2023年6月30日に国連マリ多面的統合安定化ミッション(MINUSMA)の即時活動停止及び年内の撤退が安保理で決議されて以来、アフリカにおけるPKOの凋落が加速している。コンゴ共和国は9月の国連総会で国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)の撤退を早めることを要請し、安保理が今年中にその方向で決議を採択することになっている[1]。PKOが去った後のアフリカの平和と安全保障はどうなるのだろうか。本稿ではマリの現状を中心に、今後の短中期的な傾向を探る。

MINUSMA撤退

 拙稿で論じたように、これまで大型PKO終了後は平和醸成を主眼とした国連特別政治ミッション(Special Political Mission: SPM)への移行が主流であった[2]。しかしMINUSMA撤退計画について8月に事務総長から安保理に出された書簡では、後任SPMの設立という選択肢はなく、現地国連諸機関(国連カントリー・チーム)及びセネガルの首都ダカールを拠点とする西アフリカ事務総長特別代表事務所(UNOWA)を通じてマリ政府への支援継続という記載のみだった[3]。

 国連平和活動局の担当部署は目下のところ移行どころではなく、何とか犠牲者を出さずに計13ヶ所の拠点を閉鎖し13,000名のPKO要員と海上運送コンテナ5,500個分の装備及び車両4,000台の撤収を12月末日までに完了するかが最大の懸念事項だという。「危険すぎてカントリー・チームは入ることすら出来ない」状態のマリ北部では、主要都市トンブクトゥ(Tombouctou)からたった57キロ離れたベール(Ber)キャンプから撤退する途中に襲撃を2度受け、4人の要員が負傷している[4]。またガオ州では現地政府から装備回収トラックの護送許可が降りないため、州都から550キロ離れたテサリ (Tessalit)キャンプの空路撤収を試みたところ、着陸段階で砲撃に遭っている。よって本来であれば軍事・警察貢献国へ返却すべき装備を破壊・放棄して撤退するしかないのが実情だ。

紛争激化の兆候

 マリ北部は2015年に政府と和平合意を結んだ反乱組織(Permanent Strategic Framework:CSP)の本拠地がある一帯で、MINSUMAの活動停止に伴いマリ軍とロシアのワグネルが北部の軍事平定に乗り出す中で戦闘が再開・激化しているだけでなく、過激派組織による攻撃も活発化している[5]。その足場としてMINUSMAキャンプ跡地が狙われており、前述のベール・キャンプは国連が撤退した当日(8月13日)にCSPとの3日間にわたる戦闘を制してマリ軍とワグネルが占拠した。これを受けて8月中旬からアルカイダ派の過激派組織JNIMがトンブクトゥを封鎖、道路およびニジェール川の水上交通を禁じ、9月8日には通行中の川船を襲撃して少なくとも49人の民間人を死亡させたと報じられている[6]。マリ軍とワグネルはガオ州やキダル州で空爆を始めており、今後戦闘はますます拡大するのではないかと懸念される。

 12月に選挙が予定されているコンゴ民主共和国でも、東部地域は軍令下にあり反乱組織との戦闘が2022年より再度増加傾向にある。MINUSMAの撤退がどうなるかによっては、MONUSCOキャンプも撤退前の段階から武装勢力による危険に晒されることになる。

代替案はあるのか

 こういった危険地域におけるPKOの代替案として、以前から提唱されているアフリカ連合(AU)の平和安全保障体制の強化やスタンドバイ・フォース設立を急ぐべきという声がある[7]。これまでにもソマリアなどでAUによる平和維持・執行活動が展開してきたが、課題の一つが予算・装備が不足するAUを含むアフリカの地域機構のミッションに国連予算を充填できるか否かであった。AU平和・安全保障理事会は2023年2月にこのテーマに関する提言書を採択し、10月には安保理との共同声明で、状況によっては国連への加盟国拠出金を振り分けることを検討するとの合意を取り付けた[8]。

 しかしこの実現にはまだ時間がかかるだろう。現在の世界政治経済状況で加盟国から国連への分担金支払いすら滞っている中で、ドナーの支援もウクライナやイスラエル・パレスチナが優先されると思われる。またアフリカ全体でクーデターが多発している中、軍事政権や強権政府から構成される平和活動という構想そのものに疑念も残る。ハイチでは、ギャングによる暴力で治安が壊滅状態にあり、その対応として安保理承認のもとに米国が資金を出しケニアが部隊を派遣する案が進んでいるが、インフラも警察機能も崩壊している中で現地経験のないアフリカからの部隊がどこまで何を達成できるのだろうか。

 恐らく今後しばらくはこのような迷走状態が続くのだろう。そしてマリやコンゴなどでこれまで10年以上をかけて築いてきた和平プロセスが白紙化し、また10年後に内戦でもう一度疲弊し切った後で、また違う形のPKOが生まれてくるのかもしれない。それまでにテロ要素を含む現代の紛争の複雑化を踏まえて国連は何が出来るのか、また政府が強権化し国際介入を拒むような状況で何ができるのか、などの根本的な問いに答えておかなければならない。そのために地域機構や加盟国などとの組織的協力だけではなく、現地の自治組織や民間団体など当事者と直接連携し暴力阻止措置を講じることができるのか、そのためにデジタル・ツールやイノベーションといった新しい手法を活用することができるか、それにはどのような能力・法的体制・ネットワークが必要かなど、新しい視点で平和活動の再構築を模索しなくてはならない。

(2023/11/07)