発生件数の経年変化を整理する。赤潮調査を行っていない場合は、聞き取り調査を行う。赤潮の発生の有無に着目する。 ・赤潮が発生していれば×堆積・分解物循-5底質環境 底質をコアサンプラーや採泥器で採集する。 性状や生物の有無を中心に底質の臭いや色にも着目する。・底質の臭い及び色調に異常があれば×・生物がいなければ×物循-6底層水の溶存酸素濃度 公共用水域水質測定結果及び浅海定線調査に基づき底層の溶存酸素濃度の経年変化を整理する。溶存酸素濃度が0.5mg/L 以下を無酸素状態とし、無酸素状態の頻度に着目する。・無酸素比率が0でなければ×(無酸素水塊(溶存酸素濃度0.5mg/L 以下)が出現していれば×)【物質循環の円滑さ】を示す項目除去 物循-7底生系魚介類の漁獲推移 農林水産統計年報に基づき最近10 年間の底生系魚介類の漁獲量を整理する。整理する底生系魚介類は底魚、底生生物、貝類とする。漁獲量の変化に着目する。 ・最近10 年間の平均漁獲量と最近3 年間の平均漁獲量を比較して、20%以上変化していれば×1. 【生態系の安定性】を示す項目以下には【生態系の安定性】を示すそれぞれの項目について評価・解析方法を示す。さらにデータが存在する項目については、代表6 海湾について具体的な数値を示す。【生態系の安定性】を示す項目は合計 6 項目で評価を行うが、1. 生物組成2. 生息空間3. 生息環境という 3 つの観点から評価項目を選定している。【生態系の安定性】を示す項目の一覧を表III-2に示す。表 III-2 【生態系の安定性】を示す項目の一覧観点 番号 指標項目 調査方法 調査結果の見方生態-1 分類群毎の漁獲割合の推移農林水産統計年報に基づき最近10 年間の魚種別漁獲量を整理する。最近10 年の平均値と最近3年間の平均値を整理し、分類群毎の漁獲割合を比較する。分類群は浮魚、底魚、底生生物、貝類、海藻類、海藻養殖とする。漁獲割合の一番大きい分類群の割合の変化に着目する。生物組成生態-2 生物の出現状況 干潟や岩礁域等の沿岸域を目視及び聞き取り調査を行い、生物の生息をチェックする。良好な環境を好む生物がどの程度生息しているのかに着目する。生態-3 藻場・干潟面積の推移 環境省の自然環境保全基礎調査に基づき、藻場及び干潟の面積の推移を整理する。面積についてのデータがない場合は、聞き取り調査を行う。藻場・干潟の面積の変化に着目する。生息空間生態-4 海岸線延長の推移 環境省の自然環境保全基礎調査に基づき、海岸線の形状(自然・人工)の推移を整理する。海岸線の形状の変化に着目する。生態-5 有害物質 公共用水域水質測定結果に基づき健康項目を整理する。生物については、奇形等の異常個体、有害物質が原因で個体数が減少した種の報告例等を整理する。水質基準等と照らし合わせる。異常個体等の報告例の有無に着目する。生息環境生態-6 底層水の溶存酸素濃度 公共用水域水質測定結果及び浅海定線調査に基づき底層の溶存酸素濃度の経年変化を整理する。溶存酸素濃度が3mL/L 以下を貧酸素状態とし、貧酸素状態の頻度に着目する。1.1 分類群毎の漁獲割合の推移(項目番号:生態-1)1.1.1 調査趣旨漁獲割合は海湾に生息する生物構成の指標となり、分類群(後述)ごとの構成が安定していれば生態系の擾乱が少ないということを意味する。1.1.2 使用データ農林水産統計年報作成機関:農林水産省統計情報部入手方法:社団法人全国農林統計協会連合会へ注文する。社団法人全国農林統計協会連合会〒153-0064 東京都目黒区下目黒3-9-13TEL03-3495-6761 FAX03-3495-6762使用データ:漁業地区別魚種別漁獲量及び養殖業別漁獲量(漁業地区別あるいは魚種別のデータがない場合がある)1.1.3 調査手法農林水産統計に基づき、最近10 年間の魚種別漁獲量を整理する。最近10 年の平均値と最近3 年間の平均値を整理し、分類群毎の漁獲割合を比較する。分類群は浮魚、底魚、底生生物、貝類、海藻類、海藻養殖とする。漁獲対象種を分類する方法は表III-3に示すとおりである。表 III-3 漁獲対象種の分類浮魚 イワシ類、アジ類、サバ類、ブリ類などの回遊性の魚類で遠洋・沖合漁業で漁獲されるマグロ類やカジキ類は除外している。底魚 上記、浮魚を除く魚類で同様に遠洋・沖合漁業で漁獲されるマグロ類やカジキ類は除外している。ヒラメ類やタイ類など。底生生物 エビ類、カニ類、タコ類、イカ類、ウニ類やその他の水産動物。貝類 アワビ類、サザエ類、ハマグリ類、アサリ類海藻類 ワカメ類、テングサ類などの採藻による漁獲海藻養殖 ノリ養殖などの海藻類の養殖一方、構成割合の算定にあたっては、構成要素の推移を認識しやすいように、上記のように分類した分類群をさらに組み合わせて、以下の3 つに分類する。浮遊系 = 浮魚底生系 = 底魚+底生生物+貝類海藻 = 海藻(漁獲)+藻類養殖分類群毎の漁獲割合の推移をみることにより、魚類を中心とした高次の海生生物の生息状況やそれらを取り巻く生態系の安定性を把握することができる。しかしながら、漁獲量はその海32湾の健康状態を反映する一方で、浮魚などの外海からの移入が大きく変化することにより変動する。このような影響を除くために過去10 年間にわたる平均的な漁獲割合を算定しておき、その平均値と調査対象年次の漁獲割合の比較して評価を行うこととする。1.1.4 調査結果の評価手法調査結果の評価に際しては、「分類群別の漁獲割合が大きく変化していないか。」という観点で評価を行うものとする。「海の健康度」の評価基準は以下のよう設定する。最近 10 年間の平均値と最近3 年間の平均値とを比較し、漁獲割合の一番大きい分類群の割合が、20%以上変化していないこと。ここで、分類群のうちイワシ類等のように一般に自然状態で資源量の変動が大きい種を含んでいる浮魚類についても、一次検査では、上記の評価基準を適応し、二次検査の再検査で照査に検討することとする。1.1.5 調査結果の事例分類群毎の漁獲量の推移を図III-2に示す。ここでは、昭和55 年(1980 年)、平成元年(1989年)および平成10 年(1998 年)のおよそ10 年ごとの3 つの年代で算定した。一方、図III-3には漁獲割合の変遷を整理した。算定した年代は分類群別の漁獲量と同年代である。円グラフの大きさは昭和55 年に対する相対的な漁獲量を示す。昭和55 年(1980) 平成元年(1989) 平成 10 年(1998)東京湾合計:109,000 ton/year362021377932663042432972241701000020000300004000050000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖(ton) 合計:89,000 ton/year256581187822382463811902363301000020000300004000050000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖(ton) 合計:70,000 ton/year2552890581443148417091923801000020000300004000050000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖(ton)伊勢湾合計:336,000 ton/year197571291821027733441707458893050000100000150000200000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖(ton)合計:311,000 ton/year162527250661090046206566260717050000100000150000200000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖(ton) 合計:184,000 ton/year6516224605859035909532144472050000100000150000200000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖(ton)大阪湾合計:54,000 ton/year4015910891303373 138 不明01000020000300004000050000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖(ton) 合計:57,000 ton/year42200127132724207 152 不明01000020000300004000050000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖(ton) 合計:33,000 ton/year16116140682675129 67 不明01000020000300004000050000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖(ton)周防灘合計:52,000 ton/year120013360818029353119 不明01000020000300004000050000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖合計:44,000 ton/year106487521117522889437 不明01000020000300004000050000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖合計:23,000 ton/year22496673 6768 63121178不明01000020000300004000050000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖有明海合計:227,000 ton/year4711759 1596392533143106881050000100000150000200000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖合計:198,000 ton/year191130885475341026630138624050000100000150000200000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖合計:180,000 ton/year1345679 583516134163153969050000100000150000200000浮魚底魚底生生物貝類海藻類藻類養殖凡例: 浮魚: 底魚: 底生生物: 貝類: 海藻類: 藻類養殖図 III-2 分類群別漁獲量の変遷昭和55 年(1980) 平成元年(1989) 平成 10 年(1998)東京湾43%33%24%43%28% 29%36%36%28%伊勢湾58%22%20%53%26%21%38%27% 35%大阪湾74%26%73%27%51% 49%周防灘2%98%1% 2%97%85%5%10%有明海47% 53%27%73%85%15%凡例: 浮遊系: 底生系: 海藻図III-3 漁獲割合の変遷1.1.6 注意点まず、海湾に生息する魚類の資源量に関わらず漁業者数の変化などの社会的要因によりデータが影響を受ける点が挙げられる。この点については、漁獲努力等で補正しても正確な見積もりが困難であることから、注意しながらデータを取り扱うこととする。また、対象海湾の空間的なスケールが小さくなると、海湾内の漁業者による水揚げ高が対象海湾内の資源量を反映していない場合も想定される。この場合は、対象海湾で操業している漁業者へ聞き取り調査を行い、対象海湾での漁獲量が総漁獲量占める割合を把握し、対象海湾での漁獲量及び漁獲割合を推定する。1.2 生物の出現状況(項目番号:生態-2)1.2.1 調査趣旨環境に対応して生物が生息していることから、生物の生息の状況や変化から環境の状況や変化を評価できる。さらに、生物の食物連鎖構造はピラミッドで表現でき、低次ほど生物量が多く、高次ほど生物量が少ないピラミッド型が理想であり、安定しているといえる。ここでは、海湾に生息する海洋生物の出現状況を簡単に把握することで、その海湾における比較的低次の食物連鎖構造が安定しているかどうかをチェックする。1.2.2 使用データ対象海湾において現地調査を行い、データを取得する。1.2.3 調査手法(1) 調査対象とする海域環境海湾が保持している磯や干潟といった「場」は、生物にとってその生息を決定付ける重要な要素であり、同じ海湾でも場所によって生息する生物が多種多様である。直立した基質の表面には、潮がごくわずかにかかるだけの潮上帯から、潮が常にかぶっている潮下帯までの、ほんの1~2mほどの高さではあるが、それぞれの環境を好む多様な生物が層状に群集を構成している。また、傾斜のゆるい干潟などでは、同様な環境が水際線まで延々と連続しているが、礫の下や隣接する構造物の陰、地盤が砂か泥かの違いで様々な生物が潜んでいる。このように、環境や基質の違いによって様々な生物が生息しているので、調査をするときはできるだけ多様な環境を調べることが必要である。一般的に、内湾域にみられる基質といえば、1.磯場、2.砂浜3.干潟(泥干潟・砂干潟)、4.人工護岸、5.海底(泥・砂)、6.海草場(アマモ・コアマモ場)、7.リーフ、8.マングローブの8つほどが考えられる。6の海草場(アマモ・コアマモ場)はアマモ・コアマモ場は、多くの魚介類が摂餌、産卵、幼稚魚の育成場として利用しており、アマモ・コアマモが存在するということで、そこに依存する生態系が健全であると判断される。また、7の熱帯・亜熱帯地方の内湾域におけるリーフでは、造礁サンゴやウミトサカなどが群生し、生息する生物も多種多様で、生態系の安定性が非常に高いものであると判断できる。さらにヒルギやオヒルギといった8のマングローブと称される植物が群生する熱帯地方の河口域では、複雑に入り組んだ根の隙間や樹上を生活の場として、海洋生物に限らず、様々な生物が生活している。サンゴ礁域と全く正反対な富栄養環境であるが、この生態系が成立している背景には、リターなどの有機物とそれらを消費するマングローブをはじめとする植物やデトリタス食生物が、絶妙のバランスを保ちながら共存していることの証しでもある。従って、これらの3つの環境が存在すれば、その場の生態系は安定に保たれていると判断できるので、調査は行わない。37調査を行う際には、前に挙げた5つの場(磯場、砂浜、干潟、人工護岸、海底)をできるだけ含むようにすることが望ましい。(2) 調査対象とする生物内湾環境における食物連鎖の中で発生、あるいは生産され、多くの生物の餌となっているものは、1.動・植物プランクトン、2.懸濁物および堆積物中の有機物、3.海藻類および小型の動物の3 つに代表される。これらは内湾で消費されないと、環境に様々な弊害をもたらすものもある。つまり、これらを消費する生物が生息していることで食物連鎖が正常に行われ、内湾の生態系は安定を保つことができる。(A) プランクトンを食べる生物フジツボなどの甲殻類は触手を利用してプランクトンを食べる。アサリなどの二枚貝は、海水をろ過することにより、プランクトンを濾しとって食べる。これらの生物の生息をチェックすることにより、プランクトンを食べる生物がきちんと生息しているかどうかを確かめる。(B) 懸濁物および堆積物中の有機物や、死肉などを食べる生物干潟や海底に生息するゴカイ類は、泥や砂といっしょに有機物を取りこんで、栄養分だけを吸収する。また、フナムシは打ち上げられた魚の死肉や海藻類などを食べて分解する働きをしている。これらの有機物を利用する生物をチェックすることで、分解者としての働きをする生物が生息しているかどうかを確かめる。(C) 海藻(草)類や貝類を食べる生物(および海藻類の生息)ウニ類や巻貝の仲間は、海藻(草)類を主食にしているものが多い。これらの動物の生息をチェックし、海藻(草)類を食べる生物がきちんと生息しているかどうかを確かめる。しかし、ウニ類などによる海藻(草)類の食害により、磯焼け現象が起きていることも考えられるので、海藻(草)類の生息状況もあわせてチェックする。(3) 調査時期生物は水温が高い夏季に活発に活動する。岩の隙間に生息する生物や穴の中に棲む生物は地表に出てきて活動するため、夏季に調査をすると生物も見つけやすい。従って、基本的には6月から9月ごろにかけて調査をすることが望ましい。しかし、アラメやカジメなどの海藻類は、秋から冬にかけて繁茂するため、海藻をチェックする磯場では秋季または冬季にも調査を行う。(4) 調査範囲および時間帯(A) 磯場磯場の形態にもよるが、少なくとも潮上帯から潮間帯を含む20m×20mほどのエリアを調査する。時間帯はできるだけ潮間帯が露出している干潮時を狙って行う。38(B) 砂浜調査エリアは、砂浜が始まるところから水際線まで、幅約 20mくらいの範囲を歩き、ところどころ砂を掘り返したり、漂着物をどかしてみたりしながら行う。(C) 干潟調査エリアは、干潟が始まるところから水際線までを歩き、底質(砂か泥か)を確かめながら、幅20mくらいを調査する。時間帯は、潮間帯が露出している干潮時でなければならない。(D) 人工護岸護岸形状にもよるが、潮上帯から潮下帯を含む海岸線の 20mほどを調査する。時間帯はできるだけ潮間帯が露出している干潮時を狙って行う。(E) 海底1地点につき、最低 0.1 ㎡(エクマンバージ採泥器:15cm×15cm なら5回分、20cm×20cm なら3回分;スミスマッキンタイヤ型採泥器:22cm×22cm なら2回、33cm×33cm なら1回分[図III-4])の分量を調査する。(出典:「水質汚濁調査指針」日本水産資源保護協会、1980)図 III-4 エクマンバージ採泥器およびスミスマッキンタイヤ採泥器(5) 調査手法図 III-5に示した生物チェックシートを持って、選定した場に出かけ、表に載っている生物が生息しているかどうか調べる。エクマンバージ採泥器スミスマッキンタイヤ採泥器出典:奥谷喬司「海辺の生きもの」山と渓谷社、1994「決定版 生物大図鑑 貝類」株式会社世界文化社、1986峯水亮「海の甲殻類」文一総合出版、2000西村三郎「日本海岸動物図鑑〔Ⅰ〕」保育社、1992内海冨士夫「標準原色図鑑全集16 海岸動物」保育社、1971図III-5(1) 生物チェックシート(磯場)―磯場―ウニ類(ムラサキウニ)直径7cmほど。岩の上や隙間に生息。フジツボ類(イワフジツボ)直径1cm。岩の上に群生している。水の中に浸かっているときは、さかんに腕(蔓脚)を出してプランクトンをかき取っている。フナムシ体長4cm。群れで歩き回り、逃げ足が速い。死肉や打ち上げられた海藻を食べる。カメノテ全長5cm。岩の割れ目に群生する。フジツボ同様、蔓脚を出してプランクトンをかき取る。フジツボ類(クロフジツボ)直径4cm。フジツボ類の中でも大型。ヒザラガイ体長6cm。岩の上に普通にみられる。貝殻は8枚ついている。カサガイ類殻長5cmほど。貝殻には放射状に肋がのびる。ヨメガサガイマツバガイヒトデ類(ヒトデ)体長10cmほど。石の下などにひそむ。巻貝類(イボニシ)殻長3.5cm。他の貝を襲って食べる。カニ類(イソガニ)甲幅3cm。ハサミには斑点がある海藻類(アラメ)最大で1mくらい。浅いところに生育するものは瀬が低い。生 物フジツボ類が2種以上いたかカメノテがいたかカニ類が2種以上いたかフナムシがいたかカサガイ類が2種以上いたかヒザラガイがいたか巻貝類が1種以上いたかウニ類が1種以上いたかヒトデ類が1種以上いたか海藻類が2種以上生育しているかチェック(○×)図III-5(2) 生物チェックシート(砂浜)―砂浜―生 物フナムシがいたかハマダンゴムシがいたかハマトビムシがいたかチェック(○×)フナムシ体長4cm。群れで歩き回り、逃げ足が速い。死肉や打ち上げられた海藻を食べる。カブトガニ全長60cm。潮下帯に生息し、夜行性。カブトガニが生息している砂浜は、生態系が良好な証しである。ハマダンゴムシ体長1.5cmくらい。指でつつくと死んだふりをする。浜に打ち上げられた海藻などの下に生息している。ハマトビムシ体長1cmくらい。素早く砂の上をとびはねる。図III-5(3) 生物チェックシート(干潟)―干潟―カニ類(コメツキガニ)甲幅1cm。巣穴のまわりに食べカスの砂をだんごにしてばらまく。カニ類(チゴガニ)甲幅1cm。砂中の有機物を食べる。はさみを上下にふる動作をくりかえす。カニ類(アシハラガニ)甲幅3cm。がっちりした体つき。ヨシ原の中に生息。比較的簡単にみつかる。カニ類(ヤマトオサガニ)甲幅3.5cm。泥の場所に生息。巻貝類(ヘナタリガイ)高さ4cmくらい。泥の場所に集まる。よく似たなかまで、フトヘナタリ、ウミニナなどがある。二枚貝類(アサリ)殻長2cm。砂の中に生息。二枚貝類(ヤマトシジミ)殻長1cm。泥の中に

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