Proposal / Research
提言・研究成果
小学校における海洋教育の普及推進に関する提言
はじめに
「四方を海に囲まれた我が国は、、、」とは様々な文献等でしばしば目にするフレーズですが、近年の我が国の状況を見ますと、我々日本人にとって海は当たり前の存在であるがゆえに、その重要性に対する認識が徐々に薄れつつあるように感じられます。身近なはずの海は、人々の中で知らず知らずのうちに遠い存在になってしまったのではないでしょうか。しかし海は、古来より自然の盾として我が国の安全を守り、文化を育み、国民に希望、恐れ、癒しを与えるとともに、我々の動物性タンパク摂取の4割を占める水産物をもたらし、また輸出入貨物の99%が依存する海上輸送における交易路として、我が国の暮らしを根底で支える不可欠な存在であることは言うまでもありません。
こうした状況の中、2007年4月に海洋基本法が制定されました。その第二十八条は、国民が海洋についての理解と関心を深めることができるよう、学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進のために必要な措置を講ずることを謳っています。そこで当財団では、「初等教育における海洋教育の普及推進に関する研究委員会」を立ち上げ、学校教育における海洋教育とは何か、小学校における海洋に関する教育の普及推進には何が必要かについて、教育並びに海洋の専門家とともに具体的な検討を行って参りました。本提言はその委員会でとりまとめた研究の成果であり、今後の海洋教育に関する考え方の提案であります。本提言が今後の海洋教育の普及推進に向けてその一助となるならば、望外の喜びであります。
「四方を海に囲まれた我が国は、、、」とは様々な文献等でしばしば目にするフレーズですが、近年の我が国の状況を見ますと、我々日本人にとって海は当たり前の存在であるがゆえに、その重要性に対する認識が徐々に薄れつつあるように感じられます。身近なはずの海は、人々の中で知らず知らずのうちに遠い存在になってしまったのではないでしょうか。しかし海は、古来より自然の盾として我が国の安全を守り、文化を育み、国民に希望、恐れ、癒しを与えるとともに、我々の動物性タンパク摂取の4割を占める水産物をもたらし、また輸出入貨物の99%が依存する海上輸送における交易路として、我が国の暮らしを根底で支える不可欠な存在であることは言うまでもありません。
こうした状況の中、2007年4月に海洋基本法が制定されました。その第二十八条は、国民が海洋についての理解と関心を深めることができるよう、学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進のために必要な措置を講ずることを謳っています。そこで当財団では、「初等教育における海洋教育の普及推進に関する研究委員会」を立ち上げ、学校教育における海洋教育とは何か、小学校における海洋に関する教育の普及推進には何が必要かについて、教育並びに海洋の専門家とともに具体的な検討を行って参りました。本提言はその委員会でとりまとめた研究の成果であり、今後の海洋教育に関する考え方の提案であります。本提言が今後の海洋教育の普及推進に向けてその一助となるならば、望外の喜びであります。
1. 提言の背景
1. 我が国における海の重要性
地球上の水の97.5%を湛え地球表面の7割を占める海は、我々人類をはじめとする生命の源であるとともに、地球全体の気候システムに大きな影響を与え、海→空→森→川→海を巡る水の循環の大本として、生物の生命維持の上で極めて大きな役割を担っている。この海がもたらす比較的安定した環境の下、我々人類はその誕生以来繁栄を続け、我が国もまたその恩恵を最大限に受けて発展してきた。
総延長34,800km、世界第6位の長さを誇る我が国の海岸線には流氷から珊瑚礁までの様々な環境が見られ、また沖合に広がる海域には多様な生物・エネルギー・鉱物等の天然資源が豊富に存在している。そして我々は、この海を資源の確保の場として利用するのはもちろんのこと、世界と交易を行う交通の場として、また外国の侵略から国土を守る自然の砦として、あるいは国民の憩いの場として多面的に利用し、海との深いかかわり合いの中で我が国の社会・経済・文化等を築き、発展させてきた。現在では、総人口の約5割が沿岸部に居住し、動物性タンパクの約4割を水産物から摂取し、輸出入貨物の99%を海上輸送に依存している。
総延長34,800km、世界第6位の長さを誇る我が国の海岸線には流氷から珊瑚礁までの様々な環境が見られ、また沖合に広がる海域には多様な生物・エネルギー・鉱物等の天然資源が豊富に存在している。そして我々は、この海を資源の確保の場として利用するのはもちろんのこと、世界と交易を行う交通の場として、また外国の侵略から国土を守る自然の砦として、あるいは国民の憩いの場として多面的に利用し、海との深いかかわり合いの中で我が国の社会・経済・文化等を築き、発展させてきた。現在では、総人口の約5割が沿岸部に居住し、動物性タンパクの約4割を水産物から摂取し、輸出入貨物の99%を海上輸送に依存している。
2. 海を取り巻く国際社会の動向
これまで人類は、狭い領海の外側に広がる広大な海は誰もが自由に開発・利用できる「海洋の自由」という考え方の下、新たな資源の可能性を求めて積極的に海に進出していった。特に近年、科学技術の進歩発達により人間の海域における行動能力が増すと、これを背景に沿岸国による海域とその資源の囲い込みが進行したが、その旺盛な活動は一方で世界各地に海洋の汚染、資源の枯渇、環境の破壊を引き起こし、結果として我々自身の生存基盤を脅かす事態となった。
しかし、今後更に増加し続けると予測される世界人口が必要とする水・食料・資源・エネルギーの確保や物資の円滑な輸送のためには、今後も更に海を有効に利用していくことが不可欠となっており、限りある海の恩恵を将来の世代に引き継いでいくためには、海の開発・利用・保全を総合的に管理しなければならないことが明らかとなってきた。
海の総合管理は我が国一国だけの問題ではなく、地球上の全ての国々が協調して行わなければならない。なぜなら海は水で満たされているため、海で起こる事象は相互に密接な関連を有しており、ある一箇所で起こった事が時・所を越えて様々な形で他所に伝播・影響するからである。このため海洋空間の問題は、国内・国際と問題を峻別することができず、国際的な視点で取り組まなければならないという側面を強く持っているのである。
このような状況の中、ほぼ半世紀にわたる長い議論を経て、国連海洋法条約が1994(平成6)年についに発効した。同条約は沿岸国に排他的経済水域における主権的権利・管轄権を認める一方、海洋環境の保全や保護を義務付けるなど、海洋にかかわるほぼ全ての分野をカバーする法的な枠組みとルールを定め、海の憲法と呼ばれている。
また1992(平成4)年のリオ地球サミットにおいては行動計画「アジェンダ21」が採択された。その第17章には、海洋と沿岸域の環境保護と持続可能な開発・利用についての政策的枠組みが詳細に定められた。
これらによって、海洋の開発・利用・保全・管理に取り組む国際的な枠組みとルールができた。今や海は、国際的な合意の下に、各国による広大な沿岸海域の管理を前提にしつつ、人類の利益のため各国が協調して海洋全体の平和的管理に取り組む時代となった。このように20世紀後半は、「海洋の自由」の原則から、「海洋の総合管理」という新たなパラダイムへと移行した点で、大きな時代の転換期と言える。
これらを踏まえ、近年世界の国々は、海洋を総合的に管理するための海洋政策の策定、法制度の整備、これを推進する行政・研究組織の整備・統廃合、広範な利用者の意見を反映する手続きの制定など行い、沿岸域を含む全ての海域の総合的な管理に熱心に取り組んでいるところである。
しかし、今後更に増加し続けると予測される世界人口が必要とする水・食料・資源・エネルギーの確保や物資の円滑な輸送のためには、今後も更に海を有効に利用していくことが不可欠となっており、限りある海の恩恵を将来の世代に引き継いでいくためには、海の開発・利用・保全を総合的に管理しなければならないことが明らかとなってきた。
海の総合管理は我が国一国だけの問題ではなく、地球上の全ての国々が協調して行わなければならない。なぜなら海は水で満たされているため、海で起こる事象は相互に密接な関連を有しており、ある一箇所で起こった事が時・所を越えて様々な形で他所に伝播・影響するからである。このため海洋空間の問題は、国内・国際と問題を峻別することができず、国際的な視点で取り組まなければならないという側面を強く持っているのである。
このような状況の中、ほぼ半世紀にわたる長い議論を経て、国連海洋法条約が1994(平成6)年についに発効した。同条約は沿岸国に排他的経済水域における主権的権利・管轄権を認める一方、海洋環境の保全や保護を義務付けるなど、海洋にかかわるほぼ全ての分野をカバーする法的な枠組みとルールを定め、海の憲法と呼ばれている。
また1992(平成4)年のリオ地球サミットにおいては行動計画「アジェンダ21」が採択された。その第17章には、海洋と沿岸域の環境保護と持続可能な開発・利用についての政策的枠組みが詳細に定められた。
これらによって、海洋の開発・利用・保全・管理に取り組む国際的な枠組みとルールができた。今や海は、国際的な合意の下に、各国による広大な沿岸海域の管理を前提にしつつ、人類の利益のため各国が協調して海洋全体の平和的管理に取り組む時代となった。このように20世紀後半は、「海洋の自由」の原則から、「海洋の総合管理」という新たなパラダイムへと移行した点で、大きな時代の転換期と言える。
これらを踏まえ、近年世界の国々は、海洋を総合的に管理するための海洋政策の策定、法制度の整備、これを推進する行政・研究組織の整備・統廃合、広範な利用者の意見を反映する手続きの制定など行い、沿岸域を含む全ての海域の総合的な管理に熱心に取り組んでいるところである。
3. 我が国に求められている取り組み
我が国においては、国連海洋法条約によって世界第6位の管轄海域を手に入れるなど大きなメリットを受けているにもかかわらず、海運・水産・建設など利用形態に応じた機能別縦割りの取り組みに終始していた。しかし、2007(平成19)年4月に海洋基本法が制定され、総合的な海洋管理を推進するための取り組みがようやく始まった。これを受け、我が国で初めての海洋基本計画が策定される。
海洋環境の保全並びに海洋及びその資源の持続可能な開発を進めるためには、我々国民一人一人に、その重要性を理解して、自発的・積極的に管理に参加していくことが求められる。このためには、海に対する正しい理解と関心を深めるための教育活動が極めて重要である。海洋基本法の第二十八条は、広く国民一般が海洋についての理解と関心を深めることができるよう、学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進等のために必要な措置を講ずるものとするとともに、大学等において海洋に関する政策課題に対応できる人材育成を図るべきことを定めた。
したがって、新たな法制度の枠組みの下で国民の海に対する理解・関心を深め、特にこれからの将来を担う青少年への教育の拡充を図ることが喫緊の課題である。
海洋環境の保全並びに海洋及びその資源の持続可能な開発を進めるためには、我々国民一人一人に、その重要性を理解して、自発的・積極的に管理に参加していくことが求められる。このためには、海に対する正しい理解と関心を深めるための教育活動が極めて重要である。海洋基本法の第二十八条は、広く国民一般が海洋についての理解と関心を深めることができるよう、学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進等のために必要な措置を講ずるものとするとともに、大学等において海洋に関する政策課題に対応できる人材育成を図るべきことを定めた。
したがって、新たな法制度の枠組みの下で国民の海に対する理解・関心を深め、特にこれからの将来を担う青少年への教育の拡充を図ることが喫緊の課題である。
2. 教育の現状
1. 我が国の初等教育の現状
2006(平成18)年12月改正の教育基本法では、知・徳・体の調和のとれた発達を基本としつつ、個人の自立、他者や社会との関係、自然や環境との関係、国際社会を生きる日本人、という観点から具体的な教育の目標が定められている。これに基づき、2007(平成19)年6月公布の学校教育法の一部改正では、義務教育の目標が具体的に示され、また第三十条○2において「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に意を用いなければならない」と明記され、学力について明確な定義がなされた。
一方、子供の学力の状況はといえば、2007(平成19)年4月実施の全国学力・学習状況調査や2003(平成15)年のPISA(ProgrammeforInternationalStudentAssessment)調査等の各種調査結果から、基礎的・基本的な知識・技能の習得については、全体として一定の成果が認められるものの、思考力・判断力・表現力などを問う読解力や記述式の問題への対応に課題があることが明らかになった。また、子供たちの心と体の状況については、規範意識が薄れ生活習慣が確立されていないこと、体力低下の問題など課題は多く、特に学習への意欲が低く、自己の将来に対して無気力であったり、不安を感じたりしている子供が増加するとともに、友達をはじめ周囲の人との人間関係を作り出すことができない子供が増えているといった問題が指摘されている。
このような状況の中、初等教育においては基礎的・基本的な知識・技能の習得とそれを活用していく能力、自ら学び探究しようとする主体的な学習意欲、豊かな心と体、他者との共生の態度などが求められている。2008(平成20年)の学習指導要領の改訂においては、こうした動向を踏まえ、各教科の改善と教科と総合的な学習の時間の関係の見直し、言語活動、体験活動の重視、道徳教育の充実などを図ることとなった。
また一方で、学校教育に寄せられる期待やニーズの幅が広がっていることや、学校の職務が複雑多様化していることに伴い、学校教育の条件整備があらためて求められている。さらには、学校教育だけではなく、社会や家庭の教育の在りようにも目を向けていく必要があり、激しく変化する社会に対応しながら、一人一人の良さや可能性を発揮する人材の育成、持続可能な社会の形成者として自然環境などとの好ましい関係を構築できる人材の育成、国際的な視野で地域や社会の発展にも貢献できる人材の育成を、学校・地域・家庭が一体となって、取り組むことが求められている。
一方、子供の学力の状況はといえば、2007(平成19)年4月実施の全国学力・学習状況調査や2003(平成15)年のPISA(ProgrammeforInternationalStudentAssessment)調査等の各種調査結果から、基礎的・基本的な知識・技能の習得については、全体として一定の成果が認められるものの、思考力・判断力・表現力などを問う読解力や記述式の問題への対応に課題があることが明らかになった。また、子供たちの心と体の状況については、規範意識が薄れ生活習慣が確立されていないこと、体力低下の問題など課題は多く、特に学習への意欲が低く、自己の将来に対して無気力であったり、不安を感じたりしている子供が増加するとともに、友達をはじめ周囲の人との人間関係を作り出すことができない子供が増えているといった問題が指摘されている。
このような状況の中、初等教育においては基礎的・基本的な知識・技能の習得とそれを活用していく能力、自ら学び探究しようとする主体的な学習意欲、豊かな心と体、他者との共生の態度などが求められている。2008(平成20年)の学習指導要領の改訂においては、こうした動向を踏まえ、各教科の改善と教科と総合的な学習の時間の関係の見直し、言語活動、体験活動の重視、道徳教育の充実などを図ることとなった。
また一方で、学校教育に寄せられる期待やニーズの幅が広がっていることや、学校の職務が複雑多様化していることに伴い、学校教育の条件整備があらためて求められている。さらには、学校教育だけではなく、社会や家庭の教育の在りようにも目を向けていく必要があり、激しく変化する社会に対応しながら、一人一人の良さや可能性を発揮する人材の育成、持続可能な社会の形成者として自然環境などとの好ましい関係を構築できる人材の育成、国際的な視野で地域や社会の発展にも貢献できる人材の育成を、学校・地域・家庭が一体となって、取り組むことが求められている。
2. 我が国の海洋教育の現状と課題
学校教育における海洋教育についての取り上げられ方は、戦後の学習指導要領の変遷を振り返ると分かりやすい。特に小学校については、1947(昭和22)年の学習指導要領(試案)では海の学習が具体的に明記されていたが、徐々に海に関する記述が減少し、1998(平成10)年改訂の学習指導要領においては具体的な表記は見あたらない。教科書中の海に関する記述が少ないのはこれに起因している。また、安全面等の理由から、臨海学校が行われなくなってきている、海に近い学校であっても積極的に海へ行かない等の傾向が顕著である。このような状況から、海洋の重要性に比して海の学習機会が少ないのは問題ではないか、との指摘が各方面からなされている。
こうした中、1998(平成10)年に創設された「総合的な学習の時間」は、各学校の創意工夫により、地域に応じた課題が取り上げられるようになり、海辺に近い多くの学校が海を題材にした学習に取り組むようになるなど、海洋教育の普及に追い風となったことは間違いない。しかし一方で、各学校には人的または時間的余裕がない、教材や支援体制が未整理・不十分である、総合的な学習の時間の全体計画の策定も不十分、などの課題も明らかとなった。1998(平成20)年の改訂においては時間数は削減されたものの、各学校の指導計画に基づいて探究的な学習を推進することとなり、海の学習の広がりが期待される。
このような中で制定された海洋基本法は、海洋教育の重要性をあらためて取り上げ、これまで曖昧だった海洋教育の意義を明確に示し、必要な措置を講ずるよう定めた。
(海洋に関する国民の理解の増進等)
第二十八条国は、国民が海洋についての理解と関心を深めることができるよう、学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進、海洋法に関する国際連合条約その他の国際約束並びに海洋の持続可能な開発及び利用を実現するための国際的な取組に関する普及啓発、海洋に関するレクリエーションの普及等のために必要な措置を講ずるものとする。
2
国は、海洋に関する政策課題に的確に対応するために必要な知識及び能力を有する人材の育成を図るため、大学等において学際的な教育及び研究が推進されるよう必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
これにより、学校教育及び社会教育において海洋に関する教育を推進するために必要な措置を講ずるべき国の責任が明確となった。今後は海洋基本法の理念に基づいて新たな「海洋教育」を推進していく必要がある。そのためには「海洋教育」を定義付け、並びに普及推進のための具体的施策の検討が急務である。
こうした中、1998(平成10)年に創設された「総合的な学習の時間」は、各学校の創意工夫により、地域に応じた課題が取り上げられるようになり、海辺に近い多くの学校が海を題材にした学習に取り組むようになるなど、海洋教育の普及に追い風となったことは間違いない。しかし一方で、各学校には人的または時間的余裕がない、教材や支援体制が未整理・不十分である、総合的な学習の時間の全体計画の策定も不十分、などの課題も明らかとなった。1998(平成20)年の改訂においては時間数は削減されたものの、各学校の指導計画に基づいて探究的な学習を推進することとなり、海の学習の広がりが期待される。
このような中で制定された海洋基本法は、海洋教育の重要性をあらためて取り上げ、これまで曖昧だった海洋教育の意義を明確に示し、必要な措置を講ずるよう定めた。
(海洋に関する国民の理解の増進等)
第二十八条国は、国民が海洋についての理解と関心を深めることができるよう、学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進、海洋法に関する国際連合条約その他の国際約束並びに海洋の持続可能な開発及び利用を実現するための国際的な取組に関する普及啓発、海洋に関するレクリエーションの普及等のために必要な措置を講ずるものとする。
2
国は、海洋に関する政策課題に的確に対応するために必要な知識及び能力を有する人材の育成を図るため、大学等において学際的な教育及び研究が推進されるよう必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
これにより、学校教育及び社会教育において海洋に関する教育を推進するために必要な措置を講ずるべき国の責任が明確となった。今後は海洋基本法の理念に基づいて新たな「海洋教育」を推進していく必要がある。そのためには「海洋教育」を定義付け、並びに普及推進のための具体的施策の検討が急務である。
3. 海洋教育の定義に関する提言
以上にかんがみ、海洋教育を以下のように定義して、それに基づいて普及推進に努めるべきである。
海洋教育の定義
「人類は、海洋から多大なる恩恵を受けるとともに、海洋環境に少なからぬ影響を与えており、海洋と人類の共生は国民的な重要課題である。海洋教育は、海洋と人間の関係についての国民の理解を深めるとともに、海洋環境の保全を図りつつ国際的な理解に立った平和的かつ持続可能な海洋の開発と利用を可能にする知識、技能、思考力、判断力、表現力を有する人材の育成を目指すものである。この目的を達成するために、海洋教育は海に親しみ、海を知り、海を守り、海を利用する学習を推進する。」
4. 小学校における海洋教育の普及推進に向けた提言
1. 基本的な考え方
海洋基本法第二十八条では、国民一般の海に対する理解・増進を学校教育と社会教育に求めるとともに、海洋に関する政策課題に対応できる人材育成を大学等に要請している。しかし現状は、学校教育には、既に述べたとおり、様々な課題が山積している。一方の大学等による人材育成においても、海洋問題の総合的な取り組みに必要な学際的な教育はまだ始まったばかりの段階である。しかし、専門性をもった人材の育成は、基本的な海洋への理解が浸透してこそ、対象者を増やすことができる。したがって学校教育、特に基礎的・基本的な知識・理解を身に付ける小学校教育は、海洋教育全体の中でも極めて重要な位置付けにあることから、以下に挙げる5項目を早急に検討し、海洋教育普及推進の体制を構築することを提言する。
2. 提言
1. 海に関する教育内容を明らかにすべきである
海は自然現象から社会事象、さらには文学・芸術的な要素をも包含する幅広い学習題材としてとらえることができる。この特徴を活かすためには、理科や社会科等の教科学習のみならず、教科横断的なアプローチとして、自然に触れ海に親しむための体験活動、またそれらを組み合わせた探究活動によって、総合的な思考力並びに判断力を養う学習が望まれる。学校にこうしたアプローチの指針を示すため、具体的な教育内容及び方法を早急に明確化して提示すべきである。コンセプト、コンテンツについては別表「内容系統表」(参考事例)を参照されたい。
2. 海洋教育を普及させるための学習環境を整備すべきである
学習指導要領中に海に関する直接的な記述が限られている中で海洋教育を普及させるためには、学習指導要領の関連する内容を吟味し、それに沿った形で教科書中の海に関する記述を増やす取り組みを積極的に行うべきである。副教材や学習プログラム等の周辺教材等の充実、ITを活用した海洋教育情報ネットワーク及び安全に体験学習が行えるフィールドの整備・提供を行われなければならない。
3. 海洋教育を広げ深める外部支援体制を充実すべきである
海洋教育は外部からの協力によって更に理解が深まる内容が多い。そのためには海洋教育及び学校側の意図を理解し、各学校が必要とする部分を効果的に支援する外部支援体制の整備を検討する必要がある。具体的には、博物館、水族館、大学及び研究機関、海洋関係団体、NPO、漁業協同組合、商工会議所、海運・水産・建設等の海洋関連業界などが支援可能な内容を整理し明確に示すとともに、関係省庁、教育委員会においては海洋教育の重要性を認識し、学校への支援体制を構築すべきである。
また、外部支援は単発ではなく継続的に実施することが重要であるため、これら外部支援機関の活動を財政面も含めて多面的に支えるための枠組みとして、企業の社会貢献活動枠の活用、海洋教育基金もしくは海洋教育財団等の設置などの枠組みの構築が併せてなされるべきである。
また、外部支援は単発ではなく継続的に実施することが重要であるため、これら外部支援機関の活動を財政面も含めて多面的に支えるための枠組みとして、企業の社会貢献活動枠の活用、海洋教育基金もしくは海洋教育財団等の設置などの枠組みの構築が併せてなされるべきである。
4. 海洋教育の担い手となる人材を育成すべきである
海洋教育の実践にあたっては、それを担当する教員の養成と研修が不可欠である。このため、その担い手となる教員を育成するための教育体制の整備がなされるべきである。また現役の教員に対する海洋教育もまた重要であり、教職課程や現役教員の研修の場において、海について学ぶ機会を設けるべきである。また、教育現場に出向いて海洋教育を教員に代わって行う海洋に関する専門的な知識を有する海洋インタープリターなど、外部人材の育成も併せて拡充されるべきである。
5. 海洋教育に関する研究を積極的に推進すべきである
学校教育における海洋教育は、まだ実践例も少ないことから、その教育内容や指導方法、また効果測定など教育的な分析が不十分である。またモデルカリキュラムの研究も未着手の状態にある。このため海洋教育に関する研究が行われるべきであり、また、それを推進する大学等研究拠点の整備についても併せて行われるべきである。