アフリカの国際平和活動が大きな困難に直面している[1]。国連安保理は2023年6月30日、PKOである国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA)の即時活動停止と2023年内撤退を[2]、12月19日には国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)の撤退に向けた段階的縮小を決定した[3]。MINUSMAは10年、MONUSCOは24年続いた活動である。さらに、2023年12月1日には国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)の終了も決まった[4]。いずれもPKOの展開先であるホスト国側が受入同意を解消したためである。PKOが近年先細る中、UNITAMSのような特別政治ミッション(SPM)を通じた和平活動に期待が寄せられていただけに衝撃が走った。

 アフリカの地域機構が実施する平和活動も予断を許さない。コンゴ民主共和国政府は東アフリカ共同体(EAC)の部隊(EACRF)に対しても2023年12月以降の展開同意を撤回した。EACRFは2022年11月から同国東部に展開し、MONUCSOやコンゴ民主共和国軍と連携しつつ反政府勢力(M23)の鎮圧を試みたが失敗した[5]。EACRFにはコンゴ民主共和国政府がM23を支援していると疑念を抱く隣国ルワンダも参加している。大湖地域(the Great Lakes Region)のサブリージョナルな対応の難しさを露呈した形である。

 マリも、政府が2024年1月28日に西アフリカ諸国経済共同体(EOCWAS)からの脱退を表明した。ECOWASは1990年代以降、国連に先んじて部隊を展開し国連ミッションへのリハット(移行)に応じるなど西アフリカの平和活動を担ってきた。クーデターによる政権奪取が生じた加盟国に対しては資格を停止し非民主的政権交代に対峙してきたが、ブルキナファソ、ニジェールも同じ日にECOWASからの脱退を表明しており、混迷を深めている。

 さらに、アフリカ大陸東岸の「アフリカの角」に位置するソマリアでは、アフリカ連合(AU)ソマリア移行ミッション(ATMIS)が2024年末終了を予定している[6]。ATMISは2007年から15年にわたり展開したAUソマリアミッション(AMISOM)の後継である。この国の安定のために膨大な時間と資源が費やされてきた。

越境する脅威

 そもそもアフリカの安全保障で直近の課題とは何か。注目すべきは「越境的脅威」が増加・拡大していることである。とくに難民、暴力的過激主義、麻薬・武器の流通や紛争下のドローン使用が顕著である。

 2022年5月時点で移動を強いられた人々は世界で約1億人にのぼる。アフリカでは4,400万人が難民・難民申請者あるいは国内避難民(IDPs)であり、40%が国境を超える移動であった[7]。暴力的過激主義も収束の気配がない。ソマリアではアッシャバーブ(Al Shabaab)が2006年の結成以来「アフリカの角」全体の脅威となって久しい。西アフリカではアルカイーダ系およびイスラム国(IS)系に加え、マリのトゥアレグ人を基盤とする武装勢力が活動を活発化させるなど、暴力的過激主義がサヘル地域を席巻している。

図1 アフリカ経由の主なコカイン流通ルートと押収量(2018-2022)

図1 アフリカ経由の主なコカイン流通ルートと押収量(2018-2022)
出典:UNODC, “Global Report on Cocaine 2023:Local dynamics, global challenges,” March 2023, p.22.

 麻薬や武器の違法な流通はアフリカの国境管理や沿岸地域の治安に悪影響を及ぼす。たとえば、図1のとおりコカインがアフリカ沿岸を拠点として世界に流通している。麻薬や武器の違法取引は武装勢力の資金源となり得る。さらに、アフリカの紛争におけるドローン (Unmanned Aerial Vehicle: UAV)の使用も増加している。エチオピアの内戦でトルコ製のドローンが使用されたことはその一例である[8]。これらの問題はいずれも一国での対処が難しく、アフリカ諸国が連携し「越境的脅威」に対処することが必要である。

政情悪化と先の見えない社会

 ところが、そうした「越境的脅威」に取り組むはずのアフリカ諸国自身、クーデターによる政情悪化にさらされている[9]。2021年から2023年にかけてはマリ、チャド、ギニア、ブルキナファソ、ニジェール、ガボン、マリ、スーダンでクーデターが発生した[10]。これらの国々はサヘル地域を東西にまたぐいわゆる「クーベルト(coup belt)」とも呼ばれ、マリのようにクーデターで政権を奪取した勢力が国連PKOの撤退を求めるケースも出ている。

図2 アフリカ諸国の政権任期

図2 アフリカ諸国の政権任期
出典:UNDP Africa “Soldiers and Citizens: Military Coups and the Need for Democratic Renewal in Africa,” July 14 2023, p.34.
※赤はそもそも任期がない例、濃緑は憲法クーデターに成功した例。

 もうひとつが「憲法クーデター」(‘constitutional coups’)と呼ばれるものである(図2)。必ずしもここ数年の新しい現象ではないが、首脳自らが憲法に規定された任期を改変することを指す。こうした動きは国際平和活動が前提とする法の支配や民主主義に基づく国家運営を脅かす。

 こうした中、若者層の閉そく感が高まっている。ILOの統計(図3)によれば、2022年の失業率はアフリカ全体で7.1%だが[11]、15-24歳に絞ると12.4%へ上昇する[12]。若者が生活や将来に希望を見いだしにくい状況である。人口比率において15-24歳がアフリカ人口の約20%であることをふまえると[13]、若者の雇用創出は重要である。失業や将来への不安は暴力的過激主義組織への加入動機の一つであり、政府に対する不満要素でもある。

図3 サブサハラアフリカの若者層(15-24歳)の失業率

出典:DataBank, The World Bank, September 5 2023.

厳しさを増す国際環境とアフリカの優先度低下

 アフリカを取り巻く国際環境も厳しさを増している。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻や2023年10月以降のガザ、そしてイエメン情勢を契機に国際環境は激変し、主要国にとってアフリカの優先度は低下している。国連安保理は、いまや侵略国となったロシアや、イスラエル支持の立場を崩さない米国、英国を抱える。アフリカに関し理事国間の協調や妥協の余地が狭くなり、オペレーショナルなレベルでの資源投入も困難になっている。この状況に乗じて、ロシア国防省は2023年秋以降「ワグネル」を再編するとともに、新たに「アフリカ部隊」を創設したとみられる。ロシアの軍事的アフリカ戦略の射程には西アフリカ諸国や東アフリカのスーダン、つまりサヘル地域が含まれる[14]。

 アフリカ諸国側の国際政治におけるスタンスも揺れている。ロシアのウクライナ侵攻を非難する2022年3月2日の国連総会決議でアフリカ諸国の賛成票は54か国中28ヵ国だった。ガザについてもアフリカ諸国の態度は一様でない。46ヵ国がイスラエルと国交を結んでいる一方、イスラエルの非人道的行為の停止を求める国連総会決議には10月27日の投票で37ヵ国、12月12日は45ヵ国が賛成した。難しいかじ取りを迫られたのがAUである。AUでは以前からイスラエルのオブザーバー資格をめぐって論争があったからだ。否定的な南アフリカ共和国ら加盟国と、承認を提案したムサ・ファキAU委員長との間で軋轢が生じていた[15]。

 国際社会が分断される中、アフリカにまで手が回らないというのが主要国の本音であろう。しかし、アフリカの安全保障は他地域へも波及するグローバルな脅威である。紛争や政情悪化は欧州、地中海諸国への難民流出やテロの温床を拡大させ、アフリカ経由の麻薬・武器の流通も許してしまう。54ヵ国(AUでは55ヵ国)を数えるアフリカ諸国が国連や「グローバル・サウス」で放つ存在感を軽視することはできない。近年、欧州連合(EU)はアフリカを支援先としてだけでなく様々なイシューで責任分担もできるパートナーと位置付けているが[16]、背景にはそうした認識がある。

 日本にとっても他人事ではない。日本は1993年からアフリカ開発会議(TICAD)を主導するなどアフリカとの関係構築を図っており、アフリカの平和と安定はTICADの柱の一つである。「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)にもアフリカ大陸東岸が含まれる。ここはソマリアを含む「アフリカの角」を擁し、日本の経済にとって最重要ルートである紅海につながる[17]。

リージョナルな国際平和活動

 とはいえ、ごく近い将来アフリカの平和活動に主要国が強い政治的意思と潤沢な資源で協力する見込みは薄い。したがって、アフリカ諸国はかつてなく、リージョナルな枠組みで安全保障上の課題に対応しなければならない。実際、MONISCOやMINUSMA、UNITAMSの例にもれず、アフリカで国連平和活動への反発や幻滅が増し、激変する国際環境と連関する中、(準)地域機構が平和活動を展開している(図4)。「アフリカ問題のアフリカ自身による解決」がアフリカ内外で追求されているものの、ここにもまた問題が山積している。

図4 アフリカ主導の平和活動

図4 アフリカ主導の平和活動
出典:African Center for Strategic Studies, “African-Led Peace Operations: A Crucial Tool for Peace and Security,” August 9, 2023.

 中でも、資源調達とオペレーションの質担保は喫緊の課題である。ソマリアのATMISを例にとれば、2022年の活動経費のうちEUが1.2億ユーロ、英国が約3,000万ユーロを拠出したにもかかわらず、ミッション全体では約2,600万ユーロの赤字であった[18]。しかも、EUは2023年5月にソマリア連邦政府と共同ロードマップを採択し、同国への関与自体は継続する姿勢を保ちつつも財政支援については削減を模索している[19]。

 地域機構主導の平和活動に必要な要員の確保も苦戦している。特に近隣諸国からの派兵は、歴史的経緯や政治力学に鑑みれば極めてセンシティブな問題である。要員不足はオペレーションの質にも影響する問題だが、要員提供国にとって派遣前訓練のクオリティを高め、現場での活動に見合った装備を整えることは容易でない。

 アフリカの国際平和過活動では、今後も混迷する安全保障環境のもと、より複雑化する脅威を取り扱うことになろう。アフリカ内外の諸国・組織いずれにとっても、展開先のホスト国と軋轢を避けながら、限られた資源を活かして関与を継続するための挑戦が続く。

(2024/02/16)

脚注

  1. 1 本稿は、笹川平和財団安全保障研究グループが2022年4月から行っている「国際平和活動の今後」プロジェクトの一環として2023年10月にアフリカ3か国(エチオピア、ウガンダ、ケニア)で実施した現地調査結果に基づいた分析である。筆者はプロジェクトのコアメンバー。現地調査にあたりご協力いただいた関係各位に深く感謝申し上げます。なお、本稿の見解は筆者個人のものであり、訪問・聞き取り先を代表するものではありません。
  2. 2 詳しくは、中谷純江「マリPKO撤退後のアフリカの平和と安全保障はどうなるのか」国際情報ネットワーク分析IINA、2023年11月7日。
  3. 3 UN Doc. S/RES/2717, December 19 2023.
  4. 4 UN Doc. S/RES/2715, December 1, 2023. SPMについては、中谷純江「国連特別政治ミッションはPKOの代替案となりうるのか―マリからのPKO撤収で問われるスーダンの教訓」国際情報ネットワーク分析IINA、2023年7月7日に詳しい。
  5. 5 “East African regional force starts withdrawing from DRC,” France24, December 3 2023; EACRFのマンデートにはコンゴ民主共和国軍と合同でM23鎮圧を行うことが盛り込まれていた。EACRF “East African Community Regional Force (EACRF).”
  6. 6 “AU Mission in Somalia Resumes Drawdown After 3-Month Pause,” VOA, December 17, 2023.
  7. 7 Aimée-Noël Mbiyozo , “Record numbers of displaced Africans face worsening prospects,” ISS Today, February 15, 2023. アフリカでは避難民が2021年の3,830万人から増加している。
  8. 8 武内進一「軍事用ドローンの利用急拡大」東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター、2024年1月13日。
  9. 9 クーデターがアフリカに及ぼす影響については、坂根宏治「クーデターの時代」のアフリカ(前編):ロシアと中国の積極関与と欧米の影響力低下」国際情報ネットワーク分析IINA、2022年3月11日同「「クーデターの時代」のアフリカ(後編):クーデターの連鎖を止めるには?」国際情報ネットワーク分析IINA、2022年3月17日を参照のこと。
  10. 10 UNDP Africa “Soldiers and Citizens: Military Coups and the Need for Democratic Renewal in Africa,” July 14, 2023, p.33.
  11. 11 ILOSTAT, “Statistics in Africa, Unemployment Rate.”
  12. 12 World Bank, “Unemployment, youth total (% of total labor force ages 15-24) (modeled ILO estimate) - Sub-Saharan Africa.”
  13. 13 United Nations, “Sub-Saharan Africa: Percentage of population aged 15-24 years(World Population Prospects 2022).”
  14. 14 武内進一「ワグネルの再編―ロシアの「アフリカ部隊」」、東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター、2023年12月18日、; 朝日新聞「ロシア国軍が『アフリカ部隊』旧ワグネルの権益狙う」2024年1月31日、13頁。
  15. 15 武内進一「イスラエル・パレスチナ紛争とアフリカ」東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター、2023年10月17日。
  16. 16 Frank Matteheis, Dimpho Deleglise, Ueli Staeger, “African Union: The African political integration process and its impact on EU-AU relations in the field of foreign and security policy,” European Parliament, May 2023.
  17. 17 篠田英朗「『アフリカ不在のFOIP』脱却論 (1)日本と理念を共有する有力国はどこか」フォーサイト、2023年12月20日。 本稿含め6回連載の各記事はアフリカの国際平和活動を取り巻く変化、および日本による関与のあり方を考えるうえで示唆深い。
  18. 18 Bitania Tadesse, Zekarias Beshah and Solomon Ayele Dersso, “Cash strapped African Union Transition Mission in Somalia (ATMIS) starts its second year facing uncertain financial future,” Amani Africa, April 4, 2023.
  19. 19 International Crisis Group, “Somalia: Making the Most of the EU-Somalia Joint Roadmap,” January 30, 2024.