SPF笹川平和財団
SPF NOW ENGLISH

日米関係インサイト

  • 米国議会情報
  • 米国政策コミュニティ
  • VIDEOS
日米グループのX(旧Twitter)はこちら
  • ホーム
  • SPFアメリカ現状モニター
  • 第2次トランプ政権の外交・防衛(6) ―北京米中首脳会談後の日米中関係(前編)―
論考シリーズ | No.211 | 2026.8.7
アメリカ現状モニター

第2次トランプ政権の外交・防衛(6)
―北京米中首脳会談後の日米中関係(前編)―

森 聡
慶應義塾大学法学部教授

この記事をシェアする

本稿は、シリーズ(4)「2026年5月の北京米中首脳会談」、シリーズ(5)「北京米中首脳会談と台湾問題」に続く3部作の第3部です。

筆者は中国外交を専門としていないが、主要国間関係の動向を観察していると、中国にとって有利な国際環境が徐々に形成されてきているように見える。米欧関係の劣化、米中関係の安定化、中露関係の持続化といった最近の展開は、おそらく習近平国家主席の視点からは、キープレイヤーたる欧州、アメリカ、ロシアが中国にとって好ましい方向に動いていると見えるのではないかと想像する。欧中関係は、経済分野では緊張含みだが、英仏独の首脳の訪中は、たとえ実質的な関係が大きく改善しなかったとしても、訪中したこと自体が中国側にとっては外交上好ましい展開と映ったとしても不思議ではない1。

上記の情勢がいつまで続くか定かではない。しかし、もし仮に中国がアメリカや欧州主要国との関係を大きく損なうことなく近隣の台湾や日本、フィリピンに威圧できると判断するとすれば、それは中国にある種の「遠交近攻」を可能ならしめることを意味する。このことは中国が台湾や日本、フィリピンに対する威圧行動を持続させやすいと判断し、また第一列島線地域に対して支配力を漸次強化・拡大する好機が到来したと判断する可能性を示唆しており、インド太平洋におけるアメリカの同盟国・パートナーにとって好ましい展開とはいえない。事実、中国は例えば日本周辺での軍事活動を活発化させ、日本に対する特定レアアースやデュアルユース製品の輸出規制を強化しているほか、台湾東部海域における法執行活動を強化し、南シナ海ではフィリピンに対する威圧行動を続けている。中国が巧妙なのは、相手国の行動を理由にして自らの活動を強化し自国の支配を拡大する新たな常態を作り出そうとするところであろう。中国が他国の行動を口実に南シナ海での現状変更行動を活発化させた当時、reactive assertiveness(他国に反応しているかのようにして威圧する)などと形容されたが、そうした行動は今日に至るまで続いている。

大国間の関係が、小競り合いはありながらも、一定の範囲内で安定することによって、現状変更を目指す大国が周辺に対する強制・威圧行動やグレーゾーン攻勢を活発化させ不安定を招くというダイナミクスは、核戦略の分野でいわれるのとは別種の「安定・不安定パラドックス」と言えるかもしれない。これは台湾やフィリピンそして日本が、短中期的に厳しい対中関係に直面することを意味する。中国としては姿勢の軟化にあまり関心を持たず、漸進的な現状変更行動の拡大・強化の好機と捉えて攻勢をかけ続け、もし威圧相手が譲歩をしてきたとしても、それを当然の対応とみなし、自らは譲歩しないという対応・姿勢をとる可能性もある(その意味で、本年11月のAPEC首脳会談での関係改善の契機が生まれる可能性を楽観視はできない)。

こうした地政学的な環境が当面続くとすれば、それは東アジアの安全保障環境が新たな局面に入ることを意味する。本稿は上記のような見立てに基づいて、日米中関係がそこからいかなる影響を受けるのか、日本へのインプリケーションとは何かを検討してみたい。以下、まず中国からみた日米関係とアメリカからみた日中関係について述べ、次に日本からみた米中関係で何が懸念されているのかを整理する。その上でアメリカの対中アプローチには3つの側面(①防衛分野、②重鉱物資源・先端技術分野、③経済・政治分野)があることを示すとともに、現時点でアメリカ撤退論を過剰に心配すべきではないとの見方を示す。そして最後に、高市早苗政権の対米外交の成果とアメリカとの同盟関係の戦略的意義を論じて結ぶ。

中国からみた日米関係

冒頭に述べたように、いま習氏は中国に有利な外交環境を形成して自信を深め、台湾問題に関してトランプ氏を懐柔し、日本を批判し威圧するとともに、日米間に楔を打とうとする外交を展開しているように見える。北京での米中首脳会談で話題が日本に及ぶと、習氏が、日本は「再軍事化」していると激高して声を荒げたと、2026年5月25日付の『フィナンシャルタイムズ』紙が報じた2。首脳会談の内容を知る7人の関係者への取材に基づくこの記事によれば、習氏が日本の防衛費増額と高市首相を批判したとされる。これに対してトランプ氏は、日本政府は北朝鮮からの脅威の高まりを受けて安全保障体制を強化せざるを得ないと述べたほか、自身は日本の人々に対して深い敬愛の念を抱いており、高市首相とは緊密な個人的関係を築いていると応じたという。同記事は、中国を念頭に置いた日本の安全保障上の取り組みについてトランプ氏が言及したかどうかは定かではないとしている。また、訪中の際にアメリカ側代表団は、中国側のカウンターパートに対して、日本には大規模な米軍のプレゼンスがあることも念押ししたとのことである。

この記事が出た直後に中国外交部の報道官は、「中米首脳会談についてはすでに発表済み」とした上で、「報道は中国が把握している内容とは異なる」として、FT記事の内容を否定した3。またその後、トランプ政権は中国政府に対し、中国政府が日本に対してレアアースの輸出を規制していることを受け、日本へのレアアースの供給再開を働きかけているとも伝えられた4。

ここで伝えられている内容の精確さは定かではないが、中国が日米の間に楔を打とうと試みていたとしても不思議ではない。近頃中国は「新型の軍国主義」といったスローガンを使って日本の安全保障政策の正統性を貶めようとしていることからも、中国側がアメリカ側に対して、様々なレベルで日本の政策と政権を批判した可能性がある。シリーズ(5)で論じたように、おそらく習氏はトランプ氏に対して、中国とアメリカが現状維持勢力で、台湾はアメリカを後ろ盾に独立を目指した戦争を引き起こそうとしているというナラティブで働きかけを行うとともに、日本もまた「再軍事化」によって平和を乱そうとしていると説明した可能性がある。

中国にとって、防衛分野で日米が連携し台湾有事に備える体制は、武力による台湾の統一にとって最大の障害であるのは言を俟たない。高市首相の国会答弁に反発したのは周知の事実であるが、例えば米軍のミサイル発射システム・タイフォンの演習時配備といった個別の取り組みにも反発している。隙あらば日米同盟を停滞させたり攪乱したいという思惑に駆られているとすれば、それはむしろ自然なことであろう。これは多面的な日米防衛協力の進展を通じて日米の抑止体制が効果を発揮していることを示唆している。また、米中首脳会談におけるトランプ氏の日本に関する発言によって、楔を打ち込む戦略が奏功しないことも伝わったと思われる(だからといって諦めるということもないであろう)。中国は、日米両国を首脳外交で引き裂くのは容易ではないことを再確認したと思われるが、これは日本への威圧が弱まることを意味するわけではなく、むしろ日本を批判しつつ威圧を強化する可能性を示唆しているとも考えられる。

以上を踏まえれば中国は、アメリカに日米関係よりも米中関係を重んじさせ、日本の防衛力の強化、すなわち地域の平和と安定のためのバランシングの取り組みの正統性を国際的に貶めしつつ、台湾有事に関する日本の方針の変更を強要しようとする外交を追求している。こうした中国外交の日本へのインプリケーションとは何か。中国が今後日本に対する威圧行動を強化・拡大する姿勢を強めるとすれば、そうした威圧行動をとってもコストがかからないと思えば、それをやめる動機も持たないであろうし、それゆえに日中関係が安定することもない。したがって、外交上の抗議を行うのはもちろん、中国の威圧行動に対応する形で、防衛分野を含む幅広い分野で、日本自身の取り組みと、アメリカや同志国・パートナーとの協力を新たな次元へと高めていく取り組みを推進すべきであろう。また、日米を離間させることはできず、トランプ氏がいかに日米同盟を重視しているかを示すような場面や機会を作り、その一環で日米首脳外交も活発にするということである。広く伝えられている通り、米中首脳会談が開かれる回数は今年4度に上る。日米は対面でなくとも、ビデオ電話首脳会談もこまめに行って、特に首相と大統領との間の意思疎通を良くしていくべきである。その際には、中国の各種の威圧行動や現状変更行動を、客観的な事実として大統領に分かりやすく説明していくべきであろう。閣僚レベルではすでに緊密な協議が行われているが、首脳レベルと閣僚レベルの各種の外交実績を、SNSを通じた個別の発信に加えて、HP等でもそれらを集約・集成して、日米同盟の「分厚さ」が一覧できるようにすべきであろう。これが戦略的コミュニケーションのツールとなるのは言を俟たない。

アメリカからみた日中関係

報道されていること以外に、日本をめぐって米中首脳の間で何が語られたかは定かではないが、トランプ氏が習氏の対日批判を黙認せず、むしろ自らの親日姿勢を面と向かって言明したことは、中国による対米首脳外交の限界を露呈した。重要なのは、この中国外交の限界が自明のものではなく、高市首相がトランプ氏との関係を良好に保てているからこそ成立した防波堤だということであろう。目立ちにくい首脳外交の成果だが、極めて重要な成果であることはもっと強調されてよい。

トランプ氏が、日本による安全保障上の取り組みは北朝鮮を念頭に置いたものだと説明したと前述のWSJの記事では伝えられているが、それは同大統領が日中間の緊張が高まるのは好ましくないと考えているからであろう。というのも、こうした兆候は、昨年からすでに表れていた。高市首相による2025年11月7日の衆院予算委員会での台湾有事をめぐる国会答弁を中国が批判した際に、アメリカ側からは駐日大使や国務省、連邦議会から日本支持の声明ないし談話が出たものの、トランプ氏の口から直接支持の言葉がなかったことについて、ワシントンでも批判の声が上がった。

実際には、同年12月11日にレヴィット大統領報道官が記者会見で、大統領は、「アメリカが日本との非常に強固な同盟関係を維持しつつ、中国とも良好な実務関係を築ける立場にいるべきだと考えています」と述べている5。たしかに日本からすれば、大統領が日本に明白に肩入れするのが理想的だったかもしれないが、トランプ氏は中国と日本のそれぞれから経済的実利を引き出すことを目指しているので、上記のような談話がホワイトハウスから出るのはむしろ自然である。トランプ氏としては、日本と中国それぞれとの二国間関係をうまく保ち、内容は大きく異なるものの、両国から経済的なディールを引き出せる状況が好ましいはずである。別の言い方をすれば、トランプ氏は、米中関係と日米関係を交差させずに、いずれか一方に決定的に肩入れしない状況を保った方が二国間交渉はやりやすいと考えている可能性がある。このことはトランプ氏が日中を等値していることを意味しないことに留意する必要がある。筆者は、トランプ氏には親日バイアスがあり、対中競争心・警戒心もあるとみているが(この点はシリーズ(5)で論じた台湾と決定的に異なる)、このことと、交渉戦術上の考慮に基づいて日中いずれか一方に決定的に肩入れしないということとは、トランプ氏の中で矛盾していないはずだからである。

こうした状況は、トランプ外交下における日米中関係の一種の現実的な均衡点とまでいわずとも、トランプ氏にとっては最適な状況とみることもできる。ではこうした動向が日本にもたらすインプリケーションとは何か。第一に、トランプ氏がいくら親日的で、中国への競争心や警戒心を抱いているとしても、日本はトランプ氏との関係をこじらせない方が得策だという事である。というのも、もし万が一日本がトランプ氏との関係をこじらせれば、トランプ氏が中国寄りの姿勢をとり、対日姿勢が圧力本位へと転じリスクを警戒しなければならなくなるからである。(これは裏を返せば、中国側がトランプ氏との関係をこじらせれば、トランプ氏は中国に対して圧力をかける姿勢へと転じ、日本に対米関係をさらに強化する機会が到来することを意味する。そうした「機会の窓」が開いた時に、いかにして関係強化に動くか、今から検討し準備しておくべきであろう。)

第二に、アメリカが日中関係の緊張を望まない点を理解した上で、日本側からは、トランプ氏や第三国からみて、日本が中国との緊張を意図的に高めているわけではないことを明確に示していくことが求められる。したがって、「新型の軍国主義」や「再軍事化」というプロパガンダに対しては、明快なデータを示して反駁するとともに、中国の軍拡と拡張主義的行動に対して日米と周辺国が対応しているのであって、その逆ではないことを明確にしつつ、日本としてはいつでも中国と対話する用意がある姿勢も示していく必要がある。冒頭で述べた通り、日中関係に外交上のブレイクスルーは期待できないが、日本としては国策変更を前提としない関係の安定化を望む姿勢は示し続けていくべきであろう。これはすでに日本の政府要路によって実践されているところであり、今後も続けられていくべきである。

日本からみた米中関係

「米中関係が日中関係よりもやや緊張している状況が、日本にとって最も心地よい状況である」といったことを、これまで何度か聞いたことがある。中国やロシアと安全保障問題を抱えるアジアや欧州の地域諸国、とりわけアメリカの同盟国やパートナーにとって、アメリカが地域安全保障の利益を守るために中国やロシアと対峙しているときには、それ自体が一種の安心供与になる。一方、米中・米ロが協調する姿勢が前面に出てくると、「ヤルタ2.0」、「グランドバーゲン」、「梯子外し」などといった言葉が躍る。それはアメリカが同盟国・パートナーの頭越しに地域安全保障上の利益について中国やロシアと取引ないし手打ちをすることが憂慮されるからである。

筆者は、いわゆる第一列島線に関する限り、この種の「見捨てられる」という疑念や懸念は今のところ心配する必要はないとみている。他方で、こうした疑念や懸念は、健全な警戒心の表れであるので、軽んじられるべきものではない。というのも、東アジア安全保障の文脈で言えば、この種の大国間(米中間)の取引外交を警戒する言説の根底には、アメリカが中国から経済・外交上の利益を獲得するために同盟国・パートナーの地域安全保障上の利益を差し出すのかという政治・外交上の問題が横たわっているからである。シリーズ(5)で論じた通り、トランプ氏による台湾への武器売却の取り扱いは、日本を含む同盟国・パートナーにとって、この問題をトランプ氏がどう考えているかという示唆を得る重要な試金石となっており、架空の心配事ではない。

アメリカの過去の政権でも、たしかに中国重視路線と同盟国重視路線の間におけるせめぎ合いが繰り広げられてきた。ただし、その前提には、同盟国・パートナーが民主主義・法の支配・人権といった価値を共有し、貿易自由化を通じた相互依存の深化がそれぞれの経済発展を促進して、同盟国への米軍の前方展開を通じた戦力投射能力の確保が地域紛争を抑止するという理解があった。同盟国重視路線を基調とし、こうした前提的な理解が損なわれない範囲で中国から得られる利益をどこまで踏み込んで追求するかが問われてきたといえよう。こうしたアプローチが正統とされてきたからこそ、例えばアメリカが中国から気候変動対策への協力を引き出すことを優先して、「新型の大国関係を実践する」などと言ったり、南シナ海での航行の自由作戦の実施を一時見合わせたりすると、同盟国・パートナーには、それが地域安全保障上の利益を軽視するかのような行動と映って懸念と不安が生じたし、ワシントンでも同盟重視派から反発が生じた。

いま新たに生じている懸念は、こうした従来の前提的な理解が揺らいでいるのではないかという疑念に由来しているように思われる。連邦議会やワシントンには強固な対中競争意識があるにしても、トランプ氏が、中国から経済的利益を引き出すことを優先して、そのために同盟国・パートナーの利益が若干毀損されるのもやむを得ないという判断に立って外交を展開しようとするのか。また、戦争省や国務省などが先導して同盟国・パートナーとの防衛・安全保障協力を拡充し対中抑止力の強化を図るにせよ、万が一抑止が破れて危機が発生した際に、大統領が第一列島線の防衛のためにどこまでエスカレーション・リスクと戦争コストを負うのか。さらに、大統領未満のレベルでインド太平洋を優先する意識があるとしても、大統領はインド太平洋ないし第一列島線の安全保障を、様々な対外政策課題の中でどの程度優先度の高いものとして考えているのか。戦域の「序列化」を図る青写真があったはずだが、大統領が個別の問題ごとに場当たり的な判断を下し、実際には戦域の「分節化」が起こっているとすれば、それはインド太平洋にいかなる影響をもたらすのか。

これらの問題をめぐって、日本国内で懸念と不安の声が強まっているのも無理はない。ここ一年半ほどの様々な出来事を受けて、「勢力圏」という言葉が論壇誌などで取り上げられる回数や頻度が増えたのはその証左であろう。アメリカの同盟国・パートナーを重視する路線を支えていた前述の前提的な理解が、トランプ氏によって継承されていない可能性に注目が集まっているのである。トランプ政権は、経済的相互依存の深化よりも貿易不均衡の是正やアメリカの製造業振興と雇用創出を優先し、戦略産業の本国回帰を促す政策を採用している(これは超党派化するかもしれない)。また、万が一抑止が破れて台湾危機が発生したとしても、武力介入した場合の紛争の激化ないし長期化から生じるリスクとコストが非常に高いので、大統領が誰であれ、介入のハードルは高い。台湾危機が発生すれば、究極的には激化ないし長期化するかもしれない大国間戦争のリスクを甘受するほどの戦略的価値を防衛対象たる台湾(ないし第一列島線)に見出すのかということを、アメリカとその同盟国の指導者らは判断しなければならない。アメリカ大統領であれば、それが誰であっても、台湾危機への対処に関する選択肢の幅を広げておきたいであろう。

中国が軍備増強を進めつつ、周辺に対して軍事的威嚇や経済的威圧、情報戦などを通じて支配的な影響力を拡大しようとしている中で、アメリカは同盟国・パートナーの安全保障上の利益よりも中国との取引に基づく建設的な戦略的安定の関係から得られる利益を優先的に追求していくのか。それとも同盟国・パートナーの安全保障上の利益を優先するとともに、信頼性を伴った第一列島線上の防衛ラインの維持を優先的に追求していくのか。これらの問いに対する答えは、かつてと比べ不確実性が増していると言わざるを得ない。

ではトランプ氏は今後、中国との取引から利益を得ることを優先し、その過程で同盟国やパートナーの利益を若干毀損することもやむを得ないといった判断に立った路線にひたすら突き進んでいくのかといえば、以下で論じるように、必ずしもそうとは言えない。

(後編に続く)

  1. 米欧関係の悪化は、ただちに欧州諸国の対中接近に結びつくわけではない。例えば、中国の余剰生産品の問題が依然としてあるほか、EUは中国に関するアウトバウンド投資及びインバウンド投資の規制を強化する措置を検討中で、風力発電や太陽光・クリーンテック分野での中国の不当競争に関する調査も実施中なので、欧中経済関係が軋む可能性がある。しかし、欧州諸国としては、トランプ氏と揉め事が起こるたびに関税で恫喝されるリスクをヘッジしたいであろうし、エネルギー価格の高騰やサービス分野のインフレが進行する中で、関税賦課合戦をやるよりも最低価格コミットメントの合意を目指すなど、中国との非機微分野の経済関係を不要に軋ませたくないと思われる。また、欧州諸国の間でも、積極的に対中通商防衛策を推進しようとする国々もいれば、中国を不当な競争相手と認識しつつも、規制強化や対抗措置の連鎖による経済的悪影響や物価高のさらなる悪化を避けたいとの思惑をもって実利を重視する国々もいる。中国市場へのアクセスを確保したい加盟国と、マクロ経済の歪みを正したいEUとの間でどう折り合いをつけていくかが注目されるが、中国にとっては欧州の非機微経済分野における対中接近の有無にかかわらず、米欧関係が良好な状況よりも悪い状況の方が好ましいはずであり、アメリカと欧州がそれぞれ中国からの経済的実利を求めるような展開がベストシナリオであろうから、そのような方向に運ぼうとするかもしれない。過日、欧州主要国の首脳が訪中したものの、さしたる実利を得たわけではなかったが、今後も同様の状況が続くかどうかは予断を許さない。(本文に戻る)
  2. Demetri Sevastopulo, Joe Leahy, and Leo Lewis, “Xi Jinping railed against Japan’s ‘remilitarisation’ at Donald Trump summit,” The Financial Times, May 25, 2026, <https://www.ft.com/content/70e922b3-c423-40f2-9c9d-1c64a38e026b?syn-25a6b1a6=1>, accessed on June 23, 2026.(本文に戻る)
  3. 栗山紘尚「習近平氏、高市首相に言及し激高…中国外務省は否定」『読売新聞オンライン』2026年5月26日、<https://www.yomiuri.co.jp/world/20260525-GYT1T00236/>(2026年7月23日参照)。(本文に戻る)
  4. 「トランプ政権、レアアースの対日供給を中国に要請 G7でも議題に」『日本経済新聞』2026年6月9日。(本文に戻る)
  5. Jesse Johnson, “Trump can balance Japan alliance and China despite row, White House says,” The Japan Times, December 12, 2026, <https://www.japantimes.co.jp/news/2025/12/12/japan/politics/us-japan-china-defense/>, accessed on June 23, 2026.(本文に戻る)

「SPFアメリカ現状モニター」シリーズにおける関連論考

  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(5)―北京米中首脳会談と台湾問題」
  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(4)―2026年5月の北京米中首脳会談」
  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(3)―日米関税合意の意義と今後の日米関係の課題(後編)」
  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(3)―日米関税合意の意義と今後の日米関係の課題(前編)」
  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(2)―ロシア・ウクライナ戦争をめぐる停戦外交とそのインプリケーション」
  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(1)―抑制主義者と優先主義者の安全保障観と同盟国へのインプリケーション」
  • 森聡「ロシアによるウクライナ侵略とアメリカ(1)」
  • 森聡「新型コロナウィルス禍と当面の米中関係」
  • 森聡「米中フェーズ1合意と当面の米中関係」
  • 渡部恒雄「トランプ・ドクトリンの追加事項:イランとの緊張、大阪G20サミット、米中・米露・米朝首脳会談を経て」
  • 森聡「米中協議とファーウェイ、そしてトランプ―大阪G20前に」
  • 森聡「ワシントンにおける対中強硬路線の形成と米中関係(後編)」
  • 森聡「ワシントンにおける対中強硬路線の形成と米中関係(前編)」
  • 森聡「貿易とテクノロジーをめぐる米中関係(後編)」
  • 森聡「貿易とテクノロジーをめぐる米中関係(前編)」
  • 中山俊宏「ヒルビリー・エレジー的言説がどうしても必要だった理由」

この記事をシェアする

+

+

+

新着情報

  • 2026.08.07

    NEW

    第2次トランプ政権の外交・防衛(6) ―北京米中首脳会談後の日米中関係(後編)―

    第2次トランプ政権の外交・防衛(6) ―北京米中首脳会談後の日米中関係(後編)―
    アメリカ現状モニター
  • 2026.08.07

    NEW

    第2次トランプ政権の外交・防衛(6) ―北京米中首脳会談後の日米中関係(前編)―

    第2次トランプ政権の外交・防衛(6) ―北京米中首脳会談後の日米中関係(前編)―
    アメリカ現状モニター
  • 2026.08.07

    NEW

    「トランプ2.0のアメリカ」共和党編② MAGA研究②:「改革党」メディア候補たち:ブキャナン、ペロー、トランプ

    「トランプ2.0のアメリカ」共和党編② MAGA研究②:「改革党」メディア候補たち:ブキャナン、ペロー、トランプ
    アメリカ現状モニター

Title

新着記事をもっと見る

ページトップ

Video Title

  • <論考発信>
    アメリカ現状モニター
    Views from Inside America
    Ideas and Analyses
    その他の調査・研究プロジェクト
  • <リソース>
    米国連邦議会情報
    米国政策コミュニティ論考紹介
    その他SPF発信の米国関連情報
    VIDEOS
    PODCASTS
    出版物
    日米基本情報リンク集
    サイトマップ
  • 財団について
    お問い合わせ
  • プライバシーポリシー
  • サイトポリシー
  • SNSポリシー

Copyright © 2022 The Sasakawa Peace Foundation All Rights Reserved.