これまで平和構築において、女性は保護される側、被害者として語られることが多かった。またジェンダー平等は、女性が男性と平等な権利を獲得するという、基本的人権としての側面が強調されてきた。しかしながら近年この傾向は大きく変わりつつある。2000 年に国連安全保障理事会にて採択された決議 1325 号「女性・平和・安全保障」は「あらゆるレベルの意思決定における女性の平等な参加」 を促進することで、これまでの戦争・武力紛争の被害者としてのみとらえられてきた女性を、和平交渉および平和構築に重要な役割を果たすアクターとしてとりあげたのである。これはそれまでの女性のエンパワメントやフェミニズムの流れからの大きな方向転換と言える。
ジェノバ大学院研究所が2011年から2015年におこなった冷戦以来の和平プロセスについての研究によると、女性のグループが和平交渉において強い影響力を及ぼした場合、女性グループの影響力が無いまたは弱い場合に比べて極めて交渉の成功率が高い。それだけでなく、女性グループが強い影響力を及ぼした場合は殆どの場合に和平交渉が成立し、その後の和平合意プロセスが実施される可能性が高い、としている。また別の調査では、和平合意プロセスの構築に女性が参加すれば、和平が15年以上継続する可能性が35%高まることも示されている。これまで当たり前のものとして議論の俎上に上がってこなかった男女の主体性の違いが、このように平和構築や持続的開発に果たしうる役割の面から論じられるようになってきたのは大変意義のあることと歓迎したい。
本報告書はこ笹川平和財団よりハーバード大学で研究活動を行う我喜屋まり子氏らに調査依頼したものである。我喜屋氏は女性のリーダーシップの専門家であり、この報告書では変革型リーダーシップおよびチェンジ・エージェントとしての女性の役割に着目し、平和と安全のための女性の役割を多くの文献、研究、インタビュー等よりまとめあげている。女性が如何なる状況でどの様な支援を得られればシビルソサエティと政治の舞台における重要な触媒となり得るか、世界中の豊富な事例より分析して頂いた。世界が不安定さを増し分断を強める中で、是非一人でも多くの方々にお読み頂き、女性が積極的に平和構築に果たしうる役割について考えて頂くための一助となれば幸いである。
笹川平和財団
女性活躍事業グループ 小木曽 麻里