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論考シリーズ | No.203 | 2026.6.17
アメリカ現状モニター

第2次トランプ政権の外交・防衛(5)
―北京米中首脳会談と台湾問題―

森 聡
慶應義塾大学法学部教授

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ホワイトハウスが2026年5月17日に発出した米中首脳会談に関するファクトシートにおいて、台湾については触れられていない。しかし、トランプ大統領本人がメディアに向けて習近平国家主席との会談内容について説明した際に、台湾及び米中関係に関する同氏の様々な認識や理解が示された。これまでトランプ氏は、米中首脳会談に先立つプロセスで台湾向け武器売却の検討を一時停止して1、首脳会談終了後まもなく武器売却を決定してきたが2、中国側はこのパターンの反復を阻止すべく、今回動いたとみられる。すなわち、台湾問題が米中関係で最も重要であるとトランプ氏に強調して、中国からの各種の見返りや安定した二国間関係を望むのであれば、台湾に関する中国の立場や意向を尊重しなければならないとしてハードルを上げてきた。トランプ氏に、米中こそが現状維持勢力で、台湾が独立を目指す現状打破勢力であると印象付け、武器売却は台湾の現状打破の姿勢を焚きつける、という理解を形成しようとする首脳級の歴史戦・情報戦を繰り広げ始めたとみることができよう。

首脳会談の機会を捉えて行われたFOXによるインタビューや、エアフォースワン機中のぶら下がりにおいて、トランプ氏は台湾に関して注目を集める発言を行った。トランプ氏はメモなどを一切見ずに下記の発言を行っており、おそらくその時点における台湾問題にまつわる同氏の考え方や見方を反映しているものと思われる。そこには中国の歴史ナラティブの影がちらほら見える。無論、トランプ氏の言うことが今後流転する可能性は大いにあるが、本稿では、トランプ氏の発言を再録した上で、そこから窺える台湾問題に関する同氏の考え方や認識と、そのインプリケーションについて検討してみたい。

台湾に関するトランプ大統領の発言

FOXのインタビューで動画に上がっている部分は約24分だが、まずは台湾に関するトランプ氏の発言を、あえてトピック別に整理せずに、順に列記してみたい。トランプ氏は、「(習氏と)台湾について一晩中話し合った。いま他のどの国のことよりも台湾のことをよく知っている」、「習氏にとって台湾が最も重要な問題だということは、かなり前から知っている」、「私が大統領のうちは、中国は台湾に何もしないだろうが、私がいなくなれば(大統領を退任すれば)、正直なところ、何かするかもしれないと思う」、「台湾が現状のままであれば中国は何もしないかもしれないが、あそこ(台湾)にはいま独立したいという人物がいて、それはリスキーなことだ。独立したいというのは、戦争に突入したいということのようだが、彼らはアメリカの後ろ盾があると思っている。私は現状維持を望んでいる」、「すでに多くの台湾の企業がアメリカに来て半導体を製造しているが、彼らが賢明なら、もっとアメリカに来るはずだ」、「(今回の首脳会談を受けて台湾の人々は安心すべきか心配すべきかという質問に対して)中立だ」、「台湾政策に何の変更もない」、「台湾が独立するようなことはしてほしくないし、9,500マイルも離れた所での戦争など(私は)望んでいない。台湾に落ち着いて欲しいし、中国にも落ち着いて欲しい」、「台湾への武器売却についてまだ判断を下していないので、実施するかもしれないし、実施しないかもしれないが、戦争は望んでいない。現状を維持すれば、中国は納得するはずだ。(台湾には)アメリカの後ろ盾があるから独立しようといったことはしてほしくない」、「台湾への武器売却については、決定を保留しているが、それは中国次第だ。これはとても良い交渉の札になる。120億ドル[ママ]相当というのはかなりの量の兵器だ。ただ、対立の構図をみれば、中国は強大な大国で、あそこ(台湾)は小さな島で、中国からは59マイル、我々からは9,500マイル離れている。少々難しい問題だ」、「台湾の歴史をみれば、台湾がここまで発展したのは、過去のアメリカ大統領が何も理解していなかったからだ。アメリカに入ってくる台湾の半導体に関税を課していれば、(半導体産業がアメリカから)離れることもなかった(they would have never left)。すべてはインテル社やアメリカの半導体産業にまつわることで、台湾は我々の半導体産業を盗んだ」、「台湾の半導体に100%か200%の関税を課していれば、アメリカは半導体産業を失わずに済んだ。このツケがいま回りまわってきている」、「台湾も中国も少し冷静さを取り戻すべきだ」とインタビューで述べた3。

また、北京からの帰路のエアフォースワン機中でも約25分の間に、トランプ氏は台湾について実に多くの示唆的な発言をした。これらについてもそのままの順序で列記する。トランプ氏は、「台湾に関して、習氏は台湾の独立戦争は激しいぶつかり合いになるのでみたくないということだった。私はそれに何もコメントしなかった。習氏を大いにリスペクトしている」、「台湾をめぐってアメリカと中国が戦争するリスクはないと考えている。大丈夫だ。習氏は戦争を望んでいない。2つのことがある。中東については、中国は中東から石油を買わなければならないが、我々は買う必要はない。台湾については、中国は台湾独立へ向けた動きを望んでいない。中国は台湾を何千年も支配し、ある時点で離れて、それを取り戻さなければならなくなり、そこに朝鮮戦争が起こって、さらに多くの出来事が起こった。習氏は台湾についてかなり強い思いを持っているが、私は何のコミットメントもしなかった」、「台湾への武器売却については、台湾政策を運営している担当者の話を聞いてから判断する」、「(1982年にレーガン大統領が台湾に与えた6つの保証において、アメリカは台湾への武器売却について事前に中国と協議しないとされていたがという質問に対して)1982年はかなり遠い過去だ。何も言わなかった(※6つの保証のことか他のことかは不明)。1982年に署名したものがあるからといって話したくないと言ったり、全く取り合わないというのはおかしい。武器売却について話し合った。実はかなり詳しいことについて(in great detail)まで話し合った。そのうち私が決定を下す。いま最も望ましくないのは9,500マイル離れたところでの戦争だ。それが最も望ましくないことだ。我々はうまくやっている」、「(台湾が攻撃されたらアメリカは台湾を防衛するかとの質問に対して)答えたくない。言わない。答えを知っているのはただ一人、私だ」、「習氏からアメリカは台湾を防衛するのかと尋ねられたが、そのことについては話さないと答えた」といった発言を行った4。

インプリケーション

これらの発言に顕れている同氏の理解や発言が今後変化する可能性があるのは言うまでもない。その上でひとまず首脳会談を終えた時点で次の点が注目される。

 

台湾支援の正統性

第一に、トランプ氏に「他のどの国のことよりも台湾のことをよく知っている」と言わしめるほど、習氏がトランプ氏に中国の視点から台湾問題を説明し、それを少なくとも一時的にトランプ氏が一定程度受け入れたようにみえる。台湾が独立を目指していて、もし台湾が独立しようとすれば、中国は武力行使を含む強硬な措置に出るといった中国側の説明を受け止めているようにみえる(ただ、例によって自分の任期中に戦争は起こらないだろうとも言っている)。

また、トランプ氏は、台湾をめぐる現状が維持されることが望ましく、おそらく中国も同様だと述べた。中国は台湾に関する現状の無期限な続行は認めず、いずれ統一するという方針だが、トランプ氏の発言からは、習氏がトランプ氏に、米中こそが平和・安定の現状維持勢力で、頼政権が独立を目指す現状変更の勢力だという理解を植え付けたことが窺える。目下、中国はサンフランシスコ講和体制の正統性を否定し、カイロ宣言(中華民国が調印して台湾と澎湖諸島の返還が謳われた)にたびたび言及して、中国こそがアメリカとともに戦後の国際秩序を築き上げてきたという歴史ナラティブを展開しているのは周知の通りである。中国は、自国の歴史ナラティブをトランプ氏に注入し「説得」しようとして、冒頭で指摘したように、今回はいわば首脳級の歴史戦を展開したといえる。今年はあと3回首脳会談がもたれる予定で、それらの場でも「説得」が繰り返される可能性がある。台湾については、今年3月にTSMCがアリゾナでの生産工程拡大に1,000億ドルの追加投資を行うと発表し、昨年8月に国防予算を2030年までに対GDP比5%にまで引き上げる方針を発表しているが、トランプ氏に響いている形跡は見当たらない。台湾は対米首脳外交を展開できないため、やはり外交的に苦しい状況に置かれている。

中国とアメリカが平和を保とうとしている中で、台湾が平和を破壊しようとしているなどといった中国の歴史ナラティブがトランプ氏の頭の中に固着することがないようにするためには、トランプ政権の関係閣僚やトランプ氏に近い共和党連邦議員らから、台湾がアメリカの支援を頼りに独立を宣言することなど目指していないということや、台湾関係法の歴史的・現代的な意義とともに、平和と安定を維持するための武器売却の意義などを冷静にトランプ氏に説明してもらう必要があるだろう。

また、今後の日米首脳会談においては、日本こそがアメリカとともに地域の平和・安定化のための取り組みを続けてきた現状維持勢力であり、今後も紛争を防止するために地域における防衛・安全保障協力を進めていくことをトランプ氏に丁寧に説明していく必要があるかもしれない。さらに、こうした説明は何らかの機会があるごとに恒常的に進められるべき取り組みであり、フィリピンやオーストラリア、韓国、その他のインド太平洋諸国の首脳にもワシントン訪問時に、台湾海峡の平和と安定という現状を維持しようとしているのは日米をはじめとする地域諸国であり、武力や威圧による現状変更は受け入れがたいという見解を述べてもらうようにするなど、対米外交で連携していくべきであろう。

 

武器売却の取り扱い

第二に、台湾への武器売却について、トランプ氏は1982年の台湾への6つの保証にさしたる重みを見出しておらず、習氏と武器売却について「かなり詳しいことについてまで話し合った」と述べる一方で、自分は何もコミットしていないとも発言しているので、おそらく中国側の言い分を聞き置いたものの、アメリカ側が最終的にどう判断するかについては何も言わないという対応をとったと思われる。しかし首脳会談でのやり取りが、台湾への武器売却に関するトランプ氏の判断に影響する可能性がないとはいえない。トランプ氏は前述のインタビューの中で、台湾がアメリカの後ろ盾があると思って独立に向かおうとするリスクに言及しており、この点も注意を要する。最悪の場合、アメリカによる台湾への武器売却が台湾を独立に向かわせるリスクを高めるという中国側のナラティブを、一時的にであれ受容しているかもしれず、もしそうだとすれば、(そもそも後述する配達遅延の問題があるとはいえ)新規の武器売却決定を見送ったりする可能性もやはり排除できない。現状維持のための武器売却という理解が、武器売却が現状変更を招くという理解に切り替えられるとすれば、それは中国の狙うところであり、地域諸国にとって好ましい展開とはいえない。

また、米海軍長官代行が5月21日の上院歳出委員会防衛小委員会で行った証言で、イラン攻撃作戦エピック・フューリーに万全を期すという理由で、140億ドル相当の台湾向け武器(PAC-3 MSEやNASAMといったミサイルなども含まれるとされる)の売却について、「一時停止されていますが(paused)、政権が適切と判断すれば続行することになります」と述べたことも注目を集めた5。その直後に、台湾側は武器売却の件について米側から連絡を受けていないことを明かした6。

他方で、6月3日の下院国際関係委員会の公聴会で、ルビオ国務長官は、台湾政策に変更はないとしつつ、140億ドル規模の武器売却のパッケージは現在も「検討中(under review)」であり、「それは必ずしも台湾という固有の事情だけが理由ではなく、様々な事情による」として、「短期的に売却可能な武器の備蓄量や、それを我が国自身の調達量と折り合いをつけなければならないという事情が含まれている」と釈明した7。アメリカの駐中大使デイビッド・パーデュー氏も5月18日のCNBCのインタビューで、アメリカの台湾政策に変更はないと述べていた8。

トランプ氏が、武器売却を含むアメリカの台湾政策を変更していないという立場を維持しつつ、台湾に関する自らの対応が原因となって習氏が経済的取引や各種交渉に応じなくなる状況を避けたいという思惑を持っているとしても不思議ではない。また、トランプ氏が台湾の安全保障をめぐる話の流れの中で、唐突に「台湾がアメリカの半導体産業を盗んだ」という、かねてからの持論を展開した事実も注目に値する。以上を踏まえると、台湾への140億ドルの武器売却パッケージについてトランプ氏には、次のような選択肢が潜在的・理論的にはあると考えられる。①台湾への武器売却の決定を延期する(例えば9月24日の習氏訪米後ないし11月の中間選挙後まで)。②台湾への武器売却を決定するも、備蓄管理等を理由に、一部の兵器を除外したり、パッケージを分割するなどして、個別の売却の規模を縮小する。③台湾がアメリカにおける先進半導体製造を進展させなければ、武器は売却できないという条件を付する。④中国側を揺さぶるために、武器売却をあえて予定通りの内容と規模で決定する。

トランプ氏が今後いかなる対応をとるかは不明である。しかし9月下旬の習氏訪米後まで武器売却の決定を見送れば、習氏が、既存の経済ディールを前進させ、レアアースの対米輸出も続行し、中間選挙前の訪米時にさらなる経済ディールを取り結ぶ可能性が開かれるという理解を持ってしまう可能性がある。9月下旬のワシントン米中首脳会談まで、その次は11月中旬のAPEC首脳会議まで、さらに12月中旬のG20首脳会議まで、そしてやがては2027年の中国共産党大会まで、というように武器売却の検討が長期化したり、決定が先送りされていくかどうかは分からないが、中国側はそのような対応を望んでいるであろうと推察される。また、6つの保証のうち、台湾への武器売却について中国と事前協議しないという保証が形骸化するかどうか、他の保証も漸次同様の道をたどるかどうかという問題は深刻である。ある時点で中国側がトランプ氏の不興を買い、再び米中関係が圧力本位の関係に戻る可能性もあるので、今後の展開は予断を許さない。台湾関係法があるため、アメリカの台湾政策に変更はないという立場を維持するにせよ、もし仮に武器売却の検討継続という形で決定が先送りされていくとすれば、どのような影響が出ると考えられるのだろうか。

まず台湾では、他の5つの保証についても、有効性が失われるのではないかという疑念が高まるのみならず、台湾での国防予算をめぐる政争を悪化させるかもしれない。ヘグセス戦争長官が本年のシャングリラ対話での演説において、台湾に直接言及しなかったことも台湾では不安を持って受け止められたようである。また、5月に台湾の立法院では、250億ドル相当の国防特別予算が可決されたが、これは政権が求めた400億ドル相当の当初案から大幅に削減されたものとなった。アメリカによる武器売却の事実上の一時停止状態が続けば、台湾の今後の国防予算審議が紛糾の度合いを増すことも考えられる。なお、特別国防予算案の大幅削減を求め、中国との対話・交流の必要性を強調する国民党の党首・鄭麗文氏は、4月に訪中して習氏と会談し、6月1日から訪米し各地を廻ったが、ホワイトハウスや政権の高官は面会に応じなかったようである。(中国側は、おそらく鄭氏が2028年の台湾総統選で選出されることを望んで後押ししようとするであろうが、同氏がトランプ政権や連邦議会の支持を得るのは難しいだろうというアメリカの専門家の見方に筆者は複数回接した。)

また、地域諸国の間では、米中首脳の間に明示的な「公式の取引」の合意がなかったとしても、中国がアメリカ製品の輸入を拡大し、レアアース等の重要鉱物資源をアメリカに輸出する一方で、アメリカが台湾への新規の武器売却決定を事実上先送りし、対中技術流出規制の適用を延期する動きが並行して展開されるとすれば、米中という大国の間で台湾の安全保障が「事実上の取引」の材料になったとする見方が蔓延するかもしれない。台湾と経済その他の利益を具体的かつ明示的に交換するような「公式の取引」がなかったとしても、アメリカ側が、中国によるアメリカの要望の尊重を期待して中国の利益を実現しつつ、中国側が、アメリカによる中国の要望の尊重を期待してアメリカの要望を実現するとすれば、それは「事実上の取引」となる。アメリカが経済的利益を得て、戦争のリスクを下げるために台湾への武器売却という地域安全保障上の利益を小刻みに差し出す「事実上の取引」が現実化するとすれば、「アメリカ後のアジア」9の始まりと騒がれるであろう。

しかし、トランプ氏はインド太平洋の経済活力の取り込みをめぐって中国と競争する姿勢をとっているため、その種の「撤退」と映る動きをどこまでも無節操に進める事態は現時点で考えにくい(以下で論じるように、台湾についても連邦議会から超党派の突き上げを食らう可能性が高い)。アメリカの対中関係は、①防衛、②重要鉱物・先端技術、③経済・外交といった分野に応じて、異なるダイナミクスが働いている。①では日米比豪対中国という構図、②では同志国対中国という構図、③ではアメリカが第三国から得られる利益と中国から得られる利益を最適化しようとする構図がある。大統領がしばしば手掛ける③ばかりがクローズアップされがちだが、①と②の動態を見落としてはならない。

さらに、アメリカの連邦議会では、共和党の対中タカ派の議員らも含めてトランプ氏の対中アプローチに違和感を持つ勢力がいるので、台湾への武器売却が事実上先送りされれば、反発が生じるものと思われる。すでに連邦議会では超党派の議員らが、台湾関係法等に基づいて台湾を支援する従来の方針の維持を確認したり、台湾での初選挙30周年を祝す趣旨の決議を複数上程して、トランプ氏を牽制しようとしている10。その実効性はともかく、今後この種の反発がどのような形で表れるかは分からないが、筆者はワシントンの研究者から、連邦議会が台湾の外交的地位を引き上げたり、台湾との関係を強化しようとする可能性があるとの見方を聞いた(2022年に超党派で提出された台湾政策支援法案が上院で審議された際、当初案には台湾代表処の名称を格上げすることを義務付けたり、台湾の駐米担当者に、他国の外交官と同等の扱いを認めたりする内容が含まれていた。しかし最終的に2023年国防授権法の一部として可決された際には、修正を経て内容が希釈された。おそらくこうした事例が念頭にあったと思われる)。もし中間選挙で民主党が下院で多数党となれば、象徴的な意味合いを持つ台湾支持の法案を可決しようとする動きが活発化することも考えられる。

加えて台湾がアメリカから購入できる武器については、すでに配達遅延(backlog)の問題が生じており、そもそも届いているはずのものすら届いていない状況がある。対イラン攻撃作戦で費消されたミサイルを作戦前の水準にまで補充するのに要する期間は、ミサイルの種類によって異なるが、1~5年かかるという見通しもある11。アメリカによる武器売却の検討長期化(事実上の延期)が現実化すれば、武器購入を通じた台湾の防衛力強化は大きな障害に直面することになるだろう。なお、すでに報じられている通り、日本にとってアメリカからの兵器の配達遅延の問題は対岸の火事ではない。この問題はイラン攻撃前から存在しており、自国の生産能力拡大と同盟国・同志国間協力による生産体制の拡充が必要となっている。いずれも一筋縄ではいかない要請であるが、避けて通れない重要な課題である。

 

対中抑止力の信頼性

第三に、トランプ氏は中国が台湾を攻撃した場合の対応について明言しないという従来の立場を繰り返したものの、台湾をめぐって中国と戦うことについて消極的な姿勢を示唆した。中国が強大な大国であるのに対して、台湾が小さな島であり、中国から台湾まで59マイル、アメリカから台湾までは9,500マイルもあり、9,500マイルも離れたところで戦いたくないといった趣旨の発言は、アメリカの対中抑止力を減じると言わざるを得ない。トランプ氏は、ロシア・ウクライナ戦争の仲介時に、力の相対比が交渉の札を決め、交渉の札が彼我の利益配分を決めるという「交渉観」を顕わにしたが、今回のトランプ氏の発言を聞くと、中国と台湾の関係についても、後者に分がないという見方をする可能性もあるように思われる。また、発言全般からは、台湾関係法その他の宣言政策に基づいてアメリカが台湾の安全保障を裏書きしているといった当事者意識が希薄な印象を拭えなかった。

トランプ氏が対中抑止力について悲観ないし諦観を持っているとすれば、台湾が中国に対して持っている各種の強みや、米軍が西太平洋で持つパワープロジェクション能力について、国務長官や戦争長官、統合参謀本部議長から大統領に説明し、そうした疑念をなるべく晴らしてもらう必要があろう。

こうした観点からも、日本は現在進めている継戦能力を含む抑止力・対処力の強化を、いつまでに、いかにして、どこまで強固なものとしていくかをアメリカ側に説明することが重要な意味を持つことになるであろう。その際には日本やグアム、フィリピンなどを拠点とした米軍の第一列島線へのパワープロジェクションについてトランプ氏に理解を深めてもらうことが目標になると考えられる。その際には、日本はフィリピンや豪州などとも連携しながらトランプ氏に働きかけて、トランプ氏に第一列島線防衛を通じた抑止の有効性と必要性を強く印象付けていくべきであろう。関税交渉の場合はラトニック商務長官やベッセント長官との協議がトランプ氏との決着のために重要な下準備の意味をもったが、今回も日本側がトランプ政権閣僚(ルビオ国務長官やヘグセス戦争長官ら)と協力して、大統領に効果的に働きかけることが対米外交においてやはり重要な取り組みになるだろう。

ただし、上記のような働きかけを行う際には、トランプ氏が、習近平氏と良好な個人的関係を保っている限り戦争は起こらないという持論を有しているため、抑止力について説明する際には、こうした大統領の持論を踏まえたフレーミングが必要となろう。(例えば、かつてレーガン大統領が、米ソ軍備管理協定の検証措置について、”Trust but verify”と語ったのはよく知られているので、トランプ氏が使いやすいフレーズがあるとすれば、やはり本来は語義矛盾だが、”Trust but deter”といったものになるだろうか。また、「公平性と相互性」に基づいた「戦略的安定を備えた建設的な関係」というアメリカ側のファクトシートに書かれた言葉についても、「公平性」と「相互性」はトランプ氏が重視するところであるので、中国側が軍備を増強し続ける限り、アメリカとその同盟国やパートナーも、紛争を防止して平和と安定を守るためには、「公平性と相互性」に基づいて自らを守るために防衛力を強化せざるを得ないという理解が含まれているということも強調されていいかもしれない。)

以上見てきた通り、台湾情勢をめぐっては、先般の北京米中首脳会談を受けて、台湾支援の正統性、武器売却の取り扱い、対中抑止力の信頼性に関する課題が浮上している。台湾海峡の平和と安定のために武力や威圧による現状変更のリスクを下げるというかねてからの課題は、トランプ氏の新たな対中アプローチと中国による歴史戦と首脳外交、さらには台湾の内政も絡み合うことによって、何が正統な「現状」か、適切な管理方法とは何かが争点化されようとしており、複雑さを増そうとしている。第一列島線の現状を防衛するためには、同盟国・同志国間の防衛協力の堅実な推進に加えて、歴史戦に対処するための正統な地域秩序とは何かに関する過去の外交上の経緯を踏まえた骨太な説明を用意し、中国と対話する用意がある姿勢を示しつつ、最近更新された自由で開かれたインド太平洋(FOIP)との整合性も確保しながら巧みな対米外交、さらには広く諸外国に向けた外交を展開する必要がある。日本が「新型の軍国主義」に向かっているとする中国側のキャンペーンに対する小泉防衛大臣のシャングリラ対話での演説や発言は、日本側の冷静で的確な対応を示す模範であり、東南アジア諸国の間でも、株を上げ信頼を得たのは中国ではなく日本であるとする評価が聞かれるので、今後もこうした効果的な外交が展開されることが望まれる。

(了)

  1. Noah Robertson and Ellen Nakashima, “Trump nixed $400 million in Taiwan military aid, pushing future arms sales,” The Washington Post, September 19, 2025, <https://www.washingtonpost.com/national-security/2025/09/18/trump-taiwan-arms-sales-military-aid>, accessed on June 12, 2026.(本文に戻る)
  2. Ben Blanchard and Michael Martina, “US announces $11 billion arms package for Taiwan, largest ever,” Reuters, December 19, 2025, <https://www.reuters.com/world/china/taiwan-says-us-has-initiated-111-billion-arms-sale-procedure-2025-12-18/>, accessed on June 12, 2026.(本文に戻る)
  3. Fox News, “BREAKING: Trump addresses Xi's WARNING over Taiwan,” May 16, 2026, <https://www.youtube.com/watch?v=7ib2ab_kDLI>, accessed on June 12, 2026.(本文に戻る)
  4. The National Desk, “Trump talks to reporters aboard Air Force One on return trip from China,” May 16, 2026, <https://www.youtube.com/watch?v=B7BT6AwE3CE>, accessed on June 12, 2026.(本文に戻る)
  5. Forbes Breaking News, “McConnell Asks Acting Navy Sec.: Do You Expect The Arms Sale To Taiwan To Be Approved At Some Point?,” May 24, 2026, <https://www.youtube.com/watch?v=e1wUXT0L_Xw>, accessed on June 12, 2026;Koe Ewe, “US navy chief says $14bn arms sale to Taiwan paused due to Iran war,” BBC, May 22, 2026, <https://www.bbc.com/news/articles/c232z4yk437o>, accessed on Jun 12, 2026.(本文に戻る)
  6. “Taiwan says it has not been told by US of arms sales delays,” Reuters, May 22, 2026, <https://www.reuters.com/world/china/taiwan-says-it-has-not-been-told-by-us-changes-military-sales-2026-05-22/>, accessed on June 12, 2026.(本文に戻る)
  7. このときルビオ氏は、中国側はいつも「台湾への武器売却を持ち出すが、その内容について協議したり交渉したりすることはない」と述べた。House Foreign Affairs Committee Democrats, “Department of State FY 2027 Budget Request: A Commitment to America First Foreign Policy,” June 3, 2026, <https://www.youtube.com/watch?v=2dXpdBwHeQ0>, accessed on June 12, 2026.(本文に戻る)
  8. “Watch CNBC’s full interview with U.S. Ambassador to China David Perdue,” CNBC, May 18, 2026, <https://www.cnbc.com/video/2026/05/18/watch-cnbcs-full-interview-with-u-s-ambassador-to-china-david-perdue.html>, accessed on June 12, 2026.(本文に戻る)
  9. Zack Cooper, “Asia After America: How U.S. Strategy Failed—and Ceded the Advantage to China,” Foreign Affairs, February 17, 2026, <https://www.foreignaffairs.com/united-states/asia-after-america-cooper>, accessed on June 12, 2026.(本文に戻る)
  10. 5月21日に上院に上程された決議案S.Res.754には、「上院は、台湾に関するアメリカの政策の礎石として、台湾関係法(連邦公法第96議会第8号、合衆国法典第22編第3301条等)、(米中)3つの共同コミュニケ、および(台湾への)6つの保証を再確認するとともに、台湾の自衛への支持や、平和的手段以外の方法で台湾の未来を決定しようとする試みへの反対を含む、長年にわたる超党派の米国の対台湾政策を支持するものである」とする文言が含まれている。<https://www.congress.gov/bill/119th-congress/senate-resolution/754/text>, accessed on June 12, 2026.
    5月22日の決議案については、次を参照。“Shaheen, Tillis, Coons, Collins Introduce Bipartisan Resolution Reaffirming U.S. Support for Taiwan,” United States Senate Committee on Foreign Relations, May 22, 2026, <https://www.foreign.senate.gov/press/dem/release/shaheen-tillis-coons-collins-introduce-bipartisan-resolution-reaffirming-us-support-for-taiwan, accessed on Jun 12, 2026.(本文に戻る)
  11. Mark F. Cancian and Chris H. Park, “Rebuilding U.S. Missile Inventory: A Multiyear Project,” May 27, 2026, <https://www.csis.org/analysis/rebuilding-us-missile-inventory-multiyear-project#On>, accessed on June 12, 2026.(本文に戻る)

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