クーデターの源泉は何か?権威主義の歴史

 紛争の発生と権威主義体制は、密接な関係にあり、アフリカ大陸で発生する紛争の75%は、権威主義体制の国で起きている[1]。

 アフリカでは植民地からの独立後、低成長の中で、国をまとめ牽引すべく強力な権威主義体制が構築されてきた。それが最も顕著だったのは1980年代である。その後、30年を経て再び権威主義国が増えているが、現在、多くの権威主義体制が経済の失敗を招き、人口増加のスピードに見合う適切な行政運営ができない状況に陥っている。

 アフリカで紛争を抱える多くの国では、少数民族や周辺地域に暮らす人々が、発展の機会から疎外され、差別や弾圧を受けてきた。多くの紛争地で、反政府ゲリラやイスラム過激派が活動しているが、彼らは地元住民の支持を集めることが多い。不平等な社会、特定グループに対する差別や弾圧が不満の源泉になっており、これは反政府活動の原動力となっている。このような社会の是正が行われない限り、紛争の芽はなくならない。反政府グループの指導者を拘束・殺害しても、次のリーダーが生まれるだけで、根本的な紛争解決にはならないのである[2]。

 紛争のさなかにある国や紛争リスクを抱える国は、政府予算の多くを軍事費にかけ、軍事要員を確保することになる。政府予算の多くを軍事部門にかけることで、それ以外の行政運営にかける予算が少なくなり、国民の満足を得られる行政サービスができないことになる。それがさらに政府に対する不満を増幅する要因となり、政治的緊張状態が発生する。多くの人員、予算が軍事部門に投入される一方、軍事部門や政府運営に対する国民の不満が高まり、これがクーデターや騒擾の発生要因となる。

 英国バーミング大学のCheeseman教授によれば、アフリカの多くの国々は権威主義体制下にあり、アフリカで高い民主主義体制を持つ国は、国数でわずか18%、人口比では10%に過ぎない[3]。この権威主義体制を変えないことには、紛争もクーデターもなくならない。

なぜクーデターという手段を選ぶのか?

 クーデターの実行は容易なことではない。失敗すれば、命を失うリスクがある。ではなぜクーデターの実行者は、危険を顧みずクーデターを起こしたのか?実行者には実行者なりの理由がある。

 スーダンで2021年10月に発生した騒擾は、治安組織のトップが政治の主導権を失い、過去の紛争への関与で訴追されるリスクに直面し[4]、また違法取引の取り締まりが強化されるタイミングで発生した。ミャンマーではアウンサン・スーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)政権下で軍部に対する締め付けが強化されるタイミングでクーデターが発生している。

 昨今のクーデターの多くは、権威主義から民主主義にガバナンスの体制が移行する中、既得権益を有する軍部が既得権益を失う過程で発生している。

 既得権益を享受していた人物が平和的に既得権益を手放すことは容易ではない。平和的に既得権益を放棄するには、当事者の認識を変える時間が必要である[5]。もちろん強制措置により既得権益をはく奪することは可能だが、武力行使により当事者が頑なに抵抗するリスクがあることを忘れてはならない。

 日本でもかつては武力による統治が行われてきた。ヨーロッパも同様である。かかる国々で、現在、軍によるクーデターが発生しないのは、軍部をシビリアンコントロールする体制・制度が構築され、そのシステムを国民が支える社会的構造が存在するからである。このようなシステムは一夜にしてできるものではない。長い年月をかけて、このような統治、行政システムを作り上げてきた結果である。クーデターの発生を防ぎ、また仮に発生しても元に戻すには、このような強固でかつ相互牽制ができる統治、行政ステムを構築し、そのシステムを国民が強く支持し守り抜く社会システムの形成が必要である。そのためにはかかるシステムを維持し、国民に満足のいくサービスを提供する行政体制が必要であり、それを支えるパブリックセクターの人材育成が必要である。

権威主義者を育てたのは誰か?

 クーデターの発生に関して、クーデターを起こした国を一方的に非難するのはフェアではない。先進諸国は、これまで権威主義体制を黙認、あるいは支える役割を果たしてきた。元植民地であったアフリカ諸国で内戦が発生し、難民が発生すると先進諸国にも甚大な影響が発生する。そのため、政権の安定を優先し、暴動や内戦の発生を抑制する対応を取ってきた。特に、2000年代以降、イスラム過激派等のテロリストグループの活動が活発になるに伴い、先進諸国はこのようなテロリストグループの活動を封じ込めるため、国の安定を優先する方針を取ってきた[6]。しかしこのことは、多様な民族が入り混じるアフリカ諸国で、国内の格差や抑圧の問題には関与せず、それよりも国の安定を第一とする強権的なリーダーを擁護することにもなった。すなわち、政治的自由や社会的平等が担保された「平和」な社会よりも、国の「安定」を優先してきたのである。

 ある国の人権問題には厳しい対応をする一方、別の国の人権侵害は黙認するダブルスタンダ―ドが発生している。フリーランスジャーナリストのDurmaz氏は、先進諸国のアフリカのクーデタ―や騒擾に対する立場に一貫性がないと指摘する[7]。「安定」だけではなく、すべての人々が自由と平等を謳歌でき、分け隔てなく発展の機会を享受できる「平和」な社会の実現ができないと、紛争もクーデターもなくならないのである。

アフリカの未来のために日本は何をすべきか?

 冷戦終結以降、西側諸国が世界をけん引するシステムが作られ、それとともに西側諸国が志向する民主主義が世界の目指すべき規範となってきた。仮に民主主義が確立していない国であっても、今後の目指すべき方向として民主主義を標榜する空気があった。現在、西側諸国の世界における影響力が弱まった結果、このような価値観にも変化が生じ、「民主主義」と「権威主義」、なかでも一部の限られた個人が権力を掌握し独断的に政治運営を行う「専制主義」との間での価値観の全面闘争が行われている[8]。

 現在は、インターネットの普及のおかげで、世界各地で今起こっていることが瞬時に把握できるようになった。クーデターに抗議し、自由や民主化を要求する人々が深刻な弾圧や暴力を受けても、誰も止めることができない状況を鮮明に見ることができる。また国家主権の壁に阻まれ、海外からも有効な対応策を講じることができない状況にある。一方、かかる国に生きる人々も先進諸国の状況を知ることができる。統治体制が違うだけで、歴然とした生活環境の差異が存在し、その差異を解消することができていない。

 アフリカ諸国では国家の権威主義的性格が強まる一方、人々の民主主義を求める声は上昇している。アフロバロメーターの調査では、70%以上の人々が民主主義体制を望んでいる[9]。これは権威主義体制と国民との間でさらに緊張が高まる可能性を示唆している。

 これまで見てきたように、多くのクーデターは、権威主義体制が市民もしくは外部からの民主化圧力の下、既得権益が剥奪されるプロセスで発生する。一方、アフリカではより多くの外部アクターが積極的にアプローチを進める中で、為政者側は多様な政策オプションを取る余地が生まれている。「民主化圧力を受ける権威主義体制」と、「関与を強める数多くの外部アクター」という構造がある限り、今後もクーデター発生リスクはなくならない。クーデターを回避するとともに、たとえ発生しても元に戻す枠組みが必要である。

 2022年8月、日本がイニシアティブを取る第8回アフリカ開発会議(Tokyo International Conference on African Development: TICAD8)がチュニジアで開催される。TICADは1993年の第一回会議開催以降、日本が約30年にわたり主導してきたアフリカとの連携強化の枠組みであり、ロシアや中国に先んじて実施してきた歴史がある。現在世界第3位のGDPを誇る日本は、アフリカ大陸の将来を見据え、日本とアフリカ双方が発展していく道筋をTICADを通じ構築していくべきである。

 アフリカに内在する課題を克服するため、アフリカ自身の問題認識に耳を傾け、課題が克服できるよう、ガバナンス体制の構築、人材育成の支援が必要である。また日本とアフリカだけでなく、その他の国々を巻き込み、国際社会が一丸となりアフリカの将来を支える場づくりが重要である。

(2022/3/17)

*本論考は前編から続くものです。前編はこちらからお読みいただけます。
「クーデターの時代」のアフリカ(前編):ロシアと中国の積極関与と欧米の影響力低下

脚注

  1. 1Autocracy and Instability in Africa,” Africa Center for Strategic Studies, March 9, 2021.
  2. 2 Alex Thurston, “One step backward: US to assist French in failing African counter-terror ops,Responsible Statecraft, January 18, 2022.
  3. 3 Nic Cheeseman, “What would an authoritarian Africa look like?The Africa Report, February 28, 2022.
  4. 4 坂根宏治 「エチオピア・スーダンの危機:『アフリカの角』の歴史的転換点と関与を強める諸外国」笹川平和財団『国際情報ネットワーク分析 IINA』、2022年1月11日。
  5. 5 Comfort Ero and Richard Atwood, “10 conflicts to watch in 2022,” International Crisis Group, Commentary / Global, December 29, 2021.
  6. 6Why the UN Security Council stumbles in responding to coups,” International Crisis Group, Commentary / Global, January 24, 2022.
  7. 7 Mucahid Durmaz, “2021, the year military coups returned to the stage in Africa,Aljazeera, December 28, 2021
  8. 8 Peter Grier, Noah Robertson, “Ukraine attack: Putin target may be democracy, near and far,The Christian Science Monitor, February 25, 2022.
    Martin Wolf, “Putin has reignited the conflict between tyranny and liberal democracy,Financial Times, March 1, 2022.
    Gideon Rachman, “Russia and China’s plans for a new world order,Financial Times, January 23, 2022.
  9. 9 Josephine Appiah-Nyamekye Sanny and Edem Solermey, “Africans welcome China’s influence but maintain democratic aspirations,Afrobarometer Dispatch No.489, November 15, 2021, p.16.
    Nic Cheeseman, “Africa in 2021: The end of democracy?”, The Africa Report, December 20, 2021.