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論考シリーズ | No.210 | 2026.8.7
アメリカ現状モニター‍

「トランプ2.0のアメリカ」共和党編②
MAGA研究②:「改革党」メディア候補たち:ブキャナン、ペロー、トランプ

渡辺 将人
慶應義塾大学総合政策学部教授

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本編は「『トランプ2.0のアメリカ』共和党編① MAGA研究①インフルエンサーMAGA vs草の根MAGA?:『トランプ4本柱』」に続くシリーズ6本目です。

トランプ大統領の源流は「2人の政治家」と「1つの政治運動」に辿ることができる。トランプは常々マッキンリー大統領が理想と述べるが、自らのブランディング上の例示対象であって、必ずしもルーツではない。存命の人物を理想像にするのはプライドも許さないだろう。しかし同時代にもMAGA系譜の源流的な政治人物は存在する。それがパット・ブキャナンとロス・ペローである。なお「1つの政治運動」とはティーパーティ運動のことだが、これは次回に論じる。

「改革党」とは何か:超党派的アウトサイダー政党のルーツ

ブキャナン、ペロー、トランプは短期間だが、1つの政党に仲間として集っていたことがある。改革党(Reform Party)である。1995年にペローが設立した政党で、2026年現在も存在しており、4年に1回の大統領選挙では党の候補者を指名している。「中道」を自ら謳っているが、これが曲者で「二大政党以外の第三政党にもチャンスを」という党是を比喩的に表現したものにすぎない。共和党、民主党に反発する人物なら誰でもウエルカムで、結局のところ候補者のイデオロギーは「中道」という党是とは程遠い左右どちらかの急進派が多い。いわば超党派の反グローバリズム政党で共和党と民主党にそれぞれ幻滅した右と左のラディカルを包摂してきた。

2016年にペロー、2000年にブキャナンを指名したところまでは保守寄りのアウトサイダー政党だと理解できるが、2004年には環境保護活動家のラルフ・ネーダー(2000年には緑の党で出馬)、2024年にはトランプ政権で厚生長官になったケネディJr.を指名している。極右、極左入り乱れてイデオロギー的には支離滅裂だが、反既存政治、アウトサイダーという点では一貫している。「MAGA党」「トランプ党」のようなものが共和党の中に形成されつつあるとすれば、それはある意味では「改革党」が30年前にすでに体現していたものだったし、トランプ自身も改革党に身を置いていた。それなのにトランプ論で「改革党」がさほど言及されないのは、トランプが関わっていた時期が短いことや改革党がペロー旋風以降は芳しい成果をほとんどあげられていない典型的な泡沫政党だからだ。1998年ミネソタ州知事選でプロレスラーのジェシー・ベンチュラを勝利させたことはあったが、リバタリアン党などと同じ、二大政党には無視される小さな政党として残存している。

アメリカでは二大政党以外は大統領選挙で勝利できないという結論を誰よりも理解したのが、1992年の大統領選挙で本選一般投票19%と異例に健闘し、改革党を立ち上げた張本人のペローだったのは皮肉だ。1996年に政党を結党したのに、政党を旗揚げせず個人で出馬した1992年ほどの支持が得られなかった。二大政党以外の政党の候補にアメリカ人は現実的な期待をしないと悟ったペローは、2000年選挙で自分の作った政党の候補(ブキャナン)を支援せず、共和党を支持する珍事を巻き起こした。その後もペローはブッシュ息子、ロムニーと共和党候補を支持し続けた。

かくして2000年大統領選挙に向けて一時盛り上がった改革党「ブキャナン・ペロー・トランプ」のドリームチームはあっけなく瓦解したが、結党30年を経た2016年のトランプの共和党予備選勝利と大統領本選勝利により、「共和党の乗っ取り」という形で改革党の悲願を開花させたという見方もできる。

「アメリカ・ファースト」と反自由貿易の共通項:人種問題で変節したトランプ

ブキャナンの思想はパレオコンサーバティブ(パレオコン)と称される旧保守で、対外介入主義のネオコンへの対抗軸として注目された。冷戦終結と共に「アメリカ・ファースト」の非介入主義、反移民、反グローバリズム、反自由貿易を掲げた。ちなみに「なんとかファースト」というのは共和党好みのいつものフレーズで、トランプの発明品ではない。2008年共和党マケイン陣営のスローガンは「カントリー・ファースト」だった。日本でも『病むア メリカ、滅びゆく西洋』(2002年)の邦題で刊行されたThe Death of the West: How Dying Populations and Immigrant Invasions Imperil Our Country and Civilization(2001年)などの著作に代表されるように白人の優位性の黄昏を嘆く論調である。ただ、トランプと違ってブキャナンは根っからの政治インサイダーであり、ワシントンのエリート層の人間だった。

他方、テキサスの実業家ロス・ペローはワシントンとは距離を置く「反エリート」の政治アウトサイダーのビジネスマンという点でトランプと一致していた。1992年の大統領選で第三候補として出馬し、ブッシュ父とビル・クリントン相手に19%を獲得した。反移民、反自由貿易でクリントン政権期にはNAFTA批判を展開し、ブキャナン、トランプと類似した反グローバリズムを掲げていた。

筆者は共和党の友人を介し、ブキャナン後援幹部筋のアメリカ人から2000年大統領選挙のブキャナン陣営での仕事を許可されたことがある。在日歴のある親日的支援者の推薦だったからかもしれないが、ブキャナンにも移民嫌悪と外国嫌悪(特に同盟国)の間に質的な一線はあった。しかし筆者は当時すでに連邦下院議員事務所からニューヨーク州民主党合同選挙本部に推薦されていたため辞退したが、ブキャナン陣営に参加していたら改革党選挙に巻き込まれてトランプの選挙戦も見聞していたかもしれない(奇しくも、ニューヨークの民主党陣営でも、改革党とトランプ出馬騒動の余波の捕捉は業務の一つとなった。トランプのクリントン夫妻への暴露を含む発言警戒、ニューヨークのアジア系やマイノリティへの発言監視を通して、トランプとは延々向き合うことを迫られた)。

トランプを昔から知る人物が口を揃えるのは、トランプについて1980年代から一貫して変化がないのは貿易に対する姿勢だけで、それ以外には思想や哲学がなく常時変節することだ。一番酷い変節は人種やジェンダーに関するポリティカル・コレクトネスである。前回見たMAGA「4つの柱」の一つにDEI批判を据え、「#MeToo」運動のターゲットになっている「差別主義者トランプ」の印象が強い人には信じ難いことだが、筆者の選挙現場の記憶でもニューヨーカーのリベラル派でトランプを人種差別主義者だと認識していた人はほとんどおらず、「奇天烈な大富豪」だが人種的には「マイノリティの友」とされていた。現に改革党をトランプが離れた要因の一つはブキャナンとの不和で、ブキャナンのことを「ヒトラーに傾倒している」「反ユダヤ主義だ」とトランプが公然と批判し関係が悪化した。マイノリティにとっては改革党の「善玉」だった。

実際、トランプは2000年の改革党での出馬における「トランプ政権」の陣容で、副大統領候補に黒人女性司会者オプラ・ウィンフリーを指名したいと公言した。CNNで「もし彼女が引き受けてくれたら、最高だろう。彼女は人気があるし、頭も切れるし、素晴らしい女性だ」とベタ褒めし、オプラのファンの女性層に喝采を浴びた1。他にも閣僚候補に地元ニューヨーク州選出の黒人下院議員チャールズ・ランゲルを挙げるなど黒人や女性を中心に民主党に親和的な態度を売りにしており、筆者の聞き取りでも当時のアジア系のコミュニティ指導者の間でトランプに対して白人至上主義の印象は極めて薄かった。

それだけに、筆者らニューヨーク政治のトランプ・ウォッチャーの間では、四半世紀後に「差別主義」の体現者と化したことの衝撃の方が、大統領になってしまった衝撃より大きい。要するに、トランプにとって人種もジェンダーも、アイデンティティはどれも「マーケティング」の対象であり、ニーズがあれば調整してしまえる程度のものでしかない。白人至上主義でもイスラエル支持者でもないが、他方でそれらに毅然と反対して立ち上がる一貫性もない。人種問題も移民への態度も、彼には視聴者向けの「役作り」にしか過ぎない。思想はどうであれ「筋金入り」よりも不誠実で、本質的な意味で政治的には危険な人物であると言える。

ブキャナン:怒鳴り合い演出のディベート風番組、保守系TV政治コメンテーターの草分け

「改革党」「反グローバリズムのアメリカ・ファースト」など以外でブキャナン、ペロー、トランプの3者に共通していたのは、TV全盛期のメディア人だったことだ。3人ともテレビカメラの前で短い「サウンドバイト」を生成する能力に長けたテレビ人間で、独特のキャラクターでNBC「SNL(サタデー・ナイト・ライブ)」でコメディアンのモノマネの対象になるようなポピュリズム性を備えていた。

ブキャナンはニクソン大統領のスピーチライター、レーガンのコミュニケーション担当官としてプレス操作を知り尽くしていた。1980年代にアメリカ式の「パンディットpundit」(TV政治コメンテーター)の草分けとして地位を固めた「テレビ人」である。1984年以降「マクラフリン・グループThe McLaughlin Group」2のレギュラーのパネリストとして名を馳せた。この番組は左右合わせて4人のパネリストが司会のジョン・マクラフリンの煽り質問に大声で反論するフォーマットだった。パネリストは早口で過激な意見、断定調の予言を求められ、相手に被せて話し続け同時に3人4人の声が重なり続けるほど盛り上がる。司会のマクラフリンには逆らえず、彼が激昂して怒鳴りだすと新米パネリストは叱られ役としてやり込められた。

右と左の激突をショーとして見せ物にするディベート風エンタメのトーク番組は、1980年代から1990年代にアメリカのケーブルTVでは低予算で安定した視聴率を稼ぐコストパフォーマンスの良い稼ぎ頭コンテンツになっていった。米三大ネットワークの報道支配をCNNが崩せたのは、衛星中継を駆使した国際報道が高く評価されたからだ。冷戦末期の激動の世界情勢が、現地の様子を速報で伝えるニュース専門局の価値を高めた。特に天安門事件と湾岸戦争の報道でCNNは放送ジャーナリズムの地位を確立した。しかし、天安門事件や湾岸戦争のような重要な国際ニュースが連続するわけではないし、取材コストが制作費を圧迫した。そこでCNNは有り余る放送枠をO.J.シンプソン事件やジョンベネ・ラムジー事件などのゴシップ報道か政治トークで埋めることになった。

その局の方針のもとに重宝されたのが、政治言論人とテレビ司会者を兼ねるブキャナンである。アドリブもプロンプターの朗読もなんでもできる彼はCNN「クロスファイアー Crossfire」3「キャピトルギャング Capital Gang」の保守側ホストとして大人気を博した。アメリカ人にとってのブキャナンの知名度は99%が1980年代以降のテレビ出演で形成されたものだ。彼のパレオコン思想を深く知る人や、彼の本を愛読している人は政治玄人のワシントン関係者や知識人だけだ。1992年、1996年の大統領選挙の共和党候補者争い(予備選)での一定の善戦は、テレビ出演による一般有権者の間での知名度に依存した「空中戦」一本槍の結果である。

ペロー:NBCドラマの英雄物語、総合監督ラリー・キング、インフォマーシャル戦略

「空中戦」一本槍といえばロス・ペローも同じだ。彼が著名になれたのもテレビのおかげである。1986年にNBCで放送されたミニシリーズ(連続ドラマ)「鷲の翼に乗って On Wings of Eagles」4は、スパイ小説家ケン・フォレットによる1983年刊行の同名小説をもとにした番組でエミー賞にもノミネートされた。1979年のイラン革命後、ある経営者がイランで投獄されていた自社社員を元軍人を雇って救出する作戦を描いている。この実在の経営者がまさにペローだった。そのためペローはビジネスで成功していただけでなく、愛国者、豪快な経営者としてテレビで広く知られていた。小説は読んだことがなくてもNBCの連続ドラマを知っているアメリカ人は多かった。そこで1992年に大統領選に出馬した際、あの実話ドラマの社員を救出した経営者の人だという認識のされ方をした。いくらビジネスで成功したテキサスの富豪でも、社員を見捨てず、軍人の能力を信じる愛国経営者像がドラマで全米に事前に浸透していなければ、1992年の第三候補としての短期戦での本選19%獲得は無理だった。

そしてCNNインタビュアーのラリー・キングがペローの視聴率上の価値にいち早く気がつき、1991年から頻繁に彼を出演させる露骨な依怙贔屓をした。キングはジャーナリストではない。ラジオDJのリスナーのコールイン手法をテレビに持ち込んだインタビュアーでショービジネスの人間だった。第三候補ペローの出馬は、彼の番組「ラリー・キング・ライブ Larry King Live」におけるある種の「企画」として生まれた。キングは第三候補が共和党現職のブッシュ父大統領の再選を阻み、民主党のクリントンの選挙戦を引っ掻き回したら面白いと考えた。日本にも番組からアイドルを誕生させるようなドキュメンタリー仕立てのバラエティ番組が存在したが、伝説の愛国大富豪が大統領に挑戦する物語をライブで放送できれば、こんな面白いリアリティショーはない。キングは出馬を固辞するペローに「どういうシナリオなら出馬するか」と追い込んだ。ペローは全米50州で立候補資格の署名が集まれば出馬すると生放送で約束した。キングは番組で公開「ゲーム」を仕掛けたのだ5。キングは後に「私たちが候補者を製造した」と公言している。ペロー旋風のメイキングは彼の十八番の自慢話だった。

ペローは報道系に限らず、朝ワイドの「TODAY」、デイタイムトークショーの「フィル・ドナヒュー・ショーThe Phil Donahue Show」など大衆的な人気がある高視聴率番組を梯子して回り、その度にペロー事務所に電話が殺到した。番組の視聴者への呼びかけから始まった「ペローを立候補させよう」キャンペーンは全米に広がり、全州で立候補資格を得る請願が承認された。出馬取りやめ騒動と復帰を経て本選に臨んだが、その過程でも節目の決定は常にキングの番組の放送内でなされた。まるで「CNNテレビ党」の指名候補だった。

さらにペローは私財を湯水のように注ぎ、30分枠や1時間枠の放送枠を局から買取り、自ら出演して経済政策を説明する「番組形式のCM」である「インフォマーシャル」6を放送したり、テレビCMを洪水のように流し続ける「空中戦」偏重の選挙戦を展開した。草の根の組織を持たず、テレビの挑戦企画だけで署名を集め、本選で19%まで獲得したことは、1990年代前半のマスメディア特にテレビの影響力を見せつけるものだった。今ではテレビでの影響力だけでは同じことはできず、ソーシャルメディアとの連動が確実に欠かせないだろう。

トランプ:大統領執務室を「アプレンティス」風リアリティ番組のTVスタジオにした男

TVメディア映えする著名人による「空中戦」限定の属人的支持を得た1990年代の「CNN選挙」が、ブキャナンの共和党予備選善戦、ペローの1992年の19%獲得を実現させたと言っても過言ではない。拙著『アメリカ政治の壁』・『メディアが動かすアメリカ』7で述べたように、2016年のトランプの勝利もトランプに枠を優先的に割り当てるCNNの視聴率戦略と連動していたことを考えると、ブキャナンとペローに源流のあるMAGAを創造したのはCNNだともいえる。

2015年に筆者は中西部の夏の取材で2人の人物に注目していた。一人は民主党のハイジャックを目論んで台頭した民主社会主義者のバーニー・サンダース、もう一人は共和党のハイジャックを目指してブッシュ家批判を繰り返していたトランプだ。無骨でメディア対策などに関心のないサンダース(演説は同じ原稿の繰り返しで、マイクがオンになっていないのに話し出したり、TVカメラの有無も気にしない)。他方で、「歩くメディア対策」でTVカメラが揃わないとまともに話さないトランプ。好対照の二人をアイオワで追いかけた。

トランプがTVで発言をすると視聴率が跳ね上がった。メディアはトランプの「爆弾発言」を求めてトランプの行先にカメラと中継者、スター記者やアンカーを張り付けた。「まもなくトランプ登場か?」のテロップで、CNNもMSNBC(当時)も無人の壇上を延々と映し続けた。その裏で他の候補が演説をしていても「トランプが来るかも」の部屋を中継画面は流し続ける。「不在」までニュースになるトランプの視聴率価値の凄まじさだった。TVには投入コストを回収したい性分がある。何も爆弾発言がなくても番組は現場からトランプ論で中継を展開するはめになる。「トランプが現れると言われていたのですが、現れませんでした」「なぜでしょうか」「わかりません」。中身のないやり取りを延々と聞かされ、そのせいで共和党の他の候補の政策論争の尺が消えていった。2015年のアイオワ農業祭は「トランプがまもなく登場?」の噂に来場者が溢れ、筆者もプレスも待ちぼうけをくらったが、それがトランプ流のメディア演出だった。

正午前、ヒラリーの「農業館」への来訪を見届けてから、筆者がアイオワ州民主党関係者と外に出て歩いていると、空中にヘリコプターが爆音とともに旋回し始めた。機体に「TRUMP」と書かれているのを見て、群衆が「トランプだ!」と騒ぎ立てている。まるでスーパーヒーローの登場のようだ。ヒラリーはメイン通りのグランド・アベニューを渡り、向かいの店でレモネードを飲み、ポークチョップをかじっていたところだった。まるで示し合わせたかのようなトランプの飛来に、米メディアははしゃいだ8。

2013年から2022年までCNN社長だったジェフ・ザッカーはかつてNBC時代に同局の番組「アプレンティスThe Apprentice」9でトランプを司会に抜擢して視聴率男にした張本人であり、2016年のトランプ勝利はザッカーとトランプのCNNを利用した「共犯関係」とも言われた。

大統領になったトランプは「アプレンティス」をホワイトハウスに持ち込んだ。ホワイトハウスに招かれる人物は、トランプタワーで勝ち残りゲームの結果宣告を受ける参加者のようなものだ。大統領執務室の執務机はTV時代以降、大統領の緊急演説の固定のスタジオだったが、トランプは新しいことを求めた。「司会者トランプ」は「共演者」を好む。一人で話すのではなく、壇上や舞台袖にいる閣僚、記者などを「いじる」。コントや演劇風の会話を好む。ホワイトハウスのプロトコールに慣れたトランプは、第二次政権以降、これを外交にまで持ち込むようになった。メインスタジオは大統領執務室の暖炉前である。共演者はソファに並ぶヴァンス副大統領、ルビオ国務長官。2025年3月のウクライナのゼレンスキー大統領との会談では、トランプとの「口論」からヴァンス副大統領がゼレンスキーに「ありがとう」と言うように求めるところまでがショーだった。

従来の首脳会談なら事務方同士が議題を詰めて、執務室の頭撮りも共同会見も基本は予定調和だった。ところがトランプ劇団はその場のアドリブでTVカメラ前の放送シーンを拡大してしまう。本来はカメラなしの「楽屋」で話すべきことや、後の会見で発表することを会談前の執務室の暖炉前で公開させられることもある。2025年2月の首脳会談で石破総理がいすゞ自動車のアメリカでの新工場建設に言及したのもその一つだ。これは日本側にとって目玉の「玉」(政策ネタ)で会見での発表が理想だったが、なかなかトランプがプレスを追い出す合図をしない中、カメラ前で開示する羽目になった。トランプは国内の労働者雇用につながるネタをいち早くニュースとして提供できて満足だっただろうが、日本側としては調子を狂わされた格好だった。似たようなケースは枚挙にいとまが無い。外国人記者の質問に相手国の話題(3月の日米首脳会談の場合は真珠湾攻撃)を強引に結びつけてアドリブ回答するのもトランプ流である。歴史的出来事を巡る発言に慎重で厳密であることは、トランプには何の得点にもならない。テレビを見ている支持者の知識レベルの目線に降りてやり返す。同盟管理のリスクなど二の次である。

ゲスト出演者たちは、番組制作側や司会者と対等ではない。そもそも事前に詳細な台本は見せてもらえない。台本はトランプ劇団側のアドリブで微妙に修正されるし、同盟国の首脳でもリアクションをカメラで撮影される「素材」にされる。トランプはホワイトハウス内にお化け屋敷のように巧妙に仕掛けを作って、「順路」にきた客人のリアクションを楽しんでいる。それを撮影してホワイトハウスの公式ウェブや動画に載せる。小道具の1つは歴代大統領の肖像画である。第二次政権のトランプは館内の大統領肖像画の場所をシャッフルした。筆者はこれまでクリントン政権、オバマ政権、トランプ政権のホワイトハウスに入ったことがあるが、常連来訪者は肖像画の位置に敏感であり変更には「意味」が生じる。

2025年のトランプの変更はあからさまだった。外国の来賓が足を踏み入れるエントランスのホワイエには左側の階段入り口の右側に肖像画のスペースがあり、来客が最初に目にする肖像画になる10。2022年以降、オバマの肖像画が飾られていたがトランプはこれを撤去し自分の肖像画に変えた11。それも暗殺未遂事件のときに耳から血を流しながら拳を振り上げている様子(女性のシークレットサービスがトランプの腹部を抱え込んで防御している)の肖像画である。この象徴的イメージを来客に見せて反応を見るのがトランプの最近の楽しみである12。

2025年8月にゼレンスキー大統領とヨーロッパ首脳が訪問した際には記念撮影をホワイエで行い13、肖像画にあからさまには反応しにくい首脳たちを困らせた。2026年3月にホワイトハウスが日米首脳会談の公式写真で一番に掲載したのは、日本の高市総理が拳を振り上げるポーズを真似したように見える写真だった。日本では来客の入場時に生演奏を行う楽団に合わせて歌って踊ってはしゃいでいるという理解で拡散した写真だったが、角度的に総理の目線の正面にはこの肖像画がある。少なくともホワイトハウスは肖像画への反応だと理解してこれを一番に載せた14はずだ。筆者が直近でトランプ政権のホワイトハウスに入ったのは今年3月5日で、この時点でホワイエの肖像画は暗殺未遂の絵のままであることをこの目で確認しているので、その14日後の高市総理訪問時に変わっている可能性は限りなく低い。ホワイトハウス・スタジオのトランプ劇団との共演には予測不可能な要因が多すぎる。外廊下のバイデン大統領の「自動署名装置」写真15もそうだ。これにどんな反応をすべきか。瞬時の判断が必要になる。すかさずカメラが射抜き、それをホワイトハウスが世界に公開してしまう。

トランプにとって外交は「ショー」であり、トランプのホワイトハウスは四方八方にカメラがあるスタジオで、1つ1つの反応が撮影され素材として利用される覚悟が必要である。トランプのプロデューサーになったつもりで、彼が意図するショーの構成を深読みして「仕掛け」に対応する発想がトランプ政権の間は各国の対米外交に求められる。

リアリティ番組のタレントが「草の根組織」を手に入れるとき

だが、彼ら3人のこうしたメディア武勇伝も所詮は電波力でしかなく、「空中戦」に限定された話だった。ブキャナンのパレオコンはネオコンと同じで、ワシントンの政治インナーサークルでの存在感はあっても地方の草の根運動としての力を勝ち得なかったし、ペローの改革党も党組織として裾野が広がることはなかった。トランプが2000年に改革党からの出馬を示唆していた時期はトランプを支持する熱狂的な運動は「地上」には存在せず、トランプは風変わりな不動産王のテレビタレントでしかなく、改革党の指名争いから撤退した。

そのトランプがテレビでの知名度に加えて「地上戦」の足腰を手に入れたらどうなるか。これが2016年選挙に向けてトランプに起きた大異変だった。改革党出身のポピュリスト候補たちはテレビを利用して大衆の人気を得るのが定石で番組出演やスポットCMの「空中戦」特化型だと相場が決まっていた。「空中」だけで浮遊するのがブキャナン、ペロー、トランプの選挙だったのだ。ところが、2016年のトランプ陣営は「地上戦」にも参入した。しかし、一から全国組織が築けるわけがない。既存の草の根集団をそのまま飲み込んだのである。それがティーパーティ運動、厳密には分裂後のティーパーティ2.0だった。トランプはリアリティTVのメディア人でありながら同時に草の根運動を手に入れた点で、ブキャナンとペローには達成できなかった世界に到達した。ほぼ自己資金だけで選挙戦をしたペローが典型的な金にモノを言わせた富豪の道楽選挙ならば、同じビジネスマンでもトランプは違った。支持者が献金を集め、戸別訪問をしてくれる全州に及ぶ草の根の運動を手に入れたからだ。

大統領選挙で現実的に勝利するには以下の3つが欠かせない。

1:メディアを通じた全米の知名度をもつこと
2:既存の二大政党に属して予備選で勝つこと(第三政党を諦めること)
3:全米に草の根の運動をもつこと

TVでの絶大な全米知名度を誇っていたトランプは、改革党に早々に見切りをつけ共和党予備選での勝利を目指した。そして「空中戦」一本槍ではない、次のフェーズへと飛翔した。2010年代前半に、良い具合に仕上がっていた草の根運動ネットワークをそのまま「吸収合併」したのだ。ブキャナン・ペロー系譜にある「空中戦」セレブリティが、草の根の足腰を全米に築くのは前例がないことだった。ここからトランプの共和党乗っ取りの物語が始まる。

次号は、草の根運動としてのMAGAの由来について考える。ティーパーティ運動1.0と2.0の分裂の歴史から紐解き、イスラエル支援やイラン攻撃を支持するMAGAの論理を解明する。

(了)

  1. ”Trump once said Oprah would be ”first choice” for VP”, CBS News, January 8, 2018, <https://www.cbsnews.com/news/trump-once-said-oprah-would-be-first-choice-for-vp/>, accessed on July 9, 2026.(本文に戻る)
  2. The McLaughlin Group 11/6/2015. 馬英九総統の対中接近を扱った台湾を巡る回でブキャナンは「アメリカが台湾のために戦争することにはなっていない」と台湾関係法と「1つの中国」原則を強調した。(本文に戻る)
  3. 1998年の移民問題の放送回についてFederation for American Immigration Reformのアーカイブより。Federation for American Immigration Reform, “Crossfire with Press & Buchanan: Dan Stein and Cecilia Munoz talk Sierra Club and Immigration,” December 8, 2017, <https://www.youtube.com/watch?v=zv6hJqAZQUI>, accessed on August 3, 2026.(本文に戻る)
  4. “On Wings of Eagles (1986),” The Movie Database, <https://www.themoviedb.org/tv/45475-on-wings-of-eagles>, accessed on August 3, 2026.(本文に戻る)
  5. Foundation INTERVIEWS, “Larry King discusses Ross Perot's appearance on his show in 1992,” April 21, 2016, <https://www.youtube.com/watch?v=0V0RBMYAriQ>, accessed on August 3, 2026.(本文に戻る)
  6. POLITICO, “Watch Ross Perot's most memorable moments,” July 10, 2019, <https://www.youtube.com/watch?v=JmKHfVbykl0>, accessed on August 3, 2026.(本文に戻る)
  7. 渡辺将人『アメリカ政治の壁』(岩波新書、2016年)、同『メディアが動かすアメリカ』(ちくま新書、2020年)。(本文に戻る)
  8. 渡辺将人「『ブローハード・イン・チーフ?』:トランプ現象<現地報告>」(アメリカNOW第128号)、東京財団、2015年8月27日、 <https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=665>(2026年7月9日参照)。(本文に戻る)
  9. TheApprenticeFan, “Donald Trump - Biggest Firing <https://www.youtube.com/watch?v=Z2u8OVK4qD4>, accessed on August 3, 2026.(本文に戻る)
  10. White House Historical Association, “A Tour of the White House: The Entrance Hall of the White House,” October 4, 2008, <https://www.youtube.com/watch?v=1-vUmS6mblM&t=19s>, accessed on July 9, 2026.(本文に戻る)
  11. “Painting of iconic Trump raised-fist scene from Butler rally now hangs in Grand Foyer of White House”, CNN, April 12, 2025, <https://edition.cnn.com/2025/04/11/politics/trump-obama-portrait-white-house>, accessed on July 9, 2026.(本文に戻る)
  12. CNN, “White House Hangs Painting of Trump at Butler Rally,” April 12, 2025, <https://www.youtube.com/shorts/UWis3X7FkhQ>, accessed on July 9, 2026.(本文に戻る)
  13. Diario AS, “Trump Shows European Leaders His Butler Painting during Group Photo,” August 19, 2025, <https://www.youtube.com/watch?v=yttizjqpgmA>, accessed on July 9, 2026.(本文に戻る)
  14. “President Donald J. Trump and Japanese Prime Minister Sanae Takaichi deliver remarks in the State Dining Room” The White House, <https://www.whitehouse.gov/gallery/president-donald-j-trump-and-japanese-prime-minister-sanae-takaichi-deliver-remarks-in-the-the-state-dining-room/>, accessed on August 3, 2026.(本文に戻る)
  15. Jason Lalljee, “Trump "Walk of Fame" trolls Biden with autopen signature in place of portrait,” AXIOS, September 24, 2025, <https://www.axios.com/2025/09/24/trump-biden-autopen-white-house-portrait>, accessed on August 3, 2026; 2026; 野一色遥花「歴代大統領の肖像、ホワイトハウスに勢ぞろい バイデン氏は署名機」『日本経済新聞』2025年9月25日、 <https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN24COW0U5A920C2000000/>(2026年8月3日参照)。(本文に戻る)

「トランプ2.0のアメリカ」シリーズ

  • 渡辺将人「『トランプ2.0のアメリカ』共和党編① MAGA研究①:インフルエンサーMAGA vs草の根MAGA?:『トランプ4本柱』」
  • 渡辺将人「『トランプ2.0のアメリカ』民主党編④ 民主党流派の『内政』新分類学:『新世代』から『アバンダンス』まで」
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