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論考シリーズ | No.215 | 2026.9.26
アメリカ現状モニター‍

「トランプ2.0のアメリカ」共和党編③
MAGA研究③:ティーパーティ分裂要因としてのイスラエル・イラン政策

渡辺 将人
慶應義塾大学総合政策学部教授

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本編は「『トランプ2.0のアメリカ』共和党編② MAGA研究②:「改革党」メディア候補たち:ブキャナン、ペロー、トランプ」に続くシリーズ7本目です。

トランプが予備選で丸抱えしたティーパーティ運動:「反TPP」「反オバマ」「反イラク戦争」

選挙には「空中戦」だけでは勝てず、草の根を動かす「地上戦」が欠かせないが、二大政党のマシーンを持たない第三党的アウトサイダー、テレビ時代の「空中戦」一本打法の候補には全米隅々に行き渡る草の根組織がない。「共和党編②」で述べた通り、これがブキャナンやペローが大統領に手が届かなかった背後にある要因の一つだ。彼らと違い、初めて大統領選挙に臨むトランプは共和党を乗っ取り二大政党のマシーンを利用して本選に勝利することに決めた。問題は予備選だった。ニューヨークとフロリダに「家」はあるが、地元民とのつながりが深いわけではない。共和党がブッシュ家3連投(父、兄、弟)になりかけていることに目をつけたトランプは、ブッシュ家のエスタブリッシュメント支配を恨んでいる草の根集団にアピールを開始した。ティーパーティである。

トランプは2012年オバマ再選を阻止できずに燻っていた彼らの怒りの「受け皿」となったのだ。「反TPP(保護貿易)」「反オバマ(反移民・白人の感情)」「反イラク戦争(非介入)」が効いた。これらのうちトランプ固有の思想は保護貿易だけで、あとはティーパーティ2.0包摂の過程で支持者の要求にチューニングしていった。トランプが運動体として丸ごと抱え込んだのは、(自由貿易で移動の権利を根拠に不法移民にも寛容な)リバタリアンが主体のティーパーティ1.0ではなく、(保護貿易で反移民の)社会保守主体のティーパーティ2.0である。「対外非介入」は両者に共通するように見えて、2.0の「非介入」はリバタリアンほど強固な原則ではなく、イスラエル支援への介入は認める。

オバマ政権誕生と共に猛威をふるったティーパーティ運動に、オリジナルの1.0版と2010年以降の2.0版の2種類があり、両派閥が路線対立で角逐した過去は、アメリカの諸文献にもほとんど詳しく記されていない。筆者がこの問題に開眼したのは、20年に渡り内部闘争を観察してきたからだ。私が加わる中西部共和党会の核である共和党郡委員の中では、ティーパーティによる共和党乗っ取りで中西部の地方組織を一時はリバタリアンが独占した。その後、キリスト教保守など社会保守のティーパーティ参入が路線対立の論争が招き、ティーパーティからリバタリアンが離脱した。この過程からは、後発のティーパーティ2.0がMAGAに化けたのも筆者には不自然に見えない。

ティーパーティ1.0:ポール親子派の財政保守リバタリアン

ティーパーティ1.0は、パレオコン(伝統的保守主義)や改革党的な反グローバリズムと相性は良くなかった。ロン・ポール連邦下院議員とその次男であるランド・ポール連邦上院議員のグループが主導した純粋に財政保守的なリバタリアンの「小さな政府」運動だったからだ。彼らの関心は第 1に経済だった。増大する支出と財政赤字は、長期化するイラク戦争の戦費などに絡んでブッシュ政権 2期目以降とりわけ批判の対象となった。さらに、ポール派含め多くのティーパーティ活動家にとって覚醒要因になったのが 2008年の金融危機だった。金融安定化を目指した ブッシュ政権のTARP(不良資産救済プログラム:The Troubled Asset Relief Program)は批判を浴びた。そして関心の第 2は 9・11後のテロ対策強化に伴う自由の侵害の問題である。電子メールなど個人情報の調査権限を当局に与えた愛国者法(Patriot Act)はリバタリアンを大いに苛立たせた。

全国規模のティーパーティ集会で多用されたボストン茶会事件時代のコスチュームやガズデン旗もポールらの運動で使用され始めた。2008年夏にミネソタ州で開かれた「共和国のための集会(The Rally for the Republic)」に筆者も参加したが、これはロン・ポールが 2008年共和党大会での発言を認められなかったことへの抗議として開かれた「もう一つの共和党大会」だった。タッカー・カールソンが 10時間に及ぶ同集会の総合司会を引き受けた。グローバー・ノーキストら著名な反税闘争系の経済保守派が演説に駆けつけた。ポール派は財政赤字を中心とした経済問題を軸に議会攻勢と世論形成を推進した。この流れは2012年の大統領予備選におけるロン・ポールの政策にも連動した。2011年4月のアイオワ州デモインにおける筆者との単独会見でランド・ポールは次のように述べている。

「私を当選させてくれた人やティーパーティは、予算の諸問題を解決してほしいと願っていると思う。彼らは歳入より歳出が多いことが理解できないのだ。ワシントンでは誰もがそんなに削減できないというのだが、われわれはできるし、それを理解しない彼らが私にはわからない。入ってくるだけ使うという単純なことだが、支出の大幅な削減が必要だ。民主党が望んでいる借金は 6億ドルでこの 1日に増える借金の大半は日本からきている。私は前から彼らに警告している。自然災害で日本は大変な目にあっている(註:東日本大震災のこと)。日本は以前のようにわれわれの負債を肩代わりし続けてくれないかもしれない。私はあなた方日本も大変な借金を抱えていると考えているが、われわれがお互い負債問題を抱えていて、世界中負債だらけだ。私はこの問題は数年内に行き詰まると読んでいるが、誰かが立ち上がらなければいけない」

ティーパーティ1.0を主導したリバタリアンは社会争点ではリベラル色が強かった。ロン・ポールは人工妊娠中絶についてプロライフ派で、憲法修正第10条を尊重して人工妊娠中絶は州が結論を出すべきであるとの条件をつけていたし、結婚の定義についても州に決めさせるべきだとしていた。ポールは 2010年に起きたニューヨークのモスク建設論争で建設擁護の立場だったが、宗教施設の建設の決定権を政府に与えることは「信仰の自由の剥奪」だとしていた。

ティーパーティ2.0:ペイリン派(未来のMAGA)を製造した3つのレシピ

こうしたリバタリアンと真っ向から対峙したのは、キリスト教保守だ。反不法移民で文化保守色の濃い集団が運動に参入するようになったのは2010年中間選挙の年だった。マケインの副大統領候補だったアラスカ州知事のサラ・ペイリン、ウィスコンシン州選出連邦下院議員のミシェル・バックマンらの女性政治家を顔にした「ティーパーティ2.0」が台頭するようになった。この2.0の台頭を「空中戦」の側面から演出したのが、のちのトランプ側近でMAGAの演出家でもあるスティーブ・バノンだったのは偶然ではないだろう。バノンは二人をスターに押し上げるPRドキュメンタリー映画を製作し、ティーパーティ分裂を加速しMAGAの種を撒いた。アラスカでの活躍と2008年大統領選挙を記録したペイリン個人を持ち上げる映画「The Undefeated」(2011年)、バックマンを筆頭に保守派女性をバノンがインタビューした映画「Fire from the Heartland」(2010年)である。

1 人種意識と反移民

「2010年以降、ティーパーティは反税運動から文化的聖戦へと変貌を遂げた」と簡潔に表現する「Steady Scope Media」の論説は、リバタリアンの運動が社会保守に乗っ取られた変容の鍵は「人種」にあったと説明する。

「ティーパーティの指導者たちは自分たちの大義は高潔さだと主張していた。小さな政府、減税、財政規律だ。しかし、そうした注目を引く言葉はより暗黒なニュアンスに取って代わられた。全米各地の集会でオバマをヒトラーやスターリンに例えるプラカードが当たり前になった。旗が翻り、拳が握りしめられた。そしてケーブルニュース特にFOXは彼らに際限のない放送時間を割いた。グレン・ベックは生放送で涙を流し、彼にしかできない点と点を線で結ぶ珍説を披露した。ショーン・ハニティはまるで恐怖を煽るスーパーボウルのCMのようにティーパーティの宣伝映像を放送した。それは財政赤字の問題ではなく、黒人大統領の問題だった。それは未来について、その未来に誰が属さないかという問題だった」

筆者も同感だ。2008年に共和党候補のマケインが勝利していてもティーパーティ1.0は勃興しただろう。しかし、イスラム教徒と疑われていたアフリカとインドネシアに2人の父を持つ「黒人大統領」が誕生していなければ、運動に反移民、キリスト教保守、白人至上主義などの文化保守が大挙して押し寄せてティーパーティ2.0を形成することはなかっただろう。ティーパーティは1.0のまま純粋な財政保守運動として継続し、MAGAの芽は全米に組織をもつ運動体として育たなかっただろう。

2 保護貿易

1.0のリバタリアン離反を加速させたのがTPP反対運動だった。ティーパーティ内は自由貿易派と反対派(Tea Party Nation等)に分裂した。自由貿易、財政保守運動としてのティーパーティは死んだとして、リバタリアンは以後自らをティーパーティと積極的に名乗らなくなった。ケイトー研究所はティーパーティの名をかたり「オバマトレード」に反対している保護貿易主義者は、反グローバリスト左派とナショナリスト右派と足並みを揃えていると激しく批判した。保守運動の柱であった「小さな政府」が後退し「大きな政府」を一部容認する労働者向けのポピュリズムが台頭した。2016年大統領選挙でリバタリアン離脱後のティーパーティ2.0はアイオワ初戦でテッド・クルーズ支持を経つつ予備選中盤からトランプ支持に回った。例えば「ティーパーティ愛国市民基金」は、ペンシルベニア、オハイオ、ノースカロライナ、フロリダの各州で200万の電話をボランティアがかけ、10万戸の戸別訪問を達成する草の根動員を展開した。トランプの知名度とティーパーティの組織力を掛け合わせMAGA運動が増殖した1。

3 「対外介入」の例外(イスラエルとイラン)

だが、最終的に1.0と2.0の対立を決定的にしたのは外交政策だった。2.0は1.0のリバタリアンのような原理的な「非介入」路線ではなく、介入の容認例外があったからだ。イスラエルとイランに関する問題、すなわち親イスラエルと対イラン強硬策である。結果としてネオコンと一部重なる政策選好、すなわち現在の第二次トランプ政権のMAGAに象徴される姿勢である。当時のティーパーティ運動分裂、特に外交政策を巡る分裂を理解することが、MAGA解釈に遠回りなようでいて実は極めて重要であるため、この点について詳しく分析した2012年の拙稿「ティーパーティと分裂要因:ポール派の動向を中心に」から関係部分を抜粋して以下に再録する2。

ティーパーティ内分裂 ② 外交争点要因
ペイリン派とポール派の亀裂

内部確執の第2の要因は「外交政策」である。ポール派の外交政策は、周知のように非介入的、孤立主義的な姿勢を基本にしている。戦争遂行における大統領令濫用、米軍の海外駐留などに激しく抵抗しているが、その思想は財政保守と憲法保守主義に立脚している。イラク戦争と対テロ戦争についてブッシュ政権を激しく批判してきたロン・ポールは、アフガニスタン戦争を継続するオバマ政権を同様の論理で厳しく批判している。しかし、防衛費を削減対象の例外としない方針は、共和党主流と足並みが合わない。ランド・ポールは「多くの共和党支持者にとっての戦争の扱いは、民主党支持者にとっての福祉の扱いと同じだ」と指摘し、民主党はどれだけ時間と予算を注いでも「貧困との闘い」に効果がないのにもっと注ぎ込めばいいというが、共和党はどれだけ「テロとの闘い」に注いで結果が出なくてももっと注ぎ込めばいいという、と批判している。ただ、ランド・ポールは「安全保障は連邦政府の主たる役割であり、予算の多くを占めるべき」とも付言しており、ポール派も防衛費の優先性は認めている。

ポール派外交がリベラルな平和主義ではないことは、人道的な海外援助にも否定的であることから明らかである。しかし、イラク戦争をはじめ防衛政策全般についての方針は、結果として反戦リベラルのような響きを伴う。民主党リベラル派もロン・ポールに対しては往々にして「興味深い(interesting) 」という形容で部分的な共感を寄せ、他のティーパーティ系議員とは区別して特異な評価を与える傾向があるが、社会争点でのリベラルさではなく非介入的な軍事政策にその共感の理由がある。

経済政策におけるポール派の党内仮想敵が、超党派で金融安定化法を推進した財政穏健派であれば、外交政策における党内仮想敵は新保守主義者(ネオコンサーバティヴ:以下ネオコン)であり、ロン・ポールはネオコンを「偽の保守」と称している。ウォルター・ラッセル・ミードはティーパーティの外交をペイリン派とポール派に分類し、前者をジャクソニアン、後者をジェファソニアンとして対外介入の姿勢に差異を認めている。とりわけ、中東でのテロ問題ではアラブ諸国への不信からもペイリン派がイスラエルとの緊密な関係を深める方針だが、ポール派はイスラエルへの援助を打ち切り地域全体への関与縮小路線を唱えている3。

ミードはペイリン路線をティーパーティの本流とみなし、ポール派の敗北を予見しているが、ポール派はマケインの副大統領候補だったペイリンをもはやネオコンの一種として遠ざけており、ティーパーティ外交の定義と正統性については内外で見解が揺れている。この外交をめぐる路線対立は、リバタリアン系ティーパーティ活動家のペイリン離れを生み出しており、バックマン支持の伸びに間接的な影響を与えかねない4。

「孤立主義」と憲法と伝統保守

ミードの論考に見られるように一般的には「孤立主義」という呼称が浸透しているポール外交であるが、ポール親子自身は「孤立主義」と定義されることを拒絶し、軍事的非介入の自由貿易主義者を標榜している。ポールは「自分は今まで孤立主義者であったことはない。孤立主義の正反対である対話外交と自由貿易と自由な航行を支持している」と述べる5。ランド・ポールはポール派を「孤立主義」と呼ぶのは、リベラル派がティーパーティを人種差別主義者と呼ぶのと同じ愚行で、マケインを「帝国主義者」と断じるような罵り言葉と同じであると嫌悪感を示す6。

ポール親子は憲法に立脚した伝統保守に依拠することで、自らの外交政策の正当性を強調する論理を展開しているが、伝統保守の視点からネオコンの保守としての異端性をあぶり出す手法もとっている。ラッセル・カーク、リチャード・ウィーバー、ロバート・ニスベットら伝統的保守知識人にポール外交の精神の源を探り、「当然彼らは平和主義者ではなかったが、戦争は物質的にも道徳的にも破滅的であり、本来的に最終手段であるべきだと信じていた」と述べる7。一般的には「反知性主義」的な性質を帯びるとされるティーパーティ運動にあってポール派の姿勢は異色である。アイオワ州議会議員のグレン・マーシーは、ポール支持者とバックマン支持者の違いについて両派は似ており目標は同じだとしながらも「ロン・ポール支持者はバックマン支持者よりも、合衆国憲法がどのように機能すべきかについて勉強をしている。それが両者の差だが、大きな差だ」と説明する。マーシーは、ポール支持者はジェファーソン、マディソン、ハミルトン、アダムズの論争を詳述したクレオン・スコウセンの『The Making of America』に学ぶが、バックマン支持者は憲法議論が十分ではないデイビッド・バートンだけしか読んでいない、として愛読書の比喩で両者を分類する。ポール派の特徴を高学歴、ミドルクラス、若年層と表現する活動家も少なくなく、ポール自身憲法を軸にした知性主義をポール派運動の柱にしている。

マイケル・ケイジンは、ブッシュと同政権高官の言説が進歩的イデオロギーを反映していたと述べたが、ランド・ポールはこのケイジンの解釈に依拠して、対外進出による民主化促進は決して保守ではなく、イラク戦争は社会主義的で進歩主義的な行為だったと結論づけている。また、アメリカ例外主義についても、ネオコンがトクヴィルのアメリカ例外主義観を歪め、アメリカの世界の警察官としてのグローバルなプレゼンス維持の正当化に利用するのは誤りで、アメリカの例外主義や異色性は独立宣言から憲法につながる文書のなかから紡ぎ出されるもので「個人の自由」が柱であるとしている。このランド・ポールの主張は、徴兵制や議会承認なしの攻撃などポール派が反対する一連の政策にも派生する。

社会保守と外交の交錯地点

外交と社会争点の交錯領域においては、ポール派ティーパーティはネオコンと宗教保守の双方と対立する。人工妊娠中絶などのシングル・イシューに閉じこもりがちな宗教保守も、イスラエルの安全保障と非ユダヤ・キリスト教圏、具体的には対イスラム圏外交政策についてはこだわりがあり、政策レベルでも限定的にネオコンの強硬姿勢に同調することも少なくない。宗教保守とペイリンの親和性の高さは、文化社会争点だけでなくミードの分類する外交的姿勢におけるペイリン派のイスラエル擁護に由来がある。イスラエルへの援助を断ち切り、中東地域そのものへの関与を軽減していくべきであると考えるポール親子と宗教保守は、イスラエルと中東外交をめぐって反目する。とりわけポール派を孤立させているのは、イラン核開発問題である。ロン・ポールはイランの核の脅威を否定しておりイランに対する制裁にも反対してきた。ロン・ポールはイランより脅威度が高いソ連が核兵器を開発しても制裁しなかったとして、イラン制裁は事態をかえって悪化させるとの見通しを示す。これに対し、イラン自由支援法 (Iran Freedom Act)の起案者でもあるサントラムは、イランがイスラエルへの継続的脅威であるとポールを批判している8。

ポール派の外交論は介入主義批判を旨としてはいるが、概ね現状批判を軸にした論が多く、具体的な提案は少ない。たとえば、ロン・ポールは在日米軍駐留について筆者との 2011年8月の単独会見で次のように述べている。

「日米は友人であるべきだ。両国は貿易すべきだし、往来すべきだし、投資すべきだ。そして、在日米軍を撤退させるべきだ。完全に。アメリカはメキシコという憂慮すべき問題を抱えている。アメリカにはアメリカの問題がある。われわれは破綻している。どのみち財政的に維持できない。友人になり、貿易し、ボランティアリズムによる善を促進し、力や軍事的手段以外の方法による前例を作り上げることは、両国にとって最良だと考える」

このポールの回答は、ポーレンティ、サントラムなど宗教保守に近い大統領選挙立候補者が「日本についての立場」という筆者との会見での問いに対して、「日本やイスラエルのような素晴らしい友人」(ポーレンティ) 、「二つの重要なアジアの同盟国としての韓国と日本」(サントラム)と同盟を強調する返答をしたのと好対照であった9。
(中略)
ただ、このテロ対策の問題が複雑なのは、純粋に外交政策論である以前に、ポール派ティーパーティのようなリバタリアンにとっては、対外政策が国内的な自由の価値と深くつながっていることだ。9・11以降のテロ対策の方向性に対する嫌悪感が、将来的なテロ防止としての外交政策と国内的な自由の問題と感情レベルでは区別されないまま、ブッシュ政権以降の対テロ戦争批判に結晶している。ポール派リバタリアンが抵抗してきたのは、TSA(運輸保安局:Transportation Security Administration)によるボディチェックやボディスキャナーという高性能の X線検査が、身体に触れられるだけでなく裸体を X線越しに晒されて屈辱的であるという新たな問題である。ロン・ポールは 2010年11月にアメリカ旅行者尊厳法案(The American Traveler Dignity Act:HR6416)を提出し、検査官の接触検査やX線検査の禁止を求めている10。

言い換えれば、リバタリアンにとってのテロ対策に伴う「自由の侵害」は、宗教保守にとってのイスラエル政策のような聖域であり、エモーショナルな問題であるだけに、安全保障をどのように担保するかも、愛国者法の問題同様に論じられ方次第ではティーパーティ内の分裂要因になりかねない。

拙稿で14年前に記したように、イスラエル支持と対イラン強硬の態度は、ペイリン派ティーパーティ2.0の時代から変わっていない。草の根MAGAのイラン戦争支持はトランプに無条件でなびいているだけではなく、MAGA源流のペイリン派由来の姿勢だからだ。「共和党編①」で引用した草の根MAGAの経営者はイラン戦争を評価して筆者にこう述べる。

「イラン戦争は20年前にやるべきだった。47年間も彼らは「アメリカを滅ぼせ」と言い続けてきたし、実際に彼らは我々の同胞を殺してきた。我々の船に発砲した。47年間、ありとあらゆることをしてきた。アメリカのどの大統領もこれに対して何かをするだけの度胸や気概を持っていなかった」

ガソリン価格の上昇もトランプのせいではなくイランを放置してきた歴代大統領の責任だという。強いイスラエル支持も一貫している。インフルエンサーMAGAのタッカー・カールソンのことを「FOX Newsを降板したときジョージ・ソロスから大金を受け取ったから態度を一変させてイスラエル批判をしている」と真偽不明の批判も交えて一刀両断に斬り捨てた。このポール派リバタリアンにかつて近かったカールソンと彼のキャンセルを求める草の根MAGAのイスラエルをめぐる路線対立はティーパーティ1.0と2.0の内部分裂の残滓だとして理解すれば不自然ではない。

ニュート・ギングリッチ元下院議長は筆者との会見で「ティーパーティは新たなエネルギーと数々のアイディア、そして率直にいって新たな精神的タフさを持ち込んだと考えている。システム全体にとってよいことだし、そのように極めてアグレッシブで競争的な活動は、アメリカらしさの一部でもある」と述べ、ティーパーティについて活動の性質の観点からその価値を認めていた11。他方、保守系憲法学者のティモシー・ヘーゲルは経済・財政争点が主要課題であり続ける限りティーパーティ支持層も一丸となっていられるが、経済が回復して失業率が低下すればオバマ政権の立場を強めると指摘し、「ティーパーティの人々は、さて次は社会問題ではないかといいだし、ティーパーティ連合の崩壊をわれわれは目撃することになろう」と2011年の時点で予測し、その通りになった12。

しかし、ティーパーティ運動を2.0のMAGAの卵たちに譲って同運動から離れていたリバタリアンは、改革党候補になったケネディJr.支援運動(ワクチン拒否の権利運動)、反連邦準備制度からの暗号資産(仮想通貨)推進派、「テック・リバタリアン」など複数の流れから2024年のトランプ再勝利に再合流する。「リバタリアンのMAGA化」である。

*次号は、リバタリアンがティーパーティを乗っ取られた因縁のあるMAGAに合流した経緯と2026年中間選挙を目前にそのリバタリアンの一部が「トランプ連合」から離反しつつある現状を2026年夏の最新の現地調査を交えて検討する。

(了)

  1. 渡辺将人「アメリカの通商政策における政治過程―TPPをめぐる内政要因を中心に」『米国の対外政策に影響を与える国内的諸要因』(日本国際問題研究所、2017年)、<https://www2.jiia.or.jp/pdf/research/H28_US/08_watanabe.pdf>(2026年8月28日参照)。(本文に戻る)
  2. 渡辺将人「ティーパーティと分裂要因:ポール派の動向を中心に」久保文明編『ティーパーティ運動の研究』(NTT出版、2012年)。(本文に戻る)
  3. Rand Paul, The Tea Party Goes to Washington, (New York: Center Street, 2011), pp. 131-135.(本文に戻る)
  4. Walter Russell Mead, “The Tea Party and American Foreign Policy: What Populism Means for Globalism,” Foreign Affairs (March / April 2011):pp. 40-43, accessed August 6, 2026.(本文に戻る)
  5. Ron Paul, The Revolution: A Manifesto, (New York: Grand Central Publishing, 2008), p. 10.(本文に戻る)
  6. Paul, The Tea Party Goes to Washington, pp. 133-134. (本文に戻る)
  7. グレン・マーシー、アイオワ州議会下院議員 (Iowa Campaign for Liberty)とのインタビュー(2011年8月13日)。(本文に戻る)
  8. アイオワ州エイムズで開催された共和党大統領選挙討論会のロン・ポールとリック・サントラムの発言(2011年8月11日)。(本文に戻る)
  9. ティム・ポーレンティーとのインタビュー(2011年8月5日)、リック・サントラムとのインタビュー(2011年8月5日)。(本文に戻る)
  10. Chris Brown, “The American Traveler Dignity Act,” The Grassroots Press (Summer 2011 Special Edition), p. 4.(本文に戻る)
  11. ニュート・ギングリッチとのインタビュー(2011年8月5日)。(本文に戻る)
  12. ティモシー・ヘーゲルとのインタビュー(2011年4月4日)。(本文に戻る)

「トランプ2.0のアメリカ」シリーズ

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  • 渡辺将人「『トランプ2.0のアメリカ』共和党編① MAGA研究①:インフルエンサーMAGA vs草の根MAGA?:『トランプ4本柱』」
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  • 渡辺将人「『トランプ党』完成化とケネディ支持派のリバタリアン合流」
  • 渡辺将人「ウォルズ夫妻と中国:天安門事件の年から、広東とチベットに広がった『物語』」
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  • 渡辺将人「ヴァンスはオバマと同じ『物語候補』 -Dreams from My FatherとHillbilly Elegy」
  • 西山隆行「J.D.ヴァンスの副大統領指名と共和党のトランプ党化、その限界」
  • 渡辺将人「民主党左派とカマラ・ハリス:『擬似サンダース政権』継続圧力と予備選の洗礼なき指名の功罪」
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