Proposal / Research

提言・研究成果

海洋基本計画改訂に向けた海洋教育に関する提言

今次の海洋基本計画改訂にあたり以下の3つを提言する。

  1. 海洋立国を担う国民の基礎的な素養育成のため、小中学校並びに高等学校において教科 横断的に海洋に関する学習を行えるよう、学習指導要領の総則及び総合的な学習の時間の 「指導計画の作成と内容の取扱い」等に海洋の重要性を明確に位置付けるべきである。
  2. 学校教育で海洋教育の実施を推進するため、文部科学省並びに国立教育政策研究所は海 洋教育に関する事例集や手引きなど指導資料を作成するとともに、学校教員の指導力向上 を図るため教員研修の充実などの措置を講じ、教育現場が主体的かつ継続的に取り組める ような条件整備を行うべきである。
  3. 分野横断的に多様な事柄を扱う海洋教育を推進するにあたっては、教科書における海洋関 連の記述の充実を図るとともに、それを補完する副教材の作成、水族館や博物館など社会教 育施設あるいは水産業や海事産業など産業施設との有機的な連携を推進し、海洋教育の総 合的な支援体制を整備すべきである。

海洋基本法第28条に「海洋に関する国民の理解の増進等」が謳われ、学校教育及び社会教育において海洋に関する教育の推進等のために必要な措置を講ずることが定められた。また、これを受けて2008年3月に策定された海洋基本計画では「第2部海洋に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策12海洋に関する国民の理解の増進と人材の育成(2)次世代を担う青少年等の海洋に関する理解の増進」の中に、高等学校の教科「水産」の学習指導要領の見直し等のほか、小学校、中学校及び高等学校の社会や理科等における海洋に関する教育の適切な実施、海洋に関する教育の実践事例の提供を図るなど海洋教育の普及促進に努めることが掲げられた。
これに対し、2008年に公示された改訂後の学習指導要領では、海洋に関する記述は小学校については改訂前と表記内容に大きな変更は見られなかったが、中学校については、社会の地理的分野で「海洋に囲まれた日本の国土の特色を理解させる」、「我が国の海洋国家としての特色を取り上げる」の2点、理科では第2分野の気象の変化において、「大気の動きと海洋の影響」が新たに取り上げられた。また小学校の教科書中の海洋に関連する内容については、学習指導要領の改訂前後で比較すると学習項目数で20.8%の増加が見られ、その詳細度は38%の増加が見られた。※1
全国の小中学校における海洋教育の状況については、2012年3月に日本財団、東京大学、海洋政策研究財団が共同で実施した全国アンケート調査※2に依れば、海洋教育の認知度は全体の29%にとどまり、70%の学校関係者は海洋教育を知らないと回答している。また海洋教育の実施状況は、全体の13.7%が未実施、62.8%が教科書の範囲内であり、総合的な学習の時間な課外活動などで主体的に取り組んでいる例は20%にとどまっている。このように全国の小中学校の半数以上が教科書の範囲内での実施という状況に鑑みれば、教科書中における海洋の取り上げ方が海洋教育普及のうえで重要な要素と言えるが、現在の教科書に掲載されている内容で十分と回答したのは全体の5.5%にすぎない。このことから教科書中の海に関する表記の拡充を早急に進める必要がある。また、海洋教育は教科横断的な総合的な学習体系であることから、子どもたちが海についての学びを深めることができるよう、総合的な学習の時間や課外活動などにおいて海洋に関する学習を積極的に推進する必要があり、これに必要な事例集や手引きを示すとともに外部の支援体制の拡充を併せて行わなければならない。
以上のように我が国の学校教育における海洋教育の推進は、海洋基本法制定によって前進が見られたものの、学校教育における位置付けが不明確な状況の中、未だ十分な取り組みが行われているとは言い難い。しかし一方で、海洋教育の重要性について全国の小中学校の83.2%が重要であると回答している。これは、2011年3月の東日本大震災による津波災害をきっかけに、教育現場における海洋教育に対する意識が高まっていることを示しており、有効な施策を早急に講じる必要がある。なお限られた授業時間数、教員の余力、増え続ける教育現場への社会ニーズなど、学校教育が直面する状況を考慮すると、政策的枠組みの整備だけでなく、教育現場への負担を軽減させるための支援体制の充実を併せて整備しなければならない。

※1 海洋政策研究財団「小学校検定教科書における海洋教育関連内容の抽出・分析」、2012
※2 日本財団、東京大学海洋教育促進研究センター、海洋政策研究財団「小中学校の海洋教育実施状況に関する全国調査」、2012

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