「トランプ2.0のアメリカ」共和党編①
MAGA研究①インフルエンサーMAGA vs草の根MAGA?:「トランプ4本柱」
渡辺 将人
本編は「『トランプ2.0のアメリカ』民主党編④ 民主党流派の『内政』新分類学:『新世代』から『アバンダンス』まで」に続くシリーズ5本目です。
共和党各派との20年対話
筆者の共和党コネクションのハブのひとつである「共和党同窓会」は9月のレイバーデー以降の初秋に中西部アイオワ州で開かれる。2007年に翌年のアイオワ州党員集会への参与観察で初めて長期滞在して以来まもなく20周年である。2008年共和党全国大会にはアイオワ州代議員団と共に参加し、マケイン=ペイリンの正副大統領演説を見届けた。「共和党見本市」のような顔ぶれとの付き合いが共和党「派閥観察」の眼を養うには絶好だった。
昨年の滞在でも、主流派、キリスト教右派、リバタリアン、新興トランプ派と過ごしたが、同会合も高齢化しつつあり、世代交代の波が来ている。メンバーが子どもや若い親族を連れてくるようになったのだ。今回はMAGA派の20代と10代の男女2名も加わった。いずれも熱心なチャーリー・カークのファンだった(滞在中にカークが暗殺され騒然となった)。この昨年の現地訪問の詳細をすぐに書けなかったのは、筆者の昨年度末の物理的な制約もあったが、彼ら共和党有権者のトランプ支持をめぐる「MAGA分裂」の評価が錯綜する一方、ベネズエラ、イラン、米中と対外情勢が目まぐるしく変動したことも大きい。
共和党はこの20年で劇的に変動した。民主党がサンダース運動以降、主流派や利益団体の観察では全貌が掴めなくなっているように、共和党調査も「草の根」が鍵となりワシントンだけでは羅針盤も全体像も見えなくなった。トランプの外交は従来の概念でのエリートによる外交政策ではなく、「諸外国に影響を与えるアメリカ内政」の色彩を強めている。
図解:「トランプハウス」のMAGAと「トランプ連合」
アメリカ発の報道では散発的に、「MAGAが分裂した」「MAGAの支持が離れた」「いや離れていない」と語られるが、どれも書き手や媒体の恣意的なMAGA定義で述べられていて、これが日本に断片的に翻訳輸入され、実態理解から遠ざかることも少なくない。MAGAの定義が、媒体や立場で揺れる理由は2つある。
第1に、党派利益である。リベラル派の立場からトランプやその支持者の言動を批判する際、曖昧なMAGA定義の方が幅広い共和党全体を攻撃可能になる。左派に定義を任せると「共和党がMAGA」という最大限拡大された認識で論評が進展するか、逆に殊更にMAGAと共和党内の主流派との分断を強調してトランプ支持者を切り離すことを誘導する場合もある。まさにMAGA定義自体が党派的な意図を滲ませる一丁目一番地である。
第2に、「何がなんでもトランプに追随する」MAGA(本稿では原理的MAGAと仮称)という基底の土台の上に、上部の層としての緩やかな「トランプ連合」が形成されている「二層構造」のイメージが浸透し尽くしていないことだ。トランプを無条件で信奉する人、トランプに理念や政策希望を投影してその範囲で支持する人、民主党の左傾化を憂いて共和党勝利のために渋々本選でトランプに投票した人のどこまでが「MAGA」なのか。そもそも「トランピズム」とはトランプを信奉する行為のことか、トランプ政権に表象される保護貿易や長期非介入などの哲学のことか、いずれも区別が曖昧なままアメリカでも個別に論じられてきた。
「トランプ連合」は、レーガン期以降の保守連合(財政保守、宗教保守、ネオコン)の一角からネオコンを追い出し、オバマ政権前半以降共和党を去っていた財政保守的リバタリアンを迎え、白人労働者を包摂したトランプ政権流の「ビッグテント」であるが、彼らは「MAGA連合」の一員であっても、原理的MAGA層ではない。他方、草の根MAGA層の上に、ネット空間でMAGA的言説を展開するインフルエンサー層も別途存在する(図1参照)。
結論を先取りすれば、トランプハウスは外から見える「外壁の塗装」が一部剥がれ落ちて家が崩壊した印象を与えているが、実際に見えない部分を支える「土台の岩盤」は依然頑丈である。むしろ、「屋根の一部」が欠けて部分的雨漏りが始まっていることの方が問題である。
「屋根」を含めてMAGAと解して、「壁面」に過ぎないインフルエンサーMAGAをMAGA全体を代弁する存在と見ると、トランプハウスの強度測定を見誤りかねない。ベネズエラどころかイラン戦争以降も、土台は意外にしつこい「強さ」がある。他方で、土台だけを見ていると、屋根が欠けつつあるトランプハウスの「脆さ」が見えない。「トランプハウスの崩壊」も「無敵の岩盤」も、いずれも極端であり、この「強さ」と「脆さ」の双方を知るためには、MAGAをめぐる立体的可視化が欠かせない。
そこで本稿以降の「共和党編」では、中西部での調査に加え、西海岸、ワシントン、ニューヨークの現地調査(3月)を踏まえ、「トランプ支持者連合」「MAGAとは何か」の中間総括を行う。
「インフルエンサーMAGA」と「草の根MAGA」の温度差
最初に筆者が調査の過程で出会ったタイプの異なるMAGA支持者2名との対話を紹介する。
MAGAの声①(中小企業オーナー)
Q渡辺:どんな理由でトランプを支持しているのか?今も支持しているのか?
A:政治に関心がなかった。親を早くに亡くして兄弟を養うために働いてきた。学費を助けてくれる人がいて大学でファイナンスを勉強した。働かないで福祉に頼る人が嫌いで、そういう人に自分の税金を使われたくない。トランプが出てきて初めて政治に関心を持った。もともと共和党寄りではあったけど、選挙運動に参加したのはトランプから。2015年、デモインでトランプと話して感動した。今もその気持ちは変わらない。彼は政治を変えてくれた。
Q渡辺:どうして共和党の他の候補を支持しないのか?
A:トランプはイラク戦争とアフガニスタン戦争を批判した。ブッシュ家は「カバール」だ。チェイニーもネオコンもみんな「カバール」だ2。ボルトンは裏切り者で戦争犯罪者だ。トランプは戦争を嫌う。戦争をしない。そこが大切だ。アフガニスタン戦争でアメリカは疲れ果てた。もうこれ以上、終わりのない戦争で死者が出るのはごめんだ。だからトランプを支持している。
Q渡辺:トランプは保守なのか?DOGEについてはどう思うか?関税については?
A:共和党の未来とか、保守主義とかは自分にはよく意味がわからない。とにかく減税第一。政府の無駄を省いてくれればいい。DOGEは評価している。イーロン・マスクは、経営者としてずば抜けて頭がいいし、自分はああいう無から何かを作る実行力のある人は好き。トランプと相互に必要とし合っていた。関税も評価する。関税を税だという人がいるが、自分はそうは思わない。中国との貿易に相互の不均衡があった。それを是正するのはいいこと。
Q渡辺:安全保障についてはどう思うか?
A:軍事力による強いアメリカは必要。いざとなったら敵を叩き潰せる世界一の軍事力は必要。イスラエル支持も重要。イスラエルはアメリカの真の仲間。ハマスはテロ集団。ウクライナは自分で防衛すべき。アメリカが助ける必要はなく、欧州のNATOの仕事。バイデンが資金を湯水のように注いだのにウクライナは戦争に勝てる気配がない。中国はイスラエルとは違う。中国とアメリカは同盟関係ではないし、中国は信頼できる相手ではないがビジネスをしていく必要がある。中国はライバル・敵対国(アドヴァーサリー)。
Q渡辺:台湾はどうか?
A:よくわからない。大切な同盟国だと思うが、防衛するなら自分でやるべき。ウクライナのような陸上ではなく海と空の問題になるので、その点ウクライナとも違う。
総じてこの類型のトランプ支持者は「労働者のため」とか「製造業のため」とは声高に言わず、むしろ「アメリカの国益優先」という姿勢が強固である。国際金融資本への嫌悪とわかりやすいアメリカの国益優先を明確に、言ったことをやる有言実行を評価する。「外国の利益に手を貸していない」印象さえあれば、個々の政策が短期的に痛みを生んでも一貫性がまるでなくても許される空気がある。
MAGAの声②(コミュニティカレッジ教員)
Q渡辺:第二次トランプ政権をどう評価するか?
A:100点満点。不満はない。驚いたことがあるとすれば、約束を果たすスピード。彼は約束を守るから好き。個別には気に入らないこともある。例えば、イーロン(マスク)という人物は好きではない。でも、彼を利用してDOGEをやらせたことや、目標のための閣僚の指名もパーフェクト。
Q渡辺:関税はどう思うか?
A:トランプが保護主義者だというのは嘘。最終ゴールは自由貿易の自由貿易主義者。今までアメリカはアンフェアな扱いを受けてきたので、それを是正してこそ自由貿易の価値が輝く。その環境づくりの道具に関税を利用している。関税は交渉と不公正是正の短期的なツールで、だからこそナバロは素晴らしい。
Q渡辺:エプスタインについてはどう思う?
ファイルには何かあるのかもしれないが優先問題ではない。優先は不法移民であり関税。それをちゃんとやってくれているのであれば問題ない。
Q渡辺:MAGAは分裂しているのか?
A:タッカー・カールソンは狂った。反ユダヤ的ですらある。彼が心からあの言説を信じているのか、それともFOX Newsと契約を切られYouTuberとして食べていく商売のための過激な発言なのか。自分は後者だと見ている。
MAGA派とは何か?トランプ支持者の感情
そもそもMAGAとは何なのか。これほど定義が不明確なまま一人歩きしている言葉もない。重要なのはトランプの性質と支持者の性質は別であることだ。トランプ解釈、トランプ政権に近い頭脳の解釈、MAGA解釈の3つが混同されがちだが、「トランプ主義」的なものをMAGAと称されるトランプ支持者に当てはめても首尾よくいかない。
1:トランプを投票で選ぶこととトランプを情熱的に支持することは違う。
「トランプ支持連合」は、主流派、キリスト教保守、さらにリバタリアンまで合流する共和党各派にまたがる大連合だが、「保守主義」に基づく理念的な統合体ではない。たしかに、トランプやヴァンスは関税を理論的に支えたオーレン・キャスらの頭脳から知的インプットも受けているし、ヘリテージ財団は「プロジェクト2025」で2024年の勝利に貢献した。トランプ政権理解には、キャスやヘリテージ財団の政策提言、ポストリベラリズムのパトリック・デニーンの思想を理解することは欠かせない。特にヴァンスはポストリベラルの影響を受けている3。共和党に限らず、民主党にも公共善(共通善)を謳うカトリック系政治団体はブッシュ息子政権末期から生まれていた4。
他方、MAGAを自認する一般の新興トランプ支持者が、日常的にこうした思想家やシンクタンクの発言に必ずしも耳を傾けているというわけでもない。ネオコンやリバタリアン、保守主義の思想、のような理念的な解剖は、草の根のMAGAの行動の予測には適さない問題がある。何しろ一貫性がない。孤立主義だと思われていたが、ベネズエラへの介入には賛同する。西半球のドンロー主義だからかと思えば、イラン戦争にも賛同する。「新しい戦争は起こさない」約束が反故にされたと思わず、「戦争ではなく作戦である」という政権の説明を鵜呑みにする。「トランプ政権」の輪郭を周辺の知識人から探ることは可能でも、「トランプ支持者」の態度への理解にはそれだけでは十分ではない。トランプの逸脱的行動をその都度「苦しい理屈」をこしらえては受け入れるサイクルが、「トランプ2.0」ではより強まっていることに留意が必要だ。
2:知的「理念」ではなく剥き出しの「感情」にMAGAの強さがある。
今や最もシンプルなMAGAの定義は「トランプ個人を信じてついて行く人たち」に近い。イスラエルに媚びようが反旗を翻そうが、労働者の利益にならない関税をやろうがやるまいが、トランプが反エスタブリッシュメントの姿勢をポーズとして取り続ける限りは、政策上の矛盾は全部棚上げしてついて行く。つまり、コアなトランプ支持者の支持の理由は、「政策への支持」ではなく、「政治態度への支持」である。そのため、岩盤のトランプ支持は、「トランプ連合分裂の3大要素」と筆者が指摘してきた「イスラエル」「関税」「エプスタイン」にもびくともしない。
凄惨なガザ攻撃に次いで、2025年6月に起きた核施設への空爆を含むイランとの軍事衝突以降、保守系のYouTuberやインフルエンサーによるトランプ政権のイスラエル支持や介入主義への批判が喧しくなった5。関税がトランプ支持の要の中西部の農家を震え上がらせ、エプスタイン文書の公開を求める声がリバタリアンから直撃していた。ポッドキャストを視聴する限りでは、まるで明日にもMAGAがトランプを見捨てるかのような空気に感じられた。だが、この1年筆者が現場で対話を重ねてきたMAGA派のトランプ支持の様子はさほど変わっていないのも事実だ。草の根のMAGAの間では「反カールソン」の言説も増している。「トランプ連合」の一角に軋みが生じているとしても、MAGA崩壊という印象には程遠い。
決定的にそれを印象付けたのは、トランプのイスラエル支持を明確に批判した現職のケンタッキー州選出連邦下院議員であるトーマス・マッシーが予備選でトランプの支持を受けた新人候補に敗北したことだ6。トランプが選挙資金を湯水のように注いだからだという見方もあるが、資金だけで選挙の勝利が買えるなら、かつて1990年代に大統領選に挑戦したスティーブ・フォーブスやロス・ペローなど富豪候補が既に勝利している。選挙区の小さい下院の予備選では空中戦の影響も限定的で、動員できる党員数にも限りがある。「反トランプは今進む道ではない」という共和党有権者の判断と見るべきだろう。インディアナ、ルイジアナ、テキサスでもトランプが支援する候補者が共和党の対立候補を破った。
3:トランプの後はない? 政治の選択肢として最後に残されたカード。
なぜ草の根MAGAは岩盤なのか。彼らにとってトランプは政治の選択肢として最後に残されたカードの感が強く、多くの均等なチョイスの中の一つではないからだ。トランプを諦めることは「政治を諦めること」に近い。これが政治新参者の中小企業オーナーや白人労働者の有権者の心境である(彼らはキリスト教保守とも重複している)。政治に関心がなかった自分が初めて政治に期待した、あるいは共和党エスタブリッシュメントへの幻滅、ブッシュ家に裏切られた感情の空虚を埋めてくれたトランプにとことんついていく。そこには政策的な合理性はなく、トランプでダメなら政治なんか意味がないという「シニシズムと熱狂」が薄皮一枚で表裏一体化している感情が透ける7。
トランプ4本柱
MAGAをわかりやすく要約するのがニクソン政権から共和党を取材し続けるワシントン有数のベテラン記者で、保守系メディア「News Max」のジョン・ギジだ。筆者とはアイオワ州党員集会の「現場の友」である。「ヒューマン・イベント」など超保守系メディアばかり渡り歩いたが、穏健派で決してMAGAではない。共和党の生き字引的知識と俯瞰の眼差しには一聴の価値がある。ギジは以下の4つを強調する。
・永続的な戦争(+他国の政権運営介入)をしない(軍事作戦をしないとは言っていない)
・厳しい貿易政策(米国労働者第一)
・ポリティカル・コレクトネスの是正(トランスジェンダー問題他)
・国境管理(移民管理)
これら4つが原理的MAGAがトランプに期待することであり、それ以外には無関心であると唱える。原理的MAGAの定義とは「トランプを支持する人」。支持しなくなったらそれはMAGAではないから、閣僚や議員も無慈悲に首を切る。ノーム元国土安全保障省長官はトランプが好まないコスト問題ばかり発言して嫌われた。他方、ルビオ国務長官は順調にトランプに好かれている。嫌われていれば、こんなに長く安全保障担当補佐官と兼任させない。実力派の元上院議員で2016年予備選を争った巨大なライバルを屈服させる方が、ベストセラー作家ではあっても1期目の新人議員にすぎなかったヴァンスを従えるよりもトランプの権力欲は満たされる。ルビオは本来の政治思想はネオコンに近い反共介入主義だが、本心を押し殺して従うのがトランプをまた喜ばせる。無条件で従いさえすれば誰もがMAGAであり、MAGA有権者のお墨付きも得る。全面的な「受け入れ」が基準なのがよくわかる。マイク・ペンス元副大統領、マイク・ポンペオ元国務長官などトランプと何かで衝突して疎外された人物はたとえ元トランプ政権幹部でもMAGAの信頼を失う。当該人物の政治理念ではなく、トランプが現在進行形で認めているかが基準だ。
古参共和党記者のギジからみて、ソーシャルメディアで絶大なフォロワー数を誇り、YouTubeで親しまれる「インフルエンサーMAGA」の離反は驚くには当たらないという。「カールソンは金に目が眩んで動画の再生数稼ぎに走っているわけではない。実際は逆で、生涯安泰な資産をすでに蓄積したので、今こそ言論の自由を謳歌している」と述べ、昨今の「非介入、反イスラエル」の言説こそがカールソンの本音だと見る8。ただ、カールソンの「イスラエルにアメリカ外交が乗っ取られている論」は、30年前のパット・ブキャナンがオリジナルで、「さほど過激でもないし目新しくもない」と述べる。これは彼だけでなく米政治を数十年見ている超党派のワシントン通の共通見解である。
大組織との契約から逃れて発言が自由になることで反トランプに転向した例には、カールソンと同じ元FOX Newsのメーガン・ケリーもいるし、共和党政治の玄人筋にとっては今年1月に辞職したマージョリー・テイラー・グリーン元下院議員も熱烈なトランプ支持から転向した「インフルエンサーMAGA」の扱いである。ただ、彼女一人が連邦下院から離脱しても草の根MAGAの動向の大勢には、リベラルメディアが大報道したほどの影響を与えられていない。「黒人女性の保守」で台頭したキャンディス・オーウェンズの反トランプも騒がれたが、元々トランプ批判から支持に変節した「日和見MAGA」であるだけに冷ややかな目線もある。ユダヤ系宗教保守のベン・シャピロはイラン戦争を評価し、リバタリアンのジョー・ローガンはイスラエル、エプスタインなどをめぐるトランプへの疑問をヴァンス副大統領に長時間反論させるチャンスを与えるなど「インフルエンサーMAGA」にもトランプ政権を扱う上での「芸風」に温度差がある。
原理的MAGAと「非MAGA共和党」との亀裂
「非MAGA」の共和党有権者は、多くの共和党政治家の選択の中でトランプに合理的に利益を見出して「支持連合」に参加してきた。キリスト教保守、リバタリアン、主流派である。共和党編シリーズの後程の回で引用するように、福音派、カトリック、ユダヤ教徒を含むキリスト教保守はMAGA派とイコールではなく、トランプ嫌いの福音派も少なくない。彼らは人工妊娠中絶にせよ、反ワクチンにせよ、「争点」をめぐる政策でトランプを支持している人たちで、支配層への「反骨」という「政治姿勢」に感情を重ね合わせているわけではない。
これが可視化されているのがイラン情勢が悪化して以降の5月末に実施されたマーケット大学ロースクールの最新の世論調査である9。「トランプは、インディアナ、ルイジアナ、ケンタッキー、テキサスにおいて、一部の問題で自身と意見が異なる共和党現職議員数名に反対姿勢を示している。トランプは、これらの共和党現職の対立候補を支持している。もしあなたがこれらの共和党予備選のいずれかで投票するとしたら、トランプが支持する候補者に投票するか、それともトランプが反対している現職候補者に投票するか?」という問いである。
共和党支持者の71%が共和党予備選でトランプが支持する「刺客」候補者に投票すると回答し、トランプが好まない現職候補者を選ぶとしたのは20%だった。「MAGA運動に好意的な共和党支持者」の間では87%がトランプが好む候補者に投票すると回答し、トランプが反対する候補に投票するとしたのは僅か9%だった。同調査によればトランプ支持率も原理的MAGA派の間では依然高く、93%が「大統領としての職務遂行」を支持している。
他方、「MAGA運動に好意的ではない共和党支持者」の間では、トランプが支持する候補に投票すると答えたのは30%に留まり、48%はトランプが反対する共和党候補に投票すると答えている。興味深いことに22%は共和党予備選で棄権するとしている。必ずしもMAGAに好意的ではない共和党支持者のトランプ支持率は36%と低い。
つまり、こういうことであろう。「MAGA支持は相変わらず堅固である」が、他方で「MAGAではない共和党支持者のトランプ支持に黄色信号が出ている」。その結果として、「トランプ支持連合」が揺らぐ可能性はある。そこが民主党には攻撃の狙い目になる。ただ、これを「MAGA分裂」と単純に表現すると実態から遠ざかる。
そもそも原理的MAGAではない「連合」への選択的参加の共和党支持者はトランプを渋々選んだのであり、心から好んで投票した人は少ない。トランプに投票した人(するしかない人)イコールMAGAではない。選挙は相対的なものであり、「ヒラリーあるいはハリス政権を誕生させないため」、「アメリカをトランスジェンダー優先のウォークネス社会にしないため」という恐怖感から「害悪の少ない方」としてトランプを選んでいる。本選挙の選択肢が民主党側に出揃っている選挙直前の調査と、平時の単独の支持率の調査では「支持」の出方が異なる。「ハリスとトランプのどちらを支持しますか」という聞き方をしたらトランプ支持率は上がる。その意味で、具体的な対抗馬が存在する選挙時の相対評価の有権者カテゴリー別支持率と、政権平時の有権者カテゴリー別支持率を同列に比べることでトランプ離反の印象操作をするCNNの報道はミスリーディングである10。メディアが意図的にこういうことをすると、かえって支持の変動のリアリティが掴めなくなり、民主党のためにもならない。条件が違う状況を比較するよりも、消極的選択を含む「投票者」と「熱烈な信奉者」の差分、トランプに投票した理由の差分に基づく分類で、時系列的な変動を見る方が意義深いだろう。
「トランプ連合」内にも温度差がある。「共和党編④」以降で扱うリバタリアンは2024年選挙でトランプを熱心に応援したものの、早くも「トランプ連合」を離脱しつつある。彼らはイスラエル以外でも「非介入」を貫くのでロシアや中国に対する介入を例外とする主流派と合わない。さらに、ウクライナに対する脅威認識と、台湾に対する脅威認識では、政権と一般市民の感覚の間に激しい断絶がある。ある穏健派共和党支持者60代男性(中西部在住中間層)は党内の温度を以下のように嘆く。
「共和党員の多くはウクライナ支持だが、米軍の地上部隊派遣には反対で際限ない財政支援増額も懸念する。トランプが模索するウクライナが領土の一部を割譲する解決策はプーチンの侵略を実質的に容認し、プーチンが後日ウクライナ全土、そして他国の併合も試みることを許容しかねない。アメリカや他国が支援を停止することはウクライナの敗北になる。台湾については、中国の攻撃的行動にもかかわらず大半のアメリカ人は状況をあまり理解していない。半導体チップの必要性は知っていても、ロシアのウクライナへの行動と同類の脅威とは認識していない。政府関係者が中国を最大の敵と指摘しても、ロシアほど現実味を感じていない問題がある。冷戦時代の焦点がソ連だった名残でもあるが、中国の動きへの反応は概してより間接的だ」
共和党主流派がトランプ政権から離反したとしても、民主党支持に寝返るわけではない。各選挙の事情にも左右される。左傾化著しい選挙区では「民主党への寝返り」は望み薄だが、ヴァージニア州知事のように女性中道派が台頭する州もある。これほどの逆説はないが、共和党穏健派のトランプ支持を下げる効果的な方法の一つは、民主党内で左派勢力が反トランプの狼煙を上げ続けることではなく、民主党内で一定程度中道派が勢力を回復させることである。共和党の非MAGA有権者の予備選での棄権欲求の高さは、共和党の中間選挙の投票率に黄色信号を点滅させている。非MAGAの「トランプ連合」離反のモーメンタムを民主党が2028年に向けて活かし切るには、「棄権するぐらいなら民主党に1回入れてもいい」と共和党の非MAGAに思わせられる「受け皿」の中道候補が民主党に増えることが条件である。しかし、本シリーズ「民主党編」で見たように、左派が勢いを増す現在の民主党でこれは夢物語となりつつある。
次号以降、MAGAの起源を詳細に検討する。まず時計の針を1990年代に戻し、ロス・ペローが結党した改革党にトランプ政権の起源を探ると共に、パット・ブキャナン、ロス・ペロー、ドナルド・トランプの3者にどのような共通点と相違点があったのかを論じる。「トランプハウス」の強度測定に欠かせない検証ポイントだからだ。トランプ「4本柱」はブキャナンと類似性が強く、ペローとも関連があるが、彼らの大統領への挑戦は挫折した。なぜトランプだけが大統領になれたのか。3者はテレビ時代を制した「空中戦の雄」の共通性があったが、トランプだけ「草の根の支援部隊」を手に入れた。その岩盤MAGAは、オバマ政権初期に吹き荒れたある政治運動がルーツとなっている。
(了)
- 「トランプ支持者」概念図であり、トランプ政権の政策に影響を与えている思想概念図とは別であることには留意。(本文に戻る)
- 反エスタブリッシュメントのトランプ支持者の間では「Deep State の更に裏にいるとされるエリート集団/秘密結社」を指し示す用語としてしばしば用いられる。(本文に戻る)
- デニーンとポストリベラルについての論考は多いが日本語で読める簡潔なものとして以下。パトリック・デニーン、宇野重規「「ポストリベラル」の社会モデルは日本だ ヴァンス米副大統領の「思想的メンター」が説くリベラリズムの終焉」『中央公論』2026年7月10日、<https://chuokoron.jp/culture/128834.html>(2026年8月4日参照)、会田弘継「米「改革保守運動」を体現するバンス氏 産業政策で中国と対峙主張」『週刊エコノミスト』2024年8月30日、<https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20240910/se1/00m/020/051000c>(2026年8月4日参照)。(本文に戻る)
- 2005年に設立されたCatholics in Alliance for the Common Goodについては渡辺将人『現代アメリカ選挙の集票課程』(日本評論社、2008年)に収録されている聞き取りを参照。(本文に戻る)
- Jonathan Allen, Allan Smith and Peter Nicholas, “MAGA influencers push back on Trump on Iran: 'It's time to say no',” NBC News, April 8, 2026, <https://www.nbcnews.com/politics/donald-trump/trump-maga-allies-push-back-iran-war-time-say-no-rcna267061>, accessed on July 7, 2026.(本文に戻る)
- Daniel McCarthy, “Thomas Massie’s Dead-End Libertarianism,” Compact, May 20, 2026, <https://www.compactmag.com/article/thomas-massies-dead-end-libertarianism/>, accessed on July 7, 2026.(本文に戻る)
- Joe Sommerlad, “MAGA voters overwhelmingly prefer Trump to Tucker Carlson, new poll finds,” Independent, March 19, 2026, <https://www.yahoo.com/news/articles/maga-voters-overwhelmingly-prefer-trump-134421093.html>, accessed on July 7, 2026.(本文に戻る)
- Isabella Murray, “Trump blasts MAGA influencers who have split with him over Iran,” ABC News, April 10, 2026, <https://abc7.com/post/trump-blasts-maga-influencers-have-split-iran/18866172/>, accessed on July 7, 2026.(本文に戻る)
- Lauren Sforza, “New poll shows how MAGA really feels about Trump-endorsed candidates,” NJ.com, June 7, 2026, <https://www.nj.com/politics/2026/06/new-poll-shows-how-maga-really-feels-about-trump-endorsed-candidates.html>, accessed on July 7, 2026; “Marquette Law School Supreme Court Poll May 20 - 26, 2026,” <https://law.marquette.edu/assets/community/poll/MLSPSC32/MLSPSC32Toplines_NationalIssues.html#gop-primary-choice>, accessed on July 7, 2026; Kevin Conway, “New Marquette Law School national survey finds Trump with declining approval but retaining strong influence on GOP primary voters”, MarquetteToday, June 3, 2026, <https://today.marquette.edu/2026/06/new-marquette-law-school-national-survey-finds-trump-with-declining-approval-but-retaining-strong-influence-on-gop-primary-voters/>, accessed on August 5, 2026.(本文に戻る)
- CNN, “Top 10 Trump voter groups now turning on him,” April 23, 2026, <https://www.youtube.com/watch?v=LeHTI660IuE>, accessed on August 3, 2026.ジェネレーションX、男性、郊外在住、カトリック信徒、45歳未満男性、有色人種男性、年収5万ドル未満世帯、大卒白人男性、既婚者の各有権者集団のトランプ支持低下を2024年と比較しているが、平時の支持率は「トランプ政権への賛否」であり、選挙時の「どちらの候補に入れるか」の判断とは異なる。後者は相手との比較で決まる賛否で、2024年時点では現職はバイデンで、トランプ政権評価とも無関係だった。(本文に戻る)