「トランプ2.0のアメリカ」共和党編④
MAGA研究④:リバタリアンとトランプ
渡辺 将人
本編は「『トランプ2.0のアメリカ』共和党編③MAGA研究③:ティーパーティ分裂要因としてのイスラエル・イラン政策」に続くシリーズ8本目です。
アメリカ政治のニュアンス変化を汲み取る作業の一つにマージナルな票田の経年観察がある。カトリックと「トランプ支持連合」の一角を占めるリバタリアンが好例だ。政策志向が強いが、争点ごとに選好が是々非々で、同じ信仰や思想を持つ集団内でも投票行動が割れ、既存の二大政党に距離感がある集団である。彼らの動きはトランプ2.0理解においても鍵になっている。筆者は2026年夏の現地調査ではイリノイ、アイオワ、ペンシルバニア、デラウェアの各州とワシントンDCで、共和党旧主流派、キリスト教右派、草の根MAGAに加えてリバタリアンと意見を交わし、リバタリアンに関して以下を再確認した。
- 2012年のティーパーティ分裂、2016年のランド・ポールの大統領選撤退以降、政治に情熱を失い傍観者化したリバタリアンも少なくない。
- それでも2024年のトランプ2.0から「トランプ連合」に加わり共和党政治にカムバックしているのは、二大政党に無視されジョークのように扱われてきたリバタリアンにトランプが一部政策を接点に向き合ったからである(ワクチン、DOGE、暗号資産)。
- このリバタリアンの「幻滅からの最後の賭け」としての有言実行男トランプへの期待は、エスタブリッシュメント幻滅のMAGA、価値政策での共和党幻滅のキリスト教右派と同じ心理である。
- 個人は争点で是々非々だが「民主社会主義」「ウォークネス」との戦いのためにトランプの人格を嫌悪しながらも継続する人が多い。
- ICEやイラン戦争への賛否は割れ、トランプ2.0へのリバタリアン党の評価自体は低い。
本稿では前回の「ティーパーティ分裂」分析の続編として、このリバタリアンを分析する。シリコンバレーの経営者の「テクノ・リバタリアニズム」を連想する向きがあるかもしれない。無論、彼らは大口献金者(ビッグドナー)としては重要だし、イーロン・マスクはヴィヴェック・ラマスワミと共に第二次政権初期にDOGEを通して政策にも影響を与えた。だが、暗号資産に価値を置く彼らにはティーパーティ1.0の古典的な「クラシカル・リバタリアン」とは政治観を異にする部分がある。また、イラン戦争を肯定するリバタリアンの論理はティーパーティ2.0「ペイリン派」はもとよりネオコン的色彩までまとう。これらを明らかにする上でまずは時計の針をトランプ1.0誕生前の2016年共和党予備選挙に戻したい。
孤立主義原則を揺さぶった「トランプ」と「ジハーディ・ジョン」:2016年選挙
「クラシカル・リバタリアン」は政党のリバタリアン党、シンクタンクのケイトー研究所が代弁する思想を共有する集団で、第三政党のリバタリアン党に投票しない場合、現実的には共和党連邦議員のロン・ポール、ランド・ポール親子らを支持してきた。ティーパーティ1.0と支持者は重なる。彼らの思想は厳密には共和党とも民主党とも完全に一致しない。2016年のトランプ出馬以降、トランプ政権とも政策が完全に一致したことはなく、あくまで部分的賛同で「トランプ連合」に同居している。
2012年のロン・ポールの大躍進を最後に古典的なリバタリアンの勢いは低迷期に入り、最終的に2016年の大統領選挙でリバタリアン候補のランド・ポールは惨めな撤退を余儀なくされた。ランドはアイオワ党員集会で5位(4.5%)で撤退し、上院再選に活動を切り替えた。この失速はリバタリアンの一つの転機だった。「POLITICO」誌でティム・アルバータはランド・ポール失速の原因を「ジハーディ・ジョン」と「トランプ」だと指摘した1。「ジハーディ・ジョン」とはイスラム過激派組織ISIL(IS)の人質殺害映像の黒服面「処刑人」の渾名である。2014年にジェームズ・フォーリーやピーター・カッシグらアメリカの民間人がISに相次いで殺害される映像が公開された衝撃により、9/11テロ以来の恐怖感情が全米に渦巻いた。これによりイラク戦争の過ちから超党派で膨らんでいた非介入主義の気運には、イスラム過激派テロへの強い対応という例外的な「留保」が付くようになった。ランド陣営の戦略家が認めるように2015年秋にアイオワ州で行われた調査では、ランドが掲げていた「スパイ活動の縮小、ドローン攻撃の削減、対外介入の縮小、海外基地の閉鎖」の全てに有権者が強く反対する様子が浮き彫りになっていた2。
ランド・ポールは原理的孤立主義だったが、政策的信念のないトランプは狡猾だった。トランプはオポチュニスト的なネオコン批判でリバタリアンのお株を奪いつつ、持ち前の原理原則のなさを武器に「ジハーディ・ジョン」への恐怖を抱く共和党支持者向けの変化球を投げたのだ。2016年予備選におけるトランプとランドの政策は、前段は瓜二つだ。外国への政権交代や国家再建を伴う介入に反対し、イラクやリビアへの侵攻を批判し、NATOへのアメリカの関与を見直すという約束だ。ネオコン壊滅を望むリバタリアンが消去法でトランプを選んだのも頷ける。しかし、トランプは大規模な軍事増強は是とし、ISISを「徹底的に爆撃」してテロリストの家族の殺害を示唆し、拷問の復活も提唱した。「新たな戦争はしない」と約束しながらも、就任演説でイスラム過激派テロを「地球上から根絶する」と宣言したように、イスラエルに寄り添いイスラムには強硬姿勢を鮮明にした。選択的介入はリバタリアンと相容れないが、ネオコン壊滅を望む者にとってジェブ・ブッシュやルビオなど他の主流派候補よりはトランプの方がましだった。撤退後のランド・ポールも支持者の顔色を見て、ヒラリーの大統領就任阻止を大義に本選ではトランプを渋々支持した。
だが、リバタリアン票は本選では割れた。ランドの言う通りにトランプに投票した者もいたが、元ニューメキシコ州知事でやはりリバタリアンのギャリー・ジョンソンが第三候補として出馬したため、「ネバー・トランプ」(トランプ絶対阻止派)は皆ジョンソンに投票した。本選挙での得票率は僅か3.3%だったが、約449万票はリバタリアン党の歴史では大統領選挙での最多得票だった。トランプの初戦勝利の年に党の対抗馬を立てこれだけの票を獲得したことは「トランプ支持連合」に組み込まれることを頑なに拒んだ足跡でもある。ギャリー・ジョンソンがもし5%を獲得していれば、連邦政府からのマッチングファンドを受け取る資格を得て、党を恒久的なものにすることもできた。そうすれば、リバタリアンは「トランプ支持連合」に参加することを拒否し、保守内抵抗勢力としてトランプの足を引っ張ることでトランプ2.0の実現を阻止していたかもしれない。ポールとジョンソンの敗北を抱きしめているリバタリアンはトランプ政権1.0では「支持連合」に易々と乗れなかった3。ところで、ジョンソンの2回の知事選の選対本部長を務めたジョンソンの弟子筋にあたるリバタリアンのダグ・ターナーは、2026年ニューメキシコ州知事選共和党予備選に出馬して落選(3人中2位)に終わった。選挙中に「あなたはMAGAか?」と司会に尋ねられ「自分はアメリカ人」だと回答し、意図的なMAGA扱いに嫌悪感を示した4。リバタリアンは決して自らをMAGAとは呼ばせない。
トランプ1.0で政治的「家なき子」となったリバタリアン
2018年4月、「アトランティック」誌のケヴィン・ウィリアムソンはリバタリアンがトランプ政権下で行き場のないホームレスになってしまったと述べた。レーガン自身、時折自らをリバタリアンと称していた冷戦期が終わり、グローバリズムの影響が忍び寄る中で、ウィリアムソン曰く「自由貿易を重視し、市場を尊重し、社会福祉プログラムに敵対的なリバタリアニズムは、あっという間に時代遅れとなった」。キリスト教右派は文化戦争(特に人工妊娠中絶)、ビジネス界は減税や規制緩和で懐柔できても、原理主義的なリバタリアンは、「大きな政府」と内外で発揮する「干渉主義」がブレンドした保守でもリベラルでもないトランプに適合できなかったのだ。
ウィリアムソンの言葉を借りれば「レーガンの麻薬戦争とムッソリーニの経済政策(国家主導の統制経済)を擁護し、連邦通信委員会(FCC)を利用してメディアの批判を封じ込めようとし、世界的な貿易戦争さえ引き起こすことを夢見ている男」とリバタリアンは和解できず、さりとて民主党を支持することもできず、「現時点のアメリカには二つの権威主義的なポピュリスト政党しか残っておらず、古典的自由主義を受け入れる政治的居場所は全く存在しない」5。トランプ1次政権期、トランプ評価を尋ねるとリバタリアンの友人たちは常に気まずそうに話題を逸らしたし、この時期に政治から静かに離れた人も少なくない。
ミーゼス派とコロナ禍とワクチンを巡るケネディJr.:2024年選挙
その一方で、リバタリアン党内でトランプ支持の転向派の芽が生まれていた。2012年にリバタリアンのティーパーティ1.0から分派した社会保守派のティーパーティ2.0(後のMAGA)に極めて親和性の強い「準MAGAリバタリアン」である。オーストリア学派の経済学者であるルートヴィヒ・フォン・ミーゼスにちなんでミーゼス派を名乗る彼らは、2017年に党内で「ミーゼス・コーカス」を結成する。急進的アナキスト資本主義にMAGA的な文化政策を融合させ、ティーパーティ2.0に類似していた。ミーゼス派はケイトー研究所が代弁する旧来のリバタリアンを「ベルトウェイ・リバタリアン」と蔑称し、トランプ傾斜を強めた6。
結成当初は周辺的一派でしかなかった「ミーゼス・コーカス」が党内で主流の力を持ち得た要因は2つあった。1つは新型コロナウイルスへの対応である。2020年大統領選挙中に広がったコロナ禍での政府の政策への不満の矛先は、初動の責任を負ったトランプから次期バイデン政権に移った。本来リバタリアンは、ロックダウン、マスク着用義務、ワクチン接種義務(ワクチンパスポート)などの政府の政策を個人の自由に対する冒涜と見なす立場だった。国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の元所長であるファウチ博士にも反発した。だからこそ、バイデン大統領のこうしたパンデミック対策にリバタリアン党が比較的穏健な理解を示したことに、ミーゼス派は激しく反発した。もう1つは、2020年5月のジョージ・フロイド事件以降に人種正義を求める運動も相まって民主党側で深まりを見せた「ウォークネス」(人種差別、社会的不公正、性差別などに対して高い意識を持つこと)への反発だ。無視できない勢力であるサンダース派に配慮したバイデン政権の左傾化の中でミーゼス派は「文化戦争」での反撃を訴えるようになった。リバタリアン党は人工妊娠中絶には中立だったが、ミーゼス派はプロライフの立場を鮮明にし、反ユダヤ的ともされる差別的な言説のソーシャルメディアの投稿も増え、MAGAとの違いが少なくなっていった。
そしてついにミーゼス派は、2024年大統領選挙でリバタリアン党大会にトランプを招いた7。独自候補を立てているのに共和党の候補を招くのは異例のことだが、トランプがこの機に乗じてリバタリアンを「トランプ連合」として共和党支持連合に本格復帰させる鼻息の荒さも窺わせた。トランプはリバタリアン候補を指名しても政策は実現しないので自分を支持しろと煽り、トランプ支持のミーゼス派と反トランプの伝統派の罵り合いで大会は大混乱に陥った。ミーゼス派は地方支部でも暴れ回り、ニューハンプシャー州リバタリアン党はトランプを指名した8。
ミーゼス派の原動力としてのコロナ禍への怒りの中でも、ワクチンの危険性を訴える運動が強まったことも無視できない。筆者の友人のリバタリアン弁護士たちはこの時期、リバタリアンとしてケネディJr.陣営に参加して、連邦政府の強制的接種は「憲法修正4条」のプライバシー権への介入であることを訴えた。敏感なトランプはケネディJr.を政権に招き入れればリバタリアンを抱え込めると理解した。案の定、リバタリアンはケネディJr.厚生長官が誕生するならばトランプを支持するという悪魔の契約を交わしたのだ。この詳細は「『トランプ党』完成化とケネディ支持派のリバタリアン合流」に記した通りだ9。現在もリバタリアンの多くはケネディが政権にいる限りはトランプ2.0を見離さない。このワクチンを巡る政治的接着剤の力は大きく、後述するICE反対やイラン戦争反対を乗り越えて「トランプ支持連合」に居残るだけの力を持つ。だからこそトランプはケネディを政権から外すことはなかなかできないし、ファウチ博士を政治的生贄にする。
「テクノ・リバタリアン」と暗号資産と古典派の反発:2024年選挙からトランプ2.0へ
「ティーパーティ2.0」の文化保守との再結合によるミーゼス派とは別軸で、リバタリアンをトランプに近づけたもう一つの変数が「テクノ・リバタリアン」である10。もとよりリバタリアンは「ブロック・チェーン」技術と暗号資産に期待を寄せていた。連邦準備制度を置き換えることや政治献金の匿名化など国家に支配されない決済を求め、通貨発行を中央銀行から民間に移すべきだと提唱していたリバタリアンにとって、ピーター・ティールが設立したオンライン決済事業PayPalは福音だった。ティールは有名なケイトー研究所の寄稿論考で「PayPalの創業時のビジョンは、あらゆる政府の統制や価値の希薄化から解放された新しい世界通貨の創造、いわば通貨主権の終焉に焦点を絞っていた」と明言している11。俄かリバタリアン転向者のイーロン・マスクとは技術実装の背後にある思想の深みが異なる。
2021年には330億ドルのベンチャーキャピタル資金が暗号資産スタートアップに投入され、リバタリアンのインフルエンサーであるジョー・ローガンはビットコインが将来の普遍的な通貨になるとまで語った。だが、バイデン政権はマネーロンダリングや違法行為の温床だとして規制を強め、ビットコインの価値は急落し多数の暗号資産企業が破綻した。ここでバイデンは暗号資産の敵、トランプは味方かもしれないという構図が出来上がる。接点はJ.D.バンスである。2019年にバンスが創業したベンチャーキャピタルを育てたティールは、2021年の連邦上院選のバンス出馬も資金的に支え、バンスがトランプにティールを引き合わせる。トランプの第一次政権と第二次政権は間に民主党政権を挟んでいるので主要閣僚の入れ替えが不自然なく受け取られがちだが、ペンスの冷遇、バンスの抜擢の経緯には議会乱入事件の踏み絵(ペンスによる批判)以外にもシリコンバレーの影が見え隠れする。トランプはバンス指名後にビットコイン・カンファレンスで暗号資産のルールを業界に委任する考えを示し、業界は1億3000万ドル以上の献金で応えた。トランプ2.0は暗号資産の規制緩和にひた走った。ティールのリバタリアニズムは、個人の自由は革新的な起業家によるエリート層により監督されることで効果的に機能するという思想で、彼らに都合の良い政府を利用する考えでもある。
この考えは、資本主義の自由のためには民主主義は制限されても仕方がないという、ある種の権威主義的な思想で、アナキズムや古典的リバタリアンと異質の匂いを放っているが、故意にせよ無意識にせよ多くのリバタリアンがこの匂いを見逃したのは、2020年選挙で敗北して葬られたはずだった「再生トランプ」が暗号資産への理解者の顔をして復活したからだし、バイデン政権との対比が見事に鮮烈だったからだ。上述した2年前の論考で紹介したMENSA会員リバタリアンの中にも共鳴者は少なくない。「個人の自由と分散型通貨という極端なビジョン」が受け入れられたのは連邦準備制度廃止だけでなく、あらゆるリバタリアンの極端な夢が二大政党の現実政治には無視されてきたからで、「暗号資産はアメリカ史上最も成功したリバタリア・プロジェクト」だとDigital Cash: The Unknown History of the Anarchists, Utopians, and Technologists Who Created Cryptocurrencyの著者フォン・ブラントンは述べる12。
だが、この権威肯定には当然古典的リバタリアンから反動も生まれた。レーガンを生み出したリバタリアニズムの聖地カリフォルニア州のリバタリアン党は、MAGAを権威主義の始まりとして揶揄するラディカルなトランプ批判を展開するようになった13。彼らのトランプ批判はインフルエンサーMAGAのタッカー・カールソン流のイスラエル政策批判と部分的に重なるが、あくまでリバタリアンの原則に回帰する批判だ。カリフォルニア州リバタリアン党のパット・ライトはリバタリアン本来の原理原則とMAGAの対比をこう要約する。
「MAGAは情熱に基づく運動であり、リバタリアニズムは原則に基づく運動である。両者とも肥大化し腐敗した政府を問題視しているが、MAGAの答えは「舵取りをより強固にする」ことであるのに対し、リバタリアンは「舵そのものを小さくする」ことを求めている。真の自由は、権力を握る者を変えることでは回復されない――権力そのものを制限することによって初めて回復されるのだ。」14
彼らの文脈に沿えば「テクノ・リバタリアン」はリバタリアンの名には値しないのかもしれない。手段を巡る相違は共有する目的を陳腐化させるほどの大きな違いだと彼らは考えているからだ。
MAGA対リバタリアニズム:5つの柱の比較
トランプ2.0のリバタリアン「公式」通知表
2026年5月にリバタリアン党が発表したトランプ政権2.0の評価は「一部の官僚的な手続きが削減され、一部の政治犯が恩赦を受け、一部の戦争支出が凍結されたものの、中央集権化、財政の無責任さ、国家権力という根深い病は依然として未解決のまま」として、「C−(マイナス)」と実に辛口だった15。通知表を順に見ていこう。
リバタリアンを分裂させ「トランプ支持連合」を揺さぶる2大争点:ICEとイラン戦争
DOGEには高評価を与えているが、トランプ第二次政権ではリバタリアンとの軋みが徐々に広がっている。メディアに見える形で露見した対立は2つある。1つは「低評価」第5項目の移民対策で、具体的には不法移民に対するICEの強制執行である。死者を出したことでミネアポリスの事件はトランプに相当程度の打撃を与えたが、トランプ政権内部を心理的に動揺させたのは、全米から集まったリベラル派の反ICEデモにかなりの数のリバタリアンが合流したことだった。黄色い蛇マークのガズデン旗を掲げるリバタリアンはMAGAを困惑させた。すかさずトランプ擁護メディアは「左派に利用されるな」と呼びかけた16。
しかし、ミーゼス派の影響もいまだに強く、全てのリバタリアンがICEに批判的なわけではない。トランプ支持の力には立憲主義リバタリアンの原理原則を変えさせるほどの魅力があるらしい。ICEの強制執行は憲法修正10条の州の権利を侵害する行為ではないか、という筆者の質問に、それには当たらないと平然と答えるリバタリアンが多数いることは「『トランプ党』完成化とケネディ支持派のリバタリアン合流」でも伝えた通りだが、2026年8月下旬に中西部で開かれた共和党各派メンバーとの「定例同窓会」でも、出席したリバタリアンたちは相変わらずICEを支持していた。
もう1つの対立は、この通知表には調査時期の関係で間に合っていないイラン戦争だ(調査時期がもう少し遅ければ「低評価」の最大の理由に掲げられたはずである)。ランド・ポール、トランプの刺客候補に敗れたトーマス・マッシー下院議員、ジャスティン・アマッシュ元下院議員らがイラン戦争反対の論陣を張る一方、戦争を擁護するリバタリアンもいる。彼らはトランプに無条件に追随する草の根MAGAとは異なり、リバタリアン的な独自の理論武装で論を展開している。代表例はオーストリア学派経済学者のウォルター・ブロックと、普段はブロック・チェーン分析を専門にするライターのジェームズ・デルモアという2名のリバタリアンの議論だ17。ブロック博士は、ミーゼスの名を冠にしたシンクタンク「ミーゼス・インスティチュート」でも紹介されているかつての著作Toward a Libertarian Societyでは非介入外交を標榜していたが、その後は中東への介入に関しては考えを改めた模様だ。同書の2014年5月という刊行時期を考えると、本稿の前半で触れたように台頭したISが後に影響を与えた可能性もある18。
「リバタリアニズムは、政治権力の唯一の正当な目的は、個人の権利、すなわち自由と財産の権利を保護することにあると主張している。イラン・イスラム共和国は数十年にわたりその正反対の行動を取り続け、9000万人の国民を、抑圧的で殺戮的な政府の下で生活することを強いてきた。その9000万人の国民には、抑圧者を排除するための平和的な手段も、自由な選挙も、独立した裁判所も、異議を唱える権利の保障もない。イランの核・軍事能力を破壊するため、あるいは体制を完全に打倒するための米国とイスラエルの行動は、リバタリアンが支持すべき大義である」
上記のように述べるブロックとデルモアは「個人の主権は国家主権に優先する」「国連は個人を保護できないことを証明した」とした上で、もう一つの重要な問いは「この戦争に代償が伴うかどうかではない。その代償が他の選択肢よりも大きいかどうかだ」として戦争を擁護する。今回の中西部と東部での滞在中、この論理をリバタリアン有権者に問い掛けてみた。イラン戦争を擁護する度合いに濃淡はあるが、消極的であったり話題を避けたりと、正面からイラン戦争を厳しく批判するリバタリアンの少なさに驚かされた(インフルエンサーMAGAと草の根MAGAの印象の差と同様で、インフルエンサーが増幅する論調とは一定の温度差がある)。
だが、彼らのようなイラン戦争擁護リバタリアンが、西半球のドンロー主義を地理的に超える介入論を唱え始めるのか、ウクライナへの関与否定は変わらないのか、中国と台湾にいかなる見解を示すのかは未知数だ。ブロックとデルモアの上記の論理によって諸外国内で横暴な政権に虐げられる個人の権利の擁護に加勢するのが正義であれば、ウイグルや香港の状況にも同情を示さねば一貫性を欠く。彼らの論理はリバタリアニズムを支柱にしているようで選択的なネオコンを彷彿とさせかねない。「ティーパーティ2.0」のペイリン派(現在のMAGAの源流)に実に似通っている。2013年以降、自由貿易で不干渉主義のポール派「ティーパーティ1.0」はリバタリアンとしての矜持を保つため、保護貿易でイスラエル支持・反イランの文化保守勢力のペイリン派「ティーパーティ2.0」にティーパーティの座を明け渡した。原理原則の純度を維持するために自ら立ち上げた「ティーパーティ」を捨ててまでリバタリアニズムを護ったはずが、トランプという政策的な一貫性がない大統領のイスラエル支持が時を経て触媒となり、リバタリアン内部に「ティーパーティ2.0」が逆流侵食しつつある。それはミーゼス派、反ワクチンのケネディJr.派、テクノ・リバタリアニズム、様々な形を経ているが、ネオコンがリバタリアンの内部から復権するとすれば、これほどの矛盾はない。
(了)
*次号は、キリスト教右派のトランプ支持の内実とMAGAについてイラン戦争への本音とトランプ政権への評価を絡めて検討する。
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- Katie Glueck, “Libertarians emerging as Trump resistance”, POLITICO, December 15, 2016, <https://www.politico.com/story/2016/12/donald-trump-libertarians-232659>, accessed on September 23, 2026.(本文に戻る)
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