はじめに1994 年に発効した国連海洋法条約のもと、各国は海洋の利用や海洋環境の保護などに取り組んでいますが、その実施にあたっては、各国がそれぞれ責任を持って自国の管轄海域を総合的に管理することが重要であります。また、2002 年8月にヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発のための世界サミット(WSSD)」では、海洋や沿岸域の問題が議論され、国連海洋法条約の施行や持続可能な開発のための行動計画“アジェンダ21”の実施の促進などをはじめとして多くのことが実施計画に盛り込まれました。このような情勢のもと、アメリカやオーストラリア、ニュージーランドのように広大な管轄海域を持つ海洋国では、近年、海洋に係る法整備を積極的に進めています。さらに、わが国と排他的経済水域を接する韓国、中国においても、海洋や沿岸域の持続的な開発に係る法整備や、自国の海洋権益確保に向けた様々な取り組みを行なっております。しかしながら、世界第6位の管轄海域面積を有するわが国は、海洋に関する行政が多くの省庁に分散されており、経済活動や国民生活を支える重要な沿岸域の統合的な管理や、広大な排他的経済水域や大陸棚、さらにはその基点となる重要な遠隔離島の管理などを含めた、総合的な海洋政策が策定されていないのが現状であります。わが国が海洋国家として国際社会においてリーダーシップを発揮するためには、海洋や沿岸域を総合的に管理するための海洋政策を策定してこれを内外に示し、さらにはそれを実行していくことが必要です。SOF 海洋政策研究所では、競艇の交付金による日本財団の助成事業として平成15 年度より「海洋政策と海洋の持続可能な開発に関する調査研究」事業を実施しておりますが、その一環として、わが国海洋政策のあり方を提言することを目的とした「わが国における海洋政策の調査研究」に取り組んでおります。本報告書は、その平成16 年度の成果をとりまとめたものであります。当財団の30 周年を迎える平成17 年度には、わが国の海洋政策に関する提言をとりまとめることとしております。本報告書をお読みいただく関係官庁、地方公共団体、研究機関、大学、NGO など、わが国の海洋政策を実行する関係機関の皆様に、倍旧のご支援、ご協力をお願いする次第です。平成 17 年3月財団法人シップ・アンド・オーシャン財団会長 秋山昌廣委員 名 簿委員長 栗林 忠男 東洋英和女学院大学国際社会学部教授委 員 磯部 雅彦 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授〃 大森 信 財団法人熱帯海洋生態研究振興財団阿嘉島臨海研究所所長〃 来生 新 横浜国立大学国際社会科学研究科長〃 小池 勲夫 東京大学海洋研究所所長〃 多屋 勝雄 東京海洋大学海洋科学部海洋政策文化学科教授〃 徳山 英一 東京大学海洋研究所教授〃 中原 裕幸 社団法人海洋産業研究会常務理事〃 林 司宣 早稲田大学法学部教授〃 寺島 紘士 シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所所長協力者 柴山 知也 横浜国立大学大学院工学研究院教授事務局 岡嵜 修平 シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究所首席研究員〃 佐伯 誠治 〃 〃 〃〃 大川 光 〃 〃 研究員〃 大久保彩子 〃 〃 〃〃 小山 佳枝 〃 〃 〃〃 加々美康彦 〃 〃 〃〃 菅家 英朗 〃 〃 〃〃 櫻井 一宏 〃 〃 〃〃 高橋 鉄哉 〃 〃 〃〃 田中祐美子 〃 〃 〃〃 韓 鍾吉 〃 〃 〃〃 福島 朋彦 〃 〃 〃〃 松沢 孝俊 〃 〃 〃〔敬称略・順不同〕目 次はじめに委員名簿1.研究の目的····························································································································· 12.研究の方法····························································································································· 13.2004 年度の成果···················································································································· 23-1 海洋政策提言の目標設定····························································································· 23-2 海洋基本法案の検討方針····························································································· 2(1)環境基本法························································································································· 4(2)科学技術基本法················································································································· 4(3)エネルギー政策基本法····································································································· 5(4)循環型社会形成推進基本法····························································································· 5(5)森林・林業基本法············································································································· 53-3 米国海洋政策の概要とその概略評価········································································· 6(1)米国海洋政策評価の意義································································································· 6(2)米国海洋政策の見直しの動き························································································· 7(3)米国海洋政策予備報告書の分析····················································································· 84.今後に向けて························································································································· 44付属資料········································································································································· 451.委員会議事録要旨(第4回~第8回) ········································································· 472.米国海洋政策予備報告書の概要····················································································· 811.研究の目的わが国は、四方を海に囲まれて、海の恩恵をその存立基盤として発展してきた。しかし、近年になると、海とわが国社会の関係には大きな変化が起こり、様々な問題が顕在化してきた。一方、国際的には、国連海洋法条約が発効し、また、リオ地球サミットで持続可能な開発原則と行動計画アジェンダ21 が採択されて、国際社会が協力して海洋問題に対処するための共通の法的・政策的枠組みが出来上がり、その具体化に向けて世界各国は熱心な取組みを開始している。このような内外の情勢の変化、特に広大な海域が国連海洋法条約によって法的性格の異なるいくつかの海域に区分され、沿岸国は条約の定める権利義務にしたがって自国の管轄海域およびその環境と資源を管理することが求められるようになったのに対して、わが国政府の認識は十分とはいえず、その対応も各種条約の批准に基づく個別問題への対応にとどまっている。わが国は、海洋・沿岸域の開発・利用・保全に係る高度な技術やノウハウ、人材を有しており、海洋・沿岸域問題に関して国際的なリーダーシップを発揮できるポテンシャルを有しているにもかかわらず、同分野における取り組みで大きな遅れをとることになりかねない。そこで、SOF 海洋政策研究所は、日本財団支援のもと、わが国海洋政策の現状と問題点を明らかにした上で、排他的経済水域・大陸棚の管理と沿岸域の管理に重点をおいて、海洋管理の理念、国内法令の整備、実施体制、施策内容などの具体案を盛り込んだ、わが国海洋政策の提言をとりまとめることとした。2.研究の方法上記目的を達成するにあたり、SOF 海洋政策研究所内に斯界の有識者で構成する「海洋・沿岸域研究委員会」を設置し、関係者の意見等を参考としながら、2003 年度から2005 年の3ヶ年でわが国海洋政策の確立に資する提言をとりまとめる。なお、提言案は、委員会のもとに設置するSOF 海洋政策研究所研究員を中心としたワーキンググループが、委員会委員の指導のもとで作成するものとする。13.2004年度の成果2年度目にあたる2004年度は、主に以下に示す検討を行なった。(1)海洋政策提言の目標設定(2)海洋基本法案の検討方針(3)米国海洋政策の概要とその概略評価3-1 海洋政策提言の目標設定本事業では、2003 年度に3回にわたる委員会を開催し、わが国の海洋政策が抱える問題点や今後進むべき方向性などについて検討を行なった。1その結果を踏まえ、2004 年度に開催した第4回委員会において、本事業の検討目標を以下のとおり設定した。①わが国海洋政策のあり方に関する提言のとりまとめとその普及②海洋基本法案の作成①については、2001 年に日本財団が公表した「21 世紀におけるわが国の海洋政策に関する提言」を参考としながら、アメリカを中心とした海洋政策の策定や整備に積極的に取り組んでいる各国の動向を分析し、わが国海洋政策の現状や問題点を改めて整理した上で、今後わが国が取り組むべき海洋政策に関する提言をとりまとめることとした。なお、ここ数年、中国がわが国の管轄海域およびその周辺海域で展開している様々な活動が政治的、社会的な注目を集め、「海洋権益」という用語がマスコミで頻繁に取り上げられていることを踏まえて、とりまとめた提言を関係政府機関に積極的にアピールすることや、海洋政策の重要性を学会、産業界、NGO などにも広く普及していくこととした。②については、わが国における海洋基本法の必要性を検討するとともに、将来海洋政策基本法の具体化が実現した場合にたたき台となるような案を作成することとした。3-2 海洋基本法案の検討方針まず、現在わが国に存在する基本法を概観し、基本法制定にいたる社会背景や立法プロセス、基本法の目的・構成などを整理することとした。現在、わが国に存在する基本法の一覧を表-1に示す。1 付属資料 委員会議事録要旨を参照2表-1 わが国の基本法法 律 名 公布年月日 備 考1 少子化社会対策基本法 平成15 年7 月30 日2 食品安全基本法 平成15 年5 月23 日3 知的財産基本法 平成14 年12 月4 日4 エネルギー政策基本法 平成14 年6 月14 日5 文化芸術振興基本法 平成13 年12 月7 日6 水産基本法 平成13 年6 月29 日7 特殊法人等改革基本法 平成13 年6 月21 日8 高度情報通信ネットワーク社会形成基本法 平成12 年12 月6 日9 循環型社会形成推進基本法 平成12 年6 月2 日10 男女共同参画社会基本法 平成11 年6 月23 日11 ものづくり基盤技術振興基本法 平成11 年3 月19 日12 中央省庁等改革基本法 平成10 年6 月12 日13 高齢社会対策基本法 平成7 年11 月15 日14 科学技術基本法 平成7 年11 月15 日15 環境基本法 平成5 年11 月19 日16 土地基本法 平成元年12 月22 日17 交通安全対策基本法 昭和45 年6 月1 日18 障害者基本法 昭和45 年5 月21 日19 消費者保護基本法 昭和43 年5 月30 日20 森林・林業基本法(平成13 年7月) 昭和39 年7 月9 日 林業基本法改正21 中小企業基本法 昭和38 年7 月20 日22 観光基本法 昭和38 年6 月20 日23 災害対策基本法 昭和36 年11 月15 日24 食料・農業・農村基本法(平成11 年7月) 昭和36 年6 月12 日 農業基本法改正25 原子力基本法 昭和30 年12 月19 日26 教育基本法 昭和22 年3 月31 日本年度は、これら基本法の中から、海洋基本法案策定の参考になると考えられる以下の基本法について、その概要を整理した。3(1)環境基本法環境基本法は、わが国の環境保全政策の基本的方向を示すもので、それまで公害対策基本法(昭和42 年制定)と自然環境保全法(昭和47 年制定)を基本として展開していた環境政策を見直し、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムを見直し、複雑化・多様化した今日の環境問題に対処する目的で立法化されたものである。環境基本法の規定に基づき閣議決定された環境基本計画は、政府全体の環境保全に関する総合的かつ長期的な施策の大綱を定めている。同計画は、2000 年に第二次計画が閣議決定され、2002 年以降毎年、同計画に基づく施策の進捗状況の点検結果を公表している。(2)科学技術基本法科学技術基本法は、科学技術の振興をわが国の最重要政策課題の一つとして位置づけ、科学技術振興の方針と基本方策を示すもので、欧米に著しく立ち遅れている基礎研究水準の引き上げや、総合的・学際的な取り組みの推進などを図るために立法化されたものである。同法の規定に基づき、総合科学技術会議の「科学技術に関する総合戦略」に関する答申を受けて閣議決定された科学技術基本方針は、重要施策として以下の項目を掲げている。①科学技術の戦略的重点化◇基礎研究の推進◇国家的・社会的課題に対応した研究開発の重点化◇急速に発展し得る領域への対応②優れた成果の創出・活用のための科学技術システム改革◇研究開発システムの改革◇ 産業技術力の強化と産学官連携の仕組みの改革◇優れた科学技術関係人材の養成とそのための科学技術に関する教育の改革◇科学技術活動についての社会とのチャンネルの構築◇科学技術の倫理と社会的責任◇科学技術振興のための基盤の整備③科学技術活動の国際化の推進◇世界に向けて国際協力プロジェクトを提案し実施(地球規模の問題解決や国際的な取組が必要な基礎研究)◇国際的な情報発信力能力の強化◇国内の研究環境の国際化4(3)エネルギー政策基本法2002 年に公布・施行された議員立法による基本法で、地域および地球環境の保全に寄与するエネルギーの需給に関する長期的・総合的・計画的施策の策定推進を目的としてものである。同法では、わが国のエネルギー政策を「安定供給の確保」「環境への適合」「市場原理の活用」の観点から推進することを規定している。(4)循環型社会形成推進基本法2000 年に公布・施行された循環型社会形成推進基本法は、前出の環境基本法の精神を受け、「大量生産・大量消費・大量廃棄」型社会から脱却し、生産、流通、消費、廃棄に至る物質の効率的な利用やリサイクルを進めることで循環型社会を形成することを目的としたものである。同法の成立にあわせて以下の法整備が行われた。①廃棄物処理法、再生資源利用促進法等の改正、②建設資材リサイクル法、食品リサイクル法、グリーン購入法の制定(5)森林・林業基本法森林・林業基本法は、1964 年に制定された林業基本法を改正したもので、森林の有する役割の変化、林業を取り巻く社会情勢の変化などを踏まえて、わが国の森林を将来にわたり適切に管理し、木材の生産を主体とした政策から森林の有する多様な機能の持続的発揮を図るための政策へと転換することを目的としたものである。同法の成立にあわせて、以下の法改正が行われている。①森林法②林業経営基盤の強化等の促進のための資金の融通に関する暫定措置法53-3 米国海洋政策の概要とその概略評価(1)米国海洋政策評価の意義わが国では、1960 年代に海底石油開発を中心とした海洋開発ブームが訪れ、それまで漁業と海運を中心とした係わりに限定されていたわが国の海洋関連施策は大きな転換点を迎えた。そして、政府が長期的な視野に立った総合的な海洋開発のあり方を示すべきとの声が高まったことを受け、1973 年に海洋開発審議会(現在の科学技術・学術審議会海洋開発分科会にあたる)がわが国で初めての海洋政策にかかわる総合的な答申を内閣総理大臣に提出した。その後、1979 年(第一次答申)、1980 年(第二次答申)、1989 年(三号答申)と海洋政策にかかわる答申が出されているが、2このうち三号答申は、2000 年を目標年次とした開発目標と目標達成方策などを示していた。三号答申以降、1992 年の地球環境サミット、1996 年の国連海洋法条約批准と、海洋政策に深くかかわる国際的な枠組みが合意され、また、国内においても、1993 年に環境基本法、1995 年に科学技術基本法が成立するなど、海洋政策を取り巻く内外の状況は大きく変化した。そのため、2000 年以降のわが国の海洋開発政策を取り巻く状況の変化に対応した、新たな長期ビジョンを定める必要性が高まり、1997 年に同審議会のもとに「基本問題懇談会」が設置され、それまでの海洋関連施策の進展状況や海洋環境保全に考慮した海洋開発のあり方、制度上の課題などについて議論・検討が行なわれた。その後、2001 年の省庁統合に伴い、同審議会は文部科学大臣の諮問機関として設置された科学技術・学術審議会の一部会である海洋開発分科会に改組され、2002 年8月に「長期的展望に立つ海洋開発の基本的構想及び推進方策について(答申)-21世紀初頭における日本の海洋政策-」を答申した。現時点で、同答申がわが国における唯一の総合的な海洋政策と位置づけることができるよう。同答申では、海洋政策を実施するポイントとして、①海を『知る』『守る』『利用する』のバランスの取れた政策、②国際的視野に立った戦略的海洋政策、③総合的視点に立った海洋政策立案と関係府省の提携、の3つを掲げている。これらの指摘は、近年の国際的潮流を踏まえた的を射たものであるといえるが、一方で、現状の行政や研究における縦割りの取り組みをどのように総合的な管理に転換させるかについての具体的な検討は充分に行なわれていない。特に、海洋政策の企画立案に関する行政機構について、「総合的な視点に立った政策が提案されにくかったこれまでの状況を改善することが必要」と指摘しながら、それについては「海洋開発分科会を中心として今後議論を積み重ねていく」と述べるだけで、具体的2 1993 年の四号答申は、地球環境問題に対応した調査研究に特化した内容であるためここではとり上げなかった。6な海洋政策の企画・立案システムを提案していない。また、その後のフォローアップも充分に行なわれているとは言い難い状況である。他方、オーストラリア、カナダ、英国、韓国、中国などは、海洋の総合管理に必要な法制度、執行体制を整備しているおり、わが国はこれに比して大きく立ち遅れているといえる。また、アメリカは1969 年にストラットン審議会がとりまとめた「Our Nation and Sea」以来の包括的な海洋政策の見直しを行っているところであるが、新しい海洋政策は徹底した議論のもとで策定され、非常に包括的な内容になっていると評される。3これらの国々が、海洋・沿岸域の諸問題をどのように捉え、その問題解決にどのような体制で取り組んでいるのかを分析することは、わが国海洋政策の今後目指すべき方向性を検討するにあたり、大いに参考になると考えられる。そこで、最も新しい動きを見せている米国海洋政策の内容を概観することとし、2004年4月に公表された米国海洋政策予備報告書について、その骨子・要点を分析した。(2)米国海洋政策の見直しの動き2000 年海洋法(Oceans Act of 2000)に基づいて設置された、元海軍作戦部長およびエネルギー省長官のジェームズ・D・ワトキンズが議長を務める海洋政策審議会が、2004 年9月に「21 世紀の海洋の青写真(An Ocean Blueprint for the 21st Century)」と題する報告書を議会と大統領に提出した。同報告書では、新国家海洋政策のための13 原則として、持続可能性、信託管理(Stewardship)、生態系に基づく管理などの項目を掲げ、現行の米国の海洋および沿岸管理システムによっては、このような原則を効果的に実施して長期ビジョンを実現することは不可能であるとし、212 項目にわたる具体的な勧告を行っている。同審議会が勧告する重要な行動は、以下のとおりである。①海洋管理体制の改善・大統領補佐官を議長とする国家海洋会議を大統領府に設置・海洋政策に関する大統領諮問会議を設置・米国海洋大気庁(NOAA)の強化及び連邦政府機関のプログラムの段階的な統合による連邦政府機関の構造改善・国家海洋会議の促進、支援のもとに、地域海洋会議設置のための弾力的、かつ、任意のプロセスの開発・連邦管轄の沖合水域における調整された管理体制の構築3 Donald F. Boesch, 包括的な見直し進むアメリカの海洋政策, Ship & Ocean NewsletterNo.1107②健全な科学と賢明な決定・海洋研究投資の倍増、海洋調査の新分野の立ち上げ、これらを支援するため必要な先進技術と近代的インフラの形成・国家統合海洋観察システムと国家監視ネットワークの施行③教育―未来の基礎・組織的、効果的な公式、非公式プログラムによる海洋関係教育の改善④特定の管理課題・沿岸および流域の管理並びに双方の連結・水質汚染(特にノン・ポイント汚染)削減の測定可能な目標設定、及びそれらを達成すための奨励策、技術支援、法執行その他の管理手段の強化・地域漁業管理会議システムの改善、専用入漁権の使用の検討を通じ、評価と配分の分離による漁業管理の改善・国際的活動に従事するため国連海洋法条約に加盟⑤実施・連邦および州レベルの海洋および沿岸管理の改善を支援するための、沖合の石油・ガス開発及び新しい活動からの収入の未割当分による海洋政策信託基金の設立また、米国大統領は、報告書の提出を受けて90 日以内にその勧告を実施するための総合的かつ長期的な海洋政策を議会に付託することになっていたが、去る2004 年12 月17日、「米国海洋行動計画(U.S. Ocean Action Plan)」と題する文書を公表した。(3)米国海洋政策予備報告書の分析本年度は、海洋・沿岸域研究委員会の委員を中心に、2004 年4月に公表された米国海洋政策予備報告書の内容を分析した。予備報告書の構成は、以下のとおりである。8要約第I部 我々の海:国家の資産第1章:海洋資産と挑戦の再認識第2章:新しい国家海洋政策を形成するための過去の理解第3章:国としての視野の設定第II部 変化のための青写真:新たな国家海洋政策の枠組み第4章:海洋のリーダーシップと調整の改善第5章:地域的アプローチの推進第6章:連邦水域における管理の調整第7章:連邦機関組織の強化第III部 海洋のスチュワードシップ:教育と一般周知の重要性第8章:生涯海洋教育の促進第IV部 縁で暮らす:海岸に沿った経済成長と資源の保全第9章:海岸とその流域の管理第10章:自然災害から人々と財産を守る第11章:沿岸生息地の保全と回復第12章:堆積物(Sediments)と海岸線の管理第13章:海上での商業と輸送を支える第V部 澄みきった水へ:沿岸と海洋の水質第14章:沿岸の水質汚染への取り組み第15章:全国的モニタリングネットワークの創設第16章:船舶起因汚染の削減と船舶の安全性の向上第17章:侵入種の拡散防止第18章:海洋ゴミの削減第VI部 海の価値と活力:海洋資源の利用と保護の向上第19章:持続可能な漁業の達成第20章:海産哺乳動物と絶滅に瀕する海洋種の保護第21章:サンゴ礁とそれを取り巻く群集の保全第22章:持続可能な海洋養殖の道筋を定める第23章:海と人の健康を結ぶ第24章:沖合のエネルギーと他の鉱物資源の管理第VII部 科学に基づく決定:海に関する理解の促進第25章:科学的知見を増大させる国家戦略の創造第26章:持続的で統合された海洋観察体制の達成第27章:海洋インフラと技術発展の向上第28章:海洋のデータと情報体制の現代化第VIII部 グローバルな海:国際政策への米国の参加第29章:国際海洋科学及び政策の向上第IX部 前進:新国家海洋政策の実施第30章:必要な資金と可能性のある資金源第31章:勧告の要約第X部 附録(報告書本体に印刷されるもの)A. 2000年海洋法(Oceans Act of 2000)B. 頭文字の一覧C. 「海の近くに住み海から暮らしを立てる」Charles S. ColganD. 連邦の海洋及び沿岸関係審議会、委員会、理事会、法及びプログラム一覧E. 連邦の海洋関連活動を調整するために提案された組織F. 海洋及び沿岸事案に管轄を持つ議会の委員会及び小委員会G. 米国海洋政策審議会の勧告に伴うコストの詳細内訳第Ⅰ部第3章から第Ⅸ部第30 章までを対象に行なった概略評価結果を以下に示す。「評価の視点」は評価を担当した有識者が設定したもので、統一したものではないことを付記しておく。また、評価は次のような基準でおこなっている。◎ そのまま我が国にも当てはまる○ 趣旨を考慮すべき△ わが国には当てはまらない× 扱うべきではないなお、第18 章「海洋ゴミの削減」および第22 章「持続可能な海洋養殖の道筋を定める」については、時間的な問題もあり次年度に評価を行なうこととした。91)第3章:国としての視野の設定評価の視点評価 関係する勧告コメント第3章全体として◎-理念(pp.32-33 Building Ocean Policy of Sound Guiding Principles)は、間違いなくその通りである。-生態系にもとづく管理と国家間の協調を全面に出したことは、意味深いし妥当。-予防原則を施策立案と海洋管理に取り込もうとしている姿勢は評価できる。(p.36, 37)-理念に付け加えるならば、次世代(将来)に難問と禍根を残さない政策の策定を提言する。-国民の価値観、環境問題と生物多様性保全への見方、国際関係、漁業資源、科学技術の進歩等、この十数年の著しい自然と社会の変化にも関わらず、我国の海洋政策については、総観的な見直しがなく、現実の問題の対処に追われているものが多い。関係各省庁間の意識が異なり、対立する主張についての調整は、先送り的なものになりがちで、必ずしも将来を見通したものではない。-総合的な海洋政策の策定と行政機構の整備の必要性は「海洋管理研究会」の提言に盛り込まれている。-わが国でも、ある問題に関係する省庁および法規を全て抽出し、政策の矛盾点、争点を洗い出し、調整する必要があろう。望ましい海洋・沿岸海域の将来像○-望ましい将来像を冒頭に提示するやり方、およびその内容はすべて参考になる。内容は、①きれいで安全な海と沿岸域、その持続可能な形での管理、②生態系の境界に従った管理、③良質な情報、④より良い教育、⑤世界のリーダーかつ重要なパートナー。指導原則 ◎-13 の指導原則が掲げられているが、わが国にとっては特に次のものが有用:stewardship 概念、陸・海・大気間の相互関連、生態系基盤の管理、生物多様性の保全、利用可能な最良の科学情報、参加型ガバナンス。政策策定の指導的概念◎--①生態系基盤の管理、②意思決定の基盤となる科学の強化、③効果的海洋ガバナンス、④教育の重要性、はすべてわが国にとっても重要。102)第4章:海洋のリーダーシップと調整の改善評価の視点評価 関係する勧告コメント国家海洋会議(NOC)○4-1.連邦議会は、国家海洋会議(NOC)及び連邦政府以外の代表で構成される海洋政策大統領諮問委員会を大統領府に設置し、海洋及び沿岸に関する連邦政府のリーダーシップ及び連携を強化すべきである。連邦議会が両機構の法制化を進める間、大統領は、大統領令により両機構を設置するとともに、大統領補佐官を国家海洋会議の議長に任命して、統合国家海洋政策の実施に即刻着手すべきである。4-2.国家海洋会議は、海洋及び沿岸問題に十分な注意を払い、適切な国家目標及び政策を策定して実施を指導し、連邦政府の多数の海洋及び沿岸担当省庁の連携を図るべきである。国家海洋会議は、大統領補佐官が議長を務め、海洋に関連する責務を担うすべての閣僚及び独立機関の長官で構成すべきである。-日本財団の政策提言ならびに海産研報告書の提言および「わが国の海洋政策に関する一試案」(Ship & Ocean Newsletter No.96 参照)にあるように、わが国では「海洋関係閣僚会議」の創設が望ましい。-自民党海洋権益WT でも同様の提言がなされて、これに対して政府は、最近設置した大陸棚関係の省庁間連絡会議を改編する形で「大陸棚調査・海洋資源等に関する関係省庁連絡会議」(局長級)を設置したが、これに対してどのように声をあげるのかが肝心ではないだろうか。また、海洋関係の省庁間連絡会議が複数存在する現在の行政機構についてどう考えるのかが問題ではなかろうか。大統領補佐官×(同上) -日本にも最近は首相補佐官が設置される例があるが、日本財団の政策提言ほかにあるように、わが国では、「海洋担当大臣」の設置が必要。しかも当面は国土交通大臣をこれに任ずるようにするのが私は適当と考える。生態系に基づく管理原則○4-3.国家海洋会議は、生態系に基づく管理体制への移行にあたり、生態系に基づく管理の原則を採用し、連邦政府機関を支援すべきである。-「生態系に基づく管理原則」は結局のところ、海洋政策の最高理念をどのように考え、どのように表現するかを検討する際に“考慮すべき”(参考にすべき)指摘だが、わが国としてこれと同じく最高理念として掲げるかどうか、ほかに掲げるべき最高理念があるのではないか(例:EEZ&大陸棚の国家的調査の推進)など、多くの論議が必要ではないか。11項 目評価 関係する勧告コメント海洋政策大統領諮問委員会○4-5.連邦政府外の個人及び組織の意見及び情報を得るための正式な組織である海洋政策大統領諮問委員会は、海洋及び沿岸政策問題について大統領に助言すべきである。大統領は諮問委員会に対して、海洋及び沿岸問題に精通した経験の深い連邦政府外の人たちを代表者に選ぶよう命令すべきである。4-9.国家海洋会議は、既存の海洋関連評議会及び委員会すべてを検討し、現行の有用性及び報告体制について勧告すべきである。-行政機関以外のメンバー構成による助言機関だが、わが国では科学技術・学術審議会海洋開発分科会がこれと同種の位置付けにある。しかし、首相直属ではない。旧海洋開発審議会=現海洋開発分科会を今後どうすべきかが肝心。その際にも、海洋関係で多数ある審議会等との関係をどうするかを検討しなければ実効性あるものにならないのではなかろうか。海洋政策局○4-6.連邦議会は、大統領補佐官、国家海洋会議、海洋政策大統領諮問委員会を支援する海洋政策局(Office of OceanPolicy)を設置すべきである。スタッフの支援を直ちに行うため、大統領は、国家海洋会議の設置を命じる大統領令に海洋政策局の設置も加えるべきである。-日本財団の提言にあるように、わが国では、内閣府に専従スタッフを置く「海洋政策統括室」の創設が望ましい。ただ、その所掌業務(責任範囲と権限等)も行政サイドでの検討のみに委ねるのでなく積極的な提案をしてゆくのが望ましいであろう。その他の体制-4-4.国家海洋及び沿岸政策については、指定された大統領補佐官がリーダーとして支援すべきである。大統領補佐官は、国家海洋会議の議長と海洋政策大統領諮問委員会の共同議長を務め、連邦政府機関の行動を調整し、地域、州、地方の関係者を参加させる国家海洋会議の活動を指揮すべきである。4-7.連邦議会は国家海洋会議と協力して、海洋観測、業務、施設、教育を海洋研究ミッションに統合するために、米国海洋パートナーシップ法を改正すべきである。また、全米海洋研究指導(者)評議会の強化及び拡充を行って、海洋科学・教育・技術・業務委員会に名称変更すること。改正米国海洋パートナーシップ法には、海洋科学・教育・技術・業務委員会は国家海洋会議に直属し、科学技術政策局長官が議長を務めることを明記すべきである。-勧告4-4 の議長や委員構成については、わが国と国情が違うので、わが国はわが国にとって望ましい方向で考えればよい。-勧告 4-7 にある海洋の科学・教育・技術・業務を一括してNOC直属にするとなっているが、わが国では、総理が議長を務める総合科学技術会議で海洋の科学&教育の側面のみを取り上げさせることの功罪を慎重に検討すべきではないか。つまり海洋関連産業振興、総合海域利用促進などの政策と切り離してもいいかどうか、仮に切り離すとしても、産業・・・・の方はどうするのか。123)第5章:地域的アプローチの推進項 目評価 関係する勧告コメント地域的取り組み-5-2.連邦議会は地域海洋情報プログラムを全国的に確立し、海洋及び沿岸管理の改善の支援を図るために連携を強化し、研究/データ収集/科学に基づく情報製品/アウトリーチ活動に対して地域の優先順位を設定すべきである。地域海洋情報プログラムは直ちに設置すべきであり、任意の、そしてより複雑になる可能性がある地域海洋会議設置プロセスとは独立して行うべきである。-地方海洋会議の設置については、わが国では一律に真似るのではなく、これも日本財団の政策提言等にあるように、三大湾や瀬戸内海など重点的な半閉鎖性海域について、BAY AUTHORITY 的な体系的政策策定と実行が出来る体制を整備するのが望ましいのではないか。4)第6章:連邦水域における管理の調整項 目評価 関係する勧告コメント生態系に基づく海洋管理-6-2.連邦議会は国家海洋会議及び地域海洋会議と協力して、すべての海洋利用に対してバランスのとれた調整を図るための指針を示す、生態系に基づく海洋管理体制を確立すべきである。連邦議会は、必要に応じて新たな海洋管理体制の原則と完全に統合し、その原則に基づく包括的な単一の海洋ガバナンス専用の総合的機構の必要性を認識すべきである。生態系に基づく海洋管理体制には、新たに発生してくる活動を組み入れるプロセスと、当該活動から生ずる資源地代(rent)の妥当な一部が社会に還元される政策が含まれるべきである。-「生態系に基づく海洋管理」を海洋の総合的管理の指導理念としている点は重要な参考になると思われる。わが国でも個別法ごとの海洋管理が行われており、それを統合する総合的管理をなすべきだとの主張が強まっているが、最大の問題は、個別法の実現しようとするさまざまな価値を、総合的にどのように秩序付けるか,それを導く基本理念が何かを決めがたいことである。アメリカでこのような考え方が出されていることは日本において重要な参考となる。-海洋資源利用Rent の社会還元制度の創設は、理念としては望ましいが、日本における主要な海洋資源利用である漁業を考えても、過去のさまざまな経緯を考えると、実現はなかなか難しいと思われる。海洋保護区-6-3.国家海洋会議は、海洋保護区の効果的な設計及び導入のための統一的プロセスにつながる国家の目標及びガイドラインを策定すべきである。海洋保護区は、利用可能な最善の科学情報に基づいてこれを指定し、継続的な環境保護及び社会経済的効果を確保するために定期的に評価、監視、修正すべきである。-海洋保護区の設定の提言は日本財団提言にもあるが、既存の各種の区域指定制度との調整が重要。そのためにも生態系に基づく海洋管理の理念によって個別実定法制度を統合的に管理する基本的な秩序付け、ないしはその手続の整備が必要。135)第7章:連邦機関組織の強化項 目評価 関係する勧告コメント第 7 章全体として-7-1.連邦議会は、米国海洋大気庁(NOAA)の設立及び任務を成文化する基本法を可決すべきである。この基本法では、NOAA の構造が、生態系に基づく管理の原則及び3つの主要機能(アセスメント・予測・運営、資源管理、研究及び教育)との整合性を保つようにすべきである。-行政制度の変革はそれぞれの国の事情の中で考えるべき問題で、アメリカの制度がそのまま参考にはならない。大統領制の国と議院内閣制の国の違いは大きい。日本の海に関する行政組織の変革に関する提言は、日本の状況を考慮したものであるべきと考える。日本財団の提言が基礎となろう。146)第8章:生涯海洋教育の促進項 目評価 関係する勧告コメント第 8 章全体として◎-米国の勧告には、理科、数学の基礎学力レベルの向上の必要性が強調されている。それ以外は、「海洋管理研究会」からの提言6で網羅されている。-我国では義務教育に海に親しむ教育がないに等しい。学校からは臨海学校がほとんどなくなったし(リスクを伴う危険な場所として学校が回避)、家庭でも海に子供たちを連れて行く機会が減少した。-海について教えることできる教諭があまりいない。教育者養成課程の充実が求められる。-自国の海洋管理政策者に必要な助言を与え、種々の計画に対応できる研究者の育成確保は途上国だけでなく、先進国でも必要である。-大学、大学院レベルでは、野外研究に携わるひとがすくなくなり、実際に海に出て自然現象を観察しようとする研究者が、人事や研究助成金の獲得などで不利になる傾向が生じている。-海のレジャーはスポーツが中心で、自然観察の指導や案内のできる人材が不足している。国家海洋教育局の設置○8-1.国家海洋会議は、海洋科学・教育・技術・業務委員会の下にOcean.ED という国家海洋教育局を設置し、連邦政府の取り組みの調整、自然及び社会科学の教育的成果の向上、海洋意識の向上を図るべきである。-海洋に関連する幅広い学内・学外教育を全般的に調整する機関が必要。その設置場所は、わが国の事情にあわせて決定する。海洋関連教育プログラム等の有効性評価の枠組み策定◎8-4.海洋教育局(Ocean.ED)は、海洋関連教育プログラム、海洋を基礎とするK-12(幼稚園から高校まで)教育専門家育成プログラム、海洋に関連した実例をK-12 教育に組み込むためのベスト・プラクティス、及び一般市民教育プログラムの有効性を評価するための枠組み作りを主導すべきである。-国家海洋教育局に似た機関が、学校教育、専門家養成、一般市民教育などのプログラムを全般的に検討・評価することが必要。15項 目評価 関係する勧告コメント教育界と研究界とのより強力な関係構築◎8-7.海洋教育局は学術機関及び地方の学区と協力して、研究界と教育界とのより強力かつ効果的な関係構築を促進し、教員及び教員養成に携わる教員の専門能力開発の機会を拡大すべきである。NOAA、全米科学財団、米国海軍、米国航空宇宙局は、確実で安定した資金提供を行うことにより、このような取り組みを支援すべきである。-海洋教育局に似た機関が,教育界と研究界両者の間の効果的な関係構築を促進し、教員および教員養成に携わる教員の専門的能力開発の機会を拡大することが望ましい。海洋教育における文化的側面の重視◎8-8.海洋教育局は、学区、高等教育機関、水族館、科学センター、博物館、民間研究所の連携を図り、バーチャルな手段と実地、研究室及び海上における体験の両方を通して、学生が海洋環境を調査する機会をさらに開発すべきである。海洋教育局は、海洋中心教育プログラム及び教材が文化的相違及びその他の人間の多様性を示す側面を認識し、あらゆる文化や経歴の学生及び教員に海洋問題に触れさせるプログラムとなるようにすべきである。-海洋教育においては社会的・文化的相違や人間の多様性の面もより重視すべきである。海洋科学入門講座の社会科学系教育への導入◎8-9.NOAA、全米科学財団、及び米国海軍研究所は、海洋科学入門課程を推進して、このような分野を学生(理工系以外の学生も含む)に紹介する(expose)上で大学を支援すべきである。-自然科学系のみならず、とくに社会科学系大学生に海洋科学の基礎的知識を広めることは,一般社会人の海洋問題の理解向上に役立つ。全国海洋関連労働者人口のデータベース作成○8-11.NOAA 及び米国労働省は、全米海洋労働人口データベースを作成し、国家海洋会議の海洋関連人的資源の育成及び必要性に関する動向について年次報告書を編纂すべきである。この取り組みには、進路決定を手助けし、進路指導を受けられるようにし、雇用者や指導カウンセラーなどが海洋関連の仕事に学生を引きつける効果的な戦略を策定することができるようにするための情報センターも加えるべきである。海洋教育局は、5 年ごとに海洋労働者サミットを開催し、海洋教育と海洋関連従事者のニーズの整合を図るべきである。-海洋教育局に似た機関は厚生労働省とともに、海洋関係の労働者に関するデータベースを構築し、情報センターを設置し、必要な人的資源の動向の分析、中長期的政策の策定などに活用すべきである。16項 目評価 関係する勧告コメント大学・大学院における研究・教育の革新◎8-12.NOAA は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)のモデルに倣って国家海洋教育及び訓練プログラムを教育及び持続可能な開発局(Office of Education andSustainable Development)に設置し、大学学部、大学院、博士課程レベルにおいて多様かつ革新的な海洋関連教育の機会を提供すべきである。-海洋関連分野の大学・大学院および博士課程終了後の多様にして革新的な研究・教育を拡充すべきである。地域社会教育強化のためのアウトリーチ・プログラム等の推進○8-16.海洋教育局は他の関係機関と協力して、地域社会教育を強化するための適切で利用しやすい情報及びアウトリーチ・プログラムを開発し実施する仕組みに関して、既存のものを強化し、さらに新たな仕組みを確立すべきである。-海洋教育局に似た機関は、地域社会のあらゆる団体と協力して,海洋問題についての非公式教育や情報提供、アウトリーチ・プログラム等の開発・実施を推進すべきである。7)第9章:海岸とその流域の管理項 目評価 関係する勧告コメント第8章全体として-9-1.連邦議会は、沿岸諸州の計画立案及び調整能力を強化し、沿岸諸州が沿岸流域に集中し、より効果的に成長を管理することができるようにするために沿岸域管理法(Coastal Zone Management Act)を再認可すべきである。改正法には、資源アセスメントの要件、測定可能な目標及び成果基準の設定、プログラム評価の改善、高い成果に対する報奨策及び怠慢抑止策、沿岸流域を含める境界の拡大を盛り込むべきである。-連邦と州というアメリカと日本の事情は決定的に違うが,日本でも地方分権の流れの中でさまざまな行政権限が国から地方に移管されている状況を考えれば,今まで以上に地方自治体の役割は大きくなる.日本でも地方中心の沿岸域管理体制の強化が重要課題で,日本財団提言3-2 の議論を進化させることが重要である.178)第10 章:自然災害から人々と財産を守る項 目評価 関係する勧告コメント防災事業の見直し◎10-1.国家海洋会議は、ピア・レビューにより沿岸プロジェクトの費用便益分析結果の妥当性を確保し、一般市民への透明性を高め、沿岸プロジェクトの影響を緩和する要件を課し、より広範な沿岸計画立案活動と当該プロジェクトの調整を図るために、米国陸軍工兵隊土木工事プログラムを見直して、その変更を勧告すべきである。-国のレベルでは、海岸および海洋土木事業を環境影響の低減、費用対効果分析の観点から見直す同様の取り組みがわが国でも行われている。事業の透明性確保の観点からもわが国で同様の施策が国および地方公共団体で必要である。データの収集◎10-2.国家海洋会議は、連邦緊急事態管理庁の主管のもとに、州及び地方政府及び関係連邦政府機関の代表で構成するタスクフォースを設置し、危険関連データの収集及び有用性の向上を図るべきである。-国が指導性を持ち、国の機関、地方公共団体、その他に働きかけて災害データの収集、使用性を向上する必要がある。国土交通省が主導している東京湾環境データセンターのように、データの共有化の動きは既にあるが、今後さらに加速する必要がある。洪 水 保険プログラム(NFIP)の改正○10-3.国家海洋会議は、沿岸の災害度の高い地域における建設の明確な抑制策を策定し、自然災害に対する脆弱性の緩和策を実施し、未開発の氾濫原及び浸食地区の開発をやめさせる強制力のある仕組みを構築するために、全米洪水保険プログラム(National Flood Insurance Program)の改正を勧告すべきである。-わが国では強制力のある洪水保険プログラムはまだ無いため、今後の検討を行うべき状況にある。特に災害リスクを算定して公表することにより、リスクを無視した住宅開発などを抑制することができる点は注目に値する。これまでも無秩序な開発が災害リスクを高める点が指摘されてきたが、これを抑える有効な手段が無かった。地域災害低減計画の立案◎10-4.連邦議会は、連邦緊急事態管理庁(Federal EmergencyManagement Agency: FEMA)の要求事項に合致する防災計画を作成するために、州及び地方機関に対する財政及び技術支援を強化すべきである。国家海洋会議は、連邦政府の災害関連財政及びインフラ支援を連邦緊急事態管理局承認の州及び地方機関の防災計画実現と結び付ける機会を明確にすべきである。-国が補助金等を活用して、地域の防災計画が速やかに立案されるように勤めるべきである。すでにハザードマップなどの作成が始まっているが、この動きを加速させる必要がある。高潮、津波災害に対するハザードマップは着手しているが完成していない。また、リスクマネージメントの立場から災害低減計画を立案する必要がある。189)第11 章:沿岸生息地の保全と回復項 目評価 関係する勧告コメント第 11 章全体として◎11-1.連邦議会は沿岸域管理法を改正し、専門の沿岸及び河口域保全プログラムを承認すべきである。このプログラムの実現のため、各州の沿岸管理プログラムは最重要沿岸生息地を特定し、保全に積極的な土地所有者間の協力関係確立計画を作成すべきである。11-2.国家海洋会議は、海洋及び沿岸生息地の保全及び再生活動のための国家目標を策定し、連邦政府の関連活動すべての調整を図るべきである。地域海洋会議及び地域海洋情報プログラムは、生息地の保全及び再生の必要性を明確にし、国家の目標と整合性のある地域の目標及び優先順位を設定すべきである。11-3.連邦議会は、連邦政府機関が生息地保全及び再生資金の一部を関連するアセスメント、監視、研究、教育を自由裁量によって使用できる権限の拡大を認める関連法を改正すべきである。-沿岸域の総合的管理が今ほど求められているときはない。沿岸管理に関わる省庁が多く、相互不干渉や総合的管理法制の欠如が問題の原因になっている。-開発や防災の名目の下に、不必要な土木工事を進め、ここまで傷めてしまった沿岸域を如何に修復して行くか、沿岸管理への市民参加、ミチゲーションの制度化などを含めて、我国でも管理修復に関する議論をさらに進めて行く必要がある。-現象や含まれる問題の複雑さ故に、沿岸問題は、ともすれば研究者から避けられる傾向がある。データや知見の充実のための真剣な取り組みが望まれる。-アセスメントが制度の中で空回りしている。ただレポートをつくるだけで、真の沿岸域の保全につながっていないケースが多い。-開発・埋め立ての抑制が必要であり、利用されない造成地や不要な港湾が多い我国の現状を見直すために、本章に盛られている内容は参考になる。-日本の法制には山岳と海洋が生態系でつながっているという考えをもとにした沿岸域管理、保全の法制が全くない。例、砂防ダムの建設と海浜保全。-Protecting the Nation’s Wetlands: A Special Case (p.132)に関して、我国にはもともとwetlands が小さく、そのほとんどは既になくなってしまったので△。しかし、藻場・アマモ場は、まだ残っており、生物資源の維持管理、自然環境の保全、希少生物の育成などの上で極めて重要な生態系であるから、その管理修復については、Capt. 21 のサンゴ礁とともに、真剣に取り組む必要がある。1910)第12 章:堆積物(Sediments)と海岸線の管理項 目評価 関係する勧告コメント国家レベルでの地域土砂管理の政策の立案◎12-1.国家海洋会議は、経済と生態系の両面の必要性を考慮して、地域の土砂管理に関する国家戦略を策定すべきである。この戦略は、農業、浚渫、汚染物質排出、及び堆積物の流れや質に影響を及ぼすその他の活動が海洋環境に与える悪影響について検討すること、流域計画の作成に港湾管理者、沿岸計画作成者、その他の関係者を必ず参加させること、生態系に基づく管理の原則を堆積物に影響を及ぼす活動を許可する際の基盤にするよう義務づけることなど、いくつかの目標を達成すべきである。-地域における土砂の発生から移動、堆積にいたる過程を環境への影響を考慮して、戦略的に検討する必要がある。この取り組みは既に例えば国が管理する相模川流域で行われ、例えば県が管理する酒匂川などでも取り組みが始まっている。多くの場合に検討は現状の把握にとどまっており、今後はさらに戦略の立案へと歩を進めるべきである。浚渫土処理の費用便益分析△12-2.米国陸軍工兵隊は、浚渫プロジェクトで選択する最低コストの処分方法には、浚渫物を再利用する選択肢やその他の処分方法について、あらゆる経済上及び環境上の費用と便益がより正確に計算され、反映されるようにすべきである。-現時点では、浚渫土が有効に利用されず、沖合に投棄される例もあり、まず有効利用の方法を検討するべき段階にある。したがって費用便益分析について検討する段階に達していないといえる。政府機関による研究の強化と戦略策定○12-4. 米国陸軍工兵隊(U.S. Army Corps of Engineers:USACE)、NOAA、米国環境保護庁(U.S. EnvironmentalProtection Agency)、及び米国地質調査所(U.S. GeologicalSurvey)は、土砂管理の改善を図るためのアセスメント、モニタリング、研究、技術開発と強化する戦略を策定すべきである。連邦議会は、米国陸軍工兵隊に対し、過去のプロジェクトの結果の監視及びその活動が沿岸流域及び生態系に与える蓄積的かつ地域的な影響についての研究を奨励するために、現行の認可及び資金提供プロセスを変更すべきである。-日本の研究機関の研究項目をこの方向で総合化する必要がある。わが国においては従来よりも政府研究機関間の研究交流の場は広がっているが、全体を拘束力のある戦略で導いていこうという動きは少ない。戦略を練るためには現状の把握とそれに基づく討論が必要で、これも既に始まってはいるが、動きを加速する必要がある。2011)第13 章:海上での商業と輸送を支える項 目評価 関係する勧告コメント海上輸送システムの主管官庁の指定-13-1.連邦議会は、米国運輸省を海上輸送システムの計画立案及び監督の主管連邦政府機関に指定すべきである。米国運輸省は、同システムの状況及び将来のニーズに関する定期的な報告書を提出すべきである。国家海洋会議は、他の連邦政府機関の重複している機能を明らかにし、米国運輸省への当該機能移転の妥当性について勧告を行うべきである。-本来は、「海上輸送システム」という狭い観点からではなく、「海洋政策」という広い観点からの主管官庁について論じられるべきと考える。海上輸送システム省庁間委員会の設置-13-2.連邦議会は海上輸送システム省庁間委員会を成文化し、これを国家海洋会議の監督下に置くべきである。同委員会は、米国海上輸送システムにおける参加者間の連携を強化し、他の輸送方式や他の海洋及び沿岸利用及び活動との統合を促進すべきである。-上記と同様に、「海上輸送システム」という狭い観点からの省庁間委員会ではなく、「海洋政策」という広い観点からの省庁間委員会の設置について論じられるべきと考える。国家貨物輸送戦略案の策定-13-3.米国運輸省は、米国経済及び国際及び国内貿易の持続的成長を促すための新たな国家貨物輸送戦略案を作成すべきである。この戦略では、海洋輸送システムと交通インフラのその他の構成要素(高速道路、鉄道、飛行場など)との接続の改善を図るべきである。新戦略に基づいて、国家的に重要な複合プロジェクトの計画立案及び実施に向けての投資を行うべきである。-基本法あるいは法令で規定するのではなく、むしろ「審議会の答申」のような取り扱いになじむものと考える。また、内容については、海上輸送を含むとは言え輸送全体の問題を取り扱っているため、「海洋政策」からは若干はみ出していると思われる。short sea shipping の分析と評価の実施-13-4.米国運輸省は、沿岸及び近海航行船の増加の潜在的な社会的及び経済的利益の徹底分析及びアセスメントを実施すべきである。-基本法あるいは法令で規定するのではなく、むしろ「審議会の答申」のような取り扱いになじむものと考える。複合一貫輸送システムの能力強化-13-5.米国運輸省は、その他の適切な機関と協力して、全国的なデータ収集・調査・分析プログラムを設定し、米国の貨物の流れの全体像を示すとともに米国の複合一貫輸送システムの能力強化を図るべきである。米国運輸省は、米国海洋産業の将来的な成長のニーズを満たすために、港湾及び複合一貫輸送能力に対する米国の将来的ニーズを定期的に評価し、これに優先順位をつけるべきである。-基本法あるいは法令で規定するのではなく、むしろ「審議会の答申」のような取り扱いになじむものと考える。また、内容については、海上輸送を含むとは言え輸送全体の問題を取り扱っているため、「海洋政策」からは若干はみ出していると思われる。21項 目評価 関係する勧告コメント海上輸送における緊急事態対応の考慮-13-6.米国運輸省は国家貨物輸送戦略の策定にあたり、米国国土安全保障省及び連邦緊急事態管理庁と緊密に協力して、港湾保安その他の緊急事態対応要件を盛り込むべきである。この戦略は、国家安全保障及び港湾業務に対する脅威の予防、及び代替港湾能力の利用可能性についてのアセスメントなど、かかる事態の影響を抑える対応及び復旧策に重点を置くべきである。-海洋政策というよりも、緊急事態対応という観点から論じられるべき項目であるが、海洋基本法に緊急事態対応に係る記述が