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論考シリーズ | No.200 | 2026.5.1
アメリカ現状モニター

「トランプ2.0のアメリカ」民主党編③
民主党を驚愕させた有権者調査:「労働者の党」か「エリートの党」か

渡辺 将人
慶應義塾大学総合政策学部教授

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本編は「『トランプ2.0のアメリカ』民主党編② 挙党的バイデン叩きと『嘆きの党』民主党の今を彩る3冊の『暴露本』」に続くシリーズ3本目です。

民主党の沈没を予感させた3つの衝撃の調査:マイノリティ労働者層の離反

民主党が中間選挙だけでなく2028年大統領選挙の勝利に確信を持つには、ニューヨーク市長選勝利の勢いとMAGA派の混乱(共和党編参照)だけでは材料が足りない。大統領側の政党が中間選挙で不利になるのは常で、それ自体は民主党の強さの証ではない。トランプの自爆に助けられて連邦議会で多数派に返り咲いても、将来に向けて3つの課題が残る。

  • MAGA運動が存続するのか(トランプのカリスマが継続するのか)。
  • 民主党が超党派協力が可能な共和党の旧主流派が力を取り戻せるのか。
  • 民主党が次世代の未来を託せる大統領候補を選べるのか。

いずれも相互に絡んでおり、トランプや共和党側の問題で民主党の努力ではどうにもならないことも多い。民主党側としてはトランプに奪われた票を短期的ではなく中長期的に取り戻せるのかが鍵になる。それは党の未来図や哲学と関係しているが、1992年のビル・クリントン、2008年のオバマに匹敵する民主党の多様な支持層を熱狂させる候補が現時点では見えない。すでに名前が上がっている候補の中の誰かが今から1年で「化ける」のか。それには足元の党内の糾合が欠かせず、それは「反トランプ」だけではもたない。トランプが1回ではなく2回も(しかも、現職再選ではなく間を置いて予備選もしっかり勝ち抜き)勝利した問題は根深い。アメリカの「トランプ問題」は「民主党問題」の写し鏡でもある。

ハリス敗北後、2025年の1年間、民主党は3つの民主党系の調査でパンチを段階的に浴びせられた。いずれも民主党への有権者の不信感を如実に可視化したものであり、民主党政治家たちを驚愕させた。有権者の民主党離れ、民主党の分断の危機が想像以上に深刻で根深いとわかったからだ。3つの調査を時系列に振り返ってみたい。

1:まず3月に、民主党系のデータ会社「ブルーローズ・リサーチ(Blue Rose Research)」1が「2024年大統領選挙」の票の流れをめぐる調査結果を発表した。この調査は、民主党が黒人、ヒスパニック系など人種マイノリティや移民層、若年層、そして政治的無関心層で支持を減らしたこと、労働者が求める経済争点で共和党にお株を奪われていることを数字で明らかにした。そのサンプルの大きさと調査手法の正確さから、メディアの世論調査とは異次元の衝撃を与えた。

2:そして4月以降、労働者層の本音を引き出す調査に特化した民主党系の調査プロジェクト「ワーキング・クラス・プロジェクト(The Woking Class Project)」2が、労働者が鍵になる州で全米的に「フォーカス・グループ」による聞き取り調査を展開した結果を報告し始めた。労働者が民主党を「労働者の政党」として見限り、文化リベラル争点ばかりに注力する「エリートの政党」と見なす中、黒人やヒスパニック系にも敬遠されている問題を彼らの肉声で明らかにした。聞き取り調査の発言があまりに生々しかったため、民主党政治関係者には報告を正視できないほどの嫌悪を与えた。

3:さらに10月、民主党系のシンクタンク「労働者層政治センター(The Center for Working Class Politics)」3の調査報告で、民主党のブランドがラストベルト4州のうち3州で足かせになっていることが明らかになった。「民主党候補」として出馬すると、全く同じ経済ポピュリズムの格差対策のメッセージを掲げても、無所属候補に8ポイント以上劣るという結果がでたのだ。これを彼らは「民主党ペナルティ」と名付けている。特に、労働者、ヒスパニック、地方、浮動票層で影響が深刻だった。政策上は労働者寄りの提案を示しても「民主党」である限り労働者層にそっぽを向かれ、トランプ政権が労働者に冷たい政策を維持しても労働者に許される。この調査報告はその矛盾した構造の背景にある「文化要因」を浮き彫りにした。

選挙現場の経験的敗因分析

もちろん、民主党の事情通は「労働者軽視」と受け取られたことがハリスの敗因だと頭では理解していた。2024年選挙直後に以下のような「反省」は出尽くしていたからだ。

「最も重要な要因は、「システム」とアメリカ経済が自分たちのために機能していないと多くの一般的なアメリカ人が感じたことである。失業率や雇用創出といった経済指標がかなり堅調だったにもかかわらず、である。経済指標は景気を有権者に説得するものではない。有権者にとって「経済」とは自分たちの経済なのだ。それに反することを説得しようとしても、有権者は自分の生活とかけ離れた人だと思うだけだ。多くの労働者階級の人々は、大卒のエリートたちに見下されていると感じている。選挙ではそのような有権者の多くが、経済的苦境を現政権に責任転嫁し、トランプをその体制を吹き飛ばす人物と見なした。(中略)労働者階級のアメリカ人の票を取り戻すには、民主党と進歩主義者が、民主党と進歩主義運動は彼らの味方であり、彼らの未来のために戦っており、民主党と進歩主義者と力を合わせれば、より良い生活を勝ち取ることができると説得する必要がある」(民主党全国委員会顧問のメモランダムからの引用)

「経済だけを語るべき。アイデンティティ政治は人を分断させるだけ。人種やLGBTQは重要だが、中心は経済であるべき。この5年、バイデン政権下で労働者の生活は本当に苦しくなった。多くの人が保険を解約され、失業もした。民主党の高給の政治コンサルタントは皮膚感覚で理解していない。大口献金者のことばかり気にして、反大企業的な経済ポピュリズムのメッセージを避けたがる。サンダースの発言は正しい。彼が格差だけを論じるのは、アイデンティティ軽視ではなく、そちらに引きずられると党内分断に引き込まれるどころか、労働者の文化保守性に持っていかれてしまうから」(筆者による民主党系戦略家・元ビル・クリントン陣営からの聞き取り)

2つ目の指摘は少しわかりにくいかもしれない。要するに、白人労働者は社会的には相当程度、保守的であるため、銃やキリスト教などの文化争点を選挙中の話題に過度にしてしまうと、共和党の誘導で文化争点に引き込まれ、労働者を奪われるという懸念である。経済に論点を絞ることが民主党の勝ち筋だという考えである。「黒人社会には男性優位の家父長的な性質が皆無とは言えず、女性初大統領を「黒人」で狙おうとすることの難しさ」(民主党系戦略家・元オバマ政権高官からの聞き取り)という指摘にも見られるマイノリティ内の社会的保守性が、負の作用を及ぼすことを抑止する意味合いもある。

これらは選挙現場の実感レベルの敗因総括であり、データに裏付けられていたわけではなかった。しかも、ハリスが「女性だから敗北した」という意見も大いに党内で燻っていた。経済重視派は「女性を候補にすると勝てない」と内心思い直し、女性活動家たちはフェミニズム・ジャーナリズムの旗手Ms.誌が嘆くように「ガラスの天井」の分厚さに落胆した4。

だが、トランプ政権下で女性政治家の不遇が全米で蔓延しているとまでは言い切れない。

第1に、民主党女性政治家の健闘だ。2025年11月の選挙でもヴァージニアとニュージャージーの両州知事選で民主党は女性候補で勝利したばかりだ。2024年にハリスが全敗した激戦州で上院が再選回だったのは、アリゾナ、ミシガン、ネヴァダ、ペンシルヴァニア、ウィスコンシンだが、そのうち民主党が敗北したのは、ペンシルヴァニアだけだった(「トランプ2.0のアメリカ①」で述べたように、現職のケーシーがカトリック信徒としてトランスジェンダー問題で共和党の激しい攻撃を受けた)。しかも、ウィスコンシン、ネヴァダ、ミシガンの3州は女性候補だった。無党派層含め女性政治家への信任は落ちておらず、無党派を含むアメリカ社会全体が急激に女性差別的になっているとは言い切れない。

第2に、争点的にも女性アジェンダに国民の大多数は共感を持っている。2024年に人工妊娠中絶に関する住民投票が行われた10州のうちアリゾナ、コロラド、メリーランド、ミズーリ、モンタナ、ネヴァダ、ニューヨークの7州が生殖権を憲法で保護する条項を可決した。これらの州の中には共和党優勢のレッドステートもある5。Ms.誌はこの女性の権利推進の趨勢がハリスに風を吹かせなかった問題に疑問を投げかける。

「出口調査によると、この一見矛盾した結果は、中絶問題よりも経済を懸念し、インフレによって個人的に不利益を被っていると感じていた有権者がはるかに多かった事実で説明できるかもしれない。あるいは、アメリカはこれまで女性とりわけ有色人種の女性を大統領に選出したことがなく、今回もその準備ができていなかったということかもしれない。」6

このMs.誌の推察は正しいだろう。シングルマザーやマイノリティ女性、勤労者女性の暮らしを支える経済政策があってこそのジェンダー争点である。

では、女性差別の問題はどうか。最高司令官に女性を選ぶことを躊躇する空気が保守派内にないわけではないが、その二重基準を乗り越えられないのは、ハリスが女性であると同時に人種マイノリティだからか(白人女性のヒラリーは一般投票で2016年に勝利している)、バイデン政権やハリス個人の資質の問題かは即断できない。いずれにせよ、ハリスの激戦州敗北の責任は、上院では概ね見事に勝利している州の合同選挙本部(上院選と大統領選の合同選挙本部で党の州委員会が支えて運営される)ではなく、民主党全国委員会、旧バイデン陣営、それを引き継いで新規で組まれたハリス陣営に帰するものだと言える。

衝撃調査①:民主党はLGBTの政党? 労働者争点への信頼を共和党に奪われた2024年

まったく女性マイノリティ候補に勝ち目はなかったのか。「ブルーローズ・リサーチ」のデータサイエンティストであるディビッド・ショアは、激戦州の全てで敗北しているのにそれぞれ差は決定的ではないことを理由に、2024年大統領選は民主党が勝てた選挙だったと論じる7。つまり、データに基づく戦略的な資源配分により、激戦州の中の重点州に特化していれば選挙人の積み増しにおいて逆転もあり得たという推論である。

同調査を行ったショアは、数学専攻で大学を飛び級卒業し、ネイト・シルバーに見出されて民主党系のデータ専門家となった人物である。2012年のオバマ陣営で世論調査分析を担当し、得票を誤差1%以内で的中させた。同氏の会社は巨大なサンプルによる世論調査、投票区単位の調査、誰が投票したかしなかったかを浮き彫りにする有権者ファイルなどを統合し、2024年にのべ2600万人の聞き取り調査を行った。極めて広範かつ詳細な調査で、民主党が目を背けたくなる不都合な真実を明らかにした点で画期的であった。

ブルーローズ・リサーチ調査によれば、2024年に民主党は移民マイノリティ層、若年層、政治的無関心層の支持を減らした。2016年から2024年にかけて継続的に減少傾向にあるのは、黒人(穏健3%、保守8%の減少)、中南米系(リベラル8%、穏健23%、保守17%の減少)、アジア系(リベラル3%、穏健11%、保守8%の減少)であった。なかでも中南米系穏健派の離反は極めて大きい。また、看過できないのは、移民の法的立場による分裂であった。合法移民の非合法移民への態度は決して同情的なものではない。サンベルト地域の中南米系は、古い世代からの家系ほど共和党支持に傾くことが少なくなく、非合法の移民の強制送還にも賛成する。このことは筆者が2011年にニューメキシコ州のアルバカーキに住み込んで行ったフィールド調査(リバタリアンの共和党州知事候補の邸宅などに参与観察目的で居住しながら、共和党中南米系政治家、中南米系有権者に対して全州で広範に聞き取りした調査)8でもすでに明らかだったが、それが大統領選挙でも浮き彫りになった。

図2:渡辺将人「二〇二四年米大統領選挙:民主党敗北と民主主義の危機」、佐橋亮・梅川健編『トランプのアメリカ』(東京大学出版会、2025年、52ページ)より

図2:渡辺将人「二〇二四年米大統領選挙:民主党敗北と民主主義の危機」、佐橋亮・梅川健編『トランプのアメリカ』(東京大学出版会、2025年、52ページ)より

26歳以下の若年層では「非白人男性」「非白人女性」「白人男性」「白人女性」の中で、ハリス支持が過半数に達したのは「非白人女性」だけだった。残りの3カテゴリーは20歳以下では過半数がトランプを支持した。若年層のジェンダーギャップは顕著な分断を示している。「ジェネレーションZ」を単純にリベラル集団だと捉える「世代論の罠」に警鐘を鳴らした筆者の指摘9を裏付ける結果となった。
また、政治無関心層のトランプ支持が1.4ポイントほどハリスを上回った。政治に無関心な人ほどトランプ支持に傾く傾向は、過去に投票したことがない新規の票の掘り起こしをすればするほど民主党に不利だという厳しい現実を意味する。同調査は全ての有権者が仮に投票した場合、トランプが4.8ポイント差で勝利するという予測を示した。

図2:渡辺将人「二〇二四年米大統領選挙:民主党敗北と民主主義の危機」、佐橋亮・梅川健編『トランプのアメリカ』(東京大学出版会、2025年、52ページ)より

図2:渡辺将人「二〇二四年米大統領選挙:民主党敗北と民主主義の危機」、佐橋亮・梅川健編『トランプのアメリカ』(東京大学出版会、2025年、52ページ)より

最後に何より衝撃的だったのは、有権者の75%以上が重要だと考える争点の全て(生活費、経済、インフレ)で共和党に信頼が集中したことだ。優先度が高い争点で民主党への信頼が僅かに上回っているのは医療保険だけで、貧困、住居、社会保障などでは両党への信頼が同等か共和党に寄っている。トランプの共和党が労働者への期待を拡大し、政党としての変質を遂げていることを如実に物語る。民主党に圧倒的な信頼が集まる争点はLGBTQであるが、この争点への有権者の重要度は1割未満で、有権者「全体」の需要とはミスマッチが存在した10。

衝撃調査②:中間層としての「労働者層」、白人に限定されない労働者の本音

2025年4月に始動した民主党系の調査プロジェクト「ワーキング・クラス・プロジェクト(The Woking Class Project)」は南部目線の労働者層に特化した有権者調査である。ルイジアナ州の名門民主党政治家家系のランドリュー家のミッチ・ランドリュー元ニューオリンズ市長が、9州でのフォーカス・グループ、11州でのオンライン調査からスタートした。彼らは調査対象をいわゆるMAGA化した「白人労働者」に限定していない。また「貧困層」と「労働者階級」を分けている。「労働者階級」については、「常に生活費をやりくりするのに苦労しているが、自らの努力でそれを乗り越える」「給料だけで生活し、休暇を取る余裕はない」中間層と定義している。

彼らの調査によれば労働者層は「経済的に自分より上の人々は生活費のやりくりに苦労をしていない」と考え、他方で自分より下の人々を「政府の援助に頼っている」と考えている。つまり、ここでいう労働者層は、自活する勤労層で、政府援助に依存する貧困層のことではないことに注意が必要だ。ここが日本では混合的に理解されることがある。富裕層に不満を募らせる一方、非合法移民の「ただ乗り」(と彼らは見る)現象に厳しいのも、最貧層ではない納税者・勤労者(労働者層)だからだ。

「労働者階級」の職業も「工場労働者、整備士、肉体労働者」だけでなく、専門職である教師、看護師、賃金のさほど高くない大企業のホワイトカラーも含んでいるという。つまり彼らが指摘するように「労働者階級」とは厳密な意味では職業や学歴による分類ではなく、労働に見合った報酬を得られていないという生活者の「不満の感情」を表象した定義である。ラストベルトの製造業の「白人労働者」よりも広範な職種、学歴、人種にまたがる「労働者階級」定義をしているのがこの調査の特徴だ。「非大卒」「白人」を労働者の分類定義に使用する通常の区分けと異なる。以下、初動の調査の概要をまとめる。

同調査では、労働者階級の有権者は民主党について肯定的な意見をほとんど持たず、民主党の支持率が歴史的な低水準にあることを示す世論調査と一致している、と結論を下している。調査対象の労働者は「民主党はかつて労働者階級のために戦う政党だったが、今では弱体化し、エリート主義で、現実離れし、媚びへつらい、間違ったことに注力している」と語る。さらに、民主党が「ポリティカル・コレクトネス」に固執することに労働者層が苛立ちを覚えているという。以下、「分野」ごとに調査回答を抽出して訳出する。

「経済」
労働者層(主にトランプ支持者だがそれ以外も含む)は、「民主党の経済政策は無力で、日常生活の負担軽減よりも他の問題に注力している」と感じている。「民主党は税金を上げて外交問題・社会問題など経済的に自分たちに利益をもたらさない分野に資金を注ぐ」と疑っている。

「[民主党は]人々が働きたいと望んでいることを理解していない。大半は自力で生計を立てたいし、稼いだ金を政府に全部取られたくない。働く気のない怠け者を補助したくない。永遠に他国を補助したくない。DEI(多様性・公平性・包摂)など望んでいない。人々は自らの努力で得た地位を望んでいる。肌の色を理由にそれを得られないと言われたり、肌の色を理由に地位を得たと言われたりしたくない」 (ミシガン州在住の43歳の白人男性)

「政府は人々の行動に介入すべきではない。人々はあらゆる面で政府に依存しすぎており、それが依存的な国民を生み出す原因だ」 (ウィスコンシン州在住の34歳黒人女性)

「民主党は政権を握っていない時だけ『闘争心』を見せる。政権を取ると、アメリカ国民以外のあらゆる層に迎合する。経済を活性化させる4年間があったのに、代わりに(我々が知る限り)2つの戦争の資金を負担させることを選んだ」 (ジョージア州在住の47歳黒人女性)

「外国での戦争や我々の関与には強く反対だ。民主党は全体として、明らかな常識的問題に対する方向性を失っていると思う。例えば不法移民、ウォークネス(Wokeness)、イデオロギー政策、無駄遣いへの反対など」 (アリゾナ州在住の33歳白人男性)

「社会・文化問題」
民主党が経済問題よりも「ウォーク(Woke)」的価値観11、リベラルな社会問題に注力しすぎと考えており、特にトランスジェンダー問題を中心に社会問題を押し付ける民主党への不満が表明された。興味深いのは経済的な対策よりも文化問題を優先した場合、経済的に苦境にある人は「自分たちを軽視した」と考える傾向だ。つまり個別に魅力的な経済政策を打ち出しても、同じ選挙サイクルで尖った文化問題を後押しすると、経済政策に対する有権者の満足度が激減するリスクがある。言い換えれば、トランスジェンダーの権利やポリティカル・コレクトネスを主張すると、候補者や政党が同時に経済対策も訴えているのに、労働者層には「何も経済を訴えていない」という印象一色になりがちである。このトレードオフ原則は「経済も」「リベラルな文化も」の全部取りを民主党に不可能にさせている。

「残念ながら、過去に比べ民主党は経済問題より社会進歩的課題に関心が高い。現在民主党が気にかけているのはウォーク問題だけのように見える」(アリゾナ州在住の33歳白人男性)

「彼らは核心的な問題にもっと集中すべきだ。多くの議員がトランスジェンダー問題のような周辺的な問題に飛びつく。私はそんなことどうでもいい。より多くの人々に影響する問題を解決してほしい。それから小さな問題に取り組めばいい」(ジョージア州在住のアジア系男性)

「[民主党は]人気のある『包括性』に迎合しているが、私の年齢では自分が包含されるかどうかは気にしない。十分な収入を得たいだけだ」(ノースカロライナ州の黒人男性)

「多くの民主党員は自分たちが包摂の党だと主張している。『我々は全ての人を受け入れる。我々は非常に『目覚めている』』と。だが民主党と意見が1つでも食い違うと——たとえ80~90%の議題で合意していても——彼らは攻撃し、排除しようとする。100%同調しない限りクラブから追い出される。これこそ包摂的とは言えない」(アリゾナ州在住の38歳中南米系女性)

「移民問題」
トランプの移民政策を批判しつつ、少なくとも問題に取り組んでいる点は評価している。一方民主党は何もせず問題を悪化させただけだと述べている(ただし、この調査はICEによる暴力的な取り締まりの問題が深刻化する以前であることには注意が必要)。

「両親がここに来るのに何年もかかった。私はバイデンに投票した。今やバイデン政権は人々(移民)に亡命許可を与え、彼らを合法化し、就労許可を与える。だから市場に大きな負担がかかっている。南米人に過剰な亡命許可を与えている。トランプはそれを中止した。良い判断だ」(ジョージア州在住のアジア系男性)

「今は厳しい状況だ。我々は苦痛の段階にいる。関税や帰国すべき不法移民について不満を言う人々には同情するが、状況は変わり、良くなければならない」(ノースカロライナ州在住の白人女性)

「彼ら(民主党)は権力を得るために中南米系票を利用し、それから2年経った今も移民改革は進んでいない。本当に胸が張り裂ける。私は彼らを信じて選挙運動までしたのに。でも彼らは完全に我々を無視している」(コロラド州在住の中南米系女性)

「ワーキング・クラス・プロジェクト(The Woking Class Project)」調査は、民主党への総合評価を「トランプ一辺倒すぎ」(民主党は自らの理念や生活を改善する政策を推進するよりも、トランプへの反対姿勢で定義づけられすぎている)、「高齢化」(老人政治に陥り、トランプ大統領の一般教書演説で見られた抗議活動のような時代遅れの戦術に固執している)と総括した。トランプのメディケイドや社会保障削減、関税政策への批判は民主党の本領発揮のチャンスと考える一方、労働者層に限っては「トランプのブランド力は民主党をはるかに上回っている」という悲観論も披露した。

衝撃調査③:「民主党ペナルティ」―負のブランドとしての党名?

さらに2025年10月、民主党系のシンクタンク「労働者層政治センター(The Center for Working Class Politics)」12の調査報告が以下を明らかにした。

1. 強力な経済ポピュリズムは、広く深く支持されている。「経済ポピュリズム」は企業の貪欲さや経済エリートを名指しで攻撃するメッセージだが、穏健なメッセージよりも高い支持率を示した。

2. 調査対象のラストベルト4州のうち3州で、民主党のブランドが大きな足かせとなっていた。2名の候補者の対決を想定したシミュレーションでは、民主党候補は「まったく同じ経済ポピュリズムのメッセージを発信した場合でも、無所属候補に比べて8ポイント以上も支持率が低かった」。これを同センターは「民主党ペナルティ」と名付けている。この「ペナルティ」は、労働者階級、中南米系、地方在住者、浮動層で最も顕著で、ミシガン、オハイオ、ウィスコンシンでは11~16ポイントの範囲で「ペナルティ」が顕在化したという(ペンシルベニアでは民主党候補に同様のペナルティは認められなかった)。

3. 有権者の民主党に対する幻滅は、イデオロギー的な過激さよりも失敗に起因している。民主党支持者、共和党支持者、無党派層を問わず多くの回答者は、民主党を「腐敗、現実離れ、労働者のために戦う意志がない」と回答しており、大半は民主党を「労働者による、労働者のための経済的ポピュリスト政党」とは見ていない、という結果が出た。同センターはこの原因を(「あくまで一因」としながらも)、民主党が「ウォーク」であると見なされていることにある、と結論づけている。他方、党への不満の核心として「ウォーク」問題を具体的に挙げた者も少数だったとしており、見えない嫌悪の対象としての「ウォーク」が「何なのか」、その定義も労働者層には定まっていないことも浮き彫りになっている。

4.経済政策では、「コスト削減、企業の横暴な行為の抑制、エリート層への責任追及(医薬品価格の上限設定、富裕層への課税、連邦政府による雇用保証の実施)」などが高い支持を得た。

同センターは「民主党はラストベルトの労働者階級の有権者を取り戻せる可能性があるが、それは数十年にわたる経済停滞の打開を党の最優先課題とする大胆な経済ポピュリズムキャンペーンを展開する場合に限られる」と述べる。献金主であるビジネス界と縁を切れない民主党政治家には受難の時代であることから、ニューヨーク市長選におけるマムダニ勝利とクオモの敗北を予見していたとも言える。同センターは「民主党は、雇用主や資金提供者ではなく、労働者階級の政党であることを明確に確立する道筋を築かなければならない」と唱える。

「民主党ペナルティ」の問題は、民主党に静かな衝撃と分断の種を与えている。オハイオ州のシェロッド・ブラウン元上院議員は、サンダース以上に労働者寄りの政治家で知られ、歩く「経済的ポピュリズム」のような候補だった。ブラウンが「民主党」というレッテルのために2024年の選挙で敗北した原因もこの調査は補完した。他方、ネブラスカ州で上院選に出馬した海軍の退役軍人で労働組合員の整備士であるダン・オズボーンは「民主党」という看板を捨て、無所属で出馬した。賃金引き上げや雇用などのメッセージに集中し、ハリスが20ポイント差で敗れた州で、現職共和党議員を7ポイント差まで追い詰めた。

労働者層政治センターは、オズボーンの選挙戦が「有権者が政党の看板を掲げる候補者よりも、無所属のポピュリスト候補に対してよりオープンであることを示唆する」としながらも、「候補者の個人的な経歴やアウトサイダーとしてのイメージのおかげか、それとも民主党員ではなく無所属として立候補したからなのか」については地域や選挙区によるいくつかの事例を挙げるにとどめて即断していない。実際、筆者が参加しているシカゴの民主党オンライン会議では、とある候補者が「民主党ペナルティ」を恐れて無所属で出ようとしていることが明かされ、「あんな奴はもう民主党ではない。応援できない」と糾弾と落選活動の対象になってしまった。

文化的に左派性が薄く、経済的に苦境の労働者層が多い選挙区では、政治性が不透明な新人ならば「無所属」であることが効果的でも、「文化」左派性が強い選挙区では長年民主党政治家の色が染み付いている候補が突然「無所属」で出たところで、不誠実な票集めに見えるだけで逆効果になるだろう。「ペナルティ」回避で民主党の旗印を掲げない候補を「忠誠心欠如」で糾弾する動きは否定できず、これが民主党内の新たな分断の種になっている。そもそも、市議選や小さな選挙区では「無所属」出馬が可能でも、選挙区が大きくなるほど政党の組織力が要る。大統領選挙で第三候補が通用しないのは、サンダースの民主党合流の決断が示している通りだ。

以上、民主党内で話題となった3つの調査を見てきた。これらに共通して浮き彫りになるのは、第1にトランプ支持層は「白人労働者」から「多人種多民族労働者」の連合に拡大しつつあること、第2にトランプ時代の労働者問題は「経済争点」ではなく「文化戦争」だという問題だ。マムダニが勝利したニューヨーク市のようなリベラルな大都市はともかく、中西部ではもはや「民主党」の看板自体が労働者層の支持獲得にはマイナスのイメージでしかないとすれば、民主党はどうすれば良いのだろうか。

トランプ支持率の低迷に乗じて中間選挙で勝利し、その先のホワイトハウス奪還を目指す中、民主党は「3つの流派」が「経済」と「文化」で路線対立を深めている。次号では、今回の調査で示された「労働者票」問題を受け、穏健派・リベラル派で片付けられてきた民主党内流派を「経済」「文化」の2つの指標で分類し直す修正的分類の試みを紹介する(「トランプ2.0のアメリカ」民主党編④ 民主党流派の「内政」新分類学:「新世代」から「アバンダンス」まで:近日公開)

(了)

  1. 2024 Retrospective and Looking Forward Blue Rose Research, March 2025, < https://blueroseresearch.org/>, accessed on April 25, 2026.(本文に戻る)
  2. Ian Sams and The Working Class Project, “Working Class Weekly: An Initial Snapshot of Views of the Democratic Party”, Apr 22, 2025, <https://workingclassproject.substack.com/p/working-class-weekly-an-initial-snapshot>, accessed on April 25, 2026.(本文に戻る)
  3. Jared Abbott, Les Leopold, and Todd Vachon, “Democrats’ Rust Belt Struggles and the Promise of Independent Politics”, Report, October 6, 2025, <https://images.jacobinmag.com/wp-content/uploads/2025/10/06162308/CWCP-report-251006-1.pdf>, accessed on April 25, 2026.(本文に戻る)
  4. Jodi Enda, ”Women Support Harris, but the American Presidency Remains a Male Bastion”, Ms., November 7, 2024, <https://msmagazine.com/2024/11/07/women-vote-harris-trump-men-president/>, accessed on April 25, 2026.(本文に戻る)
  5. Carrie N. Baker, “Arizona and Missouri Legalize Abortion; New York Passes ERA”, Ms., November 6, 2024, <https://msmagazine.com/2024/11/06/arizona-missouri-abortion-ballot-measures-new-york-era/>, accessed on April 25, 2026.(本文に戻る)
  6. Jodi Enda, ”Women Support Harris, but the American Presidency Remains a Male Bastion”, Ms., November 7, 2024, <https://msmagazine.com/2024/11/07/women-vote-harris-trump-men-president/>, accessed on April 25, 2026.(本文に戻る)
  7. Ezra Klein, “Democrats Need to Face Why Trump Won”, New York Times, March 18, 2025, <https://www.nytimes.com/2025/03/18/opinion/ezra-klein-podcast-david-shor.html>, accessed on April 25, 2026.(本文に戻る)
  8. 渡辺将人『分裂するアメリカ』(幻冬舎新書、2012年、2章「移民で変わりゆくアメリカ」74ページ)、渡辺将人『現代アメリカ選挙の変貌―アウトリーチ・政党・デモクラシー』(名古屋大学出版会、2015年)でもヒスパニック系の合法移民の厳しい非合法移民への感情について報告した(第3章「2010年選挙:保守派の草の根運動とヒスパニック票」136ページ)。(本文に戻る)
  9. 「10代のうちは無党派支持がトップで白人男性は圧倒的に共和党支持である。特に男性でその傾向が強い。20代になると緩やかに民主党支持傾向が露見してくるが、それも女性や非白人の傾向で、男性の「ジェネレーションZ」は20代でも民主党支持が無党派を上回らない。つまり、メディアを通して伝えられる「ジェネレーションZ」の左派的印象は、非白人の女性、20代以降の若者の傾向で、白人男性の10代には必ずしも当てはまらない」(渡辺将人「世代論の罠―「ジェネレーションZ」とその特質」(西山隆行、前嶋和弘、渡辺将人『混迷のアメリカを読み解く10の論点』慶應義塾大学出版会、2024年、113ページ))。(本文に戻る)
  10. 本節は、渡辺将人「二〇二四年米大統領選挙:民主党敗北と民主主義の危機」(佐橋亮、梅川健編『トランプのアメリカ』(東京大学出版会、2025年))を図表含め一部抜粋して改稿している。(本文に戻る)
  11. 次号で検討する「新世代左派」の中心的な性質で「ウォーク・レフト(woke left)」と呼ばれるが、woke(目覚め)とは社会正義や人種正義を訴える活動家の呼称で、「ラディカル」と同様に共和党や民主党の他グループからの中傷的含意もある。(本文に戻る)
  12. Jared Abbott, Les Leopold, and Todd Vachon, “Democrats’ Rust Belt Struggles and the Promise of Independent Politics”, CWCP Report, October 6, 2025, <https://images.jacobinmag.com/wp-content/uploads/2025/10/06162308/CWCP-report-251006-1.pdf >, accessed on April 25, 2026.(本文に戻る)

「『トランプ2.0のアメリカ』民主党編」シリーズ

  • 渡辺将人「『トランプ2.0のアメリカ』民主党編② 挙党的バイデン叩きと『嘆きの党』民主党の今を彩る3冊の『暴露本』」
  • 渡辺将人「『トランプ2.0のアメリカ』民主党編① 迷走の民主党20年越し『デジャブ現象』とマムダニ勝利」
 

「SPFアメリカ現状モニター」シリーズにおける関連論考

  • アメリカ現状モニター「米国選挙(中間選挙・大統領選挙)関連論考などまとめ」
  • 渡辺将人カマラ・ハリス 3つの悩み:民主党史上最強の「ドリームチーム」か脆弱な「パッチワーク」か
  • 渡辺将人「トランプ党」完成化とケネディ支持派のリバタリアン合流」
  • 渡辺将人「ウォルズ夫妻と中国:天安門事件の年から、広東とチベットに広がった「物語」
  • 渡部恒雄「10月7日ハマスのイスラエルへのテロから一年:中東と国際秩序は危険水域に入った」
  • 渡辺将人「ヴァンスはオバマと同じ「物語候補」 -Dreams from My FatherとHillbilly Elegy」
  • 西山隆行「J.D.ヴァンスの副大統領指名と共和党のトランプ党化、その限界」
  • 渡辺将人「民主党左派とカマラ・ハリス:「擬似サンダース政権」継続圧力と予備選の洗礼なき指名の功罪
  • 渡辺将人【特別転載】「アメリカのエスニック「部族主義」ハリスとオバマともうひとつの人種問題」
  • 中山俊宏「ヒルビリー・エレジー的言説がどうしても必要だった理由」

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