1.調査研究概要1-1.背景これまでの学校教育の現場では海に関わる事象が取り上げられる機会が少なく、以前より、海洋関係者の間では海洋教育の普及・推進を望む声があった。そうしたなか、平成14 年度の総合的な学習の時間の導入は、外部機関が学校教育に参入する好機と捉えられ、海洋関連機関も次々と支援を目指し始めた。しかし4 年が経過した今日、一部においては成果のみられる例があるものの、全体的には外部機関の支援が十分に普及したとは言い難く、教育現場と支援側の双方に不満足な事例が見受けられる。当財団は、学校と支援機関による効率的な連携体制を模索するため、平成14 年度より3 ヶ年にわたり、「海洋教育拡充に向けた取り組み」を実施し、課題または方法について一定の方向性を示してきた。本研究は、同調査研究で得られた知見を踏まえ、本年度より新たに3 年計画で、海洋教育の効率的な普及方法を検討するものである。1-2.目的「海洋教育拡充に向けた取り組み」では、教育現場の実態把握と支援手法の検討を軸として、1) 教科書分析、ヒヤリングおよびワークショップ開催による現状把握・問題点の抽出、2) 教員研修、学習支援活動および事例見学を通しての支援の手法検討、および3)副読本の作成などの普及方法の検討を行った(図1-1)。本調査研究では、基本的な方向性についてはこれらを引き継ぎつつ、普及・推進方法の検討・実践により重点を置いた調査研究を行う(表1-1)。図 1-1 これまでの調査研究内容と方向性教科書分析、 ヒヤリング、 ワークショップ開催教員研究、 学習支援活動、 事例見学副読本の作成、 情報交流ネットワークの構築普及の手法検討普及の実践Next Phase現状把握問題点の抽出支援の手法検討支援の実践フィードバックフィードバック-1-表1-1 調査研究項目および重点1-3.平成17 年度実施項目平成17 年度実施項目は、支援方法の事例研究および海洋教育普及のための情報整備に区分される。(1) 支援方法の事例研究効率的な支援のあり方を検討するため、教員研修、学習支援を行うとともに、他機関の教育活動への参加を通して、教育現場とのつながりを保つことに努めた。本年度の実施内容は下記のとおり。①教員研修: 柏崎市教育委員会、中央区教育委員会、千葉県教職員組合君津支部教育研究集会、東京都環境教育研究会②学習支援: 横浜市立西柴小学校(出張授業・アドバイス)③他機関の活動研究: 日本海洋学会主催(海の自然教室)(2) 海洋教育普及のための情報整備海洋教育普及推進のために、日本海洋学会との共同による副読本の作成、情報交換を促進するための“海まな”サイトの開設、現場の海洋教育実施者のインタビュー公開および海洋教育に利用できるフリー素材の提供を行った。①副読本: 海のトリビアの普及活動②情報ネットワーク: 海まなサイトの開設・公開、実践校の登録③海洋教育実践者のインタビュー: ホームページ公開④フリー素材の提供: 底生生物他の写真⑤活動報告: 教員研修、学習支援、海の学習見聞録などH14 H15 H16 H17 H18 H19 現状把握 問題抽出 支援の手法検討 支援の実践 普及の手法検討 普及の実践海洋教育拡充に向けた取り組み海洋教育の普及推進に関する調査研究-2-区分月日行事名(主催) 場所内容担当③ 6/4~6/5 海の自然教室高知県参加福島・菅家(日本海学会) 室戸市① 8/17 職員研修講座新潟県講師派遣福島・赤見・堀口(柏崎市教育委員会) 柏崎市企画協力① 8/25 平成17年度 第5回 小学校理科研修会中央区立講師派遣福島・日野(中央区教育委員会) 明石小学校企画協力① 9/23 教育研究集会千葉県講師派遣福島・菅家(千葉県君津支部) 企画協力① 10/29平成17年度研究会東京湾の汚染を探る(東京都環境教育研究会)東京都お台場講師派遣企画協力菅原・福島菅家・日野② 1/27総合学習出前授業アマモに学ぼう 西柴小学校の諸君(横浜市立西柴小学校)横浜市立西柴小学校授業実施助言提供福島・菅家・日野①: 教員研修、 ②: 学習支援、 ③: 他機関の活動研究区分月日情報内容場所内容担当① 3/31 海のトリビア 発行- 発売全員④ 4/10 干潟写真千葉公開福島・赤見・堀口③ 5/3 今井常夫先生: 富津市教育委員会千葉公開赤見・堀口⑤ 3/31 海のトリビア 発刊報告- 公開全員⑤ 6/20 他機関の教育活動研究: 日本海洋学会高知公開菅家・福島・赤見② 7/20 海まな サイト開設- 公開赤見・堀口② 海まな登録: 新潟県新発田市藤塚小学校新潟登録/公開赤見・堀口② 海まな登録: 新潟県柏崎市石地小学校新潟登録/公開赤見・堀口② 海まな登録: 岡山県呉市渡子小学校岡山登録/公開赤見・堀口② 海まな登録: 横浜国立大学付属横浜小学校神奈川登録/公開赤見・堀口② 海まな登録: 目黒星美学園小学校東京登録/公開赤見・堀口② 海まな登録: 横浜市立西柴小学校神奈川登録/公開菅家・赤見・堀口④ 9/12 底生生物写真千葉公開福島・赤見・堀口⑤ 9/22 教員研修:  柏崎教育委員会新潟公開福島・赤見・堀口⑤ 10/14 教員研修:  中央区教育委員会東京公開日野・福島・赤見⑤ 12/20 教員研修:  東京都環境教育研究会東京公開菅家・福島・赤見③ 12/20 岸 道郎先生: 北海道大学北海道公開福島・赤見③ 2/20 坂田邦江先生: 横浜市立西柴小学校神奈川公開菅家・赤見⑤ 3/16 出張授業: 西柴小学校神奈川公開菅家・福島・赤見③ 3/24 菅家英朗研究員: 海洋政策研究財団- 公開菅家・赤見①: 副読本、   ②: 情報ネットワーク   *場所は公開対象の存在(住む)場所③: 海洋教育実践者のインタビュー④: フリー素材の提供、   ⑤: 活動報告表1-2.支援方法の事例研究の活動一覧表1-3.海洋教育普及のための情報整備の活動一覧-3-2.調査研究内容2-1.支援方法の事例研究(1) 教員研修① 柏崎市立教育センター主催 教職員研修(巻末資料2 参照)昨年度に続き、柏崎市立教育センターの依頼を受け、教職員研修の企画協力およびフィールド解説を行った。講師の派遣に際しては、将来の地域内協力を念頭に置き、同市にある財団法人海洋生物環境研究所の研究員の参加を働きかけた。研修目的: フィールドに出て、教育素材としての海を認識すること。主 催 者: 柏崎市立教育センター(担当指導主事 中野博幸)受 講 者: 柏崎市内の小学校教諭18 名企 画 者: 海洋政策研究財団 調査研究員 堀口瑞穂、赤見朋晃解 説 員: 財団法人海洋生物環境研究所 研究員 道津光生、三浦正治海洋政策研究財団 研究員 福島朋彦場 所: 柏崎市内海岸および柏崎市立教育センター会議室日 時: 2005 年8 月17 日 8:30- 16:00○支援に関する検討事項複数の外部機関が合同で研修を担当する。→ 事前に対面するとともに、その後の連絡を密にする。→ 役割分担を明確にする。地元機関に引き継ぐことを念頭にして研修を行う。→ 主催者と該当機関の仲介に努める。○その他(担当者の所感より抜粋)小学校では、行事や他の教育カリキュラムとの関わりもあり、近くに海があってもなかなか訪れることができない。受講者の一名は、海から50mに学校が位置するにも関わらず、海に親しめないとのことであった。 また、教育施設の活用にも課題があった。見学した“サケのふるさと館”には、毎年多くの学校が施設見学に訪れているにもかかわらず、河口や海岸と併せて見学したり、近くに暮らす人たちの実体験を聞いたりしたのは初めてという。海洋教育の推進には好適なロケーションやハード面の充実は必要条件ではあるが、それだけでは不十分である。ノウハウの紹介、コーデイネートを含めたソフト面の充実がより重要である。この点については、当財団の行っている海洋教育普及推進事業の方向性の正しさを改めて確認した。-4-② 中央区教育委員会主催 平成17 年度第5 回小学校理科研修会(巻末資料3 参照)中央区教育委員会が主催する「小学校理科研修会」は、中央区内の教職員を対象にした理科教育研究行事の一つであり、当方にとっては海洋教育推進の場としてとらえることができる。当財団は昨年度の第4, 5 回の研修も引き受け、海洋教育の必要性を訴えることに一定の成果を収めた。そこで本年も、同教育委員会からの依頼を受け、沖ノ鳥島を題材に講演することとした。研修目的: 時事の話題である沖ノ鳥島を題材にして、教育素材について検討すること。主 催 者: 中央区教育委員会(担当 久松小学校教諭 杉本茂雄)受 講 者: 中央区教職員14 名(9 小学校)内容企画: 中央区立久松小学校 教諭 杉本茂雄海洋政策研究財団 研究員 福島朋彦講 演 者: 海洋政策研究財団 研究員 福島朋彦講演補助: 海洋政策研究財団 研究員 日野明日香場 所: 中央区立明石小学校 教室日 時: 2005 年8 月25 日 10:00- 12:00○支援に関する検討事項時事の素材を教育のなかで活かす方法を提示する。→ 相手方担当者と予め打ち合わせ、初等教育の素材になるかを検討した。→ 小学校の教諭が対象であったので、理科に執着せず、幅広い話題を検討した。○その他(担当者の所感より抜粋)講演終了後、参加者から配布資料のデジタルデータが求められたことや、沖ノ鳥島の様子を掲載しているweb サイトの問い合わせがあったのは、ある程度、受講者の興味を惹きつけることができたためと考える。「沖ノ鳥島の自然をとおして子供たちの将来を考える良い機会になった」、「次世代には発言権も選択権もないことをあらためて心に刻んだ」、といった意見が寄せられたことから、知識にとどまらず、考える場も提供できたものと思う。沖ノ鳥島という小さな島をもとに、海洋や子供らの将来について考え、さらに教育の素材としての活用されることを期待したい。-5-③ 第55次千葉県教職員組合君津支部教育研究集会 (巻末資料4参照)千葉県教職員組合君津支部が実施する教育研究集会は千葉県君津地区の教職員を対象にした教育研究行事の一つで、その中の「環境問題と教育分科会」は、海洋教育および環境教育に関する意見交換の場となっている。当財団は、一昨年より共同研究者(助言者)として招聘を受けて参加している。当方にとっても、教育現場の実情把握に有効であることから、本年度も派遣依頼を受け、参加することとした。依頼事項: 現場教員による発表について外部研究者としての客観的な助言を述べること主 催 者: 千葉県教職員組合(担当 環南小学校教諭 辻俊明)参 加 者: 君津地区の小・中学校教員 約30 名助 言 者: 海洋政策研究財団 研究員 福島朋彦記録補佐: 海洋政策研究財団 研究員 菅家英朗場 所: 君津教育会館日 時: 2005 年9 月23 日 10:00- 12:00○支援に関する検討事項発表する教員とは事前に面談することが困難であり、準備なしの本番的要素が大きい。→ 主催側の担当者より事前に資料を取り寄せる。30 分の発表内容だけから活動を評価することの困難さ。→ 先入観を抑えて発表者の真意の理解に努める。○その他(担当者の所感より抜粋)分科会は2 部構成で行われ、前半は2 件の教育事例の発表があり、後半は講師の全体講評であった。約30 名の教職員が参加し熱心な意見交換が行われた。2 件の報告は、身近な自然である干潟や森を守り育てることで、児童・生徒に自分が住む町への誇りを芽生えさせる好事例であった。講評では、外部支援団体を有効に活用し、教育現場にはない専門的な知識やノウハウなどを得ることができれば活動内容が一層充実する旨のアドバイスを行った。特に児童・生徒のやる気を引き出すうえで活動成果を学校外にPR する機会をつくる重要性が共通認識として確認できたことは大きな成果であった。* 後日、本件を当財団のホームページへ掲載することを希望する旨を伝えたところ、躊躇する学校があり、掲載を見送ることとした。児童を預かる立場からすると、氾濫する情報に強い警戒感を持つことが分かった。予め趣旨説明などの配慮が必要だった。-6-④ 東京都小中学校環境教育研究会主催 平成17 年度研修会(巻末資料5参照)東京都小中学校環境教育研究会は、都内の教職員を対象にした環境教育研究行事の一つであり、当財団では昨年度の研修も引き受け、海の教育素材としての価値を訴えた。このように当方にとっては海洋教育推進のための場としてとらえることができるので、本年も研究会への講師派遣を受諾した。研修目的: 私たちの生活は、海洋環境にどのように関わっているのか、それを系統立てて理解すること主 催 者: 東京都小中学校環境教育研究会(代表 杉並区立泉南中学校長 飯田滋)受 講 者: 東京都小中学校教諭 約10 名内容企画: 中央区立久松小学校 教諭 杉本茂雄生物水処理研究所 代表 清水透船の科学館 研究員 小堀信幸海洋政策研究財団 菅原善則、福島朋彦、菅家英朗、日野明日香進 行 役: 菅原善則解 説 者: 清水透、小堀信幸、藤井美恵、福島朋彦、菅家英朗、日野明日香場 所: お台場公園 および 船の科学館会議室日 時: 2005 年10 月29 日 12:00- 18:00○支援に関する検討事項生物水処理研究所、船の科学館および当財団の合同で解説すること→ 合同で解説にあたるにしても役割を明確にする。→ 解説員とは別に専任の進行役を用意する。座学、フィールド観察、機材の取り扱いなど、盛りだくさんの内容。→ それぞれの内容が分散しないように関連付ける。例えば、プランクトンネットで採集したものを実験室で観察するなど。→ カブトガニの立場では東京湾をどう評価するか、といったユニークな視点の提供→ 我々の排出物が汚染源となっていることを、系統立てて説明する。○その他(担当者の所感より抜粋)研修会終了後の懇談会では議論が白熱し、当初の予定を大幅に越えて議論が続いたことは、本研究会のプログラムが参加者の興味をかきたてたと評価できる。また、紹介した水質実験資材の販売先や値段などの詳細情報提供が求められたことは、実際の授業で使ってみようと評価されたものである。今後も、今回の経験をいかしつつ、海洋教育の拡充について努めていきたいと思う。-7-(2) 学習支援① 横浜市立西柴小学校 第4学年総合的な学習の時間 (巻末資料6 参照)西柴小学校は既に海洋教育を積極的に取り入れており、特設クラブ「西柴アマモ隊」の知名度は今や全国区である。当財団は、アマモ隊を指導する坂田教諭と交流があり、かねてより助言等の協力に努めてきた。今回依頼されたのは、4 年生の総合的な学習の時間の締めくくりの授業であるが、この授業は、2005 年6 月に「金沢八景-東京湾アマモ場再生会議」が実施した出前授業のフォローアップも兼ねている。授業では、アマモの解説と、水の酸素と汚れを調べる簡単な実験を行った。授業目的: アマモという植物を通じて、海洋の環境全体を理解すること実施学校: 横浜市立西柴小学校 4 年1,2,3,4 組ク ラ ス: 4 年1・2 組 および 3・4 組内容企画: 西柴小学校 教諭 坂田邦江海洋政策研究財団 研究員 菅家英朗、福島朋彦、日野明日香場 所: 横浜市立西柴小学校 理科室日 時: 2006 年1 月27 日 9:00- 11:00 (2 回分)○支援に関する検討事項別の調査機関の授業を引き継ぐ形式なので、重複を除き、一貫性を保つ必要がある→ 菅家・菅原が同授業を見学し、予め、状況把握に努めた。→ 担当教諭とは繰り返し面談し、状況把握に努めた。授業のフォローアップについて→ 生徒から出た質問について、後日回答書を作って送付した(巻末資料6)。また生徒から感想文(巻末資料6)をもらい、授業に対する自己評価に努めた。当財団の出前授業は6 年生が中心だったので4 年生は初めての試みだった。→ マンガのキャラクターを盛り込むなどの工夫を施した。実験は講義を実施する場合の注意力散漫にならないような努力→ 先に講義を行い後から実験に参加させる。○その他(担当者の所感より抜粋)今回の出前授業では、これまで学習したアマモやヘドロ、海の生き物などのことを通じて、海をきれいにするにはどうしたら良いのだろうという、子どもたちの純粋な気持ちと具体的な行動への意気込みが感じられた。西柴アマモ隊の活動をきっかけとした取り組みが、学校の中だけではなく、大きく地域に広がっていっていることに感動すら覚えた。-8-(3) 教育事例の研究① 日本海洋学会主催 海の自然科学教室 (巻末資料1 参照)「海の自然科学教室」は、海洋学会と国立室戸少年自然の家が高知県内の小学生を対象に開催した海洋教育実践活動である。開催に際して、海洋学会より当財団に招きがあったことから、科学的裏付けのある教育ツールや効果的な伝達方法などを学ぶためオブザーバーとして参加することとした。開催目的: 海洋を自然科学的観点から親しみ・学ぶこと実施対象: 高知県内の小学校 3, 4, 5, 6 年生 約30 名内容企画: 日本海洋学会 教育問題検討部会 岩崎望 / 岸道郎場 所: 高知県室戸市 国立少年の家地先海岸および国立少年の家実験室日 時: 2005 年6 月3-5 日参 加: 海洋政策研究財団 福島朋彦 菅家英朗○スノーケリングに関連して学んだ事項潜水体験、乗船体験が伴うことについて→ 高知大学教育学部からのボランテアスタッフが多数参加した。→ スノーケリングにおいては、特定の入り江の中に限定した。→ 子どもが船酔いすることを踏まえて実習の順番を考える→ 亀の見学など、子どもの集中力や体力を考慮した休息を兼ねたプログラム室内実験について→ 安価で製作できるオリジナル測定器→ 直接体験できなかった子どものためにビデオなどの疑似体験で補う→ 実験装置をお土産として与える・・・家に帰って再び試す→ 実験失敗に備えてのビデオ映像の用意→ 自分の観察した生物(プランクトン)の写真提供は子どもにインセンティブを与える○その他海の自然科学教室に参加し、様々な視点の教育手法を学んだ。それぞれの講師が工夫を凝らした実演だったので、どれをとっても興味深い内容ばかりであった。特に、身近な事例から海洋学の最前線を説明する手法は、研究者集団である海洋学会ならではの試みだった。一方で、受講する対象が小学校3 年生から6 年生までと幅広かったため、すべての参加者に満足いくプログラムの作成は困難である。また、著名な研究者であろうとも、子どもたちの注意をひきつけるテクニックについては、小学校の教諭には太刀打ちできないのも確かであろう。この点は、学校側との協働作業を念頭に置いている我々のスタイルを是非参照していただきたいとも感じた。-9-2-2.海洋教育普及のための情報整備(1) 副読本(巻末資料7参照)学校の授業に海洋の事象を取り上げることは義務ではなく、担当する教員の任意の選択に依存する。従って、海洋教育の普及を目指すのであれば、「選択して頂く」の気持ちを込めて動機づくりを検討すべきである。我々は、選択に結びつく動機を提供するには、敷居の高い学術啓蒙書より、やわらかいまたはユニークな内容の方が効果的であると考えた。もちろん、内容の平易さだけではなく、教科書の単元に対応することや、知識の広がりにつながるようであれば、一層教育現場で利用しやすいと考えられる。以上のコンセプトのもと、現役の学校職員および日本海洋学会・教育研究部会会員との共同作業で作成したのが「海のトリビア」である。正確には平成16 年度の調査研究事業で作成したものであるが、年度末の完成であっため、本報告で紹介する。題 名: 海のトリビア著 者: シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所、日本海洋学会発 行: 日本教育新聞社価 格: 934 円+消費税 ISBN:4-89055-275-8発行後の広報活動の効果もあり、8 月半ばに品切れ状態となり、第二版を印刷することとなった(アマゾンランキング最高780 位まで確認)。海洋関連団体からの評価も概ね良好であった。以下はアマゾンのサイトに掲載された書評2 件どうしてこんな本がなかったのか? June 11, 2005レビュアー: カズちゃんよくある話の種本とは違って、大学などの研究者が関わっており、中にあるものは裏付けとなる出典が明らかな確かなデータが使われているようだ。帯を見ると、小学校の先生の授業ネタなどに使えるのを目標としているようで(?)、関連する教科書の単元名も一目で分かるように書かれている。海に関連しそうな内容がこれでもかこれでもかと盛り込まれており、授業ネタだけなく話のネタにはうってつけである。今話題の「沖ノ鳥島」「メタンハイドレート」から、「犬ぞりが南極で使えない」のような内容もあり、「海」と関係するかな、と思うものもあったがおもしろかった。それにしても、考えてみれば「海」って学校ばかりでなく、世間でもなかなか教えられていない。この本は海のおもしろさの扉を少し開くために役立ちそうだ。-10-参考になりました。September 18, 2005レビュアー: rentogen -内容はどちらかと言うと教師向けですが、なかなか面白かったです。海以外の内容が多かったのが少し気になります。ダイバーには少し不満の出る内容だったかな?(2) 情報ネットワーク(巻末資料7参照)教育現場の活動記録がインターネット上で公開されれば、これから海洋教育を導入しようとする学校に先行事例を紹介することになり、現在実施している学校に成果の公表の場を提供することになり、さらに次なる展開を考える学校には新しい視点の事例を示すことになる。こうした想定のもと、海まなサイト(海を学ぶ、海に学ぶ、海で学ぶ、学校教育のためのサイト)を開設した。海まなサイトのねらいは、海洋教育をキーワードとした情報提供の場の整備であり、将来的には広範なネットワーク構築の支援をめざしている。図 2-1 海まなのロゴとオリジナルグッズサイトの開設に合わせて登録の段取りを決定したが、広報活動を続けるなかで、より分かりやすくするためのフロー作成、オリジナルグッツの制作など、効率化を目指して臨機応変に取り組んだ(表2-1)。表 2-1 海まなに関する準備実施状況年 月日      実施事項2005年6月29日海まな登録制度概要・作業スキーム・フロー決定7月20日webサイトオープン・登録受付開始8月20日URL転送設定9月13日海まな報告発信機能完成9月15日登録フロー決定11月29日登録1校目12月18日登録証完成2006年1月15日オリジナルグッズ完成-11-サイトの開設当初は、なかなか登録する学校もなかったが、新聞への掲載、ポスターの作成、イベント参加、教育関係者への直接的働きかけ、およびオリジナルグッズの配布などにより(表2-2)、現在では6 校11 グループの登録に至った。今後も、登録校を増やすとともに、登録校同士の連携を高め、海洋教育全般の意見交換の場を提供したい。表 2-2 海まなに関する広報活動一覧*海洋教育実施校のリストは巻末資料7に示した年 月 日    実 施 事 項2005年7月20日日本教育新聞 記事掲載7月30日ポスター・パンフレット作成7月31日第3回水とのふれあいin浜名湖にて配布8月4日東京湾は生きている船の科学館にて配布8月6日教員セミナー大阪 にて配布8月7日総合的な学習を推進する緊急シンポジウムにて配布8月17日柏崎市立教育センター教職員研修講座にて紹介8月18日上越市教育委員会教育長 小林 毅夫 さん 訪問8月18日佐渡市立高千小学校校長 三田 吉夫 さん 訪問8月27日横浜教員研究会にて配布8月28日新潟生活科・総合の会にて配布9月5日富津市教育委員会学校教育課今井 常夫 さんに依頼9月8日国立教育政策研究所教育課程センター研究開発部教育課程調査官藤 修 さん 訪問10月7日熊本県教育庁社会教育課野尻 絹子 さんに依頼10月7日水俣市教育委員会生涯学習課生涯学習係 研川 英治 さんに依頼10月7日目黒星美学園小学校訪問10月7日横浜国立大学付属人間教育学部小学校高橋 明久 さんに依頼10月12日呉市立渡子小学校 訪問12月海洋教育実施校の調査(53校)12月パンフレット等送付 学校関係者・水族館等 約60件2006年1月24日横浜国立大学付属人間教育学部小学校 紹介2月20日日本教育新聞 紙面対談-12-(3) 海洋教育実践者インタビュー(巻末資料7参照)副読本の提供、先行事例の紹介に加えて、海洋教育パイオニアたちの肉声は、新規参入を促すものと考えた。失敗談とその克服、生徒との喜びを分かち合うときの感動、海への思い入れなど、経験に基づく談話は新規参入を考えるものに勇気を与える。そんな思いから、昨年度より、現場で汗を流したパイオニアたちへのインタビューを掲載することにした。本年も、干潟教育に先鞭をつけた今井常夫教諭、海洋科学の楽しさを子どもたちに伝えるために努力する岸道郎博士、今では全国区の知名度にもなっているアマモ隊を率いる坂田邦江教諭、子どもたちに海洋の安全について説く菅家英朗研究員に、その胸のうちを語ってもらった。(4) フリーの素材提供(巻末資料7参照)教育現場のなかで海を紹介するにも、資料がない、インターネット検索するものの適当なホームページがみつからない、このような声に応えるため、当財団海洋教育サイトの中に、フリー素材のページを開設した。この素材には著作権を設定せず、“海を学ぶ”、“海に学ぶ”、“海で学ぶ”学校への提供を想定した。(5) 活動報告(巻末資料1-6 参照)海洋教育関係者、これから海洋教育に着手しようとする学校に、当財団の海洋教育普及推進活動を紹介するために、逐次サイト掲載を行った。これらの活動報告の閲覧が契機となり、海洋教育への興味を高めることがねらいである。-13-3.まとめと今後の課題本年度の活動は、基礎情報の集積に傾注しており、現時点では海洋教育の普及推進方法の結論を述べる段階にない。そこで本節では学校現場を取り巻く状況を分析して、調査研究の方向性を見極めることとしたい。なお、ここで述べる学校教育を取り巻く状況とは、総合的な学習の時間(以後、総合学習)の動向を指す。当財団の海洋教育の普及促進は、必ずしも、総合学習に固執するものではないが、外部団体としての支援を考えれば、総合学習を中心に据えるのが自然と考えるからである。3-1.総合的な学習の時間平成 10 年に発表された新学習指導要領により、平成14 年度に総合学習が導入されることになった。背景には、これまでの実体験を欠いた知識偏重教育、詰め込み教育、画一的な授業内容に対して、自ら課題を見つけ、自ら物事の関連性を把握することを学ぶ力、自ら問題解決を図る能力などが養えないとの批判があった。換言すれば、総合学習に期待されるものは、実体験を通して、物事(科目間)の連関性を把握し、創造的な態度を身に付けることである。そのために新学習指導要領の中に二つの方向性が示された。① 地域や学校、子どもたちの実態に応じ、学校が創意工夫を生かして特色のある教育活動が行なえる時間② 国際理解、情報、環境、福祉、健康などの従来の強化をまたがるような課題に関する学習の行える時間これらをみれば、現場の教員が工夫しなければならないテーマもおのずと明らかである。体験を含んだ学習設定、分野(教科)横断的テーマ、創造性の期待できるような広がりをもったテーマ、地域色・学校色が示されるテーマなどである。もちろん、これらが必須条件ではないが、総合学習導入の経緯をみれば、無視できることではない。さらに総合学習は「教科」ではなく「時間」であるので、教科のように指導目標や指導内容が確定していない。そればかりか、点数によらないで生徒を評価することも推奨されている。総合学習には新しい要素が含まれるだけに学校現場への負担は小さいものではない。外部支援を求めないで行なうとすれば、担当教諭の高い能力が求められることになる。人一倍の努力をして良質な授業を行なう場合もあれば、ありきたりな安易な授業になる場合もある。しばしば、国際化と称して英会話、環境問題といってゴミ拾い、情報技術はコンピューター、などが安易なテーマ設定の例として批判されている。これまでの教育現場が学習指導要領により事細かく拘束されていたのに対し、総合学習では地域や教員の主体性に大きく依存している。しかも指導内容は確立していない。このようななか、教員だけで総合学習に対応するには障害が多すぎる。現場の教員が外部支援に傾かざるを得ないのも必然的な帰結である。昨今、総合学習に対する様々な評価を耳にするが、将来に向けて、今こそ重要な時期を迎えている。-14-3-2. 外部支援総合学習導入以前は、学外者が学校の教育現場に参画する機会は乏しかった。そのため、教育に関心のある外部機関は、主に学外において教育とのつながりを保っていた。公民館の工作教室、博物館が行なう自然観察会または自然体験塾のようなものもあれば、大所高所から学習指導要領の改訂や教科書の変更を求める意見表明などがそうである。これらに対して総合学習導入後は、一転して、学外者の教育現場への参入機会が増えた。直接授業を行う場合もあれば、資料や副読本の提供、実験機材の提供まで、様々である。この中の一部においては、効果的な支援も見られるが、全体的には効果的に機能しているとは言い難い。外部支援のなかにも、特定の意図がある支援組織によるものと、それ以外の中立的なものがある。前者に相当するのは、電力や食品などの産業系、科学財団系、環境NPO 系などがある。当財団も海洋教育の普及という意図をもった支援団体である。環境NPO の多くも、環境思想の普及・実践などのように支援側の意図は明白である。これに対し、支援側に特定の意図の小さい例には、地元の老人に歴史の話しを伺う、戦争体験を語ってもらうなどがある。支援側に意図のある場合、学校側の評価の分かれることが多い。良い評価例には、学校ではできないような資材、機材または資料を用意した興味深い授業、教師の考える方向性に沿ったサービス精神の伴う授業などがある。一方悪い評価については、良い評価の原因と表裏の関係にあり、一方的な教材提供、教師の方針を先回りしすぎることで教師の主体性を損なうこと、その延長線上にある押し付けがましい授業または自己陶酔型の授業などである。事前の導入授業も行なわずに、いきなり派手なパフォーマンスを行なう授業は“お祭り型授業”と呼ばれ、評判は良いものではない。一方地元の老人の話などは、本来発表のプロではないので、時として冗長になることもあるかもしれぬが、概ね悪評は少ない。人柄、希少性または実体験であることなど、いろいろと理由は考え付くが、基本的には学校が主体性をもって設定した授業であることが大きいと考える。つまり、学校が必要とする話のできる老人を探すところから始まっているからである。学校と支援側の効果的な取り組みを妨げる主たる要因は、支援側と受け入れ側の意思疎通を欠いたミスマッチに帰する。特に支援側の強い思い込みと過剰なサービスには批判が多い。外部支援は、学校単独では困難な方法、視点を提供すべきであるが、主体は学校側・教員側にあるというスタンスを崩すべきではない。学校側の意図を理解し、支援を必要とする部分のみ支援することが、良好な支援体制と考える。3-3. 当財団のこれまでの試み海洋政策研究財団では、平成14 年度より3 ヶ年にわたり、「海洋教育拡充に向けた取り組み」を実施した。当初は、教育現場の実態把握が不十分だったため、教科書分析、学校・NPO・民間機関を対象としたヒヤリング、または教員を対象としたワークショップの開催など、問題抽出のための暗中模索が続いた。調査を続けるうちに、徐々に問題の複雑さと多様性が明らかになった。そのなかでも私たちが特に注目したのは、現場教員への支援が見過ごされがちであることである(詳細は過年度報告書参照)。-15-こうした経過を経て、幅広い間口で取り組み始めた調査研究事業も、その目的を徐々に学校現場に対する効果的な支援方法の調査研究に収斂させるようになった。試みた手法は本報告書の冒頭で述べたとおり、教員研修、学習支援などが中心である。教育現場との直接的関わりは、現場教員や児童の生の声に接する点で有意義であった。授業前の準備、授業後のフォローアップおよび他の教科との関連付けなど、外部の者はこれらの検討事項さえも見落としがちであることに気付いた。また学校側との協働作業は、双方の信頼関係構築にもつながり、事業を進めるうえでの貴重な助言者を得る点で役立っている。一方で、我々の実施した協働作業は特定の教育現場に対してのアプローチという事実は否めない。不特定の教育現場に幅広い支援を行う試みとなると、これまでの取り組みだけでは不十分であるとも確かである。学校側の意図を理解し、支援を必要とする部分のみ支援することが、良好な支援体制と考えるのであれば、学校側の生の声を聞く謙虚な姿勢は欠かせない。そのためにも、学校側との協働作業は有効である。一方で、広く普及推進を図るためには、不特定の教育現場を対象にする間接的支援にも力を注がなければならない。3-4. これからの方向性本章の冒頭で述べたとおり、海洋教育の普及推進方法について、現時点では結論を述べる段階にはない。しかし、その方向性を考えるにあたって、“海まな”の登録までの経過にひとつの示唆があった。海まなサイトの開設から最初の登録があるまでに5 ヶ月を要している。海まなは登録のための費用は不要、掲載内容について義務も制限も定めていない、むしろ掲載する学校側の要望はほぼ無条件で受け入れることで始まった。つまり、客観的にみて登録のハードルは高くない。また2 章でも述べたとおり、ダイレクトメール、メディアによる広報または直接的な勧誘など、登録を促すための不断の努力を継続してきた。そして学校サイドと面談では、大部分が肯定的に評価していることも分かった。にもかかわらず登録までに5 ヶ月の時間を要したのである。登録2 号から6 号までは2 ヶ月しか要していないことを考えれば、先駆者ゆえの躊躇のあることが想像できる(図3-1)。海洋教育が十分に普及していない現状をみれば、海まなの登録経過を海洋教育に置き換えることができる。教育素材としての海洋を肯定的に理解する学校が存在しても、先行事例を知る機会がなければ、実施に際しての“漠然”とした不安を取り去ることは困難である。これまでは費用負担、資機材の提供、講師の派遣などを普及促進の重要なアプローチとしてきたが、海まなの登録過程をみれば、それだけでは楽観的過ぎる。先行事例の紹介― どこかで誰かが実施していることを広く知らしめること― が重要である。本年度に始まった海まなは事例紹介を目的としているので、前述の想定に従えば、海洋教育を普及させるための駆動力になるはずである。しかしながら、前述のとおり、海まな自体のハードルが高いので、それを補う取り組みが必要である。幸いにも我々は、既に海洋教育先駆者へのインタビュー、フリー素材の提供などの補完的アプローチにも取り組んでいる(表3-1)。-16-海洋教育先駆者のインタビューは、パイオニアたちの存在を知らしめ、海洋教育の実施者を勇気づける効果がある(図3-1 の①②③に相当)。インタビューの対象者は、これまでの活動のなかで探索可能であるが、インタビュー内容を周知徹底することについては検討の余地がある。サイトのなかで紹介することとともに、適当な時期をみて、配布可能な冊子として取り纏めることも考えるべきである。画像データに解説を添えたフリー素材は、教育現場が独自に資料を作成するために役立つ(図3-1 の⑤⑥に相当)。現在は生物・環境系に限定されているが、他にも船舶や港湾などの広範な素材提供により、海洋教育全体の裾野を広げることが期待できる。素材の提供は教育現場に利便性をもたらすが、実行に結びつけるには活用方法の事例も必要である。これまでに試みがなかったが、児童を海辺に引率する時に、どのように学ばせるか、どのように安全確保をするか、また得られた知識や感動をどのように広げるか等の指針があれば、フィールド教育の活性化につながる(図3-1 の⑤⑥⑦⑧⑨が相当)。このような学習事例集の副読本化は特に重要である。以上のように、先行事例・先駆者を知らしめること、学習素材を提供すること、さらに学習方法の事例提示を通じて、海洋教育の実体を浮かび上がらせることができれば、次年度以降のより一層の普及推進が期待できる。海洋教育は、まだ十分に普及していないだけに、実施にあたっては漠然とした躊躇が伴う。それを克服するためには、単一のアプローチではなく、多面的な取り組みが必要である。今後は、先行事例・先駆者を知らしめること、学習素材を提供すること、さらに学習方法の事例を示すことなどの様々な方法を通じて、より一層の普及推進をはかりたい。表 3-1 OPRF の取り組みと海洋教育推進における位置付け1. 海洋教育を想定していない学校に動機を与える。多様な動機を与える副読本(海のトリビア)他の学校で行なっていることを周知する(海まなサイト)2. 海洋教育をはじめようと考え出した学校の背中を押す海洋教育に踏み切った学校の声を公開する(インタビュー)資料や素材を提供する(フリー素材の提供)具体的な方法を提供する(海まなサイト)具体的な教育事例を示す(新たな副読本)3. 海洋教育をいざ始めた学校へ指針を示す必要に応じてアドバイス(教員研修)必要に応じて直接参加・資料提供・資材貸与(出前授業)具体的な教育事例を示す(新たな副読本)4. 海洋教育のステップアップを目指す学校に指針を示す他の学校との情報ネットワーク(海まなサイト)必要に応じてアドバイス(教員研修)必要に応じて直接参加・資料提供・資材貸与(出前授業)別の教育方法を示す(新たな副読本)-17-図3-1. 海洋教育導入に関する様々な局面の簡略図海洋教育に ①興味のない状態海洋教育に一過性の興味② 興味をもった状態漠然とした躊躇素案を考え始めた状態③躊躇学内の理解を躊躇④ 取り付けるアクション断念関係する外部団体断念との下交渉 ⑤ 躊躇実行計画の立案⑥課題抽出(躊躇) 断念学内外関係者断念との打ち合わせ⑦海洋教育の実施反省⑧躊躇繰り返し実施(継続性)⑨断念他校と連携による展開拡大海洋教育-18-資 料 1日本海洋学会主催 「海の自然科学教室」1. ホームページ公開(海の学習見聞録)-19-contents>> 更新情報 / 活動実績 / 学習素材・活動案 / 見聞録 / 事業概要top > 海の学習 見聞録>▽海の学習 見聞録・2005.6.4-5 海の自然科学教室海の学習 見聞録海の自然科学教室2005年6月4日から5日にかけて、高知県室戸市にある国立室戸少年自然の家で「海の自然教室」が行なわれました。同教室に参加した福島、菅家がレポートします。■概要「海の自然科学教室」は、日本海洋学会・教育問題研究部会(以後、海洋学会)と国立室戸少年自然の家(以後、少年自然の家)が、高知県内の小学生を対象に開催した海洋教育実践活動です。講師派遣やプログラム作成などのソフト面を海洋学会が担当し、施設やボランティアスタッフの提供などのサポート面を少年自然の家が担当し、日産科学振興財団から資金の援助を受けて実施されました。今回は2004年に続く第2回目で、小学校3年から6年までの総勢30名が1泊2日の同教室に参加しました。海洋学会から派遣された講師は、高知大学の岩崎望助教授、北海道大学・岸道郎教授、東京大学・乙部弘隆講師、東北区水産研究所・伊藤進一室長、東邦大学・風呂田利夫教授、横浜国立大学・菊池知彦教授、金沢大学・長谷川浩助教授です(以後、それぞれ○○講師)。このほかにも、生活面を含めた子どものケアを担当する少年自然の家の職員、及びボランティア、講師の補佐をする高知大学の学生らが参加しました。プログラムは「乗船体験」、「施設等見学」、「室内実習」、及び「シュノーケリング」の4つより構成されていました。「乗船体験」では、少年自然の家の実習船に乗り込み、水中カメラによる海底観察、プランクトン採集、及び採水などの実演が行なわれました。「施設等見学」では、とむろ漁港で飼育中のイルカ、ホテルニュー室戸で飼育中のウミガメを見学しました。「室内実習」では、5名の講師による実験を含めた講義を受けました。「シュノーケリング」では少年自然の家の目前の磯を利用して、班ごとにまとまって生物観察が行なわれました。■乗船体験(第1日目:前半)1.透明度計測と水中カメラによる海底観察(乙部講師)室戸の海が日本でも有数のきれいな海であること、海の水が光を通しにくいことを説明した上で、「室戸の海は何mまで底が見えるだろうか?」と子どもたちに予想させてから、透明度板を使って透明度を計測しました(結果は17m)(写真)。その後、水中カメラの画像を船上の液晶モニターに映し出して海底を観察しました。海底の映像が主でしたが、魚やサンゴらしきものが映ると子どもたちは喜んでいる様子でした。2.プランクトン採集および採水実習(岩崎講師&菊池講師)プランクトンネットと北原式採水器を使用し-21-て、夜に行う室内実習用のサンプルを採集しました。プランクトンネットによる採集は講師とサポートの大学院生が行い、子どもたちは説明を聞いていただけでしたが、採水の時はメッセンジャーの投入と採水器の引き上げなどに子どもたちも参加しました。採水は水深別に行い、その場で水温と塩分の計測も行いました。後半になると船酔いする子どもやスタッフ(!)が続出したため、一部の子どもしか参加できませんでした。□Point海洋調査の実演では海の厳しさを教えることも大事な要素子どもが船酔いすることを踏まえて実習の順番を考える同じ作業の繰り返しに子どもは飽きる(船酔いする)■施設等見学(第1日目:後半)1.室戸岬新港(海の駅とろむ)で飼育中のイルカの見学乗船体験のすぐ後にイルカ見学に行きました。最初は船酔いの治まらない子どももいたようですが、時間とともに次第に元気になる様子をみると、この時間は休息として有効だったようです。当初より、場つなぎ的プログラムとして企画されていたようですが、プログラムのメリハリという意味で意味があったと思いました。□Point・子どもの集中力や体力を考慮した休息を兼ねたプログラム・プログラムにメリハリをつける2.ホテルニューむろとで飼育中のウミガメの見学多数のウミガメが海水池の中を泳ぐ姿を見学するだけのものであるが、間近でウミガメをみたり、甲羅をさわったりする体験は、特に男子児童には興奮を伴うものであるようです。やや不衛生な池でしたので、少年自然の家のスタッフらが甲羅を触ったあとの手洗いを奨励していました。野外活動における安全確保の中に“衛生”という項目を忘れてはならないことを再確認しました。□Point・フィールドプログラムといえども衛生には考慮する■室内実習(第1日目:夜)1.コリオリの力の体験!地球は回っている(岸講師)我々は普段、地球の自転していることを意識することなく暮らしています。しかし大洋の海流であっても、潮汐であっても、自転に伴う転向力(コリオリの力)なくして理解することはできません。岸講師は、回転椅子というどこの学校にもある身近な道具を使って子どもたちにコリオリの力を実感させました。写真のように板をもった少年が回転椅子でくるくる回され、その板の上にピンポン玉を置くと、瞬く間に板をころげ落ちていきます。この時の軌跡は、少年からは大きなカーブのように見え、会場の子どもたちからは直球に見えます。これはコリオリの力のためです。講師は、自ら回転椅子で回転しながら-22-撮影したビデオも紹介しました。人数に制限のあるパフォーマンスの場合、このような措置は有効です。□Point・グローバルな現象を身近な実験で理解してもらう・直接体験できなかった子どものためにビデオなどの疑似体験で補う2.デカルトの潜水夫とアルゴフロート(伊藤講師)魚が沈まずにいられるのは浮き袋があるからです。しかし深海魚には浮き袋がなく、油の詰まった肝臓がそれの代わりを果たしています。なぜなら、深海では浮き袋の空気がつぶれてしまうのです。空気がつぶれるのは水圧が大きいためですが、逆に水圧の小さい深さに引き上げれば空気は再び膨張します。この原理を利用して海洋観測装置ができないだろうか。こんな発想から作られたのが、アルゴフロートです。伊藤講師は、子どもたちに“デカルトの潜水夫”と呼ばれる実験装置を製作させ、そこから最先端海洋観測機器であるアルゴフロートの話に発展させました。子どもたちは、自らが製作したデカルトの潜水夫を、誇らしげに持ち帰りました。□Point・子どもにもできる実験から最先端技術をみる・自分で実験装置をつくる喜び・実験装置をお土産に・・・家に帰っても再び試す3.リン酸塩の濃度測定(長谷川講師)一般的な小学生はリン酸塩といわれてもピンと来ないだろう。ところが、実験中の子どもに「リン酸って何?」と訊ねると、「水の中にあって、たくさんあると赤潮の原因になってしまうもの」の答えが返ってきました。きっと長谷川講師による導入部での解説が功を奏していたのでしょう。リン酸濃度の測定をしたのは、昼間の乗船体験の時に採取した海水です。海水中のリン酸は、モリブデン酸を加えると黄色、さらにアスコルビン酸を加えると青色に発色します。その濃さを測定して、リン酸濃度を測定するしくみです。ここで使用した測定器は講師の手作り品で、1000円程度で製作可能とのこと。何らかの原因で試料が発色しなかった班もありましたが、講師には成功例のビデオも用意していただけ、不測の事態を補うことができたと思います。□Point・分かりやすい導入解説・安価で製作できるオリジナル測定器・実験失敗に備えてのビデオ映像の用意4.プランクトンの観察(岩崎講師 & 菊池講師)昼間に採集したプランクトンを顕微鏡下で観察しました。なんと言っても生き物の関心は高いようで、多くの子どもが顕微鏡下の生き物を見て目を輝かせました。顕微鏡を覗くだけではなく、テレビモニターに写る装置が用-23-意されており、子ども同士の情報共有ができたのも活き活きと観察できた要因のひとつでしょう。また、自分のお気に入りの生き物の写真を撮影してあげたことも好評でした。子どもにインセンティブを与える良い例でした。□Point・顕微鏡を覗くだけの場合は個人の理解だが、モニターを一緒に見ることで情報共有が可能になる・自分の観察した生物の写真提供は子どもにインセンティブを与える■シュノーケリング(第2日目)(風呂田講師)海を科学する。これが風呂田講師の子どもたちに与えた課題です。磯場での観察となると、ついつい“生き物の名前の当てっこ”になりがちですが、ここでは生態学的視点が強調されていました。生き物は、餌を食うため、捕食者に食われないため、より良い環境を探すため、異性と出会うため、出会った異性を横取りされないため、いろいろな工夫をしています。その工夫は、体の形態に表れることもあれば、行動として示されることもあります。講師は、そんな生き物の営みを、子どもたち自身で感じ取って欲しかったのでしょう。□Point・名前の当てっこではなく、生物の生態を学ぶ・自分で疑問を探してくる(生きた観察方法)■感想海の自然科学教室に参加し、様々な視点の教育手法を学ぶことができました。どの実演もそれぞれの講師が工夫を凝らしたものだったので、興味深い内容ばかりでした。特に、身近な事例から海洋学の最前線を説明する手法は、研究者集団である海洋学会ならではの試みでしょう。“Point”として記した点は、それぞれの活動において特に感心した点であり、いずれも当財団の海洋教育グループにとって参考になると思われます。一方で、受講する対象が小学校3年生から6年生までと幅広かったため、すべての参加者に満足いくプログラムの作成は難しいものだと感じました。また、著名な研究者であろうとも、子どもたちの注意をひきつけるテクニックにおいては、小学校の教諭には太刀打ちできないのも確かでしょう。この点は、学校側との協働作業を念頭に置いている我々のスタイルを是非参照していただきたいと感じました。現時点では未決定であるようですが、2006年は金沢を舞台にした自然科学教室が開催される模様です。さらに楽しめる教室になることを期待したいと思います。このホームページは、日本財団の協力を得て制作しました。Copyright(c) 2004: OCEAN POLICY RESEARCH FOUNDATION. All rights reserved-24-資 料 2柏崎市立教育センター主催「教職員研修講座」1. ホームページ公開(活動実績 教員研修)2. 配布資料(抜粋版)-25-資 料 3中央区立教育委員会主催「平成17年度第5回小学校理科研修会」1. ホームページ公開(活動実績 教員研修)2. 配布資料-33-平成17 年8 月25 日中央区立教育センター主催平成17 年度第5 回小学校理科研修会資料沖ノ鳥島の自然~沖ノ鳥島をとおした教育ネタの検討~海洋政策研究財団福 島 朋 彦-37-目 次はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11.沖ノ鳥島とは ・・・・・・・・・・・・・・・・ 22.消失しそうな沖ノ鳥島 ・・・・・・・・・・・・ 33.消失する島をどう救うのか ・・・・・・・・・・ 44.しかし、何のために頑張るのか ・・・・・・・・ 6講演資料参 考 資 料福島朋彦 2004. 沖ノ鳥島周辺海域の主権的権利を失うことの損失はなにか~抽象論から具体論へ~, 沖ノ鳥島の有効利用を目的とした視察団報告書, 日本財団福島朋彦 2005 沖ノ鳥島の再生について~沖ノ鳥島研究会としての取り組み~, 沖ノ鳥島における経済活動を促進させる調査団報告書,日本財団海のトリビアの抜粋: 本研修と関連する部分-38-はじめに私ごとですが、沖ノ鳥島関連の業務に関わるようになって、早くも 10 ヶ月が過ぎようとしています。私には随分と思い入れのある場所になりつつありますが、大部分の人にとっては訪れたこともない南海の孤島ですので、身近に感じることもないことでしょう。しかし、子どもたちの興味の対象は身近な素材だけではありません。自らを幼少期を振り返ると、決して訪れることがないと思っていても“宇宙”に憧れたものですし、“アフリカの大地”でライオンが吼える姿を想像しながら興奮したことを覚えています。沖ノ鳥島は幼少期の私が“宇宙”や“アフリカの大地”に興奮したように、子どもたちを夢中にさせる素材になりうるでしょうか。本日の研修では、“沖ノ鳥島”のなかに一体どんな教育ネタが隠されているのかを考えて見たいと思います。もちろん学校教育に関してはまったくの素人ですので、私の考える教育ネタの効果については皆様に評価していただくしかありません。しかし、家に帰れば中1と小4を抱える2 児の父です。夏休みの宿題に追われる子供らと接しながら、如何にして子供たちの尊敬を得られるかを考えている“野心的な父”でもありますので(無駄な努力かも知れませんが・・・)、きっと現場の先生方との接点があることと信じております。私の講演が、現場の先生方の参考になれば、講師としての望外の喜びです。平成 17 年8 月25 日海洋政策研究財団 福島朋彦-39-1.沖ノ鳥島とは?スライド1: 社会のトピックス(新聞を読もう)中国が島でなく岩というのは、国連海洋法条約の第121 条の解釈が異なるからです。中国と日本は、排他的経済水域内で海洋調査を行う時は,互いに事前通告をする約束があります。しかし中国は沖ノ鳥島の周辺海域は排他的経済水域を宣言できないと解釈しているので、日本からみると“無断な調査”であっても彼らにしてみれば通告の必要もないことなのです。これも元を辿れば国連海洋法条約の第121 条の解釈に行き着きます。石原都知事が沖ノ鳥島を訪問したり、マグロ漁船をチャーターしたりするのは、やはり国連海洋法条約121 条にある独自の経済活動を実施するためです。* 小学生に“国連海洋法条約”が堅苦しいとすれば、“海の憲法”や“国と国の約束事”と言い換えることも可能です。スライド2: 地理のトピックス(沖ノ鳥島の位置を知ろう)沖ノ鳥島をただ単に最南端の島とするのではなく、東京都にもかかわらず東京都区内から1700km、最も近い沖大東島からでも670km も離れていることなど、数字を添えることで印象深くなると思います。またハワイと同じ緯度、台湾より南に日本があるなんて、子どもたちにとって、意外な事実ではないでしょうか。スライド3: 歴史のトピックス(昔から日本)沖ノ鳥島の発見された時期については諸説あるようですが、古い発見情報の真偽は疑わしいようなので、1543 年の発見を最初に記しました。沖ノ鳥島は第一次世界大戦後に日本領となり、第二次世界大戦後に一時的に日本は管轄権を奪われてしまいます。二つの世界大戦という歴史の教科書になじみのある出来事と関連させることが出来そうです。-40-スライド4-6: 理科または社会のトピックス(台風・海流)沖ノ鳥島の位置するのは台風と北赤道海流の通り道です。南の海上で発生した台風がどのような経路で日本列島に到着するのか、台風シーズンに提供する話題に最適です。北赤道海流が北上し、黒潮となって日本列島全体を暖めたあと、再び東に向かって流れ、さらにアメリカ大陸の西岸を南下します。このように北太平洋のなかを回る流れを北太平洋還流といいます。この一連の動きを理解すれば、同じ緯度にもかかわらず、沖縄ではサンゴが発達するのに、カルフォルニアでは発達しないことなどが理解できます。他にも貿易風、偏西風、赤道海流、親潮なども関連付けて学ぶことができると思います。スライド7: 理科のトピックス(ダーウィンの沈降説)沖ノ鳥島は、実は、富士山と同じような形をしています。但し、低潮時に海面上に出てくるのは長さ1.7×4.5km(約450ha)の平坦な部分です。なぜ平坦かと言えば、サンゴでできているからです。サンゴは海面よりも上に成長しないのですが、十分に光が到達するような浅い部分に分布します。すなわち、海面にあわせてサンゴ礁が発達するから、平らになってしま

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