Proposal / Research

提言・研究成果

21世紀の海洋政策への提言

はじめに
わが国は、四方を海に囲まれ、海洋資源、海上輸送など海の恩恵を受けて発展してきましたが、海洋環境の悪化、資源の減少、海面利用の競合、海洋安全保障の確保等の諸問題が顕在化してきました。特に近年、地球温暖化に伴う異常気象や海面上昇、津波・高潮等の自然災害、人為的脅威である海上テロ・海賊・工作船問題や排他的経済水域の問題などが相次いで起こっており、海洋に関わる多様な脅威への備えが急務になっています。
世界各国が国連海洋法条約等の新しい海洋秩序の下で海洋の管理と持続可能な開発に向けて総合的な海洋政策を着々と進めているのに対して、わが国の取り組みは不十分と考えます。海洋国であるわが国としては、海洋に大きく目を移し、海洋を重視する国際社会と協調しつつ、海洋政策の確立とその実行に向けて早急に取り組むべきであると思料します。
そこで、当財団では、海洋に関する斯界の識者で構成する海洋・沿岸域研究委員会による2年間余に及ぶ議論を経て、本提言書をとりまとめました。本提言の実現に向けて、国政を預かる方々、政府関係機関はもとより、学界、産業界、さらには国民の皆様のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

1. 海洋政策大綱の策定

わが国において、今後総合的な海洋政策を着実に推進していくために、第一ステップとして、今後早急な取り組みを要する具体的重要事項を国家の海洋政策大綱として総力をあげてとりまとめるべきである。その骨子として以下を提言する。

海洋政策大綱の骨子
I.基本的考え方の明示
海洋政策の基本理念および海洋管理の指針を明示する。
II.海洋政策を推進するための枠組みの整備
海洋管理のための基本的な法制として海洋基本法を制定する。
海洋政策を総合的に推進するための行政機構を整備する。
海洋管理に不可欠な海洋情報を整備する。
III.課題解決のための取り組みの強化
次の事項に関する課題解決に取り組む。
  1. 排他的経済水域および大陸棚の管理枠組の構築
  2. 海洋の安全保障の確立
  3. 海洋環境の保護・保全・再生の推進
  4. 海洋生態系に配慮した海洋資源の開発推進
  5. 統合沿岸域管理システムの構築に向けた取り組み強化
  6. 防災・減災の推進
IV.パートナーシップの強化
国、地方公共団体、学術・研究機関、産業界、漁業者、NGO、国民等の連携を強化する。
V.海洋に関する理解と研究・教育の促進
最良の科学と情報に基づいて、海洋に関する国民の理解を深め、海洋をより良く管理するための研究・教育を促進する方策を策定・実施する。

2. 海洋基本法制定を目指した推進体制の整備

海洋を取り巻く様々な問題は相互に密接に関連しており、海洋の保全と開発・利用に係る政策は総合的な視点で検討されるべきものである。しかしながら、わが国では従前より海洋に係る諸問題が個別目的の実定法のもとで扱われてきたことから、海洋を総合的に管理するための政策枠組や法的根拠が欠如しており、早急にこの問題に対応する必要がある。
2-1 海洋基本法の制定
わが国において総合的な海洋政策を推進するためには、その基本理念、政策推進に係る指針、推進体制等の政策枠組を示す海洋基本法の制定が必要である。なお、総合的な海洋政策の策定および実施は、基本理念にのっとり、次に掲げる指針に沿って行われるべきであり、これら基本理念と指針を海洋基本法に明記すべきである。

海洋基本法の骨子
第1章 総則
  • 目的
  • 基本理念
  • 国、地方公共団体、事業者、国民の責務・役割・連携 等
第2章 海洋政策の推進に係る基本的施策
  • 海洋の調査、保全、開発・利用および管理に係る施策の指針
  • 海洋基本計画
  • 基本的な施策 等
第3章 国の海洋政策推進に係る組織
  • 海洋政策推進のための行政機構の整備
  • 海洋諮問会議の設置
  • その他地方公共団体、多様な関係者との合議機関の設置 等

基本理念(海洋基本法第1章)
海洋の持続可能な開発・利用
海洋政策は、現在および将来の世代のために、人類存続の基盤である海洋環境が将来にわたって維持されるよう策定されなければならない。
海洋の国際秩序先導と国際協調
海洋政策は、海洋が本来国際的な性格を有していることに留意し、海洋管理を目指す新しい国際秩序の中でわが国が有する権利と義務を確保するとともに、国際社会全体の利益を追求するよう策定されなければならない。特に、海洋の利用と保全に関しては、旧来の固定観念を捨てて、負担共有の仕組みづくりに取り組むべきである。
海洋の総合的管理
沿岸域と海域を含む地球上の海洋空間は相互に作用し、密接な関連を有するので、それらに影響を及ぼすあらゆる活動または措置は、統合的に計画され、管理されなければならない。
指針(海洋基本法第2章)
科学的理解と認識
海洋政策は、海洋環境に影響をおよぼす自然的、社会的、経済的な過程に関して得られる最良の科学的理解と認識に基づいて策定されなければならない。また、政策決定者は、海洋資源の適切な管理を可能とする質の高い科学、技術、情報を取得し、これに基づいて政策決定をするように努めなければならない。
市民参加
海洋政策の策定と実施の過程おいて、市民をはじめとする海洋の関係者が広く参加する仕組みを確保するとともに、市民が海洋の管理に主体的かつ積極的に参加できるよう海洋に関する情報公開、情報への適切なアクセスの仕組みを確立しなければならない。
生態系に基づく管理
海洋および沿岸資源は、人間および人間以外の種ならびにそれらが生活する環境を含む、生態系のすべての構成要素間の関係を反映するよう適切に管理されなければならない。
予防的アプローチ
海洋環境に対して深刻な影響あるいは不可逆的な影響の恐れがある場合には、完全な科学的確実性が欠如していることを費用対効果の高い対策を延期する理由とはせず、科学的知見の充実に努めながら、必要に応じて予防的な方策を講じなければならない。
順応的管理
海洋は、人間がその構成要素である海洋生態系が複雑で変化し続けているものであることを十分認識し、その変化に関する的確なモニタリングを継続し、その結果に応じて管理や利用方法を柔軟に見直す等、順応的に管理されなければならない
2-2 行政機構等の整備
海洋基本法を軸とした総合的な海洋政策を推進するためには、政策立案と実行を担う行政機構を整備することが不可欠である。また、総合的な海洋政策を効率的に実行するためには、縦割りや細分化の弊害を排して連携・調整を推進しなければならない。さらに、政策に有識者の知見とノウハウを積極的にとり入れる仕組みの導入が重要である。具体的には、次のような行政機構等を整備すべきである。
海洋関係閣僚会議の設置
総合的な海洋政策の推進に関する施策について、関係省庁間の緊密な連携を図り、これを着実に実施するため、内閣に海洋関係閣僚会議を設置する。海洋関係閣僚会議は、海洋関係行政を所掌する省庁を担当する大臣で構成し、内閣総理大臣が主宰する。
内閣図
海洋担当大臣の任命
政府に、総合的な海洋政策を中心となって推進する部局がないことが大きな障害となっている現状にかんがみ、海洋担当の特命担当大臣(以下「海洋担当大臣」という)を任命する。海洋担当大臣としては、たとえば海域部分を含む国土形成計画、海運・船舶・港湾、広大な管轄海域の警備・救難等海洋に関する様々な行政を所管する国土交通大臣のような、現に海洋関係行政を担当する大臣が兼任することが考えられる。
政策統括官(海洋担当)および海洋政策推進室の設置
内閣府に海洋担当の政策統括官を設置し、海洋関係省庁にまたがる政策課題への対応を統括するとともに、政策統括官のもとで海洋政策推進に係る事務を所掌する海洋政策推進室を設置する。
海洋関係省庁連絡調整会議の設置
海洋関係閣僚会議を補佐し、総合的な海洋政策を円滑に推進するために、海洋関係省庁連絡調整会議を設置する。既存の海洋開発関係省庁連絡会議、大陸棚調査・海洋資源等に関する関係省庁連絡会議等は、要すれば、これに統合する。
海洋諮問会議の設置
政策に有識者の知見とノウハウを積極的に取り入れるため、内閣総理大臣、海洋担当大臣および有識者で構成する海洋諮問会議を設置する。

3. 海に拡大した「国土」の管理と国際協調

3-1 排他的経済水域および大陸棚の管理の枠組構築
従来の全国総合開発計画に代わり策定される国土形成計画では、排他的経済水域および大陸棚を含む海域の利用と保全に関する事項が盛り込まれることとなり、大きな
一歩と評価できる。
しかしながら、世界第6位の面積を誇る広大な排他的経済水域を含む管轄海域の管理の実行には、未だ解決すべき数多くの課題が残されている。
排他的経済水域および大陸棚の管理体制の構築
国連海洋法条約等の国際法に基づき、わが国が有する主権的権利および管轄権を効果的に行使し、義務を履行するためには、国内法の包括的整備と管理体制の構築が不可欠である。
そのためには、排他的経済水域および大陸棚を含む広大な管轄海域の調査・観測を継続的に行う体制を早急に整備すべきである。
また、広大な排他的経済水域および大陸棚の保全と利用のための法制は、漁業関係を除けば、単に「国内法令を適用する」旨を定めた「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」しか定められていないので、同法の大幅な改正あるいは同法を補足する総合的な立法を目指すべきである。
海域の特性に応じた管理計画の策定
広大な排他的経済水域を含むわが国の新たな海洋の「国土」を効率的に管理するためには、現実的な管理対象と管理者の設定が急務である。
それには、管理すべき対象を特定するための環境調査、資源調査を実施してマッピングを行い、それに基づいて保全・開発・利用に必要な管理区域の設定を行うことが不可欠である。その際、調査にあたっては既存の知見を最大限に活用して環境保護・保全および資源開発において重要と判断される区域を特定し、優先順位をつけて段階的に管理区域の設定を行うなど、迅速かつ柔軟な対応が必要である。
遠隔離島および周辺海域の管理強化
わが国の管轄海域の拠点となる外海の離島や国境を形成する離島が、わが国の国土保全上重要な位置づけにあることは論を待たない。これら離島を基点としてその周辺に広がる広大な海域の管理を適切に行う観点を、海洋政策の中に明確に位置づけることが重要である。また、国土保全の観点ばかりではなく、安全保障、海洋環境の保護・保全、経済活動等重視すべき観点は数多く存在する。
したがって、管理のために必要な情報、知見が得られていない遠隔離島や無人島、およびその周辺海域の調査を、国の責務として早急に実施すべきである。
3-1 海洋の安全保障の確立
国土形成計画法によって、領海はもとより、わが国の排他的経済水域および大陸棚も国土計画の対象となったが、そのわが国周辺海域に関わる安全保障の確立については未だ論議がつくされているとは言い難い状況にある。
北朝鮮工作船問題、外国の海洋調査船による法的枠組に反する調査の増加、東シナ海の資源開発を巡る緊張、海上を経路とした武器・麻薬・動植物等の密輸入、密入国、密漁にいたるまで、わが国領域・管轄海域における様々な脅威、犯罪へ適切な対応を図ることが急務である。
また、わが国の経済を支える海上輸送路については、マラッカ海峡、ペルシャ湾等の海上交通の要衝における海賊、海上テロ等の脅威にさらされているのに加え、大量破壊兵器拡散への対応問題も起きており、わが国が単独では対応不可能な切迫した危機が存在している。海洋を舞台とした紛争の抑止は海洋安全保障の基本である。
海に拡大した「国土」の安全保障の確立
総合的な海洋管理、とりわけ海洋の安全保障確立のためには、関係機関の連携のもとに統合的な情報管理体制を確立する必要がある。何よりも即時的な海洋情報収集の手段が不可欠である。自動船舶識別システム(AIS)の機能と範囲を拡充した船舶のトラッキングシステム導入等、具体的なシステム構築に直ちに着手すべきである。また、国際的な情報共有が不可欠であり、内外の海洋安全保障関係機関等の国際ネットワークの強化を図るべきである。
また、密輸入、密入国、密漁等国民にとってより身近な脅威や犯罪に対しては、犯罪行為が行われやすい海岸・海域の評価、無人監視技術の開発、情報の円滑な伝達、海洋監視のボランティア活動「海守」の支援、漁業者や沿岸住民への普及啓発を通じて、あらゆる主体が協働してこれに取り組むべきである。さらに、越境犯罪取り締まりについての国際的な協力を一層推進すべきである。
海上輸送に関わる安全保障の推進
わが国の生命線である海上輸送路の安全確保や、海上輸送に対する国際的な安全保障上の脅威への対応を図るため、以下の施策を早急に具体化すべきである。
  • マラッカ海峡の安全確保・海峡沿岸国と利用国の協力によるマラッカ海峡安全のための協力枠組の構築
  • 海賊問題への対応・二国間協力の強化を含む総合的なアジア海賊対策地域協力の推進
  • 海上テロ等への対応・国際海事機関(IMO)諸条約への積極的対応・国益を同じくする海洋国家群との連携強化・大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)等へのより効果的参加のための国内法令整備の検討
3-3 海洋環境の保護・保全・再生の推進
国連海洋法条約の批准により、わが国には排他的経済水域を含むすべての海域における海洋環境の保護・保全の義務が課せられており、海洋基本法の指針に生態系に基づく管理や予防的アプローチの導入を積極的に図ることが求められる。
その理念は、環境基本計画や生物多様性国家戦略等に反映されているが、具体的な施策について、例えば同戦略においては、従来の河川・砂防・海岸、港湾・海洋、漁業といった省庁別の取り組みを前提としており、依然として統合的・総合的な視点に欠けていると言わざるを得ない。
また、海上輸送の進展にかんがみ、海上油濁事故の防止・緊急対応、有害性物質や放射性物質等の危険物の海上輸送問題、その他の海洋環境保護施策の強化について、これまで積み上げてきた政策枠組にのっとって、さらに推進しなければならない。
海洋環境の保護・保全・再生のための環境影響評価システムの構築
わが国の環境影響評価制度は、陸域および一部の沿岸域で実施される開発事業を対象としたものであり、海洋環境の保護・保全・再生を履行するためには、戦略的アセスの早期導入、環境影響評価の対象事業の拡大、海洋利用に係る関連個別法令における対策強化等、環境影響評価システムの新たな枠組を構築することが不可欠である。
また、海洋、特に閉鎖性の強い海域の海洋環境の管理は、水質調査だけでは不十分であり、生態系の安定性、物質循環の円滑さ等を総合的にチェックして、海の状態を様々な角度から継続的に監視・評価するシステムを導入すべきである。
海洋生態系および生物多様性保護の推進
人間活動による環境汚染、海岸構造物や魚礁等の設置、特定有用魚種の増養殖、船舶による外来種の移入等による海洋生態系のかく乱や生物多様性の喪失は早急に対処すべき重要な課題である。国土保全や国民生活の安定の確保を前提としつつも、海洋生態系および生物多様性保護に最大限配慮した具体的施策の展開が急務であり、それを支える技術開発等を国のイニシアチブのもとで推進することが必要である。
サンゴ礁・藻場の保護・保全・再生の推進
サンゴ礁と藻場は、海洋生態系を支える重要な存在であり、水産資源のかん養の場でもある。また、サンゴ礁は、国民の生命・財産を守る天然の防波堤の機能を有し、観光地としても当該地域に大きな影響を及ぼすものであり、これらの保護・保全・再生は最重要課題のひとつである。
特に、サンゴ礁は地球温暖化の影響が最初に現れる場所であり、深刻な問題を抱える太平洋の小島嶼国に対する国際貢献として、わが国はサンゴ礁の保護・保全・再生においてリーダーシップを発揮する必要がある。
3-4 海洋生態系に配慮した海洋資源の開発推進
陸域の資源に恵まれないわが国にとって、海洋資源の開発は最重要課題であるが、これら資源の開発にあたっては、海洋生態系の保護・保全に最大限の配慮をする責務がある。
生物資源のうち、水産資源については、過剰な漁獲や混獲等により世界の海で生態系の破壊と生物多様性の減少を招いている。水産物の消費大国であるわが国は、管轄水域内の生物資源のみならず、世界の海の生物資源の適正な保存・管理に努めなければならない。また、海洋微生物・遺伝子資源は、わが国のみならず人類全体にとって有益な資源と成り得るため、その研究・開発を一層推進すべきである。
他方、非生物資源については、将来の陸域における自然資源の枯渇への対応として、海底石油・天然ガス等の在来型資源の新規開発、ならびに海底・海底下・海水に賦存する非在来型資源の研究・開発の促進が不可欠である。さらに、これら資源開発に伴う海洋生態系への影響に関する知見は十分得られているとは言い難いので、その拡充に努めるべきである。
漁獲の合理的な管理
一般に漁業者にとって水産資源は共有資源であるために、自由競争のもとでは個々の漁船への投資が進み、先取りによる小型魚の大量漁獲、過剰な装備、集中水揚げによる価格下落、特定漁場への過度な漁船の集中等の問題が発生し、漁業全体としての投資が不適切になる等の問題になっている。これらのことが漁獲能力を過大にさせて資源の枯渇を招いており、資源先取り競争を適切かつ有効に管理する制度を構築すべきである。
世界の漁業資源保存に向けた対応強化
「違法・無報告・無規制漁業」(いわゆるIUU漁業)等による世界的な漁業資源の減少・枯渇は深刻な問題であり、水産物の消費大国であるわが国は、輸入される水産物の実態の更なる把握、輸入規制の強化、国内消費者への啓発活動等を積極的に推進すべきである。
さらに、国連食糧農業機関(FAO)の「責任ある漁業のための行動規範」およびそれに関連した各種行動計画の効果的実施等のために、わが国は一層強いリーダーシップをとるべきである。
海洋微生物・遺伝子資源の研究・開発促進
海水や海底の岩石・堆積物、さらには海底下深部に生息する微生物、およびそこから得られる遺伝子資源は、将来人類にとって有用な生物資源である。また、深海底に生息する微生物は地球環境変動を理解する上でも極めて重要な存在である。当該研究分野のトップランナーに属するわが国は、戦略的にこれら海洋微生物・遺伝子資源の研究・開発に取り組むべきである。
現在、これら資源の研究・開発は、浅海域においては一定の成果をあげているが、深海底では緒についたばかりである。熱湧水・冷湧水生物群集や深海底岩石圏に生息する微生物等固有性の強い深海生態系の保護・保全に配慮しつつ、持続可能な開発・利用に必要な知見獲得に最大限努力すべきである。
エネルギー・金属鉱物資源の開発促進
海底石油・天然ガス、メタンハイドレート、深海底鉱物資源等在来型・非在来型資源の開発にあたっては、海洋生態系への配慮が不可欠であり、資源マップの作成、深海底開発に係る環境影響評価手法の開発、生態系に配慮した資源開発技術の開発等を戦略的に進めていくための計画を策定する必要がある。
なお、計画策定のためには、わが国の排他的経済水域および大陸棚を対象とした資源探査や環境調査に直ちに着手することが不可欠であり、そのための財源および探査船・調査船の確保が必要である。
3-5 統合沿岸域管理システムの構築に向けた取り組み強化
沿岸域を海陸一体となった自然の系としてくくり、住民の生活と密接に関わりを持つ沿岸域の管理を地方公共団体が中心になって行うとする考え方が、海岸法の改正、沿岸域圏総合管理計画策定のための指針等によって明らかになってきた。2005年7月に成立した国土形成計画法は、海域の利用と保全を、国土形成計画の検討事項として明記するとともに、同計画に地方公共団体の意見を反映させる仕組みを整備した。
今後はこれらを足がかりとして、個別実定法による管理の積み重ねからなっている現在の沿岸域管理について、施策の実施主体の協働よる関連ある問題に対する包括的な施策の実施、関係者間での情報共有と市民への情報提供等により総合的な視点に立った沿岸域管理を進めるとともに、新たな法制度の制定を視野において統合沿岸域管理に向けたシステム構築を一層推進する必要がある。
地方主体の沿岸域圏管理システムの構築
地方主体の沿岸域圏管理の実行においては、地域の実情に合わせた適正規模の沿岸域圏の設定ならびに管理計画の立案が必要である。問題の切迫の程度、問題の種類、住民意思等によって地域における施策の優先順位は異なるので、すべての沿岸域圏が足並みをそろえて同様の管理計画を一律に策定する必然性は少ない。国は、地方主体の自主的な沿岸域管理の実行を可能にするための制度面の整備、技術・資金面の支援等により、地方において自発的に形づくられる管理システムを支援、強化しながら、これを誘導する政策の枠組を提示していく必要がある。
市民参加システムの構築
地方主体の沿岸域圏管理の実行においては、地域の実情に合わせた適正規模の沿岸域圏の設定ならびに管理計画の立案が必要である。問題の切迫の程度、問題の種類、住民意思等によって地域における施策の優先順位は異なるので、すべての沿岸域圏が足並みをそろえて同様の管理計画を一律に策定する必然性は少ない。国は、地方主体の自主的な沿岸域管理の実行を可能にするための制度面の整備、技術・資金面の支援等により、地方において自発的に形づくられる管理システムを支援、強化しながら、これを誘導する政策の枠組を提示していく必要がある。
流域圏管理との連携強化
流域圏への人口集中による閉鎖性海域の水質汚濁や、土砂収支の不均衡による海岸侵食の進行等、沿岸域において様々な問題が顕在化している。これら諸問題の解決には、森・川・海・空の水の循環の重要性を認識して健全な水循環の保全・回復を図り、また、リン、窒素の人為的な流入を適切に管理するとともに、河川管理、砂防管理、海岸管理の立場から別個に行われてきた土砂管理を総合化することが必要である。そのためには、流域圏管理との連携を一層強化することが不可欠である。
特定閉鎖性海域における総合的な管理体制の整備
わが国の閉鎖性海域の中でも三大湾や瀬戸内海は、様々な環境問題や利用調整問題を抱えているが、利害関係が輻輳し、関係する都道府県、政令指定都市も多いことから、総合的な管理を行うことが難しい。したがって、国がイニシアチブをとって、関連する地方公共団体が一体となって対策に取り組む体制整備を推進するべきである。その際、保全・利用を一元的に管轄する第三者機関の設置の可能性も検討すべきである。
3-6 防災・減災の推進
21世紀前半に発生する可能性が高いと指摘されている東海・東南海・南海地震のほか、釧路沖や三陸沖等の海溝型地震や日本各地に分布する活断層による地震に伴う津波による甚大な災害への国家的備えが急務であり、沿岸域防災の機能強化を推進する必要がある。
また、2004年は大型台風の接近・上陸件数が観測史上最多を記録し、多くの人的・経済的被害をもたらしたが、地球温暖化による海面上昇や台風の大型化等、今後高潮や高波による被害が増大する懸念が高まっている。
地域防災計画の早急な策定
高潮や津波等の沿岸域防災は、国が設置する中央防災会議が防災基本計画および地震防災基本計画を定め、その内容をもとに都道府県、市町村が地域防災計画を策定する階層的な構造となっている。特に財政や技術面での対応が脆弱になりがちな市町村レベルでの防災・減災計画の立案には、国や都道府県の支援が不可欠であり、国と地方公共団体間の連携を強化して、地域防災計画の速やかな策定を図るべきである。また、防災計画策定の基礎資料となる高潮・津波災害に関するハザードマップを早期に完成させる必要がある。
さらに、避難計画の策定のためには詳細な被災予測が必要なため、数値予測技術の高度化が重要である。
防災・減災のための教育・訓練の徹底
2004年12月に発生したインド洋津波の甚大な被害を他山の石として、すべての国民に対して津波や高潮への備えを促すための防災教育・訓練の徹底が必要である。特に、常に高い防災・減災意識を維持するための戦略的な教育システムの構築が重要であり、沿岸市町村における学校教育での津波・高潮に関する教育・訓練の義務化、マスメディアやインターネット等を通じた全国的な普及啓発活動、市町村レベルでの避難訓練や広報活動の強化等、被害を最小化するための具体的な行動が必要である。
3-7 海洋管理のための海洋情報の整備
総合的な海洋政策の策定と管理の実行には、広大かつ多様な環境特性を有するわが国の海洋・沿岸域に関する情報、すなわち海洋情報を収集することが不可欠である。
ひとつには、海洋そのものを知るための海洋調査・観測の計画的かつ効率的実行であり、これはわが国の海洋管理のみならず、地球規模での国際海洋観測体制構築への貢献という意味合いも有する。
また、津波・高潮等の自然災害による被害軽減、海洋・沿岸域を対象に行われる社会経済諸活動の管理、さらには船舶の動向把握を含む安全保障の確立等への即時対応である。
これらは、国の主導のもとで、地方公共団体、大学、試験研究機関、産業界、国民が、それぞれの役割を認識し、相互の密接な連携の下で行われる必要がある。
海洋情報の収集に係る国家戦略の立案
行政、大学、試験研究機関等が実施する海洋情報の収集を計画的かつ効率的に実施するために、海洋調査・観測の中長期戦略および実施計画の策定、評価等、総合的な検討を行う組織を、関係機関の参加のもと国が中心となって設置する必要がある。その際、従来の海洋政策論議にほとんど参加していなかった防衛庁も参加すべきである。
また、広大な海洋に関わる情報収集には国際的協力が不可欠である。このため海洋情報に関わる各種国際ネットワークとの連携を推進すべきである。
海洋情報管理機能の強化
海洋管理に必要な海洋データの利用・流通を円滑にするために、データの共有化、標準化の取り組みを一層推進する必要がある。
統合された海洋の調査・観測・監視システムの構築
大気、海面、海中、海底、海底下の3次元情報を収集する、統合された調査・観測・監視システムの整備に直ちに着手すべきである。これには、調査手法の標準化、プラットフォームの共有化、システム運用機関の最適化等が不可欠である。
地域海洋情報ネットワークの構築
沿岸域管理の推進や、密輸入・密入国・密漁の防止等、国民の身近な問題への対応には、きめ細かな海洋情報を収集し、これを効率的に利用する地域に根ざした情報ネットワークの構築が不可欠である。情報収集においては、漁業者、NPO、「海守」等が中心的な役割を担うべきである。
3-8 総合的な海洋政策実現のための研究・教育とアウトリーチの推進
海洋の持続可能な開発を実現するためには、すべての国民が海洋に関心を持ち、海洋環境を保護・保全・再生するための自発的かつ積極的な行動を起こすことが必要である。また、わが国が抱える海洋に係わる諸問題を正しく認識し、これを適切に管理するために必要な人材を育成することは重要な国家戦略である。
これを実現するためには、広く国民を対象とした海洋教育はもとより、大学・大学院における海洋に関する専門研究・教育領域を強化し、政府、試験研究機関、産業界、NGO等の活動に必要な専門家・技術者等の多様な人材を育成する教育体制の構築が急務である。
さらに、総合的な海洋政策の策定と実行には、海洋科学技術・研究の推進が不可欠であり、このような海洋に関する幅広い知識を持った若い世代を育てることで、海洋に関する科学技術開発やその基盤となる基礎研究の更なる発展を図ることができる。
海洋教育の拡充
海洋の環境や生態系を重視した管理を進めていくためには、すべての国民がその重要性を理解して、自発的、積極的に管理に参加していくことが求められる。したがって、国民を対象にした義務教育の中で海洋教育の拡充を図るべきである。特に、海の自然現象を理解するための野外教育に重点的に取り組む必要がある。その際、人材・資金両面での適切な学校教育支援のあり方を検討し、初等教育から高等教育までの体系的な教育プログラムの開発を推進し、さらには教育現場のニーズに合致した副読本・教材・体験施設等の整備を図ることが必要である。その推進は文部科学省が中心的に実施し、海洋に関わるすべての関係省庁が連携してこれを支援すべきである。さらに、学校教育と社会教育との連携強化を図る仕組みを早急に構築すべきである。
海洋管理研究・教育の推進
総合的な海洋管理を担う人材を育成するために、大学院レベルでの学際的な研究・教育プログラムを整備すべきである。また、社会人の専門再教育のニーズに応えて海
洋関係専門職大学院コースを開発するとともに、海洋に関わる学部・学科を有する大学が相互の連携を強化し、地方の特性に応じた沿岸域管理の教育プログラムやトレーニングコースを開発すべきである。
アウトリーチの推進
海洋には人は住んでいないし、海中で起こっていることは見えないため、ともすれば人々の関心は海から離れる。このため、海洋管理に係る活動、研究の推進にあたっ
ては、人材育成のためばかりではなく、説明責任の観点からも、国民を対象とした積極的なアウトリーチ活動は不可欠である。そのためには、内閣総理大臣の所信表明演説における海洋立国宣言および国民の祝日「海の日」にける声明発表等ともに、マスメディアやインターネット等を活用した広報活動の充実、さらには、海面・海中・海底のモニタリングデータやリアルタイム画像の一般家庭や教育施設への直接配信、研究施設や海洋の現場と教育機関とを直接結ぶ遠隔授業等、国民の関心を喚起するための情報戦略の確立が急務である。
海洋科学技術・研究の推進
総合的な海洋政策の実行のためには、海洋科学調査、海洋環境、海洋資源等に関する海洋科学・技術研究の充実が不可欠であり、また、それを担う若手研究者の育成が重要である。
そのためには、海洋科学研究および海洋技術の振興のための予算を大幅に拡大すべきである。また、現在改定が進められている第三期科学技術基本計画において、これらに関する事項を明確に位置づけるべきである。

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