平成13 年度閉鎖性海湾の環境モニタリングに関する調査研究報 告 書平成14 年3 月財団法人 シップ・アンド・オーシャン財団は じ め に本報告書は、競艇公益資金による日本財団の平成12、13 年度助成事業として実施した「閉鎖性海湾の環境モニタリングに関する調査研究」の成果を取りまとめたものです。海洋、とりわけ我が国の沿岸域は水産資源の宝庫であり、自国内において動物性タンパク質を確保できる数少ないエリアです。21 世紀初頭には、アジア・アフリカ地域を中心に世界的な人口爆発も予想されている現在、他国からの輸入に依存することなく動物性タンパク源を安定的に確保することは、食糧安全保障の観点からも大変重要なことですが、安定的な確保は、同海域の環境が健全であればこそ持たらされるものであり、そのための最も基礎となるモニタリングは、国家戦略から言っても大変重要な行為だと言えます。このような中にあって、我が国では運輸、通産、環境、農林水産の各行政の観点から様々なモニタリングが行われていますが、これらモニタリングはそれぞれの実施体で個別に行われているため、そこで得られたデータは必ずしも包括的に分析されず、また、火山噴火や地震といった国民の財産に直接損害を与える現象のモニタリングに比べてその重要性が認識されてこなかったように思えます。海は、人体が行う食物の摂取から排出に至る一連の営みにも似て、河川等から流入する栄養塩を流れによって各部へ輸送し、食物網を通じて分解・生産・浄化を行っているほか、一部を漁獲により系外へ排出することによって、全体として環境のバランスを保ち、我々に様々な恩恵を与えています。しかし近年、沿岸域では生物の生息にとって重要な干潟や藻場を含む浅海域が消失し、生物による浄化や物質循環の働きが阻害されてきているなど、環境のバランスが崩れてきたところが多くなっています。特に閉鎖性の海湾においては、湾外との海水交換が小さいことなどから、この食物網による物質循環機能の低下は深刻な問題です。海洋環境は一旦破壊されるとその回復には多大な費用と歳月を要します。危険をできる限り早期に察知し、環境の維持・改善のため素早い対応をする予防的なセンスは、国家としての危機管理にもつながっていきます。本事業では、このような観点から、沿岸域の中でも物理的な形状や背後圏に経済活動地帯を抱えるが故に最も環境が破壊されやすい閉鎖性海湾を対象に、これまで個々に分析されてきたモニタリングのデータを相互に関連づけ、環境を包括的に評価する仕組みとそのために必要なモニタリングを『海の健康診断』として取りまとめました。本事業の実施にあたりましては、長崎大学中田英昭教授を委員長とする「閉鎖性海湾の環境モニタリング検討委員会」の皆様の熱心なご議論・ご指導を賜り、これらの方々に対しまして厚く御礼申し上げます。本報告書が閉鎖性海湾の健康状態を評価する際にお役に立てば幸いです。平成14年3月財団法人シップ・アンド・オーシャン財団会 長 秋 山 昌 廣閉鎖性海湾の環境モニタリング検討委員会委 員 名 簿(順不同、敬称略)委 員 長 中田 英昭 長崎大学水産学部 教授委 員 中田喜三郎 東海大学海洋学部 教授委 員 松田 治 広島大学生物生産学部 教授オブザーバー 城 久 元 大阪府水産試験場 場長研究担当者 大川 光 財団法人シップ・アンド・オーシャン財団海洋政策研究部課長代理研究協力者 細田 昌広 国土環境株式会社環境情報本部 本部長平野 拓郎 国土環境株式会社環境技術本部 環境技術グループ長畑 恭子 国土環境株式会社水環境解析グループ 研究員竹内 一浩 国土環境株式会社水環境解析グループ 研究員竹本 昭男 国土環境株式会社環境技術グループ 研究員楯 慎一郎 国土環境株式会社環境技術グループ目 次はじめに委員名簿調査研究の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1I .閉鎖性海湾における環境モニタリング調査のあり方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91. 海のあるべき姿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91.1 海のあるべき姿 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91.2 健康な海 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・151.3 海の健康状態を把握するための視点・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・212 . 海湾における環境モニタリングの現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・222.1 国内の現状と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・222.2 海外の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・283. 海湾における環境モニタリング調査のあり方-「海の健康診断」へ- ・・・・・・・・・・・・374. 環境モニタリング調査体制・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38I I .海湾における環境モニタリング調査の手法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・391 . 「海の健康診断」の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 91.1 構成 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・391.2 検査体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・412. 「海の健康診断」の手法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・422.1 基本情報・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・422.2 一次検査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・532.3 二次検査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1072.4 総合評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1283. ケーススタディー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1293.1 一次検査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1293.2 二次検査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・145-付属資料-(1) 海洋環境モニタリング事例 153(2) 海外事例調査報告 1691調査研究の概要1. 調査研究の目的本調査研究は、海洋沿岸域の最重要エリアの一つである閉鎖性海湾を対象に、海洋環境を構成する各要素を総合的、系統的、継続的に把握する分野横断的なモニタリングのマスタープランの作成、具体的な閉鎖性海湾についてマスタープランを適用するためのノウハウをまとめたガイドラインの作成を通じて、モニタリング計画を効果的に実施するための体制やモニタリング情報の統合管理・相互利用のための方策等の研究を行う。また、国内の閉鎖性海湾を選定し、マスタープラン及びガイドラインをもとにケーススタディを行い、同プランの効果的な実施へ向けた方策、情報の統合管理・相互利用について検討し、海洋環境等の機能向上及び保全に寄与することを目的とした。2. 調査研究の構成我が国沿岸域の海洋環境モニタリングのあり方を検討するに当たり、海洋環境の汚染源監視の従来型考えから、海洋環境汚染を未然に察知する、予防的な本来のモニタリングの姿を提言するため、「海洋環境はどうあるべきか」、その為に「海洋環境モニタリングはどう位置づけられるのか」という基本理念を固めるところから始め、その基本理念に基づくモニタリング計画、モニタリング体制を提言することを目標とした。具体的な提言に当たっては、代表海湾における環境の現状やモニタリング調査の実状を把握し、課題や問題点を抽出し、解決方策を検討することで実践的なモニタリング計画として「海の健康診断」をまとめ、マスタープラン、ガイドラインを作成した。調査研究の全体構成及び手順を図2-1 のフローに示す。2図 2-1 調査研究フローガイドラインの作成・環境保全方針・調査内容の選択・解析手法の選択・情報管理、最適化客観性実践実現性海外事例ケーススタディ代表的閉鎖性海湾(環境特性把握)(モニタリング計画検討)(解析手法検討)閉鎖性海湾環境モニタリング体制実施協力体制環境情報の統合管理・法体系・環境情報データベース・行政区分・公開、利用・支援機関技術 閉鎖性海湾環境モニタリングマスタープラン作成哲学普遍性閉鎖性海湾における環境モニタリングの現状把握・海湾における環境モニタリング調査の実態把握・海湾環境の現状把握閉鎖性海湾の環境モニタリングのあるべき姿・海湾環境の着目点・モニタリング解析技術の対応閉鎖性海湾における環境モニタリングの明確化閉鎖性海湾の海洋環境のあり方・アジェンダ21 行動計画・国際海洋条約・海湾環境保全の方向性海海外外事事例例 国内事例33. 調査方針海洋における調査・研究は、航海の場として航路の安全性を確保することや生物資源の効率的な確保を目的とすることから始まり、人為的な負荷が加わるに至り、恩恵を享受するだけでなく、これらの恩恵を継続するための調査・研究へと変遷してきた。現在でも地球表面の7割を占める海洋は、水圧や光の制約もあり未解明な部分が多く、「海を知る」ための研究が多く続けられている。一方、人為的な負荷を直接的に受ける沿岸や近海では、様々な負荷によってもたらされる海洋汚染やそれに伴う漁獲資源の変動(減少)が問題であり、我が国でも公害問題が表面化してきた1970 年代以降、環境庁(現環境省)を中心とした海洋環境モニタリングが実施されてきた。これらの調査・研究の海洋空間でのスケールと技術レベルの関係を模式的に示したものが図3-1 であり、現状においても空間スケールが大きくなるほど研究的な色合いが強くなる。図3-1 海洋環境モニタリングの空間的・技術的イメージ様々な要因で複雑に変化する海の状態を知るためには、ある程度確立された技術で継続的に観測する必要がある。特に、刻々と変化する環境を連続情報(積算情報)として捉えるためには生物情報が有効であると考える。このような観点から、海洋環境モニタリングの実状をみると、我が国における沿岸域、閉鎖性海湾の海洋環境モニタリングは、主に陸域から負荷される栄養塩物質や有害物質(重金属な空間イメージ多国間水産資源利用国際条約に基づく観測経済水域内海洋利用地球温暖化海洋大循環地球規模の気候変動国内法等に基づく観測生活環境保全公害監視沿岸域 地球規模日常的 研究的技術レベルイメージ4ど)の海域での分布を把握し、生活排水や工業廃水による流入負荷の対策に寄与してきた。その後も、新たな化学物質が調査の対象となり、近年では外因性内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)やダイオキシン類もその対象となっている。しかし、調査の対象はほとんどが水質や底質の項目であり、クロロフィルや植物プランクトンが一部で観測されている他は、有害物質の生物体内蓄積を対象としており、生物量や生物相を継続的にモニタリングした例は見あたらない。一方で、漁業資源に対しては、漁海況観測が古くから行われてきたが、餌料の分布の基礎となる水温、塩分や対象資源生物の状態把握が主で、生物群集を俯瞰する調査とはなっていなかった。また、沿岸域における様々な開発行為では、閣議決定による環境影響評価手続きによって環境現況調査、影響監視調査(環境モニタリング)が行われ、生物量や生物相についても多くの情報を得ているが、これらは事業海域周辺に視点を据え、ある一定の期間だけの調査に限定されているため空間規模や継続性に乏しい。本調査研究が目指すモニタリング調査は、“人間にとって身近で人間の活動に対して感度が高い閉鎖性海湾に焦点を当て、確立された技術を用いて継続的に必要な情報を取得する調査”とし、取得した情報を効率的に活用できる管理体制を含めたモニタリングのあり方を検討した。検討に当たっては、アジェンダ21 行動計画第17 章及び国連海洋法条約の趣旨を十分に踏まえた。54. 調査研究の実施内容4.1 閉鎖性海湾における環境モニタリングの明確化4.1.1 海湾のあるべき姿の検討海湾の営みや仕組みを整理し、「海のあるべき姿」と「海の健康な状態」を定義した。「海の健康な状態」の定義に当たっては、国際海洋法条約、アジェンダ21行動計画第17 章の趣旨を踏まえ、学識経験者等の既往文献、講演内容、海外事例を収集整理して検討した。4.1.2 海の健康を診断するモニタリングの検討海の健康状態を診断するための着眼点とそれに沿った項目(評価項目)を検討した。さらに、海の健康状態を診断する評価項目が実際の海湾のどのような事象、海象で判断できるかを整理し、海の環境モニタリングのあり方をとりまとめた。4.2 閉鎖性海湾における環境モニタリングの現状把握4.2.1 海湾における環境モニタリング調査の実態把握国内外の海湾における環境モニタリング事例及び海湾の環境情報を収集整理した。国内の海湾については、主要海湾である東京湾、伊勢湾、瀬戸内海、有明海を調査対象とした。諸外国の海湾については、既往文献、学術レポートの収集によって、我が国における海湾の環境モニタリングに参考となる事例を抽出した。また、具体事例として必要な調査体制、情報管理などのあり方については、現地調査によって事例を収集し、とりまとめた。4.2.2 海湾環境の現状把握海湾の環境の現状、特性(体質)を把握するために代表海湾を選定し、海湾の健康状態を診断するための評価項目に沿って、収集資料に基づいて代表海湾を整理した。4.2.3 現行の環境モニタリングの問題抽出代表海湾で行われている環境モニタリング調査について、海の健康状態を測定する評価項目が調査されているのかどうかを検討した。さらに、その結果得られた現行モニタリングの問題点を抽出した。64.3 閉鎖性海湾環境モニタリングマスタープランおよびガイドラインの作成4.3.1 マスタープランの作成「海の健康な状態」の定義、海の健康状態を知るための海洋環境モニタリングのあり方を踏まえ、さらに、現状の環境モニタリング調査及び海湾環境の現状から抽出された課題、問題点に留意して、閉鎖性海湾における環境モニタリング「海の健康診断」のコンセプト、仕組み、検査の内容についてマスタープランを作成した。4.3.2 ガイドラインの作成「海の健康診断」の具体的手法として、一次検査と二次検査の内容を中心に、ガイドラインを作成した。一次検査については、手法、評価基準、事例、注意点を、二次検査については、専門的調査の構成を記載した。4.3.3 ケーススタディ(1) 環境モニタリング計画の策定有明海を対象に、海洋汚染の可能性を指摘し、その原因を究明するための二次検査の方法を提案した。(2) 代表海湾の「健康診断」有明海を対象に、生態系の安定性と物質循環の円滑さに係る一時審査を実施し、有明海の健康状態を診断した。(3) 閉鎖性海湾環境モニタリング体制「海の健康診断」が、継続的に実施され、環境情報が蓄積され有効に利用される体制について検討した。75. 調査研究のスケジュール5.1 第1回委員会開催日;平成12 年11 月1 日議 題;・全体事業計画及び実施計画について5.2 第2回委員会開催日;平成12 年12 月22 日議 題;・閉鎖性海湾における環境モニタリングの明確化について・閉鎖性海湾における環境モニタリングの現状について・環境モニタリングに関する海外研究事例について5.3 第3回委員会開催日;平成13 年3 月6 日議 題;・海の健康度について・海の健康度を診断するモニタリングの検討について・海湾環境の現状把握について・海湾における環境モニタリング調査の実態について・マスタープランについて5.4 第4回委員会開催日;平成13 年4 月27 日議 題;・平成12 年度調査研究報告書について・平成13 年度事業計画について・平成13 年度実施計画について・海外事例調査について85.5 第5回委員会開催日;平成13 年7 月13 日議 題;・第5回世界閉鎖性海域環境保全会議への発表要旨の応募について・「海の健康度」の評価項目について・ケーススタディ海湾の選定について・海外事例調査について5.6 第6回委員会開催日;平成13 年12 月27 日議 題;・第5回世界閉鎖性海域環境保全会議発表報告・「海の健康診断」マスタープランについて・「海の健康診断」一次診断項目および診断方法等について・海外事例調査について5.7 第7回委員会開催日;平成14 年3 月1 日議 題;・平成13 年度調査研究報告について9I 閉鎖性海湾における環境モニタリング調査のあり方1. 海のあるべき姿海の環境を保全し、海からさまざまな恩恵を享受していくためには、海を健康な状態に保つことが重要である。そのためには、海の状態を的確に把握し、必要な措置を講じていかなければならない。海の状態を的確に把握する方法としてモニタリング調査が有効であるが、効果的にモニタリング調査を実施し、海の健康状態を把握するためには、健康な海そのものを理解していなければならない。そこで、健康な海を理解するため、アジェンダ21 行動計画第17 章、国連海洋法条約及び環境基本法といった国内外の法規の趣旨、学識経験者等の既往文献及び講演内容、海外事例を参考にして、まず、海のあるべき姿について検討した。1.1 海のあるべき姿1.1.1 国内外の法規等における海の位置付け国内外において、海はどのように捉えられているのかを把握するため、海洋環境についての代表的な法規として、国際的には「アジェンダ21 行動計画」の第17 章及び国連海洋法条約を、国内的には「環境基本法」の目的(第1条)及び基本理念(第3条)を整理した。(1) アジェンダ21 行動計画第17 章 海洋、閉鎖性及び準閉鎖性海域を含む全ての海域及び沿岸域の保護及びこれらの生物資源の保護、合理的利用及び開発A.沿岸域及び排他的経済水域を含む海域の統合的管理及び持続可能な開発B.海洋環境保護我が国は、「環境基本法」により、水質の汚濁について、人の健康を保護し、生活環境を保全する上で維持することが望ましい基準を定めている。これを達成するために「水質汚濁防止法」により、工場、事業場から河川、湖沼、沿岸海域等の公共用水域へ排出される水の水質規制及び生活排水対策の実施を推進している他、特に瀬戸内海においては「瀬戸内海環境保全特別措置法」により、水質に対するより厳しい規制、自然海浜の保全等の措置を講じている。また、「MARPOL73/78 条約」を踏まえた「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」により、船舶、海洋施設等に起因する海洋汚染の防止を図っている。さらに、「下水道法」により公共用水域の水質保全に資することを目的として、下水道整備による環境への負荷削減策を講じてい10る。陸上に起因する海洋汚染の防止のために有害物質等の排水規制を順次強化、実施しているほか、下水道をはじめ、地域の実情に応じて合併処理浄化槽等の整備、沿岸海域における汚泥浚渫等の海域浄化対策事業を推進している。C.公海の海洋生物資源の持続可能な利用及び保全海洋生物資源は、21 世紀へ向け今後とも人口増加を続ける人類への安定的な食料確保という観点から、適正な科学的管理の下で持続的利用を前提とした開発が促進されるべきと考える。D.領海内の海洋生物資源の持続可能な利用及び保全我が国周辺水域は寒・暖流が交錯し、漁場としての好条件に恵まれ、また豊かな海洋生物資源も存在し、世界有数の漁場となっている。この海洋生物資源を適切な保存と持続的生産を図りつつ効率的に活用することは、我が国に課せられた責務である。E.海洋環境の管理及び気候変動に関する不確実性への対応気候変動の海洋環境に与える影響に関する不確実性に対応するため、海流、水温、塩分、海氷、風、波浪等海洋環境に関する系統的な観測を推進するとともに、得られたデータをユネスコ(UNESCO)、世界気象機関(WMO)、国連環境計画(UNEP)等で国際的に位置づけられている「国際海洋データ交換システム(IODE)」「全世界海洋情報サービスシステム(IGOSS)」等のネットワークに提供しているところである。F.地域協力を含む国際協力及び調整の強化海洋生物資源の保全と海洋汚染防止の問題は性質の異なる問題であり異なるアプローチが必要である。海洋生物資源に関しては、これまで、国際的あるいは地域的漁業機関の下で、漁業資源の保全と持続可能な開発を目的とした効果的な管理が行われてきており、他の環境分野に比較してかなりの効果を挙げてきた。我が国としても世界有数の漁業国としてこれら機関の下で積極的に海洋生物資源の保全に貢献してきており、今後これら既存の機関の一層の機能強化が望まれる。また、今後生じることが予想される機関間での調整を要する問題については、国連食糧農業機関(FAO)のように漁業に関する科学的・専門的知見を備えた国際機関が調整機能を果たすべきであり、国連総会に調整を委ねるのは適切ではないと考える。なお、国連高度回遊性魚種類等会議に関しては、漁業資源管理の問題の一環として科学的知見に基づいた対応が必要であり、「国連海洋法条約」の趣旨に合致したレジームの尊重が適当と考える。一方、海洋汚染防止の問題については、これまで国際海事機関(IMO)、国連環境計画(UNEP)が中心となって取り組んできた。大規模海洋汚染問題等新たな対応が必要とされる事項についても、これら機関が引き続き積極的な役割を果すことが期待される。11G.小規模な島嶼諸国の持続可能な開発島嶼諸国は、それぞれが特異な生物相・生物多様性、また、それらと結びついた独自の文化を持っていることが多い一方、その地政学的関係により気候変動の影響や自然災害を被りやすい状況にあり、その持続可能な開発のための国際協力が期待されている。国連では1994 年4月に小島嶼諸国の持続可能な開発に関する世界会議が開催される予定である。(2) 国連海洋法条約第12 部 海洋環境の保護及び保全・海洋環境の汚染の定義生物資源及び海洋生物に対する害、人の健康に対する危惧、海洋活動(漁業その他の適法な海洋の利用を含む)に対する障害、海水の利用による水質の悪化及び快適性の減少というような有害な結果をもたらし又はもたらすおそれのある物質又はエネルギーを、人間が直接又は間接に海洋環境(河口を含む)に持ち込むこと・海洋汚染の原因陸からの汚染、海底資源探査や沿岸域の開発などの活動による生態系の破壊、汚染物質の海への流入、投棄による汚染、船舶からの汚染、大気を通じての汚染(3) 環境基本法(目的)第1条この法律は、環境の保全について、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにするとともに、環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的とする。(環境の恵沢の享受と継承等)第3条環境の保全は、環境を健全で恵み豊かなものとして維持することが人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであること及び生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っており人類の存続の基盤である限りある環境が、人間の活動による環境への負荷によって損なわれるおそれが生じてきていることにかんがみ、現在及び将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤である環境が将来にわたって維持されるように適切に行われなければならない。121.1.2 既往文献等における海の位置付け国内では、海の環境保全について、環境関連の雑誌や講演会等をとおして、学識者から様々な考えが示されている。それらの内容は以下のようにまとめることができる。・人間は海から多くの恩恵を受けている1,2,3・海洋環境を保全し、健全なかたちで将来に引き継ぐ責任がある1,2,3・海運・交通の場である1,3・人に安らぎを与えてくれる1・埋立てなど陸地造成の場である1・持続的に食料を供給してくれる1,2,3・あらゆる物質を循環させる3・多種多様な生物が食物連鎖や生態系を構成している2,3・地球規模で気象・気候に影響を与えている3・エネルギーを供給してくれる1また、海外では「Ocean health」とか「Ecosystem health」といった言葉が使われており、国際的にも、環境に対して、「Human health」という考え方から「Ecosystemhealth 」という考え方に変わってきている。「Ocean health 」とか「Ecosystemhealth」について明確に定義されているものは見あたらず、評価手法についてはいくつかの論文が公表されている。例えば、「What is a health ecosystem?」(Robert Costanzaand Michael Mageau(1999)Aquatic Ecology 33:105-115)では、「Healthy ecosystemは継続可能なもの、即ち、外部ストレスに曝されても、その構造(organization:生物体)と機能(vigor:活力)を維持する能力を有している(resilience:復元力)ということ」とし、この3つの生態系属性(organization、vigor、resilience)を定量化するいくつかの手法について論じている。「Ocean health」あるいは「Ecosystem health」に関して収集した海外の資料及び書籍は次のとおりである。比較的、陸上の生態系についの内容が多かった。1 清水 誠(2000):海洋環境保全のあり方を考える.かんきょう第25 巻4号,6-92 中田英昭(2000):海洋環境モニタリングの意義と手法.かんきょう第25 巻4号,10-133 平野敏行(2000):海の利用と保全を考える.EMECS NEWSLETTER No.15,413-収集した資料および書籍等-<資 料>● 生態系の健全国際協会(International Society for Ecosystem Health(ISEH))に関する資料● GOOS(Global Ocean Observing System)に関する資料● The Danish Marine Environment:Has Action Improved its State?1998、Danish Environmental Protection Agency● Quality Status Report 20002000、OSPAR COMMISSION<書 籍>● ECOSYSTEM HEALTHEdited by:David Rapport、Robert Costanza、Paul R. Epstein、Connie Gaudet、Richard Levins1998、 Blackwell Science, Inc. (ISBN 0-632-04368-7)● Integrated Assessment of Ecosystem HealthEdited by : Kate M. Scow 、Graham E. Fogg 、David E. Hinton 、Michael L.Johnson1999、 LEWIS PUBLISHERS (ISBN 1-56670-453-7)● Ecosystem Health. New Goals for Environmental ManagementEdited by:Robert Costanza、Bryan G. Norton、Benjamin D. Haskell1992、 ISLAND PRESS (ISBN:1-55963-140-6)● Evaluating and Monitoring the Health of Large-Scale EcosystemEdited by:David J. Rapport、Connie L. Gaudet、Peter Calow1993、 Springer-Verlag (ISBN:3-540-58805-1)1.1.3 海のあるべき姿の定義国内外の法規と学識者の考え方には、“人間は海から多くの恩恵を受けていること”、“海洋環境を保全し継続的に恩恵を受けること”が趣旨として伺える。海は地球表面の約7割を占める圧倒的な規模と容量を持った水の貯蔵庫であり、“気候調節”、“生物生産”、“物質循環”及び“アメニティー”等の地球上の生物にとって重要な機能を担っている。これらの機能が正常に働くことにより、人間を含むすべての生物は、“生息環境(地球環境)の維持”、“食糧資源の供給”、“海運”及び“アメニティー”等の自然の営みによって生じる多くの恩恵を享受し、生活している(図I-1)。14図I-1 海の機能と恩恵の概念海を含む地球環境保全の必要性は、国際的には「アジェンダ21 行動計画」、「国連海洋法条約」及び「生物多様性条約」等、国内では「環境基本法」等の条約及び法規、学識経験者の意見として、国内外を通じて共通の認識である。私たちは、海を保全し、海の自然の営みによる恩恵を継続的に受けることができるように海を大切にする必要がある。以上のことから、海のあるべき姿は“自然の営みによる海からの恩恵を継続的に享受できる状態”と定義した。“海のあるべき姿”とは、“自然の営みによる海からの恩恵を継続的に享受できる状態”である。・気候調節機能・アメニティー機能・生物生産機能・物質循環機能・海 の 存 海 の 存 在海の機能食糧資源供給アメニティー海の恩恵海運気候調節等生息環境151.2 健康な海地球上の生物が海から受けている多くの恩恵のうち、食糧資源供給に関係深い生物生産機能の海域(外海、湧昇域、沿岸域)による違いを植物プランクトンの平均生産力でみると、広大な面積を持つ外洋よりも面積的には狭いが我々に身近な沿岸域で多い(図I-2)。図I-2 海域別面積割合及び植物プランクトンの平均生産力の割合(Ryther,1969)沿岸域は、食糧資源供給という恩恵にとって重要な海域であるといえる。一方で、沿岸域、特に閉鎖性海湾は、比較的静穏な海域であること等から港湾が発達する等の人間の利用度が高く身近な海域であり、環境保全を必要としている海域である。そこで、人間活動の影響を最も受ける沿岸域を対象に、健康な海について検討することとした。1.2.1 沿岸域の特徴沿岸域を開放性で区分したときの閉鎖海域を閉鎖性海湾、開放海域を開放性沿岸域とし、閉鎖性海湾が有する特徴を開放性沿岸域の特徴と比較した(表I-1)。閉鎖性海湾も開放性沿岸域も沿岸域の一部であることから共通する特性も多いが、閉鎖性海湾は、地形的に奥まっており、比較的波が穏やかであることから、古くから港湾を中心とする都市が発達し、その結果、負荷が多くなった。閉鎖性海湾は、地形的に海水交換が悪く、陸域からの負荷などの物質が滞留する特性を持っている。また、都市化の影響で藻場や干潟が消滅する場所が多い。<海域面積の割合> <植物プランクトンの平均生産力の割合>外洋90.0%沿岸域9.9%湧昇域0.1%外洋11%沿岸域22%湧昇域67%16表I-1(1) 開放性沿岸域及び閉鎖性海湾の特徴開放性沿岸域の特徴 閉鎖性海湾の特徴・外海の影響を受けやすい→比較的波が荒い、鉛直循環が起こりやすい・外海の影響を受けにくい→比較的波が穏やか、鉛直循環が起こりにくい・海水交換が良い→移流・拡散が活発・海水交換が悪い→物質が滞留する表I-1(2) 開放性沿岸域及び閉鎖性海湾の特徴開放性沿岸域と閉鎖性海湾とが共通して持つ特徴(沿岸域の特徴)・比較的浅い→底層まで光が届く、藻場が発達しやすい、基礎生産が活発、溶存酸素量の増加・淡水流入がある→土砂が供給される、干潟が発達しやすい・陸域からの負荷を直接受ける→流入負荷(栄養塩類、重金属、環境ホルモン等)の流入・潮汐がある・表層から底層まで魚介類が分布している→生物の多様性が高い、多様性の高い生態系・食物連鎖の形成・漁業活動が盛ん→系外への物質移動※カッコ内は、特徴に起因する海湾の現象を示す。1.2.2 健康な海1.2.1で整理した特徴を踏まえ、沿岸域では、図Ⅰ-3に示すような基本構造が成立していると考えられる。ここで、藻場及び干潟は、条件の揃った特定の沿岸域に形成されるものであり、沿岸域の特徴的な構造である。そこで、藻場及び干潟の基本構造についても別途、図に示した。陸域から流入する栄養塩を藻場や干潟に代表される浅海域で受け止め(緩衝機能)、そこで生物による浄化-生産が起こり、海水中では、光合成による基礎生産に始まる、食う、食われるの食物連鎖によって生物資源が生産され(生物生産機能)、鳥や漁業によって系外への除去が行われている(除去機能)。底層に入った栄養物質は、固着性の強い底生魚介類の餌となるとともにバクテリアなどの微生物によって分解され、底泥からの溶出により再び海水中に循環している(分解機能)。この時、酸素が消費される。このような内部循環の一方で、潮汐などの物理的な作用で外海へ移流・拡散している(海水交換機能)。この構造の中で、物質の循環を補助している生物群集や生物の生息空間、生息環境が17「生態系」である。本来、生態系を構成する生物の種構成及び生物量は、季節の変化や、大雨等による突発的な気象条件等、自然条件下での生息環境の変動に左右され、ある一定の幅で変動する。そのように、一定の幅で変動している状態が生態系が安定している状態である。人の活動等によって海域環境が悪化してくると、この変動幅は崩れてくる。この状態が不安定な状態である。生態系が安定していることが海洋の営みにとって重要なことであると考えられる。一方、負荷、海水交換、基礎生産、沈降、分解、除去といった物質の動きが「物質循環」である。物質循環が滞ることなく円滑であることが海の営みにとって重要であると考えられる。以上のことから、健康な海は“生態系の安定性が大きく、物質循環が円滑であること”と定義できる。“健康な海”とは、“生態系の安定性が大きく、物質循環が円滑な海”である。19211.1 海の健康状態を把握するための視点前章で、健康な海とは、“生態系の安定性が大きく、物質循環が円滑な海”と定義した。この定義を受けて、海の状態を的確に把握するためのモニタリング調査は、“生態系が安定しているかどうか(生態系の安定性)”、“物質循環が円滑に行われているかどうか(物質循環の円滑さ)”が把握できるものである必要がある。海の健康状態を把握するに当たっては、まず、地理的情報、気象的条件、社会的情報、歴史的情報及び管理的情報といった海湾の基本情報を十分に把握し、図 I-4に示した2つの視点で調査を構成する必要がある。すなわち、図I-3 に示した沿岸域の基本構造に基づき、生態系の安定性については、「生態系」を表す“生物群集(組成)”、“生息空間”及び“生息環境”の3つの視点、物質循環の円滑さについては、「物質循環」を表す“負荷”、“海水交換”、“基礎生産”、“堆積・分解”及び“除去”の5つの視点でそれぞれの調査を行うこととする。図 I-4 海の健康状態を把握するための視点「生態系の安定性」の視点生物組成生息空間生息環境「物質循環の円滑さ」の視点負 荷海水交換基礎生産堆積・分解除 去222. 海湾における環境モニタリングの現状と課題国内外における現行の環境モニタリング事例を収集、整理した。国内の事例については、海湾における生態系の安定性や物質循環の円滑さを把握する際に利用可能な環境情報かどうか、また、それらの情報はどのような形で整備されているのかという視点で整理を行った。海外の事例については、既往文献及び学術レポート等を収集し、我が国における海湾の環境モニタリングに参考となる事例を抽出した。また、南仏及び北海沿岸等におけるモニタリングの実態を訪問調査し、生態系の変化が「海の健康度の指標の一つ」として着目されていること、潮間帯などの生物分布のモニタリングが地道に継続されており、生物調査が海の変化をとらえる上で重要な役割を担っていることが確認できた。国内の環境モニタリング事例の内容及び海外事例の調査報告は付属資料(3)及び(4)に示した。2.1 国内の現状と課題2.1.1 国内の現状国内の環境モニタリング調査については、調査結果が公表されているものと非公表のものとがあった。ここでは、主要海湾である東京湾、伊勢・三河湾、瀬戸内海、有明海を調査対象とし、調査結果が入手できた調査について、モニタリング名称、実施機関、概要・目的、調査測点、測定項目、調査年、調査頻度及び情報公開性について整理した。整理に用いた資料は以下のとおりである。現在行われている主要海湾の主なモニタリング調査の概要を表Ⅰ-2に示す。詳細は付属資料(3)に示した。海湾でのモニタリング調査の特徴は以下のように整理できる。・調査結果が公開されている調査と公開されていない調査がある。・調査結果が公開されているものでも、印刷物等によって公表されている調査と、調査主体に問い合わせることにより公表となる調査とがある。・大きく3つに分類できる。それは、海洋汚染調査及び公共用水域測定等のように環境省及び海上保安庁等の中央省庁が実施機関となって全国的に行っている調査、漁海況予報事業に関わる海洋調査のように自治体が実施機関となって行っている調査、大規模事業に伴って行っている調査である。・調査地点は、沿岸域に多い。(付属資料のモニタリング調査地点図参照)・調査項目は水質が多く、物理環境及び生物を対象とした調査は少ない。・1970 年以降に始まった調査が多い。23表Ⅰ-2 主要海岸における主なモニタリング調査の概要※情報の公開制について、調査結果が印刷物等により公開されているものは”公表”、印刷物等によって公開されていないが調問い合わせすることにより結果が分かるものは”非公表”とした。25参考資料・海洋汚染調査報告 第12 号 昭和59 年調査結果,海上保安庁,昭和61 年3 月・公共用水域及び地下水の水質測定結果,東京都環境保全局・公共用水域水質測定結果及び地下水の水質測定結果,千葉県環境部・神奈川県水質調査年表,神奈川県・公共用水域等水質調査結果,愛知県・公共用水域及び地下水の水質測定結果,三重県・公共用水域の水質測定結果報告書,兵庫県・公共用水域水質測定結果,岡山県・公共用水域の水質測定結果,広島県・大気の汚染・公共用水域の水質測定結果,徳島県・大気汚染・水質汚濁調査結果,香川県・公共用水域の水質測定結果,愛媛県・公共用水域の水質測定結果,大分県・公共用水域及び地下水の水質測定結果,佐賀県・公共用水域水質測定結果,長崎県・化学物質と環境,平成11 年,環境庁環境保健部環境安全課・平成6 年度 広域総合水質調査データ集(東京湾、伊勢湾、瀬戸内海),平成8 年3 月,環境庁水質保全局・千葉県浅海定線調査結果(沖合点) 昭和45 年~57 年,千葉県水産試験場(のり分場)・昭和59 年度 漁況海予報事業結果報告書,昭和60 年4 月,神奈川県水産試験場・平成2 年度 漁況海況予報事業結果報告書,平成3 年3 月,愛知県水産試験場・瀬戸内海浅海定線調査 特殊項目測定資料 昭和52~56 年,昭和62 年1 月,水産庁南西海区水産研究所・東京湾横断道路 環境保全へのとりくみ,平成6 年7 月,日本道路公団・東京湾横断道路株式会社・東京湾アクアライン 開通後の環境保全へのとりくみ,平成12 年3 月,日本道路公団東京第二管理局・中部新国際空港の漁業に関する調査報告書(平成5 年度調査報告),平成6 年3 月,社団法人 日本水産資源保護協会・中部新国際空港の漁業に関する調査報告書(平成7 年度調査報告),平成8 年3 月,社団法人 日本水産資源保護協会26・中部新国際空港の漁業に関する調査報告書 平成7 年度調査報告(4 か年とりまとめ),平成8 年3 月,社団法人 日本水産資源保護協会・関西国際空港2 期事業の実施に伴う環境監視計画、平成11 年6 月、関西国際空港株式会社・関西国際空港用地造成株式会社272.1.2 現行の環境モニタリング調査の課題2.1.1 で整理した国内の環境モニタリング調査の現状から、課題を整理した。海の健康状態を把握するためには、生態系及び物質循環について平面的及び鉛直的に捉える必要があるが、現行のモニタリング調査はこのような観点で調査が計画及び実施されていないことが分かった。<現行の環境モニタリング調査の問題点>・モニタリング調査が行われ始めたのが、高度経済成長期以後の、環境悪化が表面化し始めた1970 年以降であり、環境悪化が始まる前の環境の状態を示す情報が無い。(例)海洋汚染調査:1972~公共用水域水質測定:1971~化学物質に関する環境調査(化学物質環境安全性総点検調査):1974~非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査:1985~指定化学物質等検討調査:1988~・調査項目は水質が中心であり、物理及び生物環境についての調査が非常に少ない。(例)海洋汚染調査、公共用水域水質測定、漁業海況予報事業に関わる海洋調査・代表4 海湾の環境特性を整理し、海の健康状態を把握する際に利用できるモニタリング調査結果は、透明度、クロロフィル、底質の強熱減量、有害物質といった程度である。⇒生態系及び物質循環を把握する際に利用できる調査が少ない。・調査水深が比較的表層に設定されており底層の情報が少なく、海湾の鉛直構造を捉えるための調査が行われていない。・流入負荷を把握することが特に重要であるが、これが把握できる調査は行われておらず、既存資料でも統一性に欠け、人によって様々である。・海域によるが、地点数が少ない。(例)周防灘(海洋汚染調査)、有明海(すべてのモニタリング)・地点数が沿岸に集中しており、湾央の状態がわからない。(例)公共用水域水質測定・調査頻度が少ない。(例)海洋汚染調査化学物質に関する環境調査・資料収集に手間がかかるものや、一般公開されず、詳細が不明なものがある。(例)漁業海況予報事業に関わる海洋調査事業者レベルの環境モニタリング282.2 海外の現状2.2.1 海外における環境モニタリング調査の文献整理海外における海域の環境モニタリング事例を調査するために、文献検索を行った。検索条件等については、以下に示すとおりである。・検索データベース:JICST(科学技術事業団)・検索キーワード:(海洋 or 沿岸域)and(モニタリング)and(環境)・検索対象年および記述言語:1981 年以降、英語上記の条件で検索を行った結果、129 件の文献が示された。129 件の内容は以下のように大別することができる。●モニタリング事例(71 件)生物、一次生産、生物資源のモニタリング(6 件)排水・廃水、ごみのモニタリング(19 件)環境中の化学、金属、放射能物質、石油系炭化水素のモニタリング(24 件)浚渫行為の影響モニタリング(1 件)海岸変形のモニタリング(3 件)海洋構造物の腐食モニタリング(6 件)雨水、地下水のモニタリング(3 件)大気エーロゾル、紫外線、CO2、気候変動のモニタリング(9 件)●モニタリング手法の開発、検証事例(34 件)衛星、リモートセンシングデータ利用の有効性生物指標の選定、検証●モニタリング計画の提唱(11 件)●その他(13 件)上記のように、科学論文として公表されているものの多くは“モニタリング事例”について書かれたものであり、その大半がモニタリングの対象を一つの構造や機能に絞った調査かもしくはあるインパクトに対する環境の応答をみるためのモニタリング調査となっている。その一方で、モニタリング調査のツールや手法の開発に関する論文も多く、特に衛星やリモートセンシングを用いた広範囲な地域を同時に調査するための研究が盛んに行われているこ29とが窺える。また、“モニタリング計画の提唱”として区分したものには、実際に包括的なモニタリング調査を行った結果の報告と必要と思われるモニタリング計画の提唱に関して書かれた論文が含まれている。本調査において、参考になると思われる“モニタリング計画の提唱”から9 件を選んで、以下に簡単な紹介を行う。文献中の記号の意味は次のとおりである;TI 日本語タイトル、ET 英語タイトル、AU 著者、JN 資料番号、VN 巻・号・ページ・発行年、AB 概要、KW キーワード。---------- 文献 1 ----------TI メキシコ湾東北部沿岸および海洋の生態系計画 生態系モニタリング、ミシシッピー/アラバマ大陸棚 第二年次中間報告書 (報告書1997 年10 月1 日~1 998 年9 月30 日)ET Northeastern Gulf of Mexico Coastal and Marine Ecosystem Program :Ecosystem Monitoring, Mississippi / Alabama Shelf, Second Annual Interim Report.(Rept. For 1 Oct 97‐30 Sep 98.)AU (Continental Shelf Associates, Inc., F L)JN P0999A PB Rep RP PB-99-134090 VN PAGE.226p 1998AB この年次中間報告書は,ミシシッピー/アラバマ外洋大陸棚の堅い底土層の特性を把握し,モニターを行う四年計画の二年目(フェーズ2)の結果を要約した。フェーズ2 には,以前に設定した9 サイトを再訪する2 回のモニタリング航海があった。航海M2 は,1997 年10月に実施された。航海M3 は,1998 年4 月に開始されたが,悪天候のため延期され,1998 年8月に終了した。2 回の係留調査も,1998 年1 月と7 月に実施された。モニタリング計画の項目は,地質の特性評価,堆積物動特性,地球化学,海洋物理学および水路学,堅い底土層中の群落,魚類群落,および2 件の関連調査(微小生息場所調査および寄生有機体集ぞく調査)等である。各項目に関して,調査原理,現地および研究室内調査手法,今日までの結果とこれに関する議論を示した。KW メキシコ湾; 生態系; 海洋物理学; 沿岸帯; 底生生物; 環境モニタリング; 大陸棚; 生息場所; 海洋生物; 汚染監視; 油汚染; 浅海堆積物; 現地調査; 海洋汚濁---------- 文献 2 ----------TI 北海におけるモニタリング計画ET Monitoring Programmes in the North Sea.AU LAW R J (Fisheries Lab., Ministry of A griculture, Fisheries and Food,Essex)30JN A0624B (ANPRD) (0144-557X) Anal Proc VN VOL.29,NO.10 PAGE.442‐443 1992AB 英国の農漁食糧省の漁業研究所が関係しているモニタリングを紹介した。対象試料は食用魚類・貝類,海洋ほ乳類の組織,魚類の病気,貝中の藻類毒素,海洋の下水汚泥投葉サイト,石油・天然ガス開発サイト,堆積物ベースライン,放射能である。北海特別調査団によるモニタリングマスタープランについても述べた。KW 北海; イギリス; 環境モニタリング; 汚染監視; 二枚貝類; 魚類; 鯨類; 貝類毒; 海洋汚濁; 汚染源; 下水スラッジ; 油田開発; 天然ガス基地; 海底堆積物; 放射能---------- 文献 3 ----------TI 米国における廃水の流入する沿岸海水のモニタリング 米国国立研究協議会(国立科学アカデミー及び国立工学アカデミー)の1990 年の二つの刊行物のレビューET Monitoring of coastal ocean waters receiving wastewaters in the USA: reviewof two 1990 publications of the USA National Research Council‐National Academy ofSciences and National Academy of Engineering.AU GARBER W F (Loyola Marymount Univ., CA, USA)JN A0070A (WSTED) (0273-1223) Water Sci Technol VN VOL.25,NO.9 PAGE.49‐571992AB 沿岸海水のモニタリングに1955 年以来,米国は莫大な資金を消費しているので,国立研究協議会の海洋部門は国家的モニタリング成果を評価する委員会を設置した。35 年間のデータの情報価値は低く,また,排水口付近のデータに欠けていた。委員会は,資金の配分を含めて計画の見直しを提言した。本レポートは米国以外の国にとっても有用性が高い。KW 海洋汚濁; 海洋投棄; 廃水; 廃水処理水; 縁海; 環境モニタリング; 水質試験; 環境アセスメント; 調査計画; 基金; 業績評価; アメリカ---------- 文献 4 ----------TI 環境汚染防止に関する測定の保証ET Measurement assurance for environmental control.AU TARBEYEV YU V (VNIIM, Leningrad, USSR)JN K19890413 (0-941743-60-8) Proc 2nd Symp Metrol Ass ur Environ Control1988 VN PAGE . 5 ‐ 25 1988 CO Symposium on Metrological Assurance forEnvironmental Control(2nd)HelsinkiAB 「環境汚染防止の計量学的保証」に関する国際測定連合・計量技術委員会の第2 回シンポジウム(1988 年8 月22-24 日,フィンランド,ヘルシンキ)の基調報文。標題に関する一31般的問題を,過去の会議での著者の主張を再現しつつ述べ,各論として大気汚染物測定,河川,湖沼,海洋など水圏のモニタリングおよび環境放射能測定における国家的保証や国際的比較のための測定値の均質性の必要性を論じた。KW 公害計測; 計量管理; 環境汚染; 放射能汚染; 保証; 均質化; 汚染監視---------- 文献 5 ----------TI MONOC 計画 地球規模での海洋生態系の科学的な総合モニタリングシステムの実現ET MONOC programme : Scientific substantiation of the integrated global oceanecological monitoring system.AU TSYBAN A V (Natural Environment and Climate Monitoring Lab., SUN); IZRAEL Y A(USSR State Committee for Hydrometeorology and Control of Natural Environment, SUN)JN D0789B (EMASD) (0167-6369) Environ Monit Assess VN VOL.11,NO.3 PAGE.279‐292 1988-1989AB 海洋資源の利用と汚染物質による反生産的要素の増加に対して必要となっている地球規模での総合的海洋モニタリングシステムについて,USSR の主唱の下に1983 年に開始された標記の計画の基本概念,汚染物質の生化学的循環,海洋環境の同化能力,生態学的モニタリングの基本要素および方法の選択などを科学的な視点から論述。KW 海洋汚濁; 海洋生物; 生態系; 汚染監視; 海洋環境; 環境容量; 調査計画; 汚染物質;CIS【ソ連】---------- 文献 6 ----------TI IOC(政府間海洋学委員会)の海洋汚染モニタリングシステム(MARPOLMON)の発展の目標,構成要素および経験ET Objectives, components and experiences in the development of the IOC marinepollution monitoring system (MARPOLMON).AU ANDERSEN N R (National Science Foundat ion, USA); DAWSON R (Univ. Maryland,MD, USA); DUINKER J C (Kiel Univ., DEU); FAR RINGTON J W (Woods Hole OceanographicInstitution, MA, USA); KNAP A H (Bermuda Biological Station for Research, GBR);KULLENBERG G (Intergovernmental Oceanographic Commission)JN D0789B (EMASD) (0167-6369) Environ Monit Assess VN VOL.11,NO.3 PAGE.299‐314 1988-1989AB 地球規模での環境モニタリングシステム(GEMS)の中で海洋の化学成分の調査と測定に携わるMARPOLMON の活動に関して,その方針,モニタリング内容,データの処理について述32べるとともに活動経験からの問題点などについて提言。KW 海洋汚濁; 水質汚濁質; 汚染監視; 国際協力; 水質試験; 水質管理; 国際機関; 観測網; データ処理---------- 文献 7 ----------TI 海洋の健康とそのモニタリングの必要性ET The health of the oceans and the need for its monitoring.AU KULLENBERG G (Univ. Copenhagen)JN D0789B (EMASD) (0167-6369) Environ Monit Assess VN VOL.7,NO.1 PAGE.47‐57 1986AB 海洋モニタリングは,人間の健康を守るための生物の汚染質濃度の監視,環境管理を目的とする監視,水,堆積物,生物中の汚染物の分布と拡がりの情報を得るための監視,不自然な変化を検出するための監視の4 目的があるが,総合監視計画の策定には,海と大気を含め,環境の重要な成分を同時に観測する必要がある。海洋の作用と人間活動との相互作用を決定する界面フラックスモデルを,生物地球化学的循環を取り入れて開発した。監視の対象として下水,有機塩素化合物,石油,金属及び放射性核種を選び,これらにつき論述。KW 海洋汚濁; 汚染監視; 方法論; 環境アセスメント; 海洋環境; 下水; 有機塩素化合物;石油; 金属; 放射性同位体; 水質汚濁質; 海洋観測; 循環---------- 文献 8 ----------TI 世界の海洋の生態学ならびに統合された地球規模モニタリングの諸問題ET Ecology and the problems of world ocean integrated global monitoring.AU IZRAEL Y A (U.S.S.R. State Committee for Hydrometeorology and the Control ofthe Natural Environment); TSYBAN A V ( U.S.S.R. Academy of Sciences)JN D0789B (EMASD) (0167-6369) Environ Monit Assess VN VOL.7,NO.1 PAGE.5‐23 1986AB 現在世界の海洋が,主として人為的排出物すなわち,石油,塩素化有機物ならびに重金属等により汚染され海洋生物ならびに生物群より成る生態系が悪影響を受けている状態を分析し,標記モニタリングの必要性を強調。同モニタリングは各地域ごとのモニタリング結果の集積ではなく世界規模の統合されたものであるべしとし,その地球物理学的ならびに生態学的な両面につき論述した。一方海洋の生態系には流体力学的な輸送,生物学的な沈降ならびに濃縮等による自浄作用があり,これによる生態系保存作用が働き上記汚染を軽減する面もありとした。しかし全体として2000 年までに現在の基準を超える汚染が予測されるので適33切な対応が必要と警告。KW 海洋汚濁; 海洋環境; 生態系; 汚染監視; 海洋生物; 生態学; 生物濃縮; 自浄作用; 海洋物理学; 大気海洋間相互作用; 重金属汚染; 有害物質; 油汚染; 有機塩素化合物; 環境インパクト---------- 文献 9 ----------TI 沿岸の計画と管理 III 国際協力 欧州共同体の環境政策ET Coastal planning and management. III . International cooperation. TheEuropean Community’s environmental policy.AU SCHNEIDER G (Directorate ‐ Central “ Envi ronment , Consumer Protectionand Nucl ear Safety”)JN A0651B (0013-2942) Ekistics VN VOL.49,NO.293 PAGE.165‐167 1982AB 1977‐1981 年環境計画に従い,沿岸域の総合管理を共同体間で行うための方策として,1)データの入手,2)データの配布,3)総合的集中的計画過程,4)効果のある規制,5)分野間,行政機関間の協力,6)選択的経済投資,7)連続モニタリングの7 策が提示された。1982 年の欧州計画閣僚会議,1983 年の環境閣僚会議の議題にあげられているKW 沿岸地区; ヨーロッパ共同体; 環境管理; 経済性FT [船体構造要素]次に、現在、収集した資料および書籍等について紹介を行う。資料● 生態系の健全国際協会(International Society for Ecosystem Health(ISEH))に関する資料● GOOS(Global Ocean Observing System)に関する資料● The Danish Marine Environment:Has Action Improved its State?1998、Danish Environmental Protection Agency● Quality Status Report 20002000、OSPAR COMMISSION34書籍● ECOSYSTEM HEALTHEdited by : David Rapport 、Robert Costanza 、Paul R. Epstein 、Connie Gaudet 、Richard Levins1998、 Blackwell Science, Inc. (ISBN 0-632-04368-7)● Integrated Assessment of Ecosystem HealthEdited by:Kate M. Scow、Graham E. Fogg、David E. Hinton、Michael L. Johnson1999、 LEWIS PUBLISHERS (ISBN 1-56670-453-7)● Ecosystem Health. New Goals for Environmental ManagementEdited by:Robert Costanza、Bryan G. Norton、Benjamin D. Haskell1992、 ISLAND PRESS (ISBN:1-55963-140-6)● Evaluating and Monitoring the Health of Large-Scale EcosystemEdited by:David J. Rapport、Connie L. Gaudet、Peter Calow1993、 Springer-Verlag (ISBN:3-540-58805-1)352.2.2 海外における環境モニタリング調査の実態把握海外事例調査は、フランス、オランダ、ドイツ及びデンマークの研究機関や公的機関を対象とし、各国沿岸域における海洋環境モニタリング調査の実態及び海洋環境の考え方等について情報収集した。海外事例調査の詳細は付属資料(4)に示した。<海の健康>「海の健康」については、明確な考えを得るにはいたらなかった。「海洋環境の何を優先させるのか」、「経済(産業活動)との関わりをどのように考えるのか」というように基本的な考え方が十分に議論されていないのが現実のようである。しかし、欧州諸国の海洋環境モニタリング調査が古くから生物や生態系に着目して継続してきていることもあり、生物・生態系の調査の重要性を改めて認識した。相反するコメントではあるが、「全体的な生物相を調査し、食物連鎖やエネルギーフローを見ることが重要である」、「特定の種について出現状況を継続的に観