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【開催報告】シンポジウム「海の保全に向けともに取り組む~SeaBOSの経験」

2026.10.27

2026年10月19日に、笹川平和財団海洋政策研究所(OPRI)は、ストックホルム・レジリエンス・センターとの共催により、シンポジウム「海の保全に向けともに取り組む~SeaBOSの経験」を笹川平和財団において開催しました。
SeaBOS(Seafood Business for Ocean Stewardship)は、世界の大手水産企業と学術機関が連携し、持続可能な水産業への変革を目指して2016年に始まった時限付きのイニシアチブです。10年間にわたる活動が終了するにあたり、本シンポジウムでは、科学と企業の協働を通じた成果や課題を振り返り、海洋環境の保全と持続可能な海洋利用に向けた今後の協力の可能性について議論しました。
冒頭の牧野光琢 笹川平和財団海洋政策研究所長からの開会挨拶の後、3名の登壇者より、世界と日本の海洋管理を取り巻く現状や課題、今後の方向性について講演が行われました。
ヘンリック・エステルブロム ストックホルム・レジリエンス・センター教授からは、「世界の海洋管理―課題と新たな機会」について講演いただき、海洋が気候や経済を支える一方で、その利用が急速に拡大している状況を踏まえ、科学者と水産企業が協働するSeaBOSの経験を紹介いただきました(写真1)。また、温室効果ガスの排出やプラスチック使用量の削減、生物多様性リスクの評価、人権に関する取り組み等について説明があり、継続的な対話を通じた信頼関係の構築や、企業内の連携と意識改革の重要性が示されました。さらに、日本企業の能力やネットワークを生かした、今後の海洋保全におけるリーダーシップの可能性についても言及されました。

写真1 エステルブロム教授講演の様子

八木信行 東京大学特命教授からは、「日本の海洋管理における課題―歴史と将来」について講演いただき、世界の漁業・養殖業の動向や各国の漁業の事例、各水域の生物多様性や漁獲される水産物の多様性を踏まえ、気候変動などの環境問題に加え、漁業者の高齢化や地域社会の人口減少など、小規模漁業が直面する社会経済的課題にも一層目を向ける必要性が指摘されました(写真2)。また、持続可能な海洋利用のためには、地域における監視・管理機能の維持強化に加え、水揚げ後に十分利用されず廃棄される魚を減らすための流通の見直しやトレーサビリティの向上、小売事業者や消費者による多様な旬の魚への理解を深めることが重要であると説明されました。さらに、政府やNGOによる監視体制の強化やマーケティング面での連携、観光振興や社会イノベーションの促進等を通じて、地域の持続可能な生計を支える方向性が示されました。

写真2 八木教授講演の様子

川島哲哉 水産庁資源管理部国際課長からは、「日本の水産業界が直面する主要な課題と優先事項」について講演いただきました(写真3)。海水温の上昇などに伴う主要魚種の不漁や、水産資源の分布・回遊の変化を背景に、漁業者が参加する調査体制の構築や魚群探知機のデータの活用を通じた資源評価の高度化、既存の漁業規制の見直し、漁法や対象魚種の複合化・転換に向けた取り組みが紹介されました。また、IUU(違法・無報告・無規制)漁業の防止に向けた国際協力、水産流通適正化法の下での水産物流通における情報伝達・記録保存等の義務化、漁具の適正管理・回収・リサイクルや生分解性漁具の開発などの海洋環境の保全に向けた施策等について説明がありました。

写真3 川島課長講演の様子

パネル討論では、エステルブロム教授がモデレーターを務め、冠野尚教 株式会社ニッスイ サステナビリティ推進部部長補佐と、佐藤寛之 Umios株式会社サステナビリティ戦略部サステナビリティ推進課課長役に登壇いただき、各社におけるサステナビリティの取り組みの変化や、SeaBOSの意義、企業間・科学者との協働から得られた経験や教訓をテーマに議論いただきました(写真4)。

写真4 パネルディスカッションの様子

SeaBOSの意義として、企業と科学者が科学的知見を共通の基盤として課題を共有し、一社では対応が難しい海洋環境や水産資源の問題に取り組むための対話の場を築いてきたことが挙げられました。また、国際的な視点から自社の取り組みを比較と評価する機会や、競争の枠を超えた他社との交流を通じて、持続可能性に対する視野が広がり、各社の取り組みを高める刺激となったことが示されました。一方、協働を進める上では、共通の理念や目的を持つだけでなく、取り組むテーマを絞り、役割分担を明確にして、具体的な成果につなげることが課題として挙げられました。各社が抱える課題や取り組みのペースの違いを理解し、SeaBOSの共通課題と各社の課題を結び付ける必要性も指摘されました。科学者と企業の間でも、互いの言葉や考え方を理解し、異なる視点から学び合う関係を築くことの重要性が示されました。今後に向けては、日本企業や科学者の知識や経験を生かし、国際ルールを受け入れるだけでなく、政策の形成にも参加と貢献していく必要性が示されました。
続くオープンディスカッションでは、牧野所長がモデレーターを務め、エステルブロム教授、冠野氏および佐藤氏が登壇しました(写真5)。企業や研究機関が今後重点的に取り組むべき課題や優先事項、協働の方向性、日本における今後の協力の方向性について、会場参加者を交えた活発な意見が行われました。

写真5 オープンディスカッションの様子

今後の優先課題として、水産資源の持続可能性の確保に加え、国際的な視野に立った責任ある養殖やサプライチェーンの構築等が挙げられました。養殖のリスクも課題として示されたほか、大手企業と地域の企業の間のバランスや、海洋における生物多様性の保全における日本企業の役割についても論点が示されました。こうした課題に取り組むためのパートナーシップとして、企業間の協働を続けるとともに、科学的知見を活用し、多様な関係者との協力を広げていく重要性が述べられました。また、企業や科学者をはじめとする関係者の連携を支えるあり方について意見が交わされました。
SeaBOSの10年間を通じて、世界の水産業における持続可能性への向き合い方や実践が変化してきたことが振り返られるとともに、今後取り組むべき課題も改めて認識されました。SeaBOSとしての活動が一区切りを迎えることは、協働の終わりを意味するものではありません。これまでに得られた成果や、培われた信頼関係、国際的なネットワークを、次の協働を支えるレガシーとして受け継いでいくことの重要性が示されました。名称や枠組みが変わっても、これらを基盤として海洋保全と持続可能な水産業に向けた取り組みを続けていくという展望が示され、シンポジウムを締めくくりました。

(笹川平和財団海洋政策研究所 朱 夢瑶)

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