平成19 年度各国および国際社会の海洋政策の動向総合的海洋政策の策定と推進に関する調査研究-各国の海洋政策の調査研究報告書-平成20 年3 月海 洋 政 策 研 究 財 団(財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団)はしがき人類と海洋の共生の理念のもと、海洋政策研究財団では、国連海洋法条約およびアジェンダ21 に代表される新たな海洋秩序の枠組みの中で、国際社会が持続可能な発展を実現するため、総合的・統合的な観点から海洋および沿岸域にかかわる諸問題を調査分析し、広く社会に提言することを目的とした活動を展開しています。その内容は、財団が先駆的な取り組みをしている海洋および沿岸域の統合的な管理、排他的経済水域や大陸棚における持続的な開発と資源の利用、海洋の安全保障、海洋教育、海上交通の安全、海洋汚染防止など多岐にわたっています。さて、海洋政策研究財団では、競艇の交付金による日本財団の助成事業「海洋政策と海洋の持続可能な開発に関する調査研究」の一環として、先進諸国を中心とした各国の海洋政策の現状を整理し、その特徴を調査分析して参りました。平成16 年度は米国、平成17 年度は中国の海洋政策を取り上げ、平成18 年度はわが国での海洋基本の制定の動きに合わせて、主要な海洋国の海洋・沿岸域に関する法制度および政策の枠組みについて、包括的に研究してきました。本年度からは、新たにスタートした「総合的海洋政策の策定と推進に関する調査研究」においてこれを受け継ぎ、引き続き諸外国の先進的な海洋政策の取り組みについて調査・分析し、海洋基本法の成立をうけて進む海洋の総合的管理に関するわが国の取り組みに寄与するために研究を行いました。本書が、海洋および沿岸域の利用、開発、保全および管理に携わる行政、研究機関、民間企業、NPO、国民の皆様の活動に、少しでも役に立てば幸いです。平成20 年3 月海 洋 政 策 研 究 財 団会 長 秋 山 昌 廣各国の海洋政策の調査研究研究メンバー寺島紘士 海洋政策研究財団 常務理事小谷哲男 海洋政策研究財団 政策研究グループ 研究員段 烽軍 同上中島明里 同上長岡憲二 同上大久保彩子 東京大学先端科学技術研究センター 産学官連携研究員(元海洋政策研究財団 政策研究グループ 研究員)以上目 次(執筆者)はしがきはじめに(寺島紘士)第1部 各国の海洋政策と法制に関する研究 1第1章 英国海洋法案(長岡憲二) 3第2章 米国の沿岸管理政策(小谷哲男) 7第2部 国際社会における海洋問題の動き 9第1章 EU 海洋政策(中島明里) 11第2章 海洋政策フォーラム(小谷哲男) 17第3章 第32 回海洋会議(小谷哲男) 20第4章 マラッカ・シンガポール海峡に関するシンガポール会議(小谷哲男) 23第5章 海洋と海洋法に関する国連非公式協議プロセス第8会期(UNICPOLOS-8)(中島明里) 26第6章 海洋・沿岸・島嶼に関するグローバル・フォーラム(Global Forum on Oceans, Coasts, and Islands)(中島明里) 36第7章 PEMSEA(東アジア海域環境管理パートナーシップ)(大久保彩子・段烽軍) 38第8章 日中韓三ヵ国海洋政策研究会議(段烽軍) 45[参考資料] 47資料1 英国「海洋法案」邦訳資料2 米国海洋大気局「わが国の沿岸の将来を構想する」邦訳はじめに2007 年は、わが国の海洋の総合的管理と持続可能な開発の取り組みにとって、画期的な年となった。これに先立つ2006 年には、自民・公明・民主の3 党の国会議員が海洋各分野の学識経験者とともに海洋基本法研究会を設立し、これに海洋関係省庁にもオブザーバー参加を求めて、海洋をめぐる国際情勢を踏まえてわが国の海洋政策のあり方を研究し、その成果を「海洋政策大綱」として取りまとめた。海洋政策研究財団は、この研究会の事務局としてその立ち上げ、及び運営に当たった。2007 年に入ると、これに基づき、自民党を中心として公明・民主の両党も参加して海洋基本法案の作成が行なわれ、超党派の議員立法として国会に提案され、社民党を除く各党の賛成多数により4 月20 日に海洋基本法が成立し、7 月20 日に施行された。1994 年の発効を受けて1996 年に批准した「海洋法に関する国際連合条約」(国連海洋法条約、以下単に「海洋法条約」)に対するわが国の対応としては、遅すぎた対応ではあるが、これにより、近年、世界各国が競って取り組んでいる海洋の管理に対して、わが国もようやく体制を整備して大きく第Ⅰ歩を踏み出すことができた。さて、20 世紀後半に入って海洋と人間社会の関係が大きく変化し、海洋法条約よる新たな海洋の法秩序とアジェンダ21 による海洋政策の国際的枠組みが採択されたが、わが国では、このことが明確な共通認識となっていなかった。海洋法条約は、全海洋に関する包括的な法的枠組みとルールを定めた海洋に関する基本的な条約であり、海洋に関するパラダイムを「海洋の自由」から「海洋の管理」にシフトさせた。例えば、陸地近くの狭い領海を除いては国家の領域外であった海洋に対して、沿岸国の管轄海域を大幅に拡大した。沿岸国の領海は12 カイリに拡大され、200 カイリの排他的経済水域(EEZ)が新設されて、今や全海洋の4 割は、いずれかの国の管轄海域である。わが国は、この条約によって、世界で6 番目に広大な約500 万平方km2の海域(領海+EEZ)を管轄することになった。これからは、この広大な海洋空間とそこにある生物・非生物の様々な資源、それがもたらす交通、環境保全、安全保障などの機能が、わが国の発展の基盤となる。さらに、同条約は、海洋の諸問題が相互に密接な関連を有していることから、交通、利用、資源、環境など海洋の諸問題を全体的に検討し、これらに総合的に取り組むことを求めており、各国にその沿岸海域について資源等に関する権利と環境保全の責任等を委ねるとともに、海洋全体の管理についても協調・協力して取り組むことを求めている。また、アジェンダ21(第17 章)は、海洋の総合的管理と持続可能な開発等7 つのプログラム分野について行動計画を定めて政策面から海洋法条約を補完している。海洋基本法は、これらの新たな海洋の法秩序と国際的な政策枠組みに対して、わが国として本格的に対応するために初めて制定されたものである。21 世紀初頭の今日、地球上の陸域の開発が著しく進展した結果、人間社会が必要とする資源の陸域からの供給が近い将来不足することが明らかとなるとともに、他方では、人間の経済活動等に起因する地球温暖化が進展して人類の生存基盤を掘り崩す危険性が高まり、これらの問題への対応が大きな国際社会の課題となっている。地球表面の7 割を占める海洋空間は、これらの問題の解決に大きく貢献する可能性を秘めており、海洋の管理が、人間社会全体にとって大きな課題となり、同時に、経済発展と生活の向上を目指す各国の重要な政策目標となってきた。しかし、水に満たされ、高圧で光や電波の届かない海洋空間を開発、利用、保全及び管理することは、必ずしも容易なことではない。陸域とは異質の空間である海洋空間を、具体的にどのように開発、利用、保全及び管理していくかについては、これからの新たな取り組みに負うところが大きい。海洋法条約が、平和的目的のための海洋の科学的調査の国際協力や海洋技術の発展及び移転の促進を、特に取り上げているのもこのためである。海洋の開発、利用、保全及び管理の難しさの一例として排他的経済水域を取り上げてみよう。海洋法条約は、この制度により、沿岸国に、天然資源の探査、開発、保存及び管理のための主権的権利等、並びに人工島、施設及び構築物の設置及び利用、海洋の科学的調査、海洋環境の保護及び保全に関する管轄権を付与している。では、このように相互に密接な関連を有する様々な事項を包含する国際法上の制度である排他的経済水域を、沿岸国はどのように管理するのが適当か。その答えは、必ずしも明確ではない。排他的経済水域の開発、利用、保全及び管理ためには、沖合いの海域に関する科学的知識の拡充、そこで使用可能な技術の開発、不可逆的な環境破壊を避けながら進めるべき海洋資源の開発手法の開発、様々な利用相互間の調整や海洋空間の総合的管理の制度構築など様々な点について検討が必要である。当面は、各国がそれぞれに、海洋法条約の規定に照らして、また各国の実情や政策的意思に応じて、EEZ の管理に取り組むところから始めざるを得ないだろう。そしてそれらの国家実行を互いに比較検討し、それぞれの優れた点を参考にして各自のEEZ 制度を構築する中から、望ましいEEZ 制度が次第に具体化していくこととなろう。海洋基本法が、その目的で述べている「わが国が国際的協調の下に、海洋の平和的かつ積極的な開発及び利用と海洋環境の保全との調和を図る新たな海洋立国を実現する」ためには、このように、海洋の総合的管理と持続可能な開発に向けて、わが国が世界各国と切磋琢磨してこれに取り組んでいくことが重要であり、このため、当分の間、先進的な取り組みをしている各国および国際社会の海洋政策と法制の研究は欠かせない。本研究は、そのような視点にたって、海洋政策研究財団が日本財団の助成を受けて行なった2007 年度の政策研究の成果の一つである。これらが、今後の海洋基本法に基づく海洋政策の具体化にいささかなりとも貢献できれば幸いである。第1 部各国の海洋政策と法制に関する研究12第1 章 英国海洋法案1. 英国の海洋政策に対するこれまでの取組み英国は、サッチャー政権以降、大規模な行政改革に取り組むと共に、1990 年代後半からは、統合的な海洋管理政策に取り組んできた。その動きを時系列的に纏めると以下のようになる。・1998 年 リフレット「より清浄な海(Cleaner seas)」発表これまでの英国近海の海洋環境に関する問題と、その問題に対する政府の取組みについて整理されたもの。しかし、政府の包括的な方針や戦略、政策に関する記述はない。・2001 年3 月 ブレア首相が、英国の海洋環境政策方針について、「政府の内外における海洋環境保全の改善のための措置を開始する」旨の発表を行う。この中で「海洋管理報告書(Marine Stewardship Report)」作成の方針も盛り込まれた。・2002 年5 月 英国初の海洋管理報告書「私達の海の保護:海洋環境の保全と持続可能な開発のための戦略(Safeguarding our seas: a strategy for theconservation and sustainable development of our marineenvironment)」がDEFRA から発表。当報告書は、あらゆる海洋関連分野において、横断的かつ統合的、持続可能な海洋管理をするため、英国政府の理念と戦略のアウトラインを提示し、これまでの政策実施における取組みを整理した上で、将来の具体的な政策枠組作成のための方向性を示している。・2002 年11 月 上記報告書のフォローアップ諮問文書「変化の海(Seas of Change)」を発表(DEFRA)上記報告書の発行後、次のステップとして複数のワークショップの開催を経て発表された。当文書は、海洋環境に関する政府の理念実現を促進することを目的とし、施策実施の枠組やアプローチ方法、戦略的目標などを提示し、その政府の見解に対して意見を募る形をとっている。・2006 年3 月 「A Marine Bill, A consultation document of the department forenvironment, food and rural affairs」発表これは諮問文書であり、英国における海洋法を制定するプロセスの前段階として、この文書をもとに意見を集約した上で法制化を目指す性質のものである。・2007 年3 月「A Sea Change, A Marine Bill White Paper」発表この諮問文書は、調査的な性格が強い上記のA consultation documentとは異なり、明確に立法を意図している。32. Marine Bill(以下、海洋法案) の概要(邦訳は資料1 参照)(1) 海洋法案の必要性英国は長年に渡って海洋関連活動を管理し、海洋生物及び海洋環境を保護するための法令を制定し、運用してきた。しかし、それらの政策は統合的な視野を持って実行されてきたわけではなく、個別バラバラに実施されたため、一貫性を欠き、行政手続を複雑なものとしていた。英国政府は、このような非効率な行政システムを是正することにより、コストの削減や行政の合理的運用の実現を図ろうとした。(2) 目標海洋法案の目標は、英国政府が管轄する地域において、以下のような新しい枠組みを導入することである。① 海洋空間計画を基礎とし、エネルギー及び資源の利用、環境保全との調和を図る枠組みの構築② 海洋環境に係る統合的な計画、管理及び保護のための枠組みの構築③ 既存の執行体制や法制の簡素化④ 持続可能な発展などの諸原則に則った枠組みの構築(3) 適用範囲海洋法案の地理的な適用範囲については、英国の領水、漁業水域、排他的経済水域及び大陸棚を対象としている。ただし、英国はスコットランド、ウェールズ及び北アイルランドの各分権政府に多くの権限を委譲しており、実際に実施される内容や方法については、各分権政府によって異なってくる。また、マン島及びチャネル諸島については、英国ではなく王室領であるため、これと協調し、政策を実施していく。(4) 具体的政策2007 年3 月に発表された海洋法案は、全8 章、169 頁で構成されている。その章立ては、①序論 ②陸と海との統合 ③環境に関するデータと情報 ④海域における計画立案⑤海域における許認可を必要とする活動 ⑥海洋自然保護区 ⑦海洋漁業管理の近代化 ⑧海洋管理機関 となっている。① はじめに海洋が英国にもたらす経済的、環境的及び文化的恩恵、気候の形成に海洋が大きな影響を与えていること等を考慮し、海洋が人類の生命維持に不可欠な存在であることを示唆。しかし、海洋の開発が進むにつれて、資源や環境の悪化が深刻な状況になってきた。また、海洋の活動はいずれも根源的には関連しているため、個別の問題に対処していったとしても、根本的な問題解決にはつながらない。そこで、統合的な海洋政策を実施する必要性が生じた。英国は海洋問題に対処するため、以下の戦略的アプローチをとる。即ち、海洋開発の目標と優先順位の明確化をはかる全国的海洋計画立案システムの構築、海洋開発許認可制度の簡素化・統合、海洋保護区の設定を含む天然資源の保護、漁業管理体制の再構築、海洋管理機関の設置である1。② 陸地と海洋の統合海洋汚染の大部分は陸地の活動に起因していることを指摘し、海洋環境を保護するためには、海洋と陸地を統合的に管理する必要があることを強調している。また、2002 年に欧州連合が採択した「統合沿岸域管理の実施に関する提言」を基礎としたアプローチの構築を目指すとしている2。1 A Sea Change A Marine Bill White Paper, March 2007, DEFRA, p.6.2 Ibid, pp.14-15.4③ 環境データと情報英国周辺海域におけるデータ収集は比較的進んでいるが、陸地におけるデータ収集と比較すれば、未だに十分なものではない点を指摘している。新たな海洋管理制度を構築するには、適切なデータ収集・整理・管理が不可欠である。現在、英国海洋監視戦略及び海洋データ情報パートナーシップの一部として、データ収集及び管理が行われているが、それらの情報がそのまま活用されるわけではない。そこで、各機関が収集した情報をネットワーク化し、共有できるようにすることが必要である。また情報を収集するに際しても、効率を考え、一回収集することで何度も使用できる汎用性の高い情報を収集・管理することが重要であるとする3。④ 海洋域における計画立案海洋資源を保存し、海洋環境を保護した上で持続可能な発展を遂げるためには、戦略的な海洋開発計画が必要であることを指摘している。開発の目標と開発の優先順位を明確化するとともに、戦略的海洋計画立案システムを創出することにより、海洋資源をより効率的かつ持続的に利用し、もって海洋への負担を最小限にする。そのためには、政府だけ、あるいは政府の特定の官庁だけで当該計画を立案するのではなく、民間の利害関係者を含めた政府横断的に多様な関係者が関与することが重要である4。そうすることにより、計画の透明性及び効率性が確保され、結果的に計画そのものへの信頼性も増すことになる。⑤ 海洋領域における許認可活動持続可能な開発を促進する上で必要となる許認可制度の効率化を取り上げる。英国周辺海域では各種の海洋開発が実施されており、それらの開発に関連する許認可も多様なものとなっている。現在、許認可が必要となる事項として、浚渫、炭素貯留、石油・天然ガス等の海底資源の探査及び開発等、風力や波力発電を中心とする沖合再生可能エネルギープロジェクト、ケーブル敷設等があげられる。そして、それらの許認可については、1985 年食品・環境保護法及び1949 年沿岸保護法を中心になされていた。そのため、開発には複数の許認可が必要となるなど、手続は非常に煩雑であった5。そこで、迅速、低コスト、効果的かつ一貫性のある許認可決定を実施するためのシステムの構築が求められ、それに必要な機関の統合・新設が必要となる。英国では、許認可申請を処理する海洋管理機関を新設しようとしている。⑥ 海洋自然保護英国周辺海域は生息生物が多岐に渡っており、それを保護しつつ、海洋の生態系の悪化を食い止める必要があることを指摘している。そのため、環境への配慮が意思決定プロセスの中心にあるような仕組みを構築する。具体的には、海洋保護区域6を設定し、それらをネットワーク化することにより、情報の共有をはかることがあげられる。⑦ 海洋漁業管理の刷新生態系を保護しつつ、持続可能で収益性のある漁業の実現をはかるため、漁業管理の強化を指摘。漁業管理体制を強化するため、関連機関の目的と任務を明確にし、沿岸漁業及3 Ibid, pp.16-17.4 Ibid, p.30.5 Ibid, p.64.6 設定される保護区の種類については、ibid, p.73 を参照。5び環境管理の取り決めを刷新する。また、漁業関連法令を簡素化することにより、透明性を確保し、分かりやすい内容の法制を目指す7。⑧ 海洋管理機関(MMO)一貫性のあるアプローチを提供し、データの整理を行いつつ行政コストも削減するためには、統合された機関を新設する必要があることを指摘。新設する機関は海洋管理機関(MMO)であり、任務としては、戦略的計画の立案、海洋許認可業務、漁業管理・執行、海洋環境保護業務、データ収集・整理等非常に多岐にわたる8。本機関は、部門横断型行政機関(non-departmental government body)として、いかなる省庁及び大臣からも独立して業務を行う。」(5) パブリックコメントの概要海洋法案 は2007 年3 月15 日に発表されたが、それから三ヶ月にわたり、パブリックコメントを募集し、6 月8 日に締め切られた9。パブリックコメントの総数は8519 にのぼった。その殆どが組織からの意見(8085)であり、個人からの意見は434 に過ぎなかった。全体の意見のうち、82%は、概ね海洋法案を支持しており、各章に関しても評価するものが多い。ただ、海洋法案の問題点や修正すべき点についても指摘している意見も存在したため、主なものを取り上げる。それらの意見のうち、多かったものは、まず、海洋法案が適用を想定する地理的範囲及び海洋環境保護についてである。まず第一の点については、英国は、その行政権限のうちの多くを各分権政府に配分しているため、関係が非常に複雑であり、各分権政府が海洋法案に沿った政策をそこまで実施するのかとことも不明確であると指摘する意見が多い。また、このような問題は、行政手続の効率性向上及びコスト削減を掲げた海洋法案にとって、甚だしい矛盾を生じさせるものであるということも示唆している。次に、海洋環境保護についてだが、多くの意見は、海洋法案で掲げる海洋環境政策では不十分であると指摘する。具体的には、環境影響評価といった指標を漁業にも採り入れるべきであるとか、外来生物が在来生物に与える影響を過小評価しているといったことである。今後のスケジュールであるが、これらのパブリックコメントを参考にして、海洋法案に修正を加えた上で、2008 年初頭を目処に改正草案を発表し、関係各省庁との折衝を重ねつつ、議会への上程をはかり、成立を目指すことになっている。7 Ibid, pp.108-109.8 Ibid, p.128.9 Summary of responses to the consultation on : A Sea Change A Marine Bill White Paper, October 2007, DEFRA.6第2 章 米国の沿岸管理政策2006 年から2007 年にかけて、米国海洋大気庁(NOAA)の海洋・沿岸資源管理局は、沿岸州機構との協力の下、沿岸管理者と利害関係者、連邦政府関係部局が沿岸管理の将来に向けた改善を検討するプロジェクトを実施した。このプロジェクトは沿岸域管理法の修正及び行政上改善を通じて、いかに立法上の変化をもたらすかを模索することを目指した。このプロジェクトの成果として、「沿岸域の将来像の構想」という報告書が2007 年10 月に発表された。1. 主要な成果主要な成果は、沿岸域管理法を再施行するために基本方針と特定の選択肢を一括して示したことである。この構想は3 段階を経て実施された。・沿岸管理の問題点、制約、機会を特定する討議ペーパーの起草・問題点と優先事項をさらに特定するために州の沿岸管理者の観点を調査・協力者との調整を改善するための方策を含め、沿岸管理を改善するための選択肢を特定するためにより広い沿岸地域への関与これらの一環として、2007 年の夏にマサチューセッツ州ウォルサム、イリノイ州シカゴ、ジョージア州アトランタ、ハワイ州ホノルル、カリフォルニア州サンフランシスコで、利害関係者による討議が開催された。さらに、主要な連邦部局の協力者及び幅広い分野と利益を代表する専門家とのさらなる協調・調整に向けた戦略についての討議も行われた。2. 主な論点(全文訳は資料を参照)(1) 修正される沿岸域管理法(CZMA)の礎石・CZMA は、沿岸資源および地域社会の長期的な持続可能性を保証しなければならない。・CZMA は、目的駆動型であり、成果志向でなければならない。・CZMA は、国家的重要課題に対処するために、連邦、州および地方政府と協力し、連携しなければならない。・国家沿岸管理プログラムは、その中で各々がプログラム目的を達成する責任を負う、連邦政府および州政府間の任意のパートナーシップであり続けるべきである。(2) より優れた沿岸管理のための基本原則・健全な生態系と沿岸経済を維持するための国家目標と優先事項の確立・CZMA に基づくプログラムが生態系の機能とより一層協調するように、沿岸陸域および沿岸海域の境界線を決定するための標準的手順の確立・連邦政府と整合された州の権利の保持7・地域社会、部族、およびその他の関与を拡大するための、NOAA、州、および国家河口研究保護組織による計画および意思決定を連絡する公開プロセスの使用の改善・NOAA、州、および国家河口研究保全組織に対する、国家的優先事項に基づく測定可能な目標設定の要求・政府その他の技術援助、財政支援、応用科学、能力開発、国家および州の目標を進展させるためのアウトリーチ活動について、これらを統合・活用する権限をNOAAに付与する・CZMA の財政支援は戦略的であり必ず成果に結びつくこと、ならびにNOAAおよび州は進歩に対する責任があること・特別区域計画および特に懸念される資源のための管理の促進・資源保護、管理、調査および教育、またはこれらのいずれかのための保護区の確立・地域的課題に取り組むためのパートナーシップに対する支援・すべてのレベルの政府間における連携の改善・地方政府を関与させるメカニズムの強化・スチュワードシップを促進するための、非政府組織、学術界、民間企業、その他とのパートナーシップの活用の拡大8第2 部国際社会における海洋問題の動き910第1 章 EU 海洋政策1. 統合的海洋政策策定の動き欧州連合(以下EU)は27 加盟国のうち22 ヶ国が沿岸国であり、GDP の約3-5%を海洋産業が占めるなど海洋への依存が高い地域である。この地域では海洋管理は補完性の原則に従って基本的に加盟国に委ねられ、EU レベルでの海洋関連政策は漁業・環境・運輸といった分野別に策定され、EU と加盟国の間、加盟国間、分野間の政策を調整する制度は整えられていなかった。しかし、持続可能な開発に関する世界首脳会議ヨハネスブルグ実施計画(2002 年)等、統合的海洋政策策定への意識が世界的に高まるなか、2005 年から欧州委員会において統合海洋管理政策策定のための作業が開始された。中心となったのは欧州委員会のジョゼ・マヌエル・バローゾ委員長(ポルトガル)とジョー・ボルグ漁業・海事担当委員(マルタ)である1。2005 年1 月に発表された「戦略的目標:ヨーロッパ2010(Strategic Objectives2005-2009 Europe 2010: A Partnership for European Renewal Prosperity, Solidarity,and Security)」においては、環境的に持続可能な形での海洋活動と海洋経済の振興を目的とする包括的海洋政策の必要性が指摘され、同年3 月に発表されたコミュニケでは、包括的海洋政策策定への第一歩として海洋政策タスクフォース(Maritime Policy Task Force)の設置及び将来のEU 海洋政策に関するグリーンペーパーの作成が決定された2。グリーンペーパーとは、欧州委員会が特定の政策分野について、ステークホルダーによる議論を喚起し、協議過程への参加を促す目的で発行する文書である。グリーンペーパーを基に議論が行われた結果、欧州委員会は特定分野のEC の行動に関する公的な提案を含むホワイトペーパーを発行することもあり、さらに理事会の同意が得られれば、当該事項に関する行動計画の作成や立法へとつながっていく。海洋政策タスクフォースはジョン・リチャードソン氏を長とし、7つの作業部会(WG 1:海事産業の競争力、WG 2: 社会的・訓練的側面、WG 3: 排他的経済水域・資源・海洋法、WG 4: 海洋調査・データ収集、WG 5: 地域的問題・インフラ・観光産業、WG 6: 海事安全と海洋安全保障、WG 7: 気候変動)により構成される3。その活動は運営委員会が指揮するものとし、運営委員会はボルグ委員を議長として7 人の欧州委員(企業・産業担当副委員長、運輸担当副委員長、環境担当委員、地域政策担当委員、漁業・海事担当委員、研究開発担当委員、エネルギー担当委員)により構成される。こうして作成されたグリーンペーパーは2006 年6 月に欧州委員会により『欧州連合の将来の海事政策に向けて:海洋に関するビジョン』と題して発表された4。2. グリーンペーパー『欧州連合の将来の海事政策に向けて:海洋に関するビジョン』511グリーンペーパー「欧州連合の将来の海事政策に向けて:海洋に関するビジョン」(以下グリーンペーパー)は全7 章、20 節によって構成される約50 頁にわたる文書である。統合的海洋政策の基本原則(「成長と雇用のためのリスボン戦略」及び生態系アプローチ、補完性の原則)が第1 章で論じられ、以下、EU 海事産業の競争力強化(第2 章)、沿岸市民社会の生活の質の向上(第3章)、持続可能な海洋管理推進のためのツール(第4 章)、海洋管理の分野別・国別アプローチから統合的アプローチへの転換の必要性(第5 章)、海事活動に対するイメージの向上(第6 章)等につき様々なアイデアが提示されている1。なお、ステークホルダーの議論を喚起するという目的から各節末にはパブリックコメント用に若干の設問が付せられている。3. ブルーブック『欧州連合の統合的海洋政策』(1) コンサルテーションプロセスグリーンペーパー発表後、2007 年6 月末まで一般から意見を募集するコンサルテーションプロセスが設けられ、EU 内外の国家政府・地方自治体・NGO・企業・個人から約500件の意見が提出された。日本からは日本政府及び大日本水産会が意見を提出している。コンサルテーションプロセスで寄せられた意見をまとめると、次のようなものになる。・海洋政策への統合的アプローチ導入に対する一般からの大きな支持・加盟国やEU機構間の既存の権限配分維持への要望(特にグリーンペーパーでの「欧州コーストガード提案」に対する反対)・既存の法・政策の効率的実施の必要性への強い要望・海洋環境に関しての国際的取組み推進への強い要望・反面、グリーンペーパー中で提示された国際基準より厳しいEU基準の設定については反対意見も多い。・環境的な持続可能性と海洋産業の競争力の維持に関するステークホルダーの認識の高さ(2) ブルーブック『欧州連合の統合的海洋政策』の概要この成果をふまえ、欧州委員会は2007 年10 月10 日に通達『欧州連合の統合的海洋政策』(ブルーブック)及び同通達付属の作業文書『付属行動計画』、更にコンサルテーションプロセスの成果をまとめた通達『欧州連合の海洋政策に関するコンサルテーションの成果』を同時に採択した6。1 「補完性の原則」とは、EU と加盟国の行動範囲について規律する原則であり、EU の排他的権限に属さない政策領域においては、EU は、加盟国もしくは地方レベルよりもEUレベルで取り扱われた方がより効果的に目的を達成できる、と判断された場合のみ行動できるとするものである(EU 条約第2条、EC 条約第5 条)。12ブルーブックは5 章約15 ページの短い文書であるが、EU の統合的海洋政策策定へ向けたビジョン及び欧州委員会が今任期中(2009 年10 月まで)にとるべき行動計画の概要が提示され、行動計画の詳細は8 章約40 ページからなる『付属行動計画』において論じられている。ブルーブック第1 章「サマリー」ではEU 統合的海洋政策の基本原則が示される。すなわち、EU 統合的海洋政策は、政策決定における分野・レベル(EU・加盟国・地域等)間の相互作用の考慮や、各分野別政策下の行動が共通の政策枠組み内で作成されるよう確保するものであり、『成長と雇用のためのリスボン戦略』及び『持続可能な開発のためのヨーテボリ戦略』に基礎をおくと説明される。また、行動計画は補完性原則、自由競争原則、ステークホルダーの参加、生態系アプローチに沿って実施されることが述べられている。第2 章「コンテクスト」では、欧州の海洋産業の競争力維持には良好な海洋環境が不可欠であるが、海運・漁業・環境等の分野別の政策策定では海を十分に活用できないとするEU 統合的海洋政策の下地となる認識が論じられ、包括的で革新的なアプローチをとる必要性が説明される。第3 章「海洋政策のためのガバナンス枠組みとツール」では、統合的海洋政策には、①EU・加盟国・地方等全てのレベルにおける海洋ガバナンスに対する統合的アプローチの適用(分野別政策や海洋関連機関の調整、ガイドライン作成、政策決定時におけるステークホルダーとの対話や政策影響評価等による「より良い規制」原則の導入等)、②統合的政策策定を可能にするツール(既存の海洋監視システムの統合による欧州海洋監視ネットワークや海洋空間計画構築、既存の情報ネットワーク統合による情報共有)、③健全な財政基盤の3 つが必要であるとし、その実現の為に欧州委員会が行うべき行動が示される。行動の具体例としては、2008 年内の加盟国に向けた国レベルでの統合海洋政策策定ガイドライン作成及び2009 年からのEU 及び加盟国の海洋政策策定に関する年次報告の作成等である。第4 章「EUの統合的海洋政策に必要な行動分野」では、EU 統合的海洋政策が重点を置く5つの行動分野(①海洋の持続的利用の最大化、②海洋政策のための知識基盤の確立、③沿岸地域における最高の生活の質の実現、④海洋問題に関してのEU の国際的なリーダーシップの推進、⑤マリタイム・ヨーロッパの認知度の向上)について、統合的アプローチをとる意義が詳しく説明されている。また。欧州委員会がとるべき行動については、域内海運の効率化を目的とした「障壁なき欧州海事輸送空間」や包括的海洋調査戦略の2008年度内の提案、沿岸地域の温暖化リスク等へ対処した共同体災害防止戦略作成、拡大・欧州近隣政策等の下での近隣非EU 諸国との海の管理と海洋政策に関する協力促進、海洋への市民の関心の喚起を図る欧州海の日European Maritime Day の2007 年内の制定提案等など、各事項につき具体的な行動が提案されている。第5 章「結論」では再度、行動計画の目的及び補完性の原則に言及し、閣僚理事会、欧州議会、各国政府や他のステークホルダーに対して、本海洋政策への積極的な反応を要請13して締めくくっている。なお、行動計画の主なものは次のとおり。海洋管理2008 年海洋管理のための共通原則ガイドライン及び海洋政策へのステークホルダー参加ガイドライン作成2008 年ベストプラクティスの共有を図るステークホルダー間ネットワーク構築に向けた取り組み開始統合的海洋政策のためのツール2008 年 加盟国における海洋空間設計を促進するためのロードマップ発表2008 年 異なる海洋活動(生態系の維持を含む)に適用可能な手段とニーズの分析海洋の持続可能な利用の最大化2007 年10 月 海事クラスターに関するスタッフ作業文書発表※2009 年末 船員の能力向上のための行動計画を提案する2007 年10 月 港湾に関する通達を採択する※2008 年中半 船舶解撤に関する通達を提出する2008 年 漁業における生態系アプローチに関する通達の提出欧州の海洋と海洋調査2008 年 海洋調査戦略の作成沿岸域の生活の質の向上2008 年 気候変動に対するアダプテーションに関する戦略の作成2008 年14 半期 沿岸地域での事業のデータベース作成海事に関しての欧州の国際的リーダーシップの確立2008 年 途上国を含めた第三国との海事問題に関する対話2008 年 北極海報告作成マリタイム・ヨーロッパの認知度の向上2007 年 欧州海の日の提案※※は実施済み(2008 年3 月現在)(4)ブルーブック発表後のEU の動きブルーブックの公表当日から、はやくも欧州委員会はブルーブック及び行動計画の実施を開始している。例えば労働分野では、コンサルテーションプロセスでステークホルダーから提出された14意見をもとにしてブルーブック及び付属行動計画においてEU 労働法での海事職の取り扱いの見直しが取り上げられたが、同ブック公表当日に欧州委員会は海事職の労働制度見直しに向けたソーシャルパートナーとの協議を開始している。その他、エネルギー・漁業・公海の深海底生態系保護、障壁なき欧州海事空間、海のモーターウェイ構想、港湾の機能強化、海事クラスター、海上における法執行等に関して、通達・作業文書等の発表、コンサルテーションの開始等さまざまな措置がとられている7。また、欧州委員会は本ブルーブック及び行動計画につき、関係閣僚を招いた非公式会合(2007 年10 月22 日:於リスボン)を開催して審議したほか、通達として関係機関に提出している。これをうけ、2007 年12 月に開催された欧州理事会(EU 加盟国の首脳及び欧州委員会委員長により構成され、EU の一般的政策方針を決定する)においてもブルーブックの審議が行われた。欧州理事会議長総括では、本ブルーブックを次のように評価している8。「欧州理事会は、欧州委員会通達『欧州連合の統合的海洋政策』及び同通達付属の作業文書『付属行動計画』を、海洋問題に対する統合的アプローチ作成の最初の具体的なステップとして歓迎する。パブリックコンサルテーションへのステークホルダーの幅広い参加とリスボンでの関係閣僚会議での徹底した議論では、ステークホルダーにとって統合的海洋政策の策定が必要であることが示された。統合的海洋政策は分野別政策の間の一貫性と相乗効果を確保し、付加価値をつけ、補完性原則を尊重するように策定されるべきであろう。更に、統合的海洋政策は欧州が持続可能な開発と競争力の維持という観点で直面している問題にも対応するように策定されるべきであろう。統合的海洋政策では、加盟国や海域の特性を考慮に入れる必要がある、欧州理事会は統合的海洋政策の環境面での柱である「海洋環境政策に関するEU の行動に関する枠組み指令」が欧州議会及びEU 閣僚理事会で可決され、成立したことを歓迎する9。欧州理事会は欧州委員会に対し、行動計画に記載されているイニシアティブや提案を進展させるように要請し、将来の議長国に対し、EU の統合的海洋政策の策定に前向きに取り組むように要請する。欧州理事会は欧州委員会に対して、2009 年度末の進捗状況報告の提出を要請する。」1 駐日欧州委員会代表部2006 年6 月7 日付けEU ニュース(50/2006)「欧州委員会、新たな統合的海洋政策へのビジョンを提示」参照。http://jpn.cec.eu.int/home/news_jp_newsobj1740.php2 European Commission. ”Strategic Objectives 2005-2009 Europe 2010: A Partnership for European RenewalProsperity, Solidarity, and Security “ COM(2005) 12 final.http://europa.eu.int/eur-lex/lex/LexUriServ/site/en/com/2005/com2005_0012en01.pdfEuropean Commission. Communication from the Commission to the Council, the European Parliament, theEuropean Economic and Social Committee and the Committee of the Regions, “ Towards a future Maritime Policyfor the Union: A European Vision for the Oceans and Seas”. COM(2006) 275 final.http://europa.eu/documents/comm/green_papers/pdf/com_2006_0275_en.pdf153 現在のスタッフに関しては、欧州委員会のスタッフ名簿を参照。http://ec.europa.eu/staffdir/plsql/gsys_www.branch?pLang=EN&pId=2559&pDisplayAll=1ワーキンググループ他、海洋政策タスクフォースに関しては、Mare Forum 主催会議、”The New EuropeanMaritime Policy―Challenges and Opportunities.”で海洋政策タスクフォースが提供した資料を参照。http://www.mareforum.com/NewEurMaritPolicy_Ronald_Vopel.pdf4 Green Paper "Towards a Future Maritime Policy for the Union: A European Vision for the Oceans and Seas"COM(2006) 275 final5 概要に関しては昨年度報告書参照。6 ブルーブック:European Commission, Communication from the Commission to the European Parliament, theCouncil, the European Economic and Social Committee and the Committee of the Regions, "An IntegratedMaritime Policy for the European Union" COM(2007) 575 final. 『付属行動計画』: European Commission,Commission Staff Working Document, Accompanying document to the Communication from the Commission to theEuropean Parliament, the Council, the European Economic and Social Committee and the Committee of theRegions, "An Integrated Maritime Policy for the European Union" {COM(2007) 574 final} {COM(2007) 575final} {SEC(2007) 1279} {SEC(2007) 1280} {SEC(2007) 1283} SEC(2007)1278.final. 『欧州連合の海洋政策に関するコンサルテーションの成果』: European Commission, Communication from the Commission to theEuropean Parliament, the Council, the European Economic and Social Committee and the Committee of theRegions, “Conclusions from the Consultation on a European Maritime Policy” COM(2007) 574final.7 http://ec.europa.eu/maritimeaffairs/subpage_en.html#policyなお、EU 統合政策における海事クラスターに関しては、今井義久「欧州統合海事政策に見る海事クラスター活動と志向について」『せんきょう』2008 年1 月号23-30 頁参照。8 欧州理事会議長総括:Brussels European Council-13/14 December 2007 Presidency Conclusions. Para..58.http://www.consilium.europa.eu/ueDocs/cms_Data/docs/pressData/en/ec/97669.pdf9 同指令に関しては、EC 環境総局のサイトを参照。http://ec.europa.eu/environment/water/marine/index_en.htmなお、EU 法において指令(Directive)は達成すべき結果について、これが向けられた加盟国を拘束するが、方式及び手段の選定については構成国の機関の権限にまかせられている(EC 条約第249 条)。16第2 章 海洋政策フォーラム2005 年に上海で1 回目が開かれ海洋政策フォーラム(Ocean Policy Forum)の2 回目の会合が韓国主催によって行われた。参加国は日本、韓国、中国、アメリカ、インドネシア、ベトナム、カナダであった。ベトナムとカナダは初参加、上海フォーラムに参加したロシアは日程の都合で参加できず、今回新たに招待したインドも参加できなかった。1. 会合の概要日時:2007 年11 月13 日(火)~11 月16 日(金)主催:韓国海洋水産部運営:韓国海洋研究所場所:ルネッサンスホテル・ソウル参加国:日本、韓国、中国、アメリカ、インドネシア、ベトナム、カナダ2. 各パネルの概要(1) Country Reports・韓国:96 年設置の海洋水産部(MOMAF)を中心に、海洋環境保護、文化・観光、海洋科学、漁業問題に取り組んでいる。南北間に「特別平和海域」も設定。今後の目標は、現在700 億ドルである海事経済の規模を倍増させることであり、そのために環境、発展、観光、安全、漁業、海運と港湾政策を総合的に展開している。2012 年の麗水(Yeosu)エキスポを準備中で、バランスの取れた地球規模の海洋政策を推進。・中国:海事経済の成長率は国家経済全体より高い。中国政府は海洋政策の展開に力を入れており、2002 年の第16 回人民党大会では海洋開発に関する国家戦略が打ち出された。2006 年には第11 次五カ年計画で総合的海洋管理と海事経済の発展の促進が謳われた。法制度の整備も進んでおり、2000 年には海洋環境保護法が改定され、2002 年には海域使用管理法が制定された。中国の海洋政策は、陸と海の調和を重視し、環境保護、海事産業の育成を目指しつつ、国連海洋法に基づいて国際的な責任を果たしつつ、善隣政策を推進するものである。・インドネシア:インドネシアにとって、海洋は水産や石油資源の源として重要で、2003 年以降国家として海洋政策の策定に取り組んでいる。海洋政策制定に当たってはセクト主義が最大の問題である。2015 年から25 年を見越した海洋政策は、海洋の理解と持続可能な利用及び保護を目指し、「オーシャン・イレブン」として11 の課題を挙げている。同政策は2009 年にマナドで開催される世界海洋会議(WOC2009)で立ち上げられる。・カナダ:生態系の保護が最重要課題だが、連邦制度による分権と原住民の権利の重視が障害となっている。統合的海洋管理を目指して1997 年に海洋法を制定、2002 年に海洋戦略、2005年に海洋行動計画を策定、2007 年には海洋環境の保全を重視した5年計画を策定した。・米国:2000 年の海洋法を受けて策定された04 年の海洋行動計画の実施状況に関する報告書を2007 年1 月に発表した。海洋の理解、海洋の保全、沿岸管理、海運、国際協力に重点を置いた同行動計画は米国の海洋政策の根幹をなしており、特に沿岸管理についてはエコシステムアプローチを採用。・日本:海洋基本法成立の背景、6つの原則および12 の基本的施策、総合海洋政策本部の設置を説明。・ベトナム:1986 年から、海洋を重要な経済発展の面から重視。2020 年に向けた国家海洋戦略を策定している。同戦略では海事経済と環境保全、政府内での調整を重視し、多くの利害関係者を取り込むアプローチを取っている。しかし、経験や知識の不足から具体的な政策は未だ取られず、海洋問題を一括管理する省庁もないため、効果的な海洋政策にはつながってい17ない。(2) パネル1 統合的海洋政策と海洋管理海洋政策研究財団が、海洋基本法の成立の背景として海洋環境資源の保全と管理、海洋での管轄権争い、海運の安全確保等の必要性が官民で広く共有されるようになり、超党派の国会議員によって海洋法基本法が制定されたとの説明を行った。中国からは2001 年策定の海域使用管理法について、官であれ民であれ利用者が費用を支払うシステムになっているとの説明があった。海域使用権は市場メカニズムを通じて分配されており、また積極的に海域の科学調査を行っているとのことであった。韓国からは、統合的海洋管理に向けて、まず組織改編として1996 年に海洋水産部(MOMAF)の設置が行われ、MOMAF が中心となって2004 年に統合海洋政策が策定されたとの説明があった。MOMAF は持続的開発に向けてエコシステムに基づいた管理が行われており、釜山港の開発や、日中との漁業協定の締結もなされ、麗水エキスポの計画も進めている。(3) パネル2 沿岸災害に対する地域の復元力米国NOAA から、近年の災害被害の増加を背景に、地域の復元力の向上に向けた取り組みの紹介があった。NOAA は地域と協力して危険度評価、情報・技術等の提供、地域での教育普及活動を行っている。インドネシアからは、2004 年の大津波を受けて2007 年に災害管理法と小島管理法が策定され、海洋漁業省を中心に、防風林の植樹や漁民用住居の改善、洪水地図や津波被害削減計画の発展等が行われているとの説明があった。韓国では、海洋研究開発研究所(KORDI)が台風による増水、海流、波の観測によって台風被害予測を行うと共に、海岸浸食対策を行っている。この観測には九州大学も協力している。(4) パネル3 海洋遺産、文化、観光中国から、豊富な海洋遺産を保護するために法律を整備し、UNESCO 等との協力の下、積極的に海洋遺産の保護に努めている。また、国家遺産保護のための祝日を設け、非政府組織や個人の意識を高め、文化遺産保護研究のために多くの投資も行っている。米国NOAA からは、海洋遺産保護プログラムの説明があり、タイタニック号では英加仏と、ハワイ沖の日本の潜水艦では日本と国際的協力を行っているとのことであった。またカナダとは五大湖の海洋遺産保護の協力を進めている。同時に、捕鯨やモニター号記念館等の設立を通じて広く市民の理解を深める努力も行っている。(5) パネル4 持続可能な海洋資源の開発ベトナムから、豊かな水産物と海洋観光が国家経済の発展に大きく寄与しているが、豊かな生物多様性の喪失とエコシステムの崩壊という課題を抱えているとの報告があった。これは、災害、石油流出、乱獲、縦割り行政など様々な要因が相俟った結果である。そこで、ベトナム政府では、水産省を中心に海洋保護区の設定を推し進めている。現在、15 の保護区の設定が首相の許可を待つ状態にある。韓国からの報告では、国際的な漁業協定の締結と経済のグローバル化を受けて漁獲量の減少しており、稚魚の放流や漁場環境の保全等を通じた漁業資源の増大と漁業禁止区域の設定や道具の規制等の漁業規制の双方を行っているとのことであった。今後の方向性としては、漁民の意識改革を通じて、水産資源管理を行っていくとのことである。米国では、マグナソン・スティーブンス漁業保全管理再授権法(MSRA)によって、科学的調査に基づいた漁獲限度を定め、乱獲を撲滅することを目指している。MSRAS は漁獲量を市場メカニズムによって取り引きできるようになっている。国際的な協力も視野に入れており、不法漁業に関する多角的な枠組み及び国際機関の強化を謳っている。(6) パネル5 海洋ゴミ管理米国における海洋ゴミ問題は広範囲の地域にわたっており、航行の安全や漁業に悪影響を与え18ている。米国は、海洋行動計画に基づいて省庁間海洋ゴミ調整委員会を設立し、研究、監視、教育、規制を国内外で推進し、この問題に対処している。中国も海洋ゴミ監視プログラムを2007 年に立ち上げ、中国全国での監視を強化している。同時に、教育普及活動の一環として、ボランティア清掃運動にも力を入れている。国際協力も推進していく方針である。北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)も地域協力を推進するための会議やセミナーの開催、ボランティア清掃活動、データ収集・分析、情報提供、教育普及活動を行っている。3. 全体の評価議論を通じて、各国とも海洋の重要性を再認識して統合的な海洋管理に着手しているが、国際的協力の必要性を認識しており、同時に縦割り行政の弊害という共通の障害にもぶつかっていることがわかった。各国とも共通の課題を抱えながら、中には海洋問題を一元的に司る組織を早期に立ち上げた国や、様々な利害の衝突で総合的な政策を打ち出せずにいる国もあった。海洋基本法を成立させたばかりの日本としても、他国の経験に学ぶところが多々あり、また他国の手本となれるところもあり、有意義であった。次回の海洋施策フォーラムの開催地として、2009 年に世界海洋会議をマナドで主催するインドネシアが名乗りをあげているが、各国の海洋政策を朝壊死する上で次回のフォーラムも有意義なものになるであろう。19第3 章 第32 回海洋会議2008 年1 月8 日、9 日の両日に、シンガポールで米国ヴァージニア大学海洋法政策研究所とシンガポールのS.ラジャラトナム国際研究大学(RSIS)が第32 回海洋会議(The 32ndOcean Conference: Freedom of Seas, Passage Rights and 1982 Law of the SeasConvention)を共催し、海洋の自由と通行権に焦点を当てて活発な議論が行われた。1. 会議の概要日程:2008 年1 月8 日(火)~1 月11 日(金)共催者:ヴァージニア大学海洋法政策研究所S.ラジャラトナム国際研究大学(RSIS)場所:オーチャード・ホテル・シンガポール参加者:約200 人2. 各セッションの概要主催者による歓迎の辞、駐シンガポール米国大使による開会の辞の後、ジャヤクマール・シンガポール副首相による基調演説が行われ、航行の自由と世界貿易、エネルギー安全保障及び環境保護との関連が提起された。(1) 航行の自由の背景数世紀にわたって議論されてきた航行の自由の背景について議論され、国連海洋法条約に謳われる国際海峡における通過通行、排他的経済水域が航行の自由と沿岸国の利益を守るために生み出されたことが紹介され、経済活動のグローバル化の進展や災害救援を含む新たな安全保障問題の出現によって航行の自由の重要性が高まる一方、近年沿岸国が国際海峡並びに排他的経済水域に及ぶ主権を拡大しようとしつつある動きに警鐘が鳴らされた。一方で、拡散阻止構想(PSI)や国連安保理決議1540 号など、安全保障上の措置が航行の自由を脅かす危険性も指摘された。(2) EEZにおける科学調査と水路調査他国のEEZ における水路調査には沿岸国の同意が必要なのかどうか、軍事調査と水路調査は区別されるべきなのかどうかという点が議論された。EEZ における水路調査は沿岸国が管轄権を持つとの認識が広まっているが、国連海洋法条約では海洋データの分類を明確にしておらず、ある活動が海洋科学調査なのか、軍事調査なのか、水路調査なのか明確に区別することは難しい点が指摘された。(3) EEZにおける軍事活動2001 年4 月に海南島付近の中国のEEZでEP-3が着陸させられた例を挙げて、米海軍よりEEZにおける他国の軍事活動に制限を課すことは国連海洋法条約の条文に反するとの説明がなされ、EEZにおけるいかなる軍事活動を制限することはできないし、指針20を策定することも不必要との見解が出された。一方、事前の許可なしのEEZ における他国の軍事活動は沿岸国の安全を脅かすものとして、国内法を整備して反対していくとの立場が表明された。(4) 国際海峡における通過通航制度同制度は自由航行を望む国際社会と無害通航を望む沿岸国の利益を調和させるための制度であるが、海上における人命の保護と環境保全対策については、沿岸国が相互に及びIMOと協力して、PSSA(特別敏感水域)設定等の施策を講じることができるとの意見があった。一方、米海軍からは、沿岸国には環境保全の権利はあるが、オーストラリアがトレス海峡に設定したPSSA での強制水先制度を例に、強制水先制度を設定する権利はないとの意見があった。また、国連海洋法条約43 条に基づく、マシ海峡の協力メカニズムについて、笹川陽平日本財団会長の企業の社会的責任(CSR)の概念の基づいた訴えに、沿岸国が柔軟に対応し、利用者が自発的にマシ海峡の航行安全対策に資金を提供するという画期的な仕組みが生まれたとの説明があった(第4 章参照)。(5) 群島航路帯の通航フィリピンは国連海洋法条約に基づいて群島航路帯を設定していないが、群島航路帯を設定しても群島水域における無害通航には制限を課せないので、国土全体をPSSA に設定することを考えているとの説明があった。インドネシアは、国家の一体性を確保するために群島国家宣言を行って、群島航路帯を重視しており、現在3つ設定している。しかし、インドネシアは部分的な群島国家としてしか認められていない。米海軍からは、国連海洋法条約は本来ならば公海である水域を群島水域と認める代わりに、全ての船舶と航空機に対して群島航路帯での通航を認めることになったとの説明があった。群島航路帯の通航は特に艦船と軍用機にとって重要で、沿岸国によっていかなる制限も受けてはならず、また事前通報や承認も必要ないとの見解が展開された。インドネシアが群島航路帯を完全に宣言するまでは、東西航路も含めて国際航行に利用される航路での群島航路帯航行権が認められるべきというのが米海軍の主張であった。実際、国連海洋法条約47 条に適合する形で群島国家を宣言している国家はほとんどなく、多くの国家が47 条に反する形で群島基線を設定している。(6) 船舶に起因する海洋汚染国際的規範や国内法の整備にもかかわらず、同問題は深刻で、偶発的汚染よりも、意図的ないし故意の汚染が大多数である。米国は主要な港湾国家及び旗国として非公式な是正措置から法執行まであらゆる手段でこの問題に取り組んでいる。台湾は国際社会から国家として認められておらず、台湾海峡の環境を守るためには中国との協力が必要である。また、一重構造のタンカーを廃止する昨今の国際社会の動きを例に、台湾海峡に一般に受け入れられた国際規則と水準(GAIRS)を適応することによって、同海峡の環境を保全することが提案された。国際海運会議所(ICS)はIMO と共に普遍的な汚染規制の普及に努めている。21(7) 非旗国による法執行と海洋環境保全米海軍からはPSSA の設定が濫用されると航行の自由を脅かし、国連海洋法条約に謳われる沿岸国と国際社会の利益の調和が崩れる可能性が指摘された。IUU(不法,無規制,無報告)漁業については、旗国による法執行の評価基準の設定と非旗国による法執行の必要性が指摘された。とりわけ、旗国の合意に基づく非旗国による法執行の効果についての検討が唱えられた。3. 会議の評価:議論の内容は、いかに国連海洋法条約が沿岸国と利用国の利益の微妙な調和のもとに成り立っているか再認識させられるものであった。沿岸国は自らの管轄権を増大させようとする傾向にあり、利用者、特に米海軍はこの趨勢に強い懸念を抱き、通航権について積極的に発言していた。米国が国連海洋法条約を批准する動きを見せる中、国連海洋法条約の専門家が集まって毎年開催するこの「海洋会議」は海洋政策の動向を見守る上で非常に有益である。22第4 章 マラッカ・シンガポール海峡に関するシンガポール会議9 月4-6 日、シンガポールで世界海事機関(IMO)とシンガポール政府が「マラッカ・シンガポール海峡に関するシンガポール会議:安全・保安・環境保全の増進に向けて」を共催した。本会議では、国際航行に利用される海峡における多数の利用国等による国際的な協力の枠組みの設立が合意されるとともに、同枠組みの下で推進される航行安全や

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