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【開催報告】国際学会ECSA61において、特別セッションを主催しました
笹川平和財団海洋政策研究所は2026年8月24日から26日までにベルギー・ブリュッセルで開催された第61回河口域・沿岸科学学会(Estuarine Coastal Science Association: ECSA 61)に参加し、特別セッション「Sustainable Use in Estuarine and Coastal Areas of East Asia: Approaches form Japan, China and the Republic of Korea 」(東アジアの河口・沿岸域における持続可能な利用―日本・中国・韓国のアプローチ―)を開催しました。本特別セッションは、日本、中国、韓国の取組を通じて、沿岸域における生態系の保全と社会経済的利用の両立、および持続可能な沿岸域ガバナンスのあり方を検討することを目的として企画されました。
東アジアの沿岸域が直面する共通課題
日本、中国、韓国を含む東アジアの河口・沿岸域は、漁業や海運、港湾、観光・レクリエーションなど、多様な社会経済活動を支える重要な空間であると同時に、高い生態学的価値を有する地域でもあります。一方、急速な経済発展や土地利用の変化、生息地の劣化、気候変動などによる影響が顕在化し、沿岸域の持続可能な利用と生態系保全をいかに両立させるかが共通の課題となっています。特に近年は、沿岸域の利用が多様化することにより、従来の漁業を中心とする利用に加えて、観光・レクリエーション、港湾、海洋エネルギーなど、さまざまな主体や活動が同一の沿岸・海洋空間に関わるようになっています。このため、個別の資源や産業を管理するだけでなく、異なる利用主体、制度、政策、空間をどのように横断的に調整するかが重要なガバナンス課題となっています。
こうした問題意識のもとで、本特別セッションでは、日本、韓国、中国の現状に基づく5つの研究報告が行われ、沿岸域の持続可能な利用に向けた各国の制度や政策、沿岸地域社会の取組に関する比較が検討されました。
5つの報告から沿岸域ガバナンスを多角的に検討
本特別セッションにおいて、最初に東京海洋大学の婁小波教授が「Multi-use of Coastal Space in Japan: Development and Management」と題する報告を行いました。日本の沿岸域では、伝統的な漁業や海運に加え、埋立て、海洋レクリエーション、エネルギー・鉱物資源開発など利用形態が多様化しており、それに伴って利用主体間の競合や資源・環境をめぐる摩擦も複雑化しています。同報告では、こうした変化に対し、地域社会によるインフォーマルな管理と政府による制度的管理の双方が発展してきたことを踏まえ、「万能な一つの方式」という管理方式ではなく、課題特性に応じた適応的なガバナンス(Evolutionary Governance)が必要であることが示されました。
続いて、東京海洋大学の浪川珠乃教授が「Development of UMIGYO and Sustainable Management of Local Resources in Japan」と題し、日本の海業について報告を行いました。同報告では、海洋環境の変化、漁獲量の現状、漁業者の高齢化や後継者不足などに直面する漁村地域において、地域の海洋資源や漁村の魅力を活用し、所得や雇用を生み出す「海業」が新たな地域振興策として期待されていることが紹介されました。そのうえ、海業の発展と地域資源の持続可能な管理との関係について検討が行われました。
3番目に、東海大学の李銀姫教授が「The Meaning of Small-Scale Fisheries in the Sustainable Use of Estuarine and Coastal Areas in Japan」と題し、日本の小規模漁業と沿岸域管理について報告を行い、日本の漁業権制度や漁業共同組合を通じた地域主体による資源管理の歴史的・制度的特徴を紹介し、2018年の漁業政策改革など近年の制度変化が小規模漁業に与える影響について論じました。
4番目に、韓国海洋水産開発院(Korea Maritime Institute)のJaeweon Yeomシニアリサーチャーが「Integrated Coastal Zone Management and Marine Spatial Planning in Korea: Institutional Linkages, Governance Gaps, and Emerging Challenges」と題する報告を行いました。同報告では、韓国で沿岸管理法による総合的沿岸管理(ICZM)と海洋空間計画(MSP)が制度化されている一方、陸域と海域の法制度や管理権限の分断、海洋空間における再生可能なエネルギー、海底インフラ、養殖、保全区域などの利用競合が新たな課題となっていることを指摘し、ICZMとMSPの制度的連携を強化し、セクター間の水平的調整と海洋空間の垂直的調整が進める必要性を主張しました。
最後に、弊所高翔主任研究員が「Marine Ecological Redlines and Integrated Coastal Zone Management in China: Governance Linkages, Characteristics, and Challenges」と題し、中国の海洋生態保護レッドライン(Marine Ecological Redline: MERL)政策と総合的沿岸域管理の関係について報告を行いました。同報告では、MERLは、生態学的に重要または脆弱な海域に空間的な保護境界を設定し、沿岸開発を制約する政策手段であると紹介しました。また、MERLがICZMやMSPに生態学的空間基準を提供する役割を持つ一方、この三者の相互作用が保全と沿岸域経済開発をいかに統合するか、という沿岸・海洋ガバナンス上の課題を考えるうえで、一つの示唆を提示しました。
5つの報告を通じて浮かび上がった共通の論点は、沿岸域ガバナンスを単一の政策手段や制度だけで捉えることの限界です。各報告の内容は、大きく「Stakeholders(主体)」、「Institutions(制度)」、「Space(空間)」という3つの視点から整理することができます。「主体」の観点では、漁業者や地域社会が沿岸域資源の利用と管理にどのように関与し、新たな産業や利用主体が参入するなかで、その役割をどのように維持していくかが重要です。「制度」の観点では、漁業制度、ICZM、MERL、MSPなどの政策目的が異なる制度や政策分野をどのように連携させるかが課題となります。そして「空間」の観点では、利用がますます多様化する沿岸域において、経済活動と生態系保全をどのように調整し、適切な空間管理を実現するかが問われます。
東アジアにおける比較研究と相互学習に向けて
今回の特別セッションを通じて、日本、韓国、中国では、それぞれ異なる法制度や社会的背景のもとで沿岸域管理が発展している一方、利用の多様化、利用主体間の競合、地域社会の持続可能性、生態系保全と経済発展の両立といった共通課題を抱えていることが改めて確認できました。各国の制度が成立している社会的・歴史的背景を踏まえながら、何が東アジアの他地域にも応用可能であり、何が地域固有の条件に依存するのかを明らかにすることが今後の比較研究にとって重要です。本特別セッションの主催は、東アジアにおける持続可能で包摂的かつ適応的な沿岸域ガバナンスのあり方を考える機会となりました。今後も、各国の研究者や実務者との知見共有を進めるとともに、東アジアの経験を国際的な沿岸域管理の議論につなげていくことが期待されます。
(文責:笹川平和財団海洋政策研究所 主任研究員 高 翔)