SPF笹川平和財団
SPF NOW ENGLISH

日米関係インサイト

  • 米国議会情報
  • 米国政策コミュニティ
  • VIDEOS
日米グループのX(旧Twitter)はこちら
  • ホーム
  • SPFアメリカ現状モニター
  • 第2次トランプ政権の外交・防衛(6) ―北京米中首脳会談後の日米中関係(後編)―
論考シリーズ | No.212| 2026.8.7
アメリカ現状モニター

第2次トランプ政権の外交・防衛(6)
―北京米中首脳会談後の日米中関係(後編)―

森 聡
慶應義塾大学法学部教授

この記事をシェアする

アメリカの3つの対中アプローチ

本論考シリーズの(4)と(5)で米中首脳会談の結果や米中間における台湾問題に関するインプリケーションについて論じた際に、トランプ氏と習氏との間に「事実上の取引」が成立する可能性を指摘し、予断を許さないとしつつも、対中関係における防衛と重要鉱物資源・先端技術という分野では、実態として競争的アプローチないし脱対中依存のアプローチがとられているため、一概に米中関係が利益の取引のみに基づいて持続的に安定するともいえないと予備的に論じた。その理由があると考えられる。第一に、米中の戦略的利害が相容れない。中国が追求する事実上の地域覇権確立という戦略的利益は、アメリカのそれとは相容れないということが段階的に明らかになってきたというのが2010年代前半以降の米中関係の基調であろう。第二に、中国側の対米交渉戦術上の判断により、アメリカ側に差し出す見返りが小幅に留まる。シリーズ(5)で論じたように、中国側は、トランプ氏が台湾に関する中国の立場の尊重を求めていることから、ディールの中でトランプ氏に見返りを多く与えすぎれば、トランプ氏が中国の立場を尊重する動機を失うという見立てを持っていると思われるので、「おかわり」を求められる程度の小幅な見返りの提供に留まると思われる。また、中国が欲する安全保障上の利益をアメリカへの大きな経済的見返りで大胆に買う大取引をして、そのあとトランプ氏が対中姿勢を硬化させれば、習氏にとっては外交上大打撃となるので、そうしたリスクを避けようとするものと思われる。第三に、アメリカ中間選挙以降いずれかのタイミングでトランプ氏が対中姿勢を硬化させる可能性が残る。トランプ氏が中間選挙後の残余の任期をどう過ごすかについて、これから様々な予測・憶測が飛び交うであろうが、トランプ氏が自らの「強さ」を演出するために、あるいはその他の理由で中国に対して厳しい姿勢をとる可能性がないとも限らない。これは前述の通り、中国側が大胆なディールに踏み出せない理由にもなる。以下では、まず現在のアメリカの対中アプローチが、分野別に異なる形態をとっていることを確認しておきたい。

防衛分野の対中アプローチ

第一に、防衛の分野については、対中抑止を目標に、日米が主軸となって、豪州やフィリピン、分野によってはその他の同志国が防衛協力を推進している。アメリカによる軍事的な取り組みを網羅することは控えるが、第一列島線の拒否的防衛のアプローチの下、戦力態勢の分散的拡充、意思決定上の優位の追求(AIの導入、統合火力ネットワークなど)、ミサイル戦力の強化、無人システムの大量運用、統合防空ミサイル防衛、台湾支援(武器売却、台湾安全保障協力イニシアティブTSCI、米台軍事援助)、同盟国との防衛協力・合同軍事演習などを進めている。日米の防衛当局間・軍同士の協力関係は、これまでにないほど緊密になっているといわれる。6月16日に戦争省は、インド太平洋軍(第1次トランプ政権が太平洋軍から改称)を太平洋軍に再度改称する旨を発表したが1、太平洋軍による地域的な防衛協力の取り組みは精力的に進められてきており、今のところそこにブレーキがかかるような兆しはない。

アメリカによるインド太平洋地域への関与は、第1次トランプ政権以降、TPPからの離脱やIPEFの失速といった経済分野での停滞に加え、人権や民主主義を前面に押し出し過ぎたことによって一部の地域諸国の反発を招いて政治分野でも失策を犯し、対イラン攻撃作戦で軍事的資源を消費した結果軍事分野でも盤石さを欠いている、とする批判はワシントンのアジア戦略の専門家からも出ている。しかし、それでも第一列島線防衛に焦点を絞った地域戦略を追求すべきであるし、それは可能だという議論もある2。

もともと西半球とインド太平洋を優先化し、欧州と中東を非優先化するとしていたトランプ政権だが、トランプ氏本人は、前述の通り、戦域を事実上「分節化」してしまった。すなわち、戦域横断的な影響を勘案しないまま、イランに対する軍事行動を決定し武力攻撃に及んだ。しかし日本から見れば軍事的なリソースがイラン攻撃に割かれ、その影響が太平洋に及ぶのは避けがたい。

それでもトランプ氏がインド太平洋を無視できないのは、同地域が経済成長の中心地であるため、そこをみすみす中国に明け渡すわけにはいかないからであるし、戦争が勃発すれば甚大な経済的打撃を被るという判断があるからである。また、得るものがない対中取引は、悪いディールであり、単なる譲歩なので、トランプ氏としても受け入れがたい。アメリカにとってのインド太平洋の経済的重要性という基本的な前提がもし崩れれば(すぐに崩れるわけではないが)、アメリカがインド太平洋地域に関与する理由や、アメリカが防衛コミットメントを維持する理由も弱まる。

つまり、第一列島線やインド太平洋地域へのアメリカの関与コミットメントを確保し続けるためには、①経済分野では、地域諸国が力強い経済成長を実現し、アメリカがインド太平洋から経済活力を不断に取り込んでいる実績を作って、トランプ氏に積極的にアピールしていくのみならず、②安全保障分野では日本、台湾、フィリピンが十分な防衛力強化を図り、アメリカが甘受可能なリスクとコストで第一列島線に対する中国の軍事行動を拒否できる能力と態勢をできるだけ早く構築しなければならない(シリーズ(3)前編中の「同盟管理という観点からみた評価」で、トランプ氏が同盟国の重要性を測定する二つの尺度について論じた)。

これらはすでに日本政府が進めている取り組みであるが、第一列島線だけではなく、アメリカの産業や労働者が、東南アジアも含めたインド太平洋地域全体の経済成長からいかに裨益するか、そして今後裨益していくかということをトランプ氏に丁寧に売り込んでいく努力をやめるわけにはいかないであろう。今年の11月に中国・深圳市で開催される予定のAPEC首脳会議も活用して、アメリカが中国以外のアジア太平洋でいかに経済的な実利を獲得できるか、アジア太平洋の経済活力をアメリカが取り込み、紛争を防止する上でアメリカの関与がいかに重要かをトランプ氏に示していくことが求められる。防衛コミットメントの信頼性は、コミットする国にとっての防衛対象の本質的価値に左右される。つまり、経済成長はアメリカの地域関与強化、ひいては防衛コミットメントの信頼性強化に結び付くという認識に立って、アメリカにとってのアジア太平洋経済の重要性・不可欠性を構造的に高めていく取り組みを促進することが重要な目標となる。そのためにはCPTPP加盟国拡大に加えて、他に日本が先導すべきイニシアティブとは何かを積極的に構想し実行する必要がある。それはセクター別の国際経済連携となるかもしれないし、他の形態をとるかもしれない。

重要鉱物・先端技術分野の対中アプローチ

第二に、重要鉱物資源・先端技術について、アメリカは対中依存リスクの低下を目標に、日本及び同志国との各種の協力を精力的に進めている。ここはアメリカとG7諸国その他同志国が一致して取り組むことができる分野である。また、トランプ政権は、重要鉱物資源で中国に急所をおさえられている状況から脱するための自助努力と国際協力の強化にかなり傾注している。これらの分野においては、日米の協力関係は堅固であるのみならず、アメリカ連邦議会においても超党派の支持があるため、こうした関係を維持・深化させていくことが必要となる。

重要なのは、中国に重要鉱物資源の供給という急所をおさえられている状況をどこまで打開できるのかということであろう。アメリカとその同盟国・同志国は、中国に依存しない重要鉱物資源のサプライチェーン整備と、それを促進するためのイノベーションを進めていかざるを得ない。中国が不法・不当な経済的威圧に及んだ際の対抗措置については、これまでも議論が行われてきたが3、2026年6月のエビアンG7サミットでは、「重要鉱物のサプライチェーン確保に関するG7首脳宣言」を発出した。同宣言では、産業協力、資金調達、市場構造化、透明性及びトレーサビリティ、備蓄、リサイクルといった各種取り組みについて、G7諸国間及びパートナーとの協力を進めることが謳われるとともに、「G7重要鉱物強靱性・生産アライアンス」の設立が表明された4。この方面での同志国間協力は、中国の威圧行為が露骨さを増していくのと連動して、着実に加速しているといえよう。重要鉱物資源の対中依存をいつまでに、どの程度低下させられるかは定かではないが、中国の威圧が発揮する効力を削ぐというエコノミック・ステートクラフト上の意義があるため、この分野における取り組みが止まることはないとみられる。

また、先端技術に関する輸出管理については、商務省がこれまで累次施行してきた規制が実施されている。第2次トランプ政権下の商務省産業安全保障局(BIS)は、2025年9月29日に、リスト(エンティティー・リストや軍事エンドユーザーリスト)で指定された団体が50%以上保有する企業等への輸出規制の拡大適用(関連事業体ルール)を発表し5、これに対して翌10月9日に中国商務部もレアアース関連の加工技術に関する規制を拡大し、無許可で海外企業と協力することを禁止したほか、海外の防衛・半導体関連企業への輸出を制限する方針を発表した6。その後、トランプ大統領が100%の対中追加関税の賦課に言及したが、釜山米中首脳会談で事実上の「休戦」に至った(アメリカ側は9月の関連事業体ルールの実施を1年間停止し、中国側は10月の輸出規制措置の実施を1年間停止した7)。やや乱暴な言い方になるが、アメリカによる対中技術流出規制の拡大適用という「ムチ」と、中国による対米レアアース輸出規制の適用という「ムチ」が相殺し合った状態が出現している。

ただし、繰り返しになるが、既存の各種輸出規制は施行されており、ワシントンでは、中国への先端技術の流出を容認するような意見は少数派である。半導体の対中輸出がトランプ氏の判断によって規制の例外とされたのは周知の通りであり、NVIDIAによる半導体の対中輸出が問題となってきた。この問題をめぐっては、対中輸出を実現したいNVIDIAと、それに反対する政権内外の勢力との間で暗闘が繰り広げられてきたともいわれる8。トランプ氏は2025年12月に、NVIDIAに最先端ではない半導体(H200)の輸出を認め9、当初中国は対米依存を嫌ってその購入を控えていたが、7月上旬に自国のAI企業に対して購入を承認する見通しを伝達したと伝えられている10。これはシリーズ(4)で論じた米中両国間における利益の取引の一環を成している可能性もあるが、実態は定かではない。

直近ではホワイトハウスの科学技術局長マイケル・クラツィオスが、中国企業ムーンショットが不正にアメリカ製のAIモデルとNVIDIA製の半導体(ブラックウェルシリーズ)を利用(distillation)してKimi K3システムを開発し、これがアメリカの輸出管理ルール11に違反すると指摘した12。上記の政治的文脈からみれば、規制強化を求める勢力から巻き返しの動きが起こる可能性もあるが、トランプ氏がどう反応するかも注目される。

一方、AIをめぐる米中競争(いずれ稿を改めて論じたい)は、戦略的観点からは半導体、クラウド等のインフラ、基盤モデル、アプリといった多層構造の中で繰り広げられている。個別の層ごとに様々な企業が活動しており、競争順位が刻々と変化する層もある。上記のように、米中間のしのぎの削り合いと映る出来事が切り取られて、中国の猛追が報じられがちであるが、全般的にはアメリカがリードしているものの、今後の展開や競争の顛末は予断を許さないというのが実状であろう。地政学的な観点からは、第三国への浸透が問題となるが、中国は2023年にグローバルAIガバナンス・イニシアチブを発表し、AIの能力構築支援を売りにして諸外国に関与してきた。さらに先ごろ7月16日に上海で開催された世界AI会議で習氏は、グローバルサウス諸国を念頭に、中国は開放性の原則に立ったオープン・ソースAIの提唱者で、AIのリスク管理と安全を重視し、包摂性と相互理解、連帯とグローバルガバナンスを促進すると謳った上で、「世界AI協力機構(WAICO)」の設立を発表した13。アメリカも2025年12月にAIや半導体分野のサプライチェーン強靭化を目指す「パックス・シリカ」なる枠組みを立ち上げて、日本や韓国、オランダ、欧州連合(EU)など十数カ国が連合を形成している14。その意味でこの分野で米中両国は、諸外国への浸透競争と連合形成(ある種のブロック化)の流れにあるといえよう。

以上の動向をみると、重要鉱物資源の分野では、対中競争が基調となりつつも、レアアースで中国にチョークポイントを押さえられて、先端技術の対中流出規制の強化(適用範囲の拡大)にはブレーキがかかった。一方、半導体に関しても、対中競争が基調ではあるものの、輸出管理をめぐって一種の綱引きが繰り広げられている。先端技術の対中輸出管理という国家安全保障にまつわる政策課題が、中国相手の駆け引きやアメリカ国内での駆け引きによって政治争点化されているのは、同盟国からみて必ずしも好ましい展開とはいえない。しかし、重要鉱物と半導体も含む、AI競争にまつわる諸分野ではアメリカが主導して、中国との競争に総合的に向き合う連合形成の競争も始まっている。したがって、AIを含む先端技術をめぐって中国と競争するという意識はアメリカで顕著であるほか、中国との戦略的競争という観点からトランプ政権の政策過程に関与しているプレイヤーがワシントンにおり、その中には大統領に規制強化を働きかける立場にいるプレイヤーもいる事は見逃されるべきではないだろう。

経済・政治分野の対中アプローチ

第三に、経済・政治の分野では、トランプ氏が取引本位の二国間外交を繰り広げている。シリーズ(4)で論じたように、米中間では経済的実利をめぐる外交がある。また、シリーズ(5)で論じたように、台湾をめぐっても、中国が対米首脳外交で攻勢に出ており、トランプ氏が中国から経済的実利を引き出すために台湾への武器売却決定を延期する可能性を排除できない。いずれの場合も、「実利」が交渉の札となる外交が繰り広げられている。

端的に言えば、中国と日本がそれぞれトランプ氏を相手に、一種の実利外交を展開している構図がある。中国がトランプ氏を相手に使う手札は、アメリカ製品・産品の輸入拡大とレアアース等の供給継続などであり、それと引き換えに台湾に関する中国の立場と利益の尊重を求めている。日本がトランプ氏を相手に使う手札は、主として経済安全保障のための戦略的投資であり、それと引き換えに第一義的には日米同盟の堅持と強化、さらにはアメリカによる地域安全保障へのコミットメントを求めている。米中関係と日米関係の交点は、西太平洋の安全保障であり、その中核に台湾がある。

シリーズ(5)で論じた通り、中国の習近平国家主席は、「一つの中国」原則を前提にした「現状」を米中が守るべきであるものの、台湾の頼政権が独立を目指してこの「現状」を打破し、戦争リスクを高めているとする中国側のナラティブをトランプ氏にすり込み、アメリカによる台湾への武器売却は台湾の独立を助長するものなので停止すべき、と働きかけているとみられる。これに対して日本や「台湾海峡の平和と安定」を望む諸外国が正統とみる「現状」は、「一つの中国」政策を前提にした「現状」であり、武力や威圧による台湾の統一は当然のことながら平和的解決にはあたらず、容認しがたい。これは日本だけではなく、「台湾海峡の平和と安定」を望み、この語を共用してきた他の諸外国も同じ立場であろう。こうした立場を中国が忌み嫌うのは言うまでもない。だからこそ中国は、一方で日本に対しては各種の威圧行為の段階的強化に及び、他方で習氏からトランプ氏に対して、「一つの中国」原則に基づいた「現状」という前提に立った台湾に関する歴史戦・情報戦を仕掛けて「すり込み」を試みている。こうした構図の下で問われているのは、トランプ氏の台湾問題に関する理解が、いかなる「現状」の認識に基づくものになっていくかということであろう。トランプ氏は、「すり込み」を真に受けているかもしれないし、あるいは、中国のナラティブを口にした方が中国側から経済的な見返りを引き出しやすくなると判断しているのかもしれないが、実際のところは不明だ。この両方という可能性もある。

日本では、もっぱらこの経済・政治分野の対中アプローチばかりがクローズアップされるが、それはトランプ氏の関心がこの分野に向けられているからであろう。しかし、大統領は勝ち負けと損得に強くこだわるので、アメリカによる一方的な譲歩や撤退は考えにくい。また、上述した通り、アメリカの対中アプローチは多面的であり、インド太平洋と西半球における地政学的競争や先端技術をめぐる競争が消えてなくなったわけではない。

もちろん、繰り返しになるが、経済的見返りのために地域安全保障上の利益を差し出すといった、地政学的状況に影響を及ぼす「事実上の取引」が、特に台湾への武器売却をめぐって行われるかどうかは引き続き注視していく必要はある。支持率が落ち込んでいく中で、トランプ氏の対中レトリック・姿勢が厳しくなる可能性も排除できない。トランプ氏が対中経済取引を維持するのに腐心するか、台湾の武器売却をどう扱うかにこそ、トランプ氏が対中関係をどう管理しようとするつもりなのかが表れると思われる。中間選挙後も建設的な戦略的安定の関係が維持されるかが大きな注目点となろう。

米東部時間7月16日にトランプ氏は全米向けテレビ演説を行い、2020年の大統領選で中国による干渉があったと指摘し、それを情報機関が不当に伏せたと非難した。一部にはこれによって米中の建設的な戦略的安定の関係が終わるかもしれないという見立てもあったが、トランプ氏は演説でもその後も、中国に対する制裁や対抗措置を発表していない。演説では連邦議会に、選挙の投票資格と方法を厳格化するSAVE America Actの可決を要請するだけであった。(中国側も、報道官レベルで選挙干渉の事実はないと否定するに留まっている。)

日本の対米外交

これまで見てきた通り、中国が周辺国への威圧を強化・拡大しつつ日米(そして米台)の離間を企て、トランプ氏が日中関係の緊張緩和を望み、台湾への姿勢を従来とは異なる形で曖昧にする趨勢の中で、やはり地域の平和と安定のカギとなるのは日米関係である。今年3月下旬の高市首相の訪米時には、直前に「ホルムズ海峡に関する英・仏・独・伊・蘭・日・加及びその他諸国の首脳による共同声明」に署名して環境整備を図るとともに、首相はホルムズ海峡危機への対応に関して日本の法令でやれることとやれないことがあることをトランプ氏に説明しつつ、海峡への艦船派遣をめぐって摩擦が生じる事態を回避した。その後トランプ氏がホルムズ海峡への同盟国の関与について語った際に、日本に何度か消極的な文脈で言及したことがあったが、日米関係はこじれていない。また、前述したように、米中首脳会談で習氏が日本を批判した際に、トランプ氏は高市首相や日本と良好な関係にあると述べた。

これまでの経過をみる限り、高市政権の対米外交は成功している。それはなぜか。トランプ氏には一定の親日感情があるといわれるが、それだけではないだろう。高市政権がアメリカ向けの戦略的投資を段階を踏んで着実に進めていることが、経済的実利の獲得を重視するトランプ氏にとって大きな意味を持っていることは想像に難くない。アメリカ国内の集会における演説などで、たびたびトランプ氏が言及する諸外国からの対米投資の金額には、日本の対米投資額も含まれており、国内政治上の含意を持っているのは明らかである。もし日米経済関係がこじれていれば、トランプ氏は習氏の対日批判に反論しなかった可能性もあり、そうなっていれば、日米関係が大きく揺らいでいた可能性がある。

日本側が進める対米投資は具体的なものであるが、そこから得られるものには、個別案件の経済安全保障上の利益という目に見えるものに加えて、トランプ氏の良好な対日観の維持という目に見えないが大きな戦略的な利益がある。ベネズエラやイラン、その他のトランプ政権の政策や行動を切り取り、そのつどトランプ氏を批判して日米関係がこじれようものなら、それ以降トランプ氏そしてアメリカ政府への働きかけは効力を完全に失うであろうし、大統領は地域安全保障などの問題をめぐって中国寄りの姿勢をとらないとも限らない。そうなれば日本外交は致命的な打撃を被るし、そこで失うものを簡単に取り戻すこともできないだろう。日本としては、そうした甘受しえない危険なリスクも考慮しながら日米関係のあり方を冷静に判断していく必要がある(これはトランプ政権のあらゆる行動と政策を支持・是認すべきということと同義ではない)。イラン情勢が混迷を深めるほど、冷静で大局的な見方が重要になることを付言しておきたい。

日米関係を良好に保ち、トランプ氏が中国寄りに傾斜する外交上のリスクを抑えている高市政権の対米外交は、その意味で静かな成果を上げている。舵取りの難しい場面が押し寄せても、首脳関係がマイナスの方向にスパイラルするリスクを最小化しつつ(トランプ氏とイタリア首相との個人的な関係悪化は記憶に新しい)、トランプ政権の主要閣僚、さらには連邦議会有力議員も味方につけることによって、アメリカにとっての日本の戦略的価値を多面的に引き上げるべく、投資・輸入・経済安全保障・防衛産業・科学技術・文化交流・防衛協力といった幅広い分野で前向きな関係づくりを着実に進めてきたことが、対米外交の成果だといえる。ベネズエラやイランといった波乱が押し寄せてきても、巧みに対米関係を管理してきたが、それは対米追従などではなく、前述したような日米中関係をはじめとする複雑な国際関係の力学の中で、日本の安全保障上の利益を最大化ないし最適化する取り組みを静かに展開するものとみるべきであろう。

今後日本としては、戦略三文書と防衛予算を決め、同盟強靭化予算についてアメリカ側と交渉して確定し、トランプ政権の同盟フォーミュラの下で経済と安全保障の両面で日米同盟の基盤を固めつつ、日本自身の防衛力を強化するとともに、同志国との連携も強化していくことになる。この3本柱は相互に補強し合うものであるので、いずれも重要な意味を持っている。日米同盟について忘れてはならないのは、それが自国防衛と同志国連携という、それだけでは有効たりえない選択肢と、対中迎合・従属という受け入れがたい選択肢という、二者択一から日本を解放する道を提供しているということである。換言すれば、日米同盟が決定的に揺らげば、日本はこの二者択一を強いられる状況に陥るのであり、東アジアの安全保障環境の現状と展望に照らせば、それは日本の戦略的破綻を意味する。アメリカから距離を置くべきとする類の離米論は、自ら進んでこの二者択一の状況に進もうとする議論であり、そこに戦略性も合理性も認めることはできない。

アメリカでいずれの政党が政権を担当しているかにかかわらず、日本がアメリカと良好な関係を保ち、日米同盟を維持・強化すべきなのは、日米同盟が機能することによって日本自身の防衛力・日米同盟・同志国連携という実行可能かつ有効たりうる3本柱の戦略的アプローチを日本に提供するからである。中朝露の動向によって日本の安全保障環境が厳しさを増すほど、日本にとって対米同盟の戦略的価値と不可欠性が増していくという冷厳な事実を忘れるべきではない。アメリカ外交の行く末が不確実さを増しているのであれば、その不確実性のリスクを下げるための努力を行うべきなのであって、一面的な見方に立った離米論を煽ったり、アメリカとの関係に背を向けたり、距離を置けばいいということにはならない。なお、このことは「最悪のシナリオ」(それが何なのかは読者の想像に任せたい)の検討が不要だということを意味しない。

(了)

  1. U.S. Pacific Command, “Department of War Restores U.S. Pacific Command Designation,” June 16, 2026 <https://www.pacom.mil/Media/Press-Releases-and-Readouts/Article/4519249/department-of-war-restores-us-pacific-command-designation/>, accessed on June 23, 2026.(本文に戻る)
  2. Zack Cooper, “Asia After America: How U.S. Strategy Failed and Ceded the Advantage to China,” Foreign Affairs (March/April 2026), <https://www.foreignaffairs.com/united-states/asia-after-america-cooper>, accessed on June 23, 2026.(本文に戻る)
  3. 例えば、2023年6月にオーストラリア連邦、カナダ、日本、ニュージーランド、イギリス及びアメリカは、「貿易関連の経済的威圧及び非市場的政策・慣行に対する共同宣言」を出している。<https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_001487.html>(2026年7月23日参照)。(本文に戻る)
  4. 外務省「重要鉱物のサプライチェーン確保に関するG7首脳宣言」(仮訳)、<https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/101046857.pdf>(2026年7月23日参照)。(本文に戻る)
  5. 「米商務省、輸出管理強化の「関連事業体ルール」のFAQ公表、輸出者に積極確認義務」、JETROビジネス短信、2025年10月3日、<https://www.jetro.go.jp/biznews/2025/10/0bbb6c919c9c2895.html>(2026年8月7日参照)。(本文に戻る)
  6. 「中国、レアアース輸出管理を強化 防衛企業や半導体ユーザー対象」、ロイター、2025年10月9日、<https://jp.reuters.com/markets/commodities/PL7WQREFUNJVTOOFTS543AO4O4-2025-10-09/>(2026年8月7日参照)。(本文に戻る)
  7. 「米中協議の概要(10月30日、米中首脳会談)」、CISTEC事務局、2025年10月31日、<https://www.cistec.or.jp/service/keizai_anzenhosho/china/data/20251031.pdf>(2026年7月20日参照)。(本文に戻る)
  8. Lingling Wei, Amrith Ramkumar and Robbie Whelan, “Trump Officials Torpedoed Nvidia’s Push to Export AI Chips to China,” The Wall Street Journal, November 3, 2025, <https://www.wsj.com/world/china/trump-nvidia-china-chip-exports-51e00415>, accessed on July 21, 2026.(本文に戻る)
  9. David E. Sanger, “Trump’s Nvidia Chip Deal Reverses Decades of Technology Restrictions,” The New York Times, December 15, 2025, <https://www.nytimes.com/2025/12/09/us/politics/trump-nvidia-ai-chips-china.html>, accessed on July 21, 2026.(本文に戻る)
  10. Maggie Eastland and Ian King, “China to Let AI Firms Buy Nvidia H200s, Information Says,” Bloomberg, July 9, 2026, <https://www.bloomberg.com/news/articles/2026-07-08/china-to-let-ai-firms-buy-nvidia-h200-chips-information-says>, accessed on July 23, 2026.(本文に戻る)
  11. 「米商務省、先端コンピューティング関連製品の輸出許可要件に関するガイダンス発表」、JETROビジネス短信、2026年6月3日、<https://www.jetro.go.jp/biznews/2026/06/4e6356036e6ae77a.html>(2026年8月7日参照)。 (本文に戻る)
  12. Osmond Chia, “China's Moonshot AI stole from Anthropic, Trump tech adviser says,” BBC online, July 24, 2026, <https://www.bbc.com/news/articles/c5ye2gyz0x4o>, accessed on August 6, 2026.(本文に戻る)
  13. State Council Information Office of the Peoples’ Republic of China, “Full text: Keynote speech by Chinese President Xi Jinping at opening ceremony of 2026 World AI Conference,” July 18, 2026, <http://english.scio.gov.cn/topnews/2026-07/18/content_118605932.html>, accessed on July 23, 2026.(本文に戻る)
  14. U.S. Department of State, “Pax Silica,” undated, <https://www.state.gov/pax-silica>, accessed on July 23, 2026; “Pax Silica – An Initiative to Secure Supply Chains in the AI Era” undated, <https://paxsilica.org/>, accessed on July 23, 2026.(本文に戻る)

「SPFアメリカ現状モニター」シリーズにおける関連論考

  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(6)―北京米中首脳会談後の日米中関係(前編)」
  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(5)―北京米中首脳会談と台湾問題」
  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(4)―2026年5月の北京米中首脳会談」
  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(3)―日米関税合意の意義と今後の日米関係の課題(後編)」
  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(3)―日米関税合意の意義と今後の日米関係の課題(前編)」
  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(2)―ロシア・ウクライナ戦争をめぐる停戦外交とそのインプリケーション」
  • 森聡「第2次トランプ政権の外交・防衛(1)―抑制主義者と優先主義者の安全保障観と同盟国へのインプリケーション」
  • 森聡「ロシアによるウクライナ侵略とアメリカ(1)」
  • 森聡「新型コロナウィルス禍と当面の米中関係」
  • 森聡「米中フェーズ1合意と当面の米中関係」
  • 渡部恒雄「トランプ・ドクトリンの追加事項:イランとの緊張、大阪G20サミット、米中・米露・米朝首脳会談を経て」
  • 森聡「米中協議とファーウェイ、そしてトランプ―大阪G20前に」
  • 森聡「ワシントンにおける対中強硬路線の形成と米中関係(後編)」
  • 森聡「ワシントンにおける対中強硬路線の形成と米中関係(前編)」
  • 森聡「貿易とテクノロジーをめぐる米中関係(後編)」
  • 森聡「貿易とテクノロジーをめぐる米中関係(前編)」
  • 中山俊宏「ヒルビリー・エレジー的言説がどうしても必要だった理由」

この記事をシェアする

+

+

+

新着情報

  • 2026.08.07

    NEW

    第2次トランプ政権の外交・防衛(6) ―北京米中首脳会談後の日米中関係(後編)―

    第2次トランプ政権の外交・防衛(6) ―北京米中首脳会談後の日米中関係(後編)―
    アメリカ現状モニター
  • 2026.08.07

    NEW

    第2次トランプ政権の外交・防衛(6) ―北京米中首脳会談後の日米中関係(前編)―

    第2次トランプ政権の外交・防衛(6) ―北京米中首脳会談後の日米中関係(前編)―
    アメリカ現状モニター
  • 2026.08.07

    NEW

    「トランプ2.0のアメリカ」共和党編② MAGA研究②:「改革党」メディア候補たち:ブキャナン、ペロー、トランプ

    「トランプ2.0のアメリカ」共和党編② MAGA研究②:「改革党」メディア候補たち:ブキャナン、ペロー、トランプ
    アメリカ現状モニター

Title

新着記事をもっと見る

ページトップ

Video Title

  • <論考発信>
    アメリカ現状モニター
    Views from Inside America
    Ideas and Analyses
    その他の調査・研究プロジェクト
  • <リソース>
    米国連邦議会情報
    米国政策コミュニティ論考紹介
    その他SPF発信の米国関連情報
    VIDEOS
    PODCASTS
    出版物
    日米基本情報リンク集
    サイトマップ
  • 財団について
    お問い合わせ
  • プライバシーポリシー
  • サイトポリシー
  • SNSポリシー

Copyright © 2022 The Sasakawa Peace Foundation All Rights Reserved.