世界初の超電導電磁推進船監修 笹川陽平超電導電磁推進船開発研究委員会 委員長目 次第1章第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章第9章第10章第11章あいさつ…………4はじめに…………9実験船「ヤマトー1」の概要…………/7電磁推進の原理と方式…………31実用化に際して解決すべき諸問題………・41超電導電磁推進装置の構造…………55ユニットスラスタの構造…………65電極および海水管…………87礒装と船農…………99全推進系の構成…………125「ヤマトー1」の海上試験…………135終わりに…………147イ寸…………155索引…………160あいさつ 1985年当時、日本の造船界は海運不況の影響を受けて業績が大幅に悪化し、新しい研究開発への取り組みも沈滞傾向にありました。また、日本は世界の造船量の50%を超えるシェアを占め造船王国と呼ばれていましたが、コンテナ船やLNG船あるいはホーバークラフト、ジェットフォイルといった付加価値の高い船はすべて外国で開発されたものであり、船舶の心臓部ともいえるエンジンもそのほとんどが外国からの輸入やライセンス生産に頼らざるを得ないというのが実情でありました。 私は、このような日本の造船界に問題を提起して刺激を与えるとともに、若い技術者や学生たちに技術開発の夢を抱いていただくために、世界で初めてスクリュープロペラのない「超電導電磁推進船ヤマトー1」の開発を計画しました。 もちろん、手探りの中からのスタートであり、難問山積は当然のことでありましたが、多くの学者や技術者の熱気は次々に難間を解決していきました。しかし、最大の難問は超電導磁石をいかに軽くするかでした。計画当初の計算では、50トンの船に100トン以上の超電導磁石が必要となりました。研究者や技術者の方々のたゆみない努力と熱意により、当初100トンを超えるといわれていた超電導磁石も30トンに軽量化されるなど、さまざまな技術課題が克服されて、1992年6月に実験船「ヤマトー1」が世界初の海上航走に成功しました。 この「ヤマトー1」の成功には2つの異なる反応がありました。日本では「効率が低い」とか「実用化は無理だ」といった専門家のさめた反応でした。これに対して欧米の反応は、「ヤマトー1」のようにリスクの高い挑戦的なオリジナリティーのある開発計画については極めて評価が高かったことです。試運転当日も外国から多くのマスコミ関係者が集まり、新聞や科学雑誌等で大きく取り上げられました。その後も世界各国から講演の依頼が舞い込み、英国舶用機関学会からシルバーメダル賞、米国海洋技術学会からコンパス国際賞を受賞するなど、国際的に高い評価をいただきました。 スティーブンソンの開発した蒸気機関車の効率は最初から高かったわけではなく、その後の長い年月の改良によって実用化へと進んだのです。来るべき21世紀に最も期待されるのは超電導技術です。超電導コイルの中心に当たる線材技術の飛躍的な進歩の実現が必ずや超電導時代の幕開けを期待させます。そのとき、今回の「ヤマトー1」の経験が大きく役立つことを期待しております。 この「ヤマトー1」の開発過程で得られた成果は貴重なものであり、これを次の世代へ伝えることは超電導電磁推進船の研究のみならず超電導技術の応用にとっても極めて重要であると考え、今般「ヤマトー1」の開発過程や建造中に得られたノウハウ、開発のポイントなどを平易にとりまとめ一冊の本にいたしました。 この本が、研究者や技術者を目指している高校生や大学生をはじめとして、多くの方々にとって、今後の超電導電磁推進船の開発の道しるべとなり、21世紀に花を咲かせる素材としてお役に立てば幸いに思います。 終わりに、この研究開発に携わられた元良誠三博士(東京大学名誉教授〉ほか多くの関係各位に対し、特に本書の執筆を担当された今市憲作博士(大阪大学名誉教授)に対して厚くお礼申しヒげます。また終始温かいご支援を賜りました日本財団に対して心より感謝申し上げます。1996年10月超電導電磁推進船「ヤマトー1」開発研究委員会   委員長笹川陽平          . 冠・韓  一一  鹸認、      一頭曖     鞠㍉をゲ鞠7勢,…       ・r}一」、一.三.、.、^~~一~   ‘一一   懸 「q』、一’r..酒「一一’二ゾ‘愴等・一cず、.嫌’驚_と箆孔_誘一纏’一  一一 』一亀  一    へ・欝隈レ纏, !座、_蝋遍、、一』・」 藁、,_一.、一 ・qL一_4鳴ヤ    4 }㌧; 》’\ エ、_ 一甲㌧』』 .},釜あ ゆ  ちドヤ  輪._一 ナ  唱r』、一一_ 二‘ 、7ゴ・一一り報   .』♂一∴.隠  }・一。レ、一夕誌一,蟄し・,-詫 一畜一ぐ㌔  チ _    』  、  ’   ら な ゆ燭遜、∫ゆt・一“ d嗣陶陶酌タ〆  . “岬一 .一  ワ .、 世界初の超電導電磁推進船         Y《MA『0■一WORLDIS FIRST SUPERCONDUCTING MAGNETOHYDRODYNAMIC PROPULSlON SHIP一はじめに超電導電磁推進船「ヤマトー1」*1)スクリュープロペラ(ScrewPrope”er〉 船のスクリュープロペラを見たことがないという人は少ないでしょう。最近の船のスクリュープロペラの多くは家庭でなじみの扇風機の風を送り出す部分、すなわち羽根車とよく似た形をしています。見た目の通り、流体力学的には両者とも全く同じ原理で空気や水を送り出します。もちろん飛行機のプロペラも同じです。ただ、飛行機や扇風機が空気という縮みやすい性質の気体を扱うのに対し、スクリュープロペラは水というほとんど縮まない液体を相手に働くという点で細かい部分は異なっています。スクリュープロペラなどの羽根は飛行機の主翼と同じような翼型(Airfoil)の断面をもっており、現在では翼理論を用いてその性能設計が行われています。しかし、少し古い時代まではスクリュープロペラは文字通りスクリュー(Screw、ねじ)と考えた設計方法が一般的でしたし、また構造的にもねじに近いような形のものでした。スクリュープロペラという名前はその名残でしょう。■■付図 スクリュープロペラとウオータージェット*2)外車船(Paddle Wheel$hip) 船の両舷あるいは船尾部に水車のような大きな車が付いており、その車の外周には擢の役目をする板、すなわちパドルが一定間隔で取り付けられています。この車をエンジンで回して進む船のことを外車船といいます。琵琶湖に就航している観光船ミシガンは船尾にパドルホイールを取り付けた船です。この船は比較的単純な構造のパドルホイールをもっていますが、スク10 「ヤマトー1」というのは、超電導電磁推進装置による海上航行に、世界で初めて成功した実験船の名前です。 現在、船舶の推進装置として広く使用されているのは、19世紀半ばに実用化されて以来、、急速に普及したスクリュープロペラ*1}です。しかし現在でも、スクリュープロペラ以外の推進装置も用いられています。西部劇に登場する外車船*21は今でもミシシッピ流域ではショーボートとして華やかに走っています。また近ごろ、海岸でよく見かけるようになった水上スクーター、あるいは高速を売り物にした高速連絡船などはウオータージェット(Water Jet〉を用いています。普通のウオータージェットは船の底あるいは船首付近から導水管で水を吸い込み、吸い込んだ水をインペラ(Impeller)と呼ばれる高速で回るプロペラで加速し、高速の水を船尾から噴出してその反動で進む方式です。このように船の周りの水を吸い込み、これを噴出して進むという点で、空気を吸い込みそれを高速ジェットとして後ろへ吐き出して反動で進むジェット機と原理的には同じです。普通のウオータージェットはここで述べたようにインペラで水にエネルギーを与えて高速のジェットを作り出すわけで、水はインペラという一種のプロペラー専門家はこの機械部分を羽根車と呼んでいます  のする機械的な仕事という形でエネルギーをもらうのです。その意味では見慣れたスクリュープロペラと同じです、、これに対してわれわれが走らせた「ヤマトー1」は超電導(Superconductivity)を利用した電磁推進装置(ElectromagneticThruster)により推進したのであり、「ヤマト1」はその超電導電磁推進装置による海上航行に、世界で初めて成功した船というわけです。 「ヤマトー!」に用いた推進方式では、強力な磁場*31を得るために超電導を用いましたが、原理.的には強力な磁場さえ作れれば推進できるわけで、この原理そのものは、割に早くから知られていました。 米国のW.A。Riceは、液体金属を移送する電磁ポンプの反作用を利用して船を推進する方式を提案し、1961年に「推進システム」という特許を取得しています。 これを機に、米国では、電磁推進装置に関する研究が、数多く行われるようになりました。 その中でも、特に注目に値するのが、マサチューセッッ工科大学(MIT)で高速船の研究をしていたLt.R.A。Doraghと、ウェスティングハウス社の技術者だったS.Wayの、2人の研究です文翻・2。 Doraghは、航空機が、高速化に伴って、プロペラ推進方式から、プ第1章  はじめにロペラを使わないジェットエンジン推進方式に変わったことに着目し、船のジェットエンジン化ができないものかと考えました。その結果、彼がたどりついたのが、電磁推進による船の高速化ということでした。 そこで終わっていたら、彼はそれほど注目されなかったかもしれません。Doraghの素晴らしい点は、船を推進させるに足るほどの高い磁場を得るためには、従来の常電導コイルでは不可能で、超電導コイル(SuperconductingCoil)を使うしかないと考えたことでした。 当時、MITでは、世界に先駆けて、超電導コイルの試作に成功したばかりだったのですが、Doraghは、いち早く、その超電導コイルを電磁推進に応用することに着眼したわけです。 もう1人のWayは、1966年に、「EMS-1」という図1.1に示すような模型の電磁推進潜水船を用いて、カリフォルニア海岸において、電磁推進装置による世界で初めての航行実験を試みました。 しかし、彼のこの試みは、うまくいきませんでした。彼の模型船は、電磁推進装置の磁場を作り出す磁石として、超電導コイルではなく、通常の導線に直流電流を流す常電導コイルを使用していたため、磁場があまりにも弱く、模型船を走らせるのに十分な推進力が得られなかったからです。 Wayの実験失敗の影響のためか、また模型船を走らせるために必要なだけの大きな超電導コイルを作る技術的背景が整わなかったためか、その後!0年間ほど、電磁推進装置の研究は、ほとんど行われませんでした。リュープロペラが実用化されるまでの外車船ではかなり複雑な構造で効率のよいパドルホイールが実用化されていました。*3)磁場(Magnetlc Fleld〉変わった読み方をする言葉ですが、物理学における学術用語です。磁石により磁力の作用する場所、あるいは磁力の作用そのものを指します。詳しくは32頁の第3章の注*1)および*3)を参照して下さい。②②②1フイート1インチWater Line ム邸己始1寸≧2’ 4’1σ4’図1.1 S.Wayの使用した模型の電磁推進潜水船「EMS-1」(1966年)11超電導電磁推進船「ヤマトー1」 1970年代に入って、Wayらの研究を継承して、超電導コイルを使った電磁推進装置の研究開発に着手したのが、日本の神戸商船大学の佐治吉郎教授(現名誉教授)と、彼のグループです。 佐治教授の専門は、元々は、液体ヘリウムなどの低温液体を取り扱う技術および超電導技術ですが、超電導コイルが常電導コイルに比べて非常に強い磁場が得られることに着目して、超電導コイルによる電磁推進船の研究開発に乗り出したわけです、 佐治教授のグループが最初に行ったのが、超電導電磁推進模型船「SEMD-1」による走行実験でした(文献3)。この模型船は写真1.1に示すような形状の推進装置を船体下部につるした構造で、この推進方式は後述する外部磁場型であります。 「SEMD-1」は、全長約1メートルで、船体のキール部(ヨットの艇体の下にある突き出した部分)に、全長25センチメートルの超電導コイルを取り付けた模型船です。佐治グループは、このSEMD-1の人.工海水の水槽での走行実験を成功させました。この実験は、模型船といえども、超電導コイルで船を動かした世界初の例として、海外の研究者な写真1,1 神戸商船大学グループの開発した超電導電磁推進模型船「SEMD-1」(1976年〉船体の下部に突き出している部分が超電導電磁推進装置(神戸商船大学名誉教授佐治吉郎氏のご好意による)12第1章  はじめにどからも、大いに注目されました。,この船はつくばの科学博覧会にも出品されたので、ご覧になった方もいると思います., これに力を得た佐治グループは、続いて、全長3.6メートル、重量700キログラムの、より大型の超電導電磁推進模型船「ST-500」を製作し、!979年には、その走行実験にも成功しています婦1た31。ST-500は、やはり外部磁場型の推進方式を採用しています。写真!.2はST-500の航走状況です。 佐治グループの研究は、プロペラがなくても、超電導コイルで船を推進することができることを世界で初めて実験で証明したという点で、極めて.意義のあるものといえます。 このような超電導電磁推進船*4 の研究状況と、当時、盛んに研究が進められていた超電導.技術の成果(例えば、国鉄の磁気浮ヒ式鉄道、すなわちリニアモーターカー)などを踏まえて、「シップ・アンド・オーシャン財団」(当時は「日本造船振興財団」)では、!985年に、「超電導電磁推進船開発研究委員会」(委員長 笹川陽平・現日本財団理事長)を設置して、超電導電磁推進船の開発研究を開始しました。*4)超電導電磁推進船 日本語に忠実な英訳としては、SuperconductingElectromagneticPropulsionShipというのがよいのですが、本文で述べたようにこの研究に先鞭を付けた米国ではMagnetohydrodynamic PropulsionもしくはMHD Propulsionという言葉が用いられています・これに敬意を表してわれわれも英文ではSuperconductingMHD Propulsion Shipとします。写真1.2 神戸商船大学の水槽を走る超電導電磁推進模型船「ST-500」(1979年)    (神戸商船大学名誉教授佐治吉郎氏のご好意による)/3超電導電磁推進船「ヤマトー1」 この開発研究の最大の目標は、超電導電磁推進装置(SuperconductingMHD Thruster)で航行する自己完結型の実験船(模型ではなく、自分自身で航行のためのエネルギー源をもつ実物の船)を建造して、この実験船を、研究室のプールなどではなく、実際の海の上で走らせるということでした。 実験船を実際の海で走らせることによって、それまで研究室レベルの域を出ていなかった超電導電磁推進船の開発研究を、少しでも実用レベルに近付けようとしたわけです。 開発研究委員会には、当時の超電導電磁推進船研究の第一人者である佐治吉郎教授と、磁気浮上式鉄道研究の第一人者である日本国有鉄道の京谷好泰氏という、いわば船と鉄道の超電導技術の両巨頭をはじめ、機械や電気関係など、さまざまな専門分野の優れた学者、研究者に、委員として参加していただきました。 また、開発研究委員会の下部機構として、船体分科会(分科会長 元良誠三・東京大学名誉教授)と、装置分科会(同 今市憲作・大阪大学名誉教授)が設置され、前者が超電導電磁推進船としての最適な船型の開発を、後者が超電導磁石を用いた推進装置の開発を担当し、それぞれ理論と実験の両面から研究を進めました。14第1章  はじめに 船体分科会には東京大学の田占里哲夫教授(故入)、広島大学の仲渡道夫教授、運輸省船舶技術研究所の田中拓推進性能部長などの人が、装置分科会には鉄道技術研究所の中島洋主任研究員、高エネルギー物理学研究所の和気正芳博士などが参加していました、分科会の研究スタッフは、いずれも大変に熱心で、そのために、関係会議の際には、いつも議論が百出して、意見と意見がぶつかりあい、ときには、興奮のあまり「それでは私はやめます」というスタッフもいたほどです。それほど、白熱した議論が交わされたわけです。 そうした中で開発は進行し、1989年には、それまでの開発研究の成果に基づいて、実験船の建造に着手し、1990年7月には、長さ約30メートル、幅約10メートル、排水量185トンの実験船の船体が三菱重工業株式会幸ヒlMHDの神戸造船所において完成しました。 実験船は、「ヤマトー1」と命名されました。この「ヤマトー1」という名前は、戦艦大和や宇宙戦艦ヤマトに象徴されるように、昔から日本人が船に抱く大いなる期待をイメージして、笹川陽平委員長が考えたものです。日本を表すやまと言葉「やまとは国のまほろば……」*5 の「やまと」の意味も、込められています。 その後、「ヤマトー1」には2基の推進装置が搭載され、各装置・機器類の総合調整を経て、1992年6月16日、世界で初めて、超電導電磁推進装置による海1二航行に成功したわけです。 この本は、世界初の超電導電磁推進船「ヤマトー1」について、8年問にわたる開発研究の内容と成果をまとめたものです。 次章以ドで、その開発過程における技術的な成果、電磁推進装置や船体の設計の詳細、および海上運転の解析結果などについて、詳しく述べてみたいと思います。*5) 「やまとは国のまほろばたたなづくあをがきやまごもれるやまとしうるわし」と古事記に記されている日本武尊(やまとたけるのみこと)の歌。*参考文献111Lieut.R,A.Doragh:トしMagnetohydrodyIlamic Ship Propulsioll Using  Superconducth19λlagllets”.T1・allsaα10刀so∫r11θSoc∫αyo∫Nヨ剛  A1で!マπθcεs a∫κ1ル1a1ゴηe Eβg111eθ”s. Vol,71. 1963. pp.370-38612〕S.Way l“Electromagnenc P1’opulslon for Carg〔)Submarhle』’  曹10α1ηal of Hyd~η召aαr∫c5. Vol.2, 1968. PP.49~5713)岩田章、佐治吉郎:「超伝導による電磁推進の科学」、朝倉書店(199Dノ5   第2章実験船「ヤマトー1」の概要超電導電磁推進船「ヤマトー1」*1)補機類(Auxlllary Machlnery〉 船が直接推進のためのエネルギーを得るための機械、例えはスクリュープロペラを回しているエンジン、これは主機と呼はれます、しかし、船は推進以外、例えば電灯をつけたりあるいは航海用機器を動かしたり、錨を揚げたりなどの仕事をしなけれはなりませんこのための機械装置が補機です.代表的なものは発電機を動かすためのエンジンです 「ヤマトー1」は、阯界で初めて、実海域を航行1』f能な白己完結型の超電導電磁推進船として設計されました、そのため、航行に必要な設備、すなわち超電導電磁推進装置、動ガ電源装置、操縦装置、補機類判などは、すべて船内に搭載されています、 ここに示した写真2.1が、その「ヤマトー1」の船影です・ 写真は、1992年6月!6口に、「ヤマトー1」が神戸港内を処女航海したときに撮られたもので、この処女航海のときは、文字通り、概界で初めて、超電導電磁推進船が実際の海を走る、それもエネルギーをほかから供給せずに自分で走る自己完結型の船ということで、内外から大きな関心が寄せられ、rl本のマスメディア、造船関係者だけでなく、海外からも多くの取材陣、海軍関係者などが、見学にやってきました, 「ヤマトー1」の処女航海成功は、ロイター通イ,言その他のメディアの記事で肚界に伝えられました、写真2.2は、そのときのワシントン・ポストの記事です 超電導電磁推進装置による実物の船が、実際に海の上を走るということは、それほど画期的なことだったのです,                               奎鶉                               ………購鐸薯 ・一「 … 』’〆、   …鬼一灘;霧藝 匿・一.翼翰’灘…箋嚢特きf身象ンダ      ーで㍗       茂要箏磯胤晒一一碇烹瀞r一需 一『一一                               ;一一  r    曹・嚢箋嚢i嚢華萎嚢嚢馨…嚢i蕩講    写真2.1 (a)神戸市街をバックに航走する「ヤマトー1」(1992年)18第2章  実験船「ヤマトー含」の概要’准一郵雑ギ祝写真2.1 (b)神戸港内で旋回する「ヤマトー1」(1992年)W阻NEso“.,u鷲17,1992ShipSaib・皿H喀h・hh,6SilentgDriveノ吻漁5’5ハ㎞’吻認5めπ餌3’θ配況θ雇融θπ’ゲ‘忍θ4α’・δθ7’ ByTR.Rεid田陣隠F噂5而KOBE,Japaロ,June16一Aπ1ys9ヒe⑳甲寓㎞りm曲i叩sy就mr㎝㎜tofa仙orT㎝C幽’9価do面鍋bm徹“Red(㎞wen“osea㎞r¢ail廷e!曲y一ηo塞ataR醐n自刷base,b巳ヒ血Ja・離㎜ヒa山姻睡t醐PY酬・置伽b区幽㎞畑吋8㎜㎞畑静騨龍欝W岡eworkmen at Mitgub“hiHeavy lnd輪’Kobe yardbeamed蝋hprlde、the185・tooe置・pe㎞鮎tals屈pYa鰍01PめwOdヒ㎏oゆ出ec鋤㎞he肥powεred by a rev(》量u鋤罰ゆ弔ro臼pe恥r剛e卜P噸㎞s卿em㎞door㈱t漁㎞su卿・cood㏄bogte蜘.轍,E卿,aod㎞t一hershave曾riedsL㏄ethe1960stodevebptheso畑led凹m匿gnet面ydτodynamiビproP国5bnsy就em-MHD,停o『曲o『電一buヒヒo,daゾ3Sεa舳1π旧rked電heworld’S㎞tacmal朋Dvoyage.A㏄0冒din帥,e翼㏄uUvesof山eJapaneseresεarchoo口50rtI㎜that㎞3騨dmorethanS40m則ion㎞こoこheprojedoompared監oday-s圃㎜ヒo建hemaide口voyagedOhe備rs璽s電eam曲ipin1807飢dtotbe1955望aヒrIa覧of the U.S.sub・m肛i騒eNautilus.電heworld’sf凶nロck駐r甲powered sわIP.Coupled wi!h a nuclearD or sobr・poweredeng【ne,監heprope腿er・愈㏄  So●」APAN,A32,CoL量写真2,2 「ヤマトー1」の処女航海の成功を伝えるワシントン・ポストの記事(1992年)19超電導電磁推進船「ヤマトー1」「ヤマトー1」の仕様と主要目*2) {士才羨(Specifications) 機械や道具で装置や物を製作する際に、その形状、性能を具体的に規定する数値や規格値をこのように呼んでいます。製造ビジネス上では極めて重要な事項です。次に「ヤマトー1」の仕様*21と主要目について述べましょう。船体の主要目は表2.1の通りです。*3)表中の述語については、第8章100頁を参照して下さい。表2.1 「ヤマトー1」の主要目*3》長さ(全長)長さ(垂線間長)幅(型)深さ(型)計画満載喫水(型)公称排水量計画最大速力船殻の材質定員30.Oメート,レ26.4メートノレ10.39メートノレ2.50メート2レ1,50メートノレ185トン8ノットアルミニウム合金10人(乗員3人、その他7人〉*4)排水量(Disp[acement) アルキメデスの原理に従えば、船が水に浮かんだ場合、その水面下の体積に相当する水の重さはまさに船の重量に当たります。*5)船殻(せんこく、Hull)殻の字は辞書には「かく」という読み方が記載されていますが、造船の世界ではこのような読み方が慣用されています。*6)耐食性(Corrosion Resistance)海水は化学的に活性なものでありますから、船体は 排水量*4)というのは船の重量のことで、排水量185トンというと、一般の客船でいえば、500人の乗客をゆうに収容できる大きさがあります。しかし、「ヤマトー1」の場合は、推進装置ならびにそれにかかわるシステム全体が極めて重く大きいため、残念ながら、排水量185トンで定員はわずか10人となったわけです。 せんこく 船殻*5)というのは、船の中身をとったいちばん外側の船体という意味ですが、この船殻には、船の軽量性、耐食性*6)、非磁性を考慮して、アルミニウム合金を使用しました・ 非磁性というのは、磁石の影響を受けない性質のことで、アルミニウ20ムやある種ステンレススチール*7’などは、磁石の影響を受けず、反1芯もしないので、非磁性体といいます,。それに対して、磁石の影響を受ける性質のことを磁性といい、普通の鋼材がその中心で、磁石の影響を受け、磁石に完全に反応する材質なので、磁性体と呼ばれます、 一般の船の船殻には、値段が安くて、溶接がしやすいことなどから、普通の鋼材が使われることが多いのですが、「ヤマトー1」は、推進装置として磁石を積むので、船体が磁石の影響を受けたり、逆に磁百が船の影響を受けたりしないように、非磁性体のアルミニウム合金*Sを船殻に使うことにしたわけです、、 以ヒが、「ヤマトー1」の仕様とセ要目ですが、最終的にそこに落ち着くまでには、開発研究委員会の研究スタッフの、悪戦苦闘の歴史がありました。 一例を挙げれば、船の排水量、すなわち重量です。当初、委員会の計画では、排水量50トンくらいの船が考えられていました。ところが、その後、推進システムを構成する装置機器類の重量や大きさが明らかになってくるにつれて、とても排水最50トンではこれらを搭載することが無理だということが分かってきました二 というのは、この50トンの船を設計速度8ノットで走らせることにし、船の右舷と左舷*9 にそれぞれ1基ずつの超電導電磁推進装置が搭載されることになったのですが、その時、点で陸ヒで使われている超電導磁石の構造様式を踏襲してそのまま推進装置を設計すると、推進装置の重量が1基だけで50トン近くになってしまったからです。船には、推進装置のほかに、その推進装置に電力を供給するための発電機、原動機なども積み込まなければなりません。そのために、排水量を大幅に変更せざるを得ませんでした, そこで、委員会では、船を大型化すると同時に、あらゆる知恵を絞って、装置機器類の小型軽量化を図り、当時の技術のベストを尽くして、推進装置本体の重量を1基当たり20トン以下に抑えました。そしてなんとか排水量!85トンに収めることができたわけです, どのように軽量化したのかについては、あとで詳しく述べることにしますが、推進装置を構成する超電導磁石の軽量化に成功したことが、阯界初の超電導電磁推進船「ヤマトー1」の成功につながったといっても過言ではありません。 なぜならば、当時、おそらく超電導電磁推進装置そのものを作る能力は、世界の中の幾つかの国はもっていたはずです。しかし、実物の船を第2章  実験船「ヤマトー1」の概要海水におかされ錆となって消耗します(Chemical Corrosion),錆となって消耗することの少ない性質を耐食性といいます、 また船殻の一部として異種金属が使われていれば、残りの金属との間で電池と同じような回路が構成され、正極1陽極)となった金属は溶け出し、減っていきます,、これは電食(GaIvanic Corroslon)と呼ばれる作用です、これにっいての対策も考えなければなりません、*7)ステンレススチールのすべてが非磁性ではありません.オーステナイト系のステンレスは磁性を示しません。例えば「ヤマトー1」の場合、コイルを入れたヘリウム容器はJIS(日本工業規格)のSUS316Lというオーステナイト系の材料を用いました オーステナイトというのは鋼材を構成する鉄の結晶組織の名称です.*8〉アルミニウム合金(Aluminum Alioy) 現在ではアルミニウム製の船が多く造られるようになり、比較的小型の連絡船や大型のプレジャーボートなどの大部分がアルミニウム船です、使用されるアルミニウム材はJts規格A5083という、成分としてマグネシウムを含む系統のアルミニウム合金です、*9)船の左舷・右舷 船に乗り、船首の方向を向いたときに左側となる部分を左舷(Port Side)、右側を右舷(Starboard Side)と呼びます、21超電導電磁推進船「ヤマトー1」自力で走らせるだけの推進力をもった推進装置となると、非常に大きくて重くなり、その装置を船の中に収めて走ることは、工学的にも、工業技術的にも、非常に困難だったのです。そのため、各国とも、超電導電磁推進装置を作る能力はありながら、実際に超電導電磁推進船を造るところまではいたっていなかったわけです。 それをやり遂げたところに、「ヤマトー1」の意義があるといえます。船内機器の一般配置図*10)ヰ黄隔壁(BuIkhead) 船体の内部には所々に横方向の仕切り壁が設けられています。この仕切り壁を横隔壁と呼びます。横隔壁は船体の強さを増すと同時に、仮に船体の一部が破損して浸水しても、これらの壁が水密であれば、通路を閉じれば浸水は船体の一部にとどまり、安全です。潜水艦内部を写す映画では隔壁に設けられた通路を抜けて人間が移動するシーンがよく見られます。*11)推進動力(Propulsive Power)船がある速度で水の中を進むときには、船体には必ずその進行を妨げる方向に大きな力を水から受けます。すなわち抵抗です。この抵抗に抗して船は所定の速さで進むわけです。力学で習ったように力に抗して進むためにはそれだけのエネルギー、単位時間当たりで考えると(抵抗の大きさ)×(速度)の推進動力が必要なわけで、この推進動力を船は推進装置からもらうわけです。その推進装置は推進動力を出すためのエネルギーを動力源から供給され続けなければならないのです。*12)並列(パラレル、Parallel) 機械などを2つ左右に並べた場合、並列とかパラレル(ParalleI)の配置といいます。船の機関ならば船首方向を見て左舷と右舷と1つずつ横並びという配置をします。これとは異なり、前後の配置を直列とかタンデム(Tandem)といいます。普通の自動車の座席はパラレル配置ですし、小型の飛行機の座席はタンデム配置が多いようです。これ以外に3個の物を三角形の頂点に配置するマカダム(Macadam)という形式があります。 ここに示された図2.1が、「ヤマトー1」の船内一般配置図です。推進装置すなわち両スラスタが大きな空問を占めていることがよく分かると思います。 「ヤマトー1」の船体は、2枚の横隔壁*1し):で3つの区画に分けられていて、前方から操縦室、電極電源盤室、機関室(動力室)というようになっています。 2基の超電導電磁推進装置は、船の右舷、左舷の下側に張り出したバルジ(Bulge:船殻の張り出し部分をわれわれはこう呼びました)の中に、それぞれ1基ずつ収められています。 普通の船でいえば、スクリュープロペラに相当するのが、この超電導電磁推進装置になるわけです。超電導電磁推進装置といえども、そこにエネルギーを供給しなければ、船を動かすための推進動力*1Pは得られません。そこで、超電導電磁推進装置にエネルギーを与えるための動力源として、「ヤマト1」の機関室には、2基のディーゼル発電装置が搭載されています。推進装置は、右舷、左舷に並列判罰に配置されていますが、ディーゼル発電装置の方は、機関室二L甲板Lに一直線(タンデム)に配置されています。そして、この2基のディーゼル発電装置から、右舷、左舷の超電導電磁推進装置に独立に直流電流すなわちエネルギーが供給されるようになっているわけです。 船の推進の力学的な説明をしますと、プロペラ船では、水中に突き出したスクリュープロペラが、スクリュープロペラの回転面内に入ってくる水を後方に力強く送り出し、その反作用で船が進みます。同様に電磁推進船でも、船が推進するのは、推進装置の作動域に流れ込んでくる水を船体後方へ押し出す、あるいは噴き出すことによる反作用によります。 「ヤマトー1」の推進装置は、初めに述べた通常のウオータージェット22第2章  実験船「ヤマトー1」の概要満載喫水線  L.W.L,消音器換気ダクト給気ファン  スペース鍵暴関越「監1 □ 電極電源盤室操縦室一lh 一裾一バラスト タンク 燃料タンクボィドL,W,L.基線B.L,画麗鍵ヒ甥B.し、11500一5          10          15         ね          25     17000”          5          40  7500一5         504500覧フレーム500一申1900 単位:mm●船体中心線における縦断面図捕助デイーゼル   発電装置タービン冷却供給装置  ショア・コネクション    ボックス日ヘリウム冷凍機L.W.L.●右舷のバルジ部分の縦断面で 右舷から左舷方向を見た図旦Oスラスタ嘘ヘリウム圧縮機後進装置ボイドB L*スラスタと記されているのが超電導電磁推進装置マ曲        1  一幡’ 勲口LW.L.◎◎旦亨 B L◎◎スラスタ●FR(フレーム)26の所で船首から 船尾方向を見た横断面図    .ポィド         1、.、,』岡亡]昂儘鑑藷簾会畿ス ラ吊スタ創■留  電極電源盤室層閣oにノ船体中心線●上甲板平面図図2.1 超電導電磁推進船「ヤマトー1」一般配置図23超電導電磁推進船「ヤマトー1」*13)ジェットフォイル(JetfQi1) ボーイング社製の高速船で、航走に入ると水中翼で浮き上がり、水中から吸い上げた水を加速して船尾から噴き出し、40ノットの高速で走行します、水の噴き出しは普通水面のすれすれの位置で行われます。システムと同じように水中から水を吸い込み、インペラでなく、後述するような電磁力学的方法でその水にエネルギーを与えて、水1 いに力強く噴き出すようになっています、 水を噴き出すのは、水中である必要はなく、空中でも、原理は同じです、,例えば、新潟一佐渡島間、大阪一高松間などの航行に使われているジェットフォイル*B・という船はウオータージェットで推進しますが、水中から水を吸い込み、空中に水を噴き出すという構造になっています、. 「ヤマトー1」の場合は、機器の配置、重量配分、船の安定性や速度などを考慮して、水中から水を吸い込み、水中に水を噴き出すという形にしたわけです、 ちなみに、2棊の超電導電磁推進装置は、それぞれ異なるメーカーによって作られました.すなわち、右舷のものは株式会社東芝の製作、左舷のものは三菱重工業株式会社の製作によるものです、 なぜ2基とも同じメーカーに製作を依頼しなかったのかというと、そもそも、「ヤマトー1」の製作は、超電導電磁推進装澁の開発研究として24第2章  実験船「ヤマトー1」の概要行われたもので、そこで得られる知識をなるべく広く造船工業界あるいは重工業界に行き渡らせることを、当初からの目的のひとつとしていました。それで、2基の超電導電磁推進装置の製作をわざわざ別々のメーカーに頼んだわけです。 もちろん、別々のメーカーに頼んだといっても、右舷と左舷で仕様や性能が全く違ってしまったのでは、一対の推進装置として船を動かすことはできません。したがって、推進装置の重量や大きさなどの基本的な仕様や、磁場の強さなどの最終的な性能値は、表2.2に示すように、全く同じになるように設計されています。その基本的な仕様や性能を守ったうえで、細かい部分、例えば、コイルに巻く線材の太さや巻き数などの部分で、それぞれのメーカーのノウハウ*14〉を生かして、技術を競ってもらったわけです。 いい意味での競争は、技術の進歩に役立ちます。技術者が、それぞれのメンツをかけて、よりよいものを作ることにしのぎを削るからです。*14)ノウハウ(Know-how) 機械その他の加工品などの製造上や取り扱い上の知識、経験、こつのようなもので、事改めて特許などにはしにくいが、実際上は極めて重要な知識、情報および技術のことをいいます。表2.2 最終的に確定した超電導磁石の基本仕様形式6連環内部磁場型超電導磁石●コイル数量中心磁界単体磁界有効長冷却方式6連環●クライオスタット*15)外径全長常温ボア径*⑥重量熱侵入量6対3,5テスラ(T〉4.0テスラ(T)3000mm液体ヘリウム浸漬冷却1850mm5400mm260mm15トン(t)以下7ワット(W)以下*これが超電導磁石設計のために委員会がメーカーに提示した性能値です。*15)クライオスタット(Cryostat)超電導磁石を構成する要素で、超電導コイルを収め、かつ極低温(一269℃〉を維持するための断熱容器です。詳細については第5章59頁を参照して下さい。*16〉ボア(Bore) 円筒形のクライオスタットの一方の端面からもう一方の端面まで抜けている6本の中空部分のことで、この中にローレンツカを受けて加速された海水が流れる海水管が挿入されます。詳しくは第5章62頁を参照して下さい。25超電導電磁推進船「ヤマトー1」計画満載喫水線L坐・噴き出しローJet Nozzle喫水12280L.W.L、7200到1 ↓ 副冷の寸O甘口1一層推進装置本体冒一一   1曽MHD Thrus宝er1975海水の取り入れ口Intake 単位:mm  250 505-2560400 ↑2401一          54002105図2.2 バルジ部に収められた超電導電磁推進装置とダクトシステムの全体図撒\      十11♪1垢    丁  、    を=「  吐コイル海水流路cC OI-I1 S   † P図2.3電極     Seawater PassageElectrode超電導電磁推進装置の断面*17)強度(Strength)ここでいう強度というのは機械的な強度、Strengthのことでlntensityの意味ではありません。あとで説明すこのときの競争製作には、そういう狙いも込められていました。超電導電磁推進装置が搭載されている     バルジ部分の内部 バルジ部分の内部にある推進装置を側面から示したのが、図2.2です。図の右側が船の前方、左側が船の後方になります。 バルジ部分の前部と後部には、海に通じる開口部が1つずつあって、それぞれ海水の取り入れ口、噴き出し口になっています。写真2.3に海水の取り入れ口と噴き出し口を示します。 図2.2の中央に位置するのが超電導電磁推進装置で、推進装置の内部は、6本のユニットスラスタ(Unit Thruster〉が同心円上に等間隔で並ぶ「6連環構造」になっています。それを示したのが、図2.3です。 なぜこういう構造になったかについては、章を改めて詳述しますが、ここで簡単に触れておくと、われわれが得たいと思っている性能を、直径の大きな1本の推進装置で得ることは、これに使用する超電導コイルの強度判7)上、不可能だったからです。それで、直径のより小さい6本のユニットスラスタを集めて、全体で1個の推進装置にしたわけです。26第2章  実験船「ヤマトー1」の概要 これは、自動車やジェット機などで、エンジンのピストンシリンダーを1気筒ではなく、4気筒とか6気筒にしているのに通じます。 推進装置の前後には、6分岐・6合流*181のダクト(管路)*191が接続されています。それらのダクトはそれぞれ1本になってバルジ部分の前部と後部の船殻の開口部分につながっているわけです。、・       D=一■   ■「 』■■■■■Fるようにコイルの電線は自身の作り出す磁場と自分の中を流れる電流との相互作用で強い電磁力を受けます。その電磁力に耐えて、ちぎれたり変形したりしないだけの強さという意味です。*18〉分岐、合流 パイプやダクト(管路)において、1本の管の中の流れが数本の管に分かれて流れ出すような管のつなぎを分岐、逆に数本の管の中の流れが1本の管の中の流れへとなる管のつなぎを合流といいます。川の支流、分流と比べて下さい。分岐合流*19) ダクト(Duct) 水や空気が流れる管路で、工学では普通比較的断面の大きなものに使います、,rd煮!ノ帰蟹写真2.3 「ヤマトー1」の海水の取り入れ口と噴き出し口27超電導電磁推進船「ヤマトー1」r一一→,電極Electrode //175書/単位=mm図2.4 超電導電磁推進装置内の海水流路の断面28 すなわち、水はバルジの先端の水の取ヒ)入れ口(Intake)から吸い込まれ、6本に分岐して推進装置の中を通って、バルジ後端のノズル(Nozzle)から噴出されます。この海水の流れをたどってみましょう。 バルジ前部の取り入れ口から入った海水は、すぐに6本のより細いダクトに分かれて流れます。この6本のダクトは、それぞれ推進装置を構成する6本のユニットスラスタの海水管(Seawater Duct)につながります。 ユニットスラスタ内で海水が動力を受ける部分の断面を示したのが、図2.4です。すなわち、ユニットスラスタ内の両側に管軸と平行に正負の電極(Electrodes〉があって、正の電極から負の電極へ管を横切って直流電流が流れ、その直流電流に直角に上下方向に磁力線が通るようになっています。その結果、あとで述べる「フレミングの左手の法則」によって、海水は流れる方向へ強く押され、機械的な仕事を与えられます。つまり、海水はここで高エネルギーを得るわけです。奇妙なのは、水が力を受けるのはこの電極に挟まれた空間そのもので、そこにはインペラもスクリュープロペラも必要がないことです。初めて電磁推進装置を見た人はこのことが不思議なのです。 6本のユニットスラスタから出てきた高エネルギーの海水は、6本のダクトを通って、再び1本の管に集められ、この管が、推進力を得るためのジェットノズルとなります。すなわち、海水は取り入れ口から吸い込まれ、電磁推進で加速され、このノズルから高速のジェットとして噴出されるわけです。したがって、初めに説明したようにわれわれが作り上げた推進装置も一種のウオータージェットであったわけです。 6本のダクトを合流させて1本のノズルにしたのは、6本に分かれたまま高エネルギーの海水を出すよりも、1本に集めて出した方が、エネルギー効率がいいからです。ジェットエンジンなどでも、同じ方法がとられています。 「ヤマトー1」には、右舷、左舷に推進装置がありますから、船は、2つのノズルから高速で噴出されるジェットの反動で前に進むわけです。飛行機でいえば双発機に相当します。普通のスクリューブロペラ船でももスクリューを2個、3個ともったものがあります。 「ヤマトー1」は実験船として造られた船ですが、開発当初から、通常の海域での航行を目指していたため、その設計、建造、運航に関しては、通常の船舶と同じように、現行の海事関係法令の適用を受けています。第2章  実験船「ヤマトー1」の概要具体的にいえば、船舶法、船舶安全法、およびそれらの関係法令などです。 ちょうど自作した自動車を公道上で走らせるために、関連する法令の適用について運輸省の許可が必要なのと同じことです・ したがって、車検と同じように運輸省の検査官により法規にかなう構造と強度になっていることを詳細にチェックされます。そして、「ヤマトー1」は、これらの関係法令の基準をすべて満たし、船舶国籍証書や船舶検査証書の交付を受けています。それらを写真2.4に示します。        轟纂錘 雁     合     葵  そ馳暢漁萌穴  /鼻ト~ I            I鰯耀鰍 /辮ll 簑 鞭 鰹  偽 覧 嫉   2萢  積船首楼熔積 /篇 』 噸 緕 纏ギ 葱 滋嬉 器 亀 箇・   1零雛麟 澱灘疑攣踊⊥塾礎 噛ll 尺上甲板丙下酬期言鰍勃緬刈槻杁噸1乙無ざ28’5桝1  船捧最.広3Fドわいてフレームのダト血よリタト画1もヱ6幅 ・ m・42‘一ト,レ 度擬n軟1ちお』・てキ’加畑よ一』脚iF麟砿甲蜘下面1・至る瀞 2・97ノート・レi癬灘轟幕’1鴇轟晶東一鑑         熱船舶検査証書          第  119  号船 嫉 及 び 船 名“号船憩距醒の香号又1土離雌垂船π港又は定保港汽船  ヤマト 1 第133000号栗   京   都総卜-該又は船舶の長さ用         途般  舶 所  有  者1 6 6 ト ン超電沸電磋鮭進実験船財団法人シッブ・アンド・  オーシャン財団  A国航  瞭航行 轡区  に艮 耳域又薯 船は  籔従旨纂ぞ括l‘チ限 お 章平オく区域最大とう載人員狼    客0人胎    員3人そ の 他の粟 齢  者7人計且0入制  駅  汽  圧その他の航行上の条件(1)日没から日の出までの問の航行を禦止する。(2)航行中は随伴船を伴うこと.有効閉問 職4年7月3日から平成1%7月2日蚊船舶安全法第9条第工項の規定により交付する。臨鋤是西村泰簿  写真2.4 (a)「ヤマトー1」の船舶国籍証書*本文中では「ヤマトー1」とハイフン“一”を付けて船名を書 きましたが、法規上船名はハイフン“一”を付けることが認められていませんので「ヤマト1」としました。これが法的に正式な名前です。写真2,4 (b)「ヤマトー1」の船舶検査証書29   第3章電磁推進の原理と方式超電導電磁推進船「ヤマトー1」電磁推進の基本原理*1〉磁場(Magnetic Field〉 一般的な話として、われわれが取り扱う力の中には、動いている2つの物体が衝突した際に発生するような、2物体が直接触れ合ったりしたことで働く力でなく、重力とか正の電極同士が反発したりする力とかいうふうに、空間を隔てた物質間で及ぼし合う力があります。 これらの力を考えるとき瘍という概念を使います。例えば、私は地球の上に暮らしています。したがって、常に万有引力により引っ張られているわけで、その場合、私は地球の引力の働く空間、すなわち、重力場にいるというように考えます。もちろん私自身の引力の作る場も存在するわけですが、地球と私との関係だけ考え、地球に対する私の運動を考えるというような場合は、地球の重力場に私がいるというように考えればよいわけです。 このように力の原因となる存在があり、その周りの空間で、空間を介して力が働く場合としては、電極の作る静電作用の働く電場と、磁石による磁気作用すなわち磁力の働く空間、すなわち磁場、それに引力による引力場(地球の場合、地表近くに限定して地球による引力を重力と呼ぶ)が、われわれが通常経験するものです。*2)ローレンツカ(LorentzForce〉 磁場の中を動く電子に働く力をローレンツカと呼びます。この本では磁場と電流との関係で表現されていますが、電流は電子の流れ(ただし、電子は電流とは逆に負極から正極へ動いています)ですから、内容的には同じです。*3)磁力線(Unesof Magnetlc Force) 白い紙の上に鉄粉を一様にばらまき、その紙の下に馬蹄磁石を置いて、軽く紙を揺するよく知られた実験があります。紙の上には磁石の両側をつなぐきれいな線図を描いて鉄粉が並びます。これらの線は磁力線を目で見えるようにしたものです。要するに磁石の力の作用線を連ねた線です。 電磁気学の基本法則のひとつに、「フレミングの左手の法則」と呼ばれるものがあります。 左手の親指、人さし指、中指を互いに直角になるように開き、人さし指方向に磁場*Dを働かせ、中指方向に電流を流すと、電流の担い手は親指方向に電磁力、すなわちローレンッカ*21を受けるというのが、フレミングの左手の法則(Fleming’s Left-hand Rule)です。 超電導電磁推進船の推進原理は、このフレミングの左手の法則を応用したもので、それを分かレ)やすく示したのが図3.1です。 図を見ていただければ分かるように、船内には、棒磁石が固定して置かれています。この棒磁石から磁力線*31が出て、磁場を形成するわけですが、その磁力線をよく通過させるように、船体は、アルミニウム合金やステンレス鋼などの非磁性体で作られています。したがって、棒磁石による磁場が、船体を取り巻く海中に形成されるわけです。 また、船体の底の外側壁には、左右対称に正、負の電極が設けられていて、海水中で磁場と直角にもしくは直角に近い角度で交わるように、船の進行方向Direction of Gourse\電極Electrod電流(の方向〉Electric Currentノ弧1  号  (超電導)磁石  (Superconducting)Magnet    海水に働く電磁力(の方向)    EIectromagnetic Force嫡噛臨』            (しorentz Force)海水中に流れる電流Eiectric Current磁力線Lines of Magnetic Force磁場(の方向)Magnetic Fleld図3.4外部磁場型電磁推進の原理とフレミングの左手の法則32第3章  電磁推進の原理と方式 この線の上に小さな針磁石をもってくるとそれはこの線に沿う形になります。すなわち、針磁石のN極は磁力線に沿って馬蹄磁石のS極の方を指します。磁力線は、この小さな針磁石のN極の向く方向、すなわち、馬蹄磁石のNからSへ向かう方向を向いていると考えます(これは約束事です)。そしてこれらの線の分布は両極の近くで密になっています。このことから明らかなように、磁力線の分布の密なところは磁石によるカが強いということです。ある磁石から出た磁力線が通っているところが、その磁石の作る磁場です。実際上は磁力線の密度がある程度以上に大きい場所だけを間題にすればよいのです。! !  〆一や、  、  、1! ! 漕、 、 、 iN、r 写     \島給,非 一繍、\1▽図ノk  ノ付図磁力線直流電流が流れるようになっています。そうすると、フレミングの左手の法則によって、電流の担い手である海水に、電磁力、つまりローレンッカが働くことになるわけです。 このローレンッカは、海水を船の後方へ押しやる方向に働きます。そこで、船は、その反作用の力を磁石に受け、その磁石は船に固定されているため、船は前に進むわけです。 これが、電磁推進の基本的な原理です。電磁推進の方式 次に電磁推進の方式についてもう少し詳しく説明しますと、電磁推進は磁場の種類の違いと作用域の違いによって、それぞれ2つの方式に分類されます。 まず、磁場の種類による分類としては、交流磁場方式と直流磁場方式の2つがあります。33超電導電磁推進船「ヤマトー1」 交流磁場方式というのは、交流磁場によって海水中に誘導される電流と磁場との相互作用によって、電磁力を得る方法です。この方式ですと、海水中に直接通電をする必要がありません。したがって、電磁推進方式としては、直流磁場方式より望ましいのですが、残念ながら、交流用の超電導磁石そのものがまだ実用化されていないため、「ヤマトー1」の電磁推進装置では、直流磁場を用いるしかありませんでした。 次に、電磁力の作用域による分類としては、図3.1のように、船体外周の海水中に電磁力を発生させ、その電磁力を利用して船を推進させる外部磁場方式と、図3.2のように、船体内部を前後方向にダクト(管路)を貫通させ、そのダクト内の海水に電磁力を働かせて船を推進させる内部磁場方式、すなわちウオータージェット形式の2方式があります。 前述したように、電磁推進の基本原理のところで触れたのは、外部磁場方式によるものです。 それぞれの特徴を述べますと、外部磁場方式は、内部磁場方式に比べて、システムの構成が単純であるという利点があります。したがって、モデルシップなどを走らせる場合には、よくこの外部磁場方式が使われます。第1章で述べたWayや神戸商船大学の佐治教授グループが試みたのも、この方式でした。図3.3に佐治教授グループのSEMD-1の推進装置を示します。SEMD-1はこれを船の底につるすように取り付け  船の進行方向  Direction of Course海水の淋  \Seawater Flow\        懸電流(の方向)日ectric Current    や  ↓              磁力線       Lines of Magnetic Force\(超電導)コイル(Superconducting)Coil珍海水に働く電磁力(の方向〉Electromagnetic Force  、(L。rentzF・rce)多電極Electrodes         海水の流れ海水中に流れる電流  Seawater FlowElectric Current号 磁場(の方向〉 Magnetic Field図3.2 内部磁場型電磁推進の原理とフレミングの左手の法則34第3章  電磁推進の原理と方式oo頃↑の寸マ↓のo寸汁00D海水通電用電極板8815192631図3,31720ii液体ヘリウムタンク   600500・.嶽寸髪L140I Iレーストラック型超電導コイル   単位lmm’p .rr合層r晒一・1380430模型船「SEMD-1」に使用した超電導電磁推進装置(岩田章、佐治吉郎:「超電導による電磁推進の科学」、朝倉書店刊(1991)による)ています。 しかしながら、外部磁場方式では、船体外周の海水の中に強力な磁場を作り、そこに強大な電流を流すために、外部環境への影響が極めて大きいというマイナス面があります。 例えば、海水中に鉄製のものがあると、強い磁場に反応して、それが船底に付いてしまいますし、また、鋭敏な電気計器が近くにあったりしますと、強い磁場の影響を受けて、電磁気的な障害を引き起こしてしまうわけです。 さらには、生物に与える磁場の影響という問題もあります。鳥などは、強い磁場があると、逃げてしまいます。人体への磁場の影響はこの時点では一応ないとされていたのですが、しかし、それとても、はっきりし35超電導電磁推進船「ヤマトー1」磁力線Lines of Magnetic Force111一←ローレンツカによって加速された海水の流れSeawater Fbw accelerated by Lorentz Force超電導コイルSuperconducting CoiI海水中に流れる電流Electric Current電極EleGtrode図3,4 内部磁場型電磁推進船の概念図   船首の開ロ部から海水を取り込み、中央の電磁推進装置で加速して、   船尾の開ロ部から海水を噴き出し、その反動で前に進みます。た実験データがあるわけではないのです。少なくとも、ペースメーカーや補聴器のようなものを付けている場合は当然影響があるはずです。 以上のような理由から、模型船ならともかくとして、実際の船に外部磁場方式を使用するのは、あまり適当ではないといえます。 これに対して、内部磁場方式の場合は、ダクト内を海水が流れるために、ダクト内での流体摩擦が大きくなり、結果として、船の推進の効率をいささか悪くするという難点がありますが、磁場と電場の作用域をダクト内の一部に限定しやすく、また、漏れ磁場に対する対策もできるという利点をもっています。 このため、「ヤマトー1」では、外部環境への影響などを考慮して、外部磁場方式でなく、内部磁場方式を採用することにしました。 次に、「ヤマトー1」で採用した内部磁場型電磁推進装置について、詳しく述べることにしましょう。内部磁場型電磁推進装置のモデル 図3.4が、「ヤマトー1」で採用された内部磁場型電磁推進装置の概念図です。 船体内部には前後方向にダクトが走っていて、船首、船尾に1つずつある開口部で海とつながっています。船首の開口部からダクト内に水が36第3章  電磁推進の原理と方式入ってきて、船尾の開口部から水が出ていくようになっているわけです。 ダクトは、磁場に影響を及ぼさないように、非磁性体の材料でできていて、ダクトの外壁には、鞍(Saddle)のような形をした2つのコイルが、向かい合うように取り付けられています。この2つのコイルが、ダクトと直交する強い磁場をダクト内の空間に作るわけです。 ダクト内に磁場を発生させるコイルとしては、鞍型のほかに、レーストラック型といって、運動場のレーストラックのような形をしたものもあります

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